成人における短期間の経口ステロイドと有害性

-文献名-
Short term use of oral corticosteroids and related harms among adults in the United States: population based cohort study.Akbar K Waljee.et al.BMJ 2017;357:j1415

-要約-
【目的】
短期間の経口ステロイドと有害事象(敗血症、、静脈血栓症、骨折)との関連性をみること。
【デザイン】
後ろ向きコホート研究と自己対照ケースシリーズ
(参考…自己対照ケースシリーズとは:case自身に対照となる期間を設定して比較する手法)
【セッティング】
全米の民間医療保険データセット
【対象】
2012から2014年の期間、18~64歳の成人を継続して登録した。
【主要アウトカム】
30日以下の経口ステロイドの短期間使用率。ステロイド使用者と非使用者の有害事象の発生率。30日以下と31~90日の有害事象発生率比。
【結果】3年間で成人1,548,945人のうち、327,452人(21.1%)が少なくとも1回は短期間経口ステロイドを外来で処方されていた。高齢患者、女性、白人の間で使用頻度が高かった(全てP<0.001)。最も使用頻度が高かった一般的な適応症は、上気道炎、脊髄の問題、アレルギーであった。処方医は様々な診療科の専門医であった。30日以内では敗血症の発生率増加(incidence rate ratio 5.30, 95% confidence interval 3.80 to 7.41)、静脈血栓塞栓症の増加 (3.33, 2.78 to 3.99)、骨折の発生率増加(1.87, 1.69 to 2.07)となっており、引き続き31~90日となっていくに従い低減した。このリスクの増加は20 mg/day でも同様であった。 (敗血症incidence rate ratio 4.02、静脈血栓塞栓症 3.61、骨折 1.83 for fracture; 全て P<0.001)

absolute risk
敗血症 ステロイド使用者0.05% (n=170 of 327 452)
        非使用者0.02% (n=293 of 1 221 493)
        ⇒NNH3330人
静脈血栓塞栓症  使用者0.14% (n=472 of 327 452)
        非使用者0.09% (n=1054 of 1 221 493)
        ⇒NNH2000人
骨折       使用者0.51% (n=1657 of 327 452)
        非使用者0.39% (n=4735 of 1 221 493)
        ⇒NNH830人

【まとめ】
米国成人5人に1人が3年間で短期間の経口ステロイド処方を受けており、有害事象のリスク増加と関連していた。
中川1(20171004)

中川2(20171004)

【開催日】
平成29年10月4日(水)

1世代のうちに格差をなくそう:健康の社会的決定要因に対する取り組みを通じた健康の公平性

―文献名―
Commission on Social Determinants of Health. Closing the gap in a generation: health equity through action on the social determinants of health. Geneva: World Health Organization, 2008.

―要約―
委員会は、一世代のうちに健康格差をなくすことを求める
社会正義は生と死に関わることである。それは人々の生き方や、それに伴って生じる病に かかる可能性や、早世の危険に影響するものである。私たちは、一方では世界の特定の地域で平均余命と健康状態が改善し続ける様子に感嘆し、他方では、別の地域でそうした改 善が見られないことに懸念を抱く。今日生まれた女の子がある国では 80 歳以上まで生きる と期待できるのに、別の国では45歳まで生きられないと予測される。同じ国の中であっても、社会的不遇の程度と密接に関係した劇的な健康格差が存在する。同じ国内であれ、異 なる国の間であれ、このような格差は決して起こるべきではない。
これらの健康の不公平、つまり避けることが可能な健康の格差は、人々が成長し、生活し、 労働し、老いていく環境と、既存の保健医療システムが原因となって生じる。人々が生まれ、死にゆく環境条件を形成するのは、政治的、社会的、経済的な諸力である。政治政策および経済政策は、子どもが成長して潜在能力を全開させ、生き生きした生活を送ることができるか、それとも荒廃した生活を送ることになってしまうかを左右する。豊かな国でも貧しい国でも、解決すべき健康問題の本質は収束する傾向にある。ある社会の発展の水準は、その社会の貧富の程度にかかわらず、そこに暮らす人々の健康状態や、健康がいかに公平に社会階層の別なく保障されているか、そして健康障害による不遇から人々が保護されているかによって判定できる。「健康の社会的決定要因に関する委員会」は、2005年WHOにより、社会正義の精神にもとづいて、健康の公平性を促進するために必要な証拠(エビデンス)を揃え、健康の公平性の達成に向けた世界的な運動を前進させるために設置された。
本委員会は、WHOおよびすべての政府に対して、健康の公平性を達成するために、健康の社会的決定要因に関して国際的な取り組みを先導することを求める。いまこそ各国政府や市民社会、WHO、そしてそのほかの国際機関が、世界の人々の生活を改善するために連帯して行動を起こすことが不可欠である。一世代で健康の公平性を達成することは、可能であり、正義であり、いまこそそれをなすべき時である。

