75歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与の是非

―文献名―
Rafel Ramos, et al. Statins for primary prevention of cardiovascular events and mortality in old and very old adults with and without type 2 diabetes: retrospective cohort study. BMJ 2018;362:k3359.

―要約―
【背景】
75歳以上の高齢者に対する心血管疾患(CVD)あるいは心血管死の二次予防目的でのスタチン投与は一定確立されている。一方で、75歳以上、とくに85歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与はエビデンスが不足している。
【目的】
スタチンが75歳以上の高齢者のCVD発症あるいは全死亡の一次予防に寄与するかどうか評価する。
【方法】
後ろ向きコホート研究
【セッティング】
スペインの大規模データベース「Database of the Catalan primary care system (SIDIAP)」の2006-15年分
【主要アウトカム】
CVD発症と全死亡
【結果】
臨床的にCVDの既往がない46,864名(平均77歳、63%は女性、追跡期間中央値5.6年)が登録された。(Fig.1)
糖尿病がない被検者のスタチン使用によるハザード比は、75-84歳ではCVD発症0.94 (95%CI 0.86-1.04)、全死亡0.98 (0.91-1.05)、85歳以上ではCVD発症0.93 (0.82-1.06)、全死亡率 0.97 (0.90-1.05)だった。糖尿病がある被検者のスタチン使用によるハザード比、75-84歳ではCVD発症0.76 (0.65-0.89)、全死亡0.84 (0.75-0.94)、85歳以上ではCVD発症0.82 (0.53-1.26)、 全死亡1.05 (0.86-1.28)だった。(Table.4)
同様に、年齢によるsplinesを用いた連続スケール効果解析で、糖尿病のない74歳以上の被検者におけるスタチンのCVD発症と全死亡に対する利益欠如を裏付けた。糖尿病がある被検者では、スタチンのCVD発症と全死亡に対する予防効果が示されたが、この効果は85歳以上では実質的に減少し、90歳以上では消失した。(Fig.2)

JC(今江20190522)

JC(今江20190522)1

JC(今江20190522)2

【開催日】2019年5月22日(水)

2型糖尿病における心血管及び腎機能の1次予防/2次予防に対し用いられるSGLT2阻害薬

―文献名―
Thomas A Zelniker, Stephen D Wiviott, et al. SGLT2 inhibitors for primary and secondary prevention of cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of cardiovascular outcome trials. Lancet 2018 Nov 9.

―要約―
◎背景
SGLT2阻害薬に関しては、2型糖尿病の患者の心血管イベント発生に対するいくつかのランダム化比較試験が行われている。2型糖尿病患者を対象としたSGLT2阻害薬の無作為化対照試験に関して系統的レビュー並びにメタアナリシスを実施した。’18年9月24日までに公開された試験に関し、PubMed及びEmbaseを検索している。有効性の結果は、主要な有害な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)、心血管死もしくは心不全による入院、腎臓病の進行を含んでいる。

◎結果
▼ 3つの試験(① EMPA-REG OUTCOME、② CANVAS program、③ DECLARE-TIMI 58)を対象とした
① Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al. Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med 2015; 373: 2117–28.
 42カ国、590施設で、18歳以上、BMI≦45kg/㎡、eGFR≧30を満たす患者
② Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW, et al. Canagliflozin and cardiovascular and renal events in type 2 diabetes. N Engl J Med 2017; 377: 644–57
 30カ国で、HbA1c 7.0~10.5%、30歳以上で症状を有する動脈硬化性の心血管疾患を持つか、50歳以上で心血管疾患のリスク因子を2項目以上満たす患者
③ Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP, et al. Dapagliflozin and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes. N Engl J Med 2018; published online Nov 10. DOI: 10. 1056/ NEJMoa1812389.
 (対象患者に関する情報を検索できず)

・合わせて34322名の患者(うち60.2%が動脈硬化性の心血管イベントを有している)のデータを収集した。平均年齢は63.5歳、35.1%は女性であった。3342名に有害な心血管イベントを、2028名に心血管死もしくは心不全に因る入院を、766名に腎臓病の進行を認めた。
・主要な有害な心血管イベントを11%減らしたが、その効果は動脈硬化性の心血管疾患を有している患者にのみ有意差がみられ(HR=0.86(95%CI=0.80-0.93))、リスクファクターは有するが動脈硬化性の心血管疾患を有しない患者にはみられなかった(HR=1.00(95%CI=0.87-1.16))。
・心血管死もしくは心不全に因る入院を23%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。
・心筋梗塞のリスクを11%下げ、心血管死は16%下げるとするデータは得られたが、高い異質性がある(I2=79.9%)。
・脳梗塞のリスク低下には寄与しない(HR=0.97(95%CI=0.86-1.10))。
・腎臓病の進行、末期腎不全、腎死のリスクを45%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.56(95%CI=0.47-0.67)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.54(95%CI=0.42-0.71)。
・SGLT2阻害薬の効果の大きさは基準の腎機能によって変わり、より深刻な腎機能を有している患者では、心不全に因る入院を大きく減らす一方、腎臓病の進行を抑える効果はより小さくなる。eGFR<60の群では心不全による入院は40%減少させるも、腎臓病の進行抑制は33%にとどまった。一方eGFR>90の群では心不全による入院は12%の減少にとどまるが、腎臓病の進行抑制は56%に達した。
・SGLT2阻害薬は全原因死を15%減少させるとする結果は出たが、異質性が高い(I2=75.2%)。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.83(95%CI=0.75-0.92)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.90(95%CI=0.77-1.05)であった。同様に、心不全の既往を有する患者ではHR=0.80(95%CI=0.67-0.95)、心不全の既往を有しない患者ではHR=0.88(95%CI=0.80-0.97)であった。
・肢切断や骨折のリスク増加は1本の試験のみで示されているが、いずれについても異質性がある。糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加に関しては、プラセボに較べてSGLT2阻害薬がHR=2.20であったが、イベントの発生率自体は1未満/1000人年と低い。

