アドバンス・ケア・プランニングの適切なタイミングとは?

-文献名-
Nancy L. Schoenborn, MD, MHS, Ellen M. Janssen, PhD, Cynthia Boyd, MD, MPH, John F.P. Bridges, PhD, Antonio C. Wolff, MD,Qian-Li Xue, PhD and Craig E. Pollack, MD,MHSdoi: 10.1370/afm.2309 Ann Fam Med November/December 2018 vol. 16 no. 6 530-537

-要約-
目的: 臨床診療ガイドラインでは、プライマリケアにおける多くのことを決定するために、平均予後を組み込むことを推奨している。全国サンプルで平均余命を議論することの高齢者の好みを調べることを目的にした。
方法:2016年にnational probability-based on line panel(1)から1272人の高齢者(65歳以上)を招待した。我々はすぐに死ぬことがない平均余命が限られた仮想患者を提示した。私たちは参加者に、もし患者であったとしたら、どれくらい生きるか医師と話したいか話したくないか、医師がこの議論を切り出すことを容認できたかできなかったか、医師に平均余命について家族や友人に話してもらいたいかもらいたくないか、いつ話し合うべきかを問いかけた。
(1)あらかじめ登録してもらった人に世論や健康についてオンラインでアンケートをして答えてもらう仕組み
結果:参加者878人(69%の参加率)の平均年齢は73.4歳だった。過半数の59.4%は、提示されたシナリオでどれくらいの期間を生きることができるかについて議論したくないと回答した。このグループ内では59.9%も医師がこの話題を切り出すべきとは考えず、87.7%も医師が余命について家族や友人に話し合うことを望まなかった。55.8%の人は平均余命が2年未満の場合にのみ余命について話し合いたいと答えた。議論を持ちたいと積極的に関連する要因には、教育レベルが高いこと、医師が余命を完璧に予想できると信じていること、生命に関わる病気や愛する人の余命について過去に経験したことがあることがあった。宗教が重要であるという報告は否定的に関連していた。
結論:高齢者の大部分は平均余命が限られている仮想の患者を描いた時、平均余命を議論することを望まなかった。また多くの人はこの議論を提供されることを希望しなかった。 そして臨床医がこのデリケートなトピックに関する患者の好みを同定する方法についてのジレンマを提起する
discussion:臨床医が最初に患者の病気や平均余命に関する議論の経験や平均余命に関する患者の信念を探り、平均余命の議論に対する患者の感受性を評価することがこのジレンマの解決法の一つになる可能性がある。継時的にそれらを評価するのが良い。患者の人生における重大な健康問題や患者家族の重大な健康問題の後に重要かもしれない。平均余命が1-2年になった時もアプローチするタイミングかもしれない。
限界:ITリテラシーの低い高齢者などのサブグループを代表していない可能性がある。架空のシナリオであるため参加者の回答は実際の行動を反映していないかもしれない。さらに単一のシナリオでは患者の健康状態の多様性や健康の動的な自然経過を把握できない可能性がある。

【開催日】2020年2月5日(水)

COPD患者における一般診療所での呼吸機能検査の妥当性

-文献名-
T R Schermer, et al. Validity of spirometric testing in a general practice population of patients with chronic obstructive pulmonary disease (COPD). Thorax. 2003 Oct; 58(10): 861–866. doi: 10.1136/thorax.58.10.861

-要約-
Introduction:
近年プライマリケアの現場で呼吸機能検査の使用が急速に増大している。実践ガイドラインではCOPDの管理に呼吸機能検査が中心的な役割を示すことを示唆しており、患者のほとんどはプライマリケアで診断治療がされるため、これらのガイドラインは一般診療所に密接に関連している。
呼吸機能検査の有効性(もしくは信頼性)は呼吸器疾患の診断、モニタリング、マネジメントを行うための前提条件で、実際に広く使用されているが、プライマリケアの環境で呼吸機能検査の有効性は証明されていない。
過去の研究では、一般診療所で得られた呼吸機能検査の測定指数は検査室で得られた値に比べ、十分な検出がされていないことが示されており、妥当性が不十分であると示唆されている。しかし、これらの報告はいずれもpeer review(査読)がされておらず、今後さらなる研究が必要とされている。今回の研究の主な目的は、一般診療で行われた呼吸機能検査の結果が、検査室で行われた結果と、一致した検査結果を示すかどうかを評価することである。

