「患者のどれだけ生きたいか?と、前立腺癌の治療の選択をする・しない」の調査

-文献名-
Jinping Xu et al. Patients’ Survival Expectations With and Without Their Chosen Treatment for Prostate Cancer. Ann Fam Med May/June 2016 vol. 14 no. 3 208-214

-この文献を選んだ背景-
 前立腺癌は男性の部位別罹患率の3位であり、長期生存の見込めるがんであるため、家庭医の継続的な外来で遭遇することの多いがんであるとも言える。実際、当院でも、これまで複数の前立腺癌患者を経験している。多くは治療継続という外来であるが、最近経験した2例においては限局性前立腺癌患者のカウンセリング(2ndオピニオン含)をも担う外来となった。それぞれの価値観や性格傾向に合わせて継続的なケアを行なっているが、「どれだけ生きたいか?」という期待が「治療選択の有無」にどのように影響しているのか?を調べた文献に遭遇し、今後の診療に行かせる研究と考え共有したい。

-要約-
Introduction:
・スクリーニングで同定された限局性前立腺癌への過剰治療は公衆衛生学的に重要な関心事である。
・低リスクのものは初期マネジメント戦略として「経過観察/積極的な監視療法」がガイドラインに含まれているが、実際選択しているのは10-20%程度である。新しい技術の存在やがん進行の不安・恐れが影響し、低リスクへの積極的な治療は増加傾向にある。
・現在、積極的治療と待機的観察を比較するPIVOT試験が進行中であり、10年間の中央値で待機的観察と比べて積極的手術が全ての原因もしくは前立腺癌に関連した死亡率を著しく低下させるという結果は示せなかった。手術や放射線療法などの積極的な治療が生存率向上に寄与するかはこれまで十分に確立されてもいない。
・治療決断に際し、治療オプションの利点・決定を正確に理解する必要があり、患者の期待余命が治療選択に影響するのかの調査はほとんどない。我々は患者の期待余命と限局性前立腺癌への治療選択の有無について調査を行なった。

Method:
・横断研究
・デトロイト市都心部に住む75歳以下の黒人・白人男性で、新たに診断された限局性前立腺癌患者が対象
・MDCSSというシステムのRSAというデータを利用し、自記入式調査表を用いての研究を行なった
・カルテレビューと治療選択、選択理由、どんな治療を紹介・推奨されたかなどを調べ、「治療をしなかった場合どれ
だけ生きられると認識しているか?」「治療しなかった場合、どれだけ生られると思うか?」という2つの質問を行なった
・治療無しで期待余命があると思う群、治療をして期待余命があると思う群、その群間の分析、年齢・人種・学歴・健康状態などによる多変量解析を行なった

Results:
松井先生図①

<治療希望の有無別の期待寿命>
・治療しない群では、33%が5年以下の期待余命であった。41%が5-10年、21%が10-20%、5%が20年以上だった。
・積極的治療を選択する群は3%が5年以下、9%が5-10年、10-20%が33%、20年以上が55%であった。
松井先生図②

<治療選択群毎の期待余命比較>
・積極的治療を選択する群の期待余命は11年以上と長く、治療しない群と比べて4年以上長かった。
・手術選択群と放射線選択群との違いは無かった。
・変数調整後、待機観察選択群では治療なしの場合にでより長い期待余命を持ち、治療ありの場合でより短い期待余命を持っていた。
松井先生図③

・治療しない群では待機観察で期待余命が長く、治療する群での期待余命が短かった。
松井先生図④

<多重線形回帰分析>
・年齢、健康状態、癌の深刻さの認識、治療選択群が期待余命の予測因子となった。
・人種やリスクレベルは含まれず。
松井先生図⑤

Discussion:
・全ての男性が、年齢、人種、学歴、合併症に関わらず、積極的治療での非現実的な期待余命を保持していた。
・手術や放射線を選択した男性は、それをすることでしない場合よりも10年以上余命が伸びると期待していた
・この誤解の訂正こそが重要で、治療の意思決定のみならず、PSAでのがんスクリーニングへの認識を改善するであろう
・他の研究では限局性前立腺癌と診断された男性は、全ての年齢と合併症の状態に関わらず86-98%がその癌で亡くなってはいない
・治療後の10年以上の観察結果でも、手術選択が生存を伸ばしたという確証は得られていない
・限局性前立腺癌の診断時に、出会った医師がどのような推奨を行なうかは初期の促進因子となる
・意思決定やその支援において、治療の比較や副作用に焦点があたることはあっても、期待余命を話題にすることは少ない
・泌尿器や放射線の医師が深い医師患者関係を構築してタイトな時間の中で診断や治療についてのディスカッションを行なえる機会は乏しい
・患者を長期に継続的に診ているプライマリケア医こそが、患者についての個人的な知識を持ち、意思決定へのアプローチ、疾患管理の流れの中で何を優先するかに利点を持っている
・本研究の限界としては、①経過観察・監視療法が31名と少なく、より多い人数での調査が今後必要であること。②2009-2010年の研究なので、監視療法が今よりも少ない時代の調査となったこと。③一箇所の都市で行った調査なので他の地域には当てはまらないかもしれない。

-考察とディスカッション-
・2例の患者の低リスクの1例は確固たる信念で治療を選択せず経過観察しているが、専門医からの圧力で不安が度々生じている。もう1例は中リスクでもあったが、手術や放射線のメリット・デメリットに悩み、またダビンチ手術や小線源刺入放射線療法という新しい治療方法でオプションが増えたことで、治療決定に悩み・迷走する時間があった。
・家庭医が意思決定のガイドとして、患者の人生を支援することは期待される役割であるが、多くの場合は
・待機的な観察は、治療の合併症を減らし、手術をしないコスト低下が期待できる。家庭医が期待余命などを含めて意思決定支援に関わるメリットは大きい。
・しかし、現状の医療体制や専門医との関係性の中で「患者が家庭医に相談を持ち込むか?」「家庭医と患者の決定を専門医がどう認識するか?」についてはまだまだ弱い体制・コンセンサスである。

<ディスカッションポイント>
 ・限局性前立腺癌の治療決定に関わったことがありますか?その際に、期待余命などを話題にしたことがありますか?
 ・今後、どのようにすれば患者が家庭医に前立腺癌の治療方針の相談を持ち込めると思いますか?どのようにすれば家庭医と泌尿器科医、放射線治療医で日本や各医療圏でのコンセンサスをつくれると思いますか?