<委員会の主要な勧告>
1. 日常生活状況を改善する
・初め(幼年期)から公平性を保証する
健康な場所でこそ人々は健康になる
・公正な雇用と適切な労働
・ライフコースを通じた社会保障
国民皆健康保険
2. 権力、資金、リソースのし不公平な分配に対処する
・全ての政策、システム、事業において健康の公平性を考慮する
・公正な資金供給
・市場の責任
・ジェンダーの公平
政治的エンパワメント〜包摂(Inclusion様々な集団を含む)と発言権
・良好なグローバル・ガバナンス
3. 問題を測定して理解し、対策の影響を評価する
・健康の社会的決定要因:モニタリング、研究、そして訓練

<実践者>
・多国間機関
・WHO
・国と地方自治体
市民社会:政策、計画、事業及び評価への参加
:業績の監視
・民間部門
・研究機関

【開催日】
2017年10月4日(水)

共同研究の成功を導くために

―文献名―
Moira Stewart et al. Success in leading collaborative research. Canadian Family Physician. Vol 61 : JUNE 2015

―要約―
 今日のカナダでは、プライマリケアの研究の機会は広がっている。それはその研究チームの規模が拡大し複雑になってもいるからである。そしてその多くの研究が共同研究である。
 今回は共同研究をよりよく導くために、「コラボレーション(D’Amour,2008)」のフレームワークを用いて、4つの概念を紹介したい。

1. 目標とビジョンの共有
 これが最も基盤となるコンポーネントである。研究の早期に顔を合わせての会議が重要である。
 そして研究計画と指示系統の構造を協議しそれに合意することも基本となる。チームはその目標とビジョンについて共通の理解基盤に立つべきであり、同時に詳細な部分は多様な視点・見方があることも重要である。
 もし不同意が生じれば、より高次の目標について協議し同意を得るべきである。

2. チームの強化
 “internalization(内面化)”と呼ばれているプロセスである。
 メンバー間での個人的な専門的なやり取りが顔合わせの会議で行われること、そして個人的な趣味や活動や家族についてなどの情報を交流すること、同時に個人的な資質と同様に持っている専門職や専門的なスキルについて議論できると良い。またチームメンバー内での快適さやエネルギー、そして信頼を引き起こす個人的・専門的な情報を共有したい。

3. リーダーシップ
 組織変革が成功するとき、そこには強力なリーダーシップが存在している。
 リサーチチームの場合でも、リーダーは組織構造を開発し、チームやワーキンググループでの研究メンバーの役割が選択されることを可能にしたい。リーダーはメンバーにその役割や関係性をアナウンスすることに責任がある。
 はっきりとした中央からの指示と自然と育ち発生するリーダシップの間で、すべてのメンバー間の創造的な緊張が生まれる。学習する組織を生み出すこともリーダーシップのプロセスで重要となる。研究は常にイノベーティブであり、チームの創造性が求められる。リーダーはメンバー間で学び合いが可能となる環境を整えることが大切である。
 リーダーは繋がりを様々に作るべきである。それは定期的な会議もそうだし、明確な期待や正式な議題を設定することも必要となる。リーダーが作る繋がりは、リーダー自身を安心させ快適にさせてくれる。

4. コミュニケーションの構造
 チームははっきりとした同意を得た組織ガバナンスを持つべきである。また一定したポリシーを必要とし、特に衝突の解決や、オーサーシップ、コミュニケーションのプラットフォームなどを構築したい。
 Webベースのコミュニケーションプラットフォームは研究プログラムの情報や文章類、論文のドラフトなどを蓄える機能がある。またチーム内だけではなく、チームの外に向かってのWebやニュースレターも含まれる。

【開催日】
 2017年9月6日(水)

高齢者の大腿骨頸部骨折:手術すべきか?

