人工甘味料と心血管疾患のリスク

-文献名-
Charlotte Debras, 2 Eloi Chazelas, Laury Sellem. Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Santé cohort. BMJ 2022; 378: e071204

-要約-
Introduction:
 WHOは、1日のエネルギー摂取量のうち遊離糖(単糖類および二糖類)の割合を5%未満にすることを推奨している。添加糖の代替として登場した人工甘味料は、砂糖を使わなくても甘みを再現できるため、遊離糖のカロリーを抑え、消費者に高く評価された。各人工甘味料の許容可能な1日接種量は、欧州食品安全機関(EFSA)、米国食品医薬品局(FDA)、または食品添加物に関する合同専門家委員会によって設定されている。それにも関わらず、それらは依然として論争の的となっており、現在EFSAやWHOを含むいくつかの保健当局による再評価を受けている。
 これまでの研究では、人工甘味料を含む飲料の摂取と心血管リスク増加の影響が示唆されたが、これらの関連性に関するエビデンスのレベルはWHOによって低いと見なされている。さらに、人工甘味料入り飲料は人工甘味料の総摂取量の一部に過ぎないため、因果関係研究ではすべての食事源を考察することが重要である。
 本研究の目的は、定量データを使用して大規模な前向き研究を実施し、すべての食事源からの人工甘味料の全体的な関連性を調査することとした。

Method:
 参加者は、ウェブベースのNutriNet-Santéコホートの103,388人の参加者(平均年齢 42.2±14.4、女性 79.8%、904,206 人年)。人工甘味料の食事摂取量と消費量は、工業製品のブランド名を含む 24 時間の繰り返しの食事記録によって評価された。
 主な結果は、甘味料 (連続変数としてコード化され、log10 変換) と心血管疾患リスクとの関連性を測定し、多変数調整 Cox ハザード モデルによって評価された。

Results:
 人工甘味料の総摂取量は心血管疾患のリスク増加と関連していた (1502 件、ハザード比 1.09、95% 信頼区間 1.01 ~ 1.18、P = 0.03)。高消費者(性別の中央値を超える)と非消費者の絶対発生率は、それぞれ10万人年あたり346と314だった。人工甘味料は、脳血管疾患のリスクと特に関連していた (777 イベント、1.18、1.06 ~ 1.31、P = 0.002; 発生率は、高所得者および非消費者でそれぞれ 10 万人年あたり 195 および 150)。アスパルテームの摂取は、脳血管イベントのリスク増加と関連していた (1.17、1.03 から 1.33、P=0.02; 高値者および非消費者における発生率は、それぞれ 100,000 人年当たり 186 および 151)。

Discussion:
 NutriNet-Santé コホートでは、人工甘味料の総摂取量は、全体的な CVD および脳血管疾患のリスク増加と関連していた。アスパルテームの摂取は脳血管イベントのリスク増加と関連し、アセスルファムカリウムとスクラロースは冠状動脈性心疾患のリスク増加と関連していた。この結果は、追加の砂糖を人工甘味料に置き換えても CVD の結果に利益がないことを示唆している。
 この研究は、大規模なサンプルサイズ (n=103,388) に基づいており、すべての食事源からの人工甘味料の摂取と CVD リスクとの関連性を前向きに調査した。食事摂取量を完全に測定する方法はないため、分類バイアスを排除することはできない。ただし、この研究で行われた人工甘味料消費量の評価は、大規模な集団ベースのコホートにおける個人レベルでの包括的な評価だった。NutriNet-Santé 研究は、正確で質の高い食事データを備えた疫学コホートである。食事の記録は、訓練を受けた栄養士とのインタビューによって以前に検証されており33、エネルギーと栄養素の摂取量に関する血液と尿のバイオマーカーに対して検証されている。世界中の疫学研究では、一般的に食事頻度アンケート(24 時間繰り返した食事記録よりも精度が低いことが知られている)、またはベースラインでの限られた数の記録またはリコールを使用している。

【開催日】2022年10月12日(水)

生活習慣と非認知症余命の関係

-文献名-
Klodian Dhana, et al. Healthy lifestyle and life expectancy with and without Alzheimer’s dementia: population based cohort study. BMJ. 2022; 377:e068390. (doi: 10.1136/bmj-2021-068390)

-要約-
Introduction:
 近年、生活習慣の改善によるアルツハイマー型認知症(AD )の予防が注目されているが、これは生活習慣が認知機能の低下を遅らせ、ADのリスクを低減する可能性があるデータが増えてきたことに起因する
 しかし、良い生活習慣は認知症リスクの低減だけでなく寿命の延長にもつながり、寿命が延びれば高齢者が増える。認知症のリスクは年齢が上がるにつれて指数関数的に増加する
 ライフスタイルへの介入によって、ADを遅らせることは可能かもしれないが、全体の有病率や認知症とともに生きる年数は変わらないか、むしろ増えるかもしれない
 そうであれば、医療専門家、政策立案者等は将来の医療費とニーズを十分に計画する必要がある

Method
<研究デザイン、セッティング、ポピュレーション>
 本研究は、一般集団におけるアルツハイマー型認知症の危険因子を評価するためにデザインされた前向き集団ベースコホート研 究 で あるChicago Health and Aging Project(CHAP)内で行われた
– 1993年から2012年の間に、シカゴ南部に住む65歳以上全員が対象になり、全対象者の約78.7%の6,157名がenrollされ、2000年にsuccessive cohortsで4,645名が追加。Totalで10,802名がenrollされた
 認知機能評価は3年毎に最大6回実施され、AD freeはin homeインタビューと臨床評価の結果認定された
 今回の解析では2,110名のAD freeと339名のAD患者のtotal 2449名が対象となった。

