プライマリ・ケア診療所と家庭医の継続性が患者の健康アウトカムに及ぼす影響

-文献名-
Terrence McDonald, et al. The Impact of Primary Care Clinic and Family Physician Continuity on Patient Health Outcomes: A Retrospective Analysis From Alberta, Canada. Annals of Family Medicine. Vol. 22, No. 3 May/June 2024.

-要約-
【背景と目的】
プライマリ・ケアの理想的な提供は、患者と家庭医(FP)との長期的な関係性(longitudinal relationship)、いわゆる関係の継続性(relational continuity)に基づいている。関係の継続性は、より良い患者ケア、過剰な処置や入院、救急外来(ED)の受診の減少、コストの削減、患者満足度の向上と関連することが研究で示されている。
家庭医療におけるパートタイム診療(part-time practice)の傾向は、米国でもカナダでも20年以上前から高まっている。その結果、患者は同じ診療所内で複数のFPからケアを受ける可能性が高い。Atlasらは、小規模な学術的ネットワークにおいて、診療所ではなく特定の医師とのつながりが有益であることを見出している。しかし、全体として、個々のFPの継続性とは別に、地域のプライマリ・ケア診療所の継続性の効果についてはほとんど知られていない。Bazemoreらは最近の継続性に関する文献の広範なレビューの最後に、この疑問に関する研究を呼びかけている。
本研究では、カナダ・アルバータ州において、プライマリ・ケア診療所の継続性(primary care clinic continuity)(FPの関係の継続性とは異なる)が患者の健康アウトカムに及ぼす影響について検討した。この分析結果は、増大するプライマリ・ケアの不足に対処するための政策決定に役立てることを目的としている。
この後方視的観察研究では、かかりつけの診療所ではあるが、異なる家庭医に診てもらっている患者を対象に、ケアの継続性の影響を検討した。

【方法】
カナダ・アルバータ州の2015~2018年のリンクされた医療行政データを分析し、患者の複雑さのレベルの違いによる、医師および診療所の継続性と救急外来(ED)受診率および入院率との関連を検討した。
医師の継続性は、KPC(Known Provider of Care)指数を用いて計算された。3年間の期間を設定し、その間に3回の受診があることを条件とした。KPC指数は連続変数としてもカテゴリー変数としてもコード化した。低継続性を0%~40%、中等度を41%~80%、高継続性を81%~100%とした。
診療所の継続性についても同様に、患者が同じ診療所で主治医の同僚医師にかかった割合(対するものとして、別の診療所、救急外来など)として算出され、グループケア率(GCR)と呼ばれた。GCRに基づき、各患者の診療所の継続性をNA(KPC指数100%でグループ診療の機会がないため該当なし)、なし(0%、 低(1%~50%)、高(51%~99%)、完全(100%、自分の主治医にかからない場合は必ず自分の主治医の同僚医師にかかる)に分類した。)
患者の複雑性は、CRG(Clinical Risk Grouper)法を適用して決定した。CRG法は、先行する疾患の診断と医療システムの利用に基づいて、患者を9段階の複雑度(1が最も複雑度が低く、9が最も複雑度が高い)のいずれかに分類するものである。本研究では、臨床的に類似した複雑性のレベルを捉えるために、これらのレベルを3つのグループに分類した:複雑性が低い(CRGが1-2)、中程度(3-4)、高い(5-9)。
負の二項回帰モデルを作成し、それぞれと全原因による救急外来受診および入院との関連を評価した。

【結果】
患者の44%が男性、56%が女性であった。年齢の中央値は50歳であった。ほとんどの患者は、1人のFPとの継続性が中等度(45.6%)または高レベル(47.9%)であり、残りの6.5%は低レベルであった。

表1には、患者の特徴を医師の継続性(KPC指数)別に示した。医師の継続性が高い患者は、より複雑(CRG=5-9)で高齢(年齢中央値=55歳)である傾向があったが、継続性が低い患者はより健康であった。医師の継続性が高いほどED受診が少ないという予想された傾向が観察されたが、入院件数はKPC指数のレベル間で同等であった。医師の継続性の絶対値では、農村部は継続性の高い群にやや多く含まれていたが、全体として、医師の継続性は、大都市圏、都市部(町/小都市)、農村部の間で顕著な差はなかった。

表2は、患者の特徴を診療所の継続性(GCR)別に示したものである。この継続性は、表の1行目に明らかなように、二峰性に分布していた。常に主治医を受診している患者(NA群)と、受診していないが常に同僚医師を受診している患者(完全群または100%群)は、いずれも年齢が高い傾向にあった。診療所の継続性がない患者(GCR0%)は、複雑性が低い傾向にあった。アルバータ州の大都市圏であるゾーン2(カルガリー市とその周辺)とゾーン4(エドモントン市)の患者は、町や小都市の患者よりも診療所の継続性がない傾向にあった。農村部の住民は診療所の継続性が高い傾向にあり、特に100%のGCRカテゴリーでは農村部の住民が4分の1以上を占めたのに対し、他のGCRカテゴリーでは20%以下であった。診療所の継続性が高い患者は、継続性が低い患者よりも平均してED受診と入院が少なかったが、継続性がない患者は継続性が高い患者と同程度であった。より高いGCRは、より大規模なグループ診療と関連していた。

