-文献名-
ファシリテーション入門 日本経済新聞社 2004
ファシリテーター養成講座 ダイヤモンド社 2007
-要約-
ファシリテーター(促進者)とは、参加者の心の動きや状況を見ながら、実際にプログラムを進行して行く人のこと。ファシリテーターの媒介によって、参加者の本来的な学びが促進され、体験したことを次のステップへと、結びつけることが容易になる。
「グループ・プロセス」
グループの中で起っていることには、大きく分けて二つの側面がある。一つは「コンテント」。グループの話題や課題、作業や仕事などの内容的な側面で、通常、何をしていたか、何を話していたかと問われて答えるもの。二つ目が「プロセス」。グループの中で起こっている人と人との関係的過程。グループ・メンバー個人の内にある感じ方(感覚)、考え方(価値観)、気持ち(感情)、欲求(意図)、そして外に出る行動と各個人のそれらの相互の影響関係の総体が「グループ・プロセス」という。このグループ・プロセスのデータを収集する作業が「ふりかえり」であり、グループ・メンバーがどのように観察したか、考えたかを提供しあう作業が「分かちあい」である。
【ファシリテーターはプロセスに関わる】
(1)プロセスを観察すること。グループ内のコミュニケーションのデータ、意思決定のデータ、雰囲気のデータなどを観察して、いまグループはどのような状態であるかを診断する。
(2)プロセスに介入すること。いまのグループに必要な介入は何かを考えて、グループやメンバーに質問をしたり、明確にしたり、表出されている感情をサポートするなど、グループの状況にかかわりを持つこと。
(3)プロセスをデザインすること。これはファシリテーターの役割の中で最も難しいもので、介入に際してファシリテーターは何種類かの予測をたてて、その中から介入を選択する。
ファシリテーターとして求められることとして、「内的動機づけ」を引き出すことがある。そのためには、参加者の主体性を引き出す援助をすること、経験をより大きな気づきへと導くこと、状況を見ながら適切な介入を行うこと、が望まれる。介入するポイントは、たとえば、アクティビティが円滑に進行していない時、実施のルールが守られていない時、グループでの課題達成が難しいと判断された時、ふりかえり・わかちあいが進んでいない時、参加者から質問を受けた時、などがあげられる。ただし、主体的な学びのプロセスを妨げないように配慮が必要。ファシリテーターとしては、何らかの目的や意図をもってかかわっているので、つい自分の思いを達成したいあまりに、気づきを押し付けるような、ある種の”操作”をしがち。介入とは「しなくてはならないこと」ではなくて、「必要があった時にあえて行なうもの」と考えられます。進行が自然であれば「何もしない介入」もあるという認識が大切。例)「このような見方もできますが、どうでしょう?」
【相互作用によって枠組みを打ち破る】
考え方を変えることは難しい。変える方法として、1つは「内省」。(コーチ、カウンセリング)もう1つが「相互作用を使って自分の枠を打ち破るファシリテーション」。他者とぶつかり、互いの違いを知ることで自分の壁を悟り、新しい自分を発見していく。
【ファシリテーションの4つのスキル】
1.場のデザインスキル ~場をつくり、つなげる~
何を目的にして、誰を集めて、どういうやり方で議論していくのか、相互作用がおこる場づくりからファシリテーションは始まる。目標の共有から、協働意欲の醸成まで、チームづくりの成否がその後の活動を左右する。中でも大切なのが活動のプロセス設計。問題解決プロセスをはじめ、基本となるパターンをベースに、活動の目的とチームの状態に応じて段取りを組み立てていかなければならない。
2. 対人関係スキル ~受け止め、引き出す~
活動がスタートすれば、自由に思いを語り合い、あらゆる仮説を引き出しながら、チーム意識と相互理解を深めていく。問題解決でいえば、発散のステップ。ファシリテーターは、しっかりとメッセージを受け止め、そこにこめられた意味や思いを引っ張り出していく。具体的には、傾聴、復唱、質問、主張、非言語メッセージの解読など、コミュニケーション系(EQ系)のスキルが求められる。内的動機づけを創りだす。うまいきっかけをつくれても、成果を横取りしてはいけない。(参加者に、やらされ感がでてしまう。)
3. 構造化スキル ~かみ合わせ、整理する~
発散が終れば収束。論理的にもしっかりと議論をかみあわせながら、議論の全体像を整理して、論点を絞り込んでいく。図解など使いながら、議論を分かりやすい形にまとめていくことがある。ロジカルシンキングをはじめとする、思考系(IQ系)のスキルが求められる。図解ツールも覚えておくとよい。
4. 合意形成スキル ~まとめて、分かち合う~
議論がある程度煮詰まってきたら創造的なコンセンサスに向けて意見をまとめていく。問題解決でいえば、意思決定のステップ。多くの場合には、ここで様々な対立が生まれ、簡単には意見がまとまらない。対立解消のスキルが求められ、ファシリテーターの力量が最も問われるところ。ひとたび合意ができれば、活動を振り返って個人や組織の学びを確認し、次に向けての糧としていきます。
【ハプニングへの心構え】
ファシリテーターは、体験の場を創出する人。参加者からの台本にない反応を前に、時に「どうしよう」と途方に暮れることもある。操作的でなく進行させた場合、スタッフが意図した通りに進むことは稀。むしろ予想外のハプニングが起こるからこそ”体験”。とにかく、「どこまで参加者を信頼できるか」「参加者自身にどれだけ預けることができるか」など、これまでの”過程”を思い起こしながら、一歩引いた冷静な状況判断が必要となる。ファシリテーターとしては、どれだけ過程が見えているかが問われるところ。ファシリテーターは指導者ではないので、全ての解答を用意している必要はない。「葛藤を誘う場面を用意すること」と、「主体的な発言を促すこと(参加者のやる気)」ができれば、あとは主役の参加者と共にプロセスに参加し、共に育つ『共育者』であることが大切。
開催日:平成25年6月12日