Method:
研究には、4つの検査室(大学に2つ、総合病院に2つ)と149人の一般開業医(GP)と185人の検査助手からなる61の一般診療を対象とした。検査室における呼吸機能検査を「ゴールドスタンダード」測定と設定した。
一般診療所における患者は以下が選択された。
年齢は30〜75歳、喫煙者もしくは過去に喫煙歴がある中で、COPDの臨床的定義(「過去2年間に少なくとも3ヶ月間は、日中の咳嗽もしくは呼吸困難がある」)を満たし、気管支拡張薬投与後のFEV1の結果が40-90%、および(または)気管支拡張薬投与後のFEV1/FVCが予測値未満(男性で88%、女性で89%)を示しており、GPによってCOPDと診断された患者を対象としている。重度の併存疾患、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性発疹の既往のある患者は除外された。
研究が実施される前に、一般診療所のGPと検査助手には呼吸機能検査実施におけるトレーニングプログラムを受講させた。プログラムは、2.5時間のセッションを1か月の間隔で2回受講する。セッションの内容は、Thoraxの Webサイトで入手できるものとした。
研究データの収集は1998年12月から2001年1月まで行われ、一般診療所および検査室にはすべて、同じ電子呼吸機能検査計と肺活量測定ソフトウェアが装備された。各研究被験者は、一対の呼吸機能検査が実施された。最初の検査は常にいずれかの検査室で行われ、2回目の検査を一般診療所で行った。2つの検査の間隔が30日を超える被験者は、分析から除外された。研究途中に急性増悪があったケースの測定スケジュールは臨床的な改善が認められた6週間後まで延期された。
被験者は、一対いずれの呼吸機能検査においても、検査前8時間の短時間作用型気管支拡張薬と12時間の長時間作用型気管支拡張薬を控えるように指示され、呼吸機能検査を実施する15分前に、スペーサーによる気管支拡張薬(エアロゾル化サルブタモール400μg)の投与がされた。各テストでは、少なくとも3回の強制呼気操作が行われ、FEV1とFCVの結果の合計が最も高い操作が保存され、分析に使用された。

Results:
61の診療所の内訳は、21(34%)がソロプラクティスであり、35(58%)はグループ診療、5(8%)は学術集中ヘルスケアセンター?である。全体の65%の施設で研究前より呼吸機能検査が導入されていた。Table1には今回の特性が記載されている。トレーニングプログラムの出席率はGPで57%、検査助手で78%でした。61の施設の中で2施設はGPが検査を行い、59は検査助手が実施していた。

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Primary outcomeは、一般診療所と検査室におけるFEV1(一秒量)とFCV(努力肺活量)値の純粋な差の平均とした(ΔFEV1、ΔFCV)。1年目と2年目の研究アウトカムに大きな差はなかった。
また単純な差の平均と別に、調整された推定値も算出された(外れ値の影響を配慮され、最小値付近5%データと最大値付近5%データを除外して計算する5%トリム平均が行われた)。調整された推定値は単純な差の平均値より、(ごく軽度だが)高いことがわかった(Table2)。さらには研究1年目、2年目ともに、すべての診療所で測定した値のほうが、検査室での値よりもFEV1、FCVともに高く算出されていることがわかった(Table3)。この結果は診療所と検査室での呼吸機能検査の測定値に不一致があることを示唆している。
ΔFEV1、ΔFCVの値のばらつきについては、体系的な変化はみられなかった(Figure1,2)。

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Discussion:
今回の研究結果は、一般診療所の呼吸機能検査の品質と「ゴールドスタンダード」の手順で行われる検査室の呼吸機能検査の品質を加味して、納得する結果であった。
一般診療所の呼吸機能検査の平均値を一貫して観察したところ、再現性の割合については、診療所も検査室も同じであった。しかし上述した通り、診療所と検査室の呼吸機能検査の測定値自体の一致は限定的であったため、この結果は診療所と検査室の測定値の結果を同様のものとして扱うことは避けるべきであるということを示唆していることがわかる。

また今回の研究自体は診療所と検査室での呼吸機能検査のパフォーマンスを比較することを目指したものである。
検査のパフォーマンスは検査実施者の関連する因子によって大きく影響を受ける。被験者への指導の質、呼吸機能検査の再現性など多岐にわたる。比較における潜在的なバイアスを抑えるため、検査器具を同様のものを使用する工夫などは行ったが、被験者の気道過敏性や日内変動など個人因子は調査結果に影響を与えた可能性はある。被験者の繰り返し行う検査による学習効果も完全に影響していないとは言い難いが、この点に関しては、過去にCOPDの診断を受けている患者で呼吸機能検査の経験があり、理解力を有する方を対象に行っているため、個々の学習曲線は横ばいになっていると推定される。