<生活習慣因子のアセスメント>
 5つの生活習慣因子(①食事(Mediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay[MIND]食事スコア)、②認知的活動、③中~強度の身体活動、④禁煙、⑤中程度以下の飲酒)について、有する場合は1点, 有しない場合は0点でtotal 5点でスコアリング
– ①食事は、MIND score 上位40%(概ねMIND score >7.5)を1点とした
– ②認知活動は、過去~現在の読書、美術館訪問、カードゲーム、ボードゲーム(checkers)、クロスワード、パズルからなるcognitive activity scoreに基づいて、上位40%以上を1点とした
– ③身体活動はウォーキング、ガーデニング、体操、自転車、水泳である。週150分以上で1点
– ④喫煙については、今吸っていなければ1点
– ⑤飲酒は、男性は30g /日以下、女性は15g /日以下で1点(缶ビールなら2本or 1本)

<統計学的分析>
 Multistate life tableを用いた分析を行った
– AD free→AD、AD free→death、AD→deathの3つのそれぞれのtransitionパターンについて、生活習慣毎の男女別ハザード比を生存分析で分析
– 回帰モデルは年齢、人種、配偶者の有無、教育、APOE ε4変異の有無、併存疾患で調整
– 全人口に対する生命表と 、健康的な生活習慣因子の数(0~1、2~3、4~5点)ごとに3つの生命表を作成

<アルツハイマー型認知症の診断>
 Cognitive performance testの 2つ以上の機能の障害と、神経科医が判断する認知機能の低下がADの診断に必要とした
 AD診断は、NINCDS(National institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)およびADRDA(the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)のprobable Alzheimer’s diseaseの基準により判定


 アルツハイマー型認知症がある場合とない 場合の女性および男性の平均余命

(Martha C.M. et al., Alzheimers Dement. 2015 Sep; 11(9): 1015–1022. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011)

Result

Discussion
 本研究は、生活習慣因子の余命だけでなく非認知症余命に与える影響を考慮するための定量的データを供給するという意味で価値がある
 既存研究で教育レベルの高い人の非認知症余命が長いというstudyもあるが、今回は教育レベルで調整を行った上で、生活習慣等のリスクファクターの非認知症余命への影響に言及した論文であることも特徴
 Limitationとしては、①生活習慣因子の評価がbaselineしかできておらず、フォローアップ中には行われていないため、生活習慣のその後の変化や、認知症による生活習慣の変化を捉えられていない、②不健康な人はstudyに参加しなかったり参加までに死亡している頻度が多いと考えられ、不健康な生活習慣をもつ人々のpopulationを過小評価している可能性、③生活習慣の評価は自己申告制であること、等がある

【開催日】2022年10月12日(水)

骨粗鬆症に対するビスフォスフォネート治療の5年以上の継続について

-文系名-
Leslie L.Chang, M.D. Continuation of Bisphosphonate Therapy for Osteoporosis beyond 5 Years. The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE. 2022 Apr 14,386;15

-要約-
<症例>71 歳の閉経後女性が、主治医であるあなたのもとを定期受診した。66 歳のとき,定期検診の骨密度検査(DXA)で大腿骨頸部の T スコアが -2.7 となり,骨粗鬆症と診断された.これまで骨折、転倒の既往はない。喫煙歴はあったが、10年近く前に禁煙しており、その他は健康である。市販のカルシウム・ビタミンDサプリメントを服用し、アルコール摂取を控え、毎日1時間近所を散歩している。身体所見では、バイタルサインは安定しており、BMIは25で、全身所見も異常はない。骨折リスク評価ツール(FRAX)のスコアを計算すると,10年後の骨粗鬆症性骨折のリスクは17%,大腿骨頸部骨折のリスクは5.1%と推定される.彼女は5年間のアレンドロネート治療を終了したばかりで、副作用はなかった。DXA検査では、大腿骨頚部のTスコアが-2.6となり、骨密度の改善は軽微であった。このままアレンドロネートの服用を続けるか、少なくともしばらくは中止するか、決断しなければならない。骨折リスクとビスフォスフォネートの副作用のバランスを考慮し、ビスフォスフォネート治療の継続について、あなたはどのような助言をしますか?

この患者さんに対して、あなたは次のどちらのアプローチをとりますか?文献、あなた自身の経験、ガイドライン、その他の情報源に基づいて選択してください。
1. ビスフォスフォネート療法の継続を勧める。
2. 骨密度の定期的なモニタリングを行いながら、ビスフォスフォネート療法の中止を勧める。

あなたの意思決定を助けるために、この分野の専門家2名に、エビデンスについて聞いた。この問題についてのあなたの知識と、専門家が説明したエビデンスを考慮した上で、あなたならどちらのアプローチを選びますか?

