― 文献名 ―
「世界最高MBAの授業」 佐藤智恵 東洋経済 2013年
― この文献を選んだ背景 ―
フェローの2年間で経営のスクーリングを受けてきたが、まだそれを活かしきれていない現状がある。更に経営について学ぶためのいくつかの書籍を読んできたが、世界ではどんな経営学が学ばれ、どういう教育スタンダードなのかを知りたくなりこの書籍を読んだ。
― 要約 ―
内容は、世界の名だたる大学院が提供するMBA(経営学修士)を学んだ複数の日本人留学生のインタビューである。
1章1人の留学生のインタビューで構成され、留学中に受けた授業の中で印象に残った2~3個の授業について記載してあり、それに対し筆者の考察が加えられている。特に研究という形ではなく、あくまで事例の紹介。
筆者=インタビュアーは1970年生まれ、NHK入局後、ディレクターなどを経てコロンビア大学でMBA取得。ボストンコンサルティンググループを経て独立。
インタビュイーの日本人は、現在20代後半30代後半までの、国内外の大手やベンチャー企業などで活躍する同年代の15人である。大学院はハーバード、スタンフォード、ノースウェスタン、MIT、デューク、ロンドンなど。
いくつか重要と思われた箇所からカテゴリー分けして以下に抜粋する。
①リーダーシップ
・「リーダーが倫理的に判断する」という事は、どこかに存在する正しい答えを客観的に選択する事ではなく、
自分の信念を確立し、それをさらけ出すことによって人を動かす事がリーダーシップである。
・文化別、国別の理想的なリーダーシップのスタイルがあるのではない。国や文化の垣根を越えて人を導いていくのが
グローバルリーダーシップである。そのためには常に真正でなければならない。
・前向きな変化をするつもりのない経営トップがいる会社で働いているなら、別の会社への転職を考えた方がいい
・リーダーに必要な4つの力:
1)自分自身の優先順位を理解し自省する力
2)物事を多角的に見る力
3)自分自身をありのままに受入れ、日々を改善する力
4)他人を尊重する力
・リーダーとは、人々の人生に対する深い畏れや不安を、「希望」に変える事ができる人だ。
「この人についていけば、自分や家族のためにより良い人生を送る事ができる」「誇りを持って企業やコミュニティで
働く事ができる」と人々に希望を与える事。(バンヤンツリーの創設者)
・自分が率いるチームのメンバーの顔、名前、名前の発音、経歴を覚えるという事は、帝王学の基本だ。
・リーダーには、自分がリーダーであるという強い当事者意識=オーナーシップが不可欠であり、
オーナーシップを持つという事は、チームメンバーに対して「心からの思いやり、誠実さを持つという事」である。
そうする事でチームの信頼を得て、結束力が高まり、組織を成功に導く。
・組織に規律をもたらしたいのであれば、リーダー自ら規律を体現しなければならない
・古い体質の業界であたらしい事をやろうとすると様々な抵抗にあうが、それは当然の事だ。
その抵抗をいかにサポートに変えるかという努力こそが、改革や使命の実行には不可欠な道筋であり、スキルである。
・周りの人が「あのリーダーは私たちの組織に価値をもたらさない人だ」と感じてしまうと、実際にそのリーダーは
価値をもたらす事ができなくなってしまう。貢献する機会が与えられないばかりか、仮に貢献してもリーダーの
実績と認識されないからだ。
②コミュニケーション
・何事も正直に伝える事が一番。相手が受入れがたい事を伝えなければいけないときはなおさら。
しかし同時に相手に礼を尽くす事もわすれてはいけない。
・組織内で苦手な人間と働く事にストレスを感じるという事は、「自分本来の自信」が確立されていない事を意味する。
人間というのは漠然とした不安や怒りを持つ生き物。「自分本来の自信」をもって、何に対してストレスを感じているのか
原因を特定し、日々自分で関係を改善していくしかない。
・プレゼンテーションを作り上げる上で重要な3つ:
1)具体的なストーリーを伝える
2)顧客の声や調査結果を具体的に伝える
3)チームメンバーの役割を明確にし、適切なアドバイザーを見つける
・人間は自分と違う人の事を「あの人は敵だ」「あの人は間違っている」と判断しがちだ。そうではなく、
ただ違いを受入れる事が重要なのだ。その違いを受けいれる事からビジネスが始まる
・交渉前に国民性や人柄を確認して、交渉術を変えていけばいい。
③起業/プロジェクトマネジメント
・起業する目的はお金を儲ける事ではない。社会に良いインパクトを与える事だ。
・学んだ者は、それを活かし自分にしかできない挑戦をする権利だけでなく、挑戦する責任も伴う
・人生の創造には、小さなステップからでもいいので実験し、自分と自分の外の世界が相互作用しながら試行錯誤する。
完璧を目指さないで、顧客の声を聞いてみる。失敗してもいいからある程度製品ができたら売り出してみる。
・リバースイノベーションとは「顧客のニーズにあった製品を現地で開発する」こと。グローカリゼーションとは
「既存の製品を売るために現地の顧客を開拓する」こと。後者は古い。前者のマインドセットを持つべき。
・手を広げずに、限られた期間で成果が出せる課題に注力する
・プロジェクトの結果が、当初考えていたスコープの範囲だけでなくそれを越えた範囲に対しても、
どのようなアクションに結びつき、その地域・組織にとってどのような影響をもたらすのかよく考える
・最初に発明したり開発したりした人や独占した技術が儲けられる時代は終わった。技術はそこにあるだけでは
価値はない。技術と社会をつなぐ役割をするのが、オープンイノベーションだ。
・起業する時に必要なのは、投資家や顧客を感動させる「ストーリー」だ。ビジネスモデルも大切だが、
どうやったら世の中にインパクトを与えられるのか、そのストーリーを考えなさい。
イノベーションとは人間の生活を革新させるビジネスを生み出すことなのだ。
・日本のメーカーのマーケティングは、技術ありき、モノありき。
ヨーロッパのブランドマーケティングはまずコンセプトありき。
④その他
・MITのモットー:「Think, Act, Reflect」(考えよ、行動せよ、内省せよ)
・自分を見つめる4つのステップ:
1)自分がずっと変えたいと思っていて、変えられない習性や癖は何か?
2)変えられない事を象徴する行動は何か
3)変えられた自分を想像して見なさい。違和感はないだろうか
4)なぜ違和感を感じるのか
開催日:平成25年11月13日