-文献名-
Identifying and Addressing Vicarious Trauma
Anti Ravi MD American Family Physician Volume 103, Number 9 May 1, 2021
-要約-
ケースシナリオ#1
35歳の患者JPが、不眠と仕事のパフォーマンス低下を訴えオフィスに来院しました。JPは亡命を求める保護者がいない未成年者を支援するために6か月前に職務を開始した弁護士です。JPは最近不安を感じており、彼女の子供たちを常に見守っていないと何かが起こるのではないかと心配しています。JPは一度に3時間以上眠ることが難しく、意欲低下と戦うために日中に5杯ものコーヒーを飲みます。JPの仕事がこれらの症状を引き起こしているのではないかと思いますが、JPのストレスの原因を確認するための最良かつ最も効率的な方法は何ですか?
ケースシナリオ#2
今年初旬、同僚のLRはクリニックで、薬物使用障害に対する薬物療法をまとめる取り組みを主導しました。LRはクリニックスタッフにこのトピックに関するトレーニングセッションを提供する機会を多く持ち、教育ツールに依存症や過剰摂取を経験した人々の話を取り入れています。LRは最近、診療時間ギリギリまで診療求めるようになり、カルテの締めが遅れることが多くなりました。スタッフは、LRがいつもと違い焦り、イライラするようになったと述べています。スタッフがLRに何か問題があるかと尋ねると、LRはスタッフの懸念を払拭し、「すべてが順調です。私の患者は私よりもずっとひどい状態です。」と答えました。これらの行動の変化についてLRにアプローチする最良の方法は何ですか?
・解説
医療専門職、警察などの法執行専門職、ジャーナリスト、弁護士を含む多くの人々は、間接的にトラウマに暴露する可能性があります。しばしば家庭医は、家庭内暴力、戦争、銃による暴力、児童虐待、ホームレス、および癌やCOVID-19を含む人生を変える診断の話を共有するため、間接的に患者のトラウマに暴露します。これらの臨床経験はニュースやソーシャルメディアで繰り返し流される暴力への暴露などの他の形で目にしたトラウマと複合的になる可能性があります。間接的なトラウマに慢性的に暴露すると、代理トラウマにつながる可能性があります。代理トラウマは他人の感情的な体験をあたかもその人自身が個人的に体験したかのように内面化します。代理トラウマは世界観の変化をもたらし、その人の世界の安全性と公正性を乱すことがあります。代理トラウマに関する用語集についてはthe Office for Victims of Crime toolkit(1)を参照ください。対処されていない代理トラウマは、医師が専門的なケアやサービスを提供する能力を損なう可能性があり、医師自身の健康や人間関係に影響を与える可能性があります。
※代理トラウマ:トラウマを受けた人の話を聴くことで自身がトラウマを体験したように感じ、持続的な心理的、情緒的障害を生じ、自己肯定感と安全性の低下、他者への信頼性低下を引き起こす。
(1)( https://ovc.ojp.gov/program/vtt/glossary-terms)
・危険因子と症状
代理トラウマは、二次的トラウマ、医療従事者の疲労、同情・共感能力の疲弊、燃え尽き症候群など、トラウマへの曝露に対する一連の反応の一部です。これらの状態にはさまざまな定義と分類があり、症状、診断基準、および管理戦略がオーバーラップしています。
いくつかの個人的および職業上の問題は個人が代理トラウマを発症する素因となる可能性があります。リスクを高める要因には個人的なトラウマの病歴、ネガティブなストレス対処行動、社会的支援の欠如、仕事に関係のない領域での人生の不安定さ、トラウマを経験した患者の支援などが含まれます。職場環境における問題、例えば過度の作業負荷、不明瞭なタスクスコープ、脆弱な集団に対する組織の公的コミットメントと内部の方針およびインセンティブとの間の不一致などは代理トラウマに対する脆弱性を高めます。
代理トラウマ症状は、職業上および個人的な生活の中で現れる可能性があります。たとえば、普段は愛想がよく、共感的である医師は、患者や同僚に対してイライラが多くなったり、家族や友人から離れたり、子供に過保護になる可能性があります。
