COVID-19の母体の経過(2020年6月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Sascha Ellington, et al.
Characteristics of Women of Reproductive Age with Laboratory-Confirmed SARS-CoV-2 Infection by Pregnancy Status — United States, January 22–June 7, 2020
Centers for Disease Control and Prevention MMWR June 26, 2020;Vol.69 :No.25

-要約-
Introduction:
2020年6月16日現在、COVID-19のパンデミックにより、米国では2,104,346人発症し、116,140人が死亡している。妊娠中、女性は免疫学的・生理的な変化を経験する。その変化により、呼吸器感染症による重症化のリスクを高める可能性がある(1,2)。これまでのところ、米国の妊娠中の女性におけるCOVID-19の有病率と重症度を評価するためのデータや、妊婦と非妊婦の間で徴候や症状が異なるかどうかを判断するためのデータは限られている。
Objective:
2020年1月22日から6月7日までに、COVID-19のサーベイランスの一環として、CDCに届け出られた、生殖可能年齢(15~44歳)の女性326,335人を対象とした。全員、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の検査結果が陽性であった。妊娠に関するデータを得られた人を対象とした。
Method:
観察研究。検査で陽性または疑いとなったCOVID-19患者は電子的にCDCに届け出られる。2020年1月22日から6月7日までに届け出られたものを解析した。50の州とコロンビア、ニューヨークからの報告が含まれる。データとして、人口統計学的特徴、妊娠状態、基礎疾患、臨床的徴候と症状、および転帰(入院、ICU 入院、機械的人工呼吸器の使用、死亡)を収集した。 データが欠落しているアウトカムは、起こっていないアウトカムであると仮定した。
Results:
 妊娠状況に関するデータは、91,412人(28.0%)で得られた。妊婦は8,207人(9.0%)であった(Table 1)。
 症状は、妊婦の65.2%、非妊婦の90.0%で報告された。症状の報告があったもののうち、妊婦の97.1%、非妊婦の96.9%で症状を認めた。妊婦と非妊婦の間で、咳嗽(51.8%、53.7%)、呼吸苦(30.1%、30.3%)は同頻度であった。妊婦は、頭痛(40.6%、52.2%)、筋肉痛(38.1%、47.2%)発熱(34.3%、42.1%)、悪寒(28.5%、35.6%%)、下痢(14.3%、23.1%)が少なかった。
 慢性の基礎疾患があるのは、妊婦で22.9%、非妊婦で35.0%であった。慢性肺疾患(21.8%、10.3%),糖尿病(15.3%、6.4%), 心血管疾患(14.0%、7.1%)が多かった。
 入院は、妊婦31.5%、非妊婦5.8%だった。ICU入室は1.5%、0.9%、人工呼吸は0.5%、0.3%。死亡は0.2%、0.2%であった。

JC柏﨑1

JC柏﨑2

Discussion:
 15~44歳の方の5%が妊娠していたことになるが、この割合は予想以上に高くなっている。これは、以下のような可能性がある。
病気のリスク増加に関連しているとも考えられるが、妊婦は非妊婦と比較して医療機関に頻繁に受診するため、検査を受ける割合が高かったかもしれない。 ヒスパニック系および黒人の女性は,妊娠中に SARS-CoV-2 感染の影響を不均衡に受ける可能性がある。さらに、妊娠による入院の違いは、妊婦であるがために入院の閾値が低くなっているだけかもしれない。
 最近のスウェーデンでの研究では、COVID-19を持つ妊婦は、5倍の確率でICUに入院し、4倍の確率で人工呼吸管理を行われていた。死亡リスクは妊娠中と非妊娠中で同じであった。
生殖年齢の女性のインフルエンザ感染における妊婦・非妊婦の違いをみた最近のメタアナリシスでは、妊娠は入院のリスクが7倍高いが、ICU入院のリスクは低く、死亡リスクの増加はなかった。
 この報告書の所見には、少なくとも4つの制限がある。第一に、4分の3の患者で妊娠の有無が不明であったこと。妊娠状態、人種/民族、症状に関するデータ、基礎となる条件、およびアウトカムがかなりの割合で欠損していた。このような状況は、いくつかの特性の過大評価または過小評価につながる可能性がある。第二に、情報を確認して報告するためには、追加の時間が必要かもしれない。ICU 入院、機械的人工呼吸などのアウトカムの有病率を過小評価している可能性がある。第三に、妊娠週数は感染した時期や入院に関連しているかどうかがわからない。COVID-19の病気のためではなく、妊娠中の状態のために入院した可能性がある。最後に、ルーチンの症例サーベイランスでは、妊娠や出産のアウトカムは確認できていない。

【開催日】2020年8月12日(水)

高齢者の降圧剤の減薬について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
James P. Sheppard, et al. Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older. JAMA. 2020;323(20):2039.