(結論)
トレーニングされた一般診療所で得られたCOPDの管理に関連する呼吸機能検査の検査結果は、認定された検査室で測定された値よりもわずかではあるが統計的に高い値が出ていると結論付けた。
しかし再現性については、一般診療所と検査室に差がないことから、プライマリケアの現場で呼吸機能検査の実施が、すでに広く行われていることを支持するものであった。
ただし、上記の通り、診療所と検査室での値は不一致であることも示唆されたため、測定値の評価を入れ替えして使用することは避けるべきである(初回を診療所で測定して、フォローを検査室で測定するような行為)ことも示唆された。
プライマリケアの環境で呼吸機能検査を実施することを奨励することは、実践するスタッフのトレーニングが十分であれば、妥当性のあるものと考える。

【開催日】2020年2月5日(水)

TV会議や電話による診察と直接面談による診察の内容と質の比較

-文献名-
Victoria Hammersley, et al. Comparing the content and quality of video, telephone, and face-to-face consultation: a non-randomised, quasi—experimental, exploratory study in UK primary care. BJGP. 2019; DOI:

-要約-
【背景,イントロダクション】
英国のプライマリ・ケア現場では直接面談による診察(face to face consultation,以下FTFC)の代替/補完として電話による診察(telephone consultation,以下TC)の利用が広がっており,働く人や家事で忙しい人にとって時間の節約とプライマリ・ケアサービスへのアクセス改善に役立っている.一方ではTCは時間が短く,扱われる健康問題の幅が狭く,十分な情報収集やアドバイス,ラポール形成が難しく,比較的単純な診察においてのみ有用であり,余り安全ではないとする研究もあり,全身状態や非言語コミュニケーションなど視覚的な情報が欠落することも指摘されている.インターネットを利用したTV会議(video consultation,以下VC)はこういった課題を解決し,身体所見を必要としないある種の診察においては有用かも知れないことから,NHS(National Health Service)がVCの利用可能性について言及している.
【目的】
スコットランドでパイロットとして使用されているAttend Anywhereと呼ばれるVCのシステムを用いて,プライマリ・ケアの診療における医師や患者の受け入れの良さ,VCがFTFCやTCとどのように異なるのかを探索する.
【セッティング】
スコットランドのGeneral Practice(GP)のクリニック.
【方法】
GPクリニックで診療を受け,フォローアップの必要な患者にフォローアップの方法としてVC,TC,FTFCの3つから選択してもらった.診察は録音されその内容と質を分析した.また,診察後,医師(GP)と患者双方にアンケート調査を行った.VCの流れはFigure2 .診察の内容と質の分析に用いられた指標はBox.1.

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【結果】
13名のGP(男性8名),162名(FTFC 54名,TC 56名,VC52名)が参加.データを全て収集できた患者は149名.
・ 患者特性
VCを選択した患者は相対的に若く平均42歳(TC 54.3歳,FTFC 52.3歳).VCを選択した患者は女性の方が多かった(54%.FTFC 39%,TC 55%).英国の白人が大部分を占めた(87%).FTFCを選択した患者は過去1年間でより診察の回数が多かった(中央値10回.TC 6回,VC 5回).
VCの患者でスマートフォンを利用したのが49%,PCを利用したのが35%であった.
・ 技術的な障壁
WiFi環境整備,GPのAttend Anywhere利用への習熟などが障壁となったが,3名の患者しか「VCは有用ではない」と回答しなかった.診察を他の方法に切り替えた患者が複数名いた(詳細は原著).
・ 患者アンケート(Table2,3)
全体的に患者のかかえるプロブレムがよく取り扱われ有用であったが,FTFCの患者が「very good」と回答する頻度が高かった.
・ GPアンケート
患者のプロブレムをマネジメントするために非常に有用(very useful)と回答したGPは FTFCで86%,TCで78%,VCで65%.VCを利用したGPの10%が「VCを再び診察に用いたいと思うか?」の問いに「思わない」と回答した.その理由の多くが技術的な問題であった.
・ 診察内容と質に関する分析(Table5,Table6)
全般的にVC,TCではFTFCと比較すると取り扱われた健康問題が少なかった(VC 1.5,TC 1.8,FTFC 2.1).
FTFCはより時間が長かった(VC 5.94分,TC 5.56分,FTFC 9.61分).
全般的にRCGPの指標による診療の質評価はほぼ同様であった.VCとTCではFTFCに比較して「patient’s own health understanding」「Places problems into psychosocial context」の2項目が低い結果であった.生活習慣へのアドバイスを与える頻度はFTFCの方がより高かった.RIASの指標による分析では是パン的にFTFCの方が患者教育とカウンセリングに時間が割かれており,患者が提供する情報が多かった.VCとTCの間に差はなかった.

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【結論】
VCはTCと同様,扱われる健康問題はFTFCと比較すると少なく診察時間も短かった.診察の内容,質に於いてもFTFCがより豊かな診療であった.患者経験においてもFTFCの方が良好であった.VCは主に若く,ITになじみのある人に選択され,普段は診察を受ける頻度の少ない人が選択した.患者の価値感が利便性にある場合,身体診察が不要な場合,VCにはアドバンテージがあるだろう.