【開催日】
 2016年9月21日(水)

ニキビの最新ガイドライン(カナダ)

-文献名-
Y Asai MD MSc, A Baibergenova MD PhD, et al. Management of acne: Canadian clinical practice guideline. Canadian Medical Association Journal. 2016, 188(2) : 118-126

-要約-
Introduction
・ニキビは12-24歳の85%が経験する
・精神的ストレスや瘢痕をもたらしQOLを低下させる恐れがある
・ニキビの性状は複数の段階に分けられる(Figure 1)
・前回のカナダのガイドラインは2000年のもの
 →エビデンスに従った新しい指針が必要
・3つのカテゴリーに関して記載していく
 A:comedonal acne(面皰)
  - closed comedones(閉鎖面皰):白色
  - open comedones(開放面皰):grey–white
   毛孔の完全/部分閉塞と皮脂の貯留による
 B・C:mild­to­moderate papulopustular acne(炎症性座瘡)
    表層の炎症が見られる
 D・E:severe acne
   膿疱や結節を伴い、深く組織障害を起こす
   レアなタイプ:conglobate acne(集簇性座瘡)
松島先生図①

<GLの対象でないもの>
neonatal, infantile and late­onset acne; acne fulminans; acne inversa (hidradenitis suppurativa); and acne variants such as gram­negative folliculitis, rosacea, demodicidosis, pustular vasculitis, mechanical acne, oil or tar acne, and chloracne.

・European evidence-based guideline for the treatment of acne (2012)(ES3)に内容を合わせるようにしている
 ※2016も出ているようですが有料

Method
・Guideline panel composition
 運営委員会(C.L. and J. Tan)が選抜 他には地域の代表や疫学と皮膚科のエキスパート(Y.A. and A.B.)も
・Guideline development
 AGREE IIに準拠 適応についてはADAPTE frameworkに従う
 2007〜2013年のシステマティックレビューの中から5つ選抜(ES3とマレーシアのは質が高い)
 2010.3〜2013.3の文献を検索した 出版前に追加で2015.7までの文献を調べた
 クライテリアに合致したものを2人のレビューアー(Y.A. and A.B.)が評価
 Grade A, B, Cに評価しエビデンスレベル1-4を決めた
 出てきた推奨をパネルディスカッションした
 blinded online Delphi processで決定
・Stakeholder review
・Mitigation of competing interests
 Valeant, Galderma, Cipher, Bayer and Mylanの援助あり
 バイアスを受けないよう工夫した

Recommendations
・アルゴリズム(Figure 2)を掲載
・full guidelineはAppendix 4参照
・面皰のみに関するエビデンスはなかったため、軽症の炎症性座瘡の結果を元にしている

◎comedonal acne
外用薬が基本
・レチノイド(一般名 アダパレン,商品名ディフェリンゲル)
  ・benzoyl peroxide(BPO):過酸化ベンゾイル(商品名: ベピオゲル)
 ※カナダではOCTとして販売
・レチノイド+BPOまたはクリンダマイシン

乾燥肌や刺激に弱い肌にはクリームやローションを
脂っぽい肌にはゲルを

効果不良の場合、女性では経口避妊薬の併用も検討する
松島先生図②

松島先生図③

◎mild­to­moderate papulopustular acne(限局性)
・BPO単独
・レチノイド
・併用

◎severe acne
・経口抗菌薬の併用
 テトラサイクリンorドキシサイクリンを推奨
 ミノサイクリンはdrug-induced lupusやhepatitisのリスクが上がる
 ただし耐性菌の誘導には気をつけなければならない
・女性の場合は経口避妊薬の併用も検討
・経口イソトレチノイン(日本では未承認)
 催奇形性があるので避妊を!

Implementation
5年以内に改定する予定

Gaps in knowledge
・体幹の座瘡への有効性のエビデンスがない
・minimal effect sizeがはっきりしない
・座瘡の重症度の国際的標準が決まっていない
・QOL低下に対する補助療法(心理療法など)の知見がない
・耐性菌を防ぐために抗菌薬内服期間をどれくらいにすればいいのか決まっていない
・よく使われている治療(erythromycin–tretinoin、spironolactone、isotretinoin)の効果

Conclusion
早期発見、早期治療により、瘢痕などの後遺症を防げる。

【開催日】
 2016年9月7日(水)

LDLは空腹時採血でとる必要がない

-文献名-
Børge G. Nordestgaard. Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile: clinical and laboratory implications including flagging at desirable concentration cut-points—a joint consensus statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine. European Heart Journal (2016) 37, 1944–1958

-要約-
【目的】
 空腹時脂質データよりも随時脂質データの臨床への影響の批判的評価と、空腹時と随時脂質データ異常値の検査報告に関するガイダンスの提供のため

【方法・結果】
 空腹時と随時の脂質を比較した多量の観察データは、食後1−6時間で臨床的に重大な変化を認めなかった(TG+26mg/dl, 総Cho-8mg/dl, LDL+8mg/dl,計算で求めたremnant Cho-8mg/dl, 計算で求めたnon-HDL-Cho, HDL, apoproteinA1,apoproteinB, Lipoproteinは差はなし)。更に空腹時と随時で脂質濃度は時間経過に応じて同様に変化し、心血管病の予測は同等であった。患者の脂質検査に対するコンプライアンスを改善するため、TG>440mg/dlを超えることを想定しない限り、随時脂質のデータを使用することを推奨する。随時脂質の異常値の範囲は、TG>175, 総Cho>190, LDL>115,計算で求めたremnant Cho>35, 計算で求めたnon-HDL-Cho>150, HDL<40, apoproteinA1<125,apoproteinB>100, Lipoprotein>50。空腹時脂質の異常値の範囲はTG>150で、生命に危険を及ぼすパニック値は、膵炎のリスクとしてTG>880、ホモ家族性脂質異常症としてLDL>500, ヘテロ家族性脂質異常症としてLDL>190, 高い心血管疾患リスクとしてのLipoprotein>150であった。