◎考察
・SGLT2阻害薬は、心不全による入院や、腎臓病の進行に対する相対的なリスク軽減に大きな影響を与えることが判明した。一方で、臨床的な効果は、使用する患者の特性に依存し、深刻な心血管イベントのリスク軽減は、既に動脈硬化性の心血管疾患を有している患者のみに明らかで、動脈硬化性の心血管疾患を持たない患者群に対しては効果は認められなかった。ただし、心不全に因る入院に関しては、動脈硬化性の心血管疾患の有無や心不全の既往の有無に関わらず明らかかつ同等の効果がある。腎臓病の進行に関しても、より悪い水準の腎機能を有する患者にSGLT2阻害薬を使う方が、腎機能の悪化への効果が少ないが、心不全による入院の減少に大きく寄与する結果となった。
・概して、SGLT2阻害薬は、真菌性の生殖器感染のリスクを上昇させることを除いては、忍容性が高く、一般的に安全な薬だと捉えられる。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを上げうるが、その割合は極めて低く、充分な患者教育と注意を払うことでリスクを下げることができる。脳卒中に対する安全警告があったが、現時点でのメタアナリシスではそのリスクは示されなかったし、肢切断や骨折に関しては1つの試験でしかリスク上昇は認められなかった。
・今回の研究の限界として、個々の特定のデータというよりは、むしろ研究レベルでのデータの集合を用いたこと、対象とする患者の基準が、検討した研究間でわずかながら異なること、さらに動脈硬化性の心血管疾患や心不全の既往がその患者にあるか否かは、研究者側の報告によっており、一部の患者はこれらの疾患の明確な診断を受けていない可能性があることが挙げられる。

◎結論
・動脈硬化性の心血管疾患や、心不全既往の有無に関わらず、2型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬を考慮して良いと思われる。

※資料一覧
20190320富田1
3つの臨床試験の詳細。使用されているSGLT2阻害薬は、それぞれエンパグリフロジン(ジャディアンス®)、カナグリフロジン(カナグル®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)。

20190320富田2
(図1) 心筋梗塞、脳梗塞、心血管死に関するメタアナリシス。

20190320富田3
(図2) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、動脈硬化性の心血管疾患を持つか、
リスクファクターのみにとどまるかの観点から検討したメタアナリシス。

20190320富田4
(図3) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、心不全既往の有無で検討したメタアナリシス。

20190320富田5
(図4) 腎機能の悪化、末期腎不全、腎死に関して、動脈硬化性の心血管疾患の有無の観点から
検討したメタアナリシス

20190320富田6
(図5) (A)腎機能低下、末期腎不全、腎死について、(B)心不全に因る入院について、
(C)大きな心血管イベントについて、それぞれ腎機能の観点から検討したメタアナリシス

【開催日】2019年3月20日(水)

急性鼻副鼻腔炎,急性細菌性鼻副鼻腔炎の診断に有用な病歴,身体所見

―文献名―
Mark H. Ebell, Brian McKay, et al. Accuracy of Signs and Symptoms for the Diagnosis of Acute Rhinosinusitis and Acute Bacterial Rhinosinusitis. Annals Fam Med 2019; 17:164-172.

―要約―
【背景と目的】
過去の急性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関するシステマティックレビューは全て15年以上前のものであり,2変量メタ解析のような最新の統計分析的手法を用いていない.本研究の目的は急性鼻副鼻腔炎や急性細菌性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関する包括的なメタ分析を行うことである.
【方法】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う外来患者を対象とし,感度と特異度を測定し十分な情報を報告している研究をMedlineで探索した.検索された1649の研究のうち17の研究が組み入れ基準(inclusion criteria)に合致した.急性鼻副鼻腔炎は評価が確定されている参照基準(レントゲン,超音波エコー,CT)により診断され,急性細菌性鼻副鼻腔炎は副鼻腔穿刺による膿汁の証明または細菌培養陽性により診断した.病歴や身体所見の精度の見積もりを測定するために2変量メタ解析を用いた.
【結果】
副鼻腔炎を臨床的に疑う患者において,画像的に確定診断された急性鼻副鼻腔炎の有病率は51%,副鼻腔穿刺により確定診断された急性細菌性鼻副鼻腔炎の有病率は31%であった(Table2).

20190320山田1

急性鼻副鼻腔炎を最もよくrule inできる臨床所見は中鼻道の膿性鼻汁(陽性尤度比[LR+] 3.2),全体的な印象(LR+ 3.0)であった.最も良くrule outできる所見は全体的な印象(陰性尤度比[LR-] 0.37),transillumination(副鼻腔の透過照明)が正常であること(LR- 0.55),先行する気道感染がないこと(LR- 0.48),鼻汁がないこと(LR- 0.49),膿性鼻汁がないこと(LR- 0.49)であった(Table 3).