表3は、多変量解析の結果である(負の二項回帰モデル)。ED受診と入院の両方で、診療所の継続性(GCR)の効果は患者の複雑さ(CRG)によって大きく異なっていた。医師の継続性(KPC指数)が高いほど、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用が少なく、複雑性の高い患者では病院の利用が少なかった。診療の継続性の効果は直線的ではなく、ED受診と入院についても同様のパターンがみられた。ED受診および入院の減少との関連が最も強かったのは、常に主治医またはその同僚医師のいずれかを受診している患者、すなわち、それぞれNA(KPC指数100%)群および完全(GCR100%)群であった。さらに、常に主治医を受診している患者は、複雑性の低い患者(CRG 1-2)を除き、EDおよび入院の利用が最も少なかった。その効果は、最も複雑度の高い群で最も大きかった。診療所の継続性が低い群(GCR1%~50%)は、診療所の継続性がない群(GCR0%)に比べ、一貫してEDや入院の利用が多いことと関連していた。高い診療所の継続性(51%~99%GCR)は、1つの例外(入院についてはCRG 3-4)を除いて、EDおよび入院の減少に関連していた。

まとめると、医師の継続性の高さは、患者の複雑性のすべてのレベルにおいてEDの利用減少に関連し、複雑性の高い患者では入院の減少に関連した。大まかには、診療所の継続性なし(0%)は利用増加と関連し、診療所の継続性あり(100%)は利用減少と関連し、最も複雑な患者に最大の効果がみられた。診療所の継続性が1%から50%までのレベルでは、一般的に利用がやや増加し、51%から99%までのレベルでは利用がやや減少した。

【考察】
カナダ・アルバータ州を対象としたこの後ろ向き観察研究では、FPとの関係の継続性(KPC指標で把握)が、全原因によるED受診および入院の減少と関連していることが報告された。このような医師の継続性の効果は、過去の文献から予想されていた。重要なことは、この効果は複雑で高齢の患者において最も強かったが、若くて健康な患者においてもEDの利用に有意な影響を及ぼしたことである。
診療所の継続性(GCRによって把握される)は、医師の継続性よりも劇的ではないが、同様の効果を示した。同じ診療所の別のFPに常に診てもらうことは、自分のFPに診てもらうのでなければ、明らかに有益であるように思われた。診療所の継続性の効果を分離することによって、これらの結果は、患者と医療システムの両方の観点からこのケアモデルを支持する新たな証拠を提供するものである。今回の知見から、グループケアを受けた患者のレベルが低かった場合に、わずかながら不利益を被った理由をよりよく理解するためには、さらに焦点を絞った研究が必要である。そのためには、現在入手可能なデータでは、ED受診や入院を、同僚医師や外部の医師のいずれかによるものと確信をもって断定することはできない。したがって、診療所の継続性が低いことによる明らかな不利が、同僚医師を受診したことによるものなのか、同僚医師を受診しなかったことによるものなのかを推測することはできない。次のステップは、この区別をするためのデータへのアクセスを求めることである。
診療所の100%継続性の価値は、質と健康アウトカムを改善することが示されている多くの要因に起因すると思われる。例えば、アルバータ州のFPの大多数は、同じ地域の診療所で一緒に診療を行うことで、担当する患者の電子カルテへのアクセスも共有することになり、情報提供や管理の継続性がもたらされる。同じクリニックで働くFPは、共通の電子カルテで得られる情報よりも豊かで包括的な直接的コミュニケーションを行う可能性が高い。最後に、同じクリニックで異なるFPが診察を受けているにもかかわらず、同じ看護師、医療助手、その他の専門家に診察を受けているというチーム効果があるかもしれない。
医療システムの観点からは、プライマリ・ケアの不足に対処するための州政策立案者の指針となるエビデンスが得られた。一部の政治家が提唱する緊急医療センターという「応急処置」に投資するよりも、少なくとも複数のFPによるクロスカバーと共有診療を提供するプライマリ・ケア診療所のための構造的支援と政策(すなわち、支援スタッフの増員、支払いシステムの改革)に投資する方が、優れたアウトカムとコスト削減をもたらす可能性が高い。これらの知見は、冒頭で述べたプライマリ・ケアにおけるパートタイム診療の増加傾向についても、一定の安心感を与えるものである。
患者の観点からは、患者は自分のFPに一貫して診てもらい、それができない場合は同僚医師に一貫して診てもらうことが最善の方法であることが示唆された。関係の継続性は、世界の一部でFPによって高く評価されていることが示されているが、調査した患者コホートによって異なる。人口が増加する中、FPの供給は限られており、その分布も最適とはいえないため、すべてのカナダ人がこのようなFPとの関係を利用できるようにすることは、現時点では不可能である。しかし、本研究の結果は、診療所の継続性も患者の健康にとって価値があることを示すものである。
今後の研究では、上記の中間レベルのグループケアの効果に加え、クリニックで診療するすべてのFPが担当する患者数、パートタイムFPとフルタイムFPの人数と組み合わせ、クリニックの立地、クリニックチームによる患者のケア期間などの要因を検討する予定である。
われわれの研究にはいくつかの限界がある。KPC指標は、患者がFPやプライマリ・ケア診療所を受診した回数が異なるという事実を考慮していない。われわれはこの欠点に対処するため、3年間のウィンドウの中で3回以上受診した患者のみを対象とし、総受診回数をモデルに組み込んだ。KPC指数は、患者・医師関係の影響や性質、その関係の長さ(よりよいコミュニケーション、信頼関係の構築、患者の健康アウトカムの改善と関連している)を考慮していない。本研究の横断的デザインは、このような状況において患者や臨床医の無作為化を欠くという固有のリスクをもたらす。また、入院という転帰と患者の複雑性という独立変数(CRG)との間には、いくつかの交絡の可能性がある。理想的には、ランダム化比較試験でこれらの問題を解決することである。しかし、それは非常に高価であり、必要な規模での実施も現実的ではなく、少なくともカナダでは倫理的に許されない可能性が高い。明確な関連を証明することはできても、因果関係を証明することはできない。
さらに,モデル内の共変量として,診療所で働くFPの数を詳しく調査しなかった.また、各FPの勤務パターンの背景を明らかにするために、週や季節/年ごとの勤務パターンも調査していない。我々のデータからは、患者へのアクセスを維持するためにFPのロカム・カバレッジ(カナダでは一般的な慣行)が行われているかどうかを明確に特定することはできなかった。われわれのデータでは、例えばスポーツ医学や中毒医学のような特定のタイプの集中診療を完全に除外することはできなかったが、これらは比較的少数であり、われわれの結果に影響を与える可能性は低い。

