30歳男性の3人に1人が65歳までに2型糖尿病を発症 ー 日本人会社員5万人超の累積罹患率を調査

-文献名-
Huanhuan Hu et al. Cumulative Risk of Type 2 Diabetes in a Working Population: The Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. Journal of Epidemiol. 2018 May 4

-要約-
Background
糖尿病は世界的な公衆衛生上の大きな健康問題であり、日本には1,080万人の糖尿病患者がいるとされている。日本人の全般的な人口を対象とした糖尿病発症リスクに関するデータはあるが、本研究は日本の30歳から65歳までの労働人口(会社員)について2型糖尿病の累積罹患率を調べたものである。
Methods
 研究グループは今回12の企業で働く約10万人の会社員を対象に行われている職域多施設研究(Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study;J-ECOH Study)のデータを用いて、2型糖尿病の累積罹患率を男女別やBMI別に調べる観察研究を行った。
 対象は、ベースライン時(2008~2010年)に糖尿病を有さず、最大で7年間追跡しできた11企業で働く30~59歳の会社員5万3,828人(男性4万6,065人、女性7,763人)。2型糖尿病の定義は、健診時のHbA1c値が6.5%以上、空腹時血糖値が126mg/dL以上、随時血糖値が200mg/dL以上、あるいは糖尿病治療を受けている場合とした。
Results
 27万4,349人年の追跡期間中に、3,587人(男性3,339人、女性248人)が2型糖尿病を新たに発症していた。解析の結果、30歳から65歳までの2型糖尿病の累積罹患率は男性が34.7%、女性が18.6%であることが分かった。対象者をBMIで層別して解析したところ、2型糖尿病の累積罹患率は男女ともに肥満(BMI 30kg/m2以上;男性77.3%、女性64.8%)と過体重(BMI 25~29.9 kg/m2;それぞれ49.1%、35.7%)の人では、BMIが25 kg/m2未満の適正体重あるいは低体重の人(それぞれ26.2%、13.4%)と比べて高いことも明らかになった。
Conclusions
 日本人会社員の大規模コホートで、30歳から65歳までの2型糖尿病の累積罹患率を調べた研究は今回が初めてだと思われる。この結果から、日本人の会社員は男女ともに2型糖尿病になるリスクが高く、その疾病負荷は大きいと考えられることから、特に若年の肥満者を対象とした効果的な体重管理法や2型糖尿病のスクリーニングプログラムの開発が必要とされる。

【開催日】平成30年7月18日(水)

高齢者の肥満への介入

-文献名-
Deniss T.Villareal.et.al Aerobic or Resistance Exercise or Both in Dieting Obese Older Adult,N Engl J Med 2017;376:1943-55.

