血圧コントロールを評価するための血圧日誌の活用

-文献名-
James E.Sharman, BHMS(Hons), PhD, et al. Pragmatic Method Using Blood Pressure Diaries to Assess Blood Pressure Control. Annals of family medicine. Vol.14, No.1, January/February 2016

-要約-
Introduction
診療所血圧は患者の血圧管理によく使われるが、真のコントロール状況を正確に反映しないという限界がある。家庭血圧(HBP)、または24時間自由行動下血圧(ABP)の使用は予後有用性が高い。HBPは一般的に広く利用されており、その有用性から多数の国で支持されているが、患者の日誌から手動で血圧の平均を計算しなければならないという問題がある。外来の時間で医師がその計算をすることは現実的ではない。今回、HBPが収縮期血圧の閾値(≧135mmHg)を超えている割合について、どの程度の割合が最適かを決定する目的で研究が行われた。
Method
3つのオーストラリアの施設で、高血圧治療中の患者286名が募集され、ランダム化臨床試験が実施された。患者は合併症のない本態性高血圧に対し、3種類以下の降圧薬内服により治療を受けている妊娠していない成人が選ばれた。除外基準は左室心筋重量係数の異常、冠動脈疾患または腎疾患の既往、血清クレアチニン>1.6、二次性高血圧、コントロール不良の高血圧(診療所血圧>180/100)、大動脈弁狭窄症、上肢閉塞性アテローム性動脈硬化症の患者である。患者は7日間HBPを記録し、24時間ABP、大動脈硬化、左室心筋重量および機能、ならびに研究登録時のベースライン検査で評価された左房面積が測定された。24時間ABP収縮期血圧≧130mmHg、または日中の24時間ABPの収縮期血圧≧135mmHgと定義された。確証的証拠による検証は、最終臓器疾患のマーカーとの関連によって行われた。
Results
治療/目標閾値を超える24時間のABP収縮期血圧の最良の予測因子は、最後の10回の在宅収縮期血圧測定値のうち3回以上が135mmHg以上の血圧となっていることであった(Table 2参照)。この基準を満たさない患者と比較して、この基準を満たす患者は標的臓器疾患の証拠があり、有意に高い大動脈硬化、左室の相対的な壁肥厚、左房拡大、左室駆出率低下がみられた。
Discussion
患者のHBP日誌の使用は、血圧管理ガイドラインおよび国際的な専門家委員会によって推奨されているが、外来の中で全ての患者のHBPの平均を計算することは現実的ではない。本研究により、最後10回のHBPのうち30%以上が≧135mmHgであった場合、24時間ABPによれば血圧コントロールが不良になる傾向があることが分かった。その妥当性として、最後10回のHBPの30%以上が≧135mmHgとなった患者で、高血圧関連の心臓および大動脈の末梢臓器疾患罹患率が高いことで裏付けられた。本研究の限界として、今回の調査結果は我々が使用したHBPプロトコルの影響を受けているかもしれず、異なるHBP記録方法や、著明に高い診療所血圧(>180/100mmHg)の患者に一般化できない可能性がある。また、降圧薬の服用時間を標準化したり、HBPの一貫性に影響を与える可能性のある日常生活活動を制限したりはしなかった(運動習慣、食事、飲酒など)。それでも、HBPが今回の研究で使用され、ガイドラインで推奨されているような方法で記録された場合、再現性高く、信頼性の高い血圧が確認できる。

【開催日】2019年2月20日(水)

ACE阻害薬と肺癌リスク

-文献名-
Blánaid M Hicks, et. al. Angiotensin converting enzyme inhibitors and risk of lung cancer: population based cohort study BMJ 2018;363:k4209