【結論】
最良のヘルスケアアウトカム(ED受診と入院で測定)は、常に主治医を受診するか、主治医が不在の場合に診療所の同僚医師を受診することと関連している。部分的な診療所との継続性の効果は複雑なようであり、さらなる研究が必要である。これらの結果は、パートタイム診療やグループ診療にとっては安心材料となり、プライマリ・ケア従事者の政策立案者にとっては指針となる。

【開催日】2024年6月5日

ACP話し合い開始のタイミングに影響する患者の好みと要因:異文化間のmixed-method study

-文献名-
Jun Miyashita1,2 , Ayako Kohno3, Shao-Yi Cheng4, Su-Hsuan Hsu5, Yosuke Yamamoto2, Sayaka Shimizu2, Wei-Sheng Huang4 , Motohiro Kashiwazaki6, Noriki Kamihiro6, Kaoru Okawa7,
Masami Fujisaki8, Jaw-Shiun Tsai4 and Shunichi Fukuhara1,2

-要約-
<背景>
 ACPの話し合いは世界的に受け入れられつつあるが、その理想的なタイミングは不明であり、文化的な要因も関係していると考えられる。

<目的>
 日本と台湾の成人患者を対象に、事前ケア計画の話し合いを開始する時期とそれに影響する要因を評価する。

<デザイン>
 混合法による質問紙調査により、健康な状態から病気であることが明らかな状態までの4つの段階において、事前のケアプランに関する話し合いを開始したいと考えている患者の割合を定量的に測定し、望ましいタイミングの基盤となる質的な認識を明らかにした。

<セッティング/参加者>
 日本の4つの病院と台湾の2つの病院の外来を訪れる40~75歳の患者を無作為に募集した。

<結果>
 全体(700人中)では、日本では72%(365人中)、台湾では84%(335人中)が病前の話し合いを受け入れた(p<0.001)。病前の話し合いに積極的な要因は、日本では若年層、生命維持治療の拒否、台湾では高齢層、社会的支援の強さ、生命維持治療の拒否であった。考え方は大きく4つに分類され、最も多かったのは「賢明な予防策として話し合いを歓迎する」で、「終末期が近づくまで話し合いを延期する」「死は普遍的に避けられないものと受け止める」「医療者主導で話し合いを行う」を上回った。

<結論>
大多数の患者は、健康状態が著しく悪化する前に話し合いを開始することを望んでいるが、約5人に1人の患者は、明らかに死に直面するまで話し合いを開始したくないと考えている。事前介護計画を促進するためには、医療従事者は患者の嗜好や、事前介護計画の開始を受け入れるか否かに関連する要因に留意しなければならない。

<既知のこと>
・A C P話し合いに対して予想される、または実際にある、患者のネガティブな反応を考えると、医療従事者はその話題に触れることに躊躇いを感じる。患者は希望を失うかもしれないし、時期を誤ったACPは医師患者関係を悪化させるかもしれないからである。
・患者がいつACP話し合いへの心理的な準備ができるのかを知る手がかりとなる研究はほとんどない。

