※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
―文献―
Ronald C. Chen, MD, MPH; Kevin Haynes, PharmD, MSCE; Simo Du, MBBS, MHS; John Barron, PharmD; Aaron J. Katz, PharmD, PhD
Association of Cancer Screening Deficit in the United States With the COVID-19 Pandemic.JAMA Oncol. 2021;7(6):878
―要約―
重要性:
COVID-19パンデミックは、がん検診の急激な減少をもたらした。しかし、パンデミックに伴う米国でのスクリーニングの総量の減少と、異なる地域や社会経済的地位(SES)の指標による個人への影響の違いについては、まだ完全には解明されていない。
目的:
COVID-19パンデミックに関連する乳がん、大腸がん、前立腺がんのスクリーニング率を、異なる地域および異なるSES指数四分位の個人について定量化し、2020年における米国人口全体のがんスクリーニング不足を推定する。
デザイン、セッティング、参加者:
このレトロスペクティブコホート研究では、米国の地理的に多様な地域のメディケアアドバンテージおよび商業医療プランに加入している約6,000万人を対象とした、単一支払いの行政請求データと登録情報からなるヘルスコア統合研究データベースを使用している。参加者は、2018年、2019年、2020年の1月から7月にデータベースに登録された個人で、分析指標月以前に対象となるがんの診断を受けていない人でした。
※メディケア(Medicare)は、65 才以上の高齢者と 65 才未満の障害者向けの米国の公的 医療保険プログラムである。米国の 65 才以上の高齢者のほぼ全員がメディケアに加入し、その数は 2013 年において 4,350 万人に上った。また、障害者の加入者数は 88万人であり、合計すると 5,230 万人、国民全体の約6人に1人がメディケアを利用している。 メディケアは4つのプログラムに分かれている。それらは、パート A(病院保険)、パート B(補足的医療保険)、パートC(メディケア・アドバンテージ)、パート D(外 来処方薬給付)であり、それぞれ財源が異なる。
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/usa/20141027_009074.pdf
介入:分析指標の月と年
主要な結果と測定方法:乳がん、大腸がん、前立腺がんの検診のレセプト。
結果:
2020年の3月から5月にかけて、3つのがんの検診は2019年に比べて急激に減少し、4月に最も急激な減少が見られ(乳がん:90.8%減、大腸がん:79.3%減、前立腺がん:63.4%減)、乳がんと前立腺がんでは7月までに月間検診率がほぼ完全に回復した。(Figure1.)
COVID-19パンデミックに伴う米国人口全体の検診不足の絶対値は、乳がんで390万人、大腸がんで380万人、前立腺がんで160万人と推定された。
地域別に見ると、北東部が最も急激に検診数が減少し、西部は中西部や南部に比べて回復が遅れていた。例えば、4月の乳がん検診率の変化率(2020年対2019年)は、西部では-87.3%(95%CI、-87.9%~-86.7%)、北東部では-94.5%(95%CI、-94.9%~-94.1%)となっている(低下)。7月は、中西部の-0.3%(95%信頼区間、-2.1%~1.5%)から西部の-10.6%(同、-12.6%~-8.4%)までの範囲であった(回復)。
SES別では、SES指数が最も高い四分位の個人でスクリーニングの減少幅が最も大きく、2020年にはSESによるがんスクリーニングの格差が縮小することが示された。例えば、SES指数が最も低い四分位と最も高い四分位の個人の10万人の加入者あたりの前立腺がん検診率は、2019年4月にはそれぞれ3525(95%CI、3444~3607)と4329(95%CI、4271~4386)であったのに対し、2020年4月には1535(95%CI、1480~1589)と1338(95%CI、1306~1370)であった。多変量解析の結果、遠隔医療利用はより高いがん検診と関連していた。
Limitations:
例えば、保険に加入している人のみを対象とした分析では、COVID-19パンデミックに関連したがん検診の不足を集団レベルで推定することに偏りが生じる可能性がある。特に、今回の分析は、保険に加入していない人や公的保険に加入している人を代表していない可能性があり、SESとの関連を過小評価する可能性がある。もう一つの限界は、分析に必要な人種/民族の情報がないことである。
また、解析に使用したコードの多くはスクリーニング検査に特化したものだったが、コードによってはスクリーニングと他の臨床的適応のための検査を区別しないものもあった。対象となるがんの既往歴のない人を含めることで、スクリーニング以外の目的で実施された検査が不正確にカウントされるという限界は一部緩和された。
結論と関連性:
COVID-19の大流行に伴うがん検診の大幅な不足に対処するためには、手技を必要としない検診方法の利用拡大など、公衆衛生上の努力が必要である。
【開催日】
2021年8月4日(水)