-要約-
Introduction:
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以降、ACEI)は短期的には比較的安全であることが示されているが、長期使用が癌のリスク増加と関連する可能性が懸念されている。いくつかの生物学的研究がACEIと肺癌リスクとの関連の可能性のために存在する。ACEIの使用は肺にブラジキニンの蓄積を引き起こし、肺がんの増殖を刺激しうると報告されている。5また、サブスタンスPの蓄積をもたらし、これは肺癌組織において発現され、そして腫瘍増殖および血管新生と関連している。
いままでの研究では無作為化対照試験のメタアナリシスでは、ACEIによるがんの発生率の増加は認めらなかったが、ほとんどのサンプルが比較的小規模で追跡期間が短かった(中央値3.5年)。アンジオテンシン受容体遮断薬(以下、ARB)の使用と比較してACEIの使用が肺癌リスク増加と関連しているか決定するため大規模な集団ベース試験を行った。
Method:
この研究は1500万人以上の患者を含む約700の一般診療からのデータが含まれる、英国臨床診療研究データリンク(CPRD)を使用した。降圧薬(βアドレナリン受容体遮断薬、αアドレナリン受容体遮断薬、ACEI、ARB、カルシウムチャンネル遮断薬、血管拡張薬、中枢性降圧薬を含む)で新たに治療開始された18歳以上の全患者の基本コホートを特定した。すべての患者に少なくとも1年間の病歴がCPRDにあることを要求した(利尿薬、神経節遮断薬、およびレニン阻害薬)。
上記で定義された基本コホートから、1995年1月1日以降(英国でACEIとARBの両方が処方可能となった最初の年)の12月31日までに新規降圧薬を服用し始めた全患者の試験コホートを特定した。これらの患者には、新たに降圧薬で治療開始された患者、ならびに以前の治療歴で使用されていない降圧薬を追加または切り替えた患者が含まれた。癌と診断をうけたことのある患者(非黒色腫皮膚癌以外)およびコホートに入る前の任意の時点で癌治療(化学療法または放射線療法)を受けたことのある患者は除外した。潜伏期間の考慮と追跡調査の間の偶発的事象の同定を確実にするためにコホート登録後の追跡調査1年未満の患者を除外した。
すべての解析モデルでは、コホート参加時に測定された以下の変数について調整された:年齢、性別、コホート参加年、BMI、喫煙状態(喫煙継続中、禁煙後、非喫煙)アルコール依存性疾患(アルコール依存症、アルコール性肝硬変、アルコール性肝炎、肝不全を含む)、および肺疾患の既往歴(肺炎、結核、慢性閉塞性肺疾患を含む)。さらに研究モデルには治療された高血圧の期間(降圧薬の最初の処方からコホート参加との間の時間として定義)およびコホートに参加前のスタチンの使用が含まれた。
各曝露群について、ポアソン分布に基づいて、肺癌の粗発生率および95%信頼区間を計算した。欠損値を持つ変数の多重代入を使用して、アンジオテンシン受容体遮断薬の使用と比較したACEIの使用に関連する肺がんのハザード比および95%信頼区間を推定するために、時間依存Cox比例ハザードモデルを使用した。
Results:
コホートには992 061人の患者が含まれ、1年後のコホート参加準備期間を超えて平均6.4(SD 4.7)年間追跡された。追跡調査期間中、335,135人の患者がACEIで治療され、29,008人がARB、そして10 1,637人がACEI/ARB併用で治療された。全体として、7952人の患者が肺癌に罹患していると新たに診断され、1000人年当たり1.3の粗発生率1.3(95%信頼区間1.2〜1.3)となった。

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表1は、コホート全体のACEI、ARB、および他の降圧薬の使用によるベースライン特性を示す。アンジオテンシン受容体遮断薬の使用者と比較して、ACEI服用群は男性、アルコール関連障害、現在喫煙していること、およびより高いBMIを有する可能性が高かった。さらに、ACEI服用群は治療された高血圧の期間がより短く、スタチンや他の処方薬を使用する可能性がより高かった。ACEIおよびARB服用者は、肺炎、結核、および慢性閉塞性肺疾患の類似した病歴を持っていた。

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ARBと比較して、ACEIは14%の肺癌リスク増と関連していた(1000人年あたり1.6v1.2 ハザード比1.14、95%信頼区間1.01〜1.29)。5年未満のACEIの使用は肺がんのリスク増加と関連していなかった(ハザード比1.10、0.96から1.25)。しかし5〜10年の使用(1.22、1.06〜1.40)で上昇し、10年以上の使用(1.31、1.08〜1.59)でも増加し続けた。ACEI開始以降の期間についても同様の関連性が観察され、ハザード比は開始後より長い時間で増加し、開始後10年以上でピークに達した(ハザード比1.29、1.10から1.51)。

