- 文献名 -
「新型うつ病のデタラメ」 中島聡
- この文献を選んだ背景 -
最近産業医活動の一環として産業医として関わっている企業の職員に対してうつ病レクチャーを実施した。その中で新型うつ病について総務や管理職の方から質問が多く見られた。これまで新型うつ病について勉強する機会がなかったため、上司に相談したところ本書を紹介された。
- 要約 -
本書は一般向けに書かれた書籍であるが、新型うつ病を理解する上で非常に役に立つとのことで上司の精神科医である友人から推奨された書籍であった。内容は新型うつ病と従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病)を比較し新型うつ病と従来のうつ病の違いと新型うつ病に対する筆者の対応が記載されている。筆者は精神科医としてキャリア33年、1996年から沖縄で精神科クリニックを開業している。本書では最近新型うつ病の患者が増えてきており社会問題になっていることを指摘している。
いくつか重要と思われた箇所を以下に抜粋する。
①新型うつ病の臨床経過
・症例1:40歳男性、市役所職員、ガス関係の技術者で10年間勤務していたが畑違いの公園管理科に転属になりそれを期に仕事を休みがち、気分の落ち込みを訴え受診した。「夜は行こうと思うが、朝になるといいや休んでしまえという気持ちになり休んでしまう」とのことで休職の診断書を希望。理由を尋ねると「行きたい気分になれないから」と述べる。診断書を発行し4ヶ月休職後、異動の確約をもらい復職し異動したが、その半年後また仕事に行けなくなったと受診。希死念慮も出現し上司に相談したら休んだ方が良いと言われたとのこと。1ヶ月の休職診断書を発行し再び休職し、休職が決まったときはやったーという気分だった。その後も復職と休職を繰り返すようになり、「ずっと休んでいたい」と訴えるようになった。出社するように促すと「アルコール漬けになっているから内科に入院して食生活を整えたい」と訴えるようになった。アルコール専門の精神科による治療を勧めると受診しなくなり終診となった。薬物療法として抗うつ薬と抗不安薬および睡眠薬を用い、また2週間に1回の臨床心理士によるカウンセリング(支持的性格のもの)も行った。
②従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の臨床経過
・症例2:41歳女性、独身、事務職として長く勤務している。1ヶ月前から特にきっかけなく「イライラして、気分が滅入り、集中力もなくなっている、食欲もなく1ヶ月で体重が3kg減った、夜も寝れない」とのことで受診。「仕事をやりたくない」という気持ちはないが、「人とはあまり会いたくなくテレビ新聞はあまり見る気になれない。普段の感じとは全く違う」とのこと。元々の性格は「きちんきちんとやらないと気が済まない」タイプ。軽いうつ病ですと伝えしっかりとした休息と服薬が必要であることを話し、抗うつ薬と抗不安薬、睡眠薬を処方。1週間後非常に明るい表情で「もう治っている感じです。食欲もでてきた」との反応。その後も経過良好で半年ほどで内服通院中止となった。
③新型うつ病と従来のうつ病の違い
・従来のうつ病(内因性、メランコリー親和型うつ病、大うつ病)の核となるのは症状の異質性、経過の異質性、医師患者関係の異質性の3つである。
・症状の異質性には「生気的悲哀」と「悲哀不能」がある。「生気的悲哀」とは心的というより、むしろ身体的なものとして感じる悲哀感であり、しばしば頭の重苦しさや胸のもやもやした圧迫感など体に局在する憂うつ感として訴えられる。「悲哀不能」とは単なる気分の落ち込みではなくむしろ悲しむ事も喜ぶこともできないような感情が全面的に遮断された状態。
・経過の異質性には「了解不能」という異質性がある。これがなくストレス的な出来事からそのまま「なるほど、そういう状況ならひどく落ち込んでも無理はないだろう」と了解できるようなものはうつ病ではない。途中まではかなり了解出来るものであっても経過をよく見ればどこかに、たいていは発症に至る最後のところに「それにしてもどうしてここまで」あるいは「それにしてもどうして球に」と感じさせるような不連続がある。
・医師患者関係の異質性:うつ病患者の悲哀は了解不能である。うつ病ではなく抑うつ体験反応の人の悲しみは、聞いていて自然に感情移入でき、こちらも気の毒になるようなことが普通だが、うつ病患者の悲しみはどうにもついて行けないと感じられるような性質がある。
・新型うつ病とは逃避的な傾向によって特徴づけられる、抑うつ体験反応である。
・精神科医の中でも新型うつ病の位置づけは議論されているところで時に身体的不定愁訴の中に生気的悲哀感のような訴えが混じることがあることを根拠に新型うつ病は内因性の軽症うつ病であるという主張もある。しかし筆者は新型うつ病に見られる異質性はあまりにも弱く異質性とは言えないと主張している。
④新型うつ病がもたらした社会的弊害
・休職のための診断書:新型うつ病は復職が近づくと「また落ち込みが強くなってきた、不安になってきた」など症状が強くなり休職診断書の更新を希望する場合が多い。十分に回復するまで復職させないとなると本人に治療意欲が高い場合は問題ないが、そうでない場合は疾病利得につながってしまいいつまでも休職を続ける事になりかねない。休職中も復職出来るようにしっかり気持ちの準備をするように促し、ある程度以上症状が強い場合は別だが、単に症状がなくなっていないから、本人が希望するからといって安易に更新しないことも治療的配慮として必要。
・傷病手当金のための診断書:休職しても給料の6割を受け取ることが出来る。症状が固定している必要はなく、その時期に就労出来ない状態であったかがポイント。とくに新型うつ病の場合、病気の影響と自己責任の判別をしっかりする必要がある。本書の例では「自分の好きなことがやりたいので、夜ついパソコンでいろんなサイトを見たりゲームをしてしまう。それで朝眠い。夜になって仕事に行かなかったことを反省する」という場合は診断書発行していない。
・しばしばもらえる障害者年金:障害を残す疾患やけがの結果初診から1年半以上経過して、症状固定した場合に国から支給される年金。従来型のうつ病で遷延化し症状固定するものは15%前後、新型うつ病で障害が固定することはまずあり得ない。
開催日:平成25年12月4日