癌のリスクを減らすための食事ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Chetyl L. Rock. American Cancer Society Guideline for Diet and Physical Activity for Cancer Prevention. CA Cancer J Clin. 2020;70(4):245.Epub 2020 Jun 9.

-要約-
<Abstract>
アメリカがん協会(ACS)は、コミュニケーション、ポリシー、およびコミュニティ戦略の基盤として機能し、最終的にはアメリカ人の食事および身体活動パターンに影響を与えるために、食事および身体活動ガイドラインを発行している。このガイドラインは、がんの研究、予防、疫学、公衆衛生、および政策の専門家の全国委員会によって作成され、食事と活動のパターンおよびがんのリスクに関連する最新の科学的証拠を反映している。ACSガイドラインは、食事と身体活動のパターンに関する個々の選択の推奨事項に焦点を当てているが、それらの選択は、健康的な行動を促進または阻害するコミュニティの背景の中で生じる。したがって、この委員会は、がんのリスクを減らすための個人の選択に関する4つの推奨事項に付随するコミュニティアクションの推奨事項を提示する。コミュニティの行動に関するこれらの推奨事項は、社会のすべてのレベルの個人が健康的な行動を選択する真の機会を持つためには、支援的な社会的および物理的環境が不可欠であると認識されている。この2020年のACSガイドラインは、米国心臓協会および米国糖尿病学会の、冠状動脈性心臓病および糖尿病の予防、ならびに2015年から2020年の米国人向け食事ガイドラインおよび2018年の身体的健康増進に関するガイドラインと一致している。

<ガイドラインと推奨事項の概要>
1980年代初頭以来、ACSや世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)などの政府および主要な非営利医療機関は、体重管理、身体活動、食事療法、アルコール消費に焦点を当てたがん予防ガイドラインと推奨事項を発表している。WCRF/AICRガイドラインの最初の更新後、WCRF/AICRは、さまざまな種類のがんを包括的に報告し、厳格なシステマティックレビュープロトコルに基づく継続的更新プロジェクトを含めるように取り組みと推奨事項を拡大した。WCRF/AICRからの第3専門家報告書は、更新された癌予防の推奨事項とともに、2018年に報告された。
現在のACSの食事療法と身体活動のガイドラインと推奨事項は、2012年のACSガイドラインを更新した。それは主にWCRF/AICRのシステマティックレビューと継続的更新プロジェクトのレポートに基づいており、システマティックレビューとそれ以降に公開された大規模なプール分析からのエビデンスが反映されている。

癌予防のための食事療法と身体活動に関する2020年アメリカがん協会ガイドライン(表1)
個人向けの推奨事項
1.生涯を通じて健康的な体重を達成し、維持する
 体重を健康的な範囲内に保ち、成人期の体重増加を避ける。
2.身体的に活発である
 成人は、週あたり150〜300分の中程度の強度の身体活動、または75〜150分の激しい強度の身体活動、または同等の組み合わせを行うべきである。300分の上限を達成または超えることが最も望ましい。
 子供と青年は、毎日少なくとも1時間の中程度または激しい強度の活動を行うべきである。
 座ったり、横になったり、テレビを見たりするなどの座りがちな行動や、その他の形式の画面ベースの娯楽は制限する。
3.すべての年齢で健康的な食事パターンに従う
 健康的な食事パターンには次のものが含まれる。
 ◦健康的な体重の達成と維持に役立つ量の栄養素が豊富な食品
 ◦さまざまな野菜—濃い緑、赤、オレンジ、繊維が豊富なマメ科植物(豆とエンドウ豆)など
 ◦果物、特にさまざまな色の果物全体
 ◦全粒穀物
 健康的な食事パターンは、以下を制限または含まないものである。
 ◦赤肉と加工肉
 ◦砂糖で甘くした飲料
 ◦高度に加工された食品と精製穀物製品
4.アルコールを飲まないことが最も望ましい
 飲酒を選択する人は、女性の場合は1日1杯、男性の場合は1日2杯以下に制限する必要がある。
 コミュニティアクションの推奨事項
 公的、私的、およびコミュニティ組織は、国、州、および地方レベルで協力して、手頃な価格の栄養価の高い食品へのアクセスを増やす政策および環境の変化を開発、提唱、および実施する必要がある。身体活動のための安全で、楽しく、アクセス可能な機会を提供する。そして、すべての人のアルコールを制限する。


【開催日】2021年1月13日(水)

喫煙に依存している成人における薬物治療の開始。米国胸部学会の公式臨床実践ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Leone FT, Am J Respir Crit Care Med. 2020;202(2) :e5. 
Initiating Pharmacologic Treatment in Tobacco-Dependent Adults. An Official American Thoracic Society Clinical
Practice Guideline.

-要約-
Introduction:
現在の喫煙治療ガイドラインは禁煙への介入の有効性を確立しているが、臨床で多く直面する一般的な実施に関する質問に対して、詳細なガイダンスは提供していない。
治療チームが日常的に直面するいくつかの薬物療法開始の質問に対して、根拠に基づくガイドラインが作成された。

Method:
臨床医にとって重要な質問と結果に優先順位をつけるために禁煙に関する多様な専門家たちが参加した
。エビデンス 作成チームはシステマティックレビューを行い、これらの質問に回答し推奨を提示した
。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)アプローチを用いて、効果の確実性と推奨の強さを示した。

Results:
ガイドラインでは薬物選択に関する5つの強い推奨と2つの条件付き推奨を策定した。
強い推奨事項にはニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、ブプロピオン(日本未発売・抗うつ薬)ではなくバレニクリンの使用、精神疾患患者に対してニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、禁煙の準備ができていない成人でのバレニクリンの開始、12週を超える延長治療期間の利用がある。
条件付きの推奨事項には、バレニクリンを単独で使用するのではなく、ニコチンパッチをバレニクリンと組み合わせたり、電子タバコではなくバレニクリンを使用したりすることが含まれる。

Discussion:
ガイドラインの推奨の数に制限があったため、全ての可能な薬物治療に対応できなかった。将来のガイドラインではバレニクリンが以前に失敗した患者、または以前にバレニクリン治療を拒否した患者に対する、最適なコントローラー戦略を検討する必要がある。

【開催日】2020年12月2日(水)

笑いの頻度と一般集団における全死亡率および心血管疾患の発症リスクとの関連

-文献名-
Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study.
J Epidemiol. 2020; 30(4): 188–193.

