社会的処方から利益を得る道筋

-文献名-
Steps to benefit from social prescription: a qualitative interview study
Kirsty Payne, Elizabeth Walton and Christopher Burton
British Journal of General Practice 2020; 70 (690): e36-e44.
DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X706865

-要約-
【Introduction】
社会的処方は、個人や集団におけるさまざまな病い、苦悩、健康関連行動に対処する手段として広く推奨されてきました。これは一般的に、さまざまな社会的、実際的、感情的なニーズを持つ患者を、医療関係者から非公式またはボランティアの組織に紹介することと理解されています。そうすることで、特にプライマリケアの場で、従来の医学的治療に付け加わるものを提供します。
社会的処方には、友達作り、福祉給付の助言、健康行動の促進、グループ活動、ボランティアなど、幅広い活動が含まれます。活動が多様なので、社会的処方の有効性に関する量的エビデンスは少なく、システマティックレビューでも社会的処方の客観的な有効性に関する絶対的な結論が得られていないことも、当然かもしれません。それでも、社会的処方が有益になるかもしれない多くのありうるメカニズムがあります。これらには、弱みの逆転や強みの増進が含まれます。対処される弱みには、自尊心や自信の低さ、メンタル不調や気分の悪さが含まれます。個人の強みには、社会的能力やコミュニケーション能力の向上、希望や楽観性や人生の意味を増強して未来の目的に向かう意欲を増すことが含まれます。
この研究の目的は、社会的処方された活動を行う人に、社会的処方が助けになりえる道筋を探ることです。

【Method】
社会的処方された活動を行う人に面接を行い、社会的処方から得た利益をどのように認識しているかを同定するよう、質的研究を行いました。同時に、社会的処方された活動についての出版されている質的データを体系的に調べ、この研究で明らかになったテーマやモデルを公開されている研究結果に照らし合わせて検証しました。
<設定・参加者・サンプリング>
参加者は全員、シェフィールドを拠点とする社会的処方を行う組織であるSOARから、2017年11月から2018年4月までの間に、意図的に抽出されました。SOARを利用する成人を、利用期間、主な紹介理由、SOAR内で利用したサービスの種類によって意図的に抽出して、研究への参加を募りました。主なテーマについて飽和状態に達するまで、研究への募集は続けられました。飽和状態とは、2回の連続する面接で、新しい大きな発見が何も得られなくなった状態と定義しました。
<データ収集>
面接は半構造化されていて、トピックガイドに従って行われました。トピックガイドは、研究期間中に進めている分析に基づいて新しい項目を含められるようにしました。面接は録音され、分析するために文字起こしされました。
<分析>
解釈的現象学的分析(interpretive phenomenological analysis)に基づくアプローチを使いました。分析は、文字起こしされた全体を読み、テーマごとにコーディングし、二次的にコーディングし、テーマをまとめ上げるという段階を経て行われ、新たに出現したコードは過去の記述に照らし合わせてチェックされる反復的手法も用いて行われました。文字起こしは2人の研究者が読み、他の2人の研究者が毎週ミーティングを行なってコーディングについて議論し、修正しました。既に出版されている社会的処方された活動に参加した人の体験についての質的研究を参照することによって、分析は影響を受けています。
<Systematic review>
9つ(Medline, PubMed, Cochrane Library Reviews, Scopus, Open Grey, CINAHL,
ASSIA, Web of Knowledge, Social Care Online)のデータベースを、4つの検索語(social
prescribing, community referral, socially prescribed activity, non-clinical referral)で検索しました。4749個の文献が見つかり、そのうち17個が社会的処方された活動に関する参加者の見解を、質的手法を使って明らかにした物でした。これらの研究の結果に提示された社会的処方された活動への参加者の言動は、面接の文字起こしと同じ方法で内容やテーマを分析しました。

【Results】
合計で17人に面接が行われました。参加者の年齢は45〜84歳で、男性6人、女性11人、15人が白人の英国人でした。参加者の郵便番号から、大多数が社会経済的に恵まれない地域に住んでいて、そのうち9人は英国で最も恵まれない10%の地域、14人は最も恵まれない30%の地域に住んでいることがわかりました。
参加者は、さまざまな理由で社会的処方を利用し始めましたが、一般的なのは生活環境の変化や精神的な変化に対応するためでした。
社会的処方の組織に参加している期間は6か月から5年で、参加している活動は、アドボカシー(福祉給付の助言など)、身体活動(健康トレーナーやエクササイズや水泳など)、ウェルビーイング(ヨガや散歩や痛みのマネジメントコースなど)、スキル(アート、工芸、モデリング、調理など)、社会(ソーシャルカフェ、他のグループ)、ボランティア活動でした。
テーマ分析では、5つの主要なテーマが作られました。社会的問題に対する専門家のサポートを受けること、社会的処方された活動に参加することで他者と関わること、他者と関わるさまざまな方法を身につけて新しいスキルを身につけること、個人的な強みを認識したり新たな将来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること、将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと、です。これらのテーマは、参加者の報告の中で一貫した順序で生じていて、最初の紹介からサービス後の進展までの見通しに役立ちます。
SPA:socially prescribed activities

