前腕遠位端骨折が疑われる小児におけるポイントオブケア超音波検査とX線検査の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
P J.Snelling. Ultrasonography or Radiography for Suspected Pediatric Distal Forearm Fractures. NEJM. 2023; 388;22

-要約-
Introduction
● 小児の骨折で多いのが若木骨折であり、リストスプリントや整復、固定術等の処置が行われる
● Xp検査がルーチンで行われるが、見落としも多く、また、途上国では利用できないことも多い
● そんな中で骨折に対するPoint-of-care エコー(POCUS)の有用性が近年強調されている
● これまでNonrandomized trialで小児の前腕遠位骨折に対するエコーでの診断が正確かつタイムリーで、被爆の点からも有用であることは示されていた
● ただ、これまでは骨折の初期診断におけるエコーの活用が、Xpと比較し、アウトカムとしての腕の運動機能という点で非劣性であるかどうかは検討されていなかった
● 今回、救急の現場での小児・若年者の骨折の初期診断において、中期的な運動機能という観点でエコーがXpと比較して有用であるかについてrandomized trialを実施した結果を報告する

Method
<対象>
● オーストラリアの4施設共同で、open-label, noninferiority, randomized, controlled trialを実施。
● 施設は、large territory の小児病院、大学病院、混合病院が含まれた
● 救急外来を訪れた5~15歳の小児・若年者が対象
● 急性期の、診察上変形が明らかではない、前腕骨単独の外傷で、骨折が疑われ画像検査が必要な患者が含まれた
● 対象者は、1:1でエコー群、Xp群の2群にランダム化割付された

<プロトコル>
エコー群
● トレーニングされ認証を受けた救急部の医療従事者(Ns practitioner, PT, 救急医)によってエコーを実施(A modified six-view forearm ultrasonography protocol)。
● エコーのタイプはポータブルだったり様々
● エコー後には、骨折なし、若木骨折、その他の骨折の3つのタイプに分類され、その他の骨折には更にincomplete(unicortical or bicortical), complete, そしてSalter-Harris骨折(骨端軟骨板(成長板)の骨折)の3つへ分類された
● その他の骨折、に分類された場合には、エコー後にXpも実施、骨折なし・若木骨折に分類された場合には基本的にその後Xp検査は実施されなかった
Xp群
● 二方向撮影され、放射線技師によって撮影され、まずはその場で対応した医師によって読影された。(後日放射線科医によって読影)
● 画像は骨折なし、若木骨折、その他の骨折に分類された。

● 最終診断は小児放射線科医、小児整形外科医、小児科のフェローシップトレーニングを受けた救急医からなる専門家パネルによってなされた。
● Management principlesは両群間で統一され、初期治療はサイト間で標準化された。
● 骨折なしは医師の最良で保存的に加療され、若木骨折はwrist splintでの加療、その他の骨折は必要に応じて外科的な介入(マニピュレーション、手術)もしくはcast immobilizationを受けた。

<アウトカム>
● Primary outocomeはPROMIS(Patient0-Reported Outcomes Measurement Information System) toolをもとにした4週後の腕の運動機能
※PROMIS toolは、5歳から15歳の小児・若年者を対象に、8項目で腕の運動機能をスコアリングするツール、8~40点で、点数が高いほど良い。今回は5点以上の差を優位とした。
● Key secondary outcomeは、初期診断時に若木骨折であった患者(expert panelで確定)の4週後の腕の運動機能
● その他のsecondary outcomとしては、1週・8週後の運動機能、4週・8週後の満足度(5-point Likert scaleで評価)、1,4,8週後の疼痛(6-point Faces Pain Scale-Revised toolで評価)、合併症の頻度、Xp撮影の頻度、救急外来滞在時間を設定
● Primary analysisは線形回帰モデルを用いて分析された

Result
● 2020年9月から2021年11月まで、total 270名がランダム化割付された。135がエコー群、135がXp群へ。Primary outcome dataはエコー群130名、Xp群132名で評価できた
● ベースラインはTable1の通り

● 診断カテゴリー2群間で差はなし
● エコー群のうち40名がXpも実施した
● 救急外来でのマネジメントも2群間で大きな差はないものの、ギプス固定はエコー群でやや少ない(エコー群23%, Xp群32%)

<Primary outcome>

● 4週後のPROMIS scoreはエコー、Xp群でそれそれ36.4±5.9, 36.3±5.3点(mean difference, 0.1 point; 95% CI -1.3 to 1.4)
● ITT analysisでも同様の結果

<Secondary outcome>

● 1週・8週間後のPROMIS scoreで2群間で有意差なし
● 4週・8週間後の患者もしくはケアギバーの満足度はエコー群で優れる
● エコー群で救急外来滞在時間が短い
● 有害事象の頻度、予約外で(想定外で)救急外来へ帰ってくる割合は2群間で有意差なし

Discussion

● 救急外来での検討であり、施設も大病院に限られているため、今後はプライマリ・ケアのセッティングなどでの検討が臨まれる
● 本研究の限界として、初期診断方法とは別に、その後の治療的介入の違いがプライマリアウトカムに影響を与えることが考えられる。ただし、二群間で診断カテゴリーごとの初期治療等に差は見られなかった
● また、施設が少なく、少数の救急医によってトレーニングされた医療従事者が実施していることも限界の一つ。
● さらに、年齢が5歳から15歳に限定されており、例えば5歳以下で同様の結果かどうかは不明

【開催日】2023年8月2日(水)