―文献名―
van de Ree CLP, et al. Hip Fractures in Elderly People: Surgery or No Surgery? A Systematic Review and Meta-Analysis. Geriatr Orthop Surg Rehabil. 2017 Sep;8(3):173-180.

―要約―
【Introduction】
 大腿骨頸部骨折の患者数は増加しており、同時に高度の合併症も有している。大多数は手術にて治療されるが、周術期死亡のリスクが容認できないほど高く手術が不適切な患者さんの割合も著しく増加している。脆弱でハイリスクな高齢者については、どのような治療が可能か評価するために、治療オプションを考える前に患者さんの骨折前にQOLや将来的な予測について検討すべき。
 ・既知の事実:手術実施は早期のほうがoutcomeがよいと示されている
 ・未知の内容:手術の有無によるoutcome。倫理的な理由でRCTは乏しい。2008年のcochrane systematic reviewでは手術の有無を
        比較しているが、保存的療法(ベッド上安静+牽引)よりも手術療法のほうがよいというには証拠不十分と報告している

【Objective】
 レビューの目的は、65歳以上の大腿骨頸部骨折患者において、手術の有無による死亡率・health-related QOL・機能的outcome・費用の相違を概観すること。

【Method】
 EMBASE, OvidSP, PubMed, Cochrane Central, and Web of Scienceを検索し、手術の有無を比較した観察研究とRCTを選択。研究手法の質はthe Methodological Index for Nonrandomized Studies (MINORS) または Furlan checklistで評価した。

【Results】
 計1189名の患者がエントリーされた7つの観察研究のうち、242名(20.3%)が保存的に治療された。研究手法の質は中等度(mean: 14.7, standard deviation [SD]: 1.5)であり、30日後と1年後の死亡率は保存的療法の群が高かった(odds ratio [OR]: 3.95, 95% confidence interval [CI]: 1.43-10.96; OR: 3.84, 95% CI: 1.57-9.41)。QOLや機能的outcomeや費用面で比較した研究は存在しなかった。

【Conclusion】
 このsystematic reviewとmeta-analysisでは、少数の患者を手術の有無で比較した少数の研究のみで実施した。30日後と1年後の死亡率の有意な高さが明らかとなった。QOLや費用面でのデータは見いだせなかった。高度な合併症や限られた予後の高齢者に関して有効な判断を行いと保存的療法を開始するためには、さらなる探索が必要である。
 <限界>
  ①潜在的な交絡因子(依存症・性別・年齢・精神状態・脆弱度・介入のタイプ)を調整出来ていない
  ②骨折の安定性を識別できていない
  ③この研究はすべての患者に手術可能でない国には一般化が出来ない

<Flow diagram; selection of articles>
安藤先生図1

<Thirty-day mortality>
安藤先生図2

<One-year mortality>
安藤先生図3

【開催日】
 2017年9月6日(水)

坐骨神経痛に対するプレガバリンの効果

―文献名―
Mathieson S, et al. Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica. N Engl J Med. 2017 Mar 23;376(12):1111-1120.