<オプション1>
ビスフォスフォネート治療の継続を推奨する(Richard Eastell, M.D.)
ビスフォスフォネートによる治療を5年以上受けている患者の骨粗鬆症管理に関する現行のガイドラインでは、骨折のリスクが高くない場合は治療を中断(いわゆる薬物休暇)することが一般的に推奨されています。しかし、「高くない」という言葉を定義することは難しい。FLEX(Fracture Intervention Trial Long-term Extension)試験は、アレンドロネートの長期投与に最も関連する試験です。Fracture Intervention Trialを拡張したこの無作為化臨床試験試験では、平均5年間アレンドロネートを投与された閉経後骨粗鬆症女性1099人が、さらに5年間アレンドロネートを2用量(毎日5mgまたは10mg)またはプラセボ投与にランダムに割り付けられたものです。プラセボ投与を受けた女性は、アレンドロネート治療を継続した女性に比べて骨量が著しく減少し、臨床的椎体骨折のリスクが増加しました(ただし、形態的椎体骨折や非椎体骨折は認められませんでした)。 個々の患者へのアプローチを考えるために、著者らはポストホック解析を行い、FLEX試験開始時の骨折の既往がない女性において、大腿骨頚部のTスコアが-2.5以下の場合、アレンドロネートの継続投与により非椎体骨折のリスクが低下することを明らかにしました。この情報は確定的なものではありませんが、大腿骨頚部Tスコアが-2.5以下で骨折の既往がない患者には適用できるかもしれません。
経口ビスフォスフォネートを5年間投与した後に休薬する主な理由は、この期間を過ぎると非定型大腿骨骨折のリスクが高まるからである。これらの骨折は、大腿骨転子下または骨幹部領域で発生し、大腿骨近位部を侵す典型的な股関節骨折よりも頻度は低く、典型的な股関節骨折よりも罹患率と死亡率が低い。一旦、ビスフォスフォネートを1~2年以上中止すると、非定型大腿骨骨折のリスクは大幅に減少し、ビスフォスフォネートを再開することができます。この患者は、これらの骨折の重要な危険因子であるグルココルチコイドも内服していないし、非常に痩せている(BMI<18.5)ということもないため、非定型大腿骨骨折のリスクが特に高いとは思えません。したがって、5年間の治療継続による骨折リスクのさらなる低減は、彼女の場合、非定型大腿骨骨折のリスクを上回ると思われます。しかし、アレンドロン酸を5年間投与しても、Tスコアが0.1(約1%)しか上昇しないため、ビスフォスフォネートの継続投与を勧める前に、彼女の治療へのアドヒアランスを評価したいと思います。国際骨粗鬆症財団と欧州石灰化組織学会は、治療開始後数ヶ月の間に骨代謝マーカーを測定することを推奨している。もし、マーカーが抑制されていない場合は、アドヒアランスが低い事になる。患者が治療を受けている間に骨代謝マーカーを測定していなければ、それらを測定し、マーカーが抑制されていなければ、治療を経口ビスホスホネートからゾレドロンの静脈内投与に変更し、アドヒアランス向上を図る。

<オプション2>
ビスフォスフォネート治療の中断と定期的な骨密度のモニタリングを推奨する(Paul D. Miller, M.D., H.D.Sc.)
この 71 歳の患者は、股関節の T スコアが -2.7 で、骨折の既往がなく、現在 5 年間のアレンドロネート治療を終了している。私は、アレンドロネートを中止し、ビスフォスフォネートの休薬期間を開始することを支持します。ビスフォスフォネート(P-C-P)結合は、天然に生成されるピロリン酸(P-O-P)結合の生物学的類似体である。炭素原子が酸素原子に置換されているため、代謝されることがない。すべてのビスフォスフォネートは骨に結合し、物理化学的、細胞学的効果により骨吸収を抑制する。さまざまなビスフォスフォネートは、骨との結合の強さ、リモデリングプロセスでリサイクルされるまでの剥離速度(または速度)が異なる。リセドロネートはそれほど強固には結合せず、最も早く剥離するが、ゾレドロン酸は最も強固に結合し、最もゆっくり剥離する。
ビスフォスフォネート系薬剤が発売された当初は、どれくらいの期間使用すればよいのかわからず、無期限に使用し続けることが一般的でした。しかし、長期使用者(8年以上)の非定型大腿骨自然骨折の症例報告が出始めた。2011年、食品医薬品局(FDA)諮問委員会は、使用期間を制限しないことを決めたが、これらの骨折に関する懸念から、FDAを含む複数の専門家が、ビスフォスフォネートの使用を3~5年に制限するよう主張するようになった。この患者の股関節骨折のリスクは、介入を推奨する3%を超えているが、FRAXが定義する主要骨粗鬆症性骨折の10年リスクは20%未満である。
これらのFDAの意見に欠落していることは、ビスフォスフォネート治療を継続した場合の有効性、あるいは中止後の有効性の消失をどのようにモニターするかという勧告である。それは、ビスフォスフォネート治療を再開する時期、または代替療法が妥当であるということに関して決定する判断材料となる。臨床においては、骨密度および骨吸収のバイオマーカー(例えば、C-テロペプチド)のモニタリングが、ビスフォスフォネートの骨吸収抑制効果が減弱した時期を判断する論理的な手段である。骨密度の最小有意差以上の低下と、血清C-テロペプチドの最小有意差以上の上昇は、リモデリングが進行していることを示すシグナルであり、ビスフォスフォネートまたは他の抗骨吸収療法を再開する時期であることを示唆する。最近の研究では、リセドロネートの中止(2年)の方がアレンドロネートの中止(3年)よりも骨折のリスクが早く上昇することが示されたが、骨密度や骨マーカーに関する情報は含まれていない。ビスフォスフォネートの休薬期間に関する決定は、患者のベースラインの骨折リスクによるかもしれない。この症例の女性のように、脆弱性骨折の既往がない患者においては、3年から5年の治療後にビスフォスフォネートを中止しても、その後の脆弱性骨折のリスクは非常に低くなります。しかし、非定型大腿骨骨折や顎骨壊死のリスクから、私はこの女性のアレンドロネートを中止し、骨密度や骨代謝のマーカーをモニタリングして再開すべきかどうか、またいつ再開すべきかを決定することを支持します。

【開催日】2022年7月13日(水)

COVID-19ワクチンとVZV再活性化の関係

-文献名-
M Hertel. Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Apr 26;10.1111