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Discussion:
約100万人の患者を対象としたこの大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は全体で14%の肺がんリスクの増加と関連していた。関連性は5年間の使用後に明らかになり、特に10年間以上ACEIを使用した患者の間では、長期間の使用で増加した(31%のリスク増加)。英国では、毎年7,010万件の降圧薬が投与されており、そのうち約32%がACEIである。
以前の無作為化比較試験のメタアナリシスでは、ACEI服用と癌全体または肺癌との間に関連は見つからなかったが、比較的短期間の追跡期間(中央値期間3.5年(1.3〜5.1年))であることから癌などの長期の有害事象を評価するのに十分な追跡期間ではなかった。本研究で5年間の使用後にACEIと肺癌リスクとの関連が明らかになったことを考えると、これは特に重要である。
この研究にはいくつかの制限がある。まず、重要な交絡因子を調整することはできたが、この研究では、社会経済的地位、食事、ラドンまたはアスベストへの曝露、肺がんの家族歴など、他の潜在的な交絡因子に関する情報が欠けていた。さらに、喫煙状態を調整したにもかかわらず、喫煙の期間と強度に関する詳細な情報が不足していた。しかしながら非喫煙者内で行われた分析は、明らかな持続時間- 反応の関連性とともに、一次分析の結果と一致する結果を生み出し、喫煙強度による交絡が今回の調査結果に重大な影響は及ぼさないだろう。第二に、CPRDの処方は一般開業医によって書かれた処方を表しているので、患者が治療計画に従わなかったり、専門家から処方を受けたりした場合、ばく露の誤分類が起こり得る。しかし、コホートに入るすべての患者が降圧薬で新たに治療された患者であったので、非遵守による誤分類は最小限であり、ACEIとARBの間ではおそらく差がないはずである。
最後に、持続性咳嗽はACEIの一般的でよく知られた副作用であり、観察された関連性が検出バイアスに起因する可能性を高める。ACEIを服用している患者は、胸部コンピュータ断層撮影などの診断的評価を受ける可能性が高く、前臨床肺癌の検出率が増加する可能性がある。CPRDに胸部検査に関する情報は十分に記録されておらず、分析でこの可能性を説明することはできなかった。しかし、最近の研究では、ACEIとアンジオテンシン受容体拮抗薬の開始後の胸部検査での違いはごくわずかなものと示されており、さらに、肺癌の過剰検出は治療開始後比較的早く観察されることが予想され、それが我々の追跡調査を1年遅れらせた理由の一つである。さらに、ACEIの使用と肺癌リスクとの関連は、使用期間の増加(少なくとも5年間の使用後)によってのみ明らかになった。まとめると、これらの結果は肺癌の過剰検出の仮説を裏付けるものではない。
Conclusion:
この大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は、期間と反応の関係の証拠とともに、全体として肺がんのリスクの上昇と関連していた。観測された推定値は控えめだが、肺癌リスクがある多数の患者につながる可能性があるため、今回の知見は他の状況でも再現する必要がある。

【開催日】2019年2月20日(水)

サルコペニアと嚥下障害

―文献名―
Ichiro Fujishima. Sarcopenia and dysphasia. Sarcopenia and dysphagia. 2019; Jan 9.

―要約―
Introduction:
 サルコペニアと嚥下障害については学会や研究会で話題に上がることが多い。しかし、明確な基準や定義はまだ定まっておらず。今後のさらなる研究の発展のためにも、現時点でわかっていることをまとめる必要があると考えられた。メカニズム・診断・治療・今後の展望について統一見解を出すことを目的とする。(日本摂食嚥下リハビリテーション学会、日本サルコペニア・フレイル学会、日本リハビリテーション栄養学会、日本嚥下医学会の4学会合同で作成)

 サルコペニアは1989年に提案された概念で、骨格筋量の低下に伴う筋力低下による身体機能低下を示している。診断基準は未だまちまちで、骨格筋量は必須項目であるものの、筋肉の機能の評価には筋力低下(握力)と身体機能低下(歩行速度)の両者もしくはいずれかを採択するのかで意見は分かれている。嚥下機能との関連については2012年に最初の報告があり、その後は本邦を中心に研究が重ねられている。サルコペニアの概念は、老化に伴う生理的なもの(内的要因)と運動不足・栄養摂取不足といった外的要因の両者が誘因となって生じる筋萎縮を示しており、原因には中枢神経、筋繊維自体の変化、ホルモンや栄養、生活習慣などが関与している。嚥下筋のサルコペニアについては未だ議論中で、嚥下筋の廃用とサルコペニアの違いや、栄養改善と訓練によって回復可能性があるのかどうかについてさらなる研究が必要である。
 サルコペニアによる摂食嚥下障害のリスク因子としては、サルコペニアそのもの、低栄養、低ADLがあり、予防にはリハビリテーションや栄養管理が有用ではないかと考えられている。
現在、サルコペニアに伴う嚥下障害は2017年に診断フローチャート(Fig.1)があり、嚥下関連筋の筋肉量を評価せずに診断が可能である。これにより、「サルコペニアの嚥下障害とは、全身と嚥下筋関連のサルコペニアによる摂食障害である。全身のサルコペニアをみとめない場合、神経筋疾患によるサルコペニアは除外。加齢・活動低下・低栄養・疾患による二次性サルコペニアは含む。」定義されている。嚥下関連筋の筋肉量はCTやエコーで評価可能と言われており、特にオトガイ舌骨筋のエコーでの筋肉量・輝度による評価が有用と言われており、サルコペニアの診断基準案(Table.1参照)を提示した。
 治療によってサルコペニアによる摂食嚥下障害が改善されたという報告は3例。いずれも摂食嚥下リハビリと同時に35kcal/kg(理想体重)を目標とした栄養管理を行っている。リハビリテーションと栄養改善の併用がやはり重要と言える。