-要約-
【背景】
高齢者の肥満は虚弱(フレイル)の原因となるが,減量は加齢に伴う筋量・骨量減少を加速させ,その結果サルコペニアや骨減少が生じる可能性がある.
【方法】
肥満高齢者 160 例を対象とした臨床試験で,いくつかの運動方法について,フレイルからの回復と,減量による筋量・骨量減少の予防における有効性を評価した.対象者を,体重管理プログラム(食事療法)に,有酸素運動,レジスタンス運動,有酸素運動とレジスタンス運動の組合せのいずれかのプログラムを併用する群と,対照群(体重管理プログラムも運動プログラムもなし)に無作為に割り付けた.主要評価項目は,身体機能テストの点数(0~36 点で,高いほど身体機能が良好であることを示す)のベースラインから 6 ヵ月後の変化とした.副次的評価項目は,その他のフレイルの指標,身体組成,骨密度,身体機能の変化などとした.
【結果】
141 例が試験を完了した.身体機能テストの点数は,組合せ群(27.9 点→33.4 点 [21%上昇])で,有酸素群(29.3 点→33.2 点 [14%上昇])とレジスタンス群(28.8 点→32.7 点 [14%上昇])よりも大きく上昇し(それぞれ Bonferroni 補正後の P=0.01,0.02),いずれの運動群も,対照群と比較して大きく上昇した(いずれの群間比較も P<0.001).最大酸素消費量は,組合せ群(17.2 mL/kg/分→20.3 mL/kg/分 [17%上昇])と有酸素群(17.6 mL/kg/分→20.9 mL/kg/分 [18%上昇])で,レジスタンス群(17.0 mL/kg/分→18.3 mL/kg/分 [8%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).筋力は,組合せ群(272 kg→320 kg [18%上昇])とレジスタンス群(288 kg→337 kg [19%上昇])で,有酸素群(265 kg→270 kg [4%上昇])よりも大きく上昇した(いずれの比較も P<0.001).体重は,いずれの運動群でも 9%減少したが,対照群では有意な変化はみられなかった.除脂肪体重の減少は,組合せ群(56.5 kg→54.8 kg [3%低下])とレジスタンス群(58.1 kg→57.1 kg [2%低下])で,有酸素群(55.0 kg→52.3 kg [5%低下])よりも小さく,股関節の骨密度の低下も,組合せ群(1.010 g/cm2→0.996 g/cm2 [1%低下])とレジスタンス群(1.047 g/cm2→1.041 g/cm2 [0.5%低下])で,有酸素群(1.018 g/cm2→0.991 g/cm2 [3%低下])よりも小さかった(いずれの比較も P<0.05).運動関連の有害事象には,筋骨格損傷などがあった.
【結論】
検討した運動法のなかでは,食事療法による減量に有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせる方法が,肥満高齢者の機能状態の改善にもっとも有効であった.(米国国立衛生研究所から研究助成を受けた.LITOE 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT01065636)
【限界】
・研究の参加者はライフスタイルプログラムに参加出来る身体能力を有する参加者を選んだため、肥満高齢者全般への適応は不十分
・性別の差異を分析するには十分なサイズではなかった
・参加者の大部分は女性、白人、教育を受けている方であったため一般化の限界がある
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【開催日】2018年3月7日(水)

健康の社会的決定要因に取り組むためのプライマリ・ケア能力を育てるフレームワーク

-文献名-
Andrew D. Pinto and Gary Bloch. Canadian Family Physician November 2017, 63 (11) e476-e482;

-要約-
<背景>
家庭医は個人や地域の健康に影響する社会的な要因についての理解を持っている。
しかし多くのプライマリ・ケア組織はそれらのSDOHへの取り組む能力を開発できないままでいる。

<プログラムの目的>
質の高いプライマリ・ケアの一部としてSDOHに取り組むための介入を支援し、組織文化を強化する。

<プログラムの詳細>
トロントの聖ミカエル病院(関連グループで4万5千人の患者;貧困が多くホームレスやホームレスリスクの患者を抱え、六つのクリニックを持つ)の学術家庭健康チーム;FHT(75名の医師と100名以上の多職種ですべてのプライマリ・ケアを提供している組織)がSDOHに焦点を当てた多職種チーム(医師8名、地域デザインの専門家1名、ナースプラクティショナー2名、看護師1名、ソーシャルワーカー1名、法律家1名などなど、レジデントや医学生も参加)と委員会活動(年9回の会議と年1回のリトリート)を立ち上げた。活動目標はBox1。委員会では患者への社会因子の影響を調査し、五つの介入についてそのアイディアからプログラムの計画と開発(実施プログラム、その研究費の確保、人材の採用、寄付の募集まで)を行った。

■健康格差についての詳細な社会地理的なデータの収集と分析
・FHTを受診する患者の収入、住宅環境、ジェンダー、その他の鍵となるSDOHを収集し電子カルテに記入
・これらのデータベースを活動と計画のもとにした
■収入保障と健康増進サービスの試験的取り組み
・FHTの中に2名の収入保障・健康増進の専門家を置く
・収入を増やすため、浪費を減らすため、家計のリテラシーを高めるためのプログラムを実施
・実施した内容のカルテレビューや当事者のインタビューから質的研究を実施し、プログラムを改善
■医学と法律の連携の確立
・数年来の取り組みから、常勤の法律家を配置し、三つの活動目標を設定
・一つは社会的危機の予防や、危機による被害への早期介入のための法的な助言
・もう一つは医療システムを扱う力の改善と、弁護士の介入を受けずに法的な問題を同定し対応する
・そして全体的な法的な問題を同定し、SDOHに取り組むための法律の改定や代弁の強化
■診療所単位での子供の健康リテラシー向上プログラム
・アメリカで始まった小児への早期の健康リテラシー向上の取り組み(Reach Out and Read);クリニックの待合室をリテラシー・リッチ(具体的な記述なし)にする、受診毎の助言や本のプレゼント、をもとにした
・トロントの公立図書館への支援、子供への図書バンク、ファーストブックの活動を行なった。
■正規職への就労支援
・診療所と就労支援センターとの連携で開始
これらの介入は厳格な評価計画と実施や効果の測定を含み、次の段階としては開発された方法を社会格差の是正のための社会的に上方の活動に持っていくことである。

