※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
N.C. Momen, etc. Association between Mental Disorders and Subsequent Medical Conditions. N Engl J Med.2020;382(18):1721–1731.
-要約-
【背景】
精神障害のある人は、精神障害の発症が無い人々よりも、他の精神障害や様々な疾患の発症リスクが高いと言われている。
【目的】
精神障害と、精神障害発症後に発症した疾患との関連を包括的にまとめること。包括的な評価により、併存する精神障害と他疾患のスペクトル全体を比較することができる。また特定の期間にわたる精神障害の診断後のさまざまな疾患の相対的および絶対的リスクに関するデータは、臨床医および医療計画担当者が患者の主要な予防ニーズを特定するのに役立つ可能性がある(例えば、精神障害発症後の5~10年の間に循環器疾患が発症する可能性のある30歳のうつ病患者の割合など)。
【方法】
1900年から2015年までにデンマークで生まれ、2000年から2016年に追跡された590万人以上のデータを含むデンマークの国家登録簿からの集団ベースのコホートを使用し、合計8390万人年の追跡を行なった。10タイプの精神障害と9種類の疾患(31個の特定の疾患を含む)を評価した。Cox回帰モデルを使用して、年齢、性別、暦時間、および精神障害の既往を調整した後、精神障害と疾患のペアの全体的なハザード比と時間依存ハザード比を計算した。絶対リスクは、競合リスク生存分析を使用して推定した。
【結果】
5,940,299人(11.8%)のうち、698,874人が精神障害の診断を受けたことが確認された。全人口の年齢の中央値は、コホートへの参加時で32.1歳、最後のフォローアップ時で48.7歳だった。精神障害のある人は、90組の精神障害と疾患の組み合わせのうち、76組に関して精神障害がない人よりも疾患発症リスクが高かった。精神障害と疾患との関連のハザード比の中央値は1.37でした。最も低いハザード比は、器質性精神障害(身体疾患(ex.脳血管障害、甲状腺疾患、神経変性疾患、中枢性感染症既往)が原因で精神症状を来すもの)と多種類の癌で0.82(95%信頼区間[CI]、0.80から0.84)であり、最も高いハザード比は摂食障害と泌尿生殖器疾患で3.62であった(95%CI、3.11から4.22)。 いくつかの特定の精神障害と疾患の組み合わせでは、リスク低下を示した(ex.統合失調症と筋骨格系疾患)。精神障害の診断からの時間経過によってリスクは異なった(例えばFigure2に見られるように、いくつかの精神障害と疾患のペアではハザード比が精神障害の診断直後に高くその後数年にわたって低下したがそれでも上昇したままであったり、精神障害診断の最初の年にハザード比が高かったがその後急速に減少するなどのペアもあった)。精神障害の診断から15年以内の疾患の絶対リスクは、発達障害患者と泌尿生殖器疾患の組み合わせの0.6%から、器質性精神障害患者の循環器系疾患の組み合わせの54.1%まで変動した。
【ディスカッション】
統合失調症患者は膠原病(ex関節リウマチ)のリスクが低いことを発見した。さらに癌の危険因子(喫煙、肥満、身体活動の低下など)は精神障害患者に多く見られる傾向があるが、精神障害によっては明らかに癌のリスクが低いという逆説的な発見があった。精神障害は、ライフスタイル、日常生活、社会経済的地位に影響を及ぼし、それがその後の疾患リスクを媒介する可能性がある。このレジストリベースの研究では、サンプルサイズが大きく、リコールまたは自己報告バイアスによって引き起こされる問題に対する感受性が限られていた。選択バイアスが最小限に抑えられた。またデンマーク国民は医療に自由で平等にアクセスできるため、民間保険を提供する能力または医療へのアクセスに関連する影響は減少した。
【結論】
ほとんどの精神障害は、精神障害発症後の疾患発生リスク増加と関連していた。ハザード比は0.82から3.62の範囲であり、精神障害の診断からの経過時間によって変化した。
【限界】
疾患を31種類に限定したが、事故・怪我・急性疾患は含まれていない。さらに精神障害と疾患の個々のペアを分析したが、患者が複数の精神障害と複数の病状を抱えている可能性があるため、共存する状態の全範囲を反映していないアプローチである。さらに、精神障害および疾患の完全な診断およびこれらの病状の正確な発症日に関して不確実性がある。発症日が精神障害および多くの疾患の実際の発症よりも遅い可能性があり、精神障害や疾患の誤った時間的順序につながった可能性がある。加えて精神障害の発生率は20~30代でピークに達するが、研究中の多くの非精神疾患のピークは人生の後半(高齢になり)に発生する。研究の絶対リスクの計算では入手可能なデータの制限があり、精神障害診断後の15年以内の疾患の診断が必要だった。この期間はすべての共存する精神障害と疾患の状態を把握する機関としては不十分だった可能性がある。また結果をデンマーク国外で一般化するには限界があり、共存する精神障害と疾患のパターンは、他国、特に医療や社会経済構造が異なる国では異なる場合がある。
補足付録(Figure S1~142.31の記載あり):
https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1915784/suppl_file/nejmoa1915784_appendix.pdf
Figure1:カテゴリ別の精神障害診断後の疾患リスク
各パネルは、精神障害(各パネルの上部)の診断後の疾患(グラフの左側)のペアワイズリスクを示している。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および調査中の精神障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。ハザード比は対数目盛で表示されます。????バーは信頼区間を示します。
Figure2:気分障害診断後の疾患発症リスク(気分障害診断時期別)
各パネルは、2つのモデルによる、気分障害診断後の病状の時間依存ハザード比を示しています。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および気分障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。横軸は、気分障害診断からの期間を示しています。精神障害と病状の間の他のすべてのペアワイズ比較は、図S23からS62に示されています
Figure3.性別および診断からの時間経過に応じた、気分障害診断後の疾患発症リスク
示されているのは、性別および病状のカテゴリーに応じた、気分障害の診断後の疾患リスク(100人あたりの累積発生率で測定)です。
パネルAは気分障害の診断からの時間に応じた研究に参加したすべての人の推定値を示しています。
パネルBは気分障害診断時の年齢に応じた循環器疾患のリスクを示し、横軸に気分障害の診断からの経過時間を示しています。95%信頼区間(曲線の周りの灰色の影付き領域で示されている)は非常に小さいため、パネルAは推定曲線によって隠され、パネルBは右端のグラフ(>80 Yr of Age)にのみ表示されます。他のすべての絶対リスク精神障害と病状のペアを図S63からS142に示します。
【開催日】2020年11月11日(水)