【結論】
 私たちは、随時血液(非空腹時)での脂質の血液検査を推奨した。検査室からの報告として望ましい検査値のカットオフ範囲が示された。空腹時脂質と随時脂質は双方が補い合うべきであり、どちらか一方という訳ではない。

佐藤先生図①

佐藤先生図②

【開催日】
 2016年9月7日(水)

脂質測定は空腹時に行うべきか

-文献名-
Fasting time and lipid levels in acommunity-based population A cross-sectionai study. Arch Intern Med. 2012;172(22):1707-1710.

-要約-
【背景】
 現在のガイドラインでは脂質測定は空腹時(最終食事から8時間はあけて)に行うように推奨しているが、最近の研究では非空腹時の脂質は食事の影響はほとんどうけないどころか、随時の方が心血管アウトカムを予測するのではないかと考えられている。この研究の目的は空腹時間と脂質測定値の関係を調査することである。

【方法】
 空腹期間(時間単位)と脂質測定値を含んだ検査値を調査したCross-sectional研究が、2011年中の6ヶ月間に大規模な住民レベルのコホートで行われた。データは、カナダのカルガリーにある人口140万人を包括する検査データセンターで抽出された。
 プライマリアウトカムは、HDLコレステロール値とLDLコレステロール値、総コレステロール、中性脂肪の測定値で空腹後1時間から16時間までが調査された。個別の年齢調整などは行い、それぞれの空腹時間毎に平均脂質測定値が評価され線型モデルを用いて評価した。

【結果】
 合計20万9180人(11万1048人が男性、98132人が女性)が組み入れられた。平均のT-Cho・HDL-Cは空腹時間によっても差はほとんど見られなかった。平均の算出LDL値はグループ間で10%程度異なっており、平均中性脂肪は20%程度の差を認めた。
榎原先生図

【結論】
 住民レベルの横断研究では、空腹時血糖と脂質測定値にはほとんど差は認められなかった。おそらく脂質測定をルーチンで空腹時に行う必要は無いだろう。

-考察とディスカッション-
 脂質検査を空腹で行う必要性については絶食時間に関わらず総コレステロールとHDLに関しては2%未満、LDL値の変化については10%未満、TGの変化については20%未満の範囲ということであった。最近は高脂血症の治療について一次予防の段階で内服治療になることは多くない。一次予防の患者さんに対しては変化率を知った上で大きな差が出るわけでもなさそうなので空腹での採血を推奨しなくてもいいのではないかと感じた。中性脂肪については余程高値でないと介入もしないのでこちらについても空腹である必要はないかと感じた。二次予防患者さんについては、個別の基礎疾患や合併症の交絡を排除しているかは不明であったこともあり、今回の文献だけで二次予防や薬の効果判定のためでの空腹採血を変更するだけの材料にはならないと感じた。

ディスカッション
 ・みなさんは空腹時採血を行っていますか?それはどうしてですか?
 ・この文献を読んで何か行動は変わりますか?

【開催日】
 2016年8日24日(水)

予診票にQOLに関する質問を加えても患者中心のケアは促進されない

-文献名-
Becky A. Purkaple, et al. Encouraging Patient-Centered Care by Including Quality-of-Life Questions on Pre-Encounter Forms. Ann Fam Med. 2016; 14: 221-226.

-この文献を選んだ背景-
 当院では看護師のトリアージや診察時間の短縮を狙い発熱で受診する患者のみを対象に予診票を利用している。内容は医学的な項目のみであるが、患者中心の医療におけるillnessを含めると診察時間の短縮に繋がるだろうか?専攻医のillness聴取の動機づけになるだろうか?などと考えたことがあった。
定期的に目次を眺める本雑誌においてそういった疑問に答える論文に出会ったため、読んだ。

-要約-
【目的】
 臨床における意志決定に患者が参加することはQOLをはじめとしたアウトカムを改善するが、典型的な問題解決志向のアプローチはそのようなケアの目標を考慮することの妨げになる。患者が予診票にQOLに関するケアの目標を記入することによりプライマリ・ケア医がそういった目標に注意を払うようになるか調査することを目的として研究を行った。

【方法】
 大学の家庭医療科の診察において異なる2つの予診票を使用し、その影響を比較するランダム化比較試験を行った。研究者を盲検化しランダム化を行い、8人の指導医と8人の専攻医がそれぞれ介入群予診票による診察を2回、コントロール群予診票による診察を2回、ビデオ撮影。合計64症例を解析した。介入群予診票にはQOLに関するケアの目標や訴えを聞く質問が含まれ(Table2)、コントロール群予診票は症状についてのみ訪ねるものであった。撮影されたビデオは診察中に患者のQOLに関するケアの目標について言及されたか、意志決定の歳に考慮されたかをチェックされた。患者と医師のコミュニケーションを評価・コード化するModified Flanders Interaction Analysis(Table1)、共感や参加,調和,敬意を測定するModified Carkhuff-Truax Scaleを用いてそれぞれの診察をスコア化することも行った。
山田先生図

【結果】
 患者はQOLに関するケアの目標や訴えを記述することができたが、64の診察中2つの診察でしかQOLに関する項目は言及されなかった。1例は患者側から、1例は医師側からである。どちらのケースにおいてもその情報が意志決定に反映されなかった。コントロール群予診票による診察の方が寄り医師側の共感が表出された(P=0.03)。

【結論】
 患者は紙面でQOLに関するケアの目標を表現することが出来たが、診察の過程や内容に変化させるよう患者自身または医師を動機づけとはなかった。それどころか、QOLに関する情報が与えられることにより患者の共感が減じられてしまった。

-考察とディスカッション-
 文献の考察によると予診票を診療に用いることがアウトカムの改善に繋がることは過去のエビデンスが示しており、この研究では従来型の診療に慣れている医師が予診票に記載されたQOLに関する情報の利用の仕方に慣れていないことがこのような結果となった要因の1つと分析されていた。
 ・皆さんのサイトでは予診票を使用していますか?それは何を目的としてどんなものを使用していますか?
 ・PCCMの要素を予診票に取り入れるとしたらどのような目的で、どんな内容の予診票をつくったら良いでしょうか?