-要約-
Abstract
背景
帯状疱疹の原因となるVZVの再活性化は、ワクチンの副反応として稀に認められることがある。最近、COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹が報告されている。
目的
本研究の目的は、COVID-19ワクチン接種後に帯状疱疹の頻度が増加することが認められるかどうかを、大規模コホートにおいて実測データに基づき評価することであった。仮説として、COVID-19ワクチンを接種した対象者(コホートI)の方が、未接種者(コホートII)よりも帯状疱疹の発生率が有意に高くなると仮定した。
方法
TriNetXデータベースからワクチン接種者1,095,086人とワクチン非接種者16,966,018人を検索し、交絡因子バイアスを軽減するために年齢と性別をマッチングさせた。
結果
マッチング後、各コホートは1,095,086人となった。ワクチン接種群(コホートI)では、COVID-19ワクチン接種後60日以内に2204名が帯状疱疹を発症し、ワクチン未接種群(コホートII)では、その他の理由(ワクチン接種以外)で受診後60日以内に1223名が帯状疱疹と診断された。帯状疱疹の発症リスクは、コホートIが0.20%、コホートIIが0.11%と算出された。その差は統計学的に極めて有意であった(P < 0.0001; log-rank検定)。リスク比は1.802(95%CI=1.680;1.932)、オッズ比は1.804(95%CI=1.682;1.934)であった。 結論 COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹の発症率が高くなることが統計的に検出された。したがって、帯状疱疹の発疹はCOVID-19ワクチンのまれな副作用であると考えられる。VZV再活性化の分子的根拠はまだ不明であるが,VZV特異的T細胞媒介免疫の一時的な低下がワクチン接種後の病態形成にメカニズム的に関与している可能性がある。なお、VZVの再活性化は、感染症でも他のワクチンでも確立された現象であり、COVID-19に特異的なものではない。 Introduction:著者たちがなぜこの研究を行ったのか、これまでに分かっていること、分かっていないことなど前提となった事柄を記載する。 VZVを含むヘルペスウイルス科の再活性化は、黄熱病、A型肝炎、狂犬病、インフルエンザなどのワクチンが引き金となる可能性が報告されている。COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹の関連は、症例報告やケースシリーズおよびBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の安全性に焦点を当てたレトロスペクティブスタディで世界的に報告されている。 本研究では、実世界データの統計解析に基づいて、大規模な国際コホートにおいてCOVID-19ワクチン接種と帯状疱疹の間に関連性が見られるかどうかを判断することを目的としている。仮説として、帯状疱疹の発生率は、COVID-19を接種した人では接種していない人に比べて有意に高くなると考えた。被験者データの収集には、TriNetX Global Health Research Networkを使用し、COVID-19ワクチンと帯状疱疹との関係性を統計学的に調査した。 Method:どのような方法を用いたのか、特殊な方法であれば適宜解説を入れる。 データベースへのアクセスは2021年11月25日であり、対象期間はアクセス日から2年間を遡った期間に限定した。この期間内に医療機関を訪れたすべての患者を対象とした。主要評価項目は、臨床的に診断された「帯状疱疹」であり、その条件は、①COVID-19接種後1~60日以内(コホートI)または②その他の理由で患者が医療機関を受診してから1~60日以内(コホートII)と定義した。次に、この枠組みを用いてKaplan-Meier解析を行い、リスク比(RR)およびオッズ比(OR)を算出した。 Results:表やグラフがあれば適宜紹介する。 コホートIおよびIIを構成する1,095,086人および16,966,018人の患者が対象とされ、マッチングプロセスの結果、各コホートは1,095,086人となった。コホートIのうち,2204人がCOVID-19接種後60日以内に帯状疱疹を発症した。一方、コホートIIでは、1223人が他の理由で医療機関を受診した後、60日以内に帯状疱疹と診断されたことがわかった。  帯状疱疹の発症リスクは、コホートIとIIでそれぞれ0.20% vs. 0.11%と算出された。0.09%のリスク差は統計的に非常に有意であった(P < 0.0001;95%CI= 0.079%;0.100%)。 RRとORの計算値はそれぞれ1.802(95%CI = 1.680; 1.932)、1.804(95%CI = 1.682; 1.934)であった。

【開催日】2022年7月6日(水)

心血管リスク低減のためのPCS9阻害薬およびエゼチミブ

-文献名-
Safi U Khan, Siva H Yedlapati, Ahmad N Lone. PCSK9 inhibitors and ezetimibe with or without statin therapy for cardiovascular risk reduction: a systematic review and network meta-analysis. BMJ 2022; 377: e069116

-要約-
Introduction:
AHA/ACCガイドライン、ESC/EASガイドラインはどちらも、心血管リスクを低減するための第一選択薬としてスタチンを推奨している。エゼチミブは、スタチン不耐症、または最大量のスタチン治療を受けているにも関わらず、目標のLDL-Cを達成できない患者の二次治療として推奨されている。PCSK9阻害薬はLDL-Cをさらに下げる必要がある場合のステップアップアプローチとして推奨されている。
 これまで、エゼチミブとPCSK9阻害薬の、単独または組み合わせによる絶対的な心血管リスク低減効果を検討した大規模試験やメタアナリシスはなかった。この知識ギャップを埋めるため、システマティックレビューとネットワークメタアナリシスを実施した。このレビューは、2つの脂質低下薬のリスク層別推奨を伴う並行臨床診療ガイドラインの心血管転帰に対するエゼチミブおよびPCSK9阻害薬の効果を定量的に通知した。