20190320山田2

限られた情報に基づくが,急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子は全体的な印象(LR+ 3.8,LR- 0.34),悪臭症(息の悪臭)(LR+ 4.3,LR−0.86),歯痛(LR+ 2.0,LR- 0.77)であった(Table4).

20190320山田3

Clinical decision ruleがいくつか提案されているがどの研究においても前方視的に有効性が確認されてはいなかった(Table5).

20190320山田4

【結論】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う患者において急性細菌性鼻副鼻腔炎は約1/3しか認められない.全体的な印象,悪臭症,歯痛が急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子であった.C-reactive proteinや尿検査をもちいたClinical decision ruleは有用である可能性があるが,前方視的な有効性の確認が必要である.

【開催日】2019年3月20日(水)

電子タバコの方がニコチン代替療法よりも禁煙率が高い

-文献名-
Peter Hajek, Ph.D, et al. A Randomized Trial of E-Cigarettes versus Nicotine-Replacement Therapy. The New England Journal of Medicine. 2019;7(380):629-637.

-要約-
Background:
電子タバコは禁煙の試みとしてよく利用されるが、禁煙治療として認定されているニコチン代替療法と比べて、その効果についてのエビデンスは限られている。
タバコから電子タバコへの変更することで、健康上のリスクを減らすことが期待されている
ニコチン含有の電子タバコはニコチンの入っていない電子タバコとくらべて禁煙に効果があるとコクラン・レビューは示している
しかし、対面の診療を伴わない、ニコチンパッチと低用量のニコチンを含有している電子タバコによる治療を比較した研究では、いずれの治療法もあまり効果は高くなかった
Method:
イギリスのNHSによる禁煙プログラムに参加した成人を、最大3ヶ月間のニコチン代替療法(各々が選択した製品を利用、複数併用可能)か、電子タバコスターターパック(第2世代、詰替可能、1本あたり18mg/mlのニコチン含有)にランダムに割り付けた。詰替用の液体は、各々が好みの香りや強さのものを購入して良いと勧めている。治療には、少なくとも4週間、週1回の行動療法が行われる。プライマリ・アウトカムは、最終受診で生化学的に評価される1年間の継続的な禁煙とした。フォローから脱落した、あるいは最終的な生化学的な評価を受けなかった参加者は禁煙失敗と判断した。セカンダリー・アウトカムは、参加者の自己申告による治療の利用状況と呼吸器症状とした。
Two-group, pragmatic, multicenter, individually randomized, controlled trial
期間:May 2015-Feb 2018
NHSの禁煙プログラムは英国内では無料で提供されている
ソーシャル・メディアや広告で参加者を募る
事前に候補者をスクリーニングし、ベースラインのセッションに呼ぶ
書面で同意を得て、禁煙日を決める
禁煙日を決めてから、いずれかの治療法にランダムに割り付ける
ランダム化の後は、すぐに製品の利用を開始する
全ての参加者は行動療法的なサポートを受ける
医師による1対1のセッションで、CO濃度測定も行われる
参加者は26週と52週に、電話にて製品の使用状況と禁煙状況について報告する
52週の時点で禁煙あるいは50%以上の減煙ができているか参加者はCO濃度測定するよう勧められる(26$US支給あり)
ニコチン代替療法:パッチ、ガム、飴、鼻スプレー、口スプレー、mouth strip、吸入、microtabs)、併用療法が推奨されており、特にパッチと速攻型系抗生剤の組み合わせが多い。変更も可能。提供の仕方はサイトによって異なる。通常の治療の同様、最大3ヶ月まで利用可能。
電子タバコ:One Kitというスーターキットを提供される。電子タバコの詰替方法の指導あり。電子タバコの液体がなくなったら、ネットや店で詰替用を購入してもらう。ある製品が合わなければ別な製品へ変更しても良い。詰替用の液体は、異なる香りや強さを自由に試してみてよい。One Kit 26-40$。
ニコチン代替療法も電子タバコも、禁煙後4週間はもう一方へ変更してはダメ。
Results:
Figure 1, Table 1〜5参照
Conclusion:
行動的なサポートが行われている場合には、電子タバコはニコチン代替療法よりも禁煙に対する効果がある。
Discussion:
他の同じような研究と比べて禁煙率がとても高い。その原因として以前にも禁煙にトライしたことのある参加者が多いので、参加者のモチベーションが高かったか。あるいは対面のサポートがあったからか。詰替可能な電子タバコがよかったのか、自由に詰替用液体を選択できたからか。
これまでの研究では、電子タバコはタバコの離脱症状が軽く、禁煙率が高く、それぞれのニーズに合わせてニコチン量を選べることがニコチン代替療法よりも良い理由としている。
電子タバコの継続率はかなり高い。まだ知られていない健康上のリスクが長期使用で出てくる可能性がある。しかし、便秘や口内炎、体重増加といった禁煙の離脱症状を和らげる効果がある。ヘビースモーカーの再発予防のためには役立つかもしれない。
Limitation:製品は盲検化出来なかった。CO濃度は24時間以内の喫煙を検出するため偽陰性の可能性あり。脱落率が21%と高く、通常研究の妥当性に影響するとされるが、他の禁煙の研究でも同等。
By Dynamed:
禁煙率は人種によって異なる。今回の研究では、人種毎のデータがなく、人種によって調整された分析がされていない。
白人やヒスパニックでは禁煙率は高いが、アフリカン・アメリカンでは禁煙率は低い。