-要約-
背景
過去の研究では心理学的なポジティブ要因とネガティブ要因は死亡率や心血管疾患と関連していることが明らかにされてきた。笑いやユーモアが健康に対しポジティブな要因だという考えは医療従事者だけでなく一般人の間でも浸透してきている。
2013年の横断的データで、1日の笑いの頻度が高いほど、日本の高齢者における心疾患の有病率が低いことが示されていた。しかし、横断的な研究であるため笑いが心血管疾患の予防効果を明確に示すことはなかった。そこで今回、地域社会に根ざした集団において日常的な笑いの頻度と死亡率および心血管疾患との関連を前向きに調査した。

方法
山形県の年1回の健康診断を受けた40歳以上の17152人が対象
7市(山形市、酒田市、上山市、寒河江市、東根市、米沢市、天童市)の40歳以上の住民
除外基準なし
2009-2015年に、合計20969人(男性8558人、女性12411人)の被験者を登録
66人の被験者が他の地域に移動、ベースライン時のデータが不完全であったため3817人を除外
最大8年間(中央値、5.4年)追跡
男性7003人(40.8%)、女性10149人(59.2%)、平均年齢62.8歳
自己申告した1日の笑いの頻度を3つのカテゴリー(週1回以上、1か月以上1週間未満、月1回未満)に分類
毎日の笑いの頻度と全死因死亡率および心血管疾患発生率の増加との関連をCox比例ハザードモデルを用いて決定

「笑い」=「大声で笑う」と定義
ほぼ毎日、1~5回/週、1~3回/月、1回/月未満の4つの選択肢を提供し、自己申告で得られた回答から3つのカテゴリー(≧1/週、≧1/月だが<1/週、<1/月)にグループ分けした
・笑いの頻度別の有病率
週1回以上       :14096人(82.2%)
1か月以上1週間未満:2486人(14.5%)
月1回未満       :570人(3.3%)

JC202010大西1

笑いの頻度が低い群は、男性・現役喫煙者・糖尿病患者・独身者・身体的不活発者の割合が有意に高かった。

結果
追跡期間中(中央値、5.4年)、257人の被験者が死亡し、138人の被験者が心血管イベントを経験した。Kaplan-Meier解析の結果、笑いの頻度が低い被験者では全死因死亡率および心血管疾患発症率が有意に高かった(log-rank P<0.01)。年齢、性別、高血圧、喫煙、飲酒状況で調整したCox比例ハザードモデル解析では、全死因死亡のリスクは、月1回未満で笑う被験者の方が(週1回以上笑う被験者よりも)有意に高い(ハザード比1.95)。同様に、心血管イベントのリスクは月1回以上週1回未満で笑う被験者が(週1回以上笑う被験者よりも)月1回以上笑う被験者の方が高かった(ハザード比 1.62)。

JC202010大西2

<笑いの頻度に応じた全生存期間>
頻度が低い群で、全死因死亡率が有意に高い(P値=0.003)

JC202010大西3

<笑いの頻度に応じた心血管疾患の無病生存期間>
同様の曲線が心血管疾患についても観察された(P値<0.001)

JC202010大西4

<Cox比例分析を用いた、笑いの頻度と死亡率および心血管イベントとの関連性>
・無調整
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 2.38;95%CI、1.42-3.74)
心血管疾患発症リスク:1か月以上1週間未満の人が有意に高い(HR 2.06;95%CI、1.38-3.00)
・年齢・性別・高血圧・糖尿病・喫煙・飲酒状況の調整後
全死亡率:月1回未満の人が有意に高い(HR 1.95;1.16–3.09).
JC202010大西5

<笑いの頻度と全死亡率の関連性のサブグループ解析>
女性、非高血圧、糖尿病患者、肥満、知覚される精神的ストレスのレベルが中程度、大学卒業以上のサブグループにおいて、月1回未満の群では、全死因死亡率が有意に高い。
笑いの少ない群では、他の群(4.2~4.7%)に比べて精神的ストレスが低い有病率(7.8%)が高く、笑いの少ない群では精神的ストレスが高い=重度の有病率は他の群(70.3~72.9%)と同程度。

検討
笑いの頻度は、男性、現在の飲酒者、糖尿病、低身体活動、配偶者のいない生活の高い有病率と関連していた。年齢、性別、および喫煙、飲酒状況、高血圧、糖尿病などの複数のよく知られた危険因子を調整した後でも、笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の発症率と独立して関連していることが明らかになった。確立された危険因子とは無関係に、笑いそのものが長寿化や心血管疾患発症率の低下に寄与していることが示唆された。

笑いの頻度が全死亡率と心血管疾患に及ぼす影響は不明であるが、いくつかの可能性が示唆されている。
・笑いは健康を促進する行動と関連している可能性がある。この研究では、笑いの頻度が高い群では、現在の喫煙・飲酒者の割合が低く、身体活動が低いことが示されていた。
・過去の研究で、免疫系に関して、笑いは様々な免疫学的要因に影響を与えることが示されている。
・笑いは血管内皮を改善する:機能や動脈硬化を抑制、食後血糖値やストレスのバイオマーカーである唾液性クロモグラニンAの増加を抑制。

笑う頻度は女性では有意で、男性では有意でなかった。一般的に男性は感情を表に出さない傾向があり、今回の調査では女性よりも男性の方が大声で笑う頻度が低かった。
日常的に頻繁に笑うことの効果は、高齢者、肥満のある人、中等度のストレスレベルの人でより強く認められた。

