骨折の予防に必要なビタミンD摂取量のプール解析

【文献名】 
著者名:Heike A. Bischoff-Ferrari, MD et al
文献タイトル:A Pooled Analysis of Vitamin D Dose Requirements for Fracture Prevention
雑誌名・書籍名:N Engl J Med
発行年: 2012; 367 : 40 – 9. 

【要約】
<背景>
ビタミンD補給量と骨折の減少の関係について、メタアナリシス研究の結果は一致していない。

<方法>
研究者たちは65歳以上の人の対象者にカルシウム併用と非併用のビタミンD補給者(毎日、週1回、4カ月毎)とプラセボ、カルシウム単独投与を行った11の二重盲検RCT試験のデータをプールした。
プライマリエンドポイントは年齢層、性別、住居タイプ、試験で補正したCox回帰分析を行い、大腿骨頸部や非椎体骨折の発生率とした。主要目的は,すべての試験の治療群のビタミン D の実際の摂取量(各被験者の治療遵守と,試験プロトコール外でのサプリメント使用を含む)の四分位群のデータを,対照群と比較すること。

<結果>
31022人の人(平均年齢76歳、91%が女性)のうち1111人が大腿骨頸部骨折を発症し、3770人が非椎体骨折を発症した。無作為に割り付けられたビタミンD投与群の参加者と、コントロール群に割り付けられた参加者との比較では有意差はなかった(ハザード比 0.90,95%信頼区間 [CI] 0.80~1.01)が大腿骨頸部骨折の発症のリスクが10%低下し、非椎体骨折のリスクは7%の減少を認めた(ハザード比 0.93,95% CI 0.87~0.99)。実際の摂取量の四分位群では,骨折リスクの低下は摂取量が最大の群(中央値 800 IU/日,範囲 792~2,000)にのみ認められ,大腿骨近位部骨折リスクは 30%低く(ハザード比 0.70,95% CI 0.58~0.86),あらゆる非椎体骨折リスクは 14%低かった(ハザード比 0.86,95% CI 0.76~0.96)。ビタミン D 摂取量が最大の群における有益性は,年齢層,住居タイプ,ベースラインの 25-ヒドロキシビタミン D 値,カルシウムの追加摂取で規定したサブグループ間でほぼ一貫していた。

<結論>
高容量のビタミンD補給(800IU/日)は65歳以上の人において大腿骨頸部骨折や非椎体骨折の予防にいくらか有用である。

【開催日】
2012年8月1日

訪問診療

【文献名】
著者名:和田忠志
文献タイトル:在宅医療
雑誌名・書籍名:臨床入門
発行年:2009年5月1日 第一版

【要約】
序論:現在の在宅医療
旧来の『往診』による在宅医療と『現在の在宅医療』
旧来の往診:急病に対する往診 現在の在宅医療:定期往診と24時間対応

<歴史的背景>
1970年まで:自宅での医療水準と外来での医療水準は同等
1970年以降:技術進歩により緊急に検査を駆使して行う「救急外来」が高水準の医療を提供
病院隆盛の時代となったがその一方で「スパゲティ症候群」「植物状態」「転院問題」「DNAR」
「転院先老人病院の治療および環境問題」など様々な問題が指摘された。
    1970-1980年代:
病院での治療が有効で無くなったがなお重い障害を持つ患者や治癒不能な癌患者に対応する医師
が全国各地に現れた。その時のスタイルが定期往診と24時間対応という現在の在宅医療の原形で
あり当初は病院から発祥し病院医療を補完する機能を有していた。
  そして近年高齢化(高齢障害者の増加と癌患者の増加)に伴い在宅医療が要請される時代となり、 
  国は在宅医療に対し並々ならぬ推進意欲を見せ、2006年に在宅療養支援診療所制度が発足した。
  
1在宅医療の導入
<初診の往診依頼に対する考え方>
・初診の急性期疾患に対する依頼があった場合往診はそれほど有用な技術ではないため基本は断る
・例外として往診を受けるメリットがデメリットを上回ればリスクを了承してもらった上で往診する
 <訪問診療導入面接>
 ・治療関係の明確化、大まかな治療方針の確認、病院からの事前情報収集

2.診察
 ・普段との比較が重要であるため普段からバイタルサインや意識状態はもとより、全身を良く見る
 ・自宅での動きを診ることの重要性、複数医師による診察のメリット