【開催日】2019年3月6日(水)

血圧コントロールを評価するための血圧日誌の活用

-文献名-
James E.Sharman, BHMS(Hons), PhD, et al. Pragmatic Method Using Blood Pressure Diaries to Assess Blood Pressure Control. Annals of family medicine. Vol.14, No.1, January/February 2016

-要約-
Introduction
診療所血圧は患者の血圧管理によく使われるが、真のコントロール状況を正確に反映しないという限界がある。家庭血圧(HBP)、または24時間自由行動下血圧(ABP)の使用は予後有用性が高い。HBPは一般的に広く利用されており、その有用性から多数の国で支持されているが、患者の日誌から手動で血圧の平均を計算しなければならないという問題がある。外来の時間で医師がその計算をすることは現実的ではない。今回、HBPが収縮期血圧の閾値(≧135mmHg)を超えている割合について、どの程度の割合が最適かを決定する目的で研究が行われた。
Method
3つのオーストラリアの施設で、高血圧治療中の患者286名が募集され、ランダム化臨床試験が実施された。患者は合併症のない本態性高血圧に対し、3種類以下の降圧薬内服により治療を受けている妊娠していない成人が選ばれた。除外基準は左室心筋重量係数の異常、冠動脈疾患または腎疾患の既往、血清クレアチニン>1.6、二次性高血圧、コントロール不良の高血圧(診療所血圧>180/100)、大動脈弁狭窄症、上肢閉塞性アテローム性動脈硬化症の患者である。患者は7日間HBPを記録し、24時間ABP、大動脈硬化、左室心筋重量および機能、ならびに研究登録時のベースライン検査で評価された左房面積が測定された。24時間ABP収縮期血圧≧130mmHg、または日中の24時間ABPの収縮期血圧≧135mmHgと定義された。確証的証拠による検証は、最終臓器疾患のマーカーとの関連によって行われた。
Results
治療/目標閾値を超える24時間のABP収縮期血圧の最良の予測因子は、最後の10回の在宅収縮期血圧測定値のうち3回以上が135mmHg以上の血圧となっていることであった(Table 2参照)。この基準を満たさない患者と比較して、この基準を満たす患者は標的臓器疾患の証拠があり、有意に高い大動脈硬化、左室の相対的な壁肥厚、左房拡大、左室駆出率低下がみられた。
Discussion
患者のHBP日誌の使用は、血圧管理ガイドラインおよび国際的な専門家委員会によって推奨されているが、外来の中で全ての患者のHBPの平均を計算することは現実的ではない。本研究により、最後10回のHBPのうち30%以上が≧135mmHgであった場合、24時間ABPによれば血圧コントロールが不良になる傾向があることが分かった。その妥当性として、最後10回のHBPの30%以上が≧135mmHgとなった患者で、高血圧関連の心臓および大動脈の末梢臓器疾患罹患率が高いことで裏付けられた。本研究の限界として、今回の調査結果は我々が使用したHBPプロトコルの影響を受けているかもしれず、異なるHBP記録方法や、著明に高い診療所血圧(>180/100mmHg)の患者に一般化できない可能性がある。また、降圧薬の服用時間を標準化したり、HBPの一貫性に影響を与える可能性のある日常生活活動を制限したりはしなかった(運動習慣、食事、飲酒など)。それでも、HBPが今回の研究で使用され、ガイドラインで推奨されているような方法で記録された場合、再現性高く、信頼性の高い血圧が確認できる。

【開催日】2019年2月20日(水)

ACE阻害薬と肺癌リスク

-文献名-
Blánaid M Hicks, et. al. Angiotensin converting enzyme inhibitors and risk of lung cancer: population based cohort study BMJ 2018;363:k4209