・本研究の強み
前向き研究、大規模なサンプルサイズ
年齢、性別、高血圧、糖尿病、喫煙状況、飲酒状況など、複数のよく知られた危険因子を用いて調整が行われた

<制限>
・笑いの定義に誤差あり
「大声で笑う」が笑いの定義だったので、無言で笑う、微笑む、などは笑いとしてカウントされていない→笑いの頻度が過小評価されている可能性あり。しかし、笑いの度合いには個人差あり→過大評価も過小評価も両方を引き起こしているかも。
・無症状の心血管イベントの症例があったかも
・健康意識の高い、選択バイアスがあったかも
調査対象者は地域の健康診断の参加者→健康意識が高く、社会活動のレベルが高かった可能性がある。

結論
毎日の笑いの頻度は、日本人一般集団における全死亡率と心血管疾患の独立した危険因子である
笑いの頻度を増やすことで、心血管疾患のリスクが減少し、寿命が延びる可能性があることを示唆している
笑い療法は、容易にアクセスでき、受け入れられやすく、費用もかからない
→一般の人々に笑い療法を広く普及させることを支持するものである。

【開催日】2020年10月14日(水)

75歳以上の成人にがん検診の中止について話し合うためのプライマリ・ケア医の準備戦略

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Mara AS, et al. A strategy to Prepare Primary Care Clinicians for Discussing Stopping Cancer Screening With Adults Older Than 75years. Innovation in Aging. 2020; Vol4(4): 1-12.

-要約-
【背景と目的】
75歳以上の高齢者,特に余命が10年未満の人ではがんが過剰にスクリーニングされている.本研究は、プライマリ・ケア・プロバイダー(PCP)にマンモグラフィや大腸がん(CRC)検診の中止について話し合うためのスクリプト(台本.参考文献18の研究で開発されたもの)を提供し、さらに患者の10年後の余命に関する情報を提供することが、患者のこれらのがん検診受診意向に与える影響を調べることを目的とした。

【研究のデザインと方法】
ボストン周辺の7箇所の施設(クリニック,地域の健康センター,大学病院など)に勤務するPCPを対象に実施した.PCPの予約記録から選定された参加者(患者)は受診前後にアンケートに記入した。PCPには、診察前にスクリーニングの中止について話し合うためのスクリプトと患者の10年後の平均余命に関する情報が提供され,研究終了時にアンケートに記入した。質問内容はがん検診の中止について話し合うことと患者の余命についてである。診察前後の患者のスクリーニングに対する意志(1-15のリッカート尺度;スコアが低いほど意図が低いことを示唆する)をWilcoxonの符号付き順位検定を使用して比較した。

【結果】
45のPCPから75歳以上の患者90人(電話で依頼した対象患者の47%)が参加した。 患者の平均年齢は80.0歳(SD = 2.9)、43人(48%)が女性、平均寿命は9.7年(SD = 2.4)であった。37人のPCP(12人が地域密着型)が質問票に記載した。PCP32人(89%)はスクリプトが有用であると考えており、29人(81%)が頻繁に使用すると考えていた。また,35人(97%)のPCPが患者の余命に関する情報が役立つと考えていた。しかし、患者の余命について話し合うことに安心感を感じていると答えたPCPは8人(22%)にとどまった。大腸癌のスクリーニングおよびマンモグラフィ検査を希望する意志を表す患者は受診前から受診後にかけて減少した(大腸癌: 9.0 [SD = 5.3]~6.5 [SD = 6.0]、p < 0.0001,マンモグラフィー: 12.9 [SD = 3.0]~11.7 [SD = 4.9]、p = 0.08,大腸癌で有意に減少)。診察前に患者の63%(54/86)がPCPと余命について話し合うことに興味を持っていたが,診察後では56%(47/84)であった。

【ディスカッション】
研究に参加したPCPはがん検診の中止について話し合うためのスクリプトや患者の余命に関する情報が有用であると考えた。結果として,75歳以上の患者はCRC検診を受けようとする意識が低かった可能性がある。
【Translational Significance(現場に適用できる本研究の意義)】
ガイドラインでは、平均余命が10年未満の高齢者にはがん検診を行わないことが推奨されているが、患者にとって有害性が有益性を著しく上回るためである。しかしながら、PCPが高齢者とがん検診の中止について話し合うことはほとんどない。この研究では、PCPが高齢患者の10年後の余命に関する情報およびがん検診の中止について話し合うためのスクリプト(台本)が有用であることが明らかになり、この介入を使用することで、余命が短く、有益な可能性がほとんどない高齢者ががん検診を受けようとすることが少なくなる可能性があることが明らかになった。さらに、本研究では、56%の高齢者が10年後の余命についてPCPと話し合うことに興味を持っていることが明らかになった;しかしながら、10年後の余命について高齢者と話し合うことに快感を感じているPCPはほとんどいなかった。

 

【開催日】2020年10月7日(水)

肺癌スクリーニングによる死亡率の低下

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名-
H.J. de Koning. Reduced Lung-Cancer Mortality with Volume CT Screening in a Randomized Trial. NEJM. 2020 Feb 6; 382(6): 503-513.

―要約-
Introduction
肺癌は癌による死亡の主要な原因であり、診断の時点で約70%進行癌、5年生存率は15%と低い。喫煙率は低下しているものの、いまだに成人の17-28%は喫煙者で、タバコ関連疾患の問題は深刻である。
NLST(米国の肺スクリーニング試験)では、肺癌の高リスク者においてXpとCTによる肺癌クリーニングを比較したところ、CT群で肺癌死亡率が20%低いことがわかっているが、その他に肺癌スクリーニングと死亡率の関連を示す研究はない。
2000年に開始されたNELSON試験(オランダ・ベルギーの肺癌スクリーニング試験)は、高リスク者を10年間追跡した低線量・ボリュームスキャンCTによるスクリーニングが肺癌発生率・死亡率などを減少させるかを調べた研究である。
Method
研究はエラスムス大学医療センター、グローニンゲン大学医療センターが行っており、スクリーニングの参加機関は4つの大学や医療センター(UMCG, University Medical Center Utrecht, Spaarne Gasthuis, and University Hospital Leuven)である。
参加者は喫煙が15本x25年以上もしくは10本x30年以上とした。
Current smoker;2週間以内の喫煙歴がある人
Former smoker;過去10年以内に禁煙した人
除外基準は中等症〜重症の基礎疾患があり2階へあがれないような人、体重140kg以上、過去の腎癌・悪性黒色腫・乳癌、過去5年以内の肺癌の診断・治療、過去1年のCT検査を受けた人である。
女性で上記の基準を満たす参加者は少なく男性に焦点を当てる研究となった。
50歳から74歳までの合計13,195人の男性(一次分析)と2594人の女性(サブグループ分析)が無作為に割り当てられた。→table1
2004年1月から2012年12月までの間で、4回の低線量CTスクリーニング(開始時、1年目、3年目、および5.5年目)を受けた人と、スクリーニングを受けなかった人とを比較した。

