-文献名-
Elizabeth H Golembienwski, et al. Rural Patient Experiences of Accessing Care for Chronic Conditions: A Systematic Review and Thematic Synthesis of Qualitative Studies. Annals of Fam Med. 2022; 20(3): 266-272.
-要約-
【目的】
医療へのアクセスは、郡部・へき地の患者にとって長年の懸案事項である。しかし、行政的な手段では医療を受ける際の患者の主観的な経験を捉えることができない。このレビューの目的は、米国郡部・へき地住民の慢性疾患管理のためのヘルスケアサービスへのアクセスに関する患者および介護者の経験に関する質的研究文献を統合することであった。
【方法】
2010~2019年に発表された質的研究を特定するため,Embase,MEDLINE,PsycInfo,CINAHL,Scopusを検索した。テーマ別統合(thematic synthesis)アプローチにより,含まれた研究からの知見を分析した。
【結果】
1,354名の個別の参加者による合計62件の研究が含まれた。がん患者の経験に焦点を当てた研究が最も多く(24.2%)、次いで行動・生活習慣に関連する健康問題(behavioral health)(16.1%)、HIVおよびAIDS(14.5%)、糖尿病(12.9%)であった。郡部・へき地における慢性疾患管理のための医療サービスの利用経験について、障壁と促進要因に関する4つの主要な分析テーマを同定した。
(1) 郡部・へき地環境を航行する
(ア) 「距離」に対する物理的・経済的コスト
多くの研究で指摘されたテーマ。長い距離を移動することにより「具合が悪くなる/病状が悪くなる」と表現する参加者もいた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) ケアへのアクセスを担保する社会的支援
多くの研究において受診のための移動における配偶者やその他のケア提供者の存在の重要性が指摘された。
参加者はその支援に対する借りを作ってしまっている気持ちや自責の気持ちを感じている。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(ウ) ‘まあ許せる’レベルのケアを受けるためにさらなる距離を移動したくなる気持ち
半分くらいの研究において参加者とそのケア提供者は自身の郡部・へき地地域にある医師やサービス、機器の質が水準より低いと信じていることが示された。しばしば自宅近くに利用可能なヘルスケアサービスがあっても遠距離を移動することを選んでいる。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(2) 医療システムを航行する
(ア) 受療の遅れ
1/3の研究において参加者が地域・へき地では需要-供給バランスの悪さや特定の医師を受診できる機会が限定的なため必要なケアに遅れが生ずると感じているし,それが悪い結果に結びついているとコメントする参加者もいた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) ケアの継続性と協調性の乱れ
半分くらいの研究において参加者は特定の医師や組織と継続的な関係性を築き維持することに困難を感じていた。信頼のおける評判のよい医師に診てもらうことの難しさや同じ組織間でも医師がころころ変わることへの不満が述べられた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(ウ) 診療の構造やプロセス(への不満)
半分くらいの研究において参加者は診療スケジュールの柔軟性のなさや待ち時間の長さに対する不満を述べた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(エ) ヘルスケアシステムの円滑化
1/4程度の研究では参加者が利用する医療機関がアクセスの改善や医師間の協調など改善の努力をしていると述べた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(3) 慢性疾患管理の資金調達
(ア) 郡部・へき地に住むことにより生ずる追加の支出
半分以上の研究において参加者が郡部・へき地に住むことにより移動費用、宿泊費用、仕事や子育てから離れなくてはならない時間といった余分の支出を支払っていると訴えた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) 競合してしまう出費
養育費、公共料金といった家計を維持するための支出と健康管理に係る費用とが競合することを訴える参加者が半分弱の研究で認められた。
(ウ) 背景にある経済環境
1/4程度の研究において、郡部・へき地のより大きな経済的背景が参加者の受療に関連する費用を位置づけている、と述べられている。雇用がなく貧困にさらされている、など。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(エ) 健康保険関連の障壁
健康保険の加入に関する制限が一部のサブグループに大きな影響を及ぼしている(例:ネイティブアメリカン)。
(4) 郡部・へき地における生活(すなわち「郡部・へき地」特有の考え方や行動の共通要素)。
(ア) 緊密なコミュニティ
多くの参加者が郡部・へき地での生活のポジティブな要素について(例:レベルの高い社会的支援)言及している。生活や仕事、同じコミュニティの中で家族を築くことの容易さについても言及されている。一方でこの緊密なコミュニティは諸刃の剣でもあり、ゴシップのエサになったり個人のプライバシーの侵害といった問題も抱えていると言及した参加者が1/4弱の研究においてみられた。(リアルな患者のコメントは本文参照)
(イ) 自給自足的な認識と公的なヘルスケアサービスを受けることに対する抵抗感
1/3の研究において参加者は郡部・へき地のコミュニティでは「一生懸命働くこと」「自給自足(日本で言う「人に迷惑をかけない」でしょうか。山田私見)」「困難や病に直面したときのストイックさ」をよしとする文化の期待について言及した。このような深いレベルでの文化の中ではある人が家庭やコミュニティにおけるその人の責任を果たすという期待に応えられなくなるという慢性疾患のもつ主題を探索した研究も複数あった。言い換えるとこの文化の期待が患者個人個人のケアを求める態度や行動に影響を及ぼしていた。
(ウ) ヘルスケアの場面における文化的な側面への配慮
相当数の研究において参加者はヘルスケアの専門家やスタッフにより強く文化的な感受性を持って欲しいと願っていた。医師の郡部・へき地の住民に対するステレオタイプな理解や軽んじられているという感覚を複数の参加者が言及した。(リアルな患者のコメントは本文参照)
【結論】
この包括的なレビューでは、重要な文化的、構造的、個人的要因が郡部・へき地患者の医療アクセスや利用の経験に影響を与えていて、それには地理的、建築的環境、郡部・へき地特有の風習がもたらす障壁や促進要因が含まれることが明らかになった。この結果は、医療アクセスの構造的側面を促進し、文化的に適切な介入を行うための政策やプログラムに反映させることができる。
【開催日】2022年6月8日(水)