-要約-
Introduction:
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(以降、ACEI)は短期的には比較的安全であることが示されているが、長期使用が癌のリスク増加と関連する可能性が懸念されている。いくつかの生物学的研究がACEIと肺癌リスクとの関連の可能性のために存在する。ACEIの使用は肺にブラジキニンの蓄積を引き起こし、肺がんの増殖を刺激しうると報告されている。5また、サブスタンスPの蓄積をもたらし、これは肺癌組織において発現され、そして腫瘍増殖および血管新生と関連している。
いままでの研究では無作為化対照試験のメタアナリシスでは、ACEIによるがんの発生率の増加は認めらなかったが、ほとんどのサンプルが比較的小規模で追跡期間が短かった(中央値3.5年)。アンジオテンシン受容体遮断薬(以下、ARB)の使用と比較してACEIの使用が肺癌リスク増加と関連しているか決定するため大規模な集団ベース試験を行った。
Method:
この研究は1500万人以上の患者を含む約700の一般診療からのデータが含まれる、英国臨床診療研究データリンク(CPRD)を使用した。降圧薬(βアドレナリン受容体遮断薬、αアドレナリン受容体遮断薬、ACEI、ARB、カルシウムチャンネル遮断薬、血管拡張薬、中枢性降圧薬を含む)で新たに治療開始された18歳以上の全患者の基本コホートを特定した。すべての患者に少なくとも1年間の病歴がCPRDにあることを要求した(利尿薬、神経節遮断薬、およびレニン阻害薬)。
上記で定義された基本コホートから、1995年1月1日以降(英国でACEIとARBの両方が処方可能となった最初の年)の12月31日までに新規降圧薬を服用し始めた全患者の試験コホートを特定した。これらの患者には、新たに降圧薬で治療開始された患者、ならびに以前の治療歴で使用されていない降圧薬を追加または切り替えた患者が含まれた。癌と診断をうけたことのある患者(非黒色腫皮膚癌以外)およびコホートに入る前の任意の時点で癌治療(化学療法または放射線療法)を受けたことのある患者は除外した。潜伏期間の考慮と追跡調査の間の偶発的事象の同定を確実にするためにコホート登録後の追跡調査1年未満の患者を除外した。
すべての解析モデルでは、コホート参加時に測定された以下の変数について調整された:年齢、性別、コホート参加年、BMI、喫煙状態(喫煙継続中、禁煙後、非喫煙)アルコール依存性疾患(アルコール依存症、アルコール性肝硬変、アルコール性肝炎、肝不全を含む)、および肺疾患の既往歴(肺炎、結核、慢性閉塞性肺疾患を含む)。さらに研究モデルには治療された高血圧の期間(降圧薬の最初の処方からコホート参加との間の時間として定義)およびコホートに参加前のスタチンの使用が含まれた。
各曝露群について、ポアソン分布に基づいて、肺癌の粗発生率および95%信頼区間を計算した。欠損値を持つ変数の多重代入を使用して、アンジオテンシン受容体遮断薬の使用と比較したACEIの使用に関連する肺がんのハザード比および95%信頼区間を推定するために、時間依存Cox比例ハザードモデルを使用した。
Results:
コホートには992 061人の患者が含まれ、1年後のコホート参加準備期間を超えて平均6.4(SD 4.7)年間追跡された。追跡調査期間中、335,135人の患者がACEIで治療され、29,008人がARB、そして10 1,637人がACEI/ARB併用で治療された。全体として、7952人の患者が肺癌に罹患していると新たに診断され、1000人年当たり1.3の粗発生率1.3(95%信頼区間1.2〜1.3)となった。

20190220上野1

表1は、コホート全体のACEI、ARB、および他の降圧薬の使用によるベースライン特性を示す。アンジオテンシン受容体遮断薬の使用者と比較して、ACEI服用群は男性、アルコール関連障害、現在喫煙していること、およびより高いBMIを有する可能性が高かった。さらに、ACEI服用群は治療された高血圧の期間がより短く、スタチンや他の処方薬を使用する可能性がより高かった。ACEIおよびARB服用者は、肺炎、結核、および慢性閉塞性肺疾患の類似した病歴を持っていた。

20190220上野2

ARBと比較して、ACEIは14%の肺癌リスク増と関連していた(1000人年あたり1.6v1.2 ハザード比1.14、95%信頼区間1.01〜1.29)。5年未満のACEIの使用は肺がんのリスク増加と関連していなかった(ハザード比1.10、0.96から1.25)。しかし5〜10年の使用(1.22、1.06〜1.40)で上昇し、10年以上の使用(1.31、1.08〜1.59)でも増加し続けた。ACEI開始以降の期間についても同様の関連性が観察され、ハザード比は開始後より長い時間で増加し、開始後10年以上でピークに達した(ハザード比1.29、1.10から1.51)。

20190220上野3

Discussion:
約100万人の患者を対象としたこの大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は全体で14%の肺がんリスクの増加と関連していた。関連性は5年間の使用後に明らかになり、特に10年間以上ACEIを使用した患者の間では、長期間の使用で増加した(31%のリスク増加)。英国では、毎年7,010万件の降圧薬が投与されており、そのうち約32%がACEIである。
以前の無作為化比較試験のメタアナリシスでは、ACEI服用と癌全体または肺癌との間に関連は見つからなかったが、比較的短期間の追跡期間(中央値期間3.5年(1.3〜5.1年))であることから癌などの長期の有害事象を評価するのに十分な追跡期間ではなかった。本研究で5年間の使用後にACEIと肺癌リスクとの関連が明らかになったことを考えると、これは特に重要である。
この研究にはいくつかの制限がある。まず、重要な交絡因子を調整することはできたが、この研究では、社会経済的地位、食事、ラドンまたはアスベストへの曝露、肺がんの家族歴など、他の潜在的な交絡因子に関する情報が欠けていた。さらに、喫煙状態を調整したにもかかわらず、喫煙の期間と強度に関する詳細な情報が不足していた。しかしながら非喫煙者内で行われた分析は、明らかな持続時間- 反応の関連性とともに、一次分析の結果と一致する結果を生み出し、喫煙強度による交絡が今回の調査結果に重大な影響は及ぼさないだろう。第二に、CPRDの処方は一般開業医によって書かれた処方を表しているので、患者が治療計画に従わなかったり、専門家から処方を受けたりした場合、ばく露の誤分類が起こり得る。しかし、コホートに入るすべての患者が降圧薬で新たに治療された患者であったので、非遵守による誤分類は最小限であり、ACEIとARBの間ではおそらく差がないはずである。
最後に、持続性咳嗽はACEIの一般的でよく知られた副作用であり、観察された関連性が検出バイアスに起因する可能性を高める。ACEIを服用している患者は、胸部コンピュータ断層撮影などの診断的評価を受ける可能性が高く、前臨床肺癌の検出率が増加する可能性がある。CPRDに胸部検査に関する情報は十分に記録されておらず、分析でこの可能性を説明することはできなかった。しかし、最近の研究では、ACEIとアンジオテンシン受容体拮抗薬の開始後の胸部検査での違いはごくわずかなものと示されており、さらに、肺癌の過剰検出は治療開始後比較的早く観察されることが予想され、それが我々の追跡調査を1年遅れらせた理由の一つである。さらに、ACEIの使用と肺癌リスクとの関連は、使用期間の増加(少なくとも5年間の使用後)によってのみ明らかになった。まとめると、これらの結果は肺癌の過剰検出の仮説を裏付けるものではない。
Conclusion:
この大規模な集団ベースの研究では、ACEIの使用は、期間と反応の関係の証拠とともに、全体として肺がんのリスクの上昇と関連していた。観測された推定値は控えめだが、肺癌リスクがある多数の患者につながる可能性があるため、今回の知見は他の状況でも再現する必要がある。