<フレームワークの紹介>
Figure1に紹介、このフレームワークはcommunity-oriented primary careの考え方と、Devoeのフレームを組み合わせて開発した。まず四つの視点での情報収集、そしてそれに取り組むための組織開発や五つのStepが述べられている。

【開催日】2017年12月20日(水)

海外渡航前の予防接種

-文献名-
Travel Immunizations (American Family Physician)

-要約-
プライマリケア医が旅行者にvaccine preventable diseaseについて助言する責任は増してきている。それは旅行に関連した疾患のリスクアセスメント、出発までに残された期間、vaccine preventable diseaseの疫学に関する最新の知識などに基づいていなければいけない。
トラベルワクチンはおおまかに以下の3つに分類される。
① アップデートおよび追加接種を受けるべき小児期のルーチンな予防接種
② 特定の地域に入る際に法律の上で必要とされる予防接種
③ 目的地で暴露される可能性次第で利益になることが予想される推奨予防接種

Risk Assessment:
まず全目的地、経由地、それぞれの滞在期間、宿泊形態(都会か田舎か、ホテルかテントか)、アクティビティ(動物との接触、川や湖の水に接触するか、食事)、季節に応じたリスク、現地の住民との接触などを含めた全旅程を考慮する。次にその人の健康状態(特に旅行中に関係しうる基礎疾患)、今までの予防接種歴、薬や予防接種に対するアレルギー、現在の薬、Table3のリスクの高い旅行者に該当しないかを確認する。
旅行者は、特に発展途上国に行く場合、少なくとも4週間前までに医学的助言を受けるべきである。リスクの高い目的地であればトラベルクリニックも助けになりうる。出発までの期間に応じて予防接種計画を立てるが、通常のスケジュールでよいのか、早めて行ったほうがよいのか(この場合出発までに最大限の効果が得られない可能性があることを知らせる必要がある)を検討する。
Tabel2のような資料や、CDCのHPを参考にする(日本の状況を考慮し最後に追記した資料も参照)。

Routine Immunizations:
旅行は医療者にとって定期接種を振り返る機会でもある。
・最後の破傷風予防接種から5年以上経過していて、暴露後接種ができないかもしれない土地に行く旅行者は破傷風とジフテリアの追加接種を。
・1956年以降に生まれ2回接種していないまたは抗体価が陰性で麻疹流行地に行く旅行者ならMMRを。
・インドやエジプトなどの流行地に行くならポリオの追加接種を。
・水痘接種歴を確認し12歳なら1回、13歳以上なら2回追加接種を。
・65歳以上やそれ以下でも慢性肺疾患や無脾、肝硬変、糖尿病があるなら肺炎球菌を。
といったように、今までの接種歴を考慮しながら検討すべきである。渡航地の季節によってインフルエンザも忘れずに。

Required Immunizations:
黄熱病
まれだが、赤道付近のアフリカや南アメリカといった流行地では致死的になりえる感染症。月齢9か月以上で黄熱病が報告されている地域に入る場合に推奨。流行国では出入国に接種証明書が必要になる場合もある。(ただし検疫所など限られた機関でしか打てない)

A型肝炎
目的地が北アメリカ(メキシコを除く)、西ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ニュージーランドである場合除くすべての旅行者に推奨。

B型肝炎
B型肝炎流行地で密に現地の住民と接触する可能性があるまたは6か月以上の長期滞在の場合、海外で医療行為を受ける可能性がある場合、外国で生まれて出生地に戻る場合に推奨。

