心血管疾患のPrimary Preventionにおけるスタチンの効果

【文献名】
著者名:Dean A. Seehusen et al. 
文献タイトル:Statins for Primary Cardiovascular Prevention: Cochrane for Clinicians Putting Evidence to Practice.
雑誌名・書籍名:American Family Physician.
発行年: 2011; 84(7): 767-769.

【要約】
<ケース>
54歳の男性が健診の目的で受診した。特記すべき既往歴はなく、喫煙なし、心血管疾患の加増歴なし。投薬なし。BMIが26であることを除けば身体診察に異常は認められない。Tcho 256mg/dl HDL 51mg/dl LDL 162mg/dl。あなたは彼のコレステロールレベルを下げるためにスタチンを投与することを考慮したが彼の心血管イベントのリスクが下げられるかどうか疑問に思った。

<臨床上の疑問>
スタチンは冠血管疾患の既往のない人の心血管系疾患イベントを減らすか?
<エビデンスに基づいた解答>
これまでの臨床研究ではスタチンは総死亡、心血管系疾患の複合アウトカム、血行再建術を減少させることを示してきた。しかしながら、多くの臨床研究は多数の心血管疾患の既往を持つ患者が含まれている。初回の心血管系イベントの予防に対するスタチンの効果を示す正確なエビデンスは不足している。

―Cochrane systematic reviewの要約―
<目的>
心血管疾患の既往のない人におけるスタチンの効果(benefitとharm双方)を評価する。
(文献検索の方法)
検索の労力が重複することをさけるため、過去のシステマティックレビューの一覧をチェックした。その後、Cochrane Central Register of Controlled Trials (Issue1, 2007)、Medline(2001-2007年3月)、EMBASE(2003-2007年3月)を検索した。言語による制限はしなかった。
(文献選択の基準)
1年以上スタチンを投与し6か月以上のフォローアップを行った成人を対象としたランダム化比較試験。LDLコレステロール、HDLコレステロールどちらを測定していても良いこととした。心血管疾患の既往のある患者が10%以下の試験を選択した。
(データ収集と分析)
2名の著者が独立して作業を行った。アウトカムには総死亡、致死的・非致死的冠血管疾患、心血管疾患、脳卒中、複合エンドポイント、総コレステロール値の変動、血行再建術、副作用、QOL、コストが含まれた。
非連続データとしてRelative risk (RR) 、連続データとしてpooled weighted 平均値の差(95%CIも)を計算した。
(結果)
14のランダム化比較試験(34,272人)が選択された。11の試験が特定の条件下にある患者(脂質の上昇、糖尿病、高血圧、微量アルブミン尿)を対象としていた。スタチンの投与により総死亡は減少(RR=0.83; 95%CI 0.73-0.95)、致死的・非致死的心血管系疾患の複合エンドポイントも同様に減少(RR=0.70; 95%CI 0.61-0.79)した。血行再建術についても同様の結果(RR=0.66; 95%CI 0.53-0.83)であった。総コレステロール値、LDLコレステロール値はすべての試験において減少していたが、その程度は不均一であった。スタチンの投与による重大な副作用やQOLに対する確実なエビデンスは得られなかった。
(結論)
スタチンは重大な有害事象を増やすことなく総死亡、心血管系疾患の複合エンドポイント、血行再建術を減少させることが示されたが、有害事象を報告していない試験や心血管系疾患を既往に持つ患者を含んでいたり、選択的にアウトカムを報告しているものも認められた。スタチンによるPrimary preventionが費用対効果に優れているか、患者のQOLを改善するかと言う点に関しては限られたエビデンスしかない。心血管系疾患のリスクの低い患者に対してスタチンを投与することについては慎重であるべきである。

<コメント>
 このレビューは心血管系イベントのPrimary preventionにスタチンは有効ではないことを示しているわけではないが、心血管疾患を有さない患者におけるスタチン使用を懸念する文献の注目すべきギャップに焦点を当てている。初回の心血管系疾患を予防するためにスタチンを投与するかどうかを決定する際にはすでに妥当性が評価されているFramingham risk scoreによる患者のリスク評価がしっかり行われるべきであろう。リスクが非常に高い患者ではスタチンの投与は有効であろう。中等度、軽度リスクの患者ではスタチン使用の有効性が明らかではないため、患者にはこのエビデンスのギャップを伝え、心血管系疾患の予防効果の可能性と、薬を飲む不便さ、コスト、有害事象について議論した上で投与を決定すべきである。

【開催日】
2012年6月27日