症状には過度の心配(例えば患者が予約に来なかった場合に患者は傷ついたり怪我をしたりしているのではという心配)、動揺する話を含む患者カルテの完成の遅れ、予期しない診療中の音に対する過剰反応(例えば診療所内の呼び出し音、診療中に電話がなる音)、仕事以外の場面で、虐待による傷害を検証する視覚的なイメージを体験すること、または以前は許容できる娯楽(犯罪や暴力を含むショーや映画など)を見るのが難しいと感じているなどが含まれます。
代理トラウマの症状はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状と似ています。再体験症状、回避症状、覚醒亢進症状があります。二次トラウストレス尺度はトラウマを抱えた人との職業的な関係により、トラウマ的な出来事に間接的にさらされることに関連する症状を測定するために開発された17項目の有効な質問紙です(figure1)
・管理と予防
私たちは医師や医療機関が患者や同僚、スタッフと一緒に代替的トラウマに対処するために利用できるさまざまなツールやテクニックについて説明します。
ケースシナリオ#1
患者の代理トラウマに対処する時、症状の期間や範囲などより詳細な病歴を聴取することが有効です。代理トラウマについて情報提供することで患者は症状を引き起こす要因について理解しやすくなり、根本的な問題に対処する道筋が見えてきます。二次トラウマストレス尺度は症状を引き出し、代理トラウマに関する教育や話し合いを促進するツールとして使用することができます。トラウマ症状が心理面に大きな影響を与えることを考慮すると、治療契約は代理トラウマを管理する上で重要です。
患者がメンタルヘルスサービスに繋がるまで、ときには長時間要します。破壊的な代理トラウマ症状のような急性期治療は不眠治療に対する睡眠衛生指導や不安対処法など日常的なプライマリケアアプローチが有効です。また医師は患者が代理トラウマに暴露されたり影響を受けることを減らすために職場に配慮したり、医療休暇を確保したりすることで、患者をサポートすることができる。
ケースシナリオ#2
同僚の代理トラウマへの対処は困難なケースです。代理トラウマは、うつ病や物質使用障害など、同様の職場行動の兆候を伴う状態と共存または悪化させる可能性があるため、その存在を確認するのは難しい場合があります。代理トラウマを抱えていると思われる同僚にアプローチすることには、プライベートな環境でコミュニケーションを取り、話を聴く時間をとったり、医師が診療での複雑な問題について話し合うことができるバリントグループや同様の定期的な集まりとつながることを支援したりすることが含まれます。代理トラウマを経験している人は、自分の困難が職業的トラウマへの曝露に関連していることを認識していない可能性があり、特にチームメンバーによって指摘された場合、防御や困惑につながる可能性があります。このようなケースでは戦略的スケジューリングを行うことを促進し、同僚の日常的な仕事負荷に直接対処するような方法が有効なこともあります。これには感情的なケースを予測しその数を制限することが含まれます。また初診時や最終診察時など医師が最も精神的に余裕があり、集中できる時間帯に意図的に診察のスケジュールを組みます。受付、通訳、医師を含むすべてのスタッフが影響を受ける可能性があるため、システムレベルの変更は、代理トラウマを防ぎ対処する上で重要です。医療機関は代理トラウマ意識を高めるためのトレーニングを提供し、代理トラウマの症状とそれを予防し闘うための具体的な戦略を従業員に通知する必要があります。すべてのスタッフが適切な監督とサポートを確実に受けられるようにすることが不可欠です。スタッフがバランスの取れた患者数、有給休暇を持つこと、メンタルヘルスリソースへのアクセスを確保するための組織の方針と手順も重要です。組織へのトラウマへの対応を促進するツールが the Office for Victims of crimeから利用できます。代理トラウマは、かかりつけ医を含む「専門職を助ける」人々にとっての職業上の危険です。代理トラウマの兆候と症状を認識して対処する一方で、その予防と緩和のための組織的な取り組みに従事することで、個人の健康と患者ケアの質を促進する可能性があります。
【開催日】2022年6月1日(水)