STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年10月25日
【臨床状況のサマリー】
#脳梗塞後遺症 #慢性心不全 #高血圧症 #脂質異常症 #慢性腎不全
上記プロブレムで訪問診療中の74歳女性。ADLは屋内歩行器レベル
2年前に心不全からの退院を契機に訪問診療導入。施設入所者。その後、入院を要することなく、安定した在宅療養を行えている。紹介時の心エコーではLVEF=30% 診察上 血圧130/80mmHg HR70 Sat95% 頸静脈怒張あり
心雑音:心尖部にIII/VIの収縮期雑音 下腿浮腫あり 体重は概ね安定している。
当院では、脂質異常症、慢性心不全のフォロー目的に3-6か月毎に血液検査(CBC、一般生化学、NTproBNP)を行ってきた。ここ2年のNTproBNPは1000程度pg/mLで推移している。内服調整なし。血清Creは1.5mg/dL程度
内服薬)バイアスピリン(100)1T1x, アトルバスタチン(5)1T1x, レニベース(5)1T1x, アーチス(2.5)1T1x, アルダクトンA(25)0.5T,
ラシックス(20)1T1xなど
既往症)心不全の急性増悪(入院)心房細動なし
喫煙歴:なし 飲酒なし 家族歴:なし
今までなんとなく、慢性心不全の病名のある患者には定期採血にNTproBNPを含めていた。しかし、最近になりNTproBNP検査過剰である旨の警告が支払基金から送られてきた。NTproBNPを実施する患者を選択する必要を感じるようになった。慢性心不全の患者にBNPを実施することは有益なのか調べてみることにした。
P;慢性心不全で治療中の高齢者
I(E);NTproBNPを心不全の評価に利用した治療
C;NTproBNPを利用しない治療
O;QOLを改善するのか?
STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
BNP-guided vs symptom-guided heart failure therapy: the Trial of Intensified vs Standard Medical Therapy in Elderly Patients With Congestive Heart Failure (TIME-CHF) randomized trial. JAMA. 2009 Jan 28;301(4):383-92.
STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
P;60歳以上の慢性心不全患者(EF≦45%) and NYHA>II以上 and 1年以内の心不全の入院歴 and NTproBNPが正常値の2倍以上
I(E);症状に加えてBNP正常上限2倍以下を目標に治療
C;NYHA≦II度を目標に治療する
O;18ヶ月後の入院回避率とQOL
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・ されていない )
→隠蔽化が ( されている ・ されていない )
→盲検化が ( されている ・ されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない)
どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている ・ されていない)
STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
一次エンドポイント
●入院回避率(figure 5)
41% vs 40%( BNP群vs 症状群) p=0.39で有意差なし
●QOL(table 2)
両群とも12ヶ月後にベースラインに比べて優位に改善(p<0.001)。
両群間に有意差はなし。
その他の評価項目
●全生存率(Figure 5)
84% vs 78%( BNP群vs 症状群) p=0.06
●心不全による入院回避率(figure 5)
72% vs 62% ( BNP群vs 症状群) p=0.01
●年齢によるサブ解析(Figure 6)
75歳未満では:入院回避率(p=0.05)、全生存率(p=0.02)、心不全による入院の回避率(p=0.002)と有意差を認めた。
75歳以上では:入院回避率(p=0.54)、全生存率(p=0.51)、心不全による入院の回避率(p=0.45)と有意差は認めない。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
その他の評価項目
・全生存率(Figure 5) HR 0.68
・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68
・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
入院回避率:HR 0.70
全生存率:HR 0.41
心不全による入院の回避率:HR0.42
●ARRとNNTを計算する
Figure5より
18ヶ月時点での入院回避率 RR=0.9709 ARR=0.020 NNT=49.3
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
その他の評価項目
・全生存率(Figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.45-1.02)
・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.50-0.92)
・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
入院回避率:HR 0.70(95% CI, 0.49-1.01)
全生存率:HR 0.41(95% CI, 0.19-0.87)
心不全による入院の回避率:HR0.42(95% CI, 0.24-0.75)
STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
Table 1によれば、NYHA>IIIの心不全が74%を占めていて、NT-proBNP値の平均が4000程と高い点が目の前の患者と異なる点である。全体的に、論文の患者の方が目の前の患者に比べて重症感がある印象。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
治療のプロトコール詳細は不明であるが、ACC/AHAガイドライン通りの治療を行うことは忠実に実行可能であろう。しかし、BNP値が高いからといってACEIやB遮断薬の増量を行うということは実臨床では行うことはないかもしれない。
NTproBNP測定(1.3.6.12.18か月)については心不全患者であれば保険適用内で実行可能であろう。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
75歳以上の患者群ではBNPガイド群は症状ガイド群に比べて入院回避率やQOLを改善させることなく、重大な副作用(腎機能障害や低血圧による入院)が多く出現している。74歳≒75歳であり、NTproBNPのコントロールを目標とした薬剤調整には危険を伴うだろう。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
患者の希望は入院せずに施設で生活すること。
今回の論文の示す通り、BNPガイド治療で全入院回避率(特に75歳以上)について有意差がないのであればBNP検査施行の意義は限定的である。
しかし、BNPの血液検査は患者の侵襲性をあげるとは考えない。他の検査機器(胸部レントゲンや心エコー)が使えない、在宅医療のセッティングを考慮すればNTproBNPを継続的にフォローする事自体は患者の心不全病態把握の一助となると思う。しかし、NTproBNPの値を目安に内服薬を調整することは患者に有害事象を加える可能性が高く慎重であるべきと思われる。
【開催日】
2015年11月11日(水)