―要約―
【背景】
 坐骨神経痛は日常生活に障害をもたらす可能性があり、薬物治療に関するエビデンスは限られている。プレガバリンは一部の神経障害性疼痛に有効である。この試験ではプレガバリンによって坐骨神経痛の強度が低下するかどうかを検討した。

【方法】
 坐骨神経痛患者を対象に、プレガバリンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行った。患者を最長8週間、プレガバリンを投与する群と、マッチさせたプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。開始用量は150mg/日とし,最大600 mg/日まで調整した。主要評価項目は、8週の時点で10ポイントスケールで評価した下肢痛強度スコア(0は痛みなし、10は想像しうる最大の痛みを示す)とし、主要評価項目の第2の時点とした52週の時点でも評価した。副次的評価項目は1年の試験期間中に事前に設定した時点で評価した障害の程度、腰痛の強度、QOL指標とした。

【結果】
 209例を無作為化し、108例をプレガバリン群に、101例をプラセボ群に割り付けた。無作為化後、プレガバリン群の2例が不適格と判定され、解析から除外された。8週の時点で、未補正下肢痛強度スコアの平均は、プレガバリン群3.7、プラセボ群3.1であった(補正後の差の平均0.5、95%CI-0.2-1.2、P=0.19)。52 週の時点で、未補正下肢痛強度スコアの平均は、プレガバリン群3.4、プラセボ群3.0 であった(補正後の差の平均0.3、95%CI-0.5-1.0、P=0.46)。8週、52週の両時点で、いずれの副次的評価項目にも群間で有意差は認められなかった。有害事象はプレガバリン群で 227件、プラセボ群で124件報告された。プレガバリン群ではめまいの頻度がプラセボ群より高かった。

今江先生図1

今江先生図2

【結論】
 8週間のプレガバリン投与は、プラセボと比較して、坐骨神経痛に関連する下肢痛の強度を有意には低下させず、その他の評価項目にも有意な改善はみられなかった。有害事象の発現率はプレガバリン群のほうがプラセボ群より有意に高かった。
(オーストラリア国立保健医療研究審議会から研究助成を受けた。)

【開催日】
 2017年8月23日(水)

小児の急性中耳炎に対する抗生剤は1〜2回/日で良いのか?

―文献名―
Thanaviratananich, S., Laopaiboon, M., & Vatanasapt, P. Once or twice daily versus three times daily amoxicillin with or without clavulanate for the treatment of acute otitis media. The Cochrane Library.2013.

―要約―
【Introduction】
 急性中耳炎は小児の良くある問題である。CVAの有無に関わらずAMPCは頻繁に選択される治療として処方される。従来の推奨は1日に3回あるいは4回である。しかしながら、今日1日に1回あるいは2回投与がなされている。
 もし、1日1回あるいは2回投与が3回あるいは4回投与と同等の効果であれば、便利でコンプライアンスを向上するかもしれない。

【Method】
 5つのランダム化比較試験のメタ分析。

 ●参加者:12歳以下の急性中耳炎患者。急性中耳炎は急性の耳痛と、鼓膜穿刺あるいはティンパノグラムのB型C型で診断されたもの。
     (B型は中耳のfluidを示唆し、C型は中耳内の圧力が大気圧より低い事を示唆している)
 ●介入のタイプ:CVAの有無に関わらずAMPC1〜2回/日と3〜4回/日と比較する。
 ●Primary outcomes:データがある場合、耳痛の改善・解熱・細菌学的治癒による、抗生剤終了(7〜15日目)の臨床的治療率。
 ●Secondary outcomes:耳痛の改善と解熱による臨床的治癒率。再発性中耳炎のないAOM治療後患者のみにおいて評価された、
            治癒後(1〜3ヶ月後)、ティンパノメトリーによる中耳浸出液の改善。AOMの合併症(再発、乳様突起炎)。
            投薬への有害事象。

 2人の著者は独立してそれぞれの試験から治療アウトカムに関するデータを抽出し、選択バイアス、施行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアス、及びその他のバイアスについて評価した。
 バイアスの低リスク・高リスク・不確実なリスクとして、質の格付けを定義した。その結果を95%信頼区間のRRとしてまとめた。

【Main Results】
 1601人の小児を含む5つの研究が含まれた。

 治療終了時(RR1.03,95%信頼区間 0.99〜1.07) Fig.3

貴島先生図1
  Figure 3. Forest plot of comparison: Clinical cure rate at the end of therapy.

 治療中   (RR 1.06, 95%信頼区間 0.85 to 1.33) Fig.4

貴島先生図2
  Figure 4. Forest plot of comparison: Clinical cure rate during therapy.