【開催日】2019年2月20日(水)

エダラボン(ラジカット®)のALS進行抑制効果

―文献名―
K.Abe. et al. Safety and efficacy of edaravone in well defined patients
with amyotrophic lateral sclerosis: a randomised,
double-blind, placebo-controlled trial. Lancet Neurol 2017; 16: 505–12

―要約―
★Introduction: ALSの原因はいまだ分かっていないが、フリーラジカルによる酸化ストレス(3-Nitrotyrosine、coenzyme Q10、8-hydroxydeoxyguanosine、4-Hydroxy-2,3-nonenal)が疾患の進行に関与しているとされている。エダラボンはフリーラジカルを消去する作用があり、動物実験では運動ニューロンの脱落を阻止することが分かっている。エダラボンはALSの進行を改善させる働きがあると予想され、対プラセボの第3相試験を行ったが、主要アウトカムであるALSFRS-Rスコアに有意差はみられなかった。エダラボンが疾患の進行を遅らせるのに効果があるかもしれない患者層があるかどうかを調べる目的で多重比較検定を行った。するとALSFRS-Rスコアが全項目2点以上、努力性肺活量80%以上、重症度分類1度、2度、罹病機関2年以内の条件がエダラボンの効果があることが示唆された。

★Method:a randomized, double blind, parallel-group, placebo-controlled study
【選択基準】 20-75歳、ALS重症度分類1、2度、12週間の観察機関の間にALSFRS-Rスコア変化が-1~-4点、ALSFRS-Rスコア全項目2点以上、努力性肺活量80%以上、El Escoria改訂Airlie House診断基準で「Definite」「Probable」、罹患期間が2年以内
【除外基準】ALSFRS-Rが呼吸困難、起坐呼吸、呼吸不全で3点未満、ALS発症後の脊髄手術歴、クレアチニンクリアランス50ml/min以下 (既にリルゾールを内服していた患者は継続することができるが、観察期間後にリルゾールを追加することはできないとした)
【方法】ランダム化の前に12週間の観察期間を設けて選択基準を満たす被験者についてラジカット群、プラセボ群に二重盲検下で割り付け、24週間(6サイクル)の治療を行った。第1サイクルは14日間連日投与した後14日間休薬し、第2サイクル以降は14日間のうち10日間投与した後14日間休薬した。
【End point】
主要エンドポイント:開始から6サイクル終了後のALSFRS-Rスコアの変化
副次エンドポイント:努力性肺活量、Modified Norris Scale、ALSAQ-40スコア、ALS重症度、握力、つまむ力、死亡または一定の病勢進行までの期間

★Result:投与開始時と第6サイクル終了時のALSFRS-Rスコア変化量における最小二乗平均は2.49点でエダラボン群の方がプラセボ群よりスコアの低下が緩やかだった。(95%CI 0.99-3.98 p=0.0013)
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副次エンドポイントで有意差がでたのはModified Norris ScaleスコアとALSAQ-40スコアだった。少しでも副作用を起こした症例はエダラボン群で58症例(84%)、プラセボ群で57症例(84%)、重症副作用はエダラボン群で11症例(16%)(嚥下障害、呼吸障害、構音障害)、プラセボ群で16症例(24%)だった。

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【開催日】2018年11月21日(水)

心不全急性増悪におけるβブロッカーの中断

-文献名-
Guillaume Jondeau, et al. B-CONVINCED: Beta-blocker CONtinuation Vs. INterruption in patients with Congestive heart failure hospitalizED for a decompensation episode. European Heart Journal (2009) 30, 2186–2192

-要約-
Introduction:
<わかっていること>
・ かつては収縮期心不全自体にβブロッカーの使用は禁忌と考えられていた。
・ しかし現在では慢性期の心不全の患者においては、βブロッカーの使用は生活の質を改善し、病因・性別・関連する治療および年齢に関わらず入院率を低下させると一貫して結論づけられている。
・ βブロッカーは心拍出量を低下させ、左心室充満圧を増加させる作用を持つため、治療が心拍出量をあげたい急性期の収縮心不全に新規にβブロッカーを導入させることは禁忌である。
<わかっていないこと>
・ もともとβブロッカーを内服している患者が急性期の収縮期心不全を発症した時に、継続させるべきか中止減量させるべきか不明である。
・ 過去にRCTもなく、ESCの推奨も不明確:減量/中止させるべきかもしれないが、可及的速やかに再開を検討する。

