「教育的関係」を枠組みとして医学教育におけるフィードバックを捉え直す

-文献名-
Telio, S., Ajjawi, R., & Regehr, G. (2015). The “educational alliance” as a framework for reconceptualizing feedback in medical education. Academic Medicine, 90(5), 609-614.

-この文献を選んだ背景-
 北海道家庭医療学センターではカリキュラム開発の枠組みとして5+1モデルを採用している。5つの構成要素については教育学の理論・研究に基づいてフェローへの教育や現場の実践が行われている一方で、+1の部分については家庭医療学の文脈から理解が主であり、教育学との関連が明確ではなかった。
 この文献は+1の中の「学習者教育者関係」という部分について、教育学からはどのように捉えられているかを理解する助けになると思われたため、紹介したい。

-要約-
【医学教育分野におけるフィードバックの歴史】
 フィードバックの重要性は幅広く認識されているが、フィードバックの実態や経験というのは十分に描写されてはいない。例えば、フィードバックへの受け止めには学習者側と教育者側で解離があるという研究が多くある。更には、フィードバックを行いさえすればよいわけではなく、状況によっては不利益に繋がることもわかってきた。そこで、良い・悪いフィードバックの特徴が研究され、結果として文脈を考慮していない、「唯一解」(Best practice)的な、処方箋的な推奨がなされてきた(PNPのようなサンドイッチやPendleton rulesはその例である)。しかしそれでも思ったような成果は出ていない。

【フィードバックにおける枠組みを拡げる】
 このようにうまくいかないのは、医学教育分野においてフィードバックを「教育者が情報を届ける・学習者に受け入れてもらう」と捉えすぎる余り、何を言うか・どうやって言うか、ばかりが推奨され、それを受け取る学習者や、それを取り巻く関係性・コンテクストが無視されてきたからという視点が広がってきている。実際にいくつもの研究から、学習者がフィードバック行った人をどう理解しているか、学習者と教育者の関係性、学習者が判断するフィードバックの信憑性が、フィードバックの受け止めに影響していることが示されてきた。しかし、フィードバックにおける関係構築やコンテクストへの理解・探索を深めるための理論的枠組みはまだ提示されていない。この点について、心理療法の分野での研究が、分析や探索を進めてくれる可能性がある。その中でも治療的関係、という概念をここでは理解のための枠組みとして提案したい。

【心理療法における治療的関係’Therapeutic alliance’の考え方とその有用性】
 実はこうした理解の変遷は心理療法の分野での変遷と似ている。つまり、治療者が患者に情報を与えるという枠組みから、関係性へと視点が移ってきた。Greensonは、患者が治療者と共に変わっていこうとする能力を強調する為に、’Working alliance’という言葉を作り、Bordinが1治療者と患者の相互理解、2目標や課題に向かうための方法についての合意、3患者の治療者への好み・信頼の3つの要素がその中にあると提唱した。この言葉が受け入れられるにつれ、Therapeutic allianceと呼ばれるようになった。
 後の研究では、治療的関係は治療者の解釈よりも患者の解釈が重要であることや、心理療法の方法よりも治療的関係が心理療法の結果により影響することが示されてきた。

【治療的関係を教育的関係に置き換える】
 治療者患者関係と教育者学習者関係は、変化を促す為のフィードバックの提供という点において非常に類似していると言える。よって、上記の心理療法における知見で捉え直すことで、教育におけるフィードバックも捉え直すことが可能である。例えば、以下のようなことが示唆される。

 ・治療的関係においては、治療者の認識よりも患者の認識の方が重要である。よって、教育者学習者関係も学習者の視点からの判断が重要となる。
 ・フィードバックプロセスも学習者の目標とパフォーマンスに対する共通の理解基盤の構築、アクションプランの合意形成、目標に向けた共同作業の実践と捉えることが可能である。
 ・フィードバックの「方法」(PNPや5microskillsなどのようなもの)も、唯一解(best practice)的な「踏むべきステップ」と捉えるのではなく、効率的な教育的関係を構築し、維持する為に利用できる、(しかも複数の中から選択できる)道具にすぎない、と捉えるべきである。
 ・FDにおいてもこの枠組みに乗っ取るのなら、フィードバックを学習者の実践を変えるためのものではなく、教育的関係の構築の道具として伝える形になりうる。
 ・更には、教育的関係の枠組みを踏まえると、効果的なフィードバックを行うためには、いざフィードバックを行う時だけに着目するのは不十分だということが示唆される。学習者は、教育者について情報収集と解釈を積極的に行っており、教育者が学習プロセスにどのようにコミットしているのかを初対面の時から考えていると捉えられる。

【限界と今後の方向性】
 もちろんこういった治療者患者関係が医学教育に当てはまらない部分もある。(関係性の長さや境界線の保ち方など)
 また、ここで述べたことの多くは推論にしか過ぎず、答えというよりは新たな問いを生み出すものであるが、今後の研究によって更に理解を深められる可能性がある。

-考察とディスカッション-
 5+1モデルという形では学習者との関係性を意識していると、この文献で述べられていることの一部は自分の実践とも合致しており、納得感があるものであった。その一方で、中には、関係性の構築の視点を踏まえることで、フィードバックや指導医養成がどう変わるかについてははっとさせられる内容もあった。そういった意味では、我々が日常臨床で使い慣れた枠組みを教育へ丁寧に適用することで、教育実践に対する新たな理解・研究の視点が得られる好例だと思われた。更には、家庭医療学は医師患者関係についての枠組みを豊富に持っており、それを適用したリサーチを行うことで、この分野への貢献も可能だと思われた。