日本脳炎
インド亜大陸、中国、韓国、日本、東南アジアなど流行地に(田舎なら特に)、流行時期に、30日以上滞在する場合に推奨。短期旅行者であっても屋外アクティビティに参加したり流行地に行ったりする場合は推奨。

腸チフス
中南米、インド亜大陸、アフリカなどの流行地に行くなら推奨。通常の旅行ルート以外に立ち入って汚染された可能性がある飲食物を摂るかもしれない人も推奨。

髄膜炎菌
サブサハラは12~1月に”髄膜炎ベルト”で流行するので推奨。メッカ巡礼やその他の宗教的休暇の時期にサウジアラビアに行く巡礼者も必要。

狂犬病
インド亜大陸、中国、東南アジア、フィリピン、一部のインドネシア、ラテンアメリカ、アフリカ、旧ソ連諸国で今だに流行。暴露後接種も有効だが必ずしも利用可能とは限らない。流行地に30日以上滞在、へき地に行く、動物の近くで働く、ハイキングやサイクリングなど動物と近づくアクティビティに参加する、噛まれたことを伝えられない小児などの場合に推奨。

TABLE1
TABLE2
TABLE3
TABLE4

【開催日】
2017年11月1日(水)

White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality

―文献名―
Huang, Yuli, et al. “White-coat hypertension is a risk factor for cardiovascular diseases and total mortality.” Journal of hypertension 35.4 (2017): 677.

―要約―
【背景】
白衣高血圧が本当に患者にとって無害かは、まだまだ議論の余地がある。

【方法】
 白衣高血圧と、心血管疾患および全死亡のリスクとの関連性を、ベースラインの降圧治療の状況によって階層化して評価した。データベース(PubMed, EMBASE, CINAHL Plus, Scopus, and Google Scholar)から、白衣高血圧に関連する心血管疾患および全死亡に関する前向き試験を検索した。主要アウトカムは降圧治療の状況によって層別化(未治療集団、降圧治療を受けている集団、混合集団)された白衣高血圧と心血管疾患および全死亡のリスクとした。正常血圧との相対リスクを計算した。

【結果】
 最終的に14の研究(うち8つはベースラインで降圧治療が無いもの、4つは降圧治療が行われているもの、6つは両方が混ざっているもの)が解析対象となった。診療所での収縮期血圧、拡張期血圧は白衣高血圧群が正常血圧群より優位に血圧が高かったが、診療所外の収縮期血圧は白衣高血圧群の方が血圧は有意に高かったもののその差は診療所血圧ほど大きくはなく、診療所外の拡張期血圧は白衣高血圧群と正常血圧群とで有意差はなかった。
 高血圧未治療集団において、白衣高血圧群は正常血圧群より心血管疾患のリスクが38%、全死亡のリスクが20%それぞれ増していた。混合集団においても白衣高血圧群でそれぞれ19%、50%リスクが高かった。しかし降圧治療を受けている集団においては、心血管疾患、全死亡とも白衣高血圧群と正常血圧群とでリスクに有意差がなかった。

川合先生図1

川合先生図2
FIG.6 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: cardiovascular disease

川合先生図3
FIG.7 Forest plot of the comparison: white-coat hypertension vs. normotension and outcome: all-cause mortality.  (RR 1.20, 95% CI 1.03–1.40)

【開催日】
 2017年8月2日(水)

効果的な予防の優先度アップデート

―文献名―
Michael V. Maciosek,et al.Updated Priorities Among Effective Clinical Preventive Services.Ann Fam Med January/February 2017 vol. 15 no. 1 14-22

―要約―
【目的】
 プライマリケアセッティングにおいては人手や時間が限られている。結果として、どこに注力すべきかが重要となる。これは相対的な健康へのインパクトや費用対効果をアップデートするものである。