【開催日】
 2016年8月24日(水)

患者満足度調査の落とし穴

-文献名-
Jhon W.Bachman. The Problem With Patient Satisfaction Scores. Fam Pract Manag. 2016 Jan-Feb;23(1):23-27

-この文献を選んだ背景-
 患者満足度の一つであるJPCATは、一つのクリニックについて、プライマリ・ケアの主要な機能を満足度に似た形で測定するツールである。我々はグループ診療であるため、特に医師に関する調査項目は医師全体としての評価と捉えられるが、日本の診療所は一般的にはソロプラクティスが多く、もし一般開業医がJPCATを実施すれば、それは医師に対する直接的な評価となりうる。海外では医師ひとりひとりに対する満足度調査が徐々に広まっている。それについて読んでみた。

-要約-
<要点>
1.適切なサンプルから得たすべての医師の総合データが、有意義な変革を可能にする。問題を引きおこしているプロセスを同定し、介入し、その介入に効果があるかみていく
2.誤差と分析手法といった統計学的な情報が含まれなければ、満足度は発表しない。(すなわち、個人やグループの点数と全体の平均の違いがいかに重要かということである)
3.正確な満足度を出すためには困難と費用がかかるが、医師個人の満足度をベースにした報酬制度やペナルティは行ってはいけない。医師は不十分なデータに基づいて診療をすべきではないし、医師の給料はそれによって決められてはいけない。
4.いわゆる外れ値である、数は少ないが最低値の患者満足度を精査すること。それだけ低い点数の医師はバーンアウトの危険性があるが、注意すべき特別な環境因子がある可能性がある。
5.質改善と統計学的多様性について学びなさい。大きい組織では、すべての結果の85%が組織のシステムに関係しており、残りの15%が人に関係している。焼き過ぎたトーストの焦げを落とす良い方法を考えるより、トースターを直す方法を学びなさい。

<背景>
 医師一人ひとりについての患者満足度がだんだんと普及してきた。
 患者満足度はここ数年でさらに注目されてきた。患者中心のケアが強調されてきたからだけでなく、小グループあるいは大規模な組織に所属することが多くなってきたからである。大きな組織は、彼らの診療のあらゆる点についてシステマティックに患者満足度を調査している。集計された結果をもちいて、他の医師や組織や、一般的な基準と比較することができるようになった。
 近年患者満足度のインパクトは強くなっている。そのため正確な集計や結果の適応が重要となっている。ひとたび患者満足度がネット上に出ると、医師の評判はその影響を受ける。幾つかの診療所では、トレーニングや経営上の改善が必要な医師を見極めるために満足度を利用している。
 正当な患者満足度は確かにケアやサービスの質を改善するかもしれない。しかしそれは医師自身の満足度を減らすといった予想もしていなかった結果を招く可能性がある。ある研究では、78%の医師が、患者満足度は仕事の満足度に、中等度から強度のネガティブな影響を与えることがわかった。さらに28%の医師は、患者満足度によって退職を考えたことがあると答えた。

<サンプリングの問題>
 患者満足度の潜在的な問題を理解するために、まずデータがどのように集められ、どのように集計され、どのような影響があるか理解することから始める。
 患者満足度は、普通複数の異なる方法で作成・管理された調査から得られる。質問がどういうふうに、どんなときに尋ねられたかは結果に影響を与える。
たとえば電話調査は、記載調査とは異なる結果になる傾向がある。また診察後の調査と、診察後数週間後の調査でも得られる情報は変わってくる。
 多くの調査は一つの地域についての一連の質問で構成されている。例えば典型的な患者満足度調査は、医師とのやり取りについて13の質問からなり、各質問に5つの選択肢がある形式だ。「医師はたいていよくやっている」、などバリエーションは限られている。ミネソタやその近郊の一部の地域では、79%の患者が10点中9〜10点をつけている。高得点に固まっていると、個別の医師の点数と全体の点数を比較する時、少数の不満を持つ患者が重大なインパクトをもつことになる。もし担当患者の数が異なったら、満足度はミスリードされてしまう。患者満足度は普通パーセンテージで表わされるので、サンプルサイズの違いはすぐにはわからないのだ。
 また回答者の数が異なる調査で得られた満足度同士を比較すると同様の問題がおこる。回答者が少なくなればなるほど、満足度は高く、あるいは低くなる傾向がある。データの数が少ないと、非常に良い評価や非常に悪い評価の影響が反映されやすくなるためだ。回答者が多くなるほど、そして患者経験が多岐にわたるほど満足度は平均に近づく、これは質の問題ではなく、統計学的な作用の問題である。
 サンプルサイズは正確性にも影響を与える。調査というのは95%信頼区間と5%の誤差があるものである。もし私達が誰かのコンピテンシーを評価するときは、95%信頼するのが妥当だ。20回に1回間違いがあるのでは、正確に評価されないのではという不安をもたらす。対象患者の数が少なければ少なくなるほど、誤差はたいてい小さく見積もられ、スコアは大きくなる。調査の信頼度を上げるためには、より大きなサンプルサイズが必要だが、その調査の費用はかさみ、典型的には医師一人ひとりの患者満足度を評価するためには実施されない。
 正確な比較を行うためには、サンプルサイズと調査方法は同じでなければならない。あなたがある程度の結果を得るまでいくつかの調査を実施し、積極的にフォローアップすると、ある一つの結果を得ることになる。十分なパーセンテージになるように期待しつつたくさんの調査を実施すると、別の結果を得る。後者はサンプルがランダムでは無くなったり、回答者を選んでしまったりするからだ。