3.検査
 ・身体所見と血液検査を中心とした検査の有用性と限界を理解した上で在宅医療を実施すること
 ・新しく始める場合はポータブルレントゲン、腹部超音波、血液ガス検査装置は揃えなくても良い
 ・有力な連携病院をもち、必要に応じて在宅医療と病院を使い分けながら検査を行う方法をもつことが重要

4.家族のエンパワメント
 ・在宅医療は、家族介護力に依拠する医療形態であり、「家族を支える」ことは在宅医療の根幹に関わる技能である。指導するというニュアンスより、家族のポテンシャルを引き出すことが理想。
 ・家族の境遇、家族の方法論、家族の構造変化を知ることが大切

5.緩和ケア 主に癌患者を中心に
・患者は自分の治療やデータについて知っているが、自分の運命について認識が乏しい場合が多い
・対話を繰り返し患者の本心の希望を聞く、疾患が治癒しないことに患者と共に向き合うことが重要
・家族の忍びない気持ちや恐怖感、罪悪感、介護の疲労を理解し声かけを行う。

6.24時間対応
・有効な24時間対応は日中の医療水準によって決定される。
・あおぞら診療所(220-240名)の18時-9時までの臨時往診回数は月に8.9回
・電話を受ける手法:受け手をだれにするか?医師、留守電、事務当直、訪問看護

7.訪問看護師との連携
・医療機関から行う訪問看護と訪問看護ステーションから行う訪問看護
・中心静脈栄養、人工呼吸器、経管栄養、腎膀胱留置カテーテル、褥創などのケア指導は訪問看護師に積極的に行ってもらうと上手くいくことが多い
・訪問看護ステーションとの情報交換:直接的な電話、連携カンファレンス

8.薬局連携と処方
・かかりつけ薬局を持ってもらうことで、その薬局もお得意様として患者さんを長期にわたり大切にするという関係が築ける

9.歯科連携
・栄養状態や誤嚥性肺炎予防の観点から歯科の重要性
・どのような情報を提供する(診断名、血液媒介感染症情報、処方情報、抗生剤の使用について)

10.社会資源活用
・障害者福祉制度の活用:身体障害者交付のための診断書を記載できることが望ましい
・長期生活支援資金貸付制度:65才以上で土地評価額が1000万以上であり低所得世帯が対象

11.後継者を養成する
・学生に診療鞄を持たせることで患者さんが学生を傍観者ではなく、診療介助者として認識する
・学生にカルテを書かせる。メモをとるのは車内でおこなうようにしてもらう。
・振り返りを行う
・看護師同行診療、臨時往診研修(訪問看護に同行)、症状が安定した患者の診療(指導医が30分以内で駆けつけることが出来るようにする)

【開催日】
2012年6月13日

Typical Electronic Health Record Use in Primary Care Practices and the Quality of Diabetes Care Literature

【文献名】
著者名:JC. Crosson, PA. Ohman-Strickland, D J. Cohen, EC. Clark, and BF. Crabtree.
文献タイトル:Typical Electronic Health Record Use in Primary Care Practices and the Quality of Diabetes Care. 
雑誌名・書籍名:Ann Fam Med
発行年:May/June 2012 10:221-227.

【背景】
We implemented Secom’s EHR system into our 6 clinics these 4 years. But we could not always make use of its potential function as central portal system of medical information to improve our quality of care in daily practice. So, I am interested in this type of research to change our usage style of EHR. How can we find better use of EHR?

【要約】
<PURPOSE>
Recent efforts to encourage meaningful use of electronic health records (EHRs) assume that widespread adoption will improve the quality of ambulatory care, especially for complex clinical conditions such as diabetes. Cross-sectional studies of typical uses of commercially available ambulatory EHRs provide conflicting evidence for an association between EHR use and improved care, and effects of longer-term EHR use in community-based primary care settings on the quality of care are not well understood.

<METHODS >
We analyzed data from 16 EHR-using and 26 non-EHR-using practices in 2 northeastern states participating in a group-randomized quality improvement trial. Measures of care were assessed for 798 patients with diabetes. We used hierarchical linear models to examine the relationship between EHR use and adherence to evidence-based diabetes care guidelines, and hierarchical logistic models to compare rates of improvement over 3 years.

