– 文献名 –
John Brodersen, Volkert D Siersma. Long-Term
Psychosocial Consequences of False-Positive Screening Mammography. Ann Fam Med
2013;11:106-115.
– この文献を選んだ背景 –
以前,Journal Clubで高齢者に対して便潜血検査を行うことは全体としてはharmが多いことを取り上げた.以来,スクリーニング検査についてはそのharmの面に注意を払うことが多くなった.そんな中で乳がん検診擬陽性者の長期的な心理社会的影響を取り扱った文献にであった.心理社会的影響をharmとして扱う研究を知らなかったので関心を持って読むことにした.
– 要約 –
【背景】
がんのスクリーニングプログラムは意図した成果が得られる可能性を秘めている一方で意図しなかった有害事象が発生することは避けられない.マンモグラフィーによる乳がん検診で最も頻度の高い有害事象は擬陽性の結果である.この擬陽性者の心理社会的影響を測定するためのこれまでの試みにはいくつかの限界があった.追跡期間が短いこと,測定法の妥当性や性能が不十分なものであること,妥当な比較対象(この場合乳がん患者)をおいていないことなどである.
【目的】
この研究の目的は乳がん検診において異常所見のなかったもの,擬陽性者,精査により乳がんが見つかったものの心理社会的影響を3年間にわたって優れた計測法で測定し比較することである.
【方法】
3年間の追跡期間を設定したコホート研究.1年かけて454名の乳がん検診の異常所見者を対象として採用した.1名の採用につき2名,同日に同じクリニックで乳がん検診を受診した無所見者2名を採用した(Figure 1).これらの参加者に対して,the Consequences of Screening in Breast Cancer(COS-BC; 12の心理社会的影響を測定する妥当性が評価済みの質問紙)への記入を研究開始時,1か月後,6か月後,18か月後,36か月後の時点で依頼した.
【結果】
最終診断後6か月において擬陽性者の「自身の存在価値」や「心の静寂性」の変化は乳がん患者のそれと変わりがないことが分かった(それぞれΔ=1.15; P=0.015,Δ=0.13: P=0.423).がんではないことが証明された3年後であってもマンモグラフィーの擬陽性者は12項目すべての心理社会的影響のアウトカムおいて陰性者と比較して有意にネガティブな心理社会的影響を受けていることが示された(12項目全てのアウトカムについてΔ>0,12項目中4項目においてP <0.01)(Table 2).
【結論】
マンモグラフィーによるスクリーニングによる擬陽性の結果には長期にわたる心理社会的な有害性がある.擬陽性の診断を受けた3年後の影響は陰性者のものと乳がん患者のものと間にある.
- 考察とディスカッション -
費用対効果に優れ,対象とする疾患による死亡率を減少させるエビデンスの存在する「スクリーニング」はその実施が正当化され,受診率を向上させるべく私たち保健・医療職はますとしての住民に対しては受診を推奨している.しかし,日常の診療においては費用や死亡率からみたスクリーニングの利点に盲目的に従うのではなく, harm,例えばスクリーニング検査による苦痛やfalse positiveにより生じる無駄な検査,苦痛,心理的影響などについても患者と情報を共有し個別に相談していくべきものでもある.そのことについてあらためて考えさせられる文献であった.
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開催日:平成25年7月17日