【文献名】
Philip Castle: Recommendations for the use of human papillomavirus vaccines. UpToDate ONLINE 18.3: 2010.
今野良:HPVワクチンによる子宮頚がん予防.JIM:p258、vol.20 No.4 2010
井上正樹:HPVワクチンの接種時期・抗体価・筋肉内注射の理由.日本医事新報.p81、2010年4月3日
神谷斎(ひとし):HPVワクチン.小児科診療:p2345、2009年12月号.
【要約】
【Up to Date】より
初交以前のワクチン接種- 臨床試験の結果から、HPVワクチンはHPV未感染の人たちに最も有効である。(初交以前など) なぜならHPVワクチンは予防であり、治療ではないので、すでに感染している16型または18型のHPVが発症することを防ぐことは出来ない。ワクチンを行えば、これらのタイプのHPVに対する保護的な免疫ができる。アメリカ合衆国では9歳から26歳の間の全ての女性にHPVワクチンが推奨されている。
費用対効果 ― HPVワクチンの費用対効果が複数の研究において数学的に検証された。ある研究では、米国12歳の女児全員に接種することで、20万以上のHPVの感染を予防し、10万以上の頸部細胞診の異常を予防し、近年の推奨通りに頸部がん検診を継続すれば3300例の子宮頸癌を予防すると示している。ワクチン接種年齢が増すにつれ費用対効果は低下していく。HPVワクチンが終生免疫と仮定すると、12歳の少女にワクチン接種した場合、費用対効果は1QALY(quality-adjusted life-year)あたり$43,600という報告がある一方、別の報告では26歳まで範囲を拡大して予防接種を行った場合は1QALYあたり$152,700まで上昇する。
【JIM】より
性交経験のある女性の役50~80%は、一生に一度は発がん性HPVに感染するという報告もある。しかしながら、通常、子宮頸部上皮に感染したHPVは、細胞性免疫によって死滅させられ、排除されるが、この場合には液性免疫の関与がほとんど無く、感染予防に効果的な抗体は産生されない。したがって、同一の型のHPVの再度の感染を防ぐことができず、繰り返し感染を引き起こす。ウイルスが排除されずに長期間感染が続くと、ごく一部のケースで数年~数十年間の前がん病変を経て子宮頚がんを発症する。
感染のピークは20歳代前半にあることが報告されている。日本でも同様な傾向がみられており、初交年齢の低下に伴って、子宮頚がんの発症率、死亡率ともに20~30歳代の若年層で増加傾向にある。
また、成人女性においてHPV16型、18型が子宮頸部で検出される頻度はそれぞれ6%、4%なので、これらのHPVに感染していない女性では有効性が期待できる。
【日本医事新報】より
感染者の90%はHPVは2年以内に消失している。日本においては、10代後半や20代前半では50%の感染率であるが、40歳代 以降になると5~10%である。
【小児科診療】より
女性(16~26歳)を対象とした4価HPVワクチンの第ⅡおよびⅢ相試験の統合解析結果では、ワクチン含有のHPV16および18型に未感染だった場合、これらに関連した子宮頸部前がん病変の予防に関して99%の予防有効率が示されている。2価HPVワクチンでも16型および18型による前がん病変に対して90%を超える高い予防効果が示されている。
すでに性交経験がある女性に対しても接種を奨励しており、13~26歳の女性をキャッチアップ接種の対象としている。4価ワクチンでの臨床試験で、HPV既感染者も含む最低1回のワクチン接種を受けたITT(intension-to-treat)群を解析した結果では44%の予防効果が認められたことから、キャッチアップ群での有用性もあるものと考えられる。
【考察とディスカッション】
当初、27歳以降の性交経験のある女性に対するHPVワクチン接種の有効性について調べたかったが、有用な情報は得られなかった。
しかし接種年齢を拡大して行くに連れて費用対効果は下がっていく(コストが上昇していく)ことを考えると、接種を推奨する年齢には一定の線引きが必要であろう。
27歳以上の性交経験のある女性個人のレベルで考えると、HPVの自然感染では免疫は得られず繰り返し感染するため、推奨年齢を過ぎてもHPVワクチンを接種して免疫を得ることの意義がないとはいえない一方で性交のパートナーがお互いに固定されている場合、再感染のリスクは少ない。
基本的には健診を定期的に受けることを推奨し、ワクチン接種については個別によく検討する必要がある。
【開催日】
2011年1月26日(水)