緩和ケアのアップデート

【文献名】
著者名:Keith M. Swetz, et al.
文献タイトル:In the Clinic: Palliative Care. 
雑誌名・書籍名:Annals of Internal Medicine: page ITC2-2~ITC2-16
発行年:2012.

【要約】

<緩和ケア vs. ホスピス>
緩和ケアとホスピスは関連しているが、はっきりと区別できる緩和医療の形である。これらは同義ではなく、今にも亡くなろうとしている患者のためだけに用意されるべきものではない。緩和ケアは深刻な病気を抱えた患者における症状の管理、QOL、治療の目標を描くことに焦点をあてるが、その一方で、目標が治療であれば、延命やQOL・機能の最大化に焦点を当てる。ホスピスは緩和ケアの特殊な型であり、予後が半年以内の方を対象にしている。重症な患者はすべて、治療目標を明らかにして症状の評価や管理をすべきである。治療目標が不明瞭なままで、症状の管理が難しいようであれば、緩和ケアの専門医への紹介が求められる。

・緩和ケアはホスピスとどのように違うのか?
・患者が緩和ケアを受ける時、どのような治療が禁止または許容されるのか?
・大半の保険によりどのように緩和ケアの費用が支払われ、またホスピスとはどのように違うのか?
・非常に重篤な患者における予後や生存予測にはどのようなツールがあるか?
・緩和ケアチームに不可欠なのは誰か?

<良くある症状の管理>
中等~重度の痛みは、とりわけ癌において、オピオイドで管理するのが最も良い。呼吸困難もまたオピオイドで治療することが効果的である。この両者の状況で、適切にモニターされ、選択され、用量調整されたオピオイドは、呼吸抑制に関しての重大な危険性がなく使用できる。想定される関係した神経伝達物質を個々の状況に合わせたとき、嘔気の治療は最も効果的である。不安は患者にとって解決が難しいものであるが、薬物的治療を開始する前に身体的あるいは非身体的なストレスの引き金になっているものを探索すべきである。終末期の事例におけるせん妄は一般的でかつ悩ましいが、早期に認識してベンゾジアゼピンより精神安定剤で治療すべきである。抑うつは重い病いの正常な部分ではなく、症状が持続するときは精神刺激薬あるいはSSRIでの治療が、たとえ終末期の状況においても求められる。拒食症や悪液質は多因子の神経ホルモンの作用であり、経口摂取を勧める努力は、患者の癒しや楽しみのために、中心静脈や経腸の栄養よりも、特に病気の末期では優先されるべきである。

・痛みはどのように評価し管理されるべきか?
・オピオイドの副作用はどのように管理すべきか?
・特定の原因による痛みにおいてどのような追加処置を考慮すべきか?
・呼吸困難の緩和のためにはどのような治療が効果的か?
・吐き気を訴える患者にどのように制吐剤を選択すべきか?
・興奮や悲嘆をどのように評価し治療すべきか?
・重病患者におけるせん妄の管理はどのようにすべきか?
・うつは重い病いの正常な部分であるのか?そしていつ治療されるべきか?
・重症患者における拒食症の治療について、ケア提供者はいつ、どのようにアプローチすべきか?
・人工栄養や補液は患者の症状を緩和し、生命予後を改善するか?

<コミュニケーション、心理社会的、倫理的な課題>
ケアの目標や病気が進行した時に何を期待するかに関して、早期に、定期的な議論を医師、患者、家族の間で行うことは、重要であり、目標を設定する助けになり、希望を維持するのに役立つ。事前のケア計画や意思決定のための代理人としての潜在的な役割について議論することは重要である。治療の負担がその利益よりも大きくなると気付いたとしたら、その治療を取りやめることは、治療を決して始めないことと道徳的に同等である。

・臨床医は終末期の議論にどのようにアプローチすべきか?
・臨床医は事前指示を含めた、事前のケアの計画をどのように援助することが出来るか?
・生命を維持する治療をさし控えたり、撤回することと安楽死または自殺補助の間にある法的で倫理的な違いは何か?
・緩和的な鎮静は今までにも容認可能であったか?

<患者教育>
・緩和ケアに関して患者とその家族は何を知るべきか?
・緩和ケアに関して議論するには、いつが最も良い機会であるか?

<診療の質の改善>
・緩和ケアの質を評価するために、米国の利害関係者はどのような指標を使用しているか?
The Hospice PEACE set ; http://www.thecarolinascenter.org/default.aspx?pageid=46 
Covering all 8 domains of palliative care quality 
1. Structure and Process of Care
2. Physical Aspects of Care
3. Psychological and Psychiatric Aspects of Care,
4. Social Aspects of Care
5. Spiritual, Religious, and Existential Aspects of Care
6. Cultural Aspects of Care
7. Care of the Imminently Dying Patient
8. Ethical and Legal Aspects of Care
・緩和ケアの提供に関して専門組織は何を推奨しているか?
 The Center to Advance Palliative Care
 The Carolinas Center for Medical Excellence
 The :American College of Pysicians

<ツールキット>
PIER Modules, Patient Information, General Information.

<患者用情報>
・緩和とはどういう意味か?緩和ケアとは何か?
・緩和ケアの専門家は何をするのか?
・緩和ケアはホスピスと同じか?
・緩和ケアが助けになるかも知れない状況

【考察とディスカッション】
In The ClinicはUpToDateやDynamedと同様に、エビデンスに則った症候の総まとめに有用な2次文献資料であると感じた。症状や倫理的な問題への対応については、その他の文献や教科書でも載っている内容であり、目新しいものはないものの、プライマリケアの現場ですぐに使いやすい形でコンパクトにまとめられている印象である。たとえば、末期の胃がんの患者で「いらいら」で悩んだ事例が最近あり、その解決法が「興奮や悲嘆をどのように評価し治療すべきか?」の項目に記載されていて参考になった。このように、Q&A形式で臨床において重要なポイントを取り扱っており、大変勉強になる。(ちなみに皆さんは文献として何を参考に緩和ケア、終末期ケアを行っているでしょうか?)
また、日本語版のイン・ザ・クリニックhttp://www.amazon.co.jp/イン・ザ・クリニック–診療現場ですぐに役立つエビデンス–竹本-毅/dp/4895926958/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1335305467を参照すると、糖尿病、うつ病、心不全などの良く遭遇する臨床状況において、「診断」や「治療」のみならず、「スクリーニングと予防」「患者教育」、「診療の質の改善」、「患者用情報」という項目が、どのテーマでもある程度の共通した項目として挙げられており、今後、患者や家族とそのテーマについて話し合ったり、現在の自分の診療を振り返ったり、診療所でQI活動を行ったりする際に有用である。今回のテーマでいえば、診療の質改善の項目として、the Hospice PEACE set‐参考1)について、NICEのガイドライン‐参考2)と比較しながら診療所で取り組むことも一案である。
特に「診療改善」の項目については取り扱われるテーマによってはNICEよりも簡潔にまとまっているものもあり、各診療所における今後のCQIプロジェクトにおいての助けになると思われる。

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【開催日】
2012年4月25日