-要約-
Introduction
高血圧症は心血管疾患の危険因子の第一位であり、多臓器合併症の高齢者では最も一般的な併存疾患である。降圧剤による治療は脳卒中や心血管疾患を予防し、80歳以上の患者の約半数が降圧剤を処方されている。しかし、過去の観察研究では、複数の降圧剤処方による血圧低下が複数の疾病を有する一部の高齢者において有害である可能性を示唆している。
ガイドラインでは、虚弱高齢患者に降圧剤を処方する際には個別の臨床的判断を行うことが推奨されているが、これらのガイドラインは減薬への手順は曖昧であり、エビデンス自体が不足しているため、この分野での研究の必要性が強調されていた。
この試験では、2種類以上の降圧剤を処方されている複数の疾病を有し、収縮期血圧管理が良好な高血圧症の高齢者を対象に、降圧剤の減量に対する構造化されたアプローチを実施した。この試験は、12週間の追跡調査で臨床的な変化(血圧管理不良、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象)なしに、部分的にでも降圧剤の減薬が可能であるかどうかを検証することが目的の研究である。

Method
本研究はイングランド南部と中部のプライマリ・ケア施設で実施されたものである。対象となる参加者は80歳以上で、ベースラインの収縮期血圧が150mmHg未満で、2つ以上の降圧剤を12ヶ月以上処方されている方である。対象者の募集を行ったプライマリ・ケア医には、最新のガイドラインやエビデンスについての学習を事前に実施した。参加者はポリファーマシー、併存疾患、薬のアドヒアランスが悪い、虚弱体質などの特徴が一つ以上あり、投薬の中止で恩恵を受ける可能性が高い患者のみが研究に登録された。過去12ヵ月間に左室機能障害による心不全、心筋梗塞または脳卒中の既往歴のある患者、二次性高血圧、また同意能力のない患者は研究から除外された。
参加者は、降圧剤の減薬(介入群)と通常のケア(対照群)に無作為に割り付けられ、研究者と参加者へ隠蔽化された。非盲検化のデザインをとっており、事前に定められた統計解析は、参加者の割り付けとは無関係に実施された。
介入群の減薬後は、プライマリ・ケア医により4週間後の時点で評価され、収縮期血圧が150mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の状態が1週間以上続いた場合、有害事象が発生した場合、または血圧上昇の兆候が見られた場合には、降圧剤の治療再開を行った。対照群に無作為に割り付けられた参加者は、処方された通りにすべての降圧剤を服用し、薬の変更を強制されることなく、通常の臨床ケアに従い、すべての患者は12週間の時点でフォローアップされた。
Primary outcomeは12週間の追跡調査における収縮期血圧コントロールの群間の相対リスクである。血圧測定は、臨床的に検証された血圧計を用いて測定され、測定値は参加者が少なくとも5分間座って安静にした後、適切なサイズのカフを使用して左腕で測定された。Secondary outcomeには、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象、収縮期血圧と拡張期血圧の12週間の変化における群間差であった。虚弱性は、Frailty index、Electronic Frailty Index、およびMorley FRAILスケールを用いて定義した。QOLはEQ-5D-5Lを用いて測定され、副作用は、高血圧症に対するRevised Illness Perception Questionnaireを用いて24の項目から発生がないか確認した。重篤な有害事象には、死亡または生命を脅かすものと定義され、入院を必要としたものまたは既存の入院を長期化させたもの、持続的もしくは重大な障害をもたらしたもの、または前述のいずれかのリスクにさらすか、または発生を防止するための介入を必要なものとした。

Result
Primary outcomeは12週目の追跡時の収縮期血圧が150mmHg未満であったのは、減薬群229例(86.4%)、通常ケア群236例(87.7%)であり、降圧剤の減薬は通常のケアと比べて劣らないことを示していた。
Secondary outcomeは12週目の収縮期血圧は、介入群の方が3.4 mmHg高く、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象については統計学的に有意な差は見られなかった(以下表参照)。