 嚥下筋にサルコペニアが生じた場合の嚥下障害の判定方法は未だ不明瞭。両者の関係性についても引き続き議論を要する。予防や治療については、栄養改善を目指した栄養管理がどこまで予防・治療に効果を及ぼすのかを明らかにしていきたいところ。健常高齢者や加齢に伴う変化を評価していくことや、薬物療法の開発も今後の課題の一つである。

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CC:下腿最大径、DXA:二重エネルギー X 線吸収測定法、BIA:生体インピーダンス法
DXAは全身測定用のものが必要のため、骨密度測定に一般に使われているものは不適切
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【開催日】2019年2月6日(水)

禁煙による体重増加の影響

―文献名―
Yang Hu. et al. Smoking Cessation, Weight Change, Type 2 Diabetes, and Mortality. N Engl J Med 2018; 379:623-632.

―要約―
Introduction:
禁煙後の体重増加によって、禁煙による健康上の利益が減少するかどうかは明らかにされていない。
Method:
米国の男女を対象とした3つのコホート研究で、禁煙した人を特定し、禁煙状況と体重の変化を前向きに評価した。禁煙者における2型糖尿病・心血管疾患による死亡・全死因死亡のリスクを禁煙後の体重の変化量別に評価した。
Results:
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最近(禁煙2〜6年間)禁煙した人は、現在の喫煙者よりも、2型糖尿病のリスクが高く、HR:1.22 (95%CI:1.12-1.32)。
しかし、心血管疾患による死亡のHRは現在の喫煙者と比較して、体重増加の程度を問わず最近の喫煙者および長期間(>6年間)の禁煙者ともに低下した。
2型糖尿病のリスクは、体重の増加量に正比例しており、体重増加がない・0.1〜5kg増ではリスク上昇の有意差はなかった。
禁煙した人では、禁煙後の体重変化にかかわらず、死亡率に一時的な上昇は認められなかった。現在の喫煙者と比較して、心血管疾患による死亡のHRは、最近の禁煙者のうち、体重が増加しなかった群で0.69(95%CI:0.54~0.88)、0.1~5.0 kg増加の群で0.47(95%CI:0.35~0.63)、5.1~10.0 kg増加の群で 0.25(95%CI:0.15~0.42)、>10.0 kg増加の群で0.33(95%CI:0.18~0.60)、また、長期禁煙者で0.50(95%CI:0.46~0.55)であった。全死因死亡についても同様の関連が認められた。

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Fig1
図A:2型糖尿病のリスクは禁煙後5〜7年でピークとなり、その後減少する。
図B:体重増加を伴わない最近の禁煙者の2型糖尿病のリスクは、体重が増加した禁煙者におけるリスクよりも、喫煙をしたことがない人のリスクに早く近づいた。

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Fig2
図A:心血管系死亡率は禁煙後に大幅に減少し、10〜15年で最低に達し、その後ゆっくり上昇しましたが、現在の喫煙者のレベルには到達しなかった
図B:層別分析では、このような関連パターンがすべての体重増加群で観察されたが、体重増加なしの群の中では、心血管死亡率は5〜10年間禁煙した後減少し、その後上昇傾向なしに横ばいになった
図C:全死因死亡率は5〜7年の中止で単調な減少を示し、その後横ばい状態になった
図D:このパターンは、体重増加なしの禁煙者が禁煙後に直線的なリスク減少を示したことを除いて、すべての体重変化群で観察された

CONCLUSIONS:
大幅な体重増加を伴った禁煙は、2型糖尿病の短期的なリスクの上昇に関連したが、心血管死亡と全死因死亡の減少に対する禁煙の利益を減少させなかった。

[開催日]2019年2月6日(水)

プライマリケアにおけるタイムマネージメント:「時間がない」のはホント?