【ディスカッションポイント】
<学習者教育者関係について>
 1.これまで関わった学習者を思い出して、その学習者とはどのような関係性を構築していたでしょうか?
  自由に述べて頂いても構いませんし、家庭医療における医師患者関係の枠組みを参考に振り返って頂いても構いません。
  (例:パターナリスティック-決断の共有の関係-消費者主義)

<フィードバックについて>
 2.医学教育において、唯一解的なフィードバックの方法論を教えることがしばしばありますが、そういった手法は教育的関係にどのような影響を
  与えていると思いますか?皆さんの実体験を元に振り返ってみて下さい。
  例:批判のサンドイッチ、5micro skill、SNAPPSなど

【開催日】
 2016年10月19日(水)

【EBMの学び】吃音

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年9月25日
【臨床状況のサマリー】
 4歳女児。母親より吃音に対しどのような対応をしたらよいのかと相談を受けた。吃音に対する知識を持ち合わせておらず、家族はこれまで通りに接するべきか、家族も吃音の指摘・介入をしてよいのか分からなかった。
 書籍を読み知識を得る中で、自己肯定感を育む支援方法、また家庭環境で家族が患児に対し吃音に対するフィードバックを行い、時に言語聴覚士(以下、ST)に評価を受けるリッカムプログラムの存在を知った。
 患者家族に説明をするにあたり、リッカムプログラムの情報提供を行うべきなのか判断するために有用性を調べたい。

 <リッカムプログラム>
 ・毎日15分間言語的刺激を与える。
  具体的には
   吃音のない発話に対して
     賞賛:とても良かったね
     自己評価の促し:今のはスムーズだった?
     認知:今のは滑らかだったね
   吃音のある発話に対しては
     認知:ちょっとつかえたね
     修正の促し:もう一回言ってみる?
  上記を、吃音のない発話に対する刺激を5回施行し、その後の吃音に対し刺激を1回。この5:1の頻度は守る。
  その上で週1回言語聴覚士に診てもらう。

 P;吃音のある小児
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;リッカムプログラムを行わない
 O;吃音が改善するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 検索したエンジン;ClinicalKey
 見つけた論文;
  Mark Jones, et.al, Randomised controlled trial of the Lidcombe programme of early stuttering intervention.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;3〜6歳の(少なくとも音節2%で)吃音のある患者。(除外:6ヶ月内発症。12ヶ月以内の治療歴。)
 I(E);リッカムプログラムを行う
 C;行わない場合
 O;改善に差があるか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
貴島先生図EBM①

貴島先生図EBM②

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ●ARRとNNTを計算する
 貴島先生図EBM③

  RR=(13/27)/(17/20)≒0.567
  ARR=(17/20) – (13/27)≒0.37
  NNT=1/ARR≒2.71

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ①参照

STEP4 患者への適用
【①エビデンスの視点】
 ●論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?
 年齢は研究対象内であるが、発症時期は1ヶ月以内のため除外基準である発症6ヶ月以内に該当しており本患者は対象外である。
 日本でも取り入れ始めているプログラムであるが、日本語に適応した際に効果があるかどうかのエビデンスはまだなさそう。

 ●内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 ランダム化はされており、observerのみ盲検化がされている。
 年齢、吃音の重症度、性差、治療の場所、家族の治癒歴に関し検討されbalanced randomisationの記載がある。
 110人の参加者を目指していたが、募集困難でN:54と少ない。その内7人が脱落(一人は病気のため、その他は主に引越しにより接触できなくなった)

【②臨床セッティングの視点】
 ●治療そのものは忠実に実行可能か?
 →研修を受けたSTが必要であり、当院での忠実な実行は不可能である。また、実施している施設数も限られているようで困難。

 ●重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?
 →12ヶ月間のフォローアップが予定されていたが、コントロール群の親が患児に治療を受けさせたい希望のために9ヶ月間に変更された。

【③使う者の経験の視点】
 ●これまでのその治療に対する経験はどうか?
 経験はない。

 ●自分の熟達度から実行は可能だろうか?
 STと伴に行われるものであり、忠実な実行は困難である。
 当クリニックのセッティングであれば某大学耳鼻咽喉科と連携し施行は可能ではありそうだが・・・。

【④患者の考え・嗜好の視点】
 ●illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
 →そもそも40分かけて定期的な病院受診(大学)は望んでいない。
 接し方のアドバイスを欲しているため、従来の支援手段の提案にとどめておくのが良いのではないかと考える。
 リッカムプログラムはエビデンスが構築されている時期であり、情報に敏感になりながら有用性を判断し、今後に備えられたらと感じた。

 <従来の支援手段の例>
  ・話し方のアドバイス(例:ゆっくり落ち着いて話して)、言葉の先取りをしない(例:「6時からちちちち」「ちびまる子ちゃんが始まるね」)。
  ・話を最後まで聞く、話す内容に注目する(例:「とととと跳び箱2段飛べたんだ」「2段も!すごい!」)ことで、自己肯定感を育む対応をする。
  ・幼稚園や学校に吃音の情報提供をする。

【参考図書】
 菊池良和. エビデンスに基づいた吃音支援入門.初版.東京都:学苑社:2012.
 菊池良和. 子どもの吃音 ママ応援BOOK.初版.東京都:学苑社:2012.