<RESULTS>
EHR use was not associated with better adherence to care guidelines or a more rapid improvement in adherence. In fact, patients in practices that did not use an EHR were more likely than those in practices that used an EHR to meet all of 3 intermediate outcomes targets for hemoglobin A1c, low-density lipoprotein cholesterol, and blood pressure at the 2-year follow-up (odds ratio = 1.67; 95% CI, 1.12-2.51). Although the quality of care improved across all practices, rates of improvement did not differ between the 2 groups.

<CONCLUSIONS>
Consistent use of an EHR over 3 years does not ensure successful use for improving the quality of diabetes care. Ongoing efforts to encourage adoption and meaningful use of EHRs in primary care should focus on ensuring that use succeeds in improving care. These efforts will need to include provision of assistance to longer-term EHR users.

【ディスカッション】
<PURPOSE>
Recent efforts to encourage meaningful use of electronic health records (EHRs) assume that widespread adoption will improve the quality of ambulatory care, especially for complex clinical conditions such as diabetes. Cross-sectional studies of typical uses of commercially available ambulatory EHRs provide conflicting evidence for an association between EHR use and improved care, and effects of longer-term EHR use in community-based primary care settings on the quality of care are not well understood.

<METHODS>
We analyzed data from 16 EHR-using and 26 non-EHR-using practices in 2 northeastern states participating in a group-randomized quality improvement trial. Measures of care were assessed for 798 patients with diabetes. We used hierarchical linear models to examine the relationship between EHR use and adherence to evidence-based diabetes care guidelines, and hierarchical logistic models to compare rates of improvement over 3 years.

<RESULTS> 
EHR use was not associated with better adherence to care guidelines or a more rapid improvement in adherence. In fact, patients in practices that did not use an EHR were more likely than those in practices that used an EHR to meet all of 3 intermediate outcomes targets for hemoglobin A1c, low-density lipoprotein cholesterol, and blood pressure at the 2-year follow-up (odds ratio = 1.67; 95% CI, 1.12-2.51). Although the quality of care improved across all practices, rates of improvement did not differ between the 2 groups.

<CONCLUSIONS>
Consistent use of an EHR over 3 years does not ensure successful use for improving the quality of diabetes care. Ongoing efforts to encourage adoption and meaningful use of EHRs in primary care should focus on ensuring that use succeeds in improving care. These efforts will need to include provision of assistance to longer-term EHR users.

【開催日】
2012年6月20日

心血管疾患のPrimary Preventionにおけるスタチンの効果

【文献名】
著者名:Dean A. Seehusen et al. 
文献タイトル:Statins for Primary Cardiovascular Prevention: Cochrane for Clinicians Putting Evidence to Practice.
雑誌名・書籍名:American Family Physician.
発行年: 2011; 84(7): 767-769.

【要約】
<ケース>
54歳の男性が健診の目的で受診した。特記すべき既往歴はなく、喫煙なし、心血管疾患の加増歴なし。投薬なし。BMIが26であることを除けば身体診察に異常は認められない。Tcho 256mg/dl HDL 51mg/dl LDL 162mg/dl。あなたは彼のコレステロールレベルを下げるためにスタチンを投与することを考慮したが彼の心血管イベントのリスクが下げられるかどうか疑問に思った。

<臨床上の疑問>
スタチンは冠血管疾患の既往のない人の心血管系疾患イベントを減らすか?
<エビデンスに基づいた解答>
これまでの臨床研究ではスタチンは総死亡、心血管系疾患の複合アウトカム、血行再建術を減少させることを示してきた。しかしながら、多くの臨床研究は多数の心血管疾患の既往を持つ患者が含まれている。初回の心血管系イベントの予防に対するスタチンの効果を示す正確なエビデンスは不足している。