<多様性が大きくなると、満足度調査の信頼性が下がる>
 患者満足度は、医師のパフォーマンスに関係のない幾つかの要因の多様性に影響を受け、そのため評価と比較が難しくなっている。

人:点数を高くつける患者のキャラクターについては今までで研究されてきた。つまり、高齢患者、医療者が女性、医療的結果が良好な時、より重病なとき、より医療コストが掛かった時などにスコアは上がることがわかっている。
 また他の要因は比較するときに影響を与える。たとえば新規開業した医師は、もともと開業している医師とは異なる患者の期待や要求に直面する。時間をかけて医師患者関係が発展してきた医師よりも、difficult patient interactionの経験や、drug-seeking患者の診療が起きやすくなっているかもしれない。
 医師は毎日無数の形で患者と相互に影響しあっている。中には満足度調査の内容に含まれる患者経験を阻害するようなものもあるかもしれない。例えば医師と電話やメールでやり取りした患者は、実際診療所で診察を受けた患者よりも、満足度調査の際対象として除外されやすい。
 さらに、調査は患者とのやり取りの本当の質を実際には測定していないかもしれない。医師が最高の質のケアを提供していなくても、最高の患者満足度を得るかもしれないし逆もまたあり得る。ある研究で、記載型の調査を終えた患者にインタビューをした時、彼らが受けたケアと点数付けの間にときどきかなりの差があることがわかっている。

システム:医師はシステムの中で仕事をしている。そのシステムは患者満足度に影響を与えるうるが、医師のコントロールの及ばないものもある。たとえば患者のアクセスの問題、長い受診間隔、予約をとる困難さなどである。システムに必要なのは、患者にネガティブな影響を与えうる過労、混雑する受診、電子カルテの複雑さ、必要な書類が多すぎることの助けになることである。

解釈:どんなプロセスでも結果の解釈について、私たちは様々な解釈をすることになる。そしてしばしばその解釈は間違っている。たとえば完全にランダムなスコアのカルテや主題のコントロールを超えたタスクの結果についての研究は、観察者はそこにない、歪んだ解釈を探すことがわかっている。その他満足度の弱点として、時間経過の一時点のみを反映していることもある。もし同じ調査を繰り返したら、その結果は予想ができない。

環境:医師が働いているセッティングによって患者のポピュレーションやミッションは大きく異なる。たとえば3次医療センターvsプライマリ・ケアセンター。これらの医師の患者満足度の比較は慎重にしなければならない。

<改善は現実的なのか?>
 患者の満足度の測定は安くない。調査の実施と集計は高価であり、正確な調査を求めるとコストだけがあがっていく。幾つかの組織は外部に委託している。それは結果の独立性が明らかだし、組織の満足度をトップ10に入れ競争的優位にたてるように改善させる戦略を提供してくれるからである。しかし患者満足度の測定と結果に基づくより良いパフォーマンスは実行されているのか?
 最近行われたオタワ足関節ルールの使用に関する会議で、ある医師が「患者の満足度は、レントゲン検査をオーダーすると高くなる」と発言した。金銭的なインセンティブは注意が必要だがすべきである。安定したシステムの中では平均への回帰、つまり最高値、最低値は徐々に平均に引き寄せられる。しかし実際のパフォーマンスは改善しない。
 患者満足度を改善させるもっともよいアプローチは、介入を考案することである。そしてそれを組織に適応し、介入が悪いパフォーマンスにだけでなく、システム全体を改善するかを見ることである。このアプローチは、公式目標と、組織の患者対応の改革案に関わるだろう。監査でなく、改善がプロセスの質の改善のキーなのだ。

<それで何をする?>
 以下を組織に問うことで、医師は患者満足度の潜在的問題を軽減させ、誤ったプロセスがあったとしてもそこから組織が最高のベネフィットを生み出せるだろう。

1.適切なサンプルから得たすべての医師の総合データが、有意義な変革を可能にする。問題を引きおこしているプロセスを同定し、介入し、その介入に効果があるかみていく
2.誤差と分析手法といった統計学的な情報が含まれなければ、満足度は発表しない。(すなはち、個人やグループの点数と全体の平均の違いがいかに重要かということである)
3.正確な満足度を出すためには困難と費用がかかるが、医師個人の満足度をベースにした報酬やペナルティは行ってはいけない。医師は貧弱なデータに基づいて診療をすべきではないし、医師の給料はそれによって決められてはいけない。
4.外れ値である、数は少ないが最低値の患者満足度を精査すること。それだけ低い点数の医師はバーンアウトの危険性があるが、注意すべき特別な環境因子がある可能性がある。
5.質改善と統計学的多様性について学びなさい。大きい組織では、すべての結果の85%が組織のシステムに関係しており、残りの15%が人に関係している。焼き過ぎたトーストの焦げを落とす良い方法を考えるより、トースターを直す方法を学びなさい。

【開催日】
 2016年8月17日(水)

【EBMの学び】不安障害に対するSSRIの効果

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年7月22日
【臨床状況のサマリー】
 26歳女性。2年前から嘔気、予期不安を伴う動悸などの症状があり、美容師の仕事を辞めて都市部から港町の地元に戻ってきたが、現在も無職で実家の漁の手伝いをして暮らしている。前年10月から不安障害として当診療所でフォローされており、12月よりエスシタロプラム(レクサプロ®)10 mgが開始された。しかし、その後も症状の改善は乏しく、X年7月20日の外来受診時に、専門医受診をしてみたいとの相談を受け、紹介した。不安障害に対し、エスシタロプラムを含めたSSRIはよく使用されるが、実際どの程度、不安症状の軽減を期待できるのか知識を持ち合わせていないことに気づいたので、文献検索をしてみた。

