―文献名―
Cooper, Nicola, et al. "Consensus statement on the content of clinical reasoning curricula in undergraduate medical education." Medical Teacher 43.2 (2021): 152-159.
―要約―
導入:安全な患者ケアのためには、効果的な臨床推論が必要である。卒前・卒後の医学生は、効果的な臨床推論に必要な知識、スキル、行動を、経験や現場での見習いを通して暗黙のうちに学ぶことがほとんどである。医学部では、最新のエビデンスに基づいた体系的なアプローチを採用し、各学年のコースに明示的に統合された形で臨床推論を教えるべきだという合意が作られつつある。しかし、臨床推論に関する文献は「断片的」であり、医学教育者がアクセスすることは困難である。この論文では、すべての医学部に役立つ実践的な提言を行うことを目指す。
・臨床推論とは?
本論文では以下の定義を採用している。「臨床医が患者を診断・治療するために、データを観察・収集・解釈する技術、プロセス、または結果。臨床推論には、意識的および無意識的な認知的活動が必要であり、患者固有の状況や好み、診療環境の特徴などの文脈的要因と相互作用する。」
・臨床推論教育の現状:教育に関連した科学におけるエビデンスを踏まえた教育的アプローチを用いて、診断プロセスについての教育を扱うカリキュラム(例:診断検査の正確な解釈、問題の表象の形成(診断の正確さと相関する)、決断の共有)の必要性が指摘されつつあるが、現状ではカリキュラムの中では診断推論は必ずしも明示して扱われてはいない。また、教えるべき内容および教育に適した方略の両方を網羅したカリキュラムについての報告もほとんどない。
何を教えるべきか:clinical reasoningの5つの領域:Table1参照。
1病歴聴取と身体診察:
UKではコミュニケーションのカリキュラムの内容についてのconsensus statementがある(Noble et al. 2018)
それに加えて、以下の内容が含まれる:患者本人以外の情報源から病歴を取る技術の重要性、仮説に基づいた合目的的な情報収集、仮説の生成あるいは否定を目的にした身体診察、両者から得られた情報の統合と疫学に基づいた疾患の可能性を踏まえた見積もり、古典的な疾患像および多くの患者がそういった像を呈しないことの理解
2診断的検査の選択と解釈:
概念の理解:事前確率、感度、特異度、検査後確率、疾患の有病割合、尤度比
疾患以外で検査結果に影響する因子、高頻度で用いる検査の特徴
多くの検査結果は、臨床所見に合わせて解釈を要し、臨床推論中にその知識の適用を要する
個々の検査が、どんな問いに答えることができるかの知識、エビデンスに基づいたガイドラインとdecision aidsの利用
3問題同定とマネジメント:
正確に問題を表現し、それに基づいて優先すべき鑑別診断を構築する能力
Semantic qualifierと正確な医学用語を用いた問題のencapsulatationが診断を考慮する前に行う能力
診断の不確実性の対応する能力
4適切なマネジメント計画の作成
患者の好み、併存疾患、リソース、コスト、ローカルの規則など、影響する因子を考慮する能力
メタ認知と批判的思考を用いて自らのパフォーマンスを改善する能力
5決断の共有
他者の価値観を同定し理解するための効果的なコミュニケーション
学習者は、現実世界では、知識とは自分の頭の中にあるものではなく、環境、つまり人々、コンピューター、書籍、他のツールや道具を通して広がっているものであると理解する必要がある(他にも記述があるが今回は省略)
どうやって教えるべきか:Table2、Literature reviewの詳細および結果のoverviewはsupplement2参照
同定された研究の概略:
意思決定の原則の教育、認知バイアスからのエラーを減らそうとする教育はいずれも診断推論の能力を改善しなかった。
一方で、イルネススクリプトの教育、思考過程を声に出したり、ブレインストーミングする方略、構造化した省察、ケースに基づいた実践+フィードバック、については改善が見られた。つまり、思考の仕方自体の教育(dual process theoryやバイアスを避けるように教える教育)は、臨床推論の能力が改善するというエビデンスには乏しく、思考能力や思考の方法を教えるアプローチは効果がない。しかし、具体的な知識や理解を構築する方略は効果があることがわかっている。
個別の戦略について:
・自己説明・自己精緻化(Self explanation/elaboration)
教育者が説明するよりは、学習者が説明するよう促す方が、学習者が活性化する認知プロセスが異なり、学習者が新たな知識と自分の事前知識との結び付けを強化するため、効果がある
メカニズムの理解が診断的能力を改善するため、単なるrecall=思い出しではなく、理解を促進する方法を使うべき
・Structured reflection(※)を用いた方略
学習者のレベルより複雑な事例を用いたときに最も効果が出る
※例として、事例を提示した後に、学習者に最も考えられる診断を挙げさせ、その鑑別診断について幾つかの質問に答える形を取る(具体例を知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012)
・症例を用いた練習+修正のフィードバック
練習だけでは不十分であり、その練習に直接フィードバックがあることが重要。ただしフィードバックが機能するには、議論の中で間違えることが後押しされ、不確実性があることが認知されるような雰囲気作りが重要
具体的な知識があることよりも、その知識の構成の方が重要であるため、illness scripts (Schmidt et al. 1990)が学習者の中で作られるよう促すことが(知識の記憶を促すより)重要。
なお、初学者が相手の場合は、症例の情報を少しずつ順番に出すよりは、一度に全て出して学習させる方が有用である (Schmidt and Mamede 2015).
・臨床問題に特異的な概念について、知識の構成を促す方略
臨床推論について高いパフォーマンスを見せる者は、低い者と比べて、知識の量よりは、その構成の仕方が質的に異なる (Coderre et al. 2009)。よくある臨床問題に特異的な知識をお互いに関連づける方略(概念図やdecision treeを、関連する知識とセットで書かせる)が適切である
・Retrieval practiceを促す方略
努力して情報を思い出させるような戦略が診断能力を改善するというエビデンスがある。
具体例:structured reflection (Norman et al. 2017; Prakash et al. 2019:知りたい方は別資料文献1参照:Mamede et al. – 2012), low stakes quizzing (Green et al. 2018; Larsen et al. 2009), spaced practice (Kerfoot et al. 2007:時間をあけて思い出してもらう・考えてもらうこと) and contrastive learning (Ark et al. 2007) (類似した事例を比較対称して学ぶやり方)
相手の学習段階に応じて教育方略を変える重要性
教育方略における情報提示は、複雑度と現実の再現度が低い事例を用いて、綿密に手順のサポートを行う方略から、複雑さと現実の再現度が高い事例を用いて、サポートを最小限にして行う方略まで段階に応じて調整する必要がある。最終的には、特に手を加えていない(=現実のままの)事例に対応させて、構造化したでブリーフィングを行う形が良い
【開催日】
2021年11月10日(水)