追跡期間は5, 7, 10-11年で行った。
肺癌特異的な死亡率を特定するために、死因を特定する臨床専門家委員会が設立され、専門家委員会の認証によって死亡が肺癌であることが結論づけられた。ランダム割付時から肺癌の診断、肺癌による死亡、その他の原因よる死亡を記録した。

JC202009佐野

Results
参加者は前述table1(下記)へ。群間の特性には有意差なし。男性参加者は計13195人で、6538人のスクリーニング群と6612人の対照群に割り当てられている。
CTの実施率は平均90%程度。Indeterminate test(不確実な検査?)では追加検査を行い、55%の結節が解決、最終的に2.1%が検査陽性となった。呼吸器科での精密検査にて合計203件が肺癌と診断され、スクリーニングの陽性率は43.5%であった。
JC202009佐野2

Fig.1 Aは追跡期間および試験グループごとの肺がんの累積発生率であり、10年間でスクリーニング群で5.58例/1000人年、対照群で4.91例/1000人年であった。
Table3より、スクリーニング群ではstage1A/1Bが58.6%と多かったことに比較して、対照群では13.5%だった。Stage4の肺癌はほぼ半数の参加者で診断されているが、スクリーニングで検出されたのは9.4%であった。ほとんどが腺癌だった。
Fig.1Bは10年間での累積死亡率であるが、10年間のフォローアップでの肺癌による死亡はスクリーニング群で156人(2.50人/1000人年)、対照群で206人(3.30人/1000人年)であり、10年後の肺がんによる累積死亡率は、対照群と比較してスクリーニング群で0.76(95%信頼区間[CI]、0.61〜0.94; P=0.01)であった。
JC202009佐野2

JC202009佐野4

Discussion
本試験では、スクリーニング間隔が時間経過とともに伸びているにもかかわらず、高リスク喫煙者の肺癌死亡率が大幅に低下する結果となった。スクリーニングの受診率は高く、男性の87.6%が3回のスクリーニング検査を受けた。また、発見時の肺癌の多くが初期段階であったため、外科的治療などの根治術の適応が増えた。
女性を対象としたサブグループ分析でもCTによるスクリーニングは肺癌死亡率に対して良好な結果が得られた。
大量のサンプルサイズを要するため、全死因では有意差を示すことはできなかったが、肺癌以外の死因に関してはスクリーニング群と対照群で有意差はなかった。
肺癌スクリーニングにおける過剰診断は課題の一つである。10年で19.7%の過剰診断がみられた。
 将来的にはスクリーニングの適応になる高リスク患者の選択がより洗練されることで、CTによる肺癌スクリーニングのメリットが増すであろう。

【開催日】2020年9月23日(水)

総タンパクおよび動物性、植物性タンパク質の食事による摂取と、全ての原因および心血管疾患、癌による死亡のリスク

―文献名-
Dietary intake of total, animal, and plant proteins and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. Sina Naghshi, Omid Sadeghi、Walter C Willett, Ahmad Esmailzadeh. BMJ. May 2020;370:m2412|doi:10.1136/bmj.m2412

―要約-
Introduction:
心血管疾患と癌は世界における2つの主要な死因である。これらの状態には食事が重要な役割を果たしている。長寿と関連する最適な栄養素の組成は不明確だが、タンパク質の摂取量については、ここ数十年で高タンパク食への移行が世界的に起こっている。高タンパク食は減量、筋肉量の維持、筋力向上に繋がる可能性があり、人気となっている。
高タンパク食は、血中グルコースや血圧などの心臓代謝バイオマーカーの改善とも関連している。高タンパク食、特に植物性のタンパク質は、HDLコレステロールや心血管疾患のリスクに影響を与えることなく、血中脂質濃度を有意に下げることを示したエビデンスが増えてきている。一方で、動物性タンパク質の摂取と心血管疾患および一部の癌の発生率と正の相関も報告されている。
総タンパク質摂取量と寿命の関連については議論の余地がある。今回、食事によるタンパク質の摂取と全ての原因、心血管疾患、および癌による死亡リスクの関連をまとめるため、前向きコホート研究のシステマティックレビューと用量反応メタアナリシスを実施した。

Method:
2019年12月31日までに公開された、PubMed/Medline、ISI Web of Science、Scopusなどのオンラインデータベースの全ての記事を体系的に検索した。
公開された研究の中から、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取と全ての原因による死亡、心血管疾患、全体としての癌または特定の癌との関連について調べられた、成人を対象とする観察的前向き研究が含まれた。小児・青年、慢性腎臓病・血液透析患者、末期癌、重篤な疾患をもつ患者を対象とした研究は除外した。