 フォローアップ期間 (1〜3ヶ月)(RR 1.02, 95%信頼区間 0.95 to 1.09) Fig.5

貴島先生図3
  Figure 5. Forest plot of comparison: Clinical cure at post-treatment (one to three months).

 再発性中耳炎(RR 1.21, 95%信頼区間 0.52 to 2.81)Fig.6

貴島先生図4
  Figure 6. Forest plot of comparison: AOM complications: Recurrent AOM after completion of therapy.

 AMPCのみ、またはAMPC/CVAでサブグループ解析を別々に行った結果、すべての重要なアウトカムにおいて1日1〜2回と1日3回の群で差がなかった。
 また、内服遵守率(RR 1.04, 95%信頼区間 0.98 to 1.10)、下痢や皮膚障害などの全有害事象 (RR 0.92, 95%信頼区間 0.52 to 1.63)と有意差はなかった。(経口抗生物質の1日1回または2回の投与は、1日3回の投与より高い遵守率を有する報告がある(Kardas 2007; Pechere 2007))

【著者らの結論】
 本レビューでは、CVAの有無に関わらずAMPCの1日1回or2回の用量を使用した結果は、AOMの治療で3回投与の結果に匹敵する事が示された。これらの結果は、両方の投薬が同じ有効性を有すること、または複雑でないAOMが自然治癒できることを示し得る。

【開催日】
 2017年8月23日(水)

自閉症スペクトラム障害 プライマリ・ケアでの原則

―文献名―
Kristian E. Sanchack, Craig A. Thomas. Autism Spectrum Disorder: Primary Care Principles. AFP, December 15, 2016

―要約―
【概要】
 自閉症スペクトラム障害(ASD)は、コミュニケーションの難しさと、反復行動、興味、活動で特徴づけられる障害である。早期の介入により、認知能力、言語、適応能力を改善させられるというエビデンスが増えており、そのため早期の診断が重要となっている。専門家は、18ヶ月および24ヶ月の幼児の訪問時にスクリーニングツールの使用を推奨している。薬物療法は、不適応行動や精神状態の問題に対して補助的に使用されるが、ASDで単一の有効な薬はない。予後は診断の重症度と知的障害の有無に大きく影響される。より早期に、より集中的な行動介入を受け、薬物治療は少ない子供が最も良い転機をたどる。

【疫学】
 ASDの遺伝的影響は約50%。
 環境因子の影響も受ける。出生前の母体の年齢や代謝性疾患(糖尿病、高血圧、肥満など)、バルプロ酸、母体感染、大気汚染、農薬暴露、低出生体重児、早産。

【臨床症状】
 ASDの診断上の特徴には、社会的コミュニケーションの欠損と限られた反復パターン(行動、関心、活動)が認められる。ASDの診断基準と重症度レベルはTable 1,2参照。いくつかの徴候・症状は月齢6~12ヶ月で出現している。多くのケースでは、信頼性のある診断は24ヶ月で可能となる。
 共同注意(興味を共有するために自分の注意を調整する能力) 月齢12~14ヶ月までに始まる。15ヶ月までに共同注意を示さない場合はASDの評価をするべき。子供が名前を呼ばれても反応しないので、「難聴じゃないか」と心配して来院することがある。
 言語の遅れ 18~24ヶ月で、指さしや身振りのない言語遅延は、ASDと表現のある言語遅延の鑑別に役立つ。
 限られた関心領域、反復的な行動 ASDの診断上必須の症状。小さい頃には目立たないこともある。ルーチンの行動パターンを変えるのは大変。常同運動(手を振る、つま先立ち歩行、目の近くで指をはじくなど)が見られることも。

【スクリーニング】
 スクリーニングツールは、精査が必要な子供を特定するのに役立つ。長期的なアウトカムに基づいた3歳以下の小児におけるASDスクリーニングの有効性を評価するRCTはない。定期的な発達スクリーニングは、9ヶ月、18ヶ月、24ヶ月または30ヶ月児で提案される。
 幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers;M-CHAT)は、最も広く使用されているスクリーニングツールだが、単独で使用した場合は偽陽性率が高い。ツールの作者は、その後にフォローアップ改訂版幼児自閉症修正チェックリスト(Modified Checklist for Autism in Toddlers-Revised, with Follow-Up;M-CHAT-R/F)を公開した。無料ダウンロード可能(http://mchatscreen.com/wp-content/uploads/2015/09/M-CHAT-R_F.pdf