―文献名―
Tanner J Caverly, Rodney A Hayward, James F Burke
Much to do with nothing: microsimulation study on time management in primary care
BMJ 2018;363:k4983 | doi: 10.1136/bmj.k4983

―要約―
【目的】『総合診療医は決断の共有や予防医学に割く時間がない』という主張の信頼性を調査する
【デザイン】Monte Carlo microsimulation study
【セッティング】米国のプライマリ・ケア
【参加者】National Health and Nutrition Examination Surveyから導き出された、米国の年間労働時間と
患者パネルサイズ(2000人の患者)を代表する1000人の総合診療医
【主要アウトカム】予防的介入において決断を共有する際に、必要な時間と実際に利用可能な時間
(prevention-time-space-deficit)
【結果】総合診療医は平日、予防的ケアを話し合う時間を平均29分有する(各受診者には2分少々のみ)が、
彼らは予防に関する決断の共有を全て終わらせるのに6.1時間必要である。全ての参加者は
prevention-time-space-deficit(平均5.6時間の欠如)を経験している。しかし、この時間の欠如は
個人的な時間を減らして仕事にシフトすれば簡単に克服しうる。例えば、入浴の頻度を1日おきに減らす、
彼らのことをあまり好きでない年長の子供達との時間を削る、などである。
【結論】この研究では、総合診療医が個別のケアのための価値ある時間を浪費しているという疑惑を確認している。
プライマリ・ケアの権力者は、ひとたびこの個人的な時間の多さについて情報提供されたなら、総合診療医が
個人的な時間をもっと臨床的な需要へ再分配することを説得する方法を試し始めることが出来るだろう。

【開催日】2018年12月19日(水)

急性期小児疾患における意志決定

―文献名―
‘So why didn’t you think this baby was ill?’ Decision-making in acute paediatrics.
Arch Dis Child Educ Pract Ed. 2018 Mar 1. pii: edpract-2017-313199. doi: 10.1136/archdischild-2017-313199.

