心房細動をもつフレイルな高齢者における、VKA(vitamin K antagonists)からNOAC(Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant)への切り替えの安全性: FRAIL-AFランダム化比較試験の結果から

-文献名-
Linda P T Joosten, et al. Safety of Switching From a Vitamin K Antagonist to a Non-Vitamin K Antagonist Oral Anticoagulant in Frail Older Patients With Atrial Fibrillation: Results of the FRAIL-AF Randomized Controlled Trial. Circulation. 2024; 149(4): 279-289.

-要約-
●Introduction
・Afに対する抗凝固療法を新規に導入する際は、VKAよりも、これまでの研究から出血リスクの少ないとされているNOACが選択されることが多い。
・一方で、高齢Af患者では30-40%がVKAで管理されているとされる。
・VKAで管理されている心房細動のフレイルな患者において、NOACに切り替えるべきかどうかは定まった見解がなく、これまでの研究は観察研究にとどまっていた。

●Method
・多施設共同(オランダ)、非盲検、pragmatic randomized controlled superiority trial
・フレイルで高齢の(75歳以上+Groningen Frailty Indicatorスコア*3以上)心房細動の患者を、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替える群(VKA中止後INR 1.3未満となったらNOAC開始。NOACの種類は主治医の裁量に委ねられた)と,VKA治療を継続する群(INR 2.0-3.0で管理)に無作為に割り付けた。
・GFR 30未満または弁膜症性心房細動の患者は除外された。
・追跡期間は12ヵ月であった(1,3,6,9,12か月目に電話によるインタビューを実施した)。
・死亡を競合リスクとして考慮し、主要アウトカムである大出血(*定義:致死的出血、Hb 2以上の低下を伴う出血、赤血球輸血2単位以上を要した出血)または臨床的に関連性のある非大出血合併症(*定義:次回受診を早める必要があった出血、何らかの医学的介入を要した出血、入院やケアのレベルを高める必要があった出血)のどちらか先に発生した場合の原因特異的ハザード比を算出した。
・解析はintention-to-treatの原則に従った。
・副次的アウトカムには血栓塞栓症のイベントが含まれた。

*訳者注:Groningen Frailty Indicatorとは:日常活動(買い物、外出、更衣、トイレ移動)、健康問題(身体的健康、視力、聴力、体重減少、4剤以上の服薬、記憶)、心理機能(空虚感、孤独、見捨てられ感、落胆、不安)といった3ドメイン、15項目を検討し、4項目以上問題を抱える場合、フレイルと判定する。(参照:公益財団法人長寿科学振興財団『総論 フレイルの全体像を学ぶ 2. フレイルの評価方法と最新疫学研究』(https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-2-2.html) 2024/7/16閲覧)

Supplement S1 (Supplemental Materialのうち、一番上のpdfファイル内)
https://www.ahajournals.org/doi/suppl/10.1161/CIRCULATIONAHA.123.066485

●Results
<概要>
・2018年1月から2022年6月の間に実施
・合計2621例の患者が適格性をスクリーニングされ、1330例が無作為に割り付けられた(平均年齢83歳、Groningen Frailty Indicatorスコア中央値4。除外患者は、フレイルの基準を満たさなかったものが大半)。
・無作為化後、除外基準の存在によりVKA→NOAC群の6例とVKA継続群の1例が除外され、intention-to-treat集団ではVKAからNOACに変更した662例とVKAを継続した661例が残った。

(各群の特徴)

-出血リスクのスコアである、CHA2DS2VAScスコアは各群で同等だった。

・163例の主要転帰イベント(切り替え群101例、継続群62例)の後、事前に規定した無益性解析により試験は無益のため中止された。
・主要転帰のハザード比は1.69(95%CI、1.23-2.32)であった。血栓塞栓イベントのハザード比は1.26(95%CI、0.60-2.61)であった。

(primary, secondary outcomeの結果のまとめ)

(最初の出血までの、各群のcumulative incidence curve)
(サブグループ解析)-NOACの種類によりHRに違いはみられるものはあるが、post hocで非ランダム化解析のため解釈には注意が必要。

<結論>
心房細動を有するフレイルな高齢患者において、INRガイド下のVKA治療からNOAC治療に切り替えることは、VKA治療を継続することと比較して出血性合併症の増加と関連したが、血栓塞栓性合併症の減少は関連しなかった。

●Discussion
・オランダではPT-INRによるビタミンK拮抗薬の用量管理の質が高く、Federatie van Nederlandse Trombosediensten(オランダ血栓症サービス連盟)の年次報告書によれば,INR の至適範囲内時間(TTR)は65.3~74.0%である。
→INRガイド下VKA管理で安定している(TTR≈70%)患者をNOACに切り替えるかどうかは、大出血または臨床的に関連性のある非大出血のリスクが高まるという本論文の結果から、慎重に検討すべきである。(本文に記載あり)
→一方で、TTR が低い患者では、状況に応じてDOAC への切り替えが許容できる例が存在する可能性はあると思う。(訳者が記載)

・NOACの選択は治療医の裁量に任されていた点は、結果に影響した可能性はある。観察研究では、リバーロキサバン(本試験で最も処方されたNOAC)は他のNOACよりも出血性合併症が多く、特に消化管出血が多く、高齢者ではアピキサバンの安全性プロファイルが最も優れている。とはいえ、処方されたNOACの種類は非ランダム化であったため、このフレイルな集団において一方のNOACが他方のNOACよりも優先されるべきかどうかについては、本試験では答えることができない。

・デザイン上、試験手順は盲検化されておらず、さらに、NOAC群では患者がVKAを(まだ)服用している間にいくつかの出血イベントが発生し、その逆もまたしかりであった。しかし、これらの出血イベントのうち、無作為に割り付けられた抗凝固薬の投与中以外に発生した割合は、両治療群とも少なかった:NOAC群では101例中7例(6.9%)、VKA群では62例中5例(8.1%)であった。

【開催日】2024年8月14日