【開催日】
 2016年10月12日(水)

なぜポートフォリオは成功と失敗をはらむのか?

-文献名-
Erik Driessen, Jan van Tarwijk, et al. Portfolios in medical education: why do they meet with mixed success? A systematic review: Med Edu 2007; 41: 1224-1233

-要約-
Introduction:
 直近の20年以上にわたり、知識を身に着けることからコンピテンシーへと医学教育のカリキュラムは大きな転換期を迎えている。10-15年前に医学教育のすべての段階でPFが紹介され、PFは学習者がいかにタスクを実施し、コンピテンシーを身に着けていくかのエビデンスのある教育として使用されている。1990年代初期に医学教育の世界で紹介されて以降、PFは教育研究の対象となっているが、部分的な失敗も含めた成功となっている。

Method:
 PubMed(1966-2007)、EMBASE(1989-2007)からportfolをキーワードに用いて検索を行った。Psych InfoとERICではPortfolおよびmedical educationをキーワードに検索を行った。検索は英語とドイツ語の出版物に制限した。
選択基準として、以下の3点を満たすものとした。1.医学教育を目的としたポートフォリオの利用に焦点が当てられている。2.卒前、卒後、生涯教育を対象。3.経験的データである。また看護などの他の専門職、管理者、経営、教育のためのポートフォリオやログブックといったポートフォリオにまつわる道具、評価されたデータのない文献は除外した。
データ抽出には修正版BEMECのコーディングシートを使用し、介入の結果はKirkpatrickの階層で評価した。評価者間の信頼性は、平均化したドメイン準拠の信頼係数ないしκ係数で推定した。複数の評価者間の信頼性はスピアマン-ブラウン公式を用いて推定された。

Results:
 1939の文献が検索され、適格基準を満たしたものは30件だった。内訳は臨床に入る前の卒前医学教育が9件、卒前のクリニカルクラークシップに関するものが7件、卒後医学教育が9件、生涯学習に関するものが5件だった。
 19の文献での評価はKirkpatrickのlevel1の結果であり、level3のパフォーマンスの改善を評価したものは2件だけだった。患者のアウトカムを評価した文献はなかった。
 ポートフォリオの目標をLearningとAssessmentの2つが挙げられた。
上野先生図①

Goal 1. Learning
 生涯教育でのPFの利用は成功と失敗を含んだ結果となっている。いくつかの文献ではPFはreflective learningを刺激する可能性が報告され、生涯教育の計画や推移を見守るうえで助けになる。
 日々の仕事の負荷が課される中で、PFを維持していくには時間がとられるという側面もあり、かけられる時間の欠如は生涯教育、卒後教育において問題となっている。
 MathersらはPFに関して、実現可能性を高めるために書類を減らして「よりスマートにする」よう提言している。
 PFの書式も重要で、明確でありながら個々の学習者のユニークな学びを描写できる柔軟な構造が有効である。多くの学習者はどのような種類の情報を記載することが求められているかを知りたがっていた。
 多くの研究でメンターによる十分な支援が不足していることを報告していた。また準備と導入の不足に関連する問題も報告されている。

Goal 2. Assessment
 PF評価の妥当性を調査された研究では、確かに振り返る能力の妥当な試験と証明されていた。6つの研究ではPFの評価者間信頼性を推定しており、その平均は0.63だった。評価者が増えると上昇する傾向にあり、2,3,4名の評価者でそれぞれ0.77、0.84、0.87となった。小集団で評価したり、実際の評価の前後に評価者間で議論したり、ルーブリックを使用することを提案している。

Discussion:
この文献はPFに関する最初のシステマティックレビューである。評価者間信頼性は、PFが主観的である性質から予測されたものと矛盾した結果であった。PFは総括的評価と形成的評価を目的に使うことができるだろう。
効果的に扱うため、適切な導入とメンタリング、背景と方略を結びつけ、学習者と教育者の双方に情報提供を行い、学習者の自由を損なわない明確なガイドラインを提供し、学習者とメンターの限られた時間の中で使い勝手の良さが求められる。
今後はPFの有効性や使い勝手の良さ、全人的評価に用いることができるか、メンターに求められるコンピテンシーについてさらなる研究が求められる。

【開催日】
 2016年10月5日(水)

【EBMの学び】膀胱炎に抗菌薬を投与するvsしない

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年9月4日
【臨床状況のサマリー】
 60歳女性
 転居に伴い当院を利用し始めた。
 膀胱炎の既往多数。前医で処方されたLVFXを有症状時に頓服していた。
 下腹部痛、残尿感、頻尿があり、LVFX内服したが改善しない。
 経過中の発熱なし。院内の尿検査では細菌尿、膿尿みとめており、膀胱炎と診断される。尿培養からはE.coli(R to LVFX)が検出された。CCL内服で治癒したが、膀胱炎を繰り返す既往があり、抗生剤を持っていないと心配と話している。
 患者に説明をするうえで、「膀胱炎は抗生剤がなくても治癒する」は本当か、を調べたい。