―要約―
Introduction:
小児の急性疾患の診療の核については不明な点が多いです。重篤な疾患に出会う確率は低いですが、見逃すと致命的となります。今まで有効なバイオマーカーとスコアリングシステムの探索を行っていたにも関わらず、小児の重篤な疾患を鑑別するための診断ツールに大きな変革はありません。
詳しく調べるか、経過観察するか、治療するかの判断は医師の経験に基ついています。
不要な入院を防ぎ、安全にかつ効果的に子供たちに介入する意思決定はどのように作られるか?
この記事では小児急性疾患における意思決定のアートと化学について臨床医と教育者が無意識に
使っているプロセスを理解し、概念化させることを目的とします。
A common problem:遭遇する可能性は低いが、重篤な急性疾患の鑑別は重要である。急性小児疾患の見逃しは責任が大きいにも関わらず、診断のプロセスを複雑にする4つの要因があります。
1小児生理学の性質:小児の生理学的評価(バイタル)は複雑です。バイタルの基準値が設定され、それを知っていることは重要です。しかし専門家の意見に基つかれて作成されているため正常範囲内に異常な子供が含まれていることも多々あります。つまり基準値は普段の状態や診察内容などの他の一連の流れも含めた傾向が確立された際に有用となるものです。これは流れが確認出来ない可能性があるプライマリケア医、救急医には困難なことがあります。
大事なのは病気の全体の程度を裏つけるためにバイタルを利用することです。
2コミュニケーションの多様性:小児の診療で重要なのは病歴です。ここで注意として、病歴を保護者から聞く際に、保護者の不安(主観)によって、プレゼンテーションが強く影響することを知っておく必要があります。
また検査、診察の難しさもあります。(例:4歳児の脳波の検査が正しいのか?2歳児の腹部診察での号泣の意味など)。どの情報を取り入れるか理解するためには経験が必要です。また、意思決定に関しては患者のプレゼンテーション
を分析し統合的に判断する必要があり、その際には「リスク」についても適切に説明されなければなりません。
病気の診断に関しては医師の努力が依然に必要ではあるが、意思決定を行う際の最適な方法については今後決められるべきである。
3臨床医の経験則:ヒューリスティックは完璧ではないが、十分に実用的な問題解決アプローチです。経験豊富な臨床医が膨大な病歴と検査から得られた情報を融合させて無意識に行います(table1)。トラップを回避するためには直観的思考よりも分析的思考が重要ですが、緊張性気胸のように直観的思考が必要な場合もあるし、分析的思考が過度だと親に混乱を与えてしまう可能性があります。この中でバイアスに対する1つの対策がベイズの定理の適用です(figure1).事前確率を見積もり、検査を行い、検査後確率から診断に至る方法です。
4外的因子の影響:医師と保護者の病気に対するアジェンダが異なることが多々あります(table2)。例えば頭部外傷では親は被曝のリスクから子供を守るよりもCTスキャンをとることを優先することがあります。また、有熱者では安全に帰すために髄膜炎を否定する医師と咳を治して欲しい保護者のようなアジェンダのズレも影響しています。
病気の発生の影響:小児における一貫した課題は重大疾患になる確率が低いことです。医師は安心のために過度に検査をするか直観に基つくのかに直面します。有病率が非常に低い疾患で所見がない場合は検査の意義は低い一方で、特定のプレゼンテーションを持つ疾患では検査の意義は高い。小児の診断決定ツールはあまり有でない。英国で使用されているNICEの有熱のガイドラインは感度、特異度ともに乏しい。頭部外傷ガイドラインは感度を犠牲にすることなく特異性を達成した稀なツールである。疾患の発症は年齢でも異なる。例えばアトピー性の喘息は5歳未満では稀であり、3歳の子供の喘鳴の再発はウイルスに起因するものと誰もが考えるだろう。しかし年齢が変わるとその確率も変化してくる。喘息のリスク因子として確定したものもなく最近の英国呼吸器学会でもアトピーの家族歴は貧弱な指標と示しています。
まれな疾患と一般的な疾患を区別するための明確なツールはなく、一般的な疾患の方が明らかに多い。稀な疾患のネガティブを証明できないことは小児診療の意思決定における最大の課題の1つです。
上級意思決定と直観の利用:小児急性疾患の診断は、テストや意思決定ツールに頼ることが出来ないので上級意思決定への道をガイドラインは示しています。上級意思決定とは子供を安全で正確な臨床評価を受けるプロセスである。仮説を確認するか否か検証するテスト(hypothetic-deductive technique)やベイズの定理のような教育的、数学的アプローチに沿うことは、正しいという本来の感覚です。このゲシュタルト(どちらにもとれる感覚)と直観の両者の利用は上級意思決定の中核的な実践です。スクリーニングツールは未経験者を助けるが、すべての患者に適応するものでもない。臨床的な直観を発達させる能力は、患者経験が最も大事である一方でフィードバックプロセスやエラーから学ぶことも重要である。その教育戦略についてbox1に記載があります。子供を見る臨床医の間では多くの暗黙の知識が存在します。これはエビデンスベースの外にあり、ガイドラインには含まれません。デルファイ法(熟練の意見を集約する)などのツールを使用することで知識を有効な方法で抽出することが可能になります。
これによって患者経験から生まれる重要な要素が明らかになる可能性があります。これは今までグレーの領域を解明するかもしれない。経験から生まれる大規模なコンセンサス・オピニオンの発表は意思決定プロセスの重要な要素の開発に大きく関わるだろう。
結論:小児診療の意思決定はいくつかの要因によって影響されます。子供/親に依存するもの、臨床医に依存するものがあります。認知バイアスを意識し上級意思決定者へのアクセスを行い、臨床実践における直観の役割を理解することは急性小児科診療の転機を改善する上で重要です。医師は最良の決定を行うために可能な限り公表されたエビデンスを利用すべきです。暗黙の知識の開発と適応は、現在は理解不十分な部分ではあるが、意思決定における最も重要な要素の1つとなる可能性がある領域です。

【開催日】2018年12月19日(水)

Multimorbidity発生の予測

―文献名―
Luke T.A.Mounce,PhD et al. Predicting Incident Multimorbidity. Ann Fam Med 2018;16:322-329. https://doi.org/10.1370/afm.2271.

―要約―
PURPOSE
多疾患併存は有害な結果に関連するが、その発生の決定要因に関する研究は不十分である。私たちは社会人口統計学的、健康的、個人的な生活習慣(例えば、身体活動、喫煙、BMI)のどのような特徴が多疾患併存の新規発生を予測するかを研究した。
METHODS
10年間のフォローアップ期間を含む英国加齢縦断研究(ELSA)における50歳以上の4,564名の参加者のデータを使用した。慢性疾患がない研究参加者(n=1477)については、2002-2003年から2012-2013年の間の結果とベースライン特性の関連性を別々に調べるための離散時間ロジスティック回帰モデルを構築し、 初期の疾患にかかわらず10年以内の疾患の増加、および多疾患併存の発生に対する個々の疾患の影響を調べた。
RESULTS
多疾患併存の新規発生リスクは、年齢、財産(少ない方がハイリスク)、身体活動低下または外的統制(ライフイベントは自分ではコントロールできないと信じていること)と有意な関連性がある。
性別、教育、社会的孤立に関しては有意な関連性は認められなかった。
疾患が増加した参加者(n=4564)については、喫煙歴のみが追加の予測因子であった。
単一のベースライン疾患(n=1534)を有する参加者にとって、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および不整脈は、その後の多疾患罹患と最も強い関連性を示した。
CONCLUSIONS
我々の知見は、影響を受けやすいグループの多疾患併存の新規発生予防を目的とした戦略の開発と実施を支援する。このアプローチは、生活習慣要因に対処する行動変容を組み込み、健康関連の統制の所在(Locus of Control)を目標とすべきである。