Discussion
複数の降圧剤を処方されている高齢者を対象とした本非劣性無作為化臨床試験では、通常の治療と比較して降圧薬の減量は、12週間後の収縮期血圧が150mmHg未満の患者の割合に関して非劣性が示された。しかし本研究にはいくつかの限界が示唆される。
第一に、研究の参加者は減薬の恩恵を受ける可能性があるというプライマリ・ケア医の見解に基づいて選択され登録され、ウェブベースの無作為化アルゴリズムと隠蔽化でバイアスを最小限に抑えるように設計されているが、適切にプライマリ・ケア現場の一般集団を示しているか定かではない。
第二に、非盲検化のデザインであることである。しかし、血圧測定は自動血圧計を用いて行われ、医師の介入は最小限で済むため、主要アウトカムの確認におけるバイアスの可能性は低いと考えられる。
第三に、降圧剤減薬群の参加者は、通常のケアと比較して、フォローアップ期間中に少なくとも1回の追加フォロー(4週間後)があるため、受診頻度の増加につながり、有害事象の発生率増加につながっている可能性がある。
第四に、通常ケア群の参加者のうち13人が追跡期間中に降圧剤の減薬を行ったことが、結果に影響を与えた可能性があること。
第五に、フォローアップ期間が短い(12週間)試験のデザインを決定したのは、より長いフォローアップ期間を持つ大規模研究に着手する前に、血圧と有害事象に対する薬物減量の短期的な効果を実証するためという倫理的な理由からである。このため、この研究では群間の有害事象の信頼性の高い比較を行うには力不足であり、その結果、降圧薬の減量による長期的な有益性と有害性は不明のままである。
第六に、非劣性マージンは、医師と患者の治療合意に意義があることに基づいて決定されたものであり、事前のエビデンスに基づいて決定されたものではないことである。
以上の結果から,長期的な臨床結果を評価するためには、今後さらなる研究が必要であるが,一部の高齢の高血圧患者においては,血圧コントロールに大きな変化を伴わずに降圧薬の減量が可能であることが示された。

JC西園1

JC西園2

【開催日】2020年8月5日(水)

孤立性拡張期高血圧と心血管リスク(2020年1月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

=文献名=
McEvoy JW, Daya N, Rahman F, Hoogeveen RC, Blumenthal RS, Shah AM, Ballantyne CM, Coresh J, Selvin E. Association of Isolated Diastolic Hypertension as Defined by the 2017 ACC/AHA Blood Pressure Guideline With Incident Cardiovascular Outcomes. JAMA. 2020;323(4):329.

=要約=
Introduction
高血圧は、収縮期血圧の上昇、拡張期血圧の上昇、またはその両方に基づいて診断できる。American College of Cardiology(ACC)/ American Heart Association(AHA)によって発行された2017 高血圧ガイドラインは定義を変更した。140/90 mmHg以上のカットオフ(すなわちJNC7のガイドラインによる以前の2003年の閾値)から130/80 mmHg以上の下限閾値への血圧の上昇に変更となった。高血圧の拡張期血圧の閾値を90 mmHgから80 mmHgに下げるという推奨は、試験データではなく専門家の意見に基づいている。この変更は、新しい基準(ACC / AHA 2017)による拡張期血圧が130 mmHg未満で、拡張期血圧が80 mmHg以上である、孤立性拡張期高血圧(IDH)と呼ばれる存在に大きな影響を与える。しかし、JNC7基準によると、収縮期血圧が140 mmHg未満で拡張期血圧が90 mmHg以上である。以前の研究では、IDH(JNC7診断基準に基づく)が若い人でより一般的であり、将来に収縮期高血圧に関連していることが示唆されている。ただし、一般的にベースラインの収縮期血圧と独立してアテローム性動脈硬化症(ASCVD)の結果とは関連しないとされている。
この研究には2つの目的がある。(1)JNC7および2017年までに米国成人集団におけるIDHの有病率を推定すること。(2)両方のIDH定義とASCVD、心不全(HF)、慢性腎臓病(CKD)との関連を評価することである。

Objective
米国における孤立性拡張期高血圧(IDH)の有病率を2017年のACC / AHAおよび2003年の合同全国委員会(JNC7)の定義で比較し、IDHと結果との横断的および長期的な関連を特徴付けること。