<社会的問題に対する専門家のサポートを受けること>
福祉やライフスタイルに基づく問題に対する1対1のサポートと、SOARのトリアージワーカーやグループコーディネーターやアドボカシーワーカーによる活動への個別化されたリンキングがあります。利用者は「親しみやすく、熱心な」個性と、「信頼できて、誠実な」専門性のある初期サポートを高く評価しました。
利用者がもつ問題に対する良い結果や解決に関連するだけでなく、専門家の良い特性によって利用者が普段の社会的環境以外で他者と関わることができるようになりました。一部の利用者には、これが孤立からグループでの社会的交流への足がかりとなり、社会的処方された活動に取り組むのに必要な励ましや自信やモチベーションをもたらすものとなりました。
初期サポートは通常、実際的で社会的な問題に対するものでしたが、1対1の問題解決からもっと社会的な活動に「橋渡し」することに役立つサポート資源にも、利用者は価値を見出しました。だから、専門職によって利用者が社会的処方された活動を紹介されるだけでなく、社会的処方された活動チームのメンバーが初回のセッションに同行することもあります。多くの利用者は、この段階でこのようなサポートがなければ、社会的処方された活動にたどり着けなかったり、さらなる発達段階に進めなかったりするかもしれないと感じていました。この橋渡しに引き続き、必要な時にはサポートを受けられると知ることも大切なことだと、参加者は思いました。
スタッフは、地域のグループや活動やサービスの情報も提供し、利用者が自発的に参加できるようにしました。
既存の質的研究でも、社会的処方をする人やリンクワーカーの役割に関して似たようなテーマが見つかりました。

<社会的処方された活動に参加することで他者と関わること>
このテーマは、利用者が目的を持って楽しい活動に参加し、他の人と新しいつながりを作ることが組み込まれています。
活動は主に、利用者に「すること」を提供し、利用者の時間にルーチンと構造を生み出します。退職後の利用者の中には、在職中に感じていた目的意識を回復したと感じる人もいました。
参加することで得られる集中力、方向性、喜びも、困難な過去や現在の状況から気を紛らわせるものとして、価値を認められました。また、活動を通じてできることについての認識が変わったと述べた参加者もいました。
出版されている研究でも、社会的処方された活動が、社会的孤立を減らす機会であることと同様に、普通の日常生活を補完する新しい機会として価値を持つことに関連するテーマが含まれていました。これは、社会的処方された活動が退職者や無職の人にとって「何かすること」として有益であるという言説によく表されています。
一方で、参加者の多く、特に他者をケアする大きな責任を持つ人は、社会的処方された活動を息抜きの資源として評価していました。他者と交流することは、環境を心地よいものにするのに役立つとともに、活動を楽しくて目的のあるものにする主要な部分として認識されています。

<新しい技術や他者と関わる方法を身につけること>
利用者が活動や他者との関わりを続けるにつれて、社会的に学んだり発達したりすることができ、新しい創造的で実践的な技術を身につけることもできました。利用者は過去の経験を共有することを通じて、グループの他者とより良い関係性を作ることができたと述べました。このことで、自分自身の経験や、それに対応する他者の経験について、利用者が新しい認識に達することも可能になります。グループ内で相互支援のネットワークが発展し始め、共有することで多くの利用者が自分だけが困難を抱えているのではないことを理解できるようになり、状況を適正化し、コミュニティの中での立ち位置を再確認しました。
利用者は、他者から自信や対処法を学んで、より強く、よりレジリエンスを持つ人になりました。体系化された学習機会によって、利用者はさまざまな興味のある分野で技術を身につけることができました。ある活動や人々のグループに参加することで、利用者はコミュニティに参加したり経験を広げたりする機会についても学びます。
これらの利用者の経験は、他の研究で述べられた社会的処方された活動を通じた学習の認識に類似していました。さまざまな研究で、個人的で実践的な技術と、共有された経験の価値の両方が発展することが示されています。