【紹介と診断】
 ASDの評価には、包括的なアセスメントが含まれていることが望ましい。ASDを確実に診断し、ASDを模倣する状態を除外し、併存疾患を特定し、子供のレベルを決定することを目指す。
 学際的なチームへの紹介が良いが、該当するチームがない場合は専門知識をもつ個々の専門医(児童心理学者、発達小児科医)が良い。
 診断はDSM-5のASDの診断基準に基づく。

【治療】
●行動療法
 早期集中的行動介入:就学前~低学年児童 望ましい行動を強化し、スキルの一般化を促し、望ましくない行動を減らすことによって、新しいスキルを教えることを目指す。
 ・認知行動療法
 ・Targeted play
 ・ソーシャルスキルトレーニング
 ・ペイシャントトレーニング

●薬物療法
 ASD自体に効果のある薬物はない。不安障害、ADHD、睡眠障害などの治療に。頭痛、副鼻腔炎、胃腸障害はASDに似た症状が出たり、ASDの行動症状を悪化させることもある。

【開催日】
 2017年8月16日(水)

うつ、不安、行動医学的問題に対応する家庭医に役立つ6つの5-minuteツール

―文献名―
MICHELLE D. SHERMAN, et al. MANAGING BEHAVIORAL HEALTH ISSUES IN PRIMARY CARE: 6 FIVE-MINUTE TOOLS. FAMILY PRACTICE MANAGEMENT. 2017; 24(2): 30-35.

―要約―
※タイトルのBehavioral healthの意味については下記リンク参照
http://www.yuzuwords.com/2013/09/05/behavioral-health/

 家庭医の診る予約患者の3/4は精神的・行動医学的問題を抱えている。そして彼らの多くは精神科専門医ではなくプライマリ・ケア医に助けを求める。患者の精神状態を良好に保つことは、USのTop15の死因となる病気を予防し診断し治療することに寄与する。薬物治療が行われることが多いが、重症うつの場合を除いて効果はcontroversyであり、患者側も薬を望まないことがある。心理士のような人と協同することが増えているが、家庭医も対応のためのツールを知っておくべきである。これらのつーるによって患者が抱える苦悩やストレス源がすぐになくなるわけではないが、何かしらのよい影響はある。6つのうち、患者にあったものを選んで行うと良い。

松島先生図1

1. 患者が社会的サポートに頼れるよう勇気づける
 まずはsocial supportにつなげることが大事。「これまでの人生で、◯○(今回困っていること)について対応するのを助けてくれた人は誰かいましたか?」と聞いてみる。social supportには、家族、友人、サポートグループ、宗教グループ、12-step program(依存症治療のための自助グループなど)が含まれる。極度に孤立した人では効果的ではないかもしれないが、ネットワークを広げようとする気持ちがあるようなら、診察中に一緒にOn-lineで検索し、ボランティアの機会やソーシャルグループ、なんとか教室、faith-based resourcesなどにつなげると良い。

2. 診察の機会を増やす
 心理士につながらないような人では、家庭医が頻繁に会うことがサポートになる。しばしば家庭医は自分のできることは少ないと思いがちだが、もしかしたら患者にとっては苦難を共有したり、支持的に傾聴をしたりしてくれる唯一の存在かもしれない。頻回に会うことで、信頼や尊敬、安心感がdoctor-patient relationshipの中で強まり、将来的により強い介入(薬剤や紹介など)を受け入れやすくなるかもしれない。