 P;不安障害の患者
 I(E);エスシタロプラム投与
 C;プラセボ投与
 O;不安症状が軽減するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
検索したエンジン;Dynamed
見つけた論文;David S. Baldwin, et. al, Escitalopram and paroxetine in the treatment of generalised anxiety disorder. Randomised, placebo-controlled, double-blind study; Br J Psychiatry 2006 Sep;189:264.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;18-65歳の全般性不安障害の患者
 HAM-A≧20(中等度以上の不安症状)、MADRS≦16(抑うつ症状は軽度)
 I(E);エスシタロプラム5mg、10mg、20mg投与
 C;パロキセチン20mg、プラセボ投与
 O;12週の治療でHAM-Aの改善がみられるか
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない)
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (  されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
後藤先生図

【②治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
Mean change from baseline to week 12 in HAMA total score (ITT, LOCF)
後藤先生図②
ESC, escitalopram; ITT, intention-to-treat; LOCF, last observation carried forward; PAR, paroxetine; PBO, placebo

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 本症例は、論文の患者と年齢は合致しており、不安症状はあるが、抑うつ症状は軽度の印象であった点も合致している。ただし、HAM-AやMADRSといった尺度で評価はしていないため、正確に論文の患者と合致しているかは確認できない。さらには、不安障害の診断も家庭医による暫定的な診断である。本症例はエスシタロプラム10mgを7か月間投与されており、論文の介入期間を十分に超えているため、エスシタロプラムの効果判定(不安症状の軽減があったかの判定)は可能であろう。
・内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 →ランダム割付、隠蔽化、盲検化されていることがはっきりと論文内に記載されており、介入群と対照群に大きな差異はない。また、ITT解析されている。内的妥当性は特に問題ないと考える。
 しかし、本論文において、エスシタロプラム10mg投与の有効性は示されたが、着目すべきはプラセボ投与でもHAM-Aが平均して14.20低下している点である(エスシタロプラム10mg投与では16.76低下)。乱暴な見方をすれば、エスシタロプラム10mg投与が寄与するHAM-A低下は、わずか2.56(= 16.76 – 14.20)であり、14.20の低下に寄与したのは、薬物療法以外の要因(治療されているという安心感、単純な時間経過、カウンセリング、森田療法・認知行動療法的なアプローチ、環境の変化など)である可能性が高いのではないだろうか。本論文においては、薬物療法以外の要素に関しては考察されていない。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 すでに治療を行っている。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 有害事象の評価もされている。(不眠、めまいなど)
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 本症例は、患者の求めに応じて専門医に紹介した。仮に家庭医外来で治療を継続する場合、どのようなアプローチを続けるべきであっただろうか。私自身は、この患者を1回しか診たことがなかったが、患者は、薬物治療を続けても変わらない現状に一石を投じたがっていた。「再び社会に出て仕事ができるようになる、新たな出会いを得る」ことを望んでいた。一方で、治療によって「不安症状が全くなくなる」ことを期待していたような印象があった。もし患者が、不安症状が全くなくなってから再び社会参加を、と患者が考えていたのであれば、その時期は永遠に訪れないかもしれない。不安障害に対する薬物療法で不安症状の軽減はできても、なくすことは難しい。また、今回は調べていないが、パニック障害は比較的SSRIによる症状軽減の効果を期待できるが、社会不安障害や強迫性障害などでは期待しにくいようだ。家庭医として患者と共通の理解基盤に立ち、アプローチしていくには、医師-患者間の問題設定、ゴール設定のズレを修正していく必要がありそうだ。薬物療法はあくまで補助的と考え、森田療法的に、不安症状を排除しようと努力するのではなく、あるがままを受け入れて、できることから建設的に社会復帰を進めて行く。そのような認識を患者と共有しつつ、サポートしていくことが肝要と考えた。

【開催日】
2016年8月10日(水)

尿管結石に対する薬物的排石促進療法

-文献名-
Robert Pickard et al. Medical expulsive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial . Lancet. 2015;386:341-349.

-この文献を選んだ背景-
 尿管結石患者を久しぶりに自分で診る機会があった。
 自然排石を期待する際、本疾患は疼痛が強いため効果が期待される薬剤は極力提案したい。ガイドラインでタムスロシン(ハルナール)やニフェジピン(アダラート)の推奨の記載もあるが、3〜4年ほど前に同薬剤は効果がなかったという論文を読んだ記憶があり、再度確認し直そうと思い選んだ。

-要約-
Introduction
以前のランダム化比較試験のメタ分析ではタムスロシン・ニフェジピンは自然排石の効果を報告していた。小規模・単施設であり、さらに低〜中等度の試験の質であった。また試験デザインのバラつきがあり、評価指標も異なっていた。にも関わらずガイドラインでもこれらの薬剤が推奨されていた。このため、質の高い研究が必要とされており、筆者らが検証した。

Method
多施設(英国の24の病院)、ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール、RCT
尿管疝痛を来した18歳〜65歳の、CTで10mm以下の1個の尿管結石を認めた患者。
ランダムにタムスロシン(400μg/日)、ニフェジピン(30mg/日)、およびプラセボに割り当て4週間内服してもらった(排石や処置を要した際にはその時点で中止)。
処置を要さなかった患者の割合で評価。

Result
・2011年1月11日〜2013年12月20日までに1167人が割り付けられ、1136人が分析された(17人:不的確・14人:追跡不能)。Figure 1論文参照
・処置不要であった割合はプラセボ群(379人)の80%に対しタムスロシン群(387人)は81%であった。
 プラセボ群との調整リスク差は1.3%(95%信頼区間-5.7から8.3、P=0.73)だった。
 ニフェジピン群(379人)も80%で、プラセボ群との調整リスク差は0.5%(95%信頼区間-5.6から6.5,P=0.88)であった。
 タムスロシン群とニフェジピン群を合わせてプラセボ群と比較したが、差は有意では無かった(P=0.78)。タムスロシン群とニフェジピン群の
 比較においても、有意差は見られなかった(P=0.77)Table 2
・性差、結石のサイズ、結石の位置によるサブグループ解析も行われたが同様の結果であった。Figure 2
・副次評価項目(鎮痛薬使用日数、排石までの期間)にも有意差なし。Table 3
・重大な副作用ニフェジピン群で「一例は右腰部痛・下痢・嘔吐、一例は不快感・頭痛・胸痛、一例は重度の胸痛・呼吸困難・左腕痛」の
 3例が報告された。またプラセボ群で「頭痛・めまい・ふらつき・慢性腹痛」の一例が報告された。