<この論文で追加されたもの>
・日本では72%、台湾では84%の回答者が、健康状態が悪化する前にACP話し合いを始めたいと考えている
・しかし、少数派だが20%の人々は、このような議論を人生の終わりが近づくまで延期したいと考えている
・アジア人の意識は均一ではなく、日本人よりも台湾人の方が、死は避けられないものであり、ACP話し合いは常識であると考える患者が多い。日本の患者は台湾の患者よりもACP話し合いに対して受動的な態度をとり、医療者主導でACP話し合いが行われることを好む

<実践、理論、政策への示唆>
・日本や台湾の患者の多くは、健康状態が大きく損なわれる前に話し合いを始めようとするが、明らかに終末期を迎えるまで話し合いに応じない人もいる
・したがって、ACPを推進するためには、医療従事者は、患者の好みの多様性やACPを受け入れるか否かに関連する文化的要因に留意する必要がある。

転ばぬ先の杖(賢明な予防策)
 将来、体が不自由になった時に備えて自分の意思を伝えておくべきだ
終末期までのACPの延期
 終末期が近づいていることを受け入れるまで、話し合いを始めるべきではない
終末期の普遍的な必然性
 人は誰でも死を免れないので、将来の医療について話し合う必要がある
医療従事者主導でのACP話し合い
 医療従事者が主導権を握れば、患者は迷わず話し合いに応じる

【開催日】
2021年12月8日(水)

高齢者の社会的孤立と患者体験

―文献名―
Takuya Aoki, Yosuke Yamamoto, et al. Social Isolation and Patient Experience in Older Adults. Ann Fam Med.2018;16(5):393-398.

―要約―
【背景】
社会的孤立とは、個人が社会的な帰属意識を持たず、他者との関わりを持たず、社会的な接点が少なく、質の高い人間関係を築けていない状態と定義されている。社会的孤立は,特に高齢者において大きな健康問題として認識されている。また社会的孤立は、全死亡、冠状動脈性心臓病や脳卒中による死亡、再入院、転倒、認知機能の低下、自殺による死亡のリスクを高めることがわかっている。一方で、患者経験は、治療へのアドヒアランスや医療資源の使用など患者の行動を通じて健康アウトカムに影響を与えることが知られており、これまでの研究で患者の経験には社会経済的な差異があることが報告されている。

【目的】
本研究では,高齢者のプライマリ・ケア患者における社会的孤立と患者経験との関連を検討した。

【方法】
2015年10月から2016年2月にかけて日本のプライマリ・ケア診療所ネットワーク(28診療所)を対象とした横断的研究である。社会的孤立については,Lubben Social Network Scale(略式)を用いて評価し,スコアが12点未満の患者を社会的に孤立していると分類した。またプライマリ・ケアに関する患者の経験については,プライマリ・ケア評価ツール(JPCAT)日本語版を用いて評価した。JPCATは,近接性,継続性,協調性,包括性(受けられるサービス),包括性(実際に受けたことがあるサービス),地域志向の6つの領域から構成されている。線形混合効果モデルを用いて,診療所内でのクラスタリングと個々の共変量を調整した。

【結果】
1939名の成人患者の中で調査に回答した644名のうち、65歳以上のプライマリ・ケアを受けている高齢患者465名のデータを解析した。表1は会的に孤立している参加者とそうでない参加者の特徴を比較している。研究参加者の特徴としては、女性(54.4%)、70歳以上(71.8%)、大学以下の学歴(79.3%)、複数の疾患を持つ患者(74.8%)が大半を占めた。また、社会的に孤立している患者の割合は27.3%であった。JPCAT100点満点中、最も得点の高かった領域は「継続性」で81.2点、最も得点の低かった領域は「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」で45.8点だった。また社会的に孤立している参加者は、JPCATスコアとSF-36のMental Health Indexスコアが低いことを示唆する傾向が見られた。表2は社会的孤立と,プライマリ・ケアにおける患者体験の指標であるJPCATスコアとの関連を調べた線形混合効果モデルの結果である。交絡因子と診療所内のクラスタリングを調整した結果,社会的孤立はJPCATの総合スコアと負の関係にあった(平均差=-3.67;95%CI,-7.00~-0.38)。JPCATのドメインスコアのうち、社会的孤立は、継続性、包括性(実際に受けたことがあるサービス)、地域志向性のスコアと有意に関連していた。特に「包括性(実際に受けたことがあるサービス)」は社会的孤立と最も強い関連を示した(平均差=-7.58;95%CI、-14.28~-0.88)。

【研究の限界】
患者体験や社会的ネットワークの質が低い患者は、本研究の調査に回答する可能性が低かったと考えられ、もしそうであれば本研究における社会的孤立と患者体験との関連性が過小評価される原因となる可能性がある。

【結論】
社会的孤立は,高齢者のプライマリ・ケア患者のネガティブな患者体験と関連していた。プライマリ・ケア提供者の患者のソーシャル・ネットワークに関する意識を高め,社会的に孤立した高齢患者に対して,プライマリ・ケアの経験,特に継続性,包括性,地域志向に関する経験を改善することを目的とした介入を行うことが望まれる。

【開催日】
2021年10月13日(水)

アタッチメント理論(愛着理論)と継続性(医師患者関係)

-文献名-
Frederiksen, Heidi Bøgelund, Jakob Kragstrup, and Birgitte Dehlholm-Lambertsen.
“Attachment in the doctor–patient relationship in general practice: A qualitative study.”
Scandinavian journal of primary health care 28.3 (2010): 185-190.

