- 文献名 -
Mark H. Ebell, MD, MS, Jerold Lundgren, BS and Surasak Youngpairoj, MD, MPH. How long does a cough last? Comparing patients’ expectations with data from a systematic review of the literature. Annals of Family Medicine. 2013 Jan-Feb; 11(1):5-13.
- この文献を選んだ背景 -
風邪は治ったが咳がつづくので咳止めがほしいという患者に外来でよく遭遇するため、症状持続期間の正常範囲について適切な説明を行えるよう、この文献を選んだ。
- 要約 -
【目的】
acute cough illness(ACI)に対する抗生剤乱用の原因のひとつに、ACIの自然経過と患者の予測との間の相違があるのではないか、と仮説を立て検証した。
【方法】
ジョージア州在住の成人493人に対してランダムに電話調査を行い、彼らの予想するACIの持続期間について調べた。また、これまでに発表された文献からACIの持続期間を同定するために、観察研究およびランダム化比較研究のプラセボ群・無治療比較群のシステマティック・レビューを行った。この際、原因を特定できないACIで明らかな細菌感染がなく、1回以上の咳症状があり、フォローアップ期間が1週間以上である健常成人の研究を対象とした。
※電話調査について(補足)
・2年毎に行われるジョージア州の世論調査(?)の一部として行われた
・6つのシナリオからランダムに1つ選んで説明した上で、咳の持続時間を予測してもらい、抗生剤が有効だと思うか聞く。
「あなたは具合が悪く、主な症状は咳です。薬は飲んでいません。具合が悪くなってから、
良くなって咳が出なくなるまでどのくらいかかると思いますか?」
■咳は3種類(黄色痰、緑色痰、乾性咳) / 発熱ある・なし
・ACIに対する抗生剤使用歴、喘息あるいは慢性肺疾患、その他の慢性疾患に罹患しているか
【結果】
文献によると咳症状の平均持続期間は17.8日間であった。電話調査の回答の中央値は5-7日間、平均持続期間は7.2-9.3日間であった(シナリオによって異なる)。白人、女性、自己申告で喘息あるいは慢性肺疾患に罹患していると答えた人は、症状持続期間を長めに回答する傾向があった。抗生剤が常に有用だと回答した人の独立予測因子は、有色人種(OR = 1.82, 95% CI, 1.14-2.92)、大卒以下(OR = 2.08, 95% CI, 1.26-3.45)、ACIに対する抗生剤使用歴(OR = 2.20, 95% CI, 1.34-3.55)であった。
【結論】
現段階で最良のエビデンスに基づいて、患者の予測するACIの持続期間と実際の経過にズレがあることがわかった。不適切な抗生剤使用を減らすためには、この相違をターゲットに取り組みを行っていく必要がある。
- 考察とディスカッション -
今回の研究の対象となった集団は、人種がちがうものの年齢層やセッティングなど現在働いているクリニックに比較的近いのではないかと感じた。患者のもつ風邪の期間に対する考え方も同じような印象をもった(たいてい1週間程経って治らないと受診する傾向にある。)私自身、風邪の治癒までの期間についてpost-infectious coughで長引くことはあるなと思いつつ、2-3週間咳が続く人には、抗生剤の処方こそしないが、結核や肺癌が心配になり、胸部Xpを撮ることがあった。ただ、この研究で咳症状のみを根拠にはしてはいけないと改めて反省した。
また、家庭医療のコア・コンピテンシーであるPCCMにおいて、患者の持つillness expectationと臨床的事実の間のギャップを埋めるべく共通の理解基盤を構築していく過程があるが、そのバックグラウンドとして今回のようなmassな患者を対象としたillness expectationの調査は有用だと感じた。
開催日:平成25年6月19日