【方法】
 ■含めた予防サービス
  ・全住民に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
  ・一般住民に対してAdvisory Committee on Immunization Practices予防接種諮問委員会が推奨しているサービス
  ・心血管疾患のハイリスク群と性感染症のハイリスク群に対してUSPSTFでgradeA,Bと考えられたサービス
 ■測定
  以下の2つに対してそれぞれ1~5点で採点され、トータルスコアが2~10点の範囲で評価した。
   ・臨床的な予防効果…米国の出生コホートで400万人に対して予防サービスが推奨されている年齢で推奨されている期間にわたって提供された
             として得られるQALYsとして定義
   ・費用対効果…QALYsあたりの費用(net cost純原価)を推定
  これらを推定するために新しいマイクロシミュレーションモデルを12の予防サービスにおいて最新の見積もりを出すために用い、スプレッドシート
 モデルを13の予防サービスに、ピアレビューで文献に基づいた推計を3つの予防サービスに用いた。
 ■評価項目
  ・28個のエビデンスに基づいた臨床的な予防サービスを評価した。

【結果】
中川先生図①

・最も高得点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スクリーニングと
 簡単な禁煙に対する同意付け介入の3つで、それぞれ10点であった。
・費用対効果CEの最高点5点であったのは、小児のワクチン接種、若年者における喫煙開始の予防を行うためのカウンセリング、成人に対する喫煙スク
 リーニングと簡単な禁煙に対する同意付け介入、アルコーールのスクリーニングと簡易的な介入、CVDのハイリスク者への低用量アスピリン、梅毒
 スクリーニングの6つであった。
・CVDハイリスク者への食事指導、運動習慣指導、ならびに成人肥満者のスクリーニングは費用対効果は1点と悪かった。

中川先生図②

 トータルスコアが5点以上の項目について、90%以上のサービス利用率になったとした場合のQALYsの上昇がどの程度期待できるかを示したのがTable3である。ただし、血圧とコレステロールのスクリーニングはすでに高い割合で達成できているので除外した。高い費用が出ている項目はより高い利用率にしていくことで効果を期待できる項目である。多くの人々への健康改善は、大腸癌のスクリーニングとインフルエンザワクチンと同様に、たばこの使用、肥満関連行動、アルコールの乱用を予防的に対処するための施設利用を増やすことで得られる可能性がある。

中川先生図③

【まとめ】
 本研究は予防サービスの優先度を同定し、質改善の先導を切っていく上でどのサービスを強調していったらいいのかを選択していくのに役立つだろう。

【開催日】
 2017年2月15日(水)

Association Between Socioeconomic Status and Mortality, Cardiovascular Disease, and Cancer in Patients With Type 2 Diabetes

-文献名-
Rawshani, Araz, et al. “Association between socioeconomic status and mortality, cardiovascular disease, and cancer in patients with type 2 diabetes.” JAMA Internal Medicine 176.8 (2016): 1146-1154.

-要約―
※前提:スウェーデンは医療へのアクセスや利用について、社会経済的側面でほぼ間違いなく世界で最も公平な国のうちの一つである。

研究の重要性:
 2型糖尿病患者において、医療への公平なアクセスがあり重要な交絡因子を調整したうえで、社会経済的状態と全死因死亡、心血管関連死、糖尿病関連死、癌死亡率との間に関連があるかは、検討されたことがない。

目的:
 2型糖尿病患者において、所得、教育水準、婚姻状況、出生地が、全死因死亡、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡と独立して関連しているかどうかを評価する。

デザイン、設定、参加者:
 Sweden National Diabetes Register(2003年1月1日から2010年12月31日まで)に登録された70歳以下の2型糖尿病患者217364人を調査対象とした。イベント発生まで平均5.6年間追跡した。最大17の共変量を有するCOX比例ハザード回帰モデルを用いて解析した。