Method:
 2020年12月31日まで、Medline、EMBASE、Cochrane library、ClinicalTrials.govの電子データベースを使用して、言語制限なしで詳細な文献検索を実行した。追加のオンラインソースには、主要な心臓血管および医学雑誌のWebサイト、および関連する研究とメタアナリシスの参考文献が含まれた。検索方法は「lipid」「LDL」「cholesterol」「statin」「ezetimibe」「proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 inhibitor」という幅広い検索用語の組み合わせが含まれていた。
 選択基準:ベースラインの心血管リスクに関係なく心血管リスクの低減を求めるベースラインLDL-C値の中央値が70mg/dLの患者をランダム化して、PCSK9阻害薬と対照、エゼチミブと対照、PCSK9阻害薬とエゼチミブを投与したランダム化比較試験、信頼できる推定値を生成するための500人以上の患者のサンプルサイズと6ヶ月以上のフォローアップ、関心に合致したアウトカムが報告されている試験。介入群(PCSK9阻害薬またはエゼチミブ)が対照群とは異なるスタチン投与量を体系的に受けた試験は除外した。重複を削除し、研究の選択基準に従って、残りの記事をタイトルと要約レベルでスクリーニングし、次に全文レベルでスクリーニングした。研究の検索と選択のプロセスは、2人のレビューアーによって独立して実行された。対立は全て、話し合いと相互の合意によって解決された。
 結果指標:致命的でない心筋梗塞、致命的でない脳卒中、すべての原因による死亡、および心血管系の死亡について5年間治療された1000人の患者あたりの相対リスクおよび絶対リスクが含まれた。様々なベースライン療法と心血管リスクの敷居値にわたって一定の相対リスクを想定して、絶対リスクの差を推定した。PREDICTリスク計算は、一次および二次予防における心血管リスクを推定した。
Results:
 スタチンを使用している83,660人の成人を対象にエゼチミブとPCSK9阻害薬を評価する14件の試験を特定した。スタチンにエゼチミブを追加すると、心筋梗塞(RR 0.87、95%信頼区間0.80-0.94)および脳卒中(RR 0.82(0.71-0.96))が減少したが、すべての原因による死亡(RR 0.99( 0.92-1.06))、心血管死亡率(RR 0.97(0.87-1.09))は減少しなかった。同様に、PCSK9阻害薬をスタチンに追加すると、心筋梗塞(RR 0.81(0.76-0.87))および脳卒中(RR 0.74(0.64-0.85))が減少したが、すべての原因による死亡(RR 0.95(0.87-1.03)、心血管死亡率(RR 0.95(0.87-1.03))は減少しなかった。心血管リスクが非常に高い成人では、PCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(16人/1000人)と脳卒中(21人/1000人)が減少する可能性があった(中等度から高い確実性)。一方、エゼチミブを追加すると脳卒中が減少する可能性があったが(14人/1000人)、心筋梗塞の減少(11人/1000人)はMIDに達しなかった(中程度の確実性)。PCSK9阻害薬とスタチンにエゼチミブを追加すると脳卒中が減少する可能性があるが(11人/1000人)、心筋梗塞の減少(9人/1000人)(低い確実性)はMIDに達しなかった。スタチンとエゼチミブにPCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(14人/1000人)と脳卒中に(17人/1000人))(低い確実性)が低下する可能性がある。心血管リスクの高い成人では、PCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(12人/1000人)と脳卒中(16人/1000人)が減少した可能性がある(中程度の確実性)。エゼチミブを追加すると、脳卒中(11人/1000人)が減少した可能性があるが、心筋梗塞の減少はMID(8人/1000人)を達成しなかった(中程度の確実性)。エゼチミブをPCSK9阻害薬とスタチンに追加しても、MIDを超える結果は減少しなかったが、PCSK9阻害薬をエゼチミブとスタチンに追加すると、脳卒中が減少する可能性がある(13人/1000人)。これらの効果は、スタチン不耐性の患者で一貫していた。中程度~低心血管リスクのグループで、PCSK9阻害薬またはエゼチミブをスタチンに追加しても、心筋梗塞と脳梗塞への利点はほとんどなかった。
Discussion:
 エゼチミブまたはPCSK9阻害薬は、心血管リスクが非常に高いまたは高い成人の致命的でない心筋梗塞および脳卒中を軽減する可能性があるが、心血管リスクが中等度または低い患者では効果がみられなかった。エゼチミブまたはPCSK9阻害薬を追加しても、すべての原因または心血管系の死亡率に有意な影響はなかった。したがって、心血管リスクが最も重い患者で利益が最も大きい可能性があり、中程度から低い心血管リスクの患者での致命的でない心筋梗塞および脳卒中の減少はわずかである。同様に、スタチン不耐性の患者におけるエゼチミブまたはPCSK9阻害薬は、心血管リスクが非常に高い患者と高い患者の心筋梗塞と脳卒中を軽減する可能性がある。

【開催日】2022年6月8日(水)

血圧を下げると糖尿病の新規発症が予防できる!?

―文献名―
Milad Nazarzadeh, et al. Blood pressure lowering and risk of new-onset type 2 diabetes: an individual participant data meta-analysis. Lancet 2021; 398: 1803–10

―要約―
背景
血圧の低下は、糖尿病の微小血管および大血管合併症を予防するための確立された戦略であるが、糖尿病そのものの発症予防における役割ははっきりしていない。我々は、主要な無作為化対照試験の個人参加者データを用いて、血圧低下そのものの糖尿病発症への効果を報告した無作為化試験のメタアナリシスを検討することを目的とした。