【開催日】2019年12月11日(水)

薬剤溶出ステントを用いたPCI後の抗血小板薬2剤治療の期間

-文献名-
Duration of dual antiplatelet therapy after percutaneous coronary intervention with drug-eluting stent: systematic review and network meta-analysis. BMJ 2019; 365: l2222

-要約-
【Introduction】
アスピリンとP2Y12受容体阻害剤(チクロピジン、クロピドグレル)を使用した2重抗血小板療法(DAPT)は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者ケアの基礎となっている。薬剤溶出ステント(DES)移植後の患者に対するDAPTの推奨期間は、急性冠症候群(ACS)では12ヶ月以上、安定した冠動脈疾患の患者では6ヶ月となっている。だが、DES技術の改良と強力なP2Y12受容体阻害剤の出現により、DAPTから単一の抗血小板療法へ切り替える最適なタイミングは議論の余地がある。
過去の研究では、12ヶ月以上のDAPTは、3~6ヶ月のDAPTと比較して非優越性が証明された。さらに、DAPTの期間が短い方が、出血に関連した死亡率の低下により、全ての原因による死亡率が低くなった。にも関わらず、研究では短期DAPTが従来の標準期間に取って代わることができるとは結論づけられなかった。さらに、3ヶ月のDAPTがACS患者の虚血リスク増加と関連していることも示唆された。
本研究ではネットワークメタアナリシスにより、DAPTの継続期間をより定量化し、包括的な評価を行った。

【Method】
データベース:Medline、Embase、Cochrane Library for clinical trials、PubMed、Web of Science。ClinicalTrials.gov、Clinicaltrialsregister.euも検索した。
基準:対象者はDESを使用したPCI後にDAPTを受けた成人(18歳以上)。介入はDAPTの候補期間(短期;6ヶ月以下、標準期間;12ヶ月、長期;>12ヶ月)。他の候補期間との比較を行った。結果には死亡、心筋梗塞、脳卒中、出血が含まれる。除外基準:≦1ヶ月のDAPT、非無作為化試験の分析、横断研究、症例報告・症例シリーズ、進行中の試験、または元の研究のデータが不十分な場合。

【Results】
2010年~2018年までの17の研究、46,864名の参加者が含まれた。DAPTの最短期間は3ヶ月で、最長期間は48ヶ月。全体として13,234名の参加者が短期DAPTに、18,473名が標準期間DAPTに、15,157名が長期DAPTに割り当てられた。全てのランダム化比較試験で、完全な臨床的および人口統計学的特性が報告された。
短期DAPTと比較して、長期DAPTは大出血(オッズ比1.78、95%信頼区間1.27~2.49)、非心臓死(オッズ比1.63、95%信頼区間1.03~2.59)が多くみられた。標準期間DAPTは出血率の高さと関連していた(オッズ比1.39、95%信頼区間1.01~1.92)。他の主要エンドポイントでは顕著な差は見られなかった。感度分析により、短期または標準期間DAPTと比較して、18ヶ月以上のDAPTでは非心臓死および出血リスクがさらに増加することが明らかになった。サブグループ解析では、新しい世代のDESが移植された患者では、長期DAPTで短期DAPTよりも全ての原因による死亡率が高くなった(オッズ比1.99、95%信頼区間1.04~3.81)。ACSに対して新世代のDESを使用された患者について、短期DAPTは標準期間DAPTと同様の有効性と安全性を示した。

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Fig2:Network meta-analysis results of all endpoints between two pairs of duration of DAPT

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Fig3:Network meta-analysis results of all endpoints between two pairs of duration of DAPT

【Discussion】
DAPTの最適な期間は、個人の虚血および出血のリスクを考慮に入れる必要があるが、この研究は、直接および間接比較からの根拠を組み合わせて、DESを使用したPCI後のほとんどの患者で短期DAPTを考慮することができることを示唆している。
本研究の限界として、第一にクロピドグレルをベースにDAPTの期間を評価したため、プラスグレルやチカグレロールなど他のP2Y12阻害剤を適用した場合は結論が異なる可能性がある。第二に、プールされた定義で異なる試験の結果分析を行った点である。第三に、心臓死など、いくつかの試験ではいくつかのエンドポイントが報告されなかったため、頻度主義とベイズ主義の枠組みでの結果のわずかな相違が部分的に説明された可能性がある。

【開催日】2019年12月11日(水)

体積骨密度および骨強度に対する高用量ビタミンD補給の効果

-文献名-
Lauren A. Burt, PhD. Effect of High-Dose Vitamin D Supplementation on Volumetric Bone Density and Bone Strength A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 Aug 27;322(8):736-745.