メインアウトカム:
 全死因死亡、心血管死、糖尿病死、癌死亡率

結果:
 217364人は平均年齢58.3歳、男性60.2%。19105人が死亡し、そのうち11423人(59.8%)が心血管死、6984人(36.6%)が糖尿病関連死、6438人(33.7%)が癌による死亡だった。完全調整モデルを用いた既婚者の(独身者に対する)ハザード比は全死因死亡0.73(95% CI, 0.70-0.77), 心血管死0.67 (95% CI, 0.63-0.71), 糖尿病関連死0.62 (95% CI, 0.57-0.67)だった。婚姻状況は全癌死亡には関連していなかったが、既婚者の男性は独身男性に比べて前立腺癌の死亡率が低かった(ハザード比0.67 (95% CI, 0.50-0.90))。収入の五分位の最低位は最高位と比べたハザード比は全死因死亡1.71 (95% CI, 1.60-1.83), 心血管死1.87 (95% CI, 1.72-2.05), 糖尿病関連死1.80 (95% CI, 1.61-2.01), 癌死亡率1.28 (95% CI, 1.14-1.44)だった。非西洋移民の全死亡死因、心血管死、糖尿病関連死、癌死亡率はネイティブスウェディッシュと比べて、それぞれ0.55(95%CI、0.48-0.63)、0.46(95%CI、0.38-0.56)、0.38 95%CI、0.29-0.49)、および0.72(95%CI、0.58-0.88)だった。大学の学位を持ってる者は教育年数が9年(スウェーデンの義務教育年数)以下のものと比べて全死亡者数、CV、糖尿病関連死亡率、癌死亡率のハザード比は、それぞれ0.85(95%CI、0.80-0.90)、0.84(95%CI、0.78-0.91)および0.84(95%CI、 0.93)だった。

結論:
 社会経済的状態は全死因死亡、心血管死の強力な予測因子だった。

ディスカッション:
 リスクファクターと共変量を調整しても社会経済的状態の影響を排除できなかったという事実は、リスクファクターのコントロールがこれらの較差を縮小することに効果がないことを意味するわけではない。
 社会経済的状態が悪いことは、心理社会的ストレス、失業、財政難、不健康な習慣、健康上の障害、危険な地域に住む、社会的支援の欠如、不十分な結束と結びついている。
 非西部から西部へ移住する個人は、母国では選択された強力なサブグループであるため、スウェーデン出身者より結果が良かったと考える。

Limitation:
 アルコール消費についてのデータを得られなかった。喫煙は吸うか吸わないか二分変数での評価だった。

【開催日】
 2017年2月1日(水)

肥満患者のライフスタイルへの介入

-文献名-
Charles B. Eaton, MD, MS, FAHA et al. A Randomized Clinical Trial of a Tailored Lifestyle Intervention for Obese, Sedentary, Primary Care Patients. Annals of Family Medicine, July/August 2016; 311-319

-要約-
<目的>
 プライマリ・ケアにおける肥満患者に対し、患者に合わせたライフスタイルへの介入を行うことが、体重減少と身体活動量増加の助けになるかどうかを試験すること。

<方法>
 ロードアイランド州にて24ヶ月間行われた無作為化臨床試験である。プライマリ・ケア医によって同定された肥満・低活動性の患者に対し、減量と中等度の身体活動について動機づけが行われた。患者は強化介入群と標準介入群の2つに無作為に割り付けられた。どちらの群に対しても、3回の対面での減量に関する話し合いが行われた。強化介入群にはさらに、食事と身体活動に焦点を当てた電話相談、患者に合わせた印刷資料、DVDが提供された。1年目は積極的介入をする時期とし、2年目は介入を漸減し維持期とした。

<結果>
 24のプライマリ・ケアの現場で、211人の肥満・低活動性の患者が募集された。患者の79%は女性で、平均年齢は48.6歳、BMIの平均は37.8kg/mm2、中等度の身体活動を週に21.2分行っていた。強化介入群では標準介入群よりかなり多くの患者が元の体重から5%の減量を達成していた(P<0.001)。その差は、特に積極的な介入を行っていた6ヶ月の時点(強化介入群37.2%、標準介入群12.9%)と12ヶ月の時点(強化介入群47.8%、標準介入群11.6%)では有意であったが、維持期の18ヶ月(強化介入群31.4%、標準介入群26.7%)、24ヶ月(強化介入群33.3%、標準介入群24.6%)では有意ではなかった。強化介入群では、標準介入群と比較し、有意に長い時間の中等度の身体活動を実践したと報告された(P=0.04)。6ヶ月の時点では、強化介入群では95.7分/週、標準介入分では68.3分/週。12ヶ月の時点では強化介入群で126.1分/週、標準介入群で73.7分/週。18ヶ月の時点では強化介入群で103.7分/週、標準介入群で63.7分/週。24ヶ月の時点では強化介入群で101.3分/週、標準介入群で75.4分/週。同様の傾向が実際の体重減少にもみられ、その割合は身体活動に関する国のガイドラインに達するものだった。 <結論>
 肥満、低活動性のプライマリ・ケア患者に対する患者に合わせたライフスタイルへの介入は、体重減少と中等度の身体活動の増加を促す。その効果は12ヶ月でピークに達し、24ヶ月では減弱する。