Results:
最終的に32件のコホート研究がこのシステマティックレビューに含まれ、31件の論文がメタアナリシスに含まれた。22件の論文で全死因の効果サイズが報告され、17件で心血管疾患による死亡、14件で癌による死亡が報告された。また、これらの論文のうち、26件は総タンパク質摂取量の効果サイズを報告した。16件は動物性タンパク質の摂取、18件は植物性タンパク質の摂取を報告した。
これらの研究の参加者数は288~135,335人、年齢は19~101歳。合計715,128人の参加者がこの32件の論文に含まれた。3.5年~32年の追跡期間中、全ての原因による死亡の総数は113,039人、心血管疾患による死亡は16,429人、癌による死亡は22,303人だった。
総タンパク質の摂取および全ての原因による死亡率の間の関連を調べた29件の論文のうち、6件は逆相関を、1件は正の相関を認め、他の報告では有意な関連を示さなかった。動物性タンパクの摂取と全ての原因の死亡率との関連について、2件は逆相関を示し、他の報告では有意な関連を示さなかった。さらに、7件の論文では、植物性タンパク質の摂取量と全ての原因による死亡率との間に逆相関を示した。心血管疾患の死亡率については、2件の研究が総タンパク質の摂取で保護的な関連を示し、1つの研究では動物性タンパク質、6件の報告では植物性のタンパク質に関するものだった。1つの研究で、総タンパク摂取量と癌死亡率の間に逆相関が示された。1つの研究では、植物性タンパク質の摂取量と癌の死亡率の間に逆の相関を示した。
総タンパク摂取量と全ての原因による死亡率について、関連する文献に含まれる480,304人の参加者のうち、72,261人が死亡した。総タンパク質の最高摂取量と最低摂取量を比較した全原因死亡率の要約効果サイズは0.94(95%信頼区間0.89-0.99、P=0.02)であり、総タンパク質摂取量と全原因死亡率の間の有意な逆相関を示した。研究官で有意な不均一性がみられた。
動物性タンパク質の摂取量と全原因死亡率については、関連する文献で304,100人の参加者と60,495人の死亡があったが、有意な関連はみられなかった(最高摂取量と最低摂取量の比較は1.00、95%信頼区間0.94-1.05、P=0.86)。研究間で中程度の不均一性があった。13の記事で調査された植物性タンパク質の摂取量について、439,339人の参加者と95,892人の死亡があり、全原因死亡率との逆相関がみられた(最高摂取量と最低摂取量を比較した統合効果サイズは0.92、0.87-0.97、P=0.0002)

JC202009中島

タンパク質摂取と心血管疾患死亡率について、10件の文献で調査された。これらの研究には427,005人の参加者と15,518人の死亡者が含まれていた。タンパク質摂取量の最高値と最低値を比較した心血管疾患死亡率の要約効果サイズは0.98(95%信頼区間0.94-1.03、P=0.51)であり、総タンパク摂取量と心血管疾患死亡率の間に有意な関連性は認めなかった。研究間で有意な不均一性は見られなかった。動物性タンパク質の摂取と心血管疾患の死亡率との関連性は、290,542人の参加者と13,667人の死亡者を含む8つの論文で調査され、有意な関連は認めなかった(要約効果サイズ1.02、95%信頼区間0.94-1.11、P=0.56)。研究間で有意な不均一性はなかった。植物性タンパク質の消費については10件の論文で検討され、425,781人の参加者と14,021人の死亡で、心血管疾患と逆の関連がみられた(要約効果サイズ0.88、0.80-0.96、P=0.003)。研究間で有意な不均一性はなかった。
タンパク質と癌死亡率について、12件の論文で、合計292,629人の参加者、22,118人の死亡者で関連を調べた。タンパク質の最高摂取量と最低摂取量を比較した癌死亡率の要約効果サイズは0.98(95%信頼区間0.92-1.05、P=0.63)であり、明確な関連性はなかった。研究間で中程度の不均一性がみられた。9件の論文で、動物性タンパク質の消費と癌死亡率についても同様の結果がみられた。合計274,370人の参加者、21,759人の死亡で、要約効果サイズ1.00、95%信頼区間0.98-1.02、P=0.88。植物性タンパク質の消費についても同様で、9件の論文で検討された。合計274,370人の参加者、21,759人の死亡、要約効果サイズ0.99、95%信頼区間0.94-1.05、P=0.68。こちらは研究間の有意な不均一性はみられなかった。

Discussion:
今回のシステマティックレビューとメタアナリシスで、総タンパク質の摂取量と全ての原因による死亡率の間に有意な逆の関連があることが分かった。総タンパク質、動物性タンパク質の摂取量と心血管疾患および癌死亡率との間に有意な関連は見られなかった。植物性タンパク質の摂取は、全ての原因と心血管疾患による死亡リスク低下と関連していた。
この研究の限界として、残存または測定されていない交絡因子がタンパク質摂取と死亡率との関連の大きさに影響を与えた可能性がある。ほとんどの研究は潜在的な交絡因子を制御していたが、他の栄養素の食事摂取を考慮に入れなかった研究や、総エネルギー摂取量とBMIを共変量と見なさなかった研究もあった。タンパク質のほとんどの食物源に存在する食物脂肪の量や種類など、他の栄養素を制御できないことは、タンパク質摂取と死亡率の独立した関連に影響を与える可能性がある。さらに、このレビューの一部の研究では、用量反応メタアナリシスに含めるのに十分な情報が報告されていなかった。また、今回含まれたコホートでは食物摂取頻度アンケート、食物回収、記録を含む食物評価のさまざまな方法が使用され、タンパク質摂取量の単位は研究ごとに異なっていた。食事評価における測定誤差は避けられず、タンパク質摂取との関連を過小評価する傾向があったと思われる。さらに、動物性タンパク質の摂取量に関する結論は、食事が炭水化物に富み、動物源の消費が少ない、低所得層または中所得層への一般化がより低い可能性がある。

【開催日】2020年9月2日(水)

体積骨密度および骨強度に対する高用量ビタミンD補給の効果

-文献名-
Lauren A. Burt, PhD. Effect of High-Dose Vitamin D Supplementation on Volumetric Bone Density and Bone Strength A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 Aug 27;322(8):736-745.