貴島先生図①

貴島先生図②

貴島先生図③

discussion

今回の結果ではタムスロシンとニフェジピンは排石に対し有効性を示せなかった。
他の試験では石のサイズの下限(3〜5mm)を設定されており、これらの患者群では、薬物的排石促進療法の恩恵を受ける可能性が高い事が考えられる。

-考察とディスカッション-
・ニフェジピンは有効性と副作用の観点から処方しないでよいのでは。
・他の論文では5mm以上の結石に対しタムスロシンの効果を報告しているものもある。今回の副作用との兼ね合いから処方検討してもよいのでは。
 (処方するにしての、そもそも日本ではタムスロシン200μg/日の用量で男性に)
・保存的治療が対応となる尿管結石の患者に対してタムスロシンやニフェジピンを処方していましたか?タムスロシンを処方しているなら
 その対象患者や用量はどうしていますか?
・この結果を受けて、あなたの処方に変化がありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)

プライマリ・ケアにおける適正なパネルサイズは,チームへの権限委譲のあり方によってどう変化するか?

-文献名-
Altschuler J, Margolius D, Bodenheimer T, Grumbach K. Estimating a reasonable patient panel size for primary care physicians with team-based task delegation. Ann Fam Med. 2012 Sep-Oct;10(5):396-400.

-この文献を選んだ背景-
 プライマリ・ケア医は周辺の地域住民をケアの対象とするが、外来患者数が多いと診療の質が落ちることも懸念され、どの程度の患者数が適正なキャパシティなのかを把握しておく必要がある。また、外来患者数が多い場合は、どういった形なら診療の質を落とすことなく対応可能なのかについての知見が必要である。この度、以上の内容に一つの見解を示すような研究を発見したので、紹介する。

-要約-
目的:
 プライマリ・ケア医が少ない地域では、過剰なパネルサイズの患者に対応しなければならない。この研究では、プライマリ・ケア医が擁する医師以外のスタッフへの業務委譲の仕方に応じて、適切なパネルサイズがどのように変化するかを推定する。
方法:
 プライマリ・ケア医が2,500人のパネルサイズの集団に対して予防、慢性のケア、急性のケアを提供した場合に要する時間に関する先行研究を用い、これらのケアの一部を非医師のスタッフに業務委譲した場合に適切なパネルサイズがどのように変化するのかをモデル化した。
結果:
 業務委譲の程度に関して3つの仮定(予防/慢性ケア:77%/47%、60%/30%、50%/25%)を用いたところ、プライマリ・ケアチームが適切にケアできるパネルサイズはそれぞれ1,947人、1,523人、1,387人と推定された。
結論:
 非医師に予防と慢性ケアの一部を委譲することができれば、プライマリ・ケアにおいて推奨される予防と慢性ケアを、業務遂行力に応じた適切なパネルサイズに提供することができる。

【要旨】
(導入)
●先行研究によると、2,500人のパネルサイズに対して必要な予防、急性ケア、慢性ケアを提供しようとした場合、一人のプライマリ・ケア医は1日に
 21.7時間業務しなければならない。アメリカの平均的なパネルサイズは2,300人である。55%の患者しか、適切な予防、急性ケア、慢性ケアを
 受けていない。
●パネルサイズを小さくすれば適切なケアが提供できるようになるが、その方針でうまくやれるほどアメリカには十分なプライマリ・ケア医がいない。
●非医師やICTを活用したチームモデルを適用すれば、医師の業務量を押さえたまま、推奨されるケアを、適切なパネルサイズに提供することが
 できるようになる。
(方法)
予防・急性ケア・慢性ケアに要する時間の推定
●Duke大学の研究によると、USPSTFのGrade AとBの予防を2,500人のパネルサイズに提供しようとすると、年間1,773時間必要となる。
●同様のパネルサイズに、10のコモンな慢性疾患への対応、かつ5つの疾患には適切なコントロールがなされている状態を達成しようとすると、
 2,484時間必要となる。
●同じく急性期ケアには888時間必要となる。
委譲可能な時間の推定
●予防に関するルーチンのカウンセリングの全てと、予防接種、化学的予防の説明以外の部分を非医師に委譲すると、プライマリ・ケア医師が予防に
 費やす時間の77%を節約できる。
●10のコモンな慢性疾患のうち、1/3はコントロール良好、2/3はコントロール不良とすると、委譲によりプライマリ・ケア医が慢性ケアに費やす時間は
 前者で75%、後者で33%節約でき、計47%の時間を節約できる。
●この予防77%/慢性ケア47%の委譲をモデル1とする。これが最大限の委譲と仮定して、より穏やかなモデル2(予防60%/慢性ケア30%)、
 モデル3(予防50%/慢性ケア25%)も作成した。
パネルサイズの計算
●AAFP(American Academy of Family Physicians)の推定によると、家庭医は年間2,025時間働いている。これを患者一人当たりに予防・慢性ケア・
 急性ケアを提供するために、年間必要になる時間数の合計で割り、適切に診療できるパネルサイズを計算した。また、それぞれのモデルによる
 パネルサイズの変化を調べた。
(結果)
●プライマリ・ケア医が年間2,025時間時間働くとすると、委譲なしで適切な予防・慢性ケア・急性ケアを提供できるパネルサイズは983人となった。
 同様に、モデル1は1,947人、モデル2は1,523人、モデル3は1,387人となった。
加藤先生図

