診療所での弁膜症評価

―文献名―
Yukio Abe, MD, Makoto Ito, MD, Chiharu Tanaka, M.  A novel  and simple method using pocket-sized echocardiography to screen for aorticstenosis.  J Am Soc Echocardiogr. 2013;26: 589-596

―要約―
【背景】
大動脈弁狭窄症(以下、AS)は最もありふれた弁膜症であり、加齢変性による石灰化が現代のASの一番の要因となっている。ASは通常、収縮期駆出性雑音(以下、SEM)を機に発見される。50歳以上の50%近くにSEMを聴取することから、すべての人に最上位機種の心臓エコー検査を行うことは時間もかかり、経済的負担にもなる。そこで重大なASを発見するための簡便な方法が必要とされている。
 ポケットエコーでの心臓エコー検査はその一つに位置づけられるかもしれない。この研究ではポケットエコーをASのスクリーニングに使用する価値についての評価する目的で行われた。

【方法】
継続診療を受ける20歳以上の2度以上のSEMか既知のAS患者147名を集め、大阪市立総合病院で心臓エコー検査を行った。経験豊富な循環器内科医による身体所見ののち、熟達した技師によるポケットエコーで大動脈弁の解放を視覚的にスコア化した(0=制限なし、1=制限あり、2=重度に制限)。その合計値をVisual AS scoreと定義した。最上位機種での心臓エコー検査結果に基づき、大動脈弁高面積指標(Aortic Valve Area Index以下、AVAI)が0.6cm2/m2と0.6~0.85 cm2/m2 をそれぞれ重度ASと中等度ASを示すものとみなした。

【結果】
147名のなかで51名がASの診断を受けており、51名が何らかの症状を有していた。検査困難だったり、他の弁膜症性疾患による雑音だったものなどを除外し、130名の患者が残った。そのうち55名が男性で、平均年齢は74±10歳だった。重度ASと診断されたのは27名で、中等度ASと診断されたのは30名だった。
Visual AS scoreとAVAIとは強い関連が見られた(R=-0.89, P<.0001 ; Figure2)。重度ASを診断するうえで頸動脈へのSEMの放散とSEMのピークが後方にずれることと頸動脈波の緩徐な立ち上がりが最も高い感度(93%;95%CI; 76%-99%)を示し、Ⅱ音の消失が最も特異度が高かった(94%; 95%CI;88-98%)。Visual AS scoreが4点以上をカットオフとすると重度ASを診断するうえで感度85%、特異度89%だった。中等度~重度ASと診断するうえでは頸動脈への放散が最も感度が高く(91 %;95%CI;81%-97%)、頸動脈波の振動が最も特異度が高かった(99%;95%CI;93%-100%)。Visual AS score3点以上をカットオフとすると感度は84%、特異度は90%となった。 ポケットエコーでのVisual AS scoreの観察者間の再検査信頼性はκ値が0.78と評価された。ポケットエコーを用いた評価では125±39秒を要した。 【結論】  今回、私たちが提唱するVisual AS scoreは、重要なASの存在を判断するうえで熟達した身体所見と同等の正確さが認められた。Visual AS score3点未満では中等度から重度ASの否定につながり、4点以上では重度ASの確定に役立つ。ポケットエコーはASの素早い診断につながり、数多くのSEMを認める患者に対してさらなる精査を行うかどうかの判断を手助けしてくれるだろう。 【開催日】 2014年10月8日(水)