  P;膀胱炎の女性
  I(E);抗生剤を使用する
  C;抗生剤を使用しない
  O;治療成績に差がない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
検索したエンジン;NEJMのClinical practiceからの孫引き
見つけた論文;T C M Christiaens. Randomised controlled trial of furantoin versus placebo in the treatment of uncomplicated urinary tract infection in adult women; British Journal of General Practice. 2002 Sep; 52(482): 729–734.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;単純性の下部尿路感染症を疑う症状(急性排尿障害、頻尿、尿意切迫)と膿尿をみとめる15-54歳の非妊娠女性
 I(E);ニトロフラントイン(日本未発売)100mg 4T4x 3日間
 C;プラセボ 4T4x 3日間
 O;症状と細菌尿の消失・改善
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが ( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
佐野先生図①
佐野先生図②

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 <table1>
  Day3 RR1.35, Day7 RR1.7
 <table3>
  Day3 bacteriology: RR3.89, symptom: RR1.54
  Day7 bacteriology: RR1.5, symptom: RR1.78
●ARRとNNTを計算する
 <table1>
  Day3 ARR0.175 NNT5.7,
  Day7 ARR 0.31 NNT3.2
 <table3>
  Day3 bacteriology: ARR0.535 NNT1.9, symptom: ARR0.28 NNT3.5
  Day7 bacteriology: ARR0.256 NNT4, symptom: ARR0.24 NNT4

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ①参照

STEP4 患者への適用
【①エビデンスの視点】
●論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?
 年齢は60歳であり、研究対象である15歳〜54歳からは外れる。除外基準である発熱や、既知の腎臓・尿路疾患はない。糖尿病を含めた易感染性疾患はない。今回の膀胱炎はCCL内服で治癒しており、次回の膀胱炎は「再発」になるかどうかはまだ不明である。産婦人科疾患の検索はされてない。
また、ニトロフラントインは本邦では発売されていないが、海外では膀胱炎の第一選択薬にもなっており、一般的な抗生剤治療と考える。

●内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 研究はランダム化、隠蔽化、盲検化されているが、割付された2群間の特徴についての比較はなされていない。
 本研究の着目すべき点は、P<0.05と有意差をもって示されたのは臨床学的UTIの7日目の症状改善と、細菌学的UTIの3日後の細菌尿の消失だけであることだ。NNTはいずれも一桁ではあるが、プラセボ群であっても症状や細菌尿の改善症例があることがわかった。

【②臨床セッティングの視点】
●治療そのものは忠実に実行可能か?
 無治療で経過を見ることは、患者の医療機関へのアクセスの良さを考えれば可能だが、明らかな有意差がないだけで抗生剤治療群の方が症状の改善・細菌尿の改善の全てにおいて勝っていた。自然治癒することがある、というのは情報提供にはなるが、強く勧められるものではないと考える。
 生活指導としては、本研究では、「水分をしっかりとること」を両群で行っており、実行可能と考える。

●重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?
 3日間の観察機関の中で、プラセボ群で腎盂腎炎を疑われた人が1人、症状悪化が5人。7日間の観察機関の中で 5人の症状悪化がいた。経過が横ばいでだけでなく、増悪する可能性があることも考慮するべきである。また、抗生剤の副反応に関しての評価はなかった。

【③使う者の経験の視点】
●これまでのその治療に対する経験はどうか?
 外来で経過観察を勧めたことはないが、「経過観察したけど治らないから受診した」「実際に治った経験がある」という患者には会ったことがある。

●自分の熟達度から実行は可能だろうか?
 耐性菌の問題、抗生剤へのアレルギーなどの問題など、経過観察の適応となる症例は限られそうだ。

【④患者の考え・嗜好の視点】
●illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
 患者は抗生剤の頓服で膀胱刺激症状(おそらく膀胱炎)の治療をしてきた経験がある。膀胱炎の診断は患者の主観でも十分であると言われているが、本患者は抗生剤の内服方法への教育も必要であり、自宅に置き薬として抗生剤を常備することは望ましくない。
 しかし、情報提供として、臨床学的にも細菌学的にもUTIの症状変化は3日目までの抗生剤の優位性はないということから、頓服で自宅に薬がなくても、受診できるときに受診する、という方針をお勧めできるかもしれない。

【開催日】
2016年9月14日(水)

肥満患者のライフスタイルへの介入

-文献名-
Charles B. Eaton, MD, MS, FAHA et al. A Randomized Clinical Trial of a Tailored Lifestyle Intervention for Obese, Sedentary, Primary Care Patients. Annals of Family Medicine, July/August 2016; 311-319

-要約-
<目的>
 プライマリ・ケアにおける肥満患者に対し、患者に合わせたライフスタイルへの介入を行うことが、体重減少と身体活動量増加の助けになるかどうかを試験すること。

<方法>
 ロードアイランド州にて24ヶ月間行われた無作為化臨床試験である。プライマリ・ケア医によって同定された肥満・低活動性の患者に対し、減量と中等度の身体活動について動機づけが行われた。患者は強化介入群と標準介入群の2つに無作為に割り付けられた。どちらの群に対しても、3回の対面での減量に関する話し合いが行われた。強化介入群にはさらに、食事と身体活動に焦点を当てた電話相談、患者に合わせた印刷資料、DVDが提供された。1年目は積極的介入をする時期とし、2年目は介入を漸減し維持期とした。

