~認知症高齢者の困った行動(BPSD)とどう接するべきか?「パーソンセンタードケア」②~

【文献名】
認知症の介護のために知っておきたい大切なこと パーソンセンタードケア入門 トム・キットウッド,キャスリーン・プレディン著 高橋誠一監訳 寺田真理子訳 筒井書房 より p69-90

【要約】
(おさらい)パーソンセンタードケアとは?
おおもとは、イギリスの心理学者のT. キットウッドが提唱。
●パーソンセンタードケアのコンポーネント
•人間性が失われたのではなくて、見えなくなっているだけとみなす。
•全てのケアの場面で、その人の人間らしい側面を重視する。
•環境やケアを個別化したものとする
•意志決定の共有(Shared-decision making)を提案する
•認知症の方の行動を、その方の視点にたって解釈する
•ケアのルーチンタスク(清拭など)と同等に、認知症の方との関係性に重きを置く。

(この書籍について)
T.キットウッドが自らが介護者・家族向けに書いた、認知症患者との接し方の訳本。
上記の原則から始まって、日常の接し方、サポート、生きがい、薬との付き合い方、人権やグリーフまで網羅して接し方について具体的なことから心構えのようなところまで記してある。
その中から、今回は第7章『徘徊やおもらし、攻撃…認知症の「困った!」にどう対応すればいいの?』を紹介します。この章は、いわゆる認知症の問題行動(BPSD;Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」について総論と、よくあるもの7つ(徘徊、失禁、攻撃、物を隠す、同じことを繰り返す・叫ぶ、性的行動、妄想・幻覚)について個別に取り上げています。

(基本的な考え方)
●認知機能が衰えてくると、周りの世界は以前よりもおそろしい場所のように思える。周りの人がだれなのかわからなくなっていく。混乱は不安を生み、さらにこの年齢層に特有の病気や障害の多さが加わって、生活の中でのあらゆる問題によって、うちのめされてしまう。喪失や障害を抱えている彼らがうまくいかないということに共感することが重要である。
●問題行動を起こしているのは「彼ら」であるが、実際には私たちの思いやりや優しさ、注意が足りないために、「わたしたち」も問題の一部であることが往々にしてある。
●手っ取り早い解決策を取ろうとする代わりに、以下の5つを考えることが有用である。
①それは本当に問題なのか?どれくらいの頻度で起きているか?
②どうしてそれが問題なのか?
③だれにとって問題なのか?私たち介護者が変化や適応、受け入れを拒むことで問題にしたのではないか?
④「問題行動を」する人は、わたしたちに何かを伝えようとしているのではないか?
⑤どうすれば、その人の生活の質を高めるような方法でこの問題を解決できるでしょうか?

(各論)
全般的に、問題行動の裏にあるその人の不安が何かをくみ取り、その人が本当は必要としているもの、を考えるように促す内容が記されています。(「徘徊」の部分の内容を例に挙げてみます。)
●徘徊は、不安を感じた人が、なじみの場所や愛する人を探したり、仲間や安心を求めているため起こす行動かもしれない
●活気や十分な刺激がなくて、単に生きていることを実感したいだけかもしれない。
●夜に増えるのは、光や音がなくなり、人もいなくなり、感覚に訴えるものが少ないからで、仲間と一緒にいて安心する人は夜になると不安になってくるかもしれない。
●混乱が原因ではないこともある。トイレに行きたいかもしれない。痛む所があるのかもしれない。服が汚れて気持ちが悪いのかもしれない。退屈なだけかもしれない。運動不足が原因のこともある。

●徘徊をやめさせるための鎮静薬は、徘徊する人より混乱させてしまう可能性が高い。安全に徘徊できるようにする方がいい。もっと徘徊者を安心させる方法は、一緒に歩いてみること。腕や手をとったり、近くに一緒に居るというメッセージを送り、安心させる。
●急に家具の場所を変えたり、夜に物の位置を変えることは避ける。寝室の明かりをつける
●一人で外へ出る人なら、状況に応じて鍵をかける必要がある。馴染みのないドアの下の部分につける必要がある。身分証明書は持たせるようにする。

●万が一徘徊しても、パニックを起こさず、警察の力を借りて探すのを手伝ってもらう。
●再発をどうやれば防げるか考える。刑務所のように閉じ込めるよりは、少しのリスクを引き受ける方がよいでしょう。

【開催日】
2010年12月15日(水)