Methods
全国健康および栄養検査調査(NHANES 2013-2016)の横断的分析と、地域社会のアテローム性動脈硬化症リスク(ARIC)の縦断的分析(1990-1992を基準に2017年12月31日までのフォローアップ)で行い、縦断的結果は、2つの外部コホートで検証されました。
ARIC研究におけるアテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、心不全(HF)、慢性腎疾患(CKD)のリスクを主要アウトカムとして測定した。

Results
研究対象集団には、NHANESの9,590人の成人(平均[SD]基準年齢、49.6 [17.6]歳; 5016人の女性[52.3%])とARIC研究の8,703人の成人(平均[SD]基準年齢、56.0 [5.6]歳)が含まれていた; 4,977人の女性[57.2%])。NHANESにおけるIDHの推定有病率は、2017 ACC / AHAの定義では6.5%、JNC7の定義では1.3%だった(絶対差、5.2%[95%CI、4.7%-5.7%])。IDHがあると新たに分類された患者のうち、推定0.6%(95%CI、0.5%-0.6%)も降圧療法のガイドラインの閾値を満たした。正常血圧のARIC参加者と比較して、2017 ACC / AHA定義によるIDHはASCVDと有意に関連していなかった(n = 1386イベント、追跡期間中央値25.2年、ハザード比[HR] 1.06 [95%CI、0.89-1.26 ])、HF(n = 1396イベント; HR 0.91 [95%CI、0.76-1.09])、CKD(n = 2433イベント; HR 0.98 [95%CI、0.65-1.11])。また、2つの外部コホートにおける心血管死亡率の結果も無効だった。(2017 ACC / AHA定義によるIDHのHRは、1.17 [95%CI、0.87-1.56]、NHANES[n = 1012イベント]では、1.02 [95%CI、0.92-1.14]、CLUEⅡは[n = 1497イベント]だった。

JC堀て202007②

JC堀て202007①

Discussion
今回の論文では、5つの限界が提示されている。第1は、その後の降圧薬の使用や収縮血圧レベルのフォローアップなどによる交絡を排除することができないことである。第2は、参加者の最低年齢が48歳だったため、今回の結果が若い人に一般化できない可能性がある点である。第3は、ガイドラインの高血圧の目標が治療している人と、治療を受けていない人の両方に適用されるため、降圧薬を使用している人が一次分析に含まれていたことである。しかし、層別解析では、降圧薬を服用していない参加者の間で結果は同等だった。第4としては、ARIC研究の結果自体は、白人、黒人として識別されない人には適用されないが、今回の調査結果は、全国的に人種を代表するように設計されている。第5は、この分析結果は、IDHと有害イベント間のより緩やかな関連付けを検出するために活用されていない可能性がある。ただし、心血管死亡率の関連性は、2つの外部検証コホートの約5万人の参加者で類似していた。

Conclusion
この米国の成人の分析では、IDHの推定有病率は、JNC7ガイドラインと比較して、2017 ACC / AHA 高血圧ガイドラインによって定義された場合でより一般的だった。ただし、IDHは心血管疾患のリスク増加と有意に関連していなかった。

【開催日】2020年7月22日(水)

発症後48時間以上経過していてもオセルタミビルによる治療は、季節性インフルエンザの症状持続時間を減少させる

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Christopher C Butler, et al. Oseltamivir plus usual care versus usual care for influenza-like illness in primary care: an open-label, pragmatic, randomised controlled trial. Lancet. 2020; vol.395 Jan 4: 42-52.

-要約‐
Introduction:
・ヨーロッパの多くの国ではプライマリケア領域でインフルエンザ様疾患に対して抗ウイルス薬が処方されることは多くない。
その理由として、臨床的な効果の薄さ、費用対効果、嘔気・嘔吐といった副作用、どんな患者に対して有効かについて前向きで業界資金の入らないpragmaticな研究で明らかにされていない、といったことが挙げられる。
・インフルエンザの検査で陽性となったら治療を開始するのか、症状のみで治療を開始するのかもはっきりしていない。
・CDCは、インフルエンザと診断されたあるいは疑われる入院患者で、重症もしくは合併症のリスクが高い人にできるだけ早くオセルタミビルを開始することを推奨している。インフルエンザが疑われる症状を有する外来患者に対しても発症後48時間以内であれば、治療を考慮する、とされている。ヨーロッパの推奨もほぼ同様となっている。
・これまで行われたmeta-analysesでは、オセルタミビルは、成人の症状寛解までの平均時間がプラセボと比較して17.8時間(95%CI 27.1-9.3)短く、最初の症状寛解までの時間は16.8時間(95%CI 21.8-8.4)短かった。ただし、meta-analysesに含まれた研究の中には、underrecruiting(採用不足?)、結果の選択的報告、小児や高齢者の不足、1シーズンのみの評価、などの限界が指摘されている。
・また、費用対効果に影響する日常生活への復帰やQOL、医療需要が、抗ウイルス薬によって改善するかはわかっていない。
・そこで、インフルエンザ様疾患の患者に対して通常のケアにオセルタミビルを追加することによって、改善までの時間を減らす効果があるかどうか、キーとなるサブグループも含めて評価することとした。