3. 患者が感謝の気持ちに焦点を当てるよう支持する
 大小に限らず、人生のポジティブなイベントに焦点を当てることは、容易でとても有効な手段である。ある専門科は、「感謝の日記」をつけることを推奨している。週に1回でもいいと言っている人もいる。頻度に関わらず、感謝の気持ちを書いたり記録したりすることは、一種の説明責任となったり振り返りの機会を作ることになることから有用であると考えられる。小さなことでもポジティブな出来事(知らない人からの笑顔、子どもの笑い声、美味しいご飯など)から振り返りを始めるとよい。その記録を定期的に受け取ることで、患者の価値観やゴールがわかる。それをもとに動機づけ面接を使って次の行動変容につなげることができる。

4. 呼吸法やマインドフルネスを教える
 4秒呼吸法:4秒吸って、4秒止めて、4秒吐いて、4秒止める。寝室で行うと不眠症にも効果的。
マインドフルネス・祈り・瞑想:「目を閉じて。4回大きく息を吸いましょう。自分の呼吸に耳を傾けてください。穏やかで安心できる場所にいると想像して下さい。どんな気持ちでしょうか」
 1回きりではなく、続けられているかフォローもしましょう。

5. 運動を処方する
 定期的な運動の利益は多くの報告がある。難しさを感じる患者に対しては、オープンに彼らの懸念を聞き、現実的で適切で到達可能な運動目標をたてる。例えば、ジムの会員費は高いのでウォーキングや自転車、家での静止運動、ヨガのDVDといった代替案を出す。処方として記載することで重みが増す。これも外来のたびに確認する。できたことを賞賛し新たな壁を取り払う。

6. ルーチン化やスケジューリングで、行動を促す
 うつ病ではしばしば、抑うつ→無気力→好ましい行動や人々からの回避→社会的孤立→抑うつといった悪循環(下図)に入ることがある。行動療法は回避や孤立を減らすアプローチである。医師はこのサイクルを患者に説明し、たとえ気が乗らなくても何らかの活動に参加することを推奨する。行動を起こす前と後の気分を記録しておき、あとで見直すのもよい。

松島先生図2

参加への抵抗
 多くの患者はこれらのツールに最初は抵抗感を示す。多くの医師は、「きっとよくなるから頑張りましょう」と反射的に告げるが、大事なのは両価性や障壁を予想し、敬意を払い、探索することである。動機づけ面接法を用いると変化への準備度が推測できる。他にもcofidence ruler(重要度-自信度モデルみたいなもの)がある。さらに学びたい人は下記参照。
 ■Encouraging Patients to Change Unhealthy Behaviors With Motivational Interviewing, FPM, May/June 2011,
  http://www.aafp.org/fpm/2011/0500/p21.html

より強力な治療への準備
 多くの患者はこの6つのツールで十分に改善するが、重度のストレスやトラウマ、薬物依存、パーソナリティ障害、家族の問題(虐待など)をもつ場合は専門科への紹介が必要となる。またそれだけでなく、ピアサポートや12-step program、カップル/家族セラピー、オンライン教室、アプリなど多様なオプションを把握しておくと役立つだろう。そのための5つのTipsがある。

 1. 観察した特定の出来事にフォーカスをあてる。ただしラベリングや精神医学的診断は避ける
 「仕事を失ってから食欲がおちて眠れないのですね」
 2. 感情的反応を整えて共感・心配を示す
 「お母さんが亡くなり、怒りやとまどい、悲しみ、喪失感などの強い感情を持つのはもっともです。
  あなたはお母さんととても仲が良かったですから、本当に悲しく辛いお気持ちだろうと思います。」
 3. メンタルヘルスが身体症状に影響を与えることを説明する
 「あなたのストレスが頭痛(吐き気、背部痛などなど)をより強くしていると思います。あなたはどう思われますか?」
 4. 医師患者関係やチームアプローチの力を協調する
 「一人で乗り切る必要はありません。私もサポートしたいと思っています」
 5. 追加の治療は役に立つという希望をじわじわ伝える
 「あなたと同じような方がカウンセラーと話してよくなっていましたよ。あなたもいかがですか?」

【開催日】
 2017年8月16日(水)

A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses.

―文献名―
Daum RS. A Placebo-Controlled Trial of Antibiotics for Smaller Skin Abscesses. N Engl J Med. 2017 Jun 29; 376(26): 2545-2555.

