【文献】
John W.Beasley MD,et.al: How Many Problems Do Family Physicians Manage at Each Encounter? A WReN Study .Ann Fam Med. 2004 Sep-Oct;2(5):405-10.
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【要約】
目的
実は家庭医がどれくらいのproblemを同時に扱っているかはしっかりと調べられてこなかった。
この論文の目的は、一回の診察で家庭医がいくつのproblemを扱っているかを明らかにすることと、それが実際にカルテと請求にどれくらい反映されているかを比較することである。実際にここには解離があり、家庭医のケアの複雑な側面を明確にしたい。
方法
Wisconsin Research Network(WReN)の29人の医師を対象とした。29人の内訳としては、9人が教育を行う医療機関勤務、20人が地域の医療機関勤務で、その20人の中で12人が僻地勤務であった。患者は18歳以上とした。
医師は連続して診た患者20人に対しての各人の診療の後にproblem logを記載してもらった。problem logはカルテのコピー、請求書のコピーとした。
●Problemは情報を収集し、かつ、意思決定を下した問題と定義した。
・例えば咳についてカルテに記載はあるが、それ以上何もなされていなければ咳は検査、治療が必要なかったと判断される。
・例えば糖尿病性の神経症のように部分症であるproblemも別に扱われていれば、糖尿病とは分けてproblemとする。
・既にある問題(糖尿病)も、他の問題(足関節捻挫)で緊急時の対応をした診察の際に扱われなければproblemとしならない。
・もともと分かれていた問題、例えば咳、胸痛も最終的に問題として肺炎などに統合されれば、1つのproblemとする。
・患者とは別の人物に対しての問題(例えば夫のうつ)もproblemとして扱う。
●カルテを調査していく際には、
・十分に記載がないとリスト化はしない。
・例えば既往に狭心症があっても、それ以上記載がなければだめ。
●請求書を調査していく際には、
・診察の際に提出される請求書に記載があるかどうかで判断する。
患者カルテと請求のために提出された診断名をこれらのproblem logにある情報と比較した。
結果
女性 351人 problem 3.1個 男性 213人 problem 2.9個 (P=0.27)
定期受診 3.2個 定期受診以外 2.4個(P<0.01)
7%が患者以外の人物と関連したproblem
精神的な問題、薬物、中毒などの問題はあまり請求書には反映されていなかった。(仮説通り)
例えば、高血圧はlogでは96回出てきて、請求書には74回記載あり(77%)。
精神的問題などはlogで137回出てきて、請求書には58回の記載のみ(42%) (P=0.02)
医師は一回の診察で平均3.05個の問題を扱ったと報告し、カルテ上には2.82個、請求上は1.97個であった。全ての対象患者の中で37%が3個以上の 問題があり、18%が4個以上であった。65歳以上の患者においては、平均3.88個であった。糖尿病患者では、平均4.60個であった。
限界
最も明確な限界点は、医師の自己記入方式をとっていることである。
医師らは本研究の仮説を理解しながらの診療を行っている。
カルテ記載しか見ていないことで、漏れがあるかもしれない。
レビューを一人でしか確認していない点も限界あり。
Problemの数をどのように決定していくのがよいのかという標準的手法が確立していない。
一つの州での研究ということで一般化できない可能性あり。
結論
家庭医療では多くの健康問題を並行して扱っているが、請求上のデータは正確に反映されていない。結論としては、家庭医療と、質評価の方法やガイドラインの推進、教育、研究、管理運営、資金などとが釣り合っていないことが分かった。
本研究などの結果を踏まえ、いくつかの領域では概念を再構築する必要がある。
①質評価やガイドラインでは疾患特異的な項目だけを診るように縮小していくのではなく、患者全体に着眼するようにすべきである。
②医師の教育、とくにプライマリケア領域に進む医師に対する教育は、従来の単一疾患orientedな教育モデルではないものにすべきである。
③家庭医療におけるリサーチは単一疾患の問題に対するものではなく、全人的問題に着目するようにすべきである。
④Administratorsとfunderはケアは多くの問題をはらんでいるということに注目すべきである。
【開催日】
2010年7月28日(水)