-要約-
背景
12ヶ月以上にわたって許容上限摂取量以上でビタミンD投与の効果を評価した研究はほとんどないが、米国成人の3%が少なくとも4000IU/dayのビタミンD摂取を報告している。

目的
体積骨密度(BMD)および強度に対するビタミンD補給の用量依存効果の評価
デザイン
カナダ・カルガリーの単一施設で2013年8月〜2017年12月までに実施された3年間の二重盲検RCT。
55〜70歳までの311人の骨粗鬆症のない健康な成人、25[OH]Dのベースラインレベルは30〜125nmol/L。

介入
400IU(n = 109)、4000IU(n = 100)、10000IU(n = 102)での3年間のビタミンD3の1日量。
カルシウム摂取は、食事で1200mg/day未満の人に提供。

結果
HR-pQCT(high-resolution peripheral quantitative CT:DEXAより正確に骨密度を測定し、かつ骨強度を測定できるもの)で橈骨・脛骨の骨密度(BMD:bone mineral density)を評価、および要素解析による骨強度の推定。
無作為化された311人の参加者(53%が男性、平均年齢62.2歳)のうち287人(92%)が研究を完了。
25(OH)Dのベースライン、3か月、3年後の値は、400IUグループで76.3、76.7、77.4nmol/L。
4000IUグループで81.3、115.3、および132.2。
10000IUグループで78.4、188.0、および144.4。
終了時での橈骨の骨密度は400IUグループと比較して、4000IUグループ(−3.9 mg HA/cm3 [95% CI, −6.5 to −1.3])および10,000IUグループ(−7.5 mg HA/cm3 [95% CI, −10.1 to −5.0]) で低かった。
体積BMDの平均変化率は-1.2%(400 IUグループ)、-2.4%(4000 IUグループ)、および-3.5%( 10000 IUグループ)であった。
400 IUグループとの脛骨の骨密度の差は、4000IUグループで-1.8 mg HA /cm³(95%CI、-3.7〜0.1)、10000 IUグループで-4.1 mg HA /cm³(95%CI、- 6.0〜-2.2)、平均変化値は-0.4%(400IU)、-1.0%(4000IU)、および-1.7%(10000IU)であった。

結論と関連性
健康成人では、1日あたり4000IUまたは10,000IUのビタミンDを3年間投与すると、400IUと比較して骨密度が統計的に有意に低かった。脛骨では、10000IUでのみ有意に低かった。橈骨でも脛骨でも骨強度には有意差はなかった。調査結果は、骨の健康のための高用量ビタミンD補給の利点を支持しなかった。有害かどうかはさらなる研究が必要である。

参加者のフロー
JC201912大西1

母集団
JC201912大西2

<除外>
骨粗鬆症(骨量低下は含む)
血清25(OH)値の高値、低値
血清Ca値の高値、低値
半年以内に高容量ビタミンD服用
2年以内に骨粗鬆症の治療介入
ビタミンD代謝に影響する疾患(サルコなど)
腎障害
吸収不良
2年以内の腎結石
日焼けサロンに通っている

A(血清25(OH)D)、B(副甲状腺ホルモン)、C(タイプ1コラーゲンCテロペプチド)の分布
JC201912大西3

JC201912大西4

血清25(OH)D値は高容量投与で上昇するが、副甲状腺ホルモン、骨代謝マーカーには影響なし

Primary Outcome <骨密度の変化>
JC201912大西5
投与すれば投与するほど骨密度が下がっている

服作用頻度
JC201912大西6
高Ca血症と高Ca尿症で有意差あり

【開催日】2019年12月4日(水)

帯状疱疹予防における生ワクチン(ZVL)と組換えワクチン(RZV)の比較

-文献-
McGirr A, et al. The comparative efficacy and safety of herpes zoster vaccines: A network meta-analysis. Vaccine. 2019
May 16;37(22):2896-2909.

-要約-
背景:
・米国およびカナダでは、50歳以上の帯状疱疹予防に以下の2つのワクチンが認可されている(本邦と同様)
   生ワクチン(Zoster Vaccine Live; ZVL) 単回投与
   組換えワクチン(Recombinant Zoster Vaccine; RZV) 2回投与
・ZVLおよびRZVのランダム化比較試験(RCT)は、それぞれプラセボと有効性、安全性を比較している
・2つのワクチンの有効性、安全性を直接比較した試験はない
・この研究では、ネットワークメタ分析(NMA)を使用して2つのワクチンの有効性と安全性を比較した

方法:
・以下のPICOで文献検索、系統的レビューされた(21の全文出版物と4の会議抄録)
 P:帯状疱疹の既往ない50歳以上の成人(免疫不全者で実施された研究は除外)
 I:ZVL、RZVいずれかの帯状疱疹ワクチン接種(用量、スケジュール、準備、投与経路を問わない)
 C:他の帯状疱疹ワクチン、プラセボ、介入なし(異なる用量、スケジュール、準備、投与経路を評価する研究を含む)のいずれか
 O:有効性・・・帯状疱疹の発生率、帯状疱疹後神経痛(PHN)の発生率ほか
    安全性・・・完全な中止、重篤な有害事象、局所反応、全身反応
・詳細な実現可能性評価により、NMAは有効性(帯状疱疹およびPHNの発生率)および安全性(重篤な有害事象および注射部位反応、全身反応)の結果で実現可能であることが示された
・年齢はワクチンの有効性(VE)の既知の効果修飾子であるため、VE分析は年齢ごとに層別化された

結果:
・帯状疱疹への有効性は、60歳以上(Fig. 2A)、70歳以上(Fig. 2B)の両方の年齢層において、RZV(筋注)がZVL(皮下注)よりも有意に優れていた。PHNへの有効性も60歳以上(Fig. 2C)、70歳以上(Fig. 2D)の両方にて同様だった。
・RZVは、ZVLおよびプラセボのほとんどと比較して、注射部位および全身反応が大幅に増加ししたが、定義とデータ収集手順は研究間で異なっていた。重篤な有害事象については、ZVLまたはプラセボとの間に統計的に有意差は見られなかった。

20191109後藤

結論:
・RZVはZVLと比較して、60歳以上の成人の帯状疱疹およびPHNの発生率を大幅に低減する
・RZVは局所・全身反応が多いが、重篤な有害事象についてはRZVとZVLの間に違いはみられなかった

研究の限界:
・研究の数が少なかったため、結果は慎重に判断する必要あり
・少数の研究がNMAの結果に影響を与えた可能性がある
・研究の不均一性の結果、安全性の結果について95%CIが非常に広かった
・利益相反あり

【開催日】2019年11月6日(水)

トランスジェンダーのケア

-文献名-
DAVID A. KLEIN, MD, MPH; SCOTT L. PARADISE, MD; and EMILY T. GOODWIN, MD, Fort Belvoir Community Hospital, Fort Belvoir, Virginia Am Fam Physician. 2018 Dec 1;98(11):645-653.

