-文献名-
David S. Wald, et al. Child–Parent Familial Hypercholesterolemia Screening in Primary Care.N Engl J Med 2016;375:1628-37.
-要約-
押見先生の本(www.amazon.co.jp/dp/4758309604)にあった10のステップに沿ってみます。
Step1:結論を類推しながらタイトルを確認する
スクリーニングの推奨についての論文だろう
Step2:研究規模を知るために研究グループ名と著者の所属機関を確認する
Wolfson Institute of Preventive Medicine, Barts and The London School of Medicine and Dentistry(http://www.wolfson.qmul.ac.uk/about-us)1991年設立
North East Thames Molecular Genetics Laboratory, Great Ormond Street Hospital(http://www.gosh.nhs.uk/)こども病院
どちらもイギリス、ロンドン
Step3:結論の真髄を見る(conclusion)
Child–parent screening was feasible in primary care practices at routine child immunization visits.
プライマリ・ケア医をワクチンで受診したときにスクリーニングは可能
For every 1000 children screened, 8 persons (4 children and 4 parents) were identified as having positive screening results for familial hypercholesterolemia and were consequently at high risk for cardiovascular disease.
1000人の子をスクリーニングして、4人の子と4人の親がFHと診断された。
Step4:Backgroundを見て研究の新規性・独自性を確認する
・What is known?
FHは常染色体優性遺伝の疾患で、1000人に2人の頻度(BMJ2007より)。2007年のBMJのメタアナリシスで、FHのPopulation-Based child-parent screeningが提案されている。1-9歳児でコレステロールを測定し、高コレステロール血症があった場合に両親も測定する。20-39歳のFH患者は、同世代の健常者の100倍心血管イベントを起こしやすい。両親と、思春期になった子にはスタチンが勧められる。
FHの診断は遺伝子検査で行うが、全ての遺伝子変異が同定されているわけではない。またFH変異があってもコレステロール値が高くない場合もある。以前のメタアナリシスの見積もりでは、総コレステロール(T-Chol)のカットオフは中央値の1.53倍(multiples of the median;MoM)≒99.9パーセンタイルで、1〜9歳児のFH患者を88%拾い上げられる
・What is unknown, Purpose of the study
We assessed the efficacy and feasibility of such screening in primary care practice.
Step5:Methodsから研究方法を同定し、PICOを用いて仮説を検証する
・エビデンスピラミッドのどこに位置するのか
診断の有益性を見る、横断研究?
・PICOは?
なし
<Methods>
2012年3月〜2015年3月 イギリスの92箇所のgeneral medical practicesでおよそ13か月で子供の予防接種で来院した時に、親にスクリーニングを受けるか確認
13097児の親のうち11010児の親(84%)が同意した。
予防接種の時に、heel-stick capillary blood sampleを採取し、コレステロール値の測定とFH変異の有無を確認した。良好な検体は10118児で得られた。T-Chol, HDL, TGはthe Cholestech LDX point-of-care analyzer (Alere)で測定された。
coefficients of variation(変動係数)、、、
LDLはthe Friedewald equationで計算。最終的に10095児が解析された。
計測されたFH変異は、FH48という48種類のもの、c.10580G→A (p.Arg3527Gln) mutation in APOB、c.1120G→T (p.Asp374Tyr) mutation in PCSK9
DNAはthe QuickGene-810 (AutoGen)で抽出されTaqMan single-nucleotide polymorphism (SNP) genotyping (Life Technologies) on the Fluidigm Biomark platformで測定された。FH48はないがTCが高値(230mg/dl以上)のものはthe BigDye Terminator, v. 3.1, Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いてSanger sequencing of LDLR (all exons, boundary and promoter regions), APOB (exon 26), and PCSK9 (exon 7)を調べた。それでも異常がない場合は、3か月以降経ってから再度コレステロール値を調べた。
高コレステロールがありFH変異があるか、3か月以降に再度高かった場合をスクリーニング陽性とする。その親も同じ変異をもてば陽性とする。変異がない場合、両親のうち高コレステロールな方をスクリーニング陽性者とする。
Step6:比、信頼区間、P値を確認して結果を評価する
(私見)
・心筋梗塞の家族歴がある率が、日本での実感と比べてかなり高い。
・母親の年齢の中央値が31歳、父親が34歳、英国も晩婚化しているのか。
FH+は全員ヘテロ型だった
FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)
FHと診断された親はスタチン内服を開始した。
診断についてネガティブな印象を持った親はいなかった。予防接種の妨げになることもなかった。
Step7:考察部分からパラグラフリーディングスキルを用いて結果の解釈と限界を同定する
・Summary of Main Findings
・Interpretation
コレステロール値が高くない児でも遺伝子検査をおこなったことでわかったこと
FH変異+のうち1/3は正常値(1/6は正常中央値以下)
同じ変異を持っていてもコレステロール値には幅がある→高コレステロール血症の発言には他の因子が重要
→ホモ型とヘテロ型の違い
→家族性高コレステロール血症の定義自体が難しい:変異を重要視するのか、コレステロール値を重要視するのか
その解決法として提案しているのは、FHを早発冠動脈疾患のリスク要因として捉えること。
(例えばBRCA1の変異は、疾患でなく、乳がんや卵巣癌のリスクとして捉えられている)
Figure4に示すpopulation-based screening policyによって、偶然の高コレステロール血症を除外でき、
未知の変異も含んだ高コレステロール血症を拾い上げ、冠動脈疾患リスクを下げることができる。
・Generalizability
この研究では全員に遺伝子検査を行ったが、実際は限られた人(1.35MoMの高コレステロール血症の人)しか適応にならない。
Reflex DNA testing(http://www.lmsalpha.com/features/ReflexDNA)が出来れば、広まるかもしれない
・Conclusions
このやり方が導入されるかどうかは不明だが、有用である。
Step8:Editorial(編集後記)を使って研究領域での論文の価値を同定する
両親世代は健診や医療機関受診が最も少ない時期なので、このchild-parentスクリーニングはよい機会になるかも。小児期(10歳)からスタチン治療することで、冠動脈疾患リスクを正常人と同等まで減らせるかもしれない。
これまで行われているCascade screeningでは、高度の高コレステロール血症のある成人を機転に、家族にスクリーニングをかけていく方法で、コストパフォーマンスはよいが、すでに動脈硬化が進行していることも多い。Universal screeningが求められる。Pediatrics 2011にあったExpert panelの発表では、9-11歳と17-21歳でのスクリーニングを推奨しているが、より早い時期に行うことで漏れを少なくしたり早期からの生活指導や治療を始めることができる。
Step9:Correspondenceを使って関連する研究を評価する
Step10:Conference reportを使って論文が社会に与える影響を考える
【開催日】
2017年3月15日(水)