Method:
<対象>
フランスの36施設(cardiology center)に2004年10月〜2018年10月に集められた1ヶ月以上同じ容量のβブロッカーを内服している18歳以上の成人。放射学的な証拠のある肺水腫や浮腫があり呼吸困難を伴う急性心不全で入院となり、呼吸数>24回でLVEFが12ヶ月以内に測定され、40%未満である患者を対象とする。
<除外基準>
STEMI、ドブタミンが必要と臨床医に判断された患者、2度以上の房室ブロック、心拍数が50bpm未満、βブロッカー増量中の患者、他の研究に参加している患者、妊娠中

<方法>
βブロッカーを同量のまま継続する群と中止する群に無作為に振り分け、隠蔽化された。βブロッカーは最低でも3日間の継続がされている。最初の8日間毎日、もしくは早期に退院となったケースは退院になるまでの毎日、臨床データ(脈拍、血圧、呼吸数、SpO2、肺水腫の存在、下腿浮腫、肝腫大、頸静脈怒張)を集めた。また入院時と入院3日後に血清BNP値を測定し、入院3日目と8日目に盲検化された状態で医師による2つの同一のアンケートで呼吸困難感や全身状態の評価がされた。全身状態は5段階に評価され、良い/若干良い/変わりない/若干悪い/悪いと分けられた。
研究はβブロッカー中止群と比較して、βブロッカー継続の非劣勢を実証することを目的にしている。3日後の全身状態や呼吸困難感がβブロッカー継続群のoutcomeがβブロッカー中止群と比較して、12.5%以上劣らなければ、非劣勢であると判断できる。研究はPer-protocolで評価をされており、Primary outcomeを評価するための症例数をあらかじめ推定した上で研究が開始されていた。

<End point>
• Primary Outcome:全身状態・呼吸困難感が改善した割合(医師による第3病日までの評価)
• Secondary Outcomes:全身状態・呼吸困難感が改善した割合
(i) 患者による第3病日までの評価 (ii) 医師による第8病日までの評価 (iii) 患者による第8病日までの評価、
血清BNP値(第3病日)、入院期間、再入院率(3ヶ月)、死亡率(3ヶ月)、急性発作から3ヶ月後のβブロッカーの内服患者数
Results:
患者は右図のように振り分けられ、Base lineは同等と判断されている(Table1,2)。追跡率は脱落なく100%であった。
Primary outcome:盲検化された評価者における3日目の呼吸困難感と全身状態両方の改善は服薬中断群92.3%に比較して、服薬継続群は92.8%と有意差はなかった。
Secondary outcome:同様に患者による第3病日での評価でも中止群82.7%、継続群88.4%と改善を認めている。
8日目での医師の評価は中止群:継続群で95.2%:95.4%
8日目での患者の評価は中止群:継続群で94.8%:95.2%
いずれも有意差なし(下図のFigure 2参照)。

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血清BNPは継続群の入院時は1314±1214pg / mLから第3病日の882+950pg / mLに減少。同様に中止群は1387 +1124pg / mLから876 + 1382pg / mLへと有意に減少した。第8病日も血清BNPは2つの群で同等であった。
また同様に入院期間、再入院率(3ヶ月)、死亡率(3ヶ月)も有意差はなかった(上記Table3参照)。
急性発作から3ヶ月後のβブロッカーの内服患者数は有意差があり、継続群のほうが多く、19%が最大投与量を内服しており、少なくとも51%が最大量の半分の内服をしていた。

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Discussion:
この無作為試験では慢性的にβブロッカーを内服している患者において、急性増悪時に服薬を中止しなくても臨床的な改善を遅らせないことを実証している(非劣勢の実証)。
研究の限界として、
①研究がOpenラベル試験(評価者のみ盲検化されている)であり、より多くの人数が必要となりうる3ヶ月の死亡や入院などの厳しい評価項目において影響がある可能性が存在すること。
②ドブタミンを投与する意志を持った医師の対象となっている患者は除外した
③ほとんどの患者がβブロッカーの最大量投与がされておらず、その理由は明確化しなかったこと。
④この研究自体が入院時からβブロッカーを継続する意志を持って望んである研究であるため、あくまで個々の臨床状況に応じた対応は今後も必要であること。

【開催日】2018年10月17日(水)

非がん性慢性疼痛へのオピオイド

-文献名-
Daniel BERLAND, MD, et al. Rational Use of Opioids for Management of Chronic Nonterminal Pain. American Family Physician. 2012; Vol.86, Number 3