―Cochrane systematic reviewの要約―
<目的>
心血管疾患の既往のない人におけるスタチンの効果(benefitとharm双方)を評価する。
(文献検索の方法)
検索の労力が重複することをさけるため、過去のシステマティックレビューの一覧をチェックした。その後、Cochrane Central Register of Controlled Trials (Issue1, 2007)、Medline(2001-2007年3月)、EMBASE(2003-2007年3月)を検索した。言語による制限はしなかった。
(文献選択の基準)
1年以上スタチンを投与し6か月以上のフォローアップを行った成人を対象としたランダム化比較試験。LDLコレステロール、HDLコレステロールどちらを測定していても良いこととした。心血管疾患の既往のある患者が10%以下の試験を選択した。
(データ収集と分析)
2名の著者が独立して作業を行った。アウトカムには総死亡、致死的・非致死的冠血管疾患、心血管疾患、脳卒中、複合エンドポイント、総コレステロール値の変動、血行再建術、副作用、QOL、コストが含まれた。
非連続データとしてRelative risk (RR) 、連続データとしてpooled weighted 平均値の差(95%CIも)を計算した。
(結果)
14のランダム化比較試験(34,272人)が選択された。11の試験が特定の条件下にある患者(脂質の上昇、糖尿病、高血圧、微量アルブミン尿)を対象としていた。スタチンの投与により総死亡は減少(RR=0.83; 95%CI 0.73-0.95)、致死的・非致死的心血管系疾患の複合エンドポイントも同様に減少(RR=0.70; 95%CI 0.61-0.79)した。血行再建術についても同様の結果(RR=0.66; 95%CI 0.53-0.83)であった。総コレステロール値、LDLコレステロール値はすべての試験において減少していたが、その程度は不均一であった。スタチンの投与による重大な副作用やQOLに対する確実なエビデンスは得られなかった。
(結論)
スタチンは重大な有害事象を増やすことなく総死亡、心血管系疾患の複合エンドポイント、血行再建術を減少させることが示されたが、有害事象を報告していない試験や心血管系疾患を既往に持つ患者を含んでいたり、選択的にアウトカムを報告しているものも認められた。スタチンによるPrimary preventionが費用対効果に優れているか、患者のQOLを改善するかと言う点に関しては限られたエビデンスしかない。心血管系疾患のリスクの低い患者に対してスタチンを投与することについては慎重であるべきである。

<コメント>
 このレビューは心血管系イベントのPrimary preventionにスタチンは有効ではないことを示しているわけではないが、心血管疾患を有さない患者におけるスタチン使用を懸念する文献の注目すべきギャップに焦点を当てている。初回の心血管系疾患を予防するためにスタチンを投与するかどうかを決定する際にはすでに妥当性が評価されているFramingham risk scoreによる患者のリスク評価がしっかり行われるべきであろう。リスクが非常に高い患者ではスタチンの投与は有効であろう。中等度、軽度リスクの患者ではスタチン使用の有効性が明らかではないため、患者にはこのエビデンスのギャップを伝え、心血管系疾患の予防効果の可能性と、薬を飲む不便さ、コスト、有害事象について議論した上で投与を決定すべきである。

【開催日】
2012年6月27日

プライマリ・ケアは死亡率低下に寄与するか?

【文献名】
著者名:Anthony Jerant et al.
文献タイトル:Primary Care Attributes and Mortality: A National Person-Level Study. 
雑誌名・書籍名:Ann Fam Med.
発行年:January/February 2012 vol. 10 no. 1 34-41

【要約】
<PURPOSE>
Research demonstrates an association between the geographic concentration of primary care clinicians and mortality in the area, but there is limited evidence of a mortality benefit of primary care at the individual patient level. We examined whether patient-reported access to selected primary care attributes, including some emphasized in the medical home literature, is associated with lower individual mortality risk.

<METHODS>
We analyzed data from 2000?2005 Medical Expenditure Panel Survey respondents aged 18 to 90 years (N = 52,241), linked to the National Death Index through 2006. A score was constructed from 5 yes/no items assessing whether the respondent’s usual source of care had 3 attributes: comprehensiveness, patient-centeredness, and enhanced access. Scores ranged from 0 to 1 (higher scores = more attributes). We examined the association between the primary care attributes score and mortality during up to 6 years of follow-up using Cox survival analysis, adjusted for social, demographic, and health-related characteristics.

<RESULTS>
Racial/ethnic minorities, poorer and less educated persons, individuals without private insurance, healthier persons, and residents of regions other than the Northeast reported less access to primary care attributes than others. The primary care attributes score was inversely associated with mortality (adjusted hazard ratio = 0.79; 95% confidence interval, 0.64?0.98; P = .03); supplementary analyses showed mortality decreased linearly with increasing score.

<CONCLUSIONS>
Greater reported patient access to selected primary care attributes was associated with lower mortality. The findings support the current interest in ensuring that patients have access to a medical home encompassing these attributes.

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【開催日】
2012年6月27日

血圧は左右で測るべきか?

【文献名】
著者名:Clark CE.et al. 
文献タイトル:Association of a difference in systolic blood pressure between arms with vascular disease and mortality: a systematic review and meta-analysis.
雑誌名・書籍名:Lancet. 
発行年:2012 Mar 10;379(9819):905-14.

