心房細動の早期リズムコントロール

-文献名-
P. Kirchhof, A.J. Camm, A. Goette.Early Rhythm-Control Therapy in Patients with Atrial Fibrillation.N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1305-1316.

-要約-
背景 心房細動の患者は心血管系合併症のリスクが高い.過去にリズムコントロールとレートコントロールで予後に差がないという報告があるが,発症早期にリズムコントロールを行うことで心血管リスクを軽減できるかどうかは不明である.アブレーションも含めたリズムコントロール戦略が早期Af診療のアウトカムを改善させるか調べる.
デザイン RCT.非盲検化試験.多施設(欧州11カ国,135施設).2011年〜2016年.ITT解析.
ドイツの教育研究省による資金提供.
対象者 2789例.≧18歳の発症早期(初回診断から≦12カ月)の心房細動患者で,①TIA/脳卒中の既往があるか,②>75歳の者か,③以下の条件*のうち2つ以上に該当する者。年齢>65歳,女性,心不全,高血圧,糖尿病,重症冠動脈疾患,慢性腎臓病(GFR15〜59),左室肥大(拡張期中隔壁幅> 15mm),末梢動脈疾患.
介入 現行のガイドラインが推奨する治療(抗凝固薬,レートコントロール)および合併する心血管疾患に対する治療を受けたうえで,早期のリズムコントロール(洞調律維持療法)群(1395例)または標準治療のみの群(1394例)。
早期のリズムコントロール群:抗不整脈薬または心房細動アブレーションによる治療.週に2度また症状発生時は,患者自ら遠隔モニタリングデバイスECGを送信.医療機関がリズムコントロールを調整.
標準治療群:抗凝固薬による治療とレートコントロール(心拍数調節療法)を中心とした治療。これらの治療でも心房細動による症状が生じた場合は,リズムコントロールを実施。
結果
追跡期間中央値5.1年。
有効性が確認されたため,第3回目の中間解析の時点で試験は中止。
(以下,Fig1)
2年後の治療状況は,リズムコントロール群では65.1%が抗不整脈薬継続,標準治療群では14.6%が抗不整脈薬使用.リズムコントロール群でアブレーションを行ったのは19.4%.(フレカイニド(タンボコール®,1c),アミオダロン,ドロネダロン(日本採用なし),プロパフェノン(プロノン®,1c),その他の不整脈薬)

(以下,Table1)
患者背景:平均年齢70.3歳,女性46.4%。
心房細動の診断から登録までの日数:中央値で36日。
登録時の心房細動の状況:初発 37.6%,発作性 35.6%,持続性 26.6%。
登録時の洞調律の割合:54.0%
登録時のCHA2DS2-VASCスコアの平均値:3.4

(以下,Table.2)
プライマリーエンドポイント=「心疾患や脳卒中による死亡」「心不全や急性冠症候群の悪化による入院」の複合
早期リズムコントロール群249例(3.9/100人・年) vs. 標準治療群316例(5.0/100人・年)
[ハザード比(HR)0.79; 96%信頼区間(CI)0.66~0.94; P =0.005]
内訳のうち,心疾患や脳卒中による死亡をみても有意差あり.

セカンダリーエンドポイント=1年あたりの入院日数.
群間で有意差なし.
平均値:早期リズムコントール群 5.8日/年 vs. 標準治療群5.1日/年(P =0.23)

(以下,Table.3)
安全性の主要アウトカム=「死亡」「脳卒中」「リズム制御療法に関連した重篤な有害事象」の複合
群間で有意差なし.
早期リズムコントロール群231例(16.6%)vs. 標準治療群223例(16.0%)

<内訳>
脳卒中:早期リズムコントロール群2.9% vs. 標準治療群4.4%(P =0.03)。
死亡:9.9% vs. 11.8%。
リズムコントロールに関連する重篤な有害イベント:4.9% vs. 1.4%(P <0.001)。(5年間)
 →非致死性の心停止,中毒,徐脈,AVブロック,トルサードポワンツ,タンポナーデ,出血など

安全性の副次アウトカム=2年後の症状,左室機能
両治療群間に有意差は認められなかった。

ディスカッション 
・過去の報告と異なり,今回リズムコントロール群で有意差が出たのは,①カテーテルアブレーション治療群が入っていることや②発症早期の介入をみていることなどが考えうる.
・リズムコントロールによる有害事象は有意に発生したが,その頻度は低い.
・限界は,非盲検化試験であること,フォローアップ期間が短いこと,費用について検討していないこと,などが挙げられる.

結論 早期リズムコントロールは,早期心房細動と心血管疾患を有する患者において,通常のケアに比べて有害な心血管転帰のリスクが低いことと関連していた.

【開催日】2021年2月3日(水)