<結果>
 24のプライマリ・ケアの現場で、211人の肥満・低活動性の患者が募集された。患者の79%は女性で、平均年齢は48.6歳、BMIの平均は37.8kg/mm2、中等度の身体活動を週に21.2分行っていた。強化介入群では標準介入群よりかなり多くの患者が元の体重から5%の減量を達成していた(P<0.001)。その差は、特に積極的な介入を行っていた6ヶ月の時点(強化介入群37.2%、標準介入群12.9%)と12ヶ月の時点(強化介入群47.8%、標準介入群11.6%)では有意であったが、維持期の18ヶ月(強化介入群31.4%、標準介入群26.7%)、24ヶ月(強化介入群33.3%、標準介入群24.6%)では有意ではなかった。強化介入群では、標準介入群と比較し、有意に長い時間の中等度の身体活動を実践したと報告された(P=0.04)。6ヶ月の時点では、強化介入群では95.7分/週、標準介入分では68.3分/週。12ヶ月の時点では強化介入群で126.1分/週、標準介入群で73.7分/週。18ヶ月の時点では強化介入群で103.7分/週、標準介入群で63.7分/週。24ヶ月の時点では強化介入群で101.3分/週、標準介入群で75.4分/週。同様の傾向が実際の体重減少にもみられ、その割合は身体活動に関する国のガイドラインに達するものだった。 <結論>
 肥満、低活動性のプライマリ・ケア患者に対する患者に合わせたライフスタイルへの介入は、体重減少と中等度の身体活動の増加を促す。その効果は12ヶ月でピークに達し、24ヶ月では減弱する。

中島先生図①
中島先生図②
中島先生図③

-考察とディスカッション―
研究結果としては、有意差が出たのは初めの6~12ヶ月で、その後の維持期については強化介入群の方が目標を達成している割合は高いもののその有意差は出ていなかった。一方で、標準介入群でもライフスタイルカウンセラーと面談したりパンフレットを渡されたりなど、介入はそれなりにされており、実際に自分のこれまでの外来でもそこまできちんとした介入はやっていなかったように思う。
禁煙外来のように、ある程度決まった方法で行う「減量外来」のような枠組みがあれば、それほど強い介入をしなくてもある程度減量や運動習慣の確立ができる患者はいるのでは、と思われた。

 ディスカッション
  ・これまで、減量を目的に外来通院し、実際に減量を達成できた患者さんはいましたか?
  ・もしいれば、その方にはどのような介入をしましたか?
  ・外来で減量を積極的に勧めていく際に、現実的にはどのような戦略がとり得ると思いますか?

【開催日】
 2016年9月21日(水)

「患者のどれだけ生きたいか?と、前立腺癌の治療の選択をする・しない」の調査

-文献名-
Jinping Xu et al. Patients’ Survival Expectations With and Without Their Chosen Treatment for Prostate Cancer. Ann Fam Med May/June 2016 vol. 14 no. 3 208-214

-この文献を選んだ背景-
 前立腺癌は男性の部位別罹患率の3位であり、長期生存の見込めるがんであるため、家庭医の継続的な外来で遭遇することの多いがんであるとも言える。実際、当院でも、これまで複数の前立腺癌患者を経験している。多くは治療継続という外来であるが、最近経験した2例においては限局性前立腺癌患者のカウンセリング(2ndオピニオン含)をも担う外来となった。それぞれの価値観や性格傾向に合わせて継続的なケアを行なっているが、「どれだけ生きたいか?」という期待が「治療選択の有無」にどのように影響しているのか?を調べた文献に遭遇し、今後の診療に行かせる研究と考え共有したい。

-要約-
Introduction:
・スクリーニングで同定された限局性前立腺癌への過剰治療は公衆衛生学的に重要な関心事である。
・低リスクのものは初期マネジメント戦略として「経過観察/積極的な監視療法」がガイドラインに含まれているが、実際選択しているのは10-20%程度である。新しい技術の存在やがん進行の不安・恐れが影響し、低リスクへの積極的な治療は増加傾向にある。
・現在、積極的治療と待機的観察を比較するPIVOT試験が進行中であり、10年間の中央値で待機的観察と比べて積極的手術が全ての原因もしくは前立腺癌に関連した死亡率を著しく低下させるという結果は示せなかった。手術や放射線療法などの積極的な治療が生存率向上に寄与するかはこれまで十分に確立されてもいない。
・治療決断に際し、治療オプションの利点・決定を正確に理解する必要があり、患者の期待余命が治療選択に影響するのかの調査はほとんどない。我々は患者の期待余命と限局性前立腺癌への治療選択の有無について調査を行なった。

Method:
・横断研究
・デトロイト市都心部に住む75歳以下の黒人・白人男性で、新たに診断された限局性前立腺癌患者が対象
・MDCSSというシステムのRSAというデータを利用し、自記入式調査表を用いての研究を行なった
・カルテレビューと治療選択、選択理由、どんな治療を紹介・推奨されたかなどを調べ、「治療をしなかった場合どれ
だけ生きられると認識しているか?」「治療しなかった場合、どれだけ生られると思うか?」という2つの質問を行なった
・治療無しで期待余命があると思う群、治療をして期待余命があると思う群、その群間の分析、年齢・人種・学歴・健康状態などによる多変量解析を行なった

