-文献名-
Elmore N, Burt J, Abel G, et al. Investigating the relationship between consultation length and patient experience: a cross-sectional study in primary care. Br J Gen Pract. 2016.
-この文献を選んだ背景―
昨年度から当診療所では午後1診体制をとっており、3時間で30名前後の診察を、関注等の処置を含め原則1人で行う必要がある。また、午前の3診体制においても、自分自身の役割として外来を円滑にまわすために混み具合を見ながらある程度メリハリをつけて診察を行うことが増えてきた。一方で、短時間の診察であっても、患者の真の受診理由をできるだけ早く捉えて適切に対応することができれば、必ずしも患者の満足度が下がるわけではないという実感もあった。
そこで、最近生涯学習のために始めたRSSリーダー(feedly®)のLatest headlines from BMJで、Research Newsとして本文献が取り上げられていたため関心を持った。
-要約-
【背景】
プライマリ・ケアにおいて、より診察に時間をかけることが、これまでケアの質向上や健康関連アウトカムの向上と関連づけられてきた。しかし、診察時間の長さ(consultation length)と患者体験(patient experience)の潜在的な関連性については、エビデンスがほとんどない。
【目的】
診察時間の長さと、患者が報告する医師のコミュニケーションの質・医師に対する信用性(trust)と信頼性(confidence)・全体満足度の関連性について調査する。
【研究デザインとセッティング】
イギリスの13箇所のプライマリ・ケア施設において、440例の診察をビデオ録画し、患者体験に関する質問紙を用いて分析した。
【方法】
研究に参加したGPの診察を受けた患者から、診察の録画と質問紙の記載について同意を得た。診察時間はビデオ録画により計算された。線形解析(患者・医師の背景を調整)により、患者体験(コミュニケーションの質・信用性と信頼性・全体満足度)と診察時間の長さの関連性を調査した
【結果】
診察時間の長さと患者体験に関する3つの尺度の間に関連は認めなかった(すべてP>0.3)。診察時間追加分数あたりの調整スケール変化率は、コミュニケーションの質0.02(95%CI -0.20−0.25)、信用性と信頼性(95%CI -0.27−0.41)、全体満足度(95%CI -0.46−0.18)であった。(Table2-4)
【結論】
コミュニケーションに関する患者体験尺度と診察時間の長さの間に関連性は認めず、ときに患者は非常に短い診察において良好な体験を報告した。しかし、より長い診察時間は、臨床的効果や患者の安全性といった、良質なケア達成のために同じく重要な側面のためには必要かもしれない。とくに複雑性の高い患者に対して、より長い診察時間がもたらす利益についてはさらなる研究が必要である。
-考察とディスカッション-
【考察】
本研究では、診察時間の長さと患者体験(コミュニケーションの質・信用性と信頼性・全体満足度)は関連しないことが示されたが、結論にも記載されている通り、ケアの質との関連については不明である。単純に時間をかければ患者は満足するわけではないことが示唆された一方で、短時間の診察でもケアの質が担保されるかどうかについては、家庭医の臨床能力・カルテ記載・扱う健康問題の複雑性・患者との継続性など、様々な観点から考える必要がありそうだ。
【ディスカッション】
みなさまの実臨床での経験や実感とともに、本研究の結果や限界、診察時間とケアの質の関連等について、自由にディスカッションをお願いします。
【開催日】
2016年11月2日(水)