方法
無作為化対照試験の大規模な個人参加者データを用い,データをプールして血圧低下自体が新規2型糖尿病のリスクに及ぼす影響を調べた。また,5つの主要な降圧薬の新規発症2型糖尿病リスクに対する効果の違いを調べるために,個人参加者データによるネットワークメタ分析を行った。全体として、1973年から2008年の間に実施された22件の試験のデータを、Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration(オックスフォード大学、英国・オックスフォード)が入手した。
・特定のクラスの降圧剤とプラセボまたは他のクラスの血圧降下剤を比較した一次予防および二次予防試験で、無作為に割り振られた各群で少なくとも1000人年の追跡調査が行われたすべての試験を対象とした。
・ベースライン時に糖尿病と診断された参加者、および糖尿病が蔓延している患者を対象とした試験は除外した。
・参加者は介入治療群と比較治療群に分けられた。プラセボ対照試験では、プラセボ群を比較対照とし、有効群を介入群とした。また、2種類以上の薬剤を比較したhead to head試験では、収縮期血圧の低下が大きい方を介入群とし、もう一方を比較群とした。
・メタ解析では、Kaplan Meier生存曲線を用いて、追跡期間中の生存確率を比較した。
・BMIによる効果の不均一性を評価するために、サブグループ分析を行った。尤度比検定を用いて、ベースライン時のBMIのサブグループ間における治療効果の不均一性を検証した。
・すべての試験からデータを取得できないことが取得バイアスにつながるかどうかを確認するために、funnel plotとEgger’s regression testを用いた。各試験のバイアスのリスクは,改訂版コクラン・リスクオブバイアス・ツールで評価し,以前の研究でも報告。
・調査結果の頑健性を確認するために,いくつかの感度分析と補足分析を行いました。各試験で報告された異なる糖尿病確認方法による層別解析を行い,確認方法の違いによる所見の一貫性を評価した。
・さらに、ランダム効果項を含み、複数レベルの潜在的交絡因子を調整した1ステージのCox比例ハザードモデルを報告した。絶対的なリスク減少は、治療効果を絶対的な尺度で示すために、IDリンクを用いたポアソン回帰モデルを用いて算出した。最後に、補完的な分析として、自然に無作為化された遺伝的変異を用いて血圧降下治療効果を模倣する独立した枠組みとして、メンデリアンランダム化による血圧降下効果を再評価しました
・1段階の個人参加者データのメタ解析では、層別Cox比例ハザードモデルを用い、個人参加者データのネットワークメタ解析では、ロジスティック回帰モデルを用いて、薬剤クラス比較の相対リスク(RR)を算出した。
結果
19の無作為化対照試験から得られた145,939人(男性88,500人[60-6%]、女性57,429人[39-4%])が、1段階の個人参加者データのメタ分析に含まれた。22試験が個人参加者データネットワークメタ分析に含まれた。中央値4~5年(IQR 2~0)の追跡調査の結果,9883人が新たに2型糖尿病と診断された。
・収縮期血圧を5mmHg下げることで、すべての試験で2型糖尿病のリスクが11%減少した(ハザード比0-89[95%CI 0-84-0-95])。
・主要な5種類の降圧薬の効果を検討した結果、プラセボと比較して、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(RR 0-84 [95% 0-76-0-93])とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(RR 0-84 [0-76-0-92])は、新規発症の2型糖尿病のリスクを低減した。
・しかし、βブロッカー(RR 1-48 [1-27-1-72])とサイアザイド系利尿薬(RR 1-20 [1-07-1-35])の使用はこのリスクを増加させ、カルシウム拮抗薬(RR 1-02 [0-92-1-13])には重要な効果は認められなかった。

解釈
血圧の低下は,新規発症の2型糖尿病の予防に有効な戦略である。しかし、確立された薬理学的介入は、オフターゲット効果の違いにより、糖尿病に対する効果が質的にも量的にも異なっており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬が最も良好な結果を示した。このエビデンスは、糖尿病予防のために選択されたクラスの降圧剤の適応を支持するものであり、個人の臨床的な糖尿病リスクに応じた薬剤選択がさらに洗練される可能性がある。

ディスカッションより抜粋
・血圧の上昇が2型糖尿病の発症を引き起こす正確な生物学的経路は不明ですが、いくつかの潜在的なメカニズムが報告されています。例えば、インスリン抵抗性は、代謝経路と心血管経路のクロストークにおいて中心的な役割を果たしている可能性があります。また、交感神経系の活性化や内皮機能障害につながる慢性炎症など、その他の経路も高血圧と糖尿病リスクとの関連性が示唆されている。例えば、レニン・アンジオテンシン阻害薬は、血圧降下作用とは別に、炎症マーカーの濃度を低下させることが示されており、これが糖尿病予防効果を高める可能性がある。)
(www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し、一部加筆)

【開催日】
2021年12月8日(水)

ワクチン接種におけるプライマリ・ケアの歴史的役割とCOVID-19予防接種プログラムにおける潜在的役割

―文献名―
Leah Palapar, et al. Primary Care Variation in Rates of Unplanned Hospitalizations, Functional Ability, and Quality of Life of Older People. Ann Fam Med. Jul-Aug 2021;19(4):318-331.

―要約―
【目的】
COVID-19のパンデミックの回復には、感染検査、免疫判定、ワクチン接種のための広範で協調的な取り組みが必要となる。いくつかのCOVID-19ワクチンが登場したことで、全国的にCOVID-19の予防接種を普及させ、提供することに懸念が生まれている。これまでの予防接種の実施パターンから、国民全員に予防接種を行うための包括的で持続可能な取り組みの重要な要素が見えてくるかもしれない。

【方法】
2017年のMedicare Part B Fee-For-Serviceデータと2013-2017年のMedical Expenditure Panel Surveyを用いて,予防接種の提供を提供者のタイプ別に列挙した。これらのサービスの提供は,サービス,医師,および訪問レベルで検討した。

【結果】
2017年のMedicare Part B Fee-For-Serviceでは,予防接種のサービスを提供しているのはプライマリ・ケア医が最も多く(46%),次いで集団予防接種者(45%),そしてナースプラクティショナー/フィジシャンアシスタント(NP/PA)(5%)の順であった(Table.1)。2013-2017年のMedical Expenditure Panel Surveyでは、プライマリ・ケア医が予防接種のために最も多くの診療を行っていた(54%)(Table.2)。

【結論】
2012年から2017年の間に、プライマリ・ケア医は、高齢者を含む米国の人々に予防接種を提供する上で重要な役割を果たしている。これらの知見は、米国における今後のCOVID-19の復興と予防接種の取り組みにおいて、プライマリ・ケアの診療がワクチンのカウンセリングと提供の重要な要素となる可能性を示している。

【考察】
歴史的に見て、プライマリ・ケアの診療所はワクチンの提供において重要な役割を果たしてきた。多くの患者がプライマリ・ケアの診療所でワクチン接種を受けているので、COVID-19の予防接種の普及と提供には、同じ診療所が重要な役割を果たすかもしれない。新しいワクチンは、他のワクチンに比べて、ワクチンに対する躊躇、誤った情報、拒否などに直面する可能性がある。プライマリケア医は、信頼できる医療情報源とみなされることが多い。プライマリ・ケア医は、実際にワクチンを提供することに加えて、ワクチンのカウンセリング、地域社会の信頼構築、COVID-19ワクチンに関する科学的知識の供給源として、さらに重要な役割を果たしていると考えられる。プライマリ・ケア医は、患者がCOVID-19検査や免疫判定の結果を解釈したり、ワクチンに関する質問に答えたりするための臨床指導を行うことができる。プライマリ・ケアは、予防接種のカウンセリングやワクチンの提供において歴史的に重要な役割を果たしてきたことから、公衆衛生機関や地域の医療機関と協力して、COVID-19の回復に向けた早急かつ持続的な保健活動を行うことが不可欠である。