【要約】
<背景>
両腕の収縮期血圧の差が10mmHgもしくは15mmHg以上あることは末梢血管障害と鎖骨下動脈狭窄と関連がある。本研究はこの血圧の差と中枢性もしくは末梢性血管障害、ならびに死亡率との間の関連性について調査したものである。
European Society of hypertension、European Society of Cardiologyのガイドラインでは上腕血圧の左右差は末梢血管障害に起因するということをいっており、まずはじめに確認するようにという推奨があるが、それらを正当化するエビデンスに欠けていた。(この点がnovelであり、かつrelevantな点だと思われます。)

<方法>
2011年7月以前に出版されたMedline, Embase, Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature, Cochrane, and Medline In Process databasesから、左右上腕の収縮期血圧の差について記されたもので、かつ鎖骨下動脈狭窄、末梢血管障害、脳血管障害、心血管障害、もしくは生存率についてデータがあるものを検索した。左右の上腕間の収縮期血圧とそれぞれの結果の間にある関連性を統合するために変量効果モデル※(random-effect model)を用いた。

※個々の研究における問題設定は異なっているものの、類似した問題設定をもつ研究が密接に関連する一群をなすと想定。各々の研究は、ある問題に関する全ての研究のランダム抽出されたサンプルとして取り扱う。

<結果>
28の研究が同定され、うち20に対してメタアナリシスを実施した。
侵襲的な研究では
○血管造影を用い、鎖骨下動脈狭窄(50%以上の狭窄)を証明するためには、左右の収縮期血圧の差の平均が36?9 mm Hg (95% CI 35?4-38?4)であった。
○左右差が10mmHg以上では鎖骨下動脈狭窄(50%以上の狭窄)と強い関連性があった。(risk ratio [RR] 8?8, 95% CI 3?6-21?2、P<0.0001)。 ○冠動脈造影結果と血圧左右差には有意な相関はなかった。(RR1.1, 95% CI 0.8-1.6、P=0.64) 非侵襲的な研究において、 ○冠動脈疾患の既往と血圧左右差の相関はない(figure2) ○15mmHg以上の左右差と各疾患との関連は以下の通りであった。 末梢血管障害(9cohorts; RR2?5,95% CI 1?6-3?8; sensitivity 15%,9-23;specificity96%, 94-98) (figure4.A)   脳血管障害の既往 (5 cohorts; RR 1?6, 1?1-2?4; sensitivity 8%, 2-26; specificity 93%, 86-97) (figure3)     ただし、10mmHg以上だと有意な相関なし、 15mmHg以上でも同時測定法だと有意差なし/同時ではない測定法だと有意差あり(上記)   心血管疾患による死亡率 (4 cohorts; hazard ratio [HR] 1?7, 95% CI 1?1-2?5) (figure5)   総死亡率 (4 cohorts; HR 1?6, 95%CI 1?1-2?3) (figure5) ○10mmHg以上の左右差と各疾患との関連は以下の通りであった。   末梢血管障害 (5 studies; RR 2?4, 1?5-3?9; sensitivity 32%, 23-41; specificity 91%, 86-94)(figure4.A) <解釈> 上腕の収縮期血圧左右差が10mmHg以上、もしくは15mmHg以上により、さらなる血管評価が必要な患者の同定に役立つ。15mmHg以上の左右差は血管疾患や死亡のリスクの有用な指標になりうる。 【開催日】 2012年7月4日

DVTが疑われた高齢患者さんにおけるD-dimerのcut-off値

【文献名】
1Julius Centre for Health Sciences and Primary Care, University Medical Centre Utrecht, PO Box 85500, 3508 GA Utrecht, Netherlands;2Department of Geriatrics, University Medical Centre Utrecht
Validation of two age dependent D-dimer cut-off values for exclusion of deep vein thrombosis in suspected elderly patients in primary care: retrospective, cross sectional, diagnostic analysis
雑誌名・書籍名:BMJ 2012;344:e2985 doi: 10.1136/bmj.
発行年:e2985 (Published 6 June 2012)

【要約】
<Objective>
To determine whether the use of age adapted D-dimer cut-off values can be translated to primary care patients who are suspected of deep vein thrombosis.

<Design>
Retrospective, cross sectional diagnostic study.

<Setting> 
110 primary care doctors affiliated with three hospitals in the Netherlands.
Participants 1374 consecutive patients (936 (68.1%) aged >50 years) with clinically suspected deep vein thrombosis.