Method:
Study design: ALIC4E, an investigator-initiated, open-label, pragmatic, response-adaptive, platform, randomised controlled trial https://bmjopen.bmj.com/content/8/7/e021032
Participants: influenza-like illness=突然の発熱+少なくとも1つの呼吸器症状(咳、咽頭痛、鼻汁)+少なくとも1つの全身症状(頭痛、筋肉痛、発汗、悪寒、倦怠感)、インフルエンザの流行期間中に見られ、症状持続時間が72時間以内
除外基準:慢性腎不全、免疫不全(経口ステロイドの長期使用、化学療法、免疫疾患)、医師の判断で抗ウイルス薬をすぐに開始したほうが良いあるいは入院が必要と判断された人、オセルタミビル・アレルギー、2週間以内に選択的外科手術など全身麻酔を必要とする人、余命6ヶ月以内の人、重篤な肝障害、発症後72時間以内にランダム化割付ができない人、7日以内にワクチン摂取が必要な人、(一部の地域では)妊婦、授乳婦
Primary Outcome: 回復までの時間=日常生活への復帰、発熱、頭痛、筋肉痛がminor or no problemと評価される
 ※しゃべれない小児の場合は、頭痛や筋肉痛の代わりに依存的(clinginess)であるかどうかで評価される
Secondary Outcome: 費用対効果=入院の発生、インフルエンザ様疾患に関連する合併症、医療機関への再診、インフルエンザ様疾患の寛解までの時間、新たなあるいは増悪する症状の出現、症状の重症度が最初に軽減するまでの時間、抗菌薬を含む薬剤の使用、家庭内での感染伝播、インフルエンザ様疾患の症状の自己管理

Results:
・インフルエンザの流行期 3シーズン(2016年1月15日から2018年4月12日まで)
・ヨーロッパ15ヵ国、209のprimary care practiceが参加
Figure 1: Study profile
JCみき1

・シーズン間、グループ間で背景に差はない[Table 1]
【Primary outcome】
・Usual care groupの回復までの時間は6.73日間(95% Bayesian credible interval[BCrI] 6.50-6.96)[Figure 2]
・Usual care plus oseltamivir groupの回復までの時間は5.71日間
・Oseltamivirによる短縮効果は1.02日間(BCrI 0.74-1.31)[Figure 3]
・12歳以下、併存症なし、軽症、発症後48時間以内のサブグループでは、0.70日間(BCrI 0.30-1.20)短縮
・65歳以上、併存症あり、中等症から重症、発症後48時間以上のサブグループでは、2.3-3.2日間短縮(通常は11−13日間)
→高齢、併存症あり、重症度が高い、48時間以上の場合、オセルタミビルによる効果が高い。
Figure 2: Estimated mean days to recovery for all subgroups in the usual care intention-to-treat population

JCみき2

Figure 3: Estimated mean days of oseltamivir benefit for all subgroups in the intention-to-treat population
JCみき3

Figure 4: Modelled oseltamivir benefit by influenza status in the intention-to-treat population
JCみき4

【Secondary outcome】[table 2]
・医療機関への再診、入院、肺炎の合併、アセトアミノフェンもしくはイブプロフェンを含む市販薬の使用は両群で有意差なし。
・Usual care plus oseltamivir groupでは、抗菌薬の使用と家庭内での感染伝播が少ない傾向にあり、嘔気・嘔吐の新たな発生はusual care groupと比較して多く、より長時間持続していた。

