※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Zhang W, Zhang S, Deng Y,et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385(14):1268-1279.
-要約-
【背景】高齢の高血圧患者において、心血管リスクを低減するための適切な収縮期血圧の目標値は、依然として不明である。世界的な高齢化に伴い、恒例の高血圧患者における収縮期血圧の治療目標値を決定することは研究の争点となっているが、高齢者における収縮期血圧の目標値に関しては各国のガイドラインでは依然として移管していない。75歳以上の患者でもSPRINT試験において集中的な血圧コントロールにより心血管疾患の予防効果が観察されたほか、メタアナリシスでは収縮期血圧の目標値を130mmHgとすることで高リスク患者では心血管イベント及び死亡リスクが減少することが示された以峰で、高齢者における収縮期血圧の130mmHg未満への引き下げは慎重に行うべきだと示唆されている。
【方法】多施設共同無作為化比較試験(STEP試験:Strategy of Blood Pressure Intervation in the Elderly Hyper-tensive Patients)において,60~80歳の中国人高血圧患者を、収縮期血圧の目標値を110~130mmHg(集中治療)または130~150mmHg(標準治療)に無作為に割り付け、フォローアップ期間を4年と計画した。1、2、3カ月後にフォローアップの診察をうけ、その後は予定の48カ月までは3カ月毎で診察を受けることとした。薬剤調整は診察室血圧の測定に基づき行われた。一方で家庭血圧測定も実施し、スマートフォンアプリによる血圧管理効果も検証した。主要アウトカムは、脳卒中、急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症による入院)、急性虚血性心不全、冠動脈再灌流、心房細動、心血管系疾患が原因による死亡の複合とした。心血管疾患の10年リスクはFramingham Risk scoreを用いて推定した。
【結果】 対象となった9624例のうち、1113人(11.6%)が除外、8511例が試験に登録され、4243例が集中治療群に、4268例が標準治療群に無作為に割り付けられた。試験終了までに234例(2.7%)が追跡不能となった。患者のうち19.1%が糖尿病の既往があり、6.3%が心血管疾患の既往あり、64.8%がフラミンガムリスクスコア15%以上だった。1年後の平均収縮期血圧は、集中治療群で127.5mmHg、標準治療群で135.3mmHgであった。中央値3.34年の追跡期間中に、一次アウトカムイベントは集中治療群147例(3.5%)に対して、標準治療群196例(4.6%)に発生した(ハザード比,0.74;95%信頼区間[CI],0.60~0.92;P=0.007)。主要転帰の個々の要素についても、集中治療群が有利であった。脳卒中のハザード比は 0.67(95% CI,0.47~0.97)、急性冠症候群は 0.67(95% CI,0.47~0.97) であった。急性心不全 0.27(95% CI, 0.08~0.98) 、冠動脈再灌流 0.69(95% CI, 0.40~1.18) 、心房細動 0.96(95% CI, 0.55~1.68) 、心血管死 0.72(95% CI, 0.39~1.32 )であった。安全性および腎機能に関する転帰は,低血圧の発生率が集中治療群で高かった(3.4%vs2.6%、P=0.03)ことを除き,両群間に有意差はなかった。
【ディスカッション】高血圧の集中治療は、心血管ベントの発生を有意に減少させ、ほとんどの副次的転帰についても良好な結果が得られた。一方であらゆる原因による死亡リスクは有意差は無かった。STEP試験もSPRINT試験はともに集中的な血圧コントロールが心血管系疾患の予防に有効であったが、両試験に大きな相違点がある。SPRINTでは診察室血圧は自動化されたシステムで行われすべてのプロセスで試験担当者は立ち会わなかったが、STEPではオシロメトリック電子血圧計を使用し訓練を受けたスタッフが診察室で血圧測定した。またSPRINTでは糖尿病患者は除外されている(髙石注:50歳以上の心血管リスク因子を有する非糖尿病患者を対象に、強化療法(目標SBP<120mmHg)と標準療法(目標SBP<140mmHg)とを比較)。両試験は脳卒中既往者を除外している。STEP試験とSPRINT試験のあらゆる原因による死亡や心血管死亡リスクの差は、試験の意義と適格基準、血圧の目標値、地理的位置、試験集団の人種的・民族的背景の違いによって部分的に説明されるかもしれない。STEP試験はサンプルサイズが大きく、慢性疾患を併せ持つ多様な患者層、高い追跡調査率、家庭血圧のモニタリングの使用などが長所である。試験の限界は中国の人口の90%以上を占める漢民族のみを対象としていること。今後は民族による無作為化の層別化が課題だろう。またFramingham Risk scoreは博仁を対象に作成されており、中国人成人の心血管系リスクを過大評価する可能性がある。
【結論】高齢の高血圧患者において,収縮期血圧の目標値を110~130mmHg未する集中治療は,130~150mmHg未満とする標準治療よりも心血管イベントの発生率が低いことが示された。
Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
介入を中止した患者は,収縮期血圧の目標値や降圧剤に関連する副作用のため試験介入を中止したが,追跡調査には参加した。追跡不能となった患者は、連絡が途絶え、ある追跡訪問から試験終了まで主要アウトカムに関するデータが確認されなかったものである。データの解析はITTアプローチに基づいて行われた。追跡不能となった患者も解析に含め、データは最後の追跡訪問の時点で打ち切った。
Figure 2. OfficeSystolic Blood Pressure Measurements.
平均投薬回数は、患者1人あたりの各診察時に投与された血圧降下剤の数に基づいている。
Figure 3. Cumulative Incidence for the Primary Outcome.
主要転帰は,脳卒中,急性冠症候群,急性心不全,冠動脈再灌流,心房細動,心血管系原因による死亡の複合とした。Fine-Gray 分布ハザードモデルを用いて計算し,臨床施設を調整。挿入図は、同じデータを拡大したY軸である。
【開催日】2022年3月2日(水)