-要約-
背景
12ヶ月以上にわたって許容上限摂取量以上でビタミンD投与の効果を評価した研究はほとんどないが、米国成人の3%が少なくとも4000IU/dayのビタミンD摂取を報告している。

目的
体積骨密度(BMD)および強度に対するビタミンD補給の用量依存効果の評価
デザイン
カナダ・カルガリーの単一施設で2013年8月〜2017年12月までに実施された3年間の二重盲検RCT。
55〜70歳までの311人の骨粗鬆症のない健康な成人、25[OH]Dのベースラインレベルは30〜125nmol/L。

介入
400IU(n = 109)、4000IU(n = 100)、10000IU(n = 102)での3年間のビタミンD3の1日量。
カルシウム摂取は、食事で1200mg/day未満の人に提供。

結果
HR-pQCT(high-resolution peripheral quantitative CT:DEXAより正確に骨密度を測定し、かつ骨強度を測定できるもの)で橈骨・脛骨の骨密度(BMD:bone mineral density)を評価、および要素解析による骨強度の推定。
無作為化された311人の参加者(53%が男性、平均年齢62.2歳)のうち287人(92%)が研究を完了。
25(OH)Dのベースライン、3か月、3年後の値は、400IUグループで76.3、76.7、77.4nmol/L。
4000IUグループで81.3、115.3、および132.2。
10000IUグループで78.4、188.0、および144.4。
終了時での橈骨の骨密度は400IUグループと比較して、4000IUグループ(−3.9 mg HA/cm3 [95% CI, −6.5 to −1.3])および10,000IUグループ(−7.5 mg HA/cm3 [95% CI, −10.1 to −5.0]) で低かった。
体積BMDの平均変化率は-1.2%(400 IUグループ)、-2.4%(4000 IUグループ)、および-3.5%( 10000 IUグループ)であった。
400 IUグループとの脛骨の骨密度の差は、4000IUグループで-1.8 mg HA /cm³(95%CI、-3.7〜0.1)、10000 IUグループで-4.1 mg HA /cm³(95%CI、- 6.0〜-2.2)、平均変化値は-0.4%(400IU)、-1.0%(4000IU)、および-1.7%(10000IU)であった。

結論と関連性
健康成人では、1日あたり4000IUまたは10,000IUのビタミンDを3年間投与すると、400IUと比較して骨密度が統計的に有意に低かった。脛骨では、10000IUでのみ有意に低かった。橈骨でも脛骨でも骨強度には有意差はなかった。調査結果は、骨の健康のための高用量ビタミンD補給の利点を支持しなかった。有害かどうかはさらなる研究が必要である。

参加者のフロー
JC201912大西1

母集団
JC201912大西2

<除外>
骨粗鬆症(骨量低下は含む)
血清25(OH)値の高値、低値
血清Ca値の高値、低値
半年以内に高容量ビタミンD服用
2年以内に骨粗鬆症の治療介入
ビタミンD代謝に影響する疾患(サルコなど)
腎障害
吸収不良
2年以内の腎結石
日焼けサロンに通っている

A(血清25(OH)D)、B(副甲状腺ホルモン)、C(タイプ1コラーゲンCテロペプチド)の分布
JC201912大西3

JC201912大西4

血清25(OH)D値は高容量投与で上昇するが、副甲状腺ホルモン、骨代謝マーカーには影響なし

Primary Outcome <骨密度の変化>
JC201912大西5
投与すれば投与するほど骨密度が下がっている

服作用頻度
JC201912大西6
高Ca血症と高Ca尿症で有意差あり

【開催日】2019年12月4日(水)

疼痛に対しての鍼治療

-文献名-
ROBERT B. Acupuncture for Pain. Am Fam Physician. 2019 Jul 15;100(2):89-96.

-要約-
鍼治療は忍容性が高く、重篤な副作用のリスクはほとんどない治療法であり、疼痛に対しての統合治療、補完治療として普及してきている。鍼治療の効果は、内因性オピオイド・セロトニン・ノルエピネフリンの放出が侵害受容器や炎症性サイトカイン、運動器に作用するのではないかと考えられているが、正確には解明されていない。また、鍼の技術、使用鍼数、鍼保持時間、経穴の特異性、治療回数、主観的(心理的)要因など、複数の要因が寄与している可能性がある。
鍼治療の効果は、急性/慢性腰痛、変形性膝関節症、頭痛、筋筋膜痛、頸部痛、線維筋痛症で発表されている。
鍼治療のシステマティックレビューでは統計的にも臨床的にも効果が示されたものもあるが、鍼治療は盲検化が難しく、バイアスの問題は大きい。また、真の鍼と偽の鍼の治療(下図参照)での効果の差は有意ではなかった。鍼治療の効果には患者の期待、治療の儀式、鍼灸師との関係性、プラセボなどの様々な要因が効果因子となっているのではないかと思われる。
忍容性・副作用:10%以下に倦怠感、局所の疼痛、頭痛。入院・後遺症が残る・死亡といった重篤なイベントはなし。気胸や重篤な感染症の報告は稀。

