特発性肺線維症の早期診断におけるfine crackles

―文献名―
Onofre Moran-Mendoza, Thomas Ritchie, Sharina Aldhaheri. Fine crackles on chest auscultation in the early diagnosis of idiopathic pulmonary fibrosis: a prospective cohort study. BMJ Open Resp Res: first published as 10.1136/bmjresp-2020-000815 on 7 July 2021.

―要約―
Introduction:
特発性肺線維症(IPF)は、原因不明の間質性肺疾患(ILD)であり、通常60歳以上で発症し、予後は不良で、診断時からの生存期間の中央値は2~3年である。IPFは、原因不明の呼吸困難を伴うすべての成人患者で考慮されるべきであり、一般に咳、二基底性吸気性ラ音、ばち指を呈する。IPFの診断と治療の開始は2年以上遅れることがあり、その結果死亡率が高くなることが示されている。現在、ニンテダニブとピルフェニドンの2つの利用可能な抗線維化薬があり、これらは病気の進行を遅らせ、死亡率を低下させる可能性がある。IPFが疑われる患者を専門医に早期に紹介することで、早期の治療と予後の改善に繋がる可能性がある。
高解像度胸部CTは、ILDを診断するための最良の非侵襲的検査だが、スクリーニングとして使用するには費用がかかり、実用的ではない。胸部聴診によるfine cracklesは、現在、IPFを早期に診断するための唯一の現実的な手段であることが示唆されている。これまで、IPFの早期診断におけるfine cracklesの役割を評価した研究はない。
今回、IPFおよび他のILDの早期診断におけるfine cracklesの有用性を評価する目的で研究を行った。

Method:
カナダのオンタリオ州にあるキングストン健康科学センターのILDクリニックに紹介されたすべての患者の胸部聴診におけるクラックル音の存在と種類を前向きに評価した。この研究に含まれる患者は、IPFの事前診断がなく、一部の患者は無症候性であるか、呼吸機能検査で正常とされていた。ILDの最終診断が確立される前に、様々なレベルの経験を持つ臨床医が胸部聴診を行い、他の臨床医の評価と最終診断を知らされていない標準化されたデータ収集フォームにcracklesの存在と種類を記録した。
Cracklesの存在と種類は、各患者の最初とその後の来院時に、臨床医によって次のように記録された:(a) no crackles, (b) fine crackles, (c) coarse crackles, (d) fine cracklesとcoarse cracklesの両方。cracklesの識別は、診断(IPFと非IPF)、およびcracklesの識別に影響を与える可能性のある患者と臨床医の特性によって層別化された。

Results:
ILDクリニックに紹介された290名のILD患者を評価した。最初の所見では、IPF患者の93%と非IPFのILD患者の73%が聴診でfine cracklesを認めた。IPFの患者では、咳(86%)、呼吸困難(80%)、拡散能の低下(87%)、総肺活量の低下(57%)、強制肺活量の低下(50%)よりもfine cracklesが一般的だった。その後の来院時の診察では、最初にfine cracklesを認めた患者の90%で、同じタイプのcrackle音が確認された。重回帰分析では、fine cracklesの識別は、肺機能、症状、肺気腫、COPD、肥満、または臨床医の経験による影響を受けなかった。

Discussion:
本研究の結果、無症候性の患者や呼吸機能検査で正常だった患者を含む、ほとんどのIPF患者にfine cracklesが存在し、肺気腫、COPD、肥満の患者、または胸部聴診を行った臨床医の経験に関係なく、適切に識別できることが示された。胸部聴診のfine cracklesは、IPFや他のILD患者の早期診断と治療に繋がる可能性のある、高感度で堅牢なスクリーニングツールである。

【開催日】
2021年7月14日(水)

ビスフォスフォネート製剤中止のメリットとデメリット

―文献名―
Dennis M. Black 「Atypical Femur Fracture Risk versus Fragility Fracture Prevention with Bisphosphonates」 N Engl J Med 2020;383:743-53.

―要約―
Introduction:
ビスホスホネート製剤は,大腿骨近位部骨折および骨粗鬆症性骨折の減少に有効である.しかし非定型大腿骨骨折への懸念からビスホスホネート製剤の使用が大幅に減少しており,大腿骨近位部骨折の発生率が上昇している可能性がある.非定型大腿骨骨折と,ビスホスホネート製剤およびその他の危険因子との関連には重大な不確実性が残っている.

Method:
カイザーパーマネンテ南カリフォルニアの医療システムに加入しており,ビスホスホネート製剤の投与を受けている 50 歳以上の女性を研究対象とし,2007 年 1 月 1 日から 2017 年 11 月 30 日まで追跡した.主要転帰は非定型大腿骨骨折とした.ビスホスホネート製剤の使用を含む危険因子に関するデータは電子診療録から取得した.骨折は X 線写真で判定した.解析には多変量 Cox モデルを用いた.リスク・利益プロファイルは,関連する非定型骨折と予防されたその他の骨折とを比較する目的で,ビスホスホネート製剤の使用期間 1~10 年でモデル化した.