中島先生図①
中島先生図②
中島先生図③

-考察とディスカッション―
研究結果としては、有意差が出たのは初めの6~12ヶ月で、その後の維持期については強化介入群の方が目標を達成している割合は高いもののその有意差は出ていなかった。一方で、標準介入群でもライフスタイルカウンセラーと面談したりパンフレットを渡されたりなど、介入はそれなりにされており、実際に自分のこれまでの外来でもそこまできちんとした介入はやっていなかったように思う。
禁煙外来のように、ある程度決まった方法で行う「減量外来」のような枠組みがあれば、それほど強い介入をしなくてもある程度減量や運動習慣の確立ができる患者はいるのでは、と思われた。

 ディスカッション
  ・これまで、減量を目的に外来通院し、実際に減量を達成できた患者さんはいましたか?
  ・もしいれば、その方にはどのような介入をしましたか?
  ・外来で減量を積極的に勧めていく際に、現実的にはどのような戦略がとり得ると思いますか?

【開催日】
 2016年9月21日(水)

A Vaccine to Prevent Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Older Adults

-文献名-
Oxman MN, et al. A Vaccine to Prevent Herpes Zoster and Postherpetic Neuralgia in Older Adults. N Engl J Med. 2005;352(22):2271.

-この文献を選んだ背景―
 外来定期通院中の中年女性より、「義父が帯状疱疹になり、大変強い痛みで苦しんでいた。自分はああいう風にはなりたくないので、何とか防ぎたい。予防注射があるって聞いたことがあるんだけど、どれくらい効きますか?」と聞かれた。成人への水痘ワクチン接種が帯状疱疹の予防に役立つことは聞いたことがあったが、効果のほどは把握していなかったので、調べることにした。

-要約-
Introduction:
 年齢を重ねVZVに対する細胞性免疫能が低下するにしたがって、帯状疱疹の罹患頻度や重症度が増加することは知られている。帯状疱疹による痛みや帯状疱疹後神経痛は高齢者のQOLを著しく低下させる。そこで高齢者に対してVZVワクチンを接種することで、帯状疱疹の罹患頻度や重症度が下がるのではないかと仮説を立て、検証した。

Method:
 水痘罹患歴があるか,アメリカに30年以上住んでいる60歳以上の38546人。免疫不全患者は除外。ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール。
 介入群には日本国内と同じ岡株の弱毒生ワクチン0.5mlを皮下接種。
 帯状疱疹の診断はPCR法を含めたアルゴリズムに則って行われ、最終的に水痘帯状疱疹の専門医5人が判定。帯状疱疹の罹患頻度、重症度、痛みや不快感が続く期間を評価。痛みや不快感の程度は質問紙票で評価。
 平均3.13年追跡。

Results:
  川合先生図①
  川合先生図②
罹患率:Vaccine 0.00542  Placebo 0.01112 →NNP 175

  川合先生図③
罹患率:Vaccine 0.00046  Placebo 0.00138  →NNP 1086

  川合先生図④

-考察とディスカッション-
 水痘ワクチンは自費で6000円から10000円程度のようです。
  ・水痘の罹患歴があり帯状疱疹予防のためにワクチン接種を希望する人がいたら、どう説明しますか?
  ・あるいは担当患者が接種した経験がある方はいますか?

