ペニシリンアレルギーのリスクの層別化

-文献名-
Jason A. Trubiano, et al. Development and validation of a penicillin allergy clinical decision rule. JAMA Internal Medicine. 2020;180(5):745-752.

-要約-
■Importance:
ペニシリンアレルギーは、患者、抗菌薬管理プログラムおよび医療サービスにとって重要な問題である。専門家によるペニシリン皮膚検査を必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを特定するために、妥当性を評価されたclinical decision ruleが求められている。

■Objective:
患者から報告されたペニシリンアレルギーのpoint of care リスク評価を可能にするペニシリンアレルギーのclinical decision ruleを開発、検証する。

■Design, setting, and participants:
 この研究では、オーストラリアのメルボルンにある2つの三次医療機関(Austin Health and Peter MacCallum Cancer Centre)からの622人の患者(多施設、前向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)が参加して、ペニシリンアレルギー decision ruleの開発と内的妥当性の評価を行った。ロジスティック解析・変数減少法を使用してペニシリンアレルギーテストの陽性結果を予測する臨床変数を含むモデルを導き出した。最終モデルの内的妥当性の評価には、Bootstrapped sample(※1)と係数から導出されたモデルスコアリングを使用した。外的妥当性の評価は、オーストラリアのシドニーとパース、テネシー州のナッシュビルからの945人の患者(後向き、抗菌薬アレルギーテストが行われたコホート)で実施された。ペニシリンアレルギーを報告した患者は、皮膚プリックテスト、皮内テスト、パッチテストと経口チャレンジ(直接または皮膚テスト後)を組み合わせたアレルギーテストを受けた。データは2008年6月26日から2019年6月3日まで収集され、2019年1月9日から12日まで分析が行われた。
※1:母集団となるデータがある時に、母集団から重複を許してランダムにいくらかデータを取り出して再標本化する手法。予測モデルの生成に使われる。

■Main outcomes and measures:
 Primary outcomeは、外来または入院患者のペニシリンアレルギーテスト陽性という結果。

■Results:
 モデルの開発および内的妥当性の評価に用いられたコホート622人(女性367人(59%)、年齢中央値60歳(四部位範囲48-71歳))、外的妥当性の評価に用いられたコホート945人(女性662人(70.1%)、年齢中央値55歳(四部位範囲38-68歳))から、多変量解析によりペニシリンアレルギーテスト陽性に関連する4つの特徴は、PEN-FAST(penicillin allergy, five or fewer years ago, anaphylaxis/angioedema, severe cutaneous adverse reaction(SCAR), and treatment required for allergy episode)という略語にまとめられた。大基準(major criteria)には、5年以内に発生したアレルギーイベント(2点)、アナフィラキシー/血管浮腫もしくはSCAR(2点)が、小基準(minor criterion)にはアレルギーに治療を要したというエピソード(1点)が含まれた。内的妥当性の評価では、AUC 0.805(※2)、minimal mean optimism(※3) 0.003だった。ペニシリンアレルギー低リスクの分類には、PEN-FAST 3点以下がカットオフと設定されました。この場合、460人の患者のうち17人(3.7%)のみがアレルギーテスト陽性となり、陰性予測値は96.3%(95%CI、94.1%-97.8%)だった。また、外的妥当性の評価でも同様の結果が得られました。
※2:AUCの診断精度の目安 0.7-0.8 fair, 0.8-0.9 good, 0.9-1.0 excellent
※3:optimismとは、モデルの予測精度の過大評価のバイアス

■Conclusion and relevance:
この研究で、PEN-FASTは、正式なアレルギーテストを必要としない低リスクのペニシリンアレルギーを正確に特定できる簡便な基準であることと証明された。3点未満のPEN-FASTスコアは高い陰性予測値を有するという結果から、臨床医にとって、あるいは抗菌薬管理プログラムにおいて、ペニシリンアレルギー低リスクをpoint of careで特定するために役立つということが示唆された。

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■Limitation:
・非ペニシリンβ-ラクタム系抗菌薬アレルギー、静脈内投与でのみ起こるペニシリンアレルギーが除外されている
・SCARのようなアレルギー表現型を持つ患者が少ない
・予測モデルの生成に際して、入院患者の割合が多かった
・成人患者のみしか適用できない
・ペニシリンアレルギーとアレルギー表現型の有病率が変化する可能性が高い、民族による違いの検証はネクストステップ

【開催日】2020年11月4日(水)