Discussion:
・インフルエンザ陽性の人と、陰性の人との間で効果に差がなかった。もっというと、インフルエンザ陽性の人と、他のウイルスに陽性だった人、インフルエンザAの人とBの人でも有意差はなかった。これまでのインフルエンザ様疾患に対するオセルタミビルとプラセボを比較した研究では、インフルエンザと確定した人とそうでない人を比較した場合、臨床的に有意ではないがオセルタミビルを使用した方が症状持続時間は5時間短かったとされている。今回の研究では症状日誌を1日1回のみ記録してもらっていたため、小さな差を検出できなかった可能性がある。またオセルタミビルの作用機序としてより広範なウイルスへの効果があるかもしれない。あるいは検査の感度や手技の問題かもしれない。
・プラセボと比較しないデザインにしたため、オセルタミビルがどの程度結果に寄与したのか、他の影響があったのかはわからない。

【開催日】2020年7月1日(水)

レボチロキシンは80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症のQOLを改善しない

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Association Between Levothyroxine Treatment and Thyroid-Related Symptoms Among Adults Aged 80 Years and Older With Subclinical Hypothyroidism.
JAMA. 2019;322(20):1977-1986. doi:10.1001/jama.2019.17274

-要約-
Introduction:
潜在性甲状腺機能低下症の患者の一部から、便秘・精神遅滞・疲労・抑うつ症状などの症状の報告がある。また、潜在性甲状腺機能低下症は心血管疾患のリスクの増加と関連しているという報告もある。65歳以上の患者を対象とした2017年のRCTレボチロキシン治療による甲状腺関連QOLの改善は示されなかった。
しかし、レボチロキシン治療が80歳以上の高齢者の潜在性甲状腺低下症に重要な利益があるかどうかは不明であった。今回の調査では、潜在性甲状腺機能低下症に対するレボチロキシン治療と、80歳以上の高齢者のQOLの関連を決定する。

Method:
80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症が関与するデータの組み合わせ分析を計画し、2つのRCTで80歳以上の参加者のサブグループと組み合わせた。最初の試験ではオランダ・スイスで2014年5月から2017年5月、2つ目の試験はオランダ。スイス。アイルランド・イギリスで2013年4月から2018年5月の間に行われた。フォローアップは最短で12ヶ月、最長で36ヶ月追跡した。参加者はレボチロキシン(112人。最初の試験から52人、2回目の試験から60人)またはプラセボ群(139人。最初の試験から53人、2回目の試験から86人)にランダムに割り当てられた。
治験薬は、レボチロキシンナトリウムタブレットと1日1回経口摂取される対応するプラセボタブレットを使用。レボチロキシン群は1日50 µg(体重が50 kg未満の参加者または冠状動脈性心臓病の病歴がある場合は25 µg)で開始、プラセボ群は6〜8週間、一致するプラセボで開始した。レボチロキシンの投与量は、介入開始後6〜8週間、各投与量調整後6〜8週間、および目標達成のための12か月および24か月の追跡調査で測定。TSHに応じて25 µgずつ増加して調整した。

JC大西1

<除外基準>
レボチロキシン、抗甲状腺薬、アミオダロン、
リチウムの使用。
最近の甲状腺手術、放射性ヨウ素療法、NYHAclass4の心不全、認知症、最近の入院、ACS、心筋炎、終末期疾患。

JC大西2

プラセボ群で虚血性心疾患が27.3%(vs20.5%)
TSHはレボチロキシン群6.4で、プラセボ群で6.3。

Results:
プライマリアウトカムは1年間の甲状腺機能低下症状と疲労感をアンケートスコアでとった甲状腺関連のQOLとした。251人の参加者(平均年齢85歳、47%が女性)のうち、105人は最初の試験に含まれ、146人は2回目の試験で含まれた。
計212人の参加者(84%)が調査を完了。甲状腺機能低下症状スコアは12ヶ月の時点でレボチロキシン群ではベースラインの21.7から19.3に減量したのに対し、プラセボ群では19.8から17.4に減少した(グループ間調整 1.3 [95%CI、-2.7〜5.2] ; P  = .53)。疲労スコアは、レボチロキシン群のベースラインでの25.5から28.2に増加したのに対し、プラセボ群ではベースラインでの25.1から28.7に増加した(グループ間調整 −0.1 [95% CI, −4.5 to 4.3]; P = .96)。