Results:
松井先生図①

<治療希望の有無別の期待寿命>
・治療しない群では、33%が5年以下の期待余命であった。41%が5-10年、21%が10-20%、5%が20年以上だった。
・積極的治療を選択する群は3%が5年以下、9%が5-10年、10-20%が33%、20年以上が55%であった。
松井先生図②

<治療選択群毎の期待余命比較>
・積極的治療を選択する群の期待余命は11年以上と長く、治療しない群と比べて4年以上長かった。
・手術選択群と放射線選択群との違いは無かった。
・変数調整後、待機観察選択群では治療なしの場合にでより長い期待余命を持ち、治療ありの場合でより短い期待余命を持っていた。
松井先生図③

・治療しない群では待機観察で期待余命が長く、治療する群での期待余命が短かった。
松井先生図④

<多重線形回帰分析>
・年齢、健康状態、癌の深刻さの認識、治療選択群が期待余命の予測因子となった。
・人種やリスクレベルは含まれず。
松井先生図⑤

Discussion:
・全ての男性が、年齢、人種、学歴、合併症に関わらず、積極的治療での非現実的な期待余命を保持していた。
・手術や放射線を選択した男性は、それをすることでしない場合よりも10年以上余命が伸びると期待していた
・この誤解の訂正こそが重要で、治療の意思決定のみならず、PSAでのがんスクリーニングへの認識を改善するであろう
・他の研究では限局性前立腺癌と診断された男性は、全ての年齢と合併症の状態に関わらず86-98%がその癌で亡くなってはいない
・治療後の10年以上の観察結果でも、手術選択が生存を伸ばしたという確証は得られていない
・限局性前立腺癌の診断時に、出会った医師がどのような推奨を行なうかは初期の促進因子となる
・意思決定やその支援において、治療の比較や副作用に焦点があたることはあっても、期待余命を話題にすることは少ない
・泌尿器や放射線の医師が深い医師患者関係を構築してタイトな時間の中で診断や治療についてのディスカッションを行なえる機会は乏しい
・患者を長期に継続的に診ているプライマリケア医こそが、患者についての個人的な知識を持ち、意思決定へのアプローチ、疾患管理の流れの中で何を優先するかに利点を持っている
・本研究の限界としては、①経過観察・監視療法が31名と少なく、より多い人数での調査が今後必要であること。②2009-2010年の研究なので、監視療法が今よりも少ない時代の調査となったこと。③一箇所の都市で行った調査なので他の地域には当てはまらないかもしれない。

-考察とディスカッション-
・2例の患者の低リスクの1例は確固たる信念で治療を選択せず経過観察しているが、専門医からの圧力で不安が度々生じている。もう1例は中リスクでもあったが、手術や放射線のメリット・デメリットに悩み、またダビンチ手術や小線源刺入放射線療法という新しい治療方法でオプションが増えたことで、治療決定に悩み・迷走する時間があった。
・家庭医が意思決定のガイドとして、患者の人生を支援することは期待される役割であるが、多くの場合は
・待機的な観察は、治療の合併症を減らし、手術をしないコスト低下が期待できる。家庭医が期待余命などを含めて意思決定支援に関わるメリットは大きい。
・しかし、現状の医療体制や専門医との関係性の中で「患者が家庭医に相談を持ち込むか?」「家庭医と患者の決定を専門医がどう認識するか?」についてはまだまだ弱い体制・コンセンサスである。

<ディスカッションポイント>
 ・限局性前立腺癌の治療決定に関わったことがありますか?その際に、期待余命などを話題にしたことがありますか?
 ・今後、どのようにすれば患者が家庭医に前立腺癌の治療方針の相談を持ち込めると思いますか?どのようにすれば家庭医と泌尿器科医、放射線治療医で日本や各医療圏でのコンセンサスをつくれると思いますか?

【開催日】
 2016年9月21日(水)

ニキビの最新ガイドライン(カナダ)

-文献名-
Y Asai MD MSc, A Baibergenova MD PhD, et al. Management of acne: Canadian clinical practice guideline. Canadian Medical Association Journal. 2016, 188(2) : 118-126

-要約-
Introduction
・ニキビは12-24歳の85%が経験する
・精神的ストレスや瘢痕をもたらしQOLを低下させる恐れがある
・ニキビの性状は複数の段階に分けられる(Figure 1)
・前回のカナダのガイドラインは2000年のもの
 →エビデンスに従った新しい指針が必要
・3つのカテゴリーに関して記載していく
 A:comedonal acne(面皰)
  - closed comedones(閉鎖面皰):白色
  - open comedones(開放面皰):grey–white
   毛孔の完全/部分閉塞と皮脂の貯留による
 B・C:mild­to­moderate papulopustular acne(炎症性座瘡)
    表層の炎症が見られる
 D・E:severe acne
   膿疱や結節を伴い、深く組織障害を起こす
   レアなタイプ:conglobate acne(集簇性座瘡)
松島先生図①

<GLの対象でないもの>
neonatal, infantile and late­onset acne; acne fulminans; acne inversa (hidradenitis suppurativa); and acne variants such as gram­negative folliculitis, rosacea, demodicidosis, pustular vasculitis, mechanical acne, oil or tar acne, and chloracne.