-要約-
【目的】なぜ主治医とのinterpersonal continuityは患者にとって有用なのかを探索する

【デザイン・セッティング・対象】
22名の患者にインタビューを用いた質的研究をした。そのうち12名は毎回同じGPに診てもらっており、10名は馴染みの薄いGP(専攻医)に診てもらっていた。診察を観察後にインタビュー対象者を選択し、主訴(受診理由)、年齢、性別によって合目的に対象者を抽出した。研究テーマは心理学的理論を用いて対応した。

質的分析の方法論:*解釈的現象学的分析
「主治医との関係性を患者はどのように経験しているか?」
インタビュー逐語録の読み込み、テーマを注釈し、各テーマを連結させ、最後に、それらのテーマと
主観的な記述の理論的な意味を解釈するための適切な社会心理学的理論を結びつけた。その過程で、Attachment理論が、役立つ枠組みとして立ち上がってきた。

*Attachment理論とは:John Bowlby,1907―1990
主に幼少期における養育者などとの関係性,ことにアタッチメントattachment(愛着)が,人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論。 愛着理論ともいう。

【結果】
患者のinterpersonal continuityの有用性の理解にとって中心的問題は、attachmentの必要性であった。患者はGPとの人間的な関係性の構築をより好み、大多数の患者は医師患者関係の中にある、ある程度の脆弱性を述べた。病気が重症だったり心配が強いほど、患者は脆弱であり、毎回同じGPをより必要としていた。更に、たとえ医師患者関係が好ましくない状況であっても、GPを変えることは困難であると述べていた。

【考察 *抜粋記載】
病気になると、自動的に医師はアタッチメントの対象となる。アタッチメント理論では、安全になることよりも、安心感を得ることへの関心が述べられているが、医師はケアを提供するためのより賢く強い個人として認識される。またアタッチメント理論は、合理的な判断が個人の関係性で説明つかないことも説明することができる。患者は弱い立場(脆弱性)なので、好ましくない医師患者関係の場合も医師を変えるに至らないのだ。

【結論】
Attachment理論は、毎回同じGPに診てもらいたい患者ニーズの原理の説明を提供するかもしれない。患者という弱い立場は、ケア提供者へのattachmentの必要性を作り出す。この欲求は根本的なものであり、病いや怖さを感じる時に活性化される。

【開催日】2020年11月11日(水)

アドバンス・ケア・プランニングの適切なタイミングとは?

-文献名-
Nancy L. Schoenborn, MD, MHS, Ellen M. Janssen, PhD, Cynthia Boyd, MD, MPH, John F.P. Bridges, PhD, Antonio C. Wolff, MD,Qian-Li Xue, PhD and Craig E. Pollack, MD,MHSdoi: 10.1370/afm.2309 Ann Fam Med November/December 2018 vol. 16 no. 6 530-537

-要約-
目的: 臨床診療ガイドラインでは、プライマリケアにおける多くのことを決定するために、平均予後を組み込むことを推奨している。全国サンプルで平均余命を議論することの高齢者の好みを調べることを目的にした。
方法:2016年にnational probability-based on line panel(1)から1272人の高齢者(65歳以上)を招待した。我々はすぐに死ぬことがない平均余命が限られた仮想患者を提示した。私たちは参加者に、もし患者であったとしたら、どれくらい生きるか医師と話したいか話したくないか、医師がこの議論を切り出すことを容認できたかできなかったか、医師に平均余命について家族や友人に話してもらいたいかもらいたくないか、いつ話し合うべきかを問いかけた。
(1)あらかじめ登録してもらった人に世論や健康についてオンラインでアンケートをして答えてもらう仕組み
結果:参加者878人(69%の参加率)の平均年齢は73.4歳だった。過半数の59.4%は、提示されたシナリオでどれくらいの期間を生きることができるかについて議論したくないと回答した。このグループ内では59.9%も医師がこの話題を切り出すべきとは考えず、87.7%も医師が余命について家族や友人に話し合うことを望まなかった。55.8%の人は平均余命が2年未満の場合にのみ余命について話し合いたいと答えた。議論を持ちたいと積極的に関連する要因には、教育レベルが高いこと、医師が余命を完璧に予想できると信じていること、生命に関わる病気や愛する人の余命について過去に経験したことがあることがあった。宗教が重要であるという報告は否定的に関連していた。
結論:高齢者の大部分は平均余命が限られている仮想の患者を描いた時、平均余命を議論することを望まなかった。また多くの人はこの議論を提供されることを希望しなかった。 そして臨床医がこのデリケートなトピックに関する患者の好みを同定する方法についてのジレンマを提起する
discussion:臨床医が最初に患者の病気や平均余命に関する議論の経験や平均余命に関する患者の信念を探り、平均余命の議論に対する患者の感受性を評価することがこのジレンマの解決法の一つになる可能性がある。継時的にそれらを評価するのが良い。患者の人生における重大な健康問題や患者家族の重大な健康問題の後に重要かもしれない。平均余命が1-2年になった時もアプローチするタイミングかもしれない。
限界:ITリテラシーの低い高齢者などのサブグループを代表していない可能性がある。架空のシナリオであるため参加者の回答は実際の行動を反映していないかもしれない。さらに単一のシナリオでは患者の健康状態の多様性や健康の動的な自然経過を把握できない可能性がある。

【開催日】2020年2月5日(水)

患者と家族からみたケアの移行,受け渡し(退院支援)

-文献名-
Suzanne E M et.al. Care Transitions From Patient and Caregiver Perspectives. Ann Fam Med 2018; 16: 225-231.