<Main outcome measures>
Proportion of patients with D-dimer values below two proposed age adapted cut-off levels (age in years×10 μg/L in patients aged >50 years, or 750 μg/L in patients aged ?60 years), in whom deep vein thrombosis could be excluded; and the number of false negative results.

<Results>
Using the Wells score, 647 patients had an unlikely clinical probability of deep vein thrombosis. In these patients (at all ages), deep vein thrombosis could be excluded in 309 (47.8%) using the age dependent cut-off value compared with 272 (42.0%) using the conventional cut-off value of 500 μg/L (increase 5.7%, 95% confidence interval 4.1% to 7.8%). This exclusion rate resulted in 0.5% and 0.3% false negative cases, respectively (increase 0.2%, 0.004% to 8.6%).The increase in exclusion rate by using the age dependent cut-off value was highest in the oldest patients. In patients older than 80 years, deep vein thrombosis could be safely excluded in 22 (35.5%) patients using the age dependent cut-off value compared with 13 (21.0%) using the conventional cut-off value (increase 14.5%, 6.8% to 25.8%). Compared with the age dependent cut-off value, the cut-off value of 750 μg/L had a similar exclusion rate (307 (47.4%) patients) and false negative rate (0.3%).

<Conclusions> 
Combined with a low clinical probability of deep vein thrombosis, use of the age dependent D-dimer cut-off value for patients older than 50 years or the cut-off value of 750 μg/L for patients aged 60 years and older resulted in a considerable increase in the proportion of patients in primary care in whom deep vein thrombosis could be safely excluded, compared with the conventional cut-off value of 500 μg/L.

【開催日】
2012年7月4日

「父親はどう作られるか?」

【文献名】
著者名:尾形和男
文献タイトル:父親の心理学
雑誌名・書籍名:編著 北大路書房
発行年:2011年

【背景】
 家族志向型ケアを考えるにあたり、経験しているライフサイクルを想像することは比較的可能である。しかし未経験のライフサイクルを想像することは、経験すみのものよりも難しく、また源家族や現家族のイメージにも大きく影響され、多様なイメージを想像することは難しい。今回、家族療法学会の書籍販売コーナーにて興味深いテキストを見つけ、多角的な「父親」を考える視点を得たので共有する。

【要約】
P34:表3-1
欧米では少なくとも日本以上に、家庭関与を行っている。日本は韓国に次いで二番目
に、父親が子どもと過ごす時間が短い。しかも父親として家事・育児にかかわる時間についての調査でも、日本は低値を示している。

P35:図3-4
国全体としての取り組み①保育の充実度②児童給付の水準③育児休業の有給度。男性の役割の変化軸①女性に対する男性の家事・育児の時間割合②父親による育児休暇の所得率③男性保育者の割合 これらをもとに点数化している。日本はどちらも低く、母親の孤立した育児が進行していることが推測される。

P43:図3-6
親子でどのような行動を一緒に行うかについてみている。アメリカの父親は睡眠・入浴以外はすべての行動において子どもと共有する時間が長い。日本は逆に睡眠・入浴が3国の中で一番長く共有しており、親子で積極的に行動することは比較的短く、休憩する場合は時間が長くなっているのが特色である。アメリカではコミュニケーションを中心とする共同行動が豊富に行われており、子どもはダイナミックな父親とのかかわりを通じ、父親として、人間として多くのことを吸収する機会に恵まれており、日本とは違った存在感であることが推測される。

P77:図5-5
「父性」の発達を促進するであろう要因をモデル化した図である。男性は誕生以来、さまざまな要因の影響をうけながら少しずつ「父性」を発達させていく。

P87 図6-2
家族システムのライフサイクルという考え方があるようなので紹介する。図の見方はステージ1
「結婚して第1子誕生まで」を例にすると、この段階のネガティブな家族のライフタスクは、配偶者との親密感よりも配偶者に対する「幻滅感」を強く抱いてしまうことである。ステージ2は「子ども誕生から小学校に入学するまで」である。ここで問題になるのは、個人・夫婦・親としてのバランスである。この時期のネガティブな家族のライフタスクは閉塞感である。初めての育児で不慣れな上、家事や夫の身のまわりのことなどあれば、母親の心身の疲労は蓄積し、育児不安や育児ストレスへ移行し、閉塞感を抱くことになる。