JC大西3

12か月後の変化とは有意に関連していなかった。
・レボチロキシン治療は、ベースラインからEuroQol-5Dインデックスで測定された一般的なQOLの(レボチロキシン群:0.785→0.754、プラセボ群:0.811→0.785。-0.012 [ 95%CI、−0.063 to 0.039])。
・12か月の握力で測定した身体機能(レボチロキシン群:25.4 kg→23.4 kg、プラセボ群の24.7 kg→23.0 kg。−0.27 kg [95%CI、-1.79 to 1.25])
・BMI(0.38 [95%CI、0.08-0.68]; P  = .01)
・腹囲(1.52 cm [95 %CI、0.09-2.95]; P  = .04)

JC大西4

甲状腺特異的または全体的なQOLと有意に関連していなかった。
バーサルインデックスを用いて測定したレボチロキシン治療とADLとの有意な関連はなかった(レボチロキシン群:19.3→19.0、プラセボ群:19.4→19.1。0.09 [95%CI、-0.33〜0.52])
調査終了時に文字数字コーディングテストで測定された実行認知機能(1.24 [95%CI、-0.30〜2.78])

JC大西5

80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症における
レボチロキシン治療と甲状腺関連症状の関連の参加者のTSH値

JC大西6

レボチロキシンは、致命的または非致命的な心血管イベントの発生率の増加と関連していなかった(0.61 [95%CI、0.24-1.50])。
17か月の平均追跡期間(追跡期間中央値、13か月)中に、9人の参加者(3.6%)が死亡(1人の心血管死)。100人年あたりのイベント率は、レボチロキシン群:4.2、プラセボ群:7.64)。
全死亡率(1.39 [95%CI、0.37-5.19]、レボチロキシン群:2.99、プラセボ群:2.02)。
少なくとも1つの有害事象が、合計73人:レボチロキシン群の33人(29.5%)プラセボ群の40人(28.8%)に発生した。
有害事象は、新規発症心房細動10人(4.5%)、心不全9人(4.1%)、骨折9人 (4.1%)が含まれていた。甲状腺機能低下症は、参加者のいずれにも発生しなかった。レボチロキシン群で、最も一般的な有害事象は、脳卒中3人(2.2%)、貧血2人(1.4%)、および肺炎2人(1.4%)であった。
プラセボ群では、最も一般的な有害事象は肺炎4人(3.6%)、心不全2人(1.8%)、および呼吸不全2人(1.8%)であった。研究の終わりに、フォローアップ中に81人(32%)で治療の中止が発生したのに対し、研究の総中止は19人(8%)であった。

潜在性甲状腺機能低下症のある80歳以上の高齢者を対象として2つの臨床試験からのこの前向きに計画されたデータ分析では、プラセボと比較したレボチロキシンでの治療は、甲状腺機能低下症の疲労の改善と有意に関連していなかった。これらの調査結果は、80歳以上の高齢者における潜在性甲状腺機能低下の治療のためのレボチロキシンの日常的な投薬は支持しなかった。

Discussion:
BMIと腹囲をのぞいて有害事象または二次転帰のリスクとの関連はなかったが、比較の数が多いことから偶然によると思われる。治療群間に差はなく、偶然によると思われる。治療群間での脱落率に差はなく、レボチロキシン治療が有害事象に関連していなかったことを示唆している。今回の試験で報告された結果は、ヨーロッパと米国のガイドラインにある「潜在性甲状腺機能低下症の80歳以上の高齢者に対する治療を推奨しない」と一致している。いずれのガイドラインもTSHが10mIU/Lを超えたら治療することが推奨されている(年齢は記載されていない)。レボチロキシン治療は、甲状腺関連の症状、QOL、認知機能、身体機能に有益な影響を及ぼさないことが判明していた65歳以上の成人を対象とした試験の結果と一致しており、日常生活スコアや有害事象の増加はなかった。この研究にはいくつかの制限がある。第一に、交感神経系の負担が高いか、またはベースライン時のTSH値が高い参加者については、事前に計画されたサブグループ解析が行われていない。結果はこれらの参加者には適用されないかもしれない。第二に、明らかな甲状腺機能低下症への進行リスクが高い人を識別する可能性のある抗甲状腺抗体の状態は利用できなかった。第三に、研究集団は同種の人種であった。第四に、治療を継続しなかった参加者(32%)がおり、これが結果に偏りを与えている可能性がある。しかし、治療を中止した者の数とその理由は治療群間で同程度であった。

【開催日】2020年6月10日(水)

Time of day for taking warfarin (January 2020)/ワーファリンを服用する時間帯

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Garrison SR, Green L, Kolber MR, Korownyk CS, Olivier NM, Heran BS, Flesher ME, Allan GM. The Effect of Warfarin Administration Time on Anticoagulation Stability (INRange): A Pragmatic Randomized Controlled Trial. Annals of family medicine. 2020; vol.18, no.1:42-49.