-要約-
<目的】> ケアの移行/受け渡し(退院支援)を効率的に行うために協調的な対策がとられているにも関わらず,病院から自宅(home)への行程/道のりは患者と介護者にとって危険に満ちたものである.患者と介護者がケアの移行/受け渡し(退院支援)の経験や彼らが望むサービス,彼らにとって価値あるアウトカムについてはほとんど知られていない.この研究の目的は(1)ケアの移行/受け渡し(退院支援)における患者と介護者の経験を描写すること,(2)患者と介護者にとって望ましいケアの移行/受け渡し(退院支援)のアウトカムやそれに関連する健康関連サービスの特徴を明らかにすることである.

<方法>
米国内の6つの健康ネットワークから採用された138名の患者と110名の家族介護者にインタビューを行った.34の同質なフォーカスグループ(103名の患者と65名の介護者)と80のkey informant interview(質的研究において「核となる情報提供者」から問題に関する情報を収集するときに行う方法)実施した.録音された記録を文字起こしし,グラウンデッド・セオリーの手法を用いて分析し,複数のテーマとそれらの関係性を明らかにした.

<結果>
患者と介護者によりケアの移行/受け渡し(退院支援)について望まれるアウトカム3つが示された.
(1) 医療職に「Cared for:世話をされた」「Care about:かまってもらった」と感じること
(2) ヘルスケアシステムによる明解で責任ある説明をうけること
(3) ケアプランを実行する上で「準備ができて」「実行可能である」と感じること
5つのケアの移行/受け渡し(退院支援)や医療提供者の行動がこれらのアウトカム実現に関連していた.
(1) 共感的な言葉とジェスチャーを用いること
(2) 自宅(home)におけるセルフケアを支援するために患者のニーズを先読みして手を打つこと
(3) 退院計画を協同で建てること
(4) 実行可能な情報を提供すること
(5) 最小限の受け渡しにより切れ目のないケアを提供すること

<結論>
連続するケアを通じた明解な説明責任,ケアの継続性,ケアの態度が,患者と介護者にとって重要なアウトカムであった.これらのアウトカムが達成されたとき,ケアは素晴らしい,とか信頼に足ると受け止められる.一方,ケアの移行/受け渡し(退院支援)が業務的で安全でないと経験され,患者や家族にヘルスケアシステムから見放されたと感じさせていることも示された.

【開催日】2018年10月17日(水)

Ambulatory care sensitive conditions(プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と家庭医による継続性の関係

―文献名―
Isaac B, Adam S et al. Association between continuity of care in general practice and hospital admissions for ambulatory care sensitive conditions: cross sectional study of routinely collected, person level data. BMJ. 2016;356:j84.

―要約―
【目的】
 家庭医によるケアの継続性がambulatory care sensitive conditions(※1;プライマリ・ケアの現場で適切にマネジメントすれば不要な入院を避けられる可能性のある状態)による入院と関連があるかを評価するため。

【デザイン】
 横断研究

【セッティング】
 英国Clinical Practice Research Datalinkに参加し接続しているプライマリ・ケアまたはセカンダリ・ケアの200の家庭医療の医療機関。

【参加者】
 2011年4月から2013年3月までの間に少なくとも2回家庭医を受診した62歳から82歳の人230,472名。

【主要評価項目】
 2011年4月から2013年3月までの期間の患者1人あたりのambulatory care sensitive conditions(家庭医が外来でマネジメント可能であると考えられる)による入院数。

【結果】
 usual provider of care index(UPC; ※2)を用いてケアの継続性を評価した。
 平均のUPCは0.61。ケアの継続性の高さによる3グループに分けても年齢・性別・社会経済的状態に違いはなかったが、ケアの継続性の低いグループではより頻回に受診する傾向が見られた(Table1)。また、医師数の多い医療機関ほどUPCは低い傾向にあった(大きな医療機関で0.59,小さな医療機関で0.70)(Table2)。
 平均すると研究機関において患者1人あたり0.16回のambulatory care sensitive conditionsによる入院を経験していた(Table1)。
山田先生図①

山田先生図②

 高齢なほど、専門医への紹介が多いほど、慢性疾患が多いほど、家庭医への受診が頻回なほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は多い傾向にあった(Table3)。
山田先生図③

 こういった共変量を調整すると、UPCが高い患者ほどambulatory care sensitive conditionsによる入院は減る傾向にあった(Table4)。
山田先生図④

