【文献名】
「介護者と家族の心のケア―介護家族カウンセリングの理論と実践」 渡辺俊之著 金剛出版 2005年
【要約】
※注 この著者は精神科医で精神分析をベースにする流派である。本全体の要約は内容が多岐にわたり困難であり、家庭医療外来のセッティングで役立ちそうな情報を私のほうで抜粋して要約とさせて頂く。
第Ⅰ部「家族が介護を抱えるとき」
第1章 介護者の心理
・ 介護の動機付けは、要介護者への強い愛着と依存、投影性同一視(自分が本来体験したい喜びを相手に体験してもらって満足する)自己愛を満足させたい(相手 を思うようにコントロールしたい無意識)といった願望、世間体を気にする気持ち、罪悪感、償い、また純粋な愛他主義(自己犠牲をして他人のために尽くす) と幅があり、これらに介護者の人柄が影響する。そして動機付けを理解することは介護者の心理の理解の最初の鍵となる。(P15~25)
・配偶者同士の介護の場合、夫は妻に対して無意識的に母親のイメージを投影し、妻は夫に対して子供のイメージを投影することが多い。嫁が介護する場合は、家族内に無意識的な序列付けができている場合がある。(P30)
・依存する人の理由は、①元々の性格特性②退行からの回復の遅れ③依存心に潜んだ攻撃感情④病手的な自己愛。依存しない人は、①性格特性②基本的信頼感の欠如による依存への恐怖③人間関係が苦手。(35
・ 介護は『喪失との出会い』である。親の心身の機能が低下していくのをみて生活するのは悲しい体験である。介護のために自分の時間、空間、社会的役割を失 う。介護ストレスがたまると、負担感や身体疲労が生じてくる。介護者の不安は①要介護者の将来に関する不安②介護行為そのものに対する不安③取り残されて いく不安。(P45)
第2章 介護のストレス
・身体疲労。排泄の介護が苦痛。介護者の動機づけと要介護者のニーズの不一致。要介護者と介護者関係にもともと問題がある。認知症など要介護者側の要因が強く、良好な関係が築けないとき。介護者と介護者でない家族メンバーとの関係から生じる。(P58)
・ストレスへの反応①攻撃適応:外部にむかって不満を発散させる②逃避適応:現実をさける。一人の時間をもつ。③防衛適応:抑圧・知性化・退行・身体化。(P62)
第3章 介護が提供してくれる肯定的感情
・介護によって自己評価が高まるためには、要介護者や他の家族メンバーから肯定的フィードバックが必要である。
自己評価や自尊感情が高い人は、自分だけでなく他人に配慮できるようになる。その中で、ケアとは『他人の成長を願う心理である』(P70)
第4章 さまざまな介護家族
・ 高齢者の介護家族を援助するポイントは、高齢者の家族内での役割を把握することである。障害者の場合。障害者に対する家族の考え、を把握することが重要で ある。認知症の場合、負担のかかる問題行動や精神症状を取り除いてあげることが重要である。慢性疾患をもつ子どもの家族は、ライフサイクルを念頭において 情報を提供する。精神障害者の場合、家族内にある障害者のイメージを共有する。ターミナルケアにおいて、家族が自分自身の死を受容していないと適切な介護 ができない。(P90)
第Ⅱ部 介護家族カウンセリングの基礎と実践
第5章 介護家族を理解するための家族療法の理論
第6章 介護家族カウンセリングとは
・介護者個人の心理問題(個人システム)、介護家族の構造と機能(家族システム)、家族と地域専門職の連携(地域システム)を扱い、介入が一番効果的なシステムを選択することである。(P116)
第7章 介護者への精神療法
・ 人の心には理解できないことも、共感できないこともたくさんある。何か言葉をかけるよりも、黙ってそばに座って、何もできない自分の無力感を感じ、じっと 介護者の無力を感じてあげることのほうが、共感的だと思う。援助者の心構えとして、介護者が自分なりに努力してきた生活を尊重することである。
そして彼らの努力に敬意や尊敬を払う気持ちが大切である。(P118)
・把握すべきこと①介護者の介護能力で、これは知識と技術からなる。加齢、病気、障害についての知識。介護保険制度についての知識。介護そのもの(食事、排せつ、清潔への対応)の知識。技術。
・負担感への対応:介護における潜在的なストレッサーの発見。それをどのストレス反応(上記)を使えば負担感軽減に役立つか。(P127)
・悲哀への対応:怒りや攻撃衝動が支配的になる抗議の段階、落胆が襲ってくる絶望の段階、心から断念しあきらめる再建の段階の、どの段階にいるか?そして投げられた感情に対する自分自身の感情の処理が重要。(P134)
・ 援助者は介護者が自分に何を投影して、何を求めているかを理解し、その背景にどのような転移が生じているか心得ておくと、介護者にかかわりやすくなるだろ う。援助者は時に自分の語ることで介護者に対して、援助者の現実的な側面を伝え、安心感を伝えることも大切である。(P135)
・逆転移を形成する背景には①援助者になった動機づけ②援助者がおかれている現状や立場③介護者にむけて生じる援助者の転移④介護者が援助者に向けた転移に対する反応。(P140)
・介護者のセルフケア能力を高める:①ストレスマネージメント②家族内コミュニケーションの促進(お互い何も言わなくてもわかりあっているという神話を捨てる)③外部とのコミュニケーションとの促進(本音を打ちあける人をもつ。介護者に仲間はいるか?)(P148)
第8章 介護者への家族療法
・ジェノグラムの作成:介護の歴史を聞きながら、共有する。家族に病人や障害者はいなかったか?
当時はだれが介護していたか?「家いえ」の在り方の違いが介護に関した葛藤の根本にあることは案外多い。またジェノグラムに現在の家族の健康状態、介護や看病をサポートしてくれる家族以外の人を書き込む (P154)
・介護家族の評価:基礎データ。年齢、職業、健康状態、習慣、日常生活、経済状況、住環境。地域との関係。(P156)
・家族構造の評価:コミュニケーションの評価。送信と受信はできているか。その伝達手段は。家族メンバーの家族内・外の役割。介護に関係した役割関係。
・以上から、「目標が設定される」その家族の介護能力と価値を合わせた目標設定が大事。要介護者と介護者の幸せとは何であろうか?(P164)
・ 介入方法①教育的アプローチ:介護者における身体と精神両面の健康管理を第一と考え、そのためにどんな知識を提供すればよいか再考する。家族に対して病気 や障害の知識についてもう一度確認する作業②否定的感情の緩和:第三者の関与じたい、これに寄与する。家族とのラポール形成が重要③家族のコミュニケー ションの改善:家族会議での座り方、視線を合わせているか、など非言語的な観察も大事。
言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの矛盾をみつけたら、その会話の受け手に体験を聞いてみる。(P160)
第9章 介護家族を支える地域サポートネットワーク
第10章 介護家族カウンセリングとコラボレーションの事例
【開催日時】
2010年6月30日