Results:
女性 196,129 人のあいだで,非定型大腿骨骨折は 277 件発生した.多変量補正後,非定型骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間に伴って上昇し,3 ヵ月未満の場合と比較したハザード比は,3 年以上 5 年未満で 8.86(95%信頼区間 [CI] 2.79~28.20)であり,8 年以上で 43.51(95% CI 13.70~138.15)まで上昇した.その他の危険因子には,人種(アジア人の白人に対するハザード比 4.84,95% CI 3.57~6.56),身長,体重,グルココルチコイドの使用などがあった.ビスホスホネート製剤の中止は,非定型骨折リスクの急速な低下と関連した.ビスホスホネート製剤の 1~10 年間の使用中の骨粗鬆症性骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は,白人では非定型骨折リスクの上昇をはるかに上回ったが,アジア人では白人ほど大きくは上回らなかった.白人では,使用開始後 3 年の時点で大腿骨近位部骨折は 149 件予防され,ビスホスホネート製剤に関連する非定型骨折は 2 件発生したのに対し,アジア人ではそれぞれ 91 件と 8 件であった.
非定型大腿骨骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間とともに上昇し,ビスホスホネート製剤の中止後速やかに低下した.アジア人は白人よりもリスクが高かった.非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,ビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続した.(カイザーパーマネンテほかから研究助成を受けた.)

Discussion:
第一に、治療を受けた大部分がアレンドロネート(アクトネル)であったため、他のビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブなど、他の薬剤や製剤に推論を広げることはできませんでした。第二に、ビスフォスフォネートの曝露を含む共変量の評価は、カイザーパーマネンテの会員期間に限定されているため、コホートに参加する前の会員期間が短い人のビスフォスフォネートの累積曝露量が過小評価されている可能性がある。第三に、今回のリスク・ベネフィットの比較は、骨折の数のみに基づいている。より完全な比較を行うには、コストに加えて関連する罹患率や死亡率を考慮する必要がある。非定型大腿骨骨折後の死亡率は、データは限られているが、股関節骨折後よりも低い。1~5年間の治療による骨折減少のモデルは、無作為化臨床試験による強力なエビデンスベースを持っているが、5年以上になるとエビデンスベースはより限定される。確認された大腿骨骨折の約16%については、X線写真が得られなかったか、判定に不十分であったため、非定型骨折の真の発生率が過小評価されている可能性がある。第四に、黒人の非定型大腿骨骨折は2件のみであり、この集団での推論を妨げるものであった。

【開催日】
2021年7月14日(水)

Testing rates in patients at high risk for primary aldosteronism (March 2021)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献―
Cohen JB, Cohen DL, Herman DS, Leppert JT, Byrd JB, Bhalla V. Testing for Primary Aldosteronism and Mineralocorticoid Receptor Antagonist Use Among U.S. Veterans : A Retrospective Cohort Study. Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):289-297. doi: 10.7326/M20-4873. Epub 2020 Dec 29. PMID: 33370170; PMCID: PMC7965294.

―要約―
Introduction:
原発性アルドステロン症は治療抵抗性高血圧の一般的な原因である。しかしカリフォルニア、イリノイ、およびニューヨークのヘルスシステムの研究からのエビデンスでは原発性アルドステロン症の検査率が推奨されている患者の間で3%未満と低いことが示唆されている。
しかし、同様の研究は大規模には行われておらず、大規模で高度に統合された医療システムで検査率が低いかどうかは不明である。明らかな治療抵抗性高血圧の発症と検査に関連する要因を有する米国退役軍人における原発性アルドステロン症の検査頻度を評価することを目的とした。また、テストがMRA療法による明らかな治療抵抗性高血圧のエビデンスに基づく治療及び長期血圧コントロールの違いと関連しているかどうかを評価しようとした。
Method:
 Design:レトロスペクティブコホート
 Date Source:米国退役軍人保健局(VHA) Corporate Date Warehouseの米国退役軍人保健局データを使用。このデータには約900万人の退役軍人に関する詳細な診断コード、検査結果、バイタルサイン、薬局の処方記録が含まれる。
Participants
2000年〜2017年に明らかな治療抵抗性高血圧(n=269,010)の退役軍人で、治療抵抗性高血圧とは3種類の降圧薬(利尿薬を含む)で治療中に少なくとも1ヶ月間隔で収縮期血圧が140mmHgもしくは拡張期血圧が90mmHg以上であること、もしくは4つのクラスの降圧薬を必要とする高血圧で定義される。
 除外:原発性アルドステロン症の検査を受けた、または明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前にMRA治療を開始した患者、および明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前に慢性腎臓病ステージ4または5または末期腎臓病を患った患者を除外した。
primary end point:血中アルドステロン濃度と血漿レニン活性まだは血漿レニン濃度のいずれかの同時測定として定義される、原発性アルドステロン症の検査の実施割合
secondary end point:MRA治療の開始とSBPの経時的変化