-要約-
概要
非終末期の慢性疼痛へのオピオイド処方は最近増えているが、長期の有効性に関するエビデンスは弱く、潜在的な害は重大である。処方オピオイドの非医療的な使用、転用、過量投与による死亡は急激に増加しており、これらの薬剤の安全性への懸念を引き起こしている。非終末期慢性疼痛の患者へのオピオイド開始・継続を検討する医師は、まず生物心理社会的評価および患者が機能的目標を達成し到達するように促す治療計画を含む構造化アプローチを用いるべきである。疼痛の原因、オピオイド合併症のリスク評価(誤用や嗜癖を含む)、州の処方モニタリングプログラムの医療記録とデータのレビューなど、詳細な治療歴の総合評価が必要である。オピオイドは、機能的な目標への進展が実証された場合にのみ、試行的に処方されなければならない。長時間作用方のモルヒネが好ましい初期薬であるが、いくつかの選択肢がある。機能の進歩または維持、尿の薬物検査、および州の処方モニタリングプログラムからのデータの監視の定期的なレビューを含む、安全性と有効性の継続的なモニタリングが不可欠である。効果のない、安全でない、または転用されたオピオイド療法は、速やかに漸減・中止するべきである。
内容
・慢性疼痛はアメリカ成人の約1/3にあり、5%がオピオイド治療を受けている。強オピオイドは全診療の9%に処方されている。
・2週間のオピオイド療法でも耐性を生じることがあり、また低容量のモルヒネ治療でも疼痛閾値を低下させ、オピオイド誘発痛覚過敏を引き起こすことがある。そのため、オピオイドの服用量が増加するにつれて痛みが逆説的に悪化する。
・慢性疼痛は急性疼痛とは異なり、「組織が回復するまでの身体防御」という機能的な役割をもたない。鎮痛薬による典型的な治療だけでは効果がなく、生物心理社会的な要素も含んだ総合的な評価・管理が必要となる。(表1)
・一般的に、慢性の体性疼痛または神経因性疼痛は、オピオイドに部分的にでも反応が見られる。慢性的な内臓痛または中枢性疼痛症候群は応答が遅いか無反応であり、オピオイド療法の利益より有害作用が勝る。
・オピオイド誤用・乱用のリスク評価も必要である。オピオイドリスクツール(表2)を含むいくつかの有効なツールが利用可能である。
・オピオイドの選択としては、モルヒネが第一選択。信頼性が高く、安価で、長時間作用する経口モルヒネ製剤が利用できる。腎不全患者には注意して使用する。オキシコドンはモルヒネ不耐症またはアレルギーの場合の代替手段となるが、リスクスコアが高い患者では乱用のリスクが高くなる。経皮フェンタニルは、高価で、耐性が生じるまでが比較的早いが、良い代替薬の一つである。
・速効型オピオイドの頓用は長時間オピオイドの開始時に使うことができるが、継続的に使うべきではない。アウトカムの改善効果が示されておらず、過量摂取、誤用、オピオイド耐性のリスクを高める可能性がある。
・漸減・中止については、少なくとも四半期ごとに患者の安全性、有効性の再評価をするべきである。薬を減量する前に、オピオイドを単一の長時間作用型薬物に統合し、オピオイドの禁断症状、患者との信頼の喪失、疼痛の悪化を避けるようなスピードで投与量を減らし、症状や機能が改善するまで続ける。徐々に減らす場合は、元のオピオイド総量の20%が残るまでは1~4週ごとに10%ずつ減量し、その後は中止まで元の用量の5%ずつ減らす。速く減量する場合は、元の用量の25%ずつ、3~7日ごとに減量する。これにより重度の離脱症状を避けることができる。テーパリングしても、一部の患者ではオピオイド中止後に禁断症状が出ることがある。この場合、一時的に非ベンゾジアゼピン睡眠薬を使用すると効果がある。

【開催日】2018年10月3日(水)

急性虫垂炎の診断とマネジメント

-文献名-
Matthew J. Snyder. Acute Appendicitis: Efficient Diagnosis and Management. AAFP. 2018; 98(1): 25-33.

-要約-
急性虫垂炎は、成人と小児の急性腹痛症の最も一般的な原因の一つであり、生涯リスクは男性で8.6%、女性で6.7%である。また、妊娠中の女性においては、産科手術以外での緊急手術として最も多い。病歴・身体所見・検査所見の結果は診断の一助となる。右下腹部痛(LR+ 7.3-8.5)、筋性防御(LR+ 3.8)、右下腹部に放散するへそ周囲の痛み(LR+ 3.2)は成人の急性虫垂炎を考える兆候である。また、腸蠕動音の減弱・消失(LR+ 3.1)、psaos sign(LR+ 3.2)、obturator sign(LR+ 3.5)、Rovsing兆候(LR+ 3.5)は小児の急性虫垂炎を考える兆候である。
Alvarado score(もっとも研究がなされているスコア・成人と小児の両方で使用可能)、Pediatric Appendicitis score(小児に特化したスコア)、Appendicitis Inflammatory Response score(新しいスコア)は患者を低リスク・中リスク・高リスクに分けることができ、迅速な診断にも役立つ。

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画像検査の第一選択には腹部エコーが推奨される。→どうですか?
(肥満患者の場合はCTが推奨されている)

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開腹もしくは腹腔鏡下の虫垂切除術が標準治療法である。しかし一部の患者には経静脈的な抗生剤投与が第一選択となる。オピオイド、NSAIDs、アセトアミノフェンを用いた疼痛管理が優先されるべきであり、治療介入の遅れや不要な処置を招く結果にはならない。(Alvaradoスコアは変わらない)
腸管穿孔は17-32%の患者でみられ、敗血症を引き起こす。外科的処置前の症状の長さがリスクとなる。中リスク〜高リスクの患者では、穿孔 の罹患率や死亡率を減らすために、早急な外科的介入が必要である。

【開催日】平成30年7月18日(水)