ペアレント・トレーニング

―文献名―
「むずかしい子を育てるペアレント・トレーニング」 野口啓示著 明石書店

―要約―
はじめに
 しつけとは、親の愛情を子どもに伝えるための方法である。しかし、しつけには子どもの成長に悪い影響を与えるものと、良い影響を与えるものの2つがあることが分かってきた。子どもに悪い影響が出てしまうしつけは、多くの場合叩いたり、怒鳴ったりといった罰を伴うしつけである。これらは、子どもにしてはいけないことを伝えるというより、親は怖いといった恐怖心を伝えてしまう。それにより子どもの成長に一番大事な親子関係にダメージを与えてしまう。親子関係が悪くなると、親と子のコミュニケーションが悪化し、その結果子どもの問題行動は増加する。その状況は親の苛立ちを強め、罰を伴うしつけを生み出しやすくなる。それによって親子関係はさらに悪化するというバッドサイクルに陥ってしまう。このサイクルが始まると、抜け出すのはなかなか難しく、抜け出すための方法が必要になる。
 この本では、アメリカで生まれたペアレント・トレーニングを日本流にアレンジした10の方法を紹介する。

1.わかりやすく伝えよう [具体的な言い方のすすめ]
 例えば、「今からレストランに行くから、ちゃんとしているのよ」「今日はいい子にしていてね」という表現はどうか。これで子どもが親のしてもらいたいことを理解するのは難しい。「レストランでは走り回らないで、座って食べる」というように、具体的にしてほしい行動を伝えることが重要である。

2.ほめることで悪い面をやっつけよう [良い面を増やして悪い面を減らす方法]
 人はほめられると嬉しくなる。その体験は行動を維持するのに大きな力を発揮する。ほめ方のコツは、①ほめ言葉をかける、②何が良いかを伝える、③理由を説明する、④もう一度ほめ言葉をかける、というステップを意識すると良い。

3.がんばり表を使って子どものやる気を引き出そう
 ほめることに役立つのが「がんばり表」である。具体的な行動を取り上げ、目標をはっきりさせる。それができたら表に○をつける。①子どもが喜んでする行動、②ときどきする行動、③ほとんどしない行動、の3つに分ける。がんばり表を作るポイントは、①子どもが喜んでする行動をうまく取り入れることである。子どもが達成しやすい目標をあげて成功体験をさせて、本当にできてほしい②や③の行動を少しずつ達成させていく。

4.前もってのお約束 [ころばぬ先の練習]
 何かが起こる前に、前もって子どもに言ってきかせる方法を紹介する。ここでは4つのステップで、子どもと約束をする。①子どもにしてほしいことを説明する、②理由を説明する、③練習、④お約束、である。練習をすることで、ただ口で説明するより子どもが教えられたことをするようになる。また、親がしてほしいことを子どもが理解しているのかを確認することができる。

5.まずは落ち着こう [不安感を減らして落ち着きを取り戻すプラン]
 親の苛立ちが強くストレスの高い状況から抜け出すため、落ち着きを取り戻すヒントを紹介する。叩いたり、怒鳴ったりするような状況の時は、我を忘れた状態になっていることが多い。それは状況にうまく対処できないのではないかという不安感が強い時に起こる。そのため少しでも不安感を下げるためのリラックス方法を考えておく。ここでは3つのステップを使う。
①状況の整理   「次に(       )が起こったとき」
②体の変化を察知「私が(       )を感じたら」
③リラックス     「私は(       )をして落ち着きを取り戻します」
この( )を埋めて、落ち着きを取り戻すプランを作成する。

6.行動を分析しよう
 子どもの問題行動を分析する。ポイントは、子どもの問題行動が起こった前後の状況を観察し、何が起こっていたのかを見ることである。子どもの行動が起こる前の状況はどんな状況だったのか、どんな刺激があったのか。それによってどんな行動に至ったのか。行動の後にどんな結果があったのか。結果によって行動は強められたり、弱められたりする。
 実際に行動を変えるためには、良い結果と悪い結果をうまく使い分ける。良い結果を使うのは、前述した「ほめる」「がんばり表を使う」という方法でできるが、悪い結果を使うのはどうか。叩く、怒鳴る、という方法は多くの場合有効ではなく、子どもが「しまった」と思えるものを使う。①特権を取り去る方法(子どもの楽しみに制限を加える)、②責任を取らせる方法(汚したら掃除をするなど、したことを償わせる)などが有効である。

7.怒鳴ったり叱ったりしないで子どもをしつける方法
 これまで紹介した方法を用いて、子どもをしつける。①共感的な表現を使って、問題行動をやめさせる、②悪い結果を使い、「しまった体験」をさせる、③子どもにしてほしいことを説明する、④練習、という4つのステップを使う。

8.危機介入 [親子で身につけるセルフコントロール]
 親が落ち着くための方法は5で説明したが、そのテクニックを子どもにも教える。興奮してくると人の言うことは聞こえなくなるので、親とともに子どもも落ち着きを取り戻す必要がある。ここでのステップは「まずは落ち着く」の第1ステップと、「セルフコントロールを教えるフォローアップ」の第2ステップの2つからなる。

9.子どもの発達と親の期待
 子どもの発達と親の期待がぴったりと合っていれば、そこにストレスはない。しかし、なんだか怒ることが増えているなと感じたら、一度立ち止まって、親としてどのような期待を子どもにしているのか考えてみると良い。
 子どもが言われたことをできない状況には、言われたことが理解できていない状況、実行する力がない状況の2つがある。具体的な表現を使って親の期待を詳しく教えること、そして教えたことを実際にさせてみて、教えたとおりにできるのか確認することで、その期待が適切なものであるのか確認できる。

10.問題解決法 [子どもとの話し合いをうまく行うための方法]
 問題を解決するために、子どもとの話し合いをうまく行うための方法を紹介する。ここでは①子どもが抱える問題を整理する、②どうしたら良いかの案を整理する、③メリットを考える、④デメリットを考える、⑤どうするかを決める、というステップを使う。

【開催日】
2014年12月17日(水)