P133 図10-1
父親に期待される子育ての役割は「権威としての父親(稼ぎ手・子どもの社会化・しつけ)」から近代社会の「父親不在(稼ぎ手)」の時代への移行し、現在では「新しい父親(稼ぎ手・子どもの社会化・子どもの世話)」の模索がされている。そして父親の役割として①扶養者②子どもの社会化の担い手③子どもを世話するもの、の3点をあげて新しい父親とはトータルな存在であるとしている。

【開催日】
2012年7月18日

2次文献についての質評価

【文献名】
文献タイトル:Speed of updating online evidence based point of care summaries: prospective cohort analysis
雑誌名・書籍名:BMJ 2011
発行年:343:d5856

【要約】
<Objective>
 To evaluate the ability of international point of care information summaries to update evidence relevant to medical practice.

<Design>
 Prospective cohort bibliometric analysis.

<Setting>
 Top five point of care information summaries (Clinical Evidence, EBMGuidelines, eMedicine, Dynamed, UpToDate) ranked for coverage of medical conditions, editorial quality, and evidence based methodology.

<Main outcome measures>
 From June 2009 to May 2010 we measured the incidence of research findings relating to potentially eligible newsworthy evidence. As samples, we chose systematic reviews rated as relevant by international research networks (such as, Evidence-Based Medicine, ACP Journal Club, and the Cochrane Collaboration). Every month we assessed whether each sampled review was cited in at least one chapter of the five summaries. The cumulative updating rate was analysed with Kaplan-Meier curves.

<Results>
From April to December 2009, 128 reviews were retrieved; 53% (68) from the literature surveillance journals and 47% (60) from the Cochrane Library. At nine months, Dynamed had cited 87% of the sampled reviews, while the other summaries had cited less than 50%. Overall, 114 systematic reviews (89%) had been cited by at least one point of care summary. The median follow-up time was 33 weeks (range 1-60). Table 2. reports the proportions of citations by summaries over time and the hazard ratio for each summary compared with the top performer. The updating speed of Dynamed clearly led the others. For instance, the hazard ratios for citations in EBM Guidelines and Clinical Evidence versus the top performer were 0.22 (95% confidence interval 0.17 to 0.29) and 0.03 (0.01 to 0.05). This means that the updating speed of Dynamed is 78% and 97% greater than those of EBM Guidelines and Clinical Evidence, respectively. The
median time to citation was 7.7 weeks (range 7-8.2) for Dynamed and 42 weeks (range 34-maximum not reached) for EBM Guidelines.

<Limitations>
Firstly, the total number of citations in the point of care information products should have been taken into account. Secondly, citational analysis counts only bibliographic references without going deeply into the content of the citation.  Qualitative analysis of the updating process and how new evidence is incorporated and affects recommendations should also be taken into account in assessing whether one summary is better than others. We did not directly assess how many systematic reviews in our sample called for a change in clinical practice. 
Finally, we did not consider the updating of results from studies with other designs (such as randomised clinical trials) as we think that systematic reviews are preferable to support decision making at the point of care..

<Conclusions>
 Other studies have assessed other dimensions such as user’s satisfaction, how well different online point of care services answered questions arising in daily clinical work, content development, and evidence based soundness. Updating is only one aspect of the overall quality of a point of care product. But, point of care information summaries include evidence relevant to practice at different speeds. A qualitative analysis of updating mechanisms is needed to determine whether greater speed corresponds to more appropriate incorporation of new information.

【考察とディスカッション】
This literature cannot say which point of care summaries is superior to others. But, it is useful for me to know the difference of the Top 5 point of care summaries.
I’m getting interest in the approaches to content development which found in “Reasons for different updating speeds” section. 
“The updating process is based on two phases: identifying important new evidence and assessing whether it offers new information that might change recommendations for clinical practice. In addition, a third phase exists in which the new evidence should be included in the “old” body of knowledge. Updating is not only a matter of literature surveillance but implies a critical evaluation of what a new item of knowledge adds to other works and what that means for clinical practice.”
There is no major differences between products in the first phase, but in the second and third phase, how a new evidence is deemed relevant and then incorporated into the body of the summary probably largely dictates the different updating speeds.  
This process is similar in mechanism to our practice, I think.