【開催日】
 2016年7月20日(水)

成人に対する肺炎球菌ワクチンの効果

-文献名-
M.J.M. Bonten. Polysaccharide Conjugate Vaccine against Pneumococcal Pneumonia in Adults. n engl j med March 19, 2015 372;12

-この文献を選んだ背景-
 2014年10月から65歳以上にたいする肺炎球菌ワクチンであるニューモバックスが定期接種となった。それに伴い、生活習慣病で通院している65歳以上の方々から肺炎球菌ワクチンを受けたほうが良いのか?という問いが聞かれることが多くなった。
 これまでのメタアナリシスでは肺炎球菌ワクチンは敗血症を伴う肺炎など肺炎球菌による重症感染症は予防出来るが、総死亡は減少しないというものであった。また肺炎球菌性肺炎発症率に関してはこれまでのメタアナリシスでは効果を結論づけることは出来ない、1件の日本のRCTで施設患者に対する接種で肺炎球菌性肺炎を減らす事ができたという比較的限定したエビデンスだったかと思う。
 そのような中で、2015年3月15日ファイザー社によるオランダでの大規模臨床試験(CAPiTA試験)でプレベナーが成人に対して肺炎球菌肺炎の発症率を減らしたということがNEJMに発表された。今回肺炎球菌ワクチンのエビデンスをアップデートし、より正確な情報を患者さんに伝える目的で本論文を選択した。

-要約-
Introduction:
 肺炎球菌多糖体結合ワクチンは乳児の肺炎球菌感染症を予防するが,65 歳以上の成人における肺炎球菌性市中肺炎に対する有効性は,明らかにされていない.

Method:
 65 歳以上の成人 84,496 例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験において,13 価多糖体結合ワクチン(PCV13)の,ワクチン型株の肺炎球菌性市中肺炎,非菌血症性・非侵襲性肺炎球菌性市中肺炎,侵襲性肺炎球菌感染症の初回エピソードの予防における有効性を評価した.市中肺炎と侵襲性肺炎球菌感染症の同定には,標準的な臨床検査法と血清型特異的な尿中抗原検出法を用いた.

Results:
 ワクチン型株による感染症の初回エピソードの per-protocol 解析では,市中肺炎は PCV13 群 49 例,プラセボ群 90 例に認められ(ワクチン有効率 45.6%,95.2%信頼区間 [CI] 21.8~62.5),非菌血症性・非侵襲性市中肺炎は PCV13 群 33 例,プラセボ群 60 例(ワクチン有効率 45.0%,95.2% CI 14.2~65.3),侵襲性肺炎球菌感染症は PCV13 群 7 例,プラセボ群 28 例に認められた(ワクチン有効率 75.0%,95% CI 41.4~90.8).有効性は試験期間を通して持続した(平均追跡期間 3.97 年).修正 intention-to-treat 解析におけるワクチン有効率は同程度であり( それぞれ 37.7%,41.1%,75.8%), 市中肺炎は PCV13 群 747 例,プラセボ群 787 例に認められた(ワクチン有効率 5.1%,95% CI -5.1~14.2).重篤な有害事象と死亡は 2 群で同程度であったが,局所反応は PCV13 群でより多く認められた.
※per-protocol解析:ITT解析は脱落者を含みランダム化した全ての対象を解析する。Per-protocol解析は服薬が遵守されている、データが利用できる(脱落やデータの不足がない)、重大なプロとコール違反がないものを解析。ITT解析より対象者が限定される

Conclusion:
 高齢者において,PCV13 は,ワクチン型の肺炎球菌性,菌血症性,非菌血症性の市中肺炎と,ワクチン型の侵襲性肺炎球菌感染症の予防に有効であったが,あらゆる原因による市中肺炎の予防には有効でなかった.(Pfizer 社から研究助成を受けた.CAPITA 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT00744263)

Discussion/limitation:
この研究は、肺炎球菌疾患の発生率が低く、同じ人種が住むオランダ単一で行なわれた。肺炎球菌血清型の疫学的特徴と肺炎球菌感染症や疾患に対する母集団の感受性によって他の母集団ではワクチンの有効性は変化する可能性がある。
 肺炎球菌のワクチン型を同定するための血清型同定尿中抗原検出キットのより高い感度はワクチン血清型のわずかな過大評価に繋がったかもしれない。

【開催日】
 2016年7月6日(水)