WONCA Europeの2011年版の家庭医療の新定義(6年ぶりの改定)

【文献名】

THE EUROPEAN DEFINITION OF GENERAL PRACTICE / FAMILY MEDICINE
WONCA EUROPE 2011 Edition

【背景】

2011年12月号の日経メディカルの葛西先生(福島県立医大)と草場理事長の対談記事で、”欧州各国の家庭医療学会が加盟するWONCA(World Organization of Family Doctors)Europeの家庭医療の定義(2011年改訂版)は「個人、家族、地域を志向する人間中心のアプローチを展開する」「地域の健康への独自の責任を持つ」「患者のエンパワーメントを促進する」など12項目の専門的特徴を掲げています。
これらの専門性は時代の変化に応じて変わってきました。”とあり、2005年と比較して何が変わったのか早速ダウンロードして読みこんでみた。

【要約】

WONCA欧州の定義する家庭医の6つのコアコンピテンシーとそれに付属する家庭医の12の特徴、特徴に合わせた能力は以下のとおりである。
2005年と比較しての変化については下線で記した。

1) Primary Care Management:プライマリケアを提供するためのマネジメント
(a) 全ての健康問題を扱う際に、ヘルスケアシステム中でまず最初に医学的な出会いをする場であり、そのために利用者にとって開かれていて制限を受けないアクセスが提供されている
(b) 協調されたケア、プライマリケアの場での多職種との協働、そして患者が必要とした時に擁護者としての役割として他の職種との仲介を行い、ヘルスケアの資源の効果的な利用を図る

2) Person-centered Care:人間個人を中心としたケア
(a) 患者個人、そしてその家族や地域に基づいて人間個人を中心にしたアプローチを発展させ提供する
(b) 患者の持つ力を強める (2005年には無かった特徴)
家庭医療は患者の持つ潜在的な力や自己管理能力を強めるという目的を促進するための戦略的な立場にある。
長期間のケア、多職種協働での関わり、独特な外来プロセスと信頼に基づいた強固な関係性、人間個人を中心にした医療、
これらは患者の持つ力を強めるための持続的かつ教育的なプロセスの始発点となる。
(c) 医師患者間の効果的なコミュニケーションを通して長期間の関係性を構築するという独特の外来プロセスを持つ
(d) 長期間のケアの継続性のための準備や対策に責任を持つ

3) Specific Problem Solving Skills:家庭医特有の問題への解決スキル
(a) 地域の疾患の有病率や罹患率に基づいた臨床推論と意思決定を行う
(b) 疾患の初期の未分化な状態にも対応する

4) Comprehensive Approach:包括的なアプローチ
(a) 患者個人の急性と慢性の健康問題に同時に対応する
(b) 適切かつ効果的な関わりによって健康と福利(幸福と利益)の両方を促進する

5) Community Orientation:地域志向
(a) 地域の健康に対する特有の責任を持つ

6) Holistic Modeling: 全体論的な表現の実践
(a) 健康問題は身体的・精神的・社会的・文化的・実存的な多次元の中で扱われる
2005年ではHolistic Approachであったが、2011年ではHolistic Modelingと変更(図のみ)

これに加えて、上記の能力を教育したり学んだり、また家庭医療の実践の中で発揮するための家庭医の三つのアプリケーション機能が示されれている

1. 背景的側面:医師自身やその職業的な環境という背景についての理解
-勤務している地域への影響について理解する
-患者へのケアの仕事量とそのケアを役立てるための医療機関に対する仕事量の全体の影響に気づく
-臨床で必要な経済的・法的なフレームワークについて理解する
-医師の個人住宅や職場環境が提供するケアに及ぼす影響について理解する

2. 態度的側面:医師のプロフェッショナルとしての能力、価値観、感情や倫理観に基づく
-自身の能力や価値観について気付く
-自身について気付く
-個人的な倫理観を正しくし、明確にする
-仕事とプライベートの相互の影響に気づき、それらの良いバランスを取ろうと努力する

3. 科学的側面:批判的かつ研究を基盤としたアプローチに適用する。それは生涯学習と質改善を通して実践し維持する
-科学的研究の一般原理、方法論概念、基本的戦略についてたしなむ
-病理学、症候論、治療学、臨床疫学、意思決定理論、仮説形成・問題解決の理論や予防医学についての知識を持つ
-医学情報を読み批判的に吟味するためのアクセスを容易にしておく
-生涯学習と質改善の力を発展させ維持する

【開催日】
2012年2月29日