―文献名―
Jolien Teepe, Berna DL Broekbuizen, Katberine Lens et al. Disease Course of Lower Respiratory Tract Infection With a Bacterial Cause. Ann Fam Med 2016; 14 (6): 534-539.
―要約―
目的:
• 細菌感染に由来する咳と、それ以外の咳の経過は異なると思われるが、先行文献は乏しい。
• プライマリ・ケアの現場では通常細菌検査は行われず、臨床的な判断のもとで加療が行われる。現場の医師は重症化する細菌性の咳を見落としたく
ないがため、症状が強い場合に抗菌薬を処方することがある。しかし、こうした対応では副作用の発症、耐性菌の出現を招いてしまう。
• 抗菌薬による治療を受けなかった場合の細菌性の下気道感染(Lower Respiratory Tract Infection: LRTI)の経過の経過が明らかになれば、
初期対応として注意深く経過をみたり、患者の治療経過を予測することができるようになると考えられる。よって本研究では、成人における
急性発症の咳について、細菌性LRTIの経過について調べた。
方法:
研究デザインと研究対象者
• プライマリ・ケアの現場から取得された発現から28日以下の急性発症の咳を伴う成人2,061人のデータ(ヨーロッパの多施設研究GRACE-10 study
の二次利用)を用いた。この研究では被験者らはアモキシシリン群とプラセボ群にランダムに割り付けられていたが、今回の解析には疾病の自然
経過を反映しているプラセボ群(1,021名)のみを用いた。聴診により明らかに肺炎が疑われる患者(局所的なラ音・気管支音)、全身所見が強い
患者(高熱、嘔吐、重度の下痢)、妊娠している患者、ペニシリンにアレルギーがある患者、前月に抗菌薬治療を受けている患者、免疫不全の
患者は除外した。
評価項目
• 症状)4段階のLikert scaleによって以下の症状を記録した:咳、痰、息切れ、喘鳴、鼻汁、発熱、共通、筋肉痛、頭痛、睡眠障害、具合の悪さ、
日常生活や仕事の障害、意識障害、下痢。
• 検体)初診日に痰と鼻咽頭の培養を取得した。細菌検査とウイルス学的検査を実施した。
• 胸部X線)初診から7日以内、できれば3日以内に取得した。
細菌感染の定義
• S. Pneumoniae, H. influenza, M. Pneumoniae, B. pertussiss, L. Pneumoniae が気道検体から検出された場合、あるいは血清学的に
証明された場合に、細菌感染ありと定義した。
抗菌薬の使用
• 医師の判断で、必要な場合は適切な抗菌薬投与が行われた。
アウトカム指標
• 初診から「症状がよくない」と評価された期間、診療から2日目から4日目の重症度、疾病増悪による再診、初診から4週以内に入院が必要となった
際の新しい症状および所見、寛解までの期間、日常的な活動や仕事に支障があった期間。
統計解析:
• 重症度(線形回帰)、期間(Cox回帰)、再診(ロジスティック回帰)を解析。多変量解析の際は調整因子を以下のように定めた:年齢、喫煙、
併存疾病(肺・心・糖尿病)、受診までの咳の期間。
結果:
• 対象者は834名で、細菌性LRTIは162名(19%)に認められた。
• 起炎菌はS. Pneumoniae, H. influenza(いずれも34.7%)が多かった。
• 細菌性LRTIの患者には喫煙者が多く(33% vs 24%)、咳の期間が長く(9日 vs 8日)、初診時の患者の訴える重症度が高く(34 vs 30)、
レントゲン上の所見が多かった(6% vs 3%)。
• 62名(7%)の患者に、初診から10日以内に5日以上の抗菌薬使用が認められた。これらの患者は医師の評価する重症度が高かったが(36 vs 31)、
年齢や併存疾患は非使用群と差はなかった。
• 細菌性LRTI患者は2日目から4日目にかけて患者の訴える重症度が有意に高く、症状の増悪のため再診する割合も有意に高かった。
• X線上肺炎像が認められる患者を除外しても、結果は変わらなかった。
• 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群にそれぞれ1名ずつの入院があった。死亡例はなかった。
• 細菌性LRTI群と非細菌性LRTI群では、「症状がよくない」状態について経過に有意な差は認めなかった。
• 抗菌薬使用者を除外した解析では、症状増悪のための再診が細菌性LRTI群で多かった(23% vs 16%, OR=1.67, 95%CI 1.06-2.63, P=.029)。
• S. Pneumonia 感染者を除外した解析と、H. influenza 感染者を除外した解析について、それぞれにおいて特に結果は変わらなかった。
考察:
結論
• 急性の細菌性LTRIはそうでないものよりも症状経過がやや悪いことが明らかになったが、この相違の意義は乏しい。
限界
• この研究では、非常に重篤で即時紹介された患者は含まれていないので、研究結果は重症患者へ一般化することはできない。
• 細菌がcolonizationしていた事例も細菌性LRTIに分類された可能性がある。ただし、S. Pneumoniae, H. influenzaは健常者で最大10%ほど
colonazationが認められる程度である。COPD患者に, H. influenza のcolonazationが多いが、この研究では5%しか該当しない。
実臨床への意義
• 細菌性LRTIは非細菌性LRTIと経過は変わらない。継承例は細菌性だとしてもself-limitingであるため、watchful waitingの戦略が検討の
余地がある。
【開催日】
2016年12月21日(水)