-要約-
Introduction:
ワーファリンの安全性と有効性は、血液検査のINRの治療範囲内の時間(TTR)の割合に大きく依存する。
この戦略は、用量調整の必要性を知ってから(通常、午前中の血液検査後の午後遅くに患者に伝達される)、その用量変更が可能になるまでの時間を短縮するものである。
したがって、夜間のワーファリン使用が迅速な用量調整を意味するならば、それはより良いTTRにつながる可能性がある。
この仮説は妥当であるが、この実践を支持する証拠はなく、他の要因が最適投与時間に意味のある影響を与える可能性がある。
例えば、食事性ビタミンK(ワーファリンと相互作用する)は半減期が2.5時間と非常に短く、摂取量が変動しやすい食品(緑葉野菜)に多く含まれており、
朝に摂取することはほとんどない。ワーファリンは夕方に摂取することが一般的であるが、投与時間が重要かどうか、
また、重要であるとすればどの時間帯に摂取するのがよいかは不明である。
そこで、ワーファリンの抗凝固作用の安定性に及ぼす投与時間(朝 vs 夕方)の影響を評価するために、無作為化比較試験を実施した。
Method:
カナダ西部の54のコミュニティに勤務する236人のプライマリケア医が、ワーファリン使用患者全員に招待状を郵送した。
対象としたのは、地域に居住するワーファリン使用者(適応は問わない)で、少なくとも3ヶ月間の夜間ワーファリン使用歴があり、中止の予定がない患者であった。
参加者は、ウェブベースの割り付けにより、朝のワーファリン摂取と夕方のワーファリン摂取の継続に無作為に割り付けられた。
Rosendaal法(線形補間 ※)を用いて、無作為化後2~7ヶ月間の血液検査における国際標準化比(INR)の治療範囲内の時間(TTR)の割合を、無作為化前6ヶ月間と比較して決定した。
主要アウトカムは、目標INR範囲外の時間の割合の変化率であった(臨床的に重要な差は±20%であることを前提とした)。解析はすべてITT解析とした。
Results:
2015年3月8日から2016年9月30日までの間に、109人の参加者を朝のワーファリン使用に、108人の参加者を夜のワーファリン使用に無作為に割り付けた。

JC黒木1

JC黒木2

JC黒木3

JC黒木4

TTRは朝群で71.8%(Table1)から74.7%、夜群で72.6%(Table1)から75.6%に上昇し、前者では2.9%、後者では3.0%の変化を示した(Table2:差、-0.1%;P=0.97;差の95%CIは-6.1%から5.9%)。
治療上のINR範囲外の時間の割合の変化率の差(中央値の差のHodges-Lehmann推定を介して得られた)は4.4%(P = 0.62;差の95%CI、-17.6%~27.3%)であった。
Discussion:
本研究の参加者(およびその臨床医)が地理的に幅広いプライマリケア集団から募集されたことは強みであるが、グループ全体のベースラインTTRは、カナダのプライマリケア診療所の全国代表的なサンプル(平均67.8%)よりもわずかに高かった(平均72.2%)。主要アウトカムは、ベースラインのコントロールが優れている患者が不均衡に牽引するという点でも限界がある。しかし、TTRの絶対的変化は両群ともほぼ同じであり、文献から得られた臨床的に重要な最小差は、我々の主要アウトカム(観察変化率4.4%、臨床的に重要な最小差±20%)とTTRの絶対的変化(観察変化率-0.1%、臨床的に重要な最小差±6%)の両方のポイント推定値よりも実質的に大きいことがわかった。TTRは代替アウトカムであるという点でも限界がある。我々の研究では、臨床的イベントの違いを調査するための力はなかった。これまで、ワーファリン投与時間の影響を検討したものはなかった。本研究は、この問題に取り組んだ最初の研究であると考えている。
結論:
投与時間は、ワーファリンの抗凝固作用の安定性に統計的にも臨床的にも重要な影響を与えない。患者は規則的なコンプライアンスが最も容易になると思われるときにワーファリンを服用すべきである。

※Rosendaal法;INR値の2点間線形関係があるとして、個々の患者の検査間で日毎に治療域内にINR値に位置したと仮定。

【開催日】2020年6月3日(水)