【開催日】
2021年9月8日(水)

COVID-19パンデミックに伴う、米国におけるがん検診不足の関連性について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献―
Ronald C. Chen, MD, MPH; Kevin Haynes, PharmD, MSCE; Simo Du, MBBS, MHS; John Barron, PharmD; Aaron J. Katz, PharmD, PhD
Association of Cancer Screening Deficit in the United States With the COVID-19 Pandemic.JAMA Oncol. 2021;7(6):878

―要約―
重要性
COVID-19パンデミックは、がん検診の急激な減少をもたらした。しかし、パンデミックに伴う米国でのスクリーニングの総量の減少と、異なる地域や社会経済的地位(SES)の指標による個人への影響の違いについては、まだ完全には解明されていない。

目的
COVID-19パンデミックに関連する乳がん、大腸がん、前立腺がんのスクリーニング率を、異なる地域および異なるSES指数四分位の個人について定量化し、2020年における米国人口全体のがんスクリーニング不足を推定する。

デザイン、セッティング、参加者
このレトロスペクティブコホート研究では、米国の地理的に多様な地域のメディケアアドバンテージおよび商業医療プランに加入している約6,000万人を対象とした、単一支払いの行政請求データと登録情報からなるヘルスコア統合研究データベースを使用している。参加者は、2018年、2019年、2020年の1月から7月にデータベースに登録された個人で、分析指標月以前に対象となるがんの診断を受けていない人でした。

※メディケア(Medicare)は、65 才以上の高齢者と 65 才未満の障害者向けの米国の公的 医療保険プログラムである。米国の 65 才以上の高齢者のほぼ全員がメディケアに加入し、その数は 2013 年において 4,350 万人に上った。また、障害者の加入者数は 88万人であり、合計すると 5,230 万人、国民全体の約6人に1人がメディケアを利用している。 メディケアは4つのプログラムに分かれている。それらは、パート A(病院保険)、パート B(補足的医療保険)、パートC(メディケア・アドバンテージ)、パート D(外 来処方薬給付)であり、それぞれ財源が異なる。
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/usa/20141027_009074.pdf

介入:分析指標の月と年

主要な結果と測定方法:乳がん、大腸がん、前立腺がんの検診のレセプト。

結果
2020年の3月から5月にかけて、3つのがんの検診は2019年に比べて急激に減少し、4月に最も急激な減少が見られ(乳がん:90.8%減、大腸がん:79.3%減、前立腺がん:63.4%減)、乳がんと前立腺がんでは7月までに月間検診率がほぼ完全に回復した。(Figure1.)
COVID-19パンデミックに伴う米国人口全体の検診不足の絶対値は、乳がんで390万人、大腸がんで380万人、前立腺がんで160万人と推定された。
地域別に見ると、北東部が最も急激に検診数が減少し、西部は中西部や南部に比べて回復が遅れていた。例えば、4月の乳がん検診率の変化率(2020年対2019年)は、西部では-87.3%(95%CI、-87.9%~-86.7%)、北東部では-94.5%(95%CI、-94.9%~-94.1%)となっている(低下)。7月は、中西部の-0.3%(95%信頼区間、-2.1%~1.5%)から西部の-10.6%(同、-12.6%~-8.4%)までの範囲であった(回復)。
SES別では、SES指数が最も高い四分位の個人でスクリーニングの減少幅が最も大きく、2020年にはSESによるがんスクリーニングの格差が縮小することが示された。例えば、SES指数が最も低い四分位と最も高い四分位の個人の10万人の加入者あたりの前立腺がん検診率は、2019年4月にはそれぞれ3525(95%CI、3444~3607)と4329(95%CI、4271~4386)であったのに対し、2020年4月には1535(95%CI、1480~1589)と1338(95%CI、1306~1370)であった。多変量解析の結果、遠隔医療利用はより高いがん検診と関連していた。

Limitations:
例えば、保険に加入している人のみを対象とした分析では、COVID-19パンデミックに関連したがん検診の不足を集団レベルで推定することに偏りが生じる可能性がある。特に、今回の分析は、保険に加入していない人や公的保険に加入している人を代表していない可能性があり、SESとの関連を過小評価する可能性がある。もう一つの限界は、分析に必要な人種/民族の情報がないことである。
また、解析に使用したコードの多くはスクリーニング検査に特化したものだったが、コードによってはスクリーニングと他の臨床的適応のための検査を区別しないものもあった。対象となるがんの既往歴のない人を含めることで、スクリーニング以外の目的で実施された検査が不正確にカウントされるという限界は一部緩和された。

結論と関連性
COVID-19の大流行に伴うがん検診の大幅な不足に対処するためには、手技を必要としない検診方法の利用拡大など、公衆衛生上の努力が必要である。

【開催日】
2021年8月4日(水)

COVID-19既感染者に新型コロナワクチン(mRNA BNT162b2:ファイザー/ビオンテック社)を接種したときの副反応について

―文献名―
Antonella d’Arminio Monforte, Alessandro Tavelli, et al. Association between previous infection with SARS CoV-2 and the risk of self-reported symptoms after mRNA BNT162b2 vaccination: Data from 3,078 health care workers.E Clinical Medicine 36 (2021) 100914.