(議論)
●この推定は、なぜプライマリ・ケア医が日々の診療に圧倒される感覚を抱くのか、なぜ慢性ケアの治療指標を達成できない患者が多いのかを説明する
 材料と考えられる。今回のパネルサイズは、他の実際の報告の内容とも合致している。
●限界について。慢性ケアについては10の慢性ケアに要する時間しか検討しておらず、委譲で節約できる時間もタイムスタディに基づくものではない。
 非医師の訓練時間を組み込んでいない。また、プライマリ・ケアの診療は多様性に富むので、一人に要する時間は様々であることが反映されて
 いない。
●医師、ケアチーム、患者の3つの関係性の変化が、プライマリ・ケアの現場で起きている大きなパラダイムシフトである。
●プライマリ・ケア医が少なく、過剰なパネルサイズへの対応を求められる現場では、医師のみによるケアからチームによるケアへの移行が
 求められる。

-考察とディスカッション-
この研究の結果を日本の環境に合わせると、月に1回ケアすべき対象がクリニックを受診するという仮定を置き、稼働日数を21日/月とした場合、従来のケアモデルでは50人/日、モデル1では90人/日、モデル2では75人/日、モデル3では65人/日が、適切なパネルサイズということになる。

ディスカッション)
 1.この数字は皆さんの診療の感覚と一致していますか?
 2.この数以上の診療をしているサイトでは、どの程度の委譲を実践していますか?委譲するにあたって、どのようなルールづくり、訓練などを
  行っていますか?
 3.この数以下の診療をしているが手一杯のサイトでは、手一杯になっている原因はどこにありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)

継続性の定義など文献レビュー

-文献名-
①John W. Saultz.Defining and measuring interpersonal continuity of care.Ann Fam Med. 2003 Sep-Oct;1(3):134-43.
②John W. Saultz.Interpersonal Continuity of Care and Patient Satisfaction: A Critical Review.Ann Fam Med. 2004 Sep; 2(5): 445–451.
③John W. Saultz.Interpersonal continuity of care and care outcomes: a critical review.Ann Fam Med. 2005 Mar-Apr;3(2):159-66.

-要約-
①interparsnal continuityの定義と測定方法
【背景】
 患者医師間の継続性の重要性を考えるために、対人関係性の継続性を定義するため、またどの程度測定され研究されているのかを確認するために対人関係における継続性に対する文献をレビューした。
【方法】
 1966年から2002年4月までのMEDLINEを検索した。タイトルとabstractを患者医師間の対人関係性の継続性を論じた文献か、もしくは継続性の定義に焦点を当てている文献かスクリーニングした。システマチックレビューを行い、研究手法、測定技術、研究テーマを分析した。
【結果】
 総合診療に貢献するであろう継続性に関する原著論文を379個見出した。うち152個が継続性の定義、もしくは医師患者関係における対人関係の継続性の概念と直接関係していた。継続性の定義に関係した文献はほとんどなかったが、3つの階層構造が最もよく定義されていた。その3つは情報、縦断的、対人関係における継続性であった。対人関係性の継続性はプライマリケアにとっては特に関心が高いところである。21の測定技術が継続性を研究するために定義されていた。それらの多くは対人関係の継続性を扱うというよりは受診パターン、受診密度に関するものであった。
【まとめ】
 家庭医療分野において継続的なケアにおける対人関係性を理解していくことにより一層焦点を当てていくべきである。

②患者満足度への影響
【背景】
 対人関係における継続性と患者満足度の間における関係性についての医学論文をレビューし、将来の本トピックに関する研究手法を考えたい。
【方法】
 対人関係における継続性に焦点を当てた文献を1966年~2002年4月までの期間でMEDLINEを用いて検索した。得られた文献を対人関係における継続性と患者満足度の関係性について論じている文献を選んだ。そして研究手法、測定方法、エビデンスの質に関してシステマチックレビュー、分析を行った。
【結果】
 30個の文献を抽出した。うち22個が原著論文であった。うち19個の中で、4つが臨床研究で対人関係における継続性が存在していると患者満足度が優位に高いとの結果であった。
【まとめ】
 利用可能な文献は方法論的な問題はあるものの、対人関係における継続性と患者満足度の間に一貫して有意な正の相関を認めた。どの患者に対しても、もしくはプライマリケアにおいて医師とのより良い関係を求めている患者に対しても同様のことが言えるかを今後の研究で明らかにしたい。

②ケアのアウトカム、コストへの影響
【背景】
 対人関係における継続性とヘルスケアのアウトカム、コストの間における関係性についての医学論文に対して批判的レビューを行った。
【方法】
 対人関係における継続性とヘルスケアのアウトカムに焦点を当てた文献を1966年~2002年4月までの期間で英語論文を対象にMEDLINEを用いて検索した。得られた文献を対人関係における継続性とアウトカムの関連について論じている文献を選んだ。そして異なる2名の研究者によって研究手法、測定方法、エビデンスの質に関してシステマチックレビュー、分析を行った。(本来はメタアナリシスを行う予定であったが、研究手法やアウトカムやコストの設定が異なるため実施できなかった。)
【結果】
 対人関係における継続性とアウトカムの関係性について40個の研究の結果を報告した41個の文献が得られた。それらの中では81個のアウトカム指標が報告されていた。51個のアウトカム(予防医療、入院率、医師患者関係、慢性疾患管理、妊娠ケア)で有意な改善を示しており、2つのみ(扁桃摘出、ホルモン置換療法)が優位に悪い結果であった。対人関係における継続性とコストの関係性については20個の研究結果を報告した22個の文献が得られた。41個の変動コストのうち35個が著明にコスト削減と関連しており、2つ(処方数増加、専門医紹介の増加)がコスト高、4つが差なしであった。
【まとめ】
 利用可能な文献は方法論的な問題はあるものの、対人関係における継続性と予防医療の改善、入院を減らすことと著明に関係しているだろう。今後より特異的で測定可能なアウトカムとより直接的なコストを特定すべきであり、対人関係における継続性をより明確に定義し測定できるよう探求すべきである。

【開催日】
 2016年7月20日(水)