―要約―
Introduction:
 皮下膿瘍はcommonな問題であり、起因菌としてMRSAを含むS.aureusが主であることがわかっているが、その治療方法については確立されたものがない。先行研究では、5cm以上の膿瘍もしくは蜂窩織炎に対してCLDMとSTでの比較試験を行なったが、両者に差はみられなかった。しかしプラセボとの比較はなされていないことと、より小さな膿瘍での評価はされていなかったため、今回の研究に至った。

Method:
 他施設共同の前向き二重盲検試験
 外来を受診した5cm以下の皮膚膿瘍の患者を対象
 切開排膿後にランダムにCLDM群、ST群、プラセボ群に振り分ける
 (CLDM150mg 6T3x, ST 4T2x, プラセボ 10日間)
 治療終了後7-10日目のtest-of-cure visitでの臨床的治癒の有無を評価

Results:
佐野先生図1

佐野先生図2

佐野先生図3

佐野先生図4

 CLDM群、ST群はプラセボ群と比較して治癒率が高かった。(ST群とプラセボ群とのITT解析では有意差は生じなかったが)
CLDM群とST群との比較では差は生じなかった。
 培養結果で分けると、S.aureusが検出された群(MRSA、MSSAいずれも)でCLDM群、ST群とプラセボ群とで差を生じた。ただしCLDM群とST 群とでは差を生じなかった。S.aureusが検出されなかった群では3者での差は生じなかった。
 1ヶ月後のフォローではCLDM群が最も新規(再発)感染の頻度が低かったが、有害事象も最も多いという結果であった。

Discussion:
 本研究ではCLDMとSTの2剤を用いているが、他にも単純性皮下膿瘍の適応のある薬剤(例えばDOXYもMRSAへの効果が認められている)の検討はされていない。
 また、患者の治癒率は高かったため、抗生剤によって得られたメリットは小さいかもしれない。
 患者のフォローアップ期間は1ヶ月であり、それ以降の再発については評価できていない。治療終了から7-10日の時点で治療失敗となっていた群は1ヶ月後のフォローから省いている、といった観察期間に起因する限界もみられた。

【開催日】
 2017年8月4日(水)

White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality

―文献名―
Huang, Yuli, et al. “White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality.” Journal of hypertension 35.4 (2017): 677.

―要約―
【背景】
白衣高血圧が本当に患者にとって無害かは、まだまだ議論の余地がある。

【方法】
 白衣高血圧と、心血管疾患および全死亡のリスクとの関連性を、ベースラインの降圧治療の状況によって階層化して評価した。データベース(PubMed, EMBASE, CINAHL Plus, Scopus, and Google Scholar)から、白衣高血圧に関連する心血管疾患および全死亡に関する前向き試験を検索した。主要アウトカムは降圧治療の状況によって層別化(未治療集団、降圧治療を受けている集団、混合集団)された白衣高血圧と心血管疾患および全死亡のリスクとした。正常血圧との相対リスクを計算した。

【結果】
 最終的に14の研究(うち8つはベースラインで降圧治療が無いもの、4つは降圧治療が行われているもの、6つは両方が混ざっているもの)が解析対象となった。診療所での収縮期血圧、拡張期血圧は白衣高血圧群が正常血圧群より優位に血圧が高かったが、診療所外の収縮期血圧は白衣高血圧群の方が血圧は有意に高かったもののその差は診療所血圧ほど大きくはなく、診療所外の拡張期血圧は白衣高血圧群と正常血圧群とで有意差はなかった。
 高血圧未治療集団において、白衣高血圧群は正常血圧群より心血管疾患のリスクが38%、全死亡のリスクが20%それぞれ増していた。混合集団においても白衣高血圧群でそれぞれ19%、50%リスクが高かった。しかし降圧治療を受けている集団においては、心血管疾患、全死亡とも白衣高血圧群と正常血圧群とでリスクに有意差がなかった。

川合先生図1

川合先生図2
FIG.6 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: cardiovascular disease

川合先生図3
FIG.7 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: all-cause mortality.  (RR 1.20, 95% CI 1.03–1.40)

【開催日】
 2017年8月2日(水)