補足:verum needle(真)とsham needle(偽)について
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JC201912佐野2

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【開催日】2019年12月4日(水)

研修プログラムとしてのSNS発信の12のコツ

-文献名-
Avital O’Glasser et al. Twelve Tips for Tweeting as a Residency Program. MedEdPublish Published: 23/07/2019

-要約-
導入
2004年にfacebook,2006年にTwitterが誕生した。SNSは複数のデジタルプラットフォームを形成し、情報交換や討論への参加を可能にしており、この動きは継続的な医師の生涯学習と同じ機能である。そしてSNSのヘルスケア領域の分析では、教育的な価値や専門性への影響などが分析され、調査対象の医師の60%がSNSは患者ケアに役立ったと報告している。
複数存在するSNSの中でもtwitterはオープンアクセスの特徴を持っており、ヒエラルキーの平坦化や教育の民主化に寄与するツールであり、若手医師や専攻医により良い発信媒体であり、いくつかの文献でそのメリットが述べられている。
理論的には、Twitterでレジデンシープログラムについての知識を斬新な方法で広めることが可能であり、専攻医のより良い活動や業績に関心を集めることができる。SNSをプログラムが使うことの実例がOHSUの内科プログラムであり、正式な承認や組織のSNSポリシーによって運営され、1200名のフォローワーが存在し、4900のつぶやきがある。この文献では、レジデンシープログラムの発信についての成功と持続性のtipsを紹介する。

12のコツ
Tip 1: Tweet early, tweet often
あまりアカウントに長く潜まないこと。つぶやきはつぶやきを産み、その結果勢いがつき、快適で親しみのをもたらす。そしてフォローワーの獲得にも役立つ。他のアカウントとのやり取りは繋がりを生み創造的なコラボが可能となる。我々のところでは、専攻医によって下書きのつぶやきが事前に記載され、アカウントを持っているチーフレジデントが投稿している。

Tip 2: Know core Twitter vocabulary and use hashtags, mentions, links!
投稿数は280文字ですが、文字情報だけではなく、ハッシュタグやリンクを埋め込むことを推奨します。写真や動画の埋め込みも関心やエンゲージメントを高めます。

Tip 3: Celebrate and engage your residents
レジデントの業績を祝い、彼らの成長を讃えることは、アカウントにとって最も充実した側面となります。
レジデンシーは常に、専攻医の出版やポスター発表、学会のプレゼンや賞などをつぶやくことを目標にしています。
つぶやきは出版物のリーチを広げ、ツイートされた論文は引用が増えます。

Tip 4: Use your program’s calendar of key annual events as source material
レジデンシーのコアな年間イベントをつぶやきで共有します。これによって専攻医はプログラムのイベントへの準備ができるようになり、リクルート活動の基盤にもなります。プログラムの構造の情報だけではなく、文化や雰囲気などを外部の読み手に発信します。イベントごとにハッシュタグを作ると後で把握がしやすくなります。

Tip 5: Engage faculty and fellows on Twitter
広くコミュニティを形成するために、専攻医やフェロー、そして指導医にもアカウントを持ってもらうように学習もしくは強力に誘います。彼らを会話に巻き込み、彼らの直接的な指導をTwitterの読み手に届けることができます。
熱心な指導医やフェローは、学術大会の現場の最前線(地上のブーツ)の価値のある資料を提供してくれます。

Tip 7: Identify preferred content themes within medicine
限定的な専攻医コミュニティだけではなく、他のコミュニティも定義する必要がある。
あなたの所属している組織には複数のブランドのアカウントが存在している。そして関連する全国や地域の団体を特定し、あなたの専門や関心の領域でのアカウントと繋げてください。
twitterのコミュニティはSNSの親切さと寛大さを思い出させてくれる。ソーシャルメディアにおいて奪う人から与える人になることが大事である。

Tip 8: Keep your eyes open & your chin up!
皮肉にもツイートを奨励することは、日々をマインドフルに過ごし、キャンパス内でスマホばかりに埋もれることの助けになりました。自分の環境と身の回りで起きること、そこに生じている小さな瞬間の素晴らしい学びに注意してください。
教育的なツイートも良いですが、風景の写真も人気です。

Tip 9: Utilize Twitter Analytics
Twitterの目標はいいね!やリツイート、フォローを増やすだけではなく、リーチやツイートの有効性についての数値がフォードバックになります。レジデンシーの奨学金についてのツイートが、リーチを広げ、このテーマのツイートを継続的に優先度を高くしました。