<個人的な強みを自覚したり新しい未来の可能性に心を開いたりすることによって認識を変えること>
社会的、そして個人的に発達すると、利用者の自分自身の強みや未来についての認識の変化が促進されました。改善したり前向きに強くなったりすると、利用者の自信や自尊心や個人の強みの認識が高まり、社会的処方された活動自体がそれらの強みを利用したり新しい強みを生み出したりする機会をもたらしていました。これらの過程を通じて新しい自己認識を作り、生活が以前よりも建設的で充実したものであると感じる参加者もいました。こうした変化によって、自尊心を向上させ、潜在的能力を自覚して、新しい目的や未来への野望に向かうことが促がされました。
新しい社会的つながりの支援を受けて利用者の自己認識が改善すると、日常生活で直面し続ける困難はあっても利用者はもっと自信を持ち、自立し、レジリエンスを持つことができるようになりました。コミュニケーションやソーシャルスキルを改善することで、利用者は自信を持ち、自己主張できるようになり、実践的で生活に基づいたスキルによってレジリエンスや自立の度合いが増しました。
新しいスキルの学習や開発によって、利用者が自分自身を向上させ、将来の可能性を洞察することが可能になりました。これらの開発は、自信、自尊心、将来の発展のための新しい意欲や機会を前向きに見通すことを強めます。人によっては、目的のある活動は、「朝ベッドから出る理由」になっていました。
同じような体験をしている他者に触れ合うことで、利用者は自分自身の進歩や自分が関わった他者の進歩を振り返ることができました。利用者は同じような状況からさらに前進してきた人と体験を共有し、そうすることで今とは異なっていたり、よりマシだったりする未来の可能性に心を開くようになりました。言い換えると、利用者は現在の状況について、より希望を持った見通しを持つようになりました。これは、グループ内でも、もっと一般的な日常生活でも、将来の機会に対する利用者の期待を反映していました。
自信、新しい自己認識、自尊心、目的意識を増やすことなど、このテーマのさまざまな面は、出版されている研究にも見出されました。とはいっても、これらが他の社会的処方された活動の面とどのように関連するのかは、常に明らかなわけではありません。

<将来の目的とより良い健康を追求して前進しながら現在についての前向きな見通しを育むこと>
希望の感覚と個人的な強みの認識によって、利用者は人生が以前より楽しくて充実させられるものになったと思うようになりました。精神的にも身体的にも健康を改善することとともに、これは目標達成への障害を減らし、利用者が将来の目的やより健康になるように前進できる基盤を形成しました。
自信、自尊心、独立性、モチベーションの改善によって、利用者は新しい目標を設定できるだけでなく、積極的にその目標を追求することができるようになりました。これは、利用者の成功の可能性に関する未来に対する期待や楽観主義によっても促進されました。
一部の利用者にとって、社会的処方された活動は、運動、禁煙、健康的な食事などの健康を改善する行動への取り組みを促進しました。運動をベースにする活動に取り組んだ利用者は、減量や血圧低下など身体的健康が改善しました。そこまで公式ではない活動でも、利用者は「家から出て」、活動量が増えて痛みが減ったという点で、良い結果が見られました。
しかし、健康の目的を追求するためには、自己と将来への肯定的な認識が必要です。利用者は健康教育を社会的処方された活動の価値ある部分であると認識していましたが、適切な程度の自尊心や、自分の可能性の認識や、将来が今と違う可能性を受け入れることがなければ、前向きの健康行動に取り組む可能性は低いでしょう。利用者の健康の結果や、自分自身や将来の認識の変化は、このように、健康改善の更なる目的に影響していました。

<段階の順序>
17人中7人の参加者に、5つすべての段階が生じていました。6人は最初の段階をとばして、GPをはじめとする医療専門職に勧められて、自分で社会的処方された活動に応募しました。社会的処方された活動に一度参加すれば、こうした利用者はこのモデルの次の段階に進みました。第1段階から始めた参加者と比較すると、これらの参加者は社会的、医学的、精神的な問題が少ない傾向がありました。
ある段階から他の段階への移行を明確に述べた人はほとんどいず、その順序は面接での説明から推察されました。2人の参加者は最初の取り組みとアドボカシーから進まず、3人はソーシャルカフェについてだけを語り、残りの12人の参加者は2〜6個の活動に参加したことを述べました。
すべての参加者が最初の段階から最後の段階まで進んだわけではありません。
より早期の段階の参加者は、ウェルビーイングの改善を専門家の支援と活動への参加の結果として語りました。しかし、これらの改善は一時的なもので、利用者がサポートなしで継続的に前に進んでいく自信や希望やレジリエンスを促進するには不十分でした。

