【文献名】
「心理療法における支持」 青木省三 塚本千秋編著 日本評論社 2005年
【背景】
元々、心理療法やカウンセリングの基本姿勢である支持療法については関心があった。たまたま今回、第8回笑い療法士発表会の特別講演として「人にかかわる営みの本質―自分自身をどう整えるか(日本臨床心理士会会長 村瀬嘉代子先生)」のプログラムがあり自己研修として聴講した。臨床医の姿勢として更なるヒントを得るため上記を読んだため共有する。
【要約】
人は誰しも自分の存在を受け入れられ、自分の素質に相応して自己を発揮し、主体的かつ自律的でありたいと、願う。この願いが満たされることは人として尊厳を保つ上で不可欠のものであろう。心理的援助を受ける際にも、可能な限り患者の自尊心が護られるようでありたい。その意味で、患者を温かく受容し、不安や緊張、恐怖などを取り除く際に、その苦悩に関心をよせ共感を抱きつつ「支持」することは、適用対象を選ぶことなく、心理療法的アプローチの普遍的・本質的な特性である。ところで言葉で規定することは容易であるが、いかに「支持」するか、その仕方は対象者の個別的特徴によってきわめて多様であること、さらに心理的援助関係とは、治療者の側が自分の営為は治療だ、支持的だと考えることが、相手によっても同様に受け取られなければならないという事情がある。
支持療法とは…(新版精神医学辞典より)支持的精神療法とも呼ばれ、一般的には患者の無意識的葛藤やパーソナリティの問題には深く立ち入らないことを原則とし、患者を情緒的に支持しながら援助し安定した信頼関係にもとづき、自我機能を強化するとともに本来の適応能力を回復させ現実状況への最適応を促す治療法である。したがって支持療法は、歪んだ自我の防衛機制や無意識的葛藤、パーソナリティの再統合を図る精神分析療法に代表されるような洞察療法に対比される精神療法である。つまり、これは人のこころの真相に触れることに畏れを知る謙虚さを基底とした「とりあえず現実的に対処する臨床の知と技」といえよう。しかし現実のケースでは、支持的なアプローチによって患者が自発的に自己の内面へ洞察が生じることがしばしば経験され、両精神療法は重複する部分がかなりある。
―心理療法が支持的でありえるための条件―
①患者の人格を認める、自尊心を大切にする
社会の中で関係性と歴史をもった全体性のある存在として出会う。対等に人として遇する。
②人間の潜在可能性に注目する
病気や病理、問題行動ばかりではなくて。
③的確な見立て
治療者の視点から見るアセスメントに加えて、患者自身が自分や外界をどのように捉え体験しているか、本人が望んでいる方向に留意する。
④治療者にのぞまれる資質
自分の内面に生起する考えや感情を善きことも悪しきことも素直に自覚する。あらゆることに開かれ、こころの窓を多く持つ。
⑤治療的距離
治療者は治療過程のそれぞれの節目の特徴に応じて様々な距離でクライエントとかかわることになる。いずれの局面においても、治療者・クライエント関係はベッタリ浅く親しい関係ではなく、的確な理解に裏打ちされた信頼関係でありたいこの自分の治療的距離をいかに把握するか。これは治療の過程途上、共感と観察という二つの矛盾した態度を同時にとること、自分の半身を相手と感情を道具にしながら交流させ、他の半分は醒めた状態でこの交流の諸相を捉えていなければならない。
⑥治療者の自己覚知と言葉
さりげない一言がインパクトをもって患者に伝わり支えとなることがある。一方、良かれと考えた治療者の言動が相手に届かずに霧散してしまうことや、相手を傷つけてしまうことがある。治療者は自分の用いる言葉の内包している意味を生き生きと具体的に思い描けるよう自分の言葉にしているであろうか。その言葉の意味を一度自分の体の中をくぐり抜けさせるような追体験してそして再度その言葉の意味を突き放して考えてみる、という過程をへて自分の言葉にすることが望まれる。平易な表現だけれども意味する内容は的確で深い、そして無理がない、そういう表現を目指していくことが求められよう。
治療者のこころの深さ、言い換えると治療者が自分を正直に洞察し、自分の課題を引き受けようとしている、その程度に応じて、相手のこころがわかるのであろう。
【開催日】2012年3月7日