Tip 10: Be professional and follow the 5-second rule at all times; think first, tweet later
プライバシーへの配慮、プロフェッショナリズムとしての考慮はtwitterの使用の障壁になります。
所属機関のソーシャルメディアポリシーを参考に、アカウントの開設許可に申請が必要なこともあります。
適切な投稿トーンを維持し、ネガティブにならず、嵐をせず、トロール(絡んでくる系?)に関与しないでください。

Tip 11: Do not be afraid to brag or toot your own horn!
自分を見てよ!文化と批判されますが、お祝いや祝福についてはプログラムの成功と関連するためツイートすることが適切です。フェローへのマッチやカリキュラムの改革、そしてプログラムリーダーのチームの仕事や成功など発信していきましょう。

Tip 12: Have fun!
個人ではなく、プログラムのアカウントであったとしても楽しいキャラクターを設定することができます。賢く、風変わりな、そしてユーモアのあるツイートを発信してください。学ぶこと、教えること、そして診療を実践することが好きであることを魅せてください。

まとめ
レジデンシーのSNS発信は、専攻医にプラスの影響を与え、プログラムやその教育ミッションを広く見せる事に貢献する。ツイートするコンテンツの進化や成熟を加え、フォローワーとの相互的でダイナミックなプロセスで新しい仲間やつながりを促進しました。

【開催日】2019年11月13日(水)

COPD急性増悪に対するCRPに基づいた抗菌薬使用

-文献名-
Allan S et al. COPD Exacerbations — A Target for Antibiotic Stewardship: N Engl J Med 2019; 381(2): 111-120.

-要約-
◎背景
CRPの測定は、COPDの急性増悪の患者に害を与えることなく、抗菌薬の不必要な使用を減らせるのではないかと考えられている。

◎方法/研究デザイン
▼イギリス国内の86施設で行われた、多施設共同、非盲検ランダム化比較試験。
▼40歳以上の男女でCOPDの診断を既に受けている患者のうち、対象施設の総合診療科の医師によりCOPD急性増悪とする旨の診断が下った者が対象
▼急性増悪の基準は
(1) Athonisen Criteria=呼吸困難の増悪、痰量の増加、膿性痰の増加の1項目以上
(2) 症状持続が24時間~21日以内
▼患者を以下の2群に割りつける。
① CRPを参考にして治療方針(抗菌薬使用)を決定する群、② (CRPを測定しない)通常ケア群。
CRP参考群の、抗菌薬使用の基準は
CRP<2mg/dLで抗菌薬使用推奨せず、
CRP=2~4mg/dLで膿性痰の臨床症状に基づいて判断
CRP>4mg/dLで抗菌薬使用推奨
(※ あくまでも「推奨」であって、使用を否定するものではないことに注意。)
▼割り付け1週後・2週後に電話での聞き取り、4週後に対面式での聞き取りを実施。
 6ヶ月後にも質問紙を郵送しての聞き取りを実施した。
▼Primary Outcome…
4週間以内に抗菌薬投与が行われたか
割り付けの2週間後のCOPDに関連した全身状態はどうか (※ 非劣性試験)

◎結果
▼ 1319人が登録され、649人を2群に割り付けた。
▼ 抗菌薬使用率は、①CRP参考群=57.0%、②通常群=77.4%
  初回診察時に抗菌薬を使用した群は、①CRP参考群=47.7%、②通常群=69.7%
▼ 2週間後のClinical COPD Quesionnaire値はCRP参照群で-0.19点であり、通常群に対する非劣性が証明された
▼ 有害事象
 4週間のフォロー中に通常群のうちの2名は死亡したが、本研究との関連は薄い
 6ヶ月の追跡期間中に、CRP参考群で延べ35回、通常群で延べ34回の入院が起きている
 肺炎の発生、抗菌薬による副作用については2群間で有意差は認められなかった。

◎考察
▼ 1319人が登録された中で、649人が抽出されているのだが、その記載が曖昧(というかない?)
▼ CRP採血をしたというそのことが、COPD関連の健康状態に影響を及ぼしている可能性はないか?
▼ CRPやプロカルシトニン値の確認によってCOPDの急性増悪時の抗菌薬使用率を減らしたというエビデンスは存在し、メタアナリシスもあるが、その中に示されている研究はすべて規模が小さく、またエビデンスの質も低いものであることに留意することは必要である。
▼ 本研究でのCRPの位置付けはあくまでも参考値という点には留意が必要。完全にCRPのみで治療方針を決定したわけではない。

◎結論
プライマリ・ケアセッティングにおいて、CRPを参考にしたCOPD急性増悪に対する抗菌薬処方は、害を及ぼすことなく、抗菌薬の使用率を下げる可能性が示唆された。

【開催日】2019年11月13日(水)

Comfort Feeding Only

-文献-
Eric J. palecek, et al. Comfort Feeding Only: A Proposal to Bring Clarity to Decision- Making Regarding Difficulty with Eating for Persons with Advanced Dementia. J Am Geriatr Soc. 2010 March ; 58(3): 580–584.