・European evidence-based guideline for the treatment of acne (2012)(ES3)に内容を合わせるようにしている
 ※2016も出ているようですが有料

Method
・Guideline panel composition
 運営委員会(C.L. and J. Tan)が選抜 他には地域の代表や疫学と皮膚科のエキスパート(Y.A. and A.B.)も
・Guideline development
 AGREE IIに準拠 適応についてはADAPTE frameworkに従う
 2007〜2013年のシステマティックレビューの中から5つ選抜(ES3とマレーシアのは質が高い)
 2010.3〜2013.3の文献を検索した 出版前に追加で2015.7までの文献を調べた
 クライテリアに合致したものを2人のレビューアー(Y.A. and A.B.)が評価
 Grade A, B, Cに評価しエビデンスレベル1-4を決めた
 出てきた推奨をパネルディスカッションした
 blinded online Delphi processで決定
・Stakeholder review
・Mitigation of competing interests
 Valeant, Galderma, Cipher, Bayer and Mylanの援助あり
 バイアスを受けないよう工夫した

Recommendations
・アルゴリズム(Figure 2)を掲載
・full guidelineはAppendix 4参照
・面皰のみに関するエビデンスはなかったため、軽症の炎症性座瘡の結果を元にしている

◎comedonal acne
外用薬が基本
・レチノイド(一般名 アダパレン,商品名ディフェリンゲル)
  ・benzoyl peroxide(BPO):過酸化ベンゾイル(商品名: ベピオゲル)
 ※カナダではOCTとして販売
・レチノイド+BPOまたはクリンダマイシン

乾燥肌や刺激に弱い肌にはクリームやローションを
脂っぽい肌にはゲルを

効果不良の場合、女性では経口避妊薬の併用も検討する
松島先生図②

松島先生図③

◎mild­to­moderate papulopustular acne(限局性)
・BPO単独
・レチノイド
・併用

◎severe acne
・経口抗菌薬の併用
 テトラサイクリンorドキシサイクリンを推奨
 ミノサイクリンはdrug-induced lupusやhepatitisのリスクが上がる
 ただし耐性菌の誘導には気をつけなければならない
・女性の場合は経口避妊薬の併用も検討
・経口イソトレチノイン(日本では未承認)
 催奇形性があるので避妊を!

Implementation
5年以内に改定する予定

Gaps in knowledge
・体幹の座瘡への有効性のエビデンスがない
・minimal effect sizeがはっきりしない
・座瘡の重症度の国際的標準が決まっていない
・QOL低下に対する補助療法(心理療法など)の知見がない
・耐性菌を防ぐために抗菌薬内服期間をどれくらいにすればいいのか決まっていない
・よく使われている治療(erythromycin–tretinoin、spironolactone、isotretinoin)の効果

Conclusion
早期発見、早期治療により、瘢痕などの後遺症を防げる。

【開催日】
 2016年9月7日(水)

LDLは空腹時採血でとる必要がない

-文献名-
Børge G. Nordestgaard. Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile: clinical and laboratory implications including flagging at desirable concentration cut-points—a joint consensus statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine. European Heart Journal (2016) 37, 1944–1958

-要約-
【目的】
 空腹時脂質データよりも随時脂質データの臨床への影響の批判的評価と、空腹時と随時脂質データ異常値の検査報告に関するガイダンスの提供のため

【方法・結果】
 空腹時と随時の脂質を比較した多量の観察データは、食後1−6時間で臨床的に重大な変化を認めなかった(TG+26mg/dl, 総Cho-8mg/dl, LDL+8mg/dl,計算で求めたremnant Cho-8mg/dl, 計算で求めたnon-HDL-Cho, HDL, apoproteinA1,apoproteinB, Lipoproteinは差はなし)。更に空腹時と随時で脂質濃度は時間経過に応じて同様に変化し、心血管病の予測は同等であった。患者の脂質検査に対するコンプライアンスを改善するため、TG>440mg/dlを超えることを想定しない限り、随時脂質のデータを使用することを推奨する。随時脂質の異常値の範囲は、TG>175, 総Cho>190, LDL>115,計算で求めたremnant Cho>35, 計算で求めたnon-HDL-Cho>150, HDL<40, apoproteinA1<125,apoproteinB>100, Lipoprotein>50。空腹時脂質の異常値の範囲はTG>150で、生命に危険を及ぼすパニック値は、膵炎のリスクとしてTG>880、ホモ家族性脂質異常症としてLDL>500, ヘテロ家族性脂質異常症としてLDL>190, 高い心血管疾患リスクとしてのLipoprotein>150であった。

【結論】
 私たちは、随時血液(非空腹時)での脂質の血液検査を推奨した。検査室からの報告として望ましい検査値のカットオフ範囲が示された。空腹時脂質と随時脂質は双方が補い合うべきであり、どちらか一方という訳ではない。

佐藤先生図①

佐藤先生図②

【開催日】
 2016年9月7日(水)

脂質測定は空腹時に行うべきか

-文献名-
Fasting time and lipid levels in acommunity-based population A cross-sectionai study. Arch Intern Med. 2012;172(22):1707-1710.

