発症後48時間以上経過していてもオセルタミビルによる治療は、季節性インフルエンザの症状持続時間を減少させる

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Christopher C Butler, et al. Oseltamivir plus usual care versus usual care for influenza-like illness in primary care: an open-label, pragmatic, randomised controlled trial. Lancet. 2020; vol.395 Jan 4: 42-52.

-要約‐
Introduction:
・ヨーロッパの多くの国ではプライマリケア領域でインフルエンザ様疾患に対して抗ウイルス薬が処方されることは多くない。
その理由として、臨床的な効果の薄さ、費用対効果、嘔気・嘔吐といった副作用、どんな患者に対して有効かについて前向きで業界資金の入らないpragmaticな研究で明らかにされていない、といったことが挙げられる。
・インフルエンザの検査で陽性となったら治療を開始するのか、症状のみで治療を開始するのかもはっきりしていない。
・CDCは、インフルエンザと診断されたあるいは疑われる入院患者で、重症もしくは合併症のリスクが高い人にできるだけ早くオセルタミビルを開始することを推奨している。インフルエンザが疑われる症状を有する外来患者に対しても発症後48時間以内であれば、治療を考慮する、とされている。ヨーロッパの推奨もほぼ同様となっている。
・これまで行われたmeta-analysesでは、オセルタミビルは、成人の症状寛解までの平均時間がプラセボと比較して17.8時間(95%CI 27.1-9.3)短く、最初の症状寛解までの時間は16.8時間(95%CI 21.8-8.4)短かった。ただし、meta-analysesに含まれた研究の中には、underrecruiting(採用不足?)、結果の選択的報告、小児や高齢者の不足、1シーズンのみの評価、などの限界が指摘されている。
・また、費用対効果に影響する日常生活への復帰やQOL、医療需要が、抗ウイルス薬によって改善するかはわかっていない。
・そこで、インフルエンザ様疾患の患者に対して通常のケアにオセルタミビルを追加することによって、改善までの時間を減らす効果があるかどうか、キーとなるサブグループも含めて評価することとした。

Method:
Study design: ALIC4E, an investigator-initiated, open-label, pragmatic, response-adaptive, platform, randomised controlled trial https://bmjopen.bmj.com/content/8/7/e021032
Participants: influenza-like illness=突然の発熱+少なくとも1つの呼吸器症状(咳、咽頭痛、鼻汁)+少なくとも1つの全身症状(頭痛、筋肉痛、発汗、悪寒、倦怠感)、インフルエンザの流行期間中に見られ、症状持続時間が72時間以内
除外基準:慢性腎不全、免疫不全(経口ステロイドの長期使用、化学療法、免疫疾患)、医師の判断で抗ウイルス薬をすぐに開始したほうが良いあるいは入院が必要と判断された人、オセルタミビル・アレルギー、2週間以内に選択的外科手術など全身麻酔を必要とする人、余命6ヶ月以内の人、重篤な肝障害、発症後72時間以内にランダム化割付ができない人、7日以内にワクチン摂取が必要な人、(一部の地域では)妊婦、授乳婦
Primary Outcome: 回復までの時間=日常生活への復帰、発熱、頭痛、筋肉痛がminor or no problemと評価される
 ※しゃべれない小児の場合は、頭痛や筋肉痛の代わりに依存的(clinginess)であるかどうかで評価される
Secondary Outcome: 費用対効果=入院の発生、インフルエンザ様疾患に関連する合併症、医療機関への再診、インフルエンザ様疾患の寛解までの時間、新たなあるいは増悪する症状の出現、症状の重症度が最初に軽減するまでの時間、抗菌薬を含む薬剤の使用、家庭内での感染伝播、インフルエンザ様疾患の症状の自己管理

Results:
・インフルエンザの流行期 3シーズン(2016年1月15日から2018年4月12日まで)
・ヨーロッパ15ヵ国、209のprimary care practiceが参加
Figure 1: Study profile
JCみき1

・シーズン間、グループ間で背景に差はない[Table 1]
【Primary outcome】
・Usual care groupの回復までの時間は6.73日間(95% Bayesian credible interval[BCrI] 6.50-6.96)[Figure 2]
・Usual care plus oseltamivir groupの回復までの時間は5.71日間
・Oseltamivirによる短縮効果は1.02日間(BCrI 0.74-1.31)[Figure 3]
・12歳以下、併存症なし、軽症、発症後48時間以内のサブグループでは、0.70日間(BCrI 0.30-1.20)短縮
・65歳以上、併存症あり、中等症から重症、発症後48時間以上のサブグループでは、2.3-3.2日間短縮(通常は11−13日間)
→高齢、併存症あり、重症度が高い、48時間以上の場合、オセルタミビルによる効果が高い。
Figure 2: Estimated mean days to recovery for all subgroups in the usual care intention-to-treat population

JCみき2

Figure 3: Estimated mean days of oseltamivir benefit for all subgroups in the intention-to-treat population
JCみき3

Figure 4: Modelled oseltamivir benefit by influenza status in the intention-to-treat population
JCみき4

【Secondary outcome】[table 2]
・医療機関への再診、入院、肺炎の合併、アセトアミノフェンもしくはイブプロフェンを含む市販薬の使用は両群で有意差なし。
・Usual care plus oseltamivir groupでは、抗菌薬の使用と家庭内での感染伝播が少ない傾向にあり、嘔気・嘔吐の新たな発生はusual care groupと比較して多く、より長時間持続していた。

Discussion:
・インフルエンザ陽性の人と、陰性の人との間で効果に差がなかった。もっというと、インフルエンザ陽性の人と、他のウイルスに陽性だった人、インフルエンザAの人とBの人でも有意差はなかった。これまでのインフルエンザ様疾患に対するオセルタミビルとプラセボを比較した研究では、インフルエンザと確定した人とそうでない人を比較した場合、臨床的に有意ではないがオセルタミビルを使用した方が症状持続時間は5時間短かったとされている。今回の研究では症状日誌を1日1回のみ記録してもらっていたため、小さな差を検出できなかった可能性がある。またオセルタミビルの作用機序としてより広範なウイルスへの効果があるかもしれない。あるいは検査の感度や手技の問題かもしれない。
・プラセボと比較しないデザインにしたため、オセルタミビルがどの程度結果に寄与したのか、他の影響があったのかはわからない。

【開催日】2020年7月1日(水)