 モデル化し人口統計的・患者の臨床状況を調整した場合。全ての患者のUPCが0.2上昇すると入院は6.22%減少する(95%CI 4.87%-7.55%,Table5)。
 サブグループ解析ではプライマリ・ケアの頻回利用患者においてその関連性はより強固に現れた。頻回利用者程ambulatory care sensitive conditionsによる入院が増える傾向にあり(家庭医を研究期間に18回以上受診した患者1人あたり0.36回の入院、2-4回の患者1人あたり0.04回の入院)、UPCが0.2上昇するとambulatory care sensitive conditionsによる入院が有意に減少することが示された(Table5)。
山田先生図⑤

【結論】
 家庭医療におけるケアの継続性(この文献ではUPC)を改善すると2次医療のコストを削減できる可能性がある。とくに医療を頻回に利用する患者においてはそうである。
 ケアの継続性を促進することによって患者や家庭医療の現場で働くものの経験も改善する可能性がある。

【What is already known on this topic】
 予期せぬ入院を減らすために多くのヘルスケアシステムはプライマリ・ケアへのアクセスの迅速さと平等性に焦点を当ててきた。英国においてケアの継続性は低下の傾向にあり、それはおそらくアクセスの改善・促進と継続性の間にトレードオフがあるためであろう。ケアの継続性は患者と医師の満足度に関連しているが、入院との関連は明らかにされていなかった。

【What this study adds】
 ケアの継続性はプライマリ・ケアでマネジメント可能なAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院を低下させる。家庭医の頻繁な利用者においてはケアの継続性とAmbulatory care-sensitive conditionsによる入院の関連が最も強く認められた。ケアの継続性を改善させる戦略はケアの質とコストを同時に改善させる可能性があるが、その方法については評価が必要である。

※1 Ambulatory care-sensitive conditions (ACSCs)
 以下のリンクを参照して下さい.
 http://fujinumayasuki.hatenablog.com/entry/2013/10/08/162442

※2 Usual provider of care index(UPC)
 UPC=numbers of visits with assigned provider/total visits
山田先生図⑥

【開催日】
2017年3月1日(水)

継続性の効果

―文献名―
Dong Wook Shin, et al. Impact of continuity of care on mortality and health care costs; a nationwide cohort study in Korea. Annals of family medicine. 2014, vol. 12, no. 6, p. 534-541.

―要約―
【目的】
 ケアの継続性は、質の高いプライマリ・ケアの中核要素と考えられているが、死亡率と医療費に及ぼす影響についてはまだ明らかになっていない。そこで、新たに心血管リスクとなる疾患と診断された患者の死亡率、医療費、健康アウトカムに対するケアの継続性の影響を調べることを目的とした。

【方法】
 韓国の国民健康保険加入者のうち3%を無作為に抽出し、コホート研究を行った。 2003~2004年に高血圧、糖尿病、高コレステロール血症あるいはその合併症と新たに診断された、合計47,433人の患者がエントリーされた。ケアの継続性の指標としてmost frequent provider continuity(MFPC)、modified, modified continuity index(MMCI)、continuity of care index(COC)を設定し、これらの指標と5年以上のフォローアップで起こったアウトカムとの関連を評価した。アウトカムの評価には全死亡率、心血管死亡率、心血管イベントおよび医療費が含まれた。

【結果】
 COCの中央値以下の群と中央値以上の群に分けて比較したところ、多変量調整済ハザード比は、全死亡率1.12(95%Cl, 1.04-1.21)、心血管死亡率1.30(1.13-1.50)、心筋梗塞の発症1.57(1.28-1.95)、脳梗塞の発症1.33(1.27-1.63)であった。他の継続性の指標からも同様の結果が得られた。ケアの継続性の低さは入院患者と外来患者の入院・通院期間と医療費の増加とも関連していた。

【結論】
 新たに高血圧、糖尿病、高コレステロール血症と診断された患者において、ケアの継続性の低さは、全死亡率、心血管死亡率、心血管イベントおよび医療費の高さと関連していた。そのため長期にわたる患者-医師間の信頼関係をサポートするように医療制度をデザインしていく必要がある。

Appendix1. Continuity of care indices
ex) patient 1 visited 3 providers (ABAACAAA), patient 2 visited 4 providers (ABCBADEA)
1) most frequent provider continuity(MFPC):もっとも受診頻度の高い医師への受診密度 
ex) patient 1: 6/8, patient 2: 3/8
2) modified, modified continuity index(MMCI):医師のバラつき具合
ex) patient 1: (1-3/8.1)/(1-1/8.1), patient 2 (1-5/8.1)/(1-1/8.1) 
3) continuity of care index(COC):それぞれの医師への受診頻度と医師のバラつき具合を併せたもの
ex) patient 1: [(62+12+12)-8]/[8*(8-1)], patient 2: [(32+22+12+12+12)-8]/[8*(8-1)]

【開催日】
2014年12月10日(水)

複数の医師を受診する患者のケアの継続性

 - 文献名 -
 Experienced Continuity of Care When Patients See Multiple Clinicians: A Qualitative Metasummary Ann Fam Med May/June 2013 vol. 11 no. 3 262-271(http://www.annfammed.org/content/11/3/262.full)