―要約―
【背景】
医療従事者(HCW)は,SARS CoV-2による感染症に罹患するリスクが高いため,ワクチン接種の優先順位が高い。 本研究では過去にCOVID-19の罹患歴のあるHCWにおいて、ワクチン接種後の重度および中等度の全身症状のリスクが高いかどうかを調査することを目的とした。

【方法】
イタリア・ミラノの2つの大規模三次病院(ASST Santi PaoloおよびCarlo)で2021年1月4日から2月9日の間に抗SARS CoV-2 mRNA BNT162b2ワクチンを接種したHCW全員のコホートにオンラインアンケートを実施した。アンケートは2回実施.1回目は2回目接種の直前,2回目は2回目接種2週後.過去のSARS-CoV-2感染/COVID-19発症,2回の各投与後の局所および全身の症状を報告してもらった。中等度の全身症状は「日常生活に支障をきたすもの、または休業を余儀なくされるもの」とした。中等度の全身症状に関連する因子をロジスティック回帰で特定した。

【結果】
3,078人のHCWが対象となった。うち,SARS-CoV-2感染/COVID-19の既往のあるものは396名(12.9%)であった。対象となったHCW全体では59.6%が1回目の投与で、73.4%が2回目の投与で、局所的または全身的な症状を1つ以上経験していた。重度の全身症状,重篤な有害事象は報告されなかった。中等度の全身症状については1回目と2回目の投与後に、それぞれ6.3%(COVID-19経験者14.4% vs COVID-19未経験者5.1% p<0.001)と28.3%(COVID-19経験者24.5% vs COVID-19未経験者28.3% p=0.074)に発生した。(Table2,Table3,下記)すでにCOVID-19を経験している被験者は、初回投与後に中等度の全身症状のリスクが独立して3倍高くなり、2回目の投与後には30%低くなった。

【適応】
今回のデータは、既感染のHCWにおいては重篤な有害事象がなく,短期間の副反応が発生することを現実世界において証明した。女性や若年層と同様に免疫反応の違いがこのグループのHCWの中等度の全身症状の要因となっている可能性がある。

【資金提供】
資金提供なし。

Table2. 1回目のワクチン接種後

Table3. 2回目のワクチン接種後

【開催日】2021年6月9日(水)

低線量CTによる肺がん検診の有益性

-文献名-
Mark H. Ebell, Michelle Bentivegna and Cassie Hulme. Cancer-Specific Mortality, All-Cause Mortality, and Overdiagnosis in Lung Cancer Screening Trials: A Meta-Analysis. The Annals of Family Medicine November 2020, 18 (6) 545-552.

-要約-
【背景】肺がんは罹患率と死亡率の重要な原因であり、2020年には推定228,820人が新たに診断され、135,720人が死亡すると予想されている。早期発見は乳がんと大腸がんの疾患特異的死亡率を減少させることが示されている。胸部X線撮影によるスクリーニングは肺がん診断時からの生存率を改善するが、この効果はリードタイムバイアスによるものであり、肺がん特異的死亡率と全死亡率は改善されていない。National Lung Screening Trial(NLST)では、55~74歳で少なくとも30年以上の喫煙歴があり、現在喫煙者であるか、または過去15年以内に禁煙したことがある53,454人の参加者を対象に、低線量コンピュータ断層撮影(LDCT)と胸部X線撮影を比較した。 NLSTの結果は2011年に発表され、2013年には米国予防サービスタスクフォースが、現在の喫煙者または過去15年間に禁煙した喫煙歴30年の55~80歳の人にLDCTを用いた肺がん検診を推奨した。 イタリアのDetection and Screening of Early Lung Cancer With Novel Imaging Technology(DANTE)試験では1.01(95%CI、0.70-1.44)、デンマークの肺がんスクリーニング試験(DLCST)では1.03(95%CI、0.66-1.60)であった.2019年のメタアナリシスでは、死亡率の結果が得られた5件の研究のみが同定された。 同年の第2回メタアナリシスでは、LDCTを用いた肺がんスクリーニングのランダム化試験9件の死亡率データが報告されたが、オランダとベルギーの試験であるNederlands-Leuvens Longkanker Screenings Onderzoek(NELSON)試験の最終データは、2020年2月まで公表されておらず、含まれていなかった。さらに、このメタアナリシスでは、欠陥のある試験のデータが含まれており、全死因死亡率のデータとNELSON試験の女性のデータが除外されており、絶対的なリスク低下とスクリーニングに必要な数が推定されていなかった。そこで我々は、肺がんに対するLDCTスクリーニングと疾患特異的死亡率および全死因死亡率との関係を理解することを目的として、これらの制限に対処した質の高いランダム化比較試験のメタアナリシスを新たに実施した。第二に、スクリーニングの重要な潜在的危害である過剰診断の証拠を評価した。
【目的】肺がん特異的死亡率および全死亡率を減少させるための低線量コンピュータ断層撮影(LDCT)を用いた肺がん検診の有益性は明らかではない。我々は、転帰との関連を評価するためにメタアナリシスを実施した。
【方法】LDCTスクリーニングと通常のケアまたは胸部X線撮影を比較するランダム化比較試験を同定するために、文献および以前のシステマティックレビューを検索した。ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスを行った。主要アウトカムは、肺がん特異的死亡率、全死因死亡率、および過剰診断の指標としてのスクリーニング群と非スクリーニング群の間の肺がんの累積発生率であった。
【結果】バイアスのリスクが低い90,475人の患者を対象とした8つの試験に基づいてメタアナリシスを行った。LDCTスクリーニングにより肺がん特異的死亡率の有意な減少が認められた(相対リスク=0.81;95%CI、0.74-0.89)(Figure.2);推定絶対リスクの減少は0.4%(スクリーニングに必要な数=250)であった。全死因死亡率の減少は統計的に有意ではなかった(相対リスク=0.96;95%CI、0.92-1.01)(Figure.3)が、絶対リスクの減少は肺がん特異的死亡率の減少と一致していた(0.34%;スクリーニングに必要な数=294)。追跡期間が最も長い研究では、肺がんの発生率はスクリーニング群で25%高く、過剰診断の割合は20%であった。
【結論】このメタアナリシスは、過剰診断の可能性のトレードオフはあるものの、肺がん特異的死亡率の有意な減少を示しており、肺がんリスクの高い人にはLDCTによる肺がんスクリーニングを推奨することを支持している。

【開催日】2021年3月3日(水)