【開催日】2018年12月5日(水)

プライマリ・ケアにおける高齢者の入院に関連する潜在的な不適切処方の影響:縦断研究

―文献名―
Teresa Pérez, Frank Moriarty, Emma Wallace, Ronald McDowell, Patrick Redmond, Tom Fahey. Prevalence of potentially inappropriate prescribing in older people in primary care and its association with hospital admission: longitudinal study. BMJ (Clinical research ed.). 2018 Nov 14;363;k4524.

―要約―
OBJECTIVE
入院と65歳以上の高齢患者への不適切処方との関連と,入退院前後で不適切な処方が退院後に増加するかどうかについて調べることを目的とする.
DESIGN
 一般(家庭医療)診療所の診療録を後ろ向きに抽出した縦断研究.
SETTING
 2012~2015年にかけて,アイルランドにある44カ所の一般(家庭医療)診療所.
PARTICIPANTS
 診療所を受診した65歳以上の成人.
EXPOSURE
 病院への入院(入院群 v.s. 非入院群,入院前 v.s. 退院後)
MAIN OUTCOME MEASURES
 高齢者の処方スクリーニングツールScreening Tool for Older Persons’ Prescription(STOPP)ver.2の45の基準を用いて,潜在的不適正処方が占める割合を算出し,患者特性で補正を行い,層別化Cox回帰分析(明らかな潜在的不適正処方基準を満たした発生率)と,ロジスティック回帰分析(1人の患者について潜在的不適正処方が1回以上発生したか否かの2項値による)の2通りで分析し,入院との関連を検証した.患者特性と診断名に基づく傾向スコアによりマッチングを行い,感度分析も行った.
RESULTS
 分析には3万8,229例が包含された.2012年時点での平均年齢は76.8歳(SD 8.2),男性が43.0%(1万3,212例)だった.年に1回以上入院した患者の割合は,10.4%(2015年,3,015/2万9,077例)~15.0%(2014年,4,537/3万231例)だった.
 潜在的不適正処方を受けた患者の割合は,2012年の45.3%(1万3,940/3万789例)から2015年の51.0%(1万4,823/2万9,077例)の範囲にわたっていた.
 年齢や性別,処方薬数,併存疾患,医療保険の種類とは関係なく,入院は明らかに潜在的不適正処方基準を満たす割合が高かった.入院補正後ハザード比(HR)は1.24(95%信頼区間[CI]:1.20~1.28)だった.
 入院患者についてみると,潜在的不適正処方の発生率の尤度は,患者特性にかかわらず,退院後のほうが入院前よりも上昇した(補正後OR:1.72,95%CI:1.63~1.84).なお,傾向スコア適合ペア分析でも,入院に関するHRはわずかな減少にとどまった(HR:1.22,95%CI:1.18~1.25).
CONCLUSION
 高齢者にとって入院は,潜在的な不適正処方の独立関連因子であることが明らかになった.入院が高齢者の不適正処方にどのような影響を及ぼしているのか,また入院の潜在的有害性を最小限とする方法を明らかにすることが重要である.

【開催日】2018年12月5日(水)

Top 20 POEMs of the Past 20 Years

―文献名―
Mark H. Ebell, et al. Top 20 POEMs of the Past 20 Years: A Survey of Practice-Changing Research for Family Physicians. ANNALS OF FAMILY MEDICINE. 2018; VOL. 16, NO. 5 SEPTEMBER/OCTOBER: p436-439.

―要約―
1994年に、Slawson, Shaughnessy, and Bennettにより発表された論文によって、the key concepts of “information mastery”が確立された。従来のevidence-based practiceでは、研究のinternal validityの評価が重要視され、relevanceやapplicationは置いていかれていた。Information masteryによってpatient-oriented outcomesに注目が集まった。relevant clinical questionについての研究で、patient-oriented outcomesを出してpracticeを変えうるような論文は、POEM(patient-oriented evidence that matters)と呼ばれるようになった。
1998年に、筆者らはPOEMの定義に当てはまる論文を同定するために毎月100以上のclinical medical journals を集めたsystematic reviewを始めた。それぞれの論文は、primary care expertによってフォーマットに従って要約され、簡潔なbottom-line recommendation for practiceを提供した。それらはEssential Evidence Plusの購読者にメールされたりAFPに掲載されたりポッドキャストで配信されたりした。1998〜2017の20年間で、5,664のPOEMs (mean=283/y, range=230-368)が集まった。20週年を記念して、各年のPOEMsを選んだ。

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They can be broadly divided into 3 groups:
(1) POEMs that recommend a novel, effective intervention,
(2) those that recommend abandoning an ineffective practice, and
(3) those that recommend abandoning a potentially harmful practice.