 - 要約 -
PURPOSE 
Continuity of care among different clinicians refers to consistent and coherent care management and good measures are needed. We conducted a metasummary of qualitative studies of patients’ experience with care to identify measurable elements that recur over a variety of contexts and health conditions as the basis for a generic measure of management continuity.
METHODS 
From an initial list of 514 potential studies (1997-2007), 33 met our criteria of using qualitative methods and exploring patients’ experiences of health care from various clinicians over time. They were coded independently. Consensus meetings minimized conceptual overlap between codes.
RESULTS
For patients, continuity of care is experienced as security and confidence rather than seamlessness. Coordination and information transfer between professionals are assumed until proven otherwise. Care plans help clinician coordination but are rarely discerned as such by patients. Knowing what to expect and having contingency plans provides security. Information transfer includes information given to the patient, especially to support an active role in giving and receiving information, monitoring, and self-management. Having a single trusted clinician who helps navigate the system and sees the patient as a partner undergirds the experience of continuity between clinicians.
CONCLUSION
Some dimensions of continuity, such as coordination and communication among clinicians, are perceived and best assessed indirectly by patients through failures and gaps (discontinuity). Patients experience continuity directly through receiving information, having confidence and security on the care pathway, and having a relationship with a trusted clinician who anchors continuity.

 開催日:平成25年6月19日

国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす

【文献名】
Shou-Hsia Cheng, et al. : A longitudinal examination of continuity of care and avoidable hospitalization. Evidence from universal coverage health care system. Arch Intern Med: 170(18): 1671-1677.
 
【要約】
<背景と目的>
台湾は1995年に皆保険制度を導入し、99%の国民が加入している。家庭医療科は23ある専門診療科の1つと位置づけられ、国民は自分の症状に合わせて自由に診療科を選び紹介状なしで受診することができる。国民1人あたりの受診頻度は15回/年と世界で最も高い国の一つであり、台湾国民の受療行動は「ドクターショッピング」と批判を受けることもある。このような環境は患者と医師のコミュニケーションや信頼関係やケアの継続性を損ないやすい。先行研究ではケアの継続性を高めることがERの受診を減らすこと、疾病の予防が進められること、入院を減らすこと、慢性疾患のコントロールが改善すること、ICUの利用が減ることが示されているが「避けられる入院」については研究されていない。一方で「避けられる入院」とプライマリ・ケアとの関連は研究されているが、ケアの継続性との関連を研究したものは少なく、十分な結果は得られていない。この研究では台湾の医療環境におけるケアの継続性の「避けられる入院」に対する影響を知ることを目的としている。

<方法>
2000年1月1日から2006年12月31日の期間、健康保険への請求データから医療サービスの利用状況を調査した。この期間に3名以上の医師を利用した30830人の患者がランダムに選択され、3つの年齢層に分けて解析した。主要アウトカムは避けられる入院と全ての入院とした。年齢、性別、低所得かどうか、ベースラインの健康状態、time effect、random subject effectを調整するためにrandom intercept logistic regression modelを利用した。
ケアの継続性の指標はContinuity of care index (COCI)を用いた。
COCIは患者がかかった医師の数とそれぞれの医師に受診した数からなる式で示される。
COCI=(Σnj2-N)/N(N-1)(Σの下にj=1,上にM)
Nは医師に受診した総回数、njは1人の医師を受診した回数、jは医師の番号、Mは医師の数。
COCIは0-1の間の数値で表され、1に近いほどケアの継続性が高い、とされる。
COCI自身に本来的な意味はないため、この研究では対象となった患者のCOCI値の分布を元に0.00-0.16をlow、0.17-0.33をmedium、0.34-1.00をhighとした。
「避けられる入院」はIOM(institute of medicine)による定義を用いた。

<結果>
3つ全ての年齢層においてCOCIが高ければ避けられる入院が発生する可能性は低かった。
全ての入院においても同様であった。

Table3 より抜粋 避けられる入院とCOCIの関連
 
110316_1

Table4 より抜粋 入院全体とCOCIの関連
 
110316_2

<結論>
フリーアクセス(この論文ではeasy access to careと記載)の環境下においてもケアの継続性を良好に保つことは避けられる入院、入院全体を減らすことにつながる。ケアの継続性を改善することが皆保険制度の中に置いても有効な戦略といえる。
 
【考察・ディスカッション】
台湾と同様に皆保険制度・フリーアクセスのシステムを取る日本においても、ケアの継続性(COCI)を高く保つ(多診療科受診を控えること、と言いかえてもいいだろうか)ことは避けられる入院、入院数全体を減らすことにつながる、と言え、日本の医療費高騰の解決策の一つとして家庭医療科の設置が有力であることのエビデンスになるのではないだろうか?
この研究の限界は自費診療を含んでいないこと(非常に少なくはあるが),患者の教育レベルなどの情報を加味して調整していないこと、結果を家庭医からの紹介を原則とする国には適用しにくいことであろう。
 
【開催日】
2011年3月16日