高齢者の降圧剤の減薬について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
James P. Sheppard, et al. Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older. JAMA. 2020;323(20):2039.

-要約-
Introduction
高血圧症は心血管疾患の危険因子の第一位であり、多臓器合併症の高齢者では最も一般的な併存疾患である。降圧剤による治療は脳卒中や心血管疾患を予防し、80歳以上の患者の約半数が降圧剤を処方されている。しかし、過去の観察研究では、複数の降圧剤処方による血圧低下が複数の疾病を有する一部の高齢者において有害である可能性を示唆している。
ガイドラインでは、虚弱高齢患者に降圧剤を処方する際には個別の臨床的判断を行うことが推奨されているが、これらのガイドラインは減薬への手順は曖昧であり、エビデンス自体が不足しているため、この分野での研究の必要性が強調されていた。
この試験では、2種類以上の降圧剤を処方されている複数の疾病を有し、収縮期血圧管理が良好な高血圧症の高齢者を対象に、降圧剤の減量に対する構造化されたアプローチを実施した。この試験は、12週間の追跡調査で臨床的な変化(血圧管理不良、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象)なしに、部分的にでも降圧剤の減薬が可能であるかどうかを検証することが目的の研究である。

Method
本研究はイングランド南部と中部のプライマリ・ケア施設で実施されたものである。対象となる参加者は80歳以上で、ベースラインの収縮期血圧が150mmHg未満で、2つ以上の降圧剤を12ヶ月以上処方されている方である。対象者の募集を行ったプライマリ・ケア医には、最新のガイドラインやエビデンスについての学習を事前に実施した。参加者はポリファーマシー、併存疾患、薬のアドヒアランスが悪い、虚弱体質などの特徴が一つ以上あり、投薬の中止で恩恵を受ける可能性が高い患者のみが研究に登録された。過去12ヵ月間に左室機能障害による心不全、心筋梗塞または脳卒中の既往歴のある患者、二次性高血圧、また同意能力のない患者は研究から除外された。
参加者は、降圧剤の減薬(介入群)と通常のケア(対照群)に無作為に割り付けられ、研究者と参加者へ隠蔽化された。非盲検化のデザインをとっており、事前に定められた統計解析は、参加者の割り付けとは無関係に実施された。
介入群の減薬後は、プライマリ・ケア医により4週間後の時点で評価され、収縮期血圧が150mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の状態が1週間以上続いた場合、有害事象が発生した場合、または血圧上昇の兆候が見られた場合には、降圧剤の治療再開を行った。対照群に無作為に割り付けられた参加者は、処方された通りにすべての降圧剤を服用し、薬の変更を強制されることなく、通常の臨床ケアに従い、すべての患者は12週間の時点でフォローアップされた。
Primary outcomeは12週間の追跡調査における収縮期血圧コントロールの群間の相対リスクである。血圧測定は、臨床的に検証された血圧計を用いて測定され、測定値は参加者が少なくとも5分間座って安静にした後、適切なサイズのカフを使用して左腕で測定された。Secondary outcomeには、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象、収縮期血圧と拡張期血圧の12週間の変化における群間差であった。虚弱性は、Frailty index、Electronic Frailty Index、およびMorley FRAILスケールを用いて定義した。QOLはEQ-5D-5Lを用いて測定され、副作用は、高血圧症に対するRevised Illness Perception Questionnaireを用いて24の項目から発生がないか確認した。重篤な有害事象には、死亡または生命を脅かすものと定義され、入院を必要としたものまたは既存の入院を長期化させたもの、持続的もしくは重大な障害をもたらしたもの、または前述のいずれかのリスクにさらすか、または発生を防止するための介入を必要なものとした。

Result
Primary outcomeは12週目の追跡時の収縮期血圧が150mmHg未満であったのは、減薬群229例(86.4%)、通常ケア群236例(87.7%)であり、降圧剤の減薬は通常のケアと比べて劣らないことを示していた。
Secondary outcomeは12週目の収縮期血圧は、介入群の方が3.4 mmHg高く、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象については統計学的に有意な差は見られなかった(以下表参照)。

Discussion
複数の降圧剤を処方されている高齢者を対象とした本非劣性無作為化臨床試験では、通常の治療と比較して降圧薬の減量は、12週間後の収縮期血圧が150mmHg未満の患者の割合に関して非劣性が示された。しかし本研究にはいくつかの限界が示唆される。
第一に、研究の参加者は減薬の恩恵を受ける可能性があるというプライマリ・ケア医の見解に基づいて選択され登録され、ウェブベースの無作為化アルゴリズムと隠蔽化でバイアスを最小限に抑えるように設計されているが、適切にプライマリ・ケア現場の一般集団を示しているか定かではない。
第二に、非盲検化のデザインであることである。しかし、血圧測定は自動血圧計を用いて行われ、医師の介入は最小限で済むため、主要アウトカムの確認におけるバイアスの可能性は低いと考えられる。
第三に、降圧剤減薬群の参加者は、通常のケアと比較して、フォローアップ期間中に少なくとも1回の追加フォロー(4週間後)があるため、受診頻度の増加につながり、有害事象の発生率増加につながっている可能性がある。
第四に、通常ケア群の参加者のうち13人が追跡期間中に降圧剤の減薬を行ったことが、結果に影響を与えた可能性があること。
第五に、フォローアップ期間が短い(12週間)試験のデザインを決定したのは、より長いフォローアップ期間を持つ大規模研究に着手する前に、血圧と有害事象に対する薬物減量の短期的な効果を実証するためという倫理的な理由からである。このため、この研究では群間の有害事象の信頼性の高い比較を行うには力不足であり、その結果、降圧薬の減量による長期的な有益性と有害性は不明のままである。
第六に、非劣性マージンは、医師と患者の治療合意に意義があることに基づいて決定されたものであり、事前のエビデンスに基づいて決定されたものではないことである。
以上の結果から,長期的な臨床結果を評価するためには、今後さらなる研究が必要であるが,一部の高齢の高血圧患者においては,血圧コントロールに大きな変化を伴わずに降圧薬の減量が可能であることが示された。

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【開催日】2020年8月5日(水)