-要約-

201910神田1

導入:米国では約15万人の若者と140万人の成人がトランスジェンダーとして特定されています。社会文化的な需要が進むにつれ、臨床医はおそらくトランスジェンダーの人々の増加に気づくでしょう。
しかし、大規模な観察研究のデータは、トランスジェンダーの24%が医療環境での不平等な治療を報告し、19%が治療の拒否を報告し、33%が予防的介入を求めていないことを示唆しています。
約半数のレポートは、彼らがトランスジェンダーケアの基本的な教義を彼らの医療専門家たちに教えたと報告しています。
用語の定義:トランスジェンダーは、経験、表現される性別が出生時に割り当てられた性別と異なる人を表します。性同一性障害は、トランスジェンダー及び性多様性の人が経験する機能苦痛または問題を表します。
ICD-11の診断にある性不適合は、その人の経験する性別と割り当てられた性別の間の矛盾を表していますが、違和感または治療のための好みを意味するものではありません。
トランスジェンダーと性の不一致という用語は、一般的に性的指向、性的発達、外的性別表現とは異なります。
最適な臨床環境:臨床医が信頼関係の確立と維持に重点を置きトランスジェンダーの患者にとって安全で快適な環境を確立することが重要です(Table1)。
臨床医は「私は性多様性の人々のケアの経験が限られていますが、あなたが私の診療に安心を感じてもらえることが大事で、最適なケアができるよう頑張ります」と患者に伝えることはできます。
トランスジェンダー、性多様性に親和性のある資料のある待合室はより歓迎かもしれません。
問診票を更新して、性別に依存しない言語を含め、トランスジェンダーの患者の特定に役立つ2段階の方法(選択した性別と出生時に割り当てられた性別を特定する2つの質問)を使用できます。
文化的に繊細な用語やトランスジェンダーの話題、個人の偏見の評価における臨床医やスタッフのトレーニングは患者の反応に寄与するかもしれません。
また、地域のトランスジェンダーの患者の代弁をすることができます。

201910神田2

評価:
病歴
トランスジェンダー患者を評価する場合、臨床医は性別の違和感または不一致の大きさ、期間、および安定性を評価する必要があります。治療は状況に合わせて最適化する必要があります。臨床像(例えば
、精神病)が混乱していたり性肯定ケアをより困難にする(例えば、制御されていないうつ病、重要な薬物使用)状況です。患者の社会環境のサポートと安全性は性肯定のために評価を必要とします。
これは、理想的には学際的な注意を払って達成され、完全に評価するために、数回の受診が必要な場合があります。
プライマリケア臨床医は、性同一性障害を評価しホルモン療法を管理することにより患者の性別関連のケアに積極的な役割を取るか、または良い状態であるか観察しプライマリケアと紹介を提供する補助的な役割を果たすか選択することができます(Figure1)。
臨床医は、自分自身をホルモン療法の門番と見なすべきではありません。むしろ患者が自分の健康管理について合理的で教育に基づいた決定を下せるように支援する必要があります。

身体診察
トランスジェンダーの患者は、継続的な不快感または過去の否定的な経験のために、身体診察中に不快を感じる場合があります。
診察は患者の現在の解剖学的構造と受診の特定のニーズに基づくべきである、そして、説明し寄り添い患者の快適さのレベルによって中断されるべきです。
性発達の違いは、通常、性の違和感や性の不一致よりもずっと早く診断されます。ホルモン療法されていない場合は、出生時に割り当てられた性別と一致しない性別の特性を評価するために、初期検査が必要になる場合があります。
このような所見は、内分泌科医または他の専門医への紹介を必要とする場合があります。

メンタルヘルス:
トランスジェンダーの患者は通常メンタルヘルスの診断の割合が高いです。しかし、患者の精神的懸念がトランスジェンダーであることに二次的であると仮定しないことが重要です。
プライマリケアの臨床医は、うつ病、不安障害、PTSD、摂食障害、薬物使用、親密なパートナーの暴力、自傷行為、いじめ、不登校、ホームレス、高リスクの性的行動、および自殺傾向のためのルーチンのスクリーニングを検討すべきです。
臨床医は、トランスジェンダーの人々の基本的なメンタルヘルスのニーズに対応し(例えばうつ病や不安に対する第一選択治療)、必要に応じて患者を専門医に紹介する必要があります。
トランスジェンダーはトラウマ的経験の有病率が高いため、ケアはトラウマインフォームドであるべきで(すなわち、安全、支援および信頼性に焦点を当てる)、ケアとレジリエンスに関連する患者の人生経験によって導かれるべきです。
人の性自認を出生時に割り当てられた性別に合わせるための努力、治療は非倫理的でAAFPのポリシーを含む現行のガイドラインやエビデンスに対応していない治療です。

ヘルスメンテナンス:
予防医療は、トランスジェンダーとシスジェンダー(つまり、トランスジェンダーではない)の人とで同様です。
微妙な推奨事項は、患者の現在の解剖学、薬物使用、および行動に基づいています。
高脂血症、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満のためのスクリーニングの推奨事項はUSPSTFから入手できます。臨床医はVTEおよび代謝性疾患の兆候と症状に注意する必要があります。
ホルモン療法はこれらの状態のリスクを高める可能性があるためです。骨粗鬆症のスクリーニングはホルモン治療に基づきます。
がん検診の推奨事項は、患者の現在の解剖によって決定されます。乳房組織を持つトランスジェンダーの女性と完全な乳房切除を受けていないトランスジェンダーの男性は、シスジェンダーの人のガイドラインに基づいてマンモグラフィのスクリーニングを受けるべきです。子宮頸部および前立腺癌のスクリーニングは、現行のガイドラインおよび解剖的存在に基づいてなされるべきです。
予防接種(例HPV)および性感染症(HIVを含む)のスクリーニングと治療に関する推奨事項は、性行為に基づいてCDCとUSPSTFが提供しています。
HIV感染前および曝露後予防、治療基準を満たす患者のために考慮されるべきです。