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【開催日】
2012年7月18日

耳鳴りのマネジメントのメタアナリシス

【文献名】
著者名:Derek J. Hoare, PhD et al.  
文献タイトル:Systematic Review and Meta-Analyses of Randomized Controlled Trials Examining Tinnitus Management.
雑誌名・書籍名:Laryngoscope
発行年:121:1555?1564, 2011

【要約】
<はじめに>
・耳鳴りは英国の10~15%の人が経験する
・騒音や加齢と関連し、不眠・難聴・引きこもり・不安や抑うつなどの陰性感情のいくつかの組み合わせで起こりうる
・英国の健康省は耳鳴りの評価とマネジメントのためのGood Practice Guideを作成
・このレビューではその評価とマネジメントについて、どれくらいのエビデンスが集積されているのかの評価を行った

<資料と方法>
・PRISMA声明(RCTのメタアナリシスの報告質向上のためのQUOROM声明の改訂版)に沿ったシステマティックレビューを進めそのガイドに沿って報告をする

<探索方法と論文選択>
以下のPICOSクライテリアで独立した二名の評価者によって研究を検索した。
P:耳鳴りのあるの成人 
I:健康省のGPGに沿ったマネジメント戦略を行った群 
C:未治療グループもしくは適切なセカンドグループ?の群 
O:妥当性のある耳鳴り(剰音性、不安、抑うつ)ついての質問紙評価 
S:RCTのみ

検索に用いたデータベースは、PubMed、Cambridge Science Abstract ( Medline等含む )、EMBASE
更に追加で手検索で、鍵となるジャーナルやコクランデータベース、参考文献リストの全ての研究を検索した。

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<データの抽出>
独立した二名の評価者によって、対象者数、耳鳴りの重症度、年齢層、介入とコントロールなどで研究を抽出した。

<質の評価>
有る一つの先行文献に沿って、独立した二名の評価者がそれぞれ質の評価を行った

<データー統合とメタアナリシス>
RのRmetaを用いて集められた研究の同質性・異質性を評価した。

<各研究の効果量計算>
Cohen’s d*を用いて効果量を計算した。
*negligible effect:-0.15 =120813_5

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<情報提供/患者教育>
 3つのRCTがあり冊子や教育セッションによって実施され自助には十分な効果はなかったが、自助のための冊子と臨床家の面談は、自助の冊子単独よりもより大きな効果があった。

<補聴器>
 RCTなし

<カウンセリングや精神的支援>
 RCTなし *情報提供/患者教育、リラクゼーション、CBT、TRTとして提供されている

<リラクゼーション>
 3つのRCTがあり、耳鳴りの剰音性の改善に効果があった。抑うつへの効果は存在したものの、不安の改善についてはエビデンスを認めず、分析からメタアナリシスとしては検討できなかった

<認知行動療法*;CBT>
*耳鳴りそのものは有害でなく、それを患者がどう認知・評価するかで惹起される感情・気分が決まるとし、耳鳴りの認知・評価を修正することで気分を改善するアプローチ
11のRCTがあり、その多くに中等度のエビデンスを認めた。
10のRCTのうちの9つに著しい剰音性の改善を認めた。内7つの研究では抑うつについて測定され、2つにのみ改善が認められた。内3つでは不安が測定され、1つでのみ改善が報告されていた。
CBTは自記式の耳鳴り重症度の軽減と関連し、関連する抑うつと不安の軽減については小さなエビデンスのみであった。また対人でのCBTはネットを介したCBTよりも効果量が大きかった。
分析では研究の量と均質性からメタアナリシスが可能であり、いずれも中等度の効果量であった。

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<睡眠調整>
RCTなし

<音治療>
3つのRCTあり、英国に普及している治療であるが、驚くほどその効果は小さく、分析からメタアナリシスとしては検討できなかった

<耳鳴り順応療法 (音治療とカウンセリング);TRT>
過去に一つ研究があったが、今回さらに2つ研究が加わった
TRTの効果は、固定されたプロトコールによるものよりも、その介入(6時間以上の耳鳴りが消えない大きさのワイドバンドノイズへの暴露)への適応性で決まる
また加わった2つのRCTはメタアナリシスとしては検討できなかった

<抗うつ薬>
3つのRCTがあり、3つそれぞれが異なる結果であった。分析からRCTはメタアナリシスとしては検討できなかった

<抗不安薬>
一つのRCTがあり、不安や抑うつの変化は報告されなかった

<夜間鎮静>
2つのRCTがあったが、メタアナリシスとしては検討できなかった

【ディスカッション】
・典型的なプラセボ効果が認められなかった
・TRQが最も利用されていた質問紙調査であった
・抑うつや不安が十分評価されていなかった

【開催日】
2012年7月11日