-要約-
体重減少につながる経口摂取・食事の困難は、認知症進行期において一般的である。このような問題が発生すると、家族はしばしば胃瘻造設に関する意思決定に直面する。
観察研究に基づく既存のエビデンスは、経管栄養が生存率を改善したり、誤嚥のリスクを低下させたりしないことを示唆しているが、認知症患者では経管栄養が広く行われており、施設入居者の大部分は人工的水分・栄養補給法に関する希望について文書による事前指示を得られていない。
理由の1つは、人工的水分補給・栄養法を差し控える指示が「経口摂取させない」と誤って解釈され、その結果家族の抵抗感を生むためである。
さらに、施設は体重減少に対する当局の監査を恐れており、経管栄養の使用は可能なことがすべてが行われていることを意味すると誤って信じている。
これらの課題は、患者のケアの目標を強調する明確な言語を作成することで克服できる。
個別の食事ケア計画を通じて患者の快適性を確保するためにどのような措置を講じるべきかを示す新しい指示「Comfort Feeding Only」を提案する。
慎重な食事介助による可能な範囲での快適な経口摂取に注力することは、経管栄養に代わる明確な目標指向の代替手段を提供し、人工的水分・栄養補給を放棄する現在の指示によって課せられることになる見かけの「ケアする」「ケアしない」の二分法を排除する。

【開催日】2019年11月6日(水)

帯状疱疹予防における生ワクチン(ZVL)と組換えワクチン(RZV)の比較

-文献-
McGirr A, et al. The comparative efficacy and safety of herpes zoster vaccines: A network meta-analysis. Vaccine. 2019
May 16;37(22):2896-2909.

-要約-
背景:
・米国およびカナダでは、50歳以上の帯状疱疹予防に以下の2つのワクチンが認可されている(本邦と同様)
   生ワクチン(Zoster Vaccine Live; ZVL) 単回投与
   組換えワクチン(Recombinant Zoster Vaccine; RZV) 2回投与
・ZVLおよびRZVのランダム化比較試験(RCT)は、それぞれプラセボと有効性、安全性を比較している
・2つのワクチンの有効性、安全性を直接比較した試験はない
・この研究では、ネットワークメタ分析(NMA)を使用して2つのワクチンの有効性と安全性を比較した

方法:
・以下のPICOで文献検索、系統的レビューされた(21の全文出版物と4の会議抄録)
 P:帯状疱疹の既往ない50歳以上の成人(免疫不全者で実施された研究は除外)
 I:ZVL、RZVいずれかの帯状疱疹ワクチン接種(用量、スケジュール、準備、投与経路を問わない)
 C:他の帯状疱疹ワクチン、プラセボ、介入なし(異なる用量、スケジュール、準備、投与経路を評価する研究を含む)のいずれか
 O:有効性・・・帯状疱疹の発生率、帯状疱疹後神経痛(PHN)の発生率ほか
    安全性・・・完全な中止、重篤な有害事象、局所反応、全身反応
・詳細な実現可能性評価により、NMAは有効性(帯状疱疹およびPHNの発生率)および安全性(重篤な有害事象および注射部位反応、全身反応)の結果で実現可能であることが示された
・年齢はワクチンの有効性(VE)の既知の効果修飾子であるため、VE分析は年齢ごとに層別化された

結果:
・帯状疱疹への有効性は、60歳以上(Fig. 2A)、70歳以上(Fig. 2B)の両方の年齢層において、RZV(筋注)がZVL(皮下注)よりも有意に優れていた。PHNへの有効性も60歳以上(Fig. 2C)、70歳以上(Fig. 2D)の両方にて同様だった。
・RZVは、ZVLおよびプラセボのほとんどと比較して、注射部位および全身反応が大幅に増加ししたが、定義とデータ収集手順は研究間で異なっていた。重篤な有害事象については、ZVLまたはプラセボとの間に統計的に有意差は見られなかった。

20191109後藤

結論:
・RZVはZVLと比較して、60歳以上の成人の帯状疱疹およびPHNの発生率を大幅に低減する
・RZVは局所・全身反応が多いが、重篤な有害事象についてはRZVとZVLの間に違いはみられなかった

研究の限界:
・研究の数が少なかったため、結果は慎重に判断する必要あり
・少数の研究がNMAの結果に影響を与えた可能性がある
・研究の不均一性の結果、安全性の結果について95%CIが非常に広かった
・利益相反あり

【開催日】2019年11月6日(水)