【Discussion】
<まとめ>
社会的処方された活動に参加した人は、わかっている利益につながる一貫した一連の段階について述べました。これらは、個人的に特定された問題への専門家のサポートを受けることから、他者と関わる新しい技術や方法の開発を通じて、将来の認識や意向を変えることまで、一連の流れを形成していました。この一連の流れによって、社会的処方を受けた人がどのように利益を得るのかについて、もっともらしく、本質的に社会的な説明を作り出しています。

<強みと限界>
募集はたった一つのセンターからのみ行いましたが、SOARは、健康の社会的決定因子が大きく影響する、慢性疾患が多い伝統的な労働者階級の地域で、大規模にサービスを提供しています。この地域は文化的多様性が富んでいるにも関わらず、参加した人の中に45歳未満の人はいず、白人の英国人が多かったですが、SOARの利用者を広く代表していました。募集時点では、参加者はさまざまな活動に取り組んでいましたが、アドボカシー活動にだけ取り組んでいたのは2人だけで、社会的処方された活動全体から得られるより幅広いメカニズムのいくつかにアドボカシーがどのように関連しているのかを探る可能性は限られました。ただ、何人かは最初の問題解決の段階としてアドボカシーサービスに取り組み、それが他の分野での更なる関わりと活動への足がかりとなりました。
コーディングの過程は、定期的なミーティングでのコーディングと、最初のコーディングを終了した後に再度すべての文字起こしを読んでより良いコード化がないかを探すことで、厳格になるように設計しました。
面接と分析は、出版されている文献のテーマと統合しながら実施しました。バイアスが生じる可能性はありますが、他の研究に結びつけることで、調査結果に強度が加わりました。個々の質的研究の統合や、社会的処方が効果的であるかもしれないメカニズムの包括的なモデルについての既存の研究は、見つけられませんでした。
何人かの参加者は、コミュニティの組織が直面する資金確保の困難さを強く意識していて、組織やグループが閉鎖された場合に起こることについて比較的悲観的な見方を示しました。これにより、サービスが参加者にとってどれほど有益なものであったかについて、説明が誇張されていた可能性はあります。

<既存の文献との比較>
それぞれの主要なテーマは、社会的処方についての既出の研究に反映されていて、そのことは結果の欄に記述しています。しかし、今回の研究で特定したすべてのテーマに触れている研究はこれまでなく、その段階の順序を特定したものもありませんでした。だからこの研究は、社会的処方が有益でありそうな道筋についての知識を拡張するものです。

<研究と実践への影響>
この研究からの重要な結果が2つあります。1つ目は、社会的処方された活動に取り組む人が利益を得る妥当な一連の過程を概説したことです。これはサービスや、サービスを依頼する人に情報を提供するために使用できます。2つ目は、社会的処方の社会的要素が強調されていることです。今回概説した過程は本質的に社会的で、個人自身よりも個人間の相互作用の方に関連しています。
これらを合わせると、GPや依頼者は、社会的処方の重要な個人間の内容や社会的な内容を自覚している必要があります。これは社会的処方を大規模に行ううえで3つの意味を持ちます。
1つ目は、社会的に孤立している人を巻き込む仕事が重要であるということです。2つ目は、今回の研究で得られた一連の過程はあるものの、参加者は非常に個別性の高い説明をしており、サービスを標準化しようとするとこうした個別性が失われる危険があるということです。利益を生み出すと思われる社会的交流は、プロトコール化も厳密な管理もできません。3つ目は、健康的な行動や職場復帰のような「下流の」目標に焦点を当てると、この研究で参加者が述べたような、良い生活を送るための重要な改善を見逃してしまう可能性があることです。これらに焦点を当てると、人々が自分のペースや自分のレベルで成長していくことを許容するよりも、むしろ人々を遠ざけてしまう危険があるかもしれません。
更なる研究という点では、この研究は一連の過程を見出しましたが、社会的処方が機能するメカニズムを完全に理解するためには、できればもっと長い期間個人を前向きに追跡して、更なる研究をすることが必要です。
現時点では、社会的処方が有益であるメカニズムを記述したり概説したりすることによって、この研究をもとにした研究を行うべきです。社会的処方は、専門家の関与や個人的問題を扱うサポートから、より幅広い社会的関与を通じて、個人や社会の強みや機会を特定することまで、一連の段階の中で患者に有益なものとなります。これらの段階は、社会的処方のサービスを立ち上げたり評価したりする有益な枠組みを生み出します。

【開催日】2024年7月3日