We observed greater challenges in choosing the best POEMs in recent years, largely because it is difficult to know whether a 3-year-old study will withstand the test of time and the rigors of replication in real-world settings. This judgment is even more difficult because of the increasing amount of industry-sponsored research published in journals and the relatively small amount of public funding for research to support the study of real-world problems in real-world settings.

It would be difficult for any clinician in any specialty or discipline to read all of the journals publishing studies of potential importance, not to mention critically evaluate the validity of individual relevant articles. Clinicians regularly reading POEMs can confidently change practice with the knowledge that they are using the very latest, most relevant, and valid information to provide for the very best care for their patients. The current POEMs are oriented toward primary care, including obstetrics and general hospitalists. We hope to encourage the development of POEMs for other specialties and disciplines in medicine, as well as such other health care disciplines as dentistry and veterinary medicine.

【開催日】2018年11月21日(水)

エダラボン(ラジカット®)のALS進行抑制効果

―文献名―
K.Abe. et al. Safety and efficacy of edaravone in well defined patients
with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised,
double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Neurol 2017; 16: 505–12

―要約―
★Introduction: ALSの原因はいまだ分かっていないが、フリーラジカルによる酸化ストレス(3-Nitrotyrosine、coenzyme Q10、8-hydroxydeoxyguanosine、4-Hydroxy-2,3-nonenal)が疾患の進行に関与しているとされている。エダラボンはフリーラジカルを消去する作用があり、動物実験では運動ニューロンの脱落を阻止することが分かっている。エダラボンはALSの進行を改善させる働きがあると予想され、対プラセボの第3相試験を行ったが、主要アウトカムであるALSFRS-Rスコアに有意差はみられなかった。エダラボンが疾患の進行を遅らせるのに効果があるかもしれない患者層があるかどうかを調べる目的で多重比較検定を行った。するとALSFRS-Rスコアが全項目2点以上、努力性肺活量80%以上、重症度分類1度、2度、罹病機関2年以内の条件がエダラボンの効果があることが示唆された。

★Method:a randomized, double blind, parallel-group, placebo-controlled study
【選択基準】 20-75歳、ALS重症度分類1、2度、12週間の観察機関の間にALSFRS-Rスコア変化が-1~-4点、ALSFRS-Rスコア全項目2点以上、努力性肺活量80%以上、El Escoria改訂Airlie House診断基準で「Definite」「Probable」、罹患期間が2年以内
【除外基準】ALSFRS-Rが呼吸困難、起坐呼吸、呼吸不全で3点未満、ALS発症後の脊髄手術歴、クレアチニンクリアランス50ml/min以下 (既にリルゾールを内服していた患者は継続することができるが、観察期間後にリルゾールを追加することはできないとした)
【方法】ランダム化の前に12週間の観察期間を設けて選択基準を満たす被験者についてラジカット群、プラセボ群に二重盲検下で割り付け、24週間(6サイクル)の治療を行った。第1サイクルは14日間連日投与した後14日間休薬し、第2サイクル以降は14日間のうち10日間投与した後14日間休薬した。
【End point】
主要エンドポイント:開始から6サイクル終了後のALSFRS-Rスコアの変化
副次エンドポイント:努力性肺活量、Modified Norris Scale、ALSAQ-40スコア、ALS重症度、握力、つまむ力、死亡または一定の病勢進行までの期間

★Result:投与開始時と第6サイクル終了時のALSFRS-Rスコア変化量における最小二乗平均は2.49点でエダラボン群の方がプラセボ群よりスコアの低下が緩やかだった。(95%CI 0.99-3.98 p=0.0013)
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副次エンドポイントで有意差がでたのはModified Norris ScaleスコアとALSAQ-40スコアだった。少しでも副作用を起こした症例はエダラボン群で58症例(84%)、プラセボ群で57症例(84%)、重症副作用はエダラボン群で11症例(16%)(嚥下障害、呼吸障害、構音障害)、プラセボ群で16症例(24%)だった。

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【開催日】2018年11月21日(水)