沈黙の中での苦悩:プライマリ・ケアの現場でうつ病患者が症状を打ち明けない理由

【文献名】

Robert A. Bell, et al. Suffering in Silence: Reasons for Not Disclosing Depression in Primary Care. Ann Fam Med. 2011;9(5):439 -446.



【この文献を選んだ背景】

日本の重要な社会問題として自殺があり、その原因となるうつ病の早期診断・治療がプライマリ・ケア医の仕事として期待されている。ただ外来の場面で診断することは簡単ではなく、時には診断が遅れたり、複数回の面接を重ねてようやく診断に至るCaseも少なくない。今回うつ病患者がその症状を語らない要因を分析した興味深い論文を見つけた。外来の問診の改善やFCG(Finding Common Ground)に至るプロセスの参考になったため共有する。



【要約】

<目的>

 うつ病の症状は患者から打ち明けられないことが多い。そこでこの研究ではうつ病がプライマリ・ケア医に明らかにされない患者個人の理由を調査した。



<方法>
California Behavioral Risk Factor Survey Systemの中から、ランダムに選びだした対象者のうち2008年1月から6月に回答し再調査に承諾を得た1054名の成人を対象に、2008年の7月から12月にかけてフォローアップ調査として電話インタビューを実施した。
回答者に、うつ病の症状の非開示理由、うつ病に関する信念、患者背景、健康状態、将来うつ病を診断された時の反応の予想を訪ねた。打ち明けの障壁となる特徴の分析は、記述的かつ推計統計学的(抽出された部分集団から母集団の特徴・性質を推定)手法を用いた。



<結果>
電話回答者の43%に一つ以上の非開示理由があった。もっとも多い理由は、①医師から抗うつ薬を推奨される心配によるもの(22.9%;95%CI,18.8%-27.5%)であった。

 そのほかの理由は順に、②プライマリ・ケア医の診療範囲外とみなしているから(15.6%)、③診療録が他人に見られるかもしれないから(15.4%)、④カウンセラーや心理士に紹介されるから(13.7%)、⑤精神科医に紹介されるから(13.4%)、⑥精神科患者とみなされたくないから(11.8%)、⑦個人的な情報を伝えたくないから(9.1%)、⑧診療中に泣いてしまう・もしくは感情的になるかもしれないから(7.6%)、⑨うつの話題をどう切り出していいかわからないから(6.4%)、⑩身体的な問題から話題をそらしたくないから(5.3%)、⑪うつ病の症状を伝えることで医師から低い評価をされるかもしれないから(3.6%)と続いた[Table2]。

うつ病の治療歴があるかどうかは、うつ病が打ち明けられない様々な理由の背景であった。例えば、治療歴がないうつ病患者は②プライマリ・ケア医が診る病気であるとはみなしていなかった(P=.040)。そして⑤精神科医に紹介されるのではとの悩みを持っていた(P=.036)。それ以外にも治療歴がない群は①、治療歴がある群は③⑧の理由が反対の群と比較して多かった[Table3]。

また無症状・低症状(PHQ-9が0~9)の患者に比べ、中等症~重症(PHQ-9が10~27)の患者は11の障壁のうち10でより多くの障壁を抱えていた(all P values=.014)[Table4]。
報告された非開示理由の数は、患者背景(女性、ヒスパニック、低い経済状態)、うつ病に関する信念(スティグマとみなす、コントロールできないものとみなす)、症状の重症度、うつ病の家族歴が無いことから予測された[Table5]。



<結論>

多くの成人から、うつ病のエピソード中にプライマリ・ケア医に対してはっきりと助けを伝えることを妨げうる考えが記述された。患者が症状を打ち明け、医師がうつ病について尋ねることを促進するための介入方法を開発するべきである。



【開催日】

2011年9月21日