※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
―文献名-
H.J. de Koning. Reduced Lung-Cancer Mortality with Volume CT Screening in a Randomized Trial. NEJM. 2020 Feb 6; 382(6): 503-513.
―要約-
Introduction
肺癌は癌による死亡の主要な原因であり、診断の時点で約70%進行癌、5年生存率は15%と低い。喫煙率は低下しているものの、いまだに成人の17-28%は喫煙者で、タバコ関連疾患の問題は深刻である。
NLST(米国の肺スクリーニング試験)では、肺癌の高リスク者においてXpとCTによる肺癌クリーニングを比較したところ、CT群で肺癌死亡率が20%低いことがわかっているが、その他に肺癌スクリーニングと死亡率の関連を示す研究はない。
2000年に開始されたNELSON試験(オランダ・ベルギーの肺癌スクリーニング試験)は、高リスク者を10年間追跡した低線量・ボリュームスキャンCTによるスクリーニングが肺癌発生率・死亡率などを減少させるかを調べた研究である。
Method
研究はエラスムス大学医療センター、グローニンゲン大学医療センターが行っており、スクリーニングの参加機関は4つの大学や医療センター(UMCG, University Medical Center Utrecht, Spaarne Gasthuis, and University Hospital Leuven)である。
参加者は喫煙が15本x25年以上もしくは10本x30年以上とした。
Current smoker;2週間以内の喫煙歴がある人
Former smoker;過去10年以内に禁煙した人
除外基準は中等症〜重症の基礎疾患があり2階へあがれないような人、体重140kg以上、過去の腎癌・悪性黒色腫・乳癌、過去5年以内の肺癌の診断・治療、過去1年のCT検査を受けた人である。
女性で上記の基準を満たす参加者は少なく男性に焦点を当てる研究となった。
50歳から74歳までの合計13,195人の男性(一次分析)と2594人の女性(サブグループ分析)が無作為に割り当てられた。→table1
2004年1月から2012年12月までの間で、4回の低線量CTスクリーニング(開始時、1年目、3年目、および5.5年目)を受けた人と、スクリーニングを受けなかった人とを比較した。
追跡期間は5, 7, 10-11年で行った。
肺癌特異的な死亡率を特定するために、死因を特定する臨床専門家委員会が設立され、専門家委員会の認証によって死亡が肺癌であることが結論づけられた。ランダム割付時から肺癌の診断、肺癌による死亡、その他の原因よる死亡を記録した。
Results
参加者は前述table1(下記)へ。群間の特性には有意差なし。男性参加者は計13195人で、6538人のスクリーニング群と6612人の対照群に割り当てられている。
CTの実施率は平均90%程度。Indeterminate test(不確実な検査?)では追加検査を行い、55%の結節が解決、最終的に2.1%が検査陽性となった。呼吸器科での精密検査にて合計203件が肺癌と診断され、スクリーニングの陽性率は43.5%であった。
Fig.1 Aは追跡期間および試験グループごとの肺がんの累積発生率であり、10年間でスクリーニング群で5.58例/1000人年、対照群で4.91例/1000人年であった。
Table3より、スクリーニング群ではstage1A/1Bが58.6%と多かったことに比較して、対照群では13.5%だった。Stage4の肺癌はほぼ半数の参加者で診断されているが、スクリーニングで検出されたのは9.4%であった。ほとんどが腺癌だった。
Fig.1Bは10年間での累積死亡率であるが、10年間のフォローアップでの肺癌による死亡はスクリーニング群で156人(2.50人/1000人年)、対照群で206人(3.30人/1000人年)であり、10年後の肺がんによる累積死亡率は、対照群と比較してスクリーニング群で0.76(95%信頼区間[CI]、0.61〜0.94; P=0.01)であった。
Discussion
本試験では、スクリーニング間隔が時間経過とともに伸びているにもかかわらず、高リスク喫煙者の肺癌死亡率が大幅に低下する結果となった。スクリーニングの受診率は高く、男性の87.6%が3回のスクリーニング検査を受けた。また、発見時の肺癌の多くが初期段階であったため、外科的治療などの根治術の適応が増えた。
女性を対象としたサブグループ分析でもCTによるスクリーニングは肺癌死亡率に対して良好な結果が得られた。
大量のサンプルサイズを要するため、全死因では有意差を示すことはできなかったが、肺癌以外の死因に関してはスクリーニング群と対照群で有意差はなかった。
肺癌スクリーニングにおける過剰診断は課題の一つである。10年で19.7%の過剰診断がみられた。
将来的にはスクリーニングの適応になる高リスク患者の選択がより洗練されることで、CTによる肺癌スクリーニングのメリットが増すであろう。
【開催日】2020年9月23日(水)