-要約-
【背景】
 現在のガイドラインでは脂質測定は空腹時(最終食事から8時間はあけて)に行うように推奨しているが、最近の研究では非空腹時の脂質は食事の影響はほとんどうけないどころか、随時の方が心血管アウトカムを予測するのではないかと考えられている。この研究の目的は空腹時間と脂質測定値の関係を調査することである。

【方法】
 空腹期間(時間単位)と脂質測定値を含んだ検査値を調査したCross-sectional研究が、2011年中の6ヶ月間に大規模な住民レベルのコホートで行われた。データは、カナダのカルガリーにある人口140万人を包括する検査データセンターで抽出された。
 プライマリアウトカムは、HDLコレステロール値とLDLコレステロール値、総コレステロール、中性脂肪の測定値で空腹後1時間から16時間までが調査された。個別の年齢調整などは行い、それぞれの空腹時間毎に平均脂質測定値が評価され線型モデルを用いて評価した。

【結果】
 合計20万9180人(11万1048人が男性、98132人が女性)が組み入れられた。平均のT-Cho・HDL-Cは空腹時間によっても差はほとんど見られなかった。平均の算出LDL値はグループ間で10%程度異なっており、平均中性脂肪は20%程度の差を認めた。
榎原先生図

【結論】
 住民レベルの横断研究では、空腹時血糖と脂質測定値にはほとんど差は認められなかった。おそらく脂質測定をルーチンで空腹時に行う必要は無いだろう。

-考察とディスカッション-
 脂質検査を空腹で行う必要性については絶食時間に関わらず総コレステロールとHDLに関しては2%未満、LDL値の変化については10%未満、TGの変化については20%未満の範囲ということであった。最近は高脂血症の治療について一次予防の段階で内服治療になることは多くない。一次予防の患者さんに対しては変化率を知った上で大きな差が出るわけでもなさそうなので空腹での採血を推奨しなくてもいいのではないかと感じた。中性脂肪については余程高値でないと介入もしないのでこちらについても空腹である必要はないかと感じた。二次予防患者さんについては、個別の基礎疾患や合併症の交絡を排除しているかは不明であったこともあり、今回の文献だけで二次予防や薬の効果判定のためでの空腹採血を変更するだけの材料にはならないと感じた。

ディスカッション
 ・みなさんは空腹時採血を行っていますか?それはどうしてですか?
 ・この文献を読んで何か行動は変わりますか?

【開催日】
 2016年8日24日(水)

予診票にQOLに関する質問を加えても患者中心のケアは促進されない

-文献名-
Becky A. Purkaple, et al. Encouraging Patient-Centered Care by Including Quality-of-Life Questions on Pre-Encounter Forms. Ann Fam Med. 2016; 14: 221-226.

-この文献を選んだ背景-
 当院では看護師のトリアージや診察時間の短縮を狙い発熱で受診する患者のみを対象に予診票を利用している。内容は医学的な項目のみであるが、患者中心の医療におけるillnessを含めると診察時間の短縮に繋がるだろうか?専攻医のillness聴取の動機づけになるだろうか?などと考えたことがあった。
定期的に目次を眺める本雑誌においてそういった疑問に答える論文に出会ったため、読んだ。

-要約-
【目的】
 臨床における意志決定に患者が参加することはQOLをはじめとしたアウトカムを改善するが、典型的な問題解決志向のアプローチはそのようなケアの目標を考慮することの妨げになる。患者が予診票にQOLに関するケアの目標を記入することによりプライマリ・ケア医がそういった目標に注意を払うようになるか調査することを目的として研究を行った。

【方法】
 大学の家庭医療科の診察において異なる2つの予診票を使用し、その影響を比較するランダム化比較試験を行った。研究者を盲検化しランダム化を行い、8人の指導医と8人の専攻医がそれぞれ介入群予診票による診察を2回、コントロール群予診票による診察を2回、ビデオ撮影。合計64症例を解析した。介入群予診票にはQOLに関するケアの目標や訴えを聞く質問が含まれ(Table2)、コントロール群予診票は症状についてのみ訪ねるものであった。撮影されたビデオは診察中に患者のQOLに関するケアの目標について言及されたか、意志決定の歳に考慮されたかをチェックされた。患者と医師のコミュニケーションを評価・コード化するModified Flanders Interaction Analysis(Table1)、共感や参加,調和,敬意を測定するModified Carkhuff-Truax Scaleを用いてそれぞれの診察をスコア化することも行った。
山田先生図

【結果】
 患者はQOLに関するケアの目標や訴えを記述することができたが、64の診察中2つの診察でしかQOLに関する項目は言及されなかった。1例は患者側から、1例は医師側からである。どちらのケースにおいてもその情報が意志決定に反映されなかった。コントロール群予診票による診察の方が寄り医師側の共感が表出された(P=0.03)。

【結論】
 患者は紙面でQOLに関するケアの目標を表現することが出来たが、診察の過程や内容に変化させるよう患者自身または医師を動機づけとはなかった。それどころか、QOLに関する情報が与えられることにより患者の共感が減じられてしまった。

-考察とディスカッション-
 文献の考察によると予診票を診療に用いることがアウトカムの改善に繋がることは過去のエビデンスが示しており、この研究では従来型の診療に慣れている医師が予診票に記載されたQOLに関する情報の利用の仕方に慣れていないことがこのような結果となった要因の1つと分析されていた。
 ・皆さんのサイトでは予診票を使用していますか?それは何を目的としてどんなものを使用していますか?
 ・PCCMの要素を予診票に取り入れるとしたらどのような目的で、どんな内容の予診票をつくったら良いでしょうか?

【開催日】
 2016年8月24日(水)