ホルモン療法:
女性化および男性化するホルモン療法は、経験のある性から第二の性への発達を促進するための部分的に不可逆的な治療です。すべての性別の人がホルモン治療を必要とするわけではありません。
しかし、治療を受けた人は一般に、QOL、自尊心、不安の改善を報告しています。患者が不可逆的な外見の変化、生殖能力、および社会的な状況だけでなく、他の潜在的な利点とリスクを理解した後、治療に同意する必要があります。(詳細は割愛)
手術およびその他の治療:性の違和感を最小限に抑えるために、性適合外科的治療は必要とされない場合があり、ケアは個別化する必要があります。(詳細は割愛)

トランスジェンダーユース
すべてではありませんが、ほとんどのトランスジェンダーの成人は、子供の頃から性同一性の安定性を報告しています。しかし、性多様な思春期前の子供たちのなかには、ゲイ、レズビアン、またはバイセクシャルとして識別し、または性同一性がより明確になってきたときトランスジェンダーとは別にアイデンティティを持つこともあります。思春期前の性多様性の子供のために広く受け入れられている治療プロトコルはありません。臨床医は優先的に(支持的に「成り行きを見守る」アプローチとは対照的に)性同一性の健康的な探索を個別化する肯定的なケア戦略に子供や家族のメンバーの支援に焦点を当てることができます。
これは、トランスジェンダーの若者の発達に精通しているメンタルヘルスの臨床医への紹介を正当化するかもしれません。
トランスジェンダーの思春期の若者は、サポートのための心理療法にアクセスし、性同一性を探索し、性の不一致の社会感情的な側面に適応し、潜在的な治療に対する現実的な期待について話し合うための安全な手段が必要です。
臨床医は回復力を付与することが示されているサポーティブな家族や社会環境を代弁すべきです。いじめや被害にあうサポーティブでない環境は、心理社会的機能と幸福に悪影響をもたらし得ます。
トランスジェンダーの青年は、二次性徴の開始時に苦痛を経験する場合があります。臨床医は、患者が性的成熟のステージ2または3に達したときに思春期を抑制するために、性腺刺激ホルモン放出ホルモン
(GnRH)の開始または適時の紹介を考慮する必要があります。この治療は完全に可逆的であり、将来の肯定は簡単かつ安全にすることができ、性同一の安定性を確保するための時間ができます。ホルモン
治療は、思春期の発症前には保証されません。
GnRHアナログ治療のための同意には利益とリスクに関する情報が含まれるべきである。治療を開始する前に、内因性思春期の進行を必要とする可能性のある不妊治療について患者に紹介する必要があります。
一部の人は、外見(衣服、髪型など)または行動を性同一性と一致させることを好みます。社会的肯定のリスクと利益を比較検討する必要があります。初経後のTransmasculineの若者は、追加の避妊効果を
提供する月経抑制を受けることができます。乳房結合は、乳房組織を隠すために使用される場合がありますが、痛み、皮膚刺激、または皮膚感染を引き起こす可能性があります。
複数の研究が、思春期抑制とその後の性一致ホルモン療法後の心理社会的結果の改善を報告しています。治療の遅れは精神ストレスおよび性関連虐待を増強するかもしれません。
したがって、成り行きを見守るアプローチで性一致ホルモン治療を差し控えることにはリスクがないわけではありません。
トランスジェンダーの人、家族、臨床医向けの追加リソースは、eTable Cに示されています。

201910神田4

201910神田3
FIGURE 1.
Considerations in the care of transgender and gender-diverse persons in primary care.

【開催日】2019年10月9日(水)

高齢女性における歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係

-文献名-
I-Min Lee,MBBS,ScD,Eric J. Shiroma,ScD, Masamitsu Kamada,PhD,et al. Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in older Women. JAMA Intern Med.Published online. May 29,2019.

-要約-
Importance:
1日1万歩を目標に歩くことは健康のために必要だと一般に信じられているが、この歩数は科学的な根拠が限られている。さらに、1日あたりの歩行数にかかわらず、歩行強度がより強い方が健康ベネフィットがあるのかどうかも不明である。
Objective:
1日あたりの歩数および歩行強度と全死因死亡率との関係を研究すること
Design, Setting, and Participants:
この前向きコホート研究には、2011年から2015年までの間で7日間、覚醒時間中に加速度計を装着することに同意したWomen’s Health Studyからの18,289人の米国人女性が参加した。17,708人のがデバイスを装着して返却し、17,466のデバイスからデータが正常にダウンロードされた。このうち、1日10時間以上、4日間以上装着した16,741人のデータが解析に供され、2018年から2019年に解析が行なわれた。
Exposures:
1日当たりの歩数といくつかの歩行強度の尺度(1分間ケイデンスピーク、30分ケイデンスピーク、5分間ケイデンス最大、意図的に歩行した40歩/分以上での歩行時時間)
Main Outcome and Measures:全死因死亡率
Results:
・選択基準を満たした16,474人の女性の平均年齢(SD)は72.0歳(5.7)だった。
・平均歩数は5,499歩/日で、時間割合は0歩/分が51.4%、1-39歩/分が45.5%、40歩/分以上(意図的な歩行)が3.1% だった。
・平均4.3年の追跡期間中に、504人が死亡した。
・各四分位における1日あたり歩数の中央値は、2,718 、4,363、5,905、8,442であった。
・交絡因子を調整後、各四分位の全死因死亡率に関連したハザード比(HR)はそれぞれ、1.00(基準)、0.59(95%CI:0.47-0.75)、0.54(95%CI:0.41-0.72)、0.42(95%CI:0.30-0.60)だった(p<0.01)。
・スプライン解析では、約7500歩/日までは1日当たり平均歩数が増えるにつれてHRが減少したが、それ以上では平坦になった。
・歩行強度については、強度が強いほど死亡率が有意に低かったが、1日あたり歩数を調整後は全ての関連が弱められ、ほとんどが有意ではなくなった。
Limitation
この結果が、より活動的でない集団やもっと活動的な集団にも当てはまるかは明らかでない。

 

【開催日】2019年6月12日(水)