Results
明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たした後の、フォロー期間の中央値は3.3年で、4277人(1.6%)が原発性アルドステロン症の検査を受けた。(Figure1) Figure2の左の図は各VHA医療センター(n=130)で原発性アルドステロン症の検査を受けた治療抵抗性高血圧症の患者の割合を示している。検査率は全体の0~6%で明らかな治療抵抗性高血圧の患者数は医療センター全体の検査率との相関はなかった。Figure2の右の図は年ごとの検査率で検査率は年間1〜2%だった。
(Appendix Figure)原発性アルドステロン症の検査に関連する要因として、患者レベルでは低カリウム血症(standardized hazard ratio [HR], 1.93 [95% CI,1.80 to 2.07])、より高いSBP(standardized HR, 1.43 [CI,1.37 to 1.49])、を含むいくつかの要因が検査を受ける可能性が高い。また、腎臓内科医(HR,2.05[95%CI,1.66~2.52])または内分泌科医(HR,2.48[95%CI,1.69~3.63])による患者の問題を特定するための外来(index visit)はプライマリケアと比較して検査をする可能性が高いことに関連していた。センターレベルでは地方は非地方より検査をする可能性が低かった(HR, 0.53 [CI, 0.31 to 0.91])。
(table2)原発性アルドステロン症の検査を実施した場合は検査なしの場合と比較して、MRA療法を開始する可能性が4倍高く(HR 4.10[CI3.68~4.55])、低カリウム血症の病歴のある患者は低カリウム血症のない患者(HR, 4.21 [CI, 3.59 to 4.94])よりMRA(HR, 7.11 [CI, 6.25 to 8.10])で治療される可能性は高かった、そして、時間経過とともにより良い血圧コントロールと関連していた。
 Limitation:主に男性のコホートで後ろ向きデザイン、誤分類に対する診察室血圧の感受性の問題、および原発性アルドステロン症の確定検査の欠如などがlimitationである。
Conclusion:明らかな治療抵抗性高血圧を伴う退役軍人に関する全国的に施行したコホートでは原発性アルドステロン症の検査は稀であり、原発性アルドステロン症の検査はMRAによるエビデンス に基づく治療の割合が高いことと、長期的なBPコントロールが優れていることに関連していた。この発見は小規模な医療システムにおけるガイドライン推奨の実践への遵守が低いという以前の観察を補強し、治療抵抗性高血圧患者の管理を改善する緊急の必要性を強調している。

【開催日】
2021年7月7日(水)

COPD患者と在宅NPPV

―文献名―
Wilson ME, et al. Association of Home Noninvasive Positive Pressure Ventilation With Clinical Outcomes in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2020 Feb 4;323(5):455-465.

―要約―
Introduction
COPD患者の急性増悪時における高CO2血症・急性呼吸不全に対してのNIPPVの院内使用についてはエビデンスが確立している(COPD急性増悪による急性呼吸不全の患者において、院内NIPPVは、死亡率の低下、気管挿管の減少、入院期間の短縮、合併症の減少に関連していることがわかっている。)しかし、慢性COPDと高CO2血症における在宅NIPPVとその転帰との関連は不明である。
COPD および高CO2血症の患者において、bilevel positive airway pressure (BPAP)およびnoninvasive home mechanical ventilator (非侵襲的HMV)による在宅 NIPPV と臨床転帰および有害事象との関連を評価した。

※呼吸機器の定義に関しては、eTable2参照
BPAP装置は通常、圧換気を行うが、換気モードやモニタリング機能が追加されている場合がある。HMVは、Pressure control換気、Volume control換気などが可能であり、通常は気管切開した患者に使用されるが、NIPPVでも使用できる。BPAP装置と比較して、追加の換気モード、モニタリング、制御機能、および安全装置、アラーム、バックアップ電源の機能を備えている。

Method
1995年1月1日から2019年11月6日までに発表された英語の論文をMEDLINE、EMBASE、SCOPUS、Cochrane Central Registrar of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、National Guideline Clearinghouse、Scopusで検索した。
在宅NIPPVを1か月以上使用した高CO2血症を伴うCOPDの成人を登録した無作為化臨床試験(RCT)および比較観察研究を対象とした。
データの抽出は独立した 2 人のレビュアーが行った。バイアスについてはRCT については Cochrane Collaboration の risk of bias tool を用いて評価し、非ランダム化研究については Newcastle-Ottawa Scale の選択項目を用いて評価した。
主要評価項目は、最長追跡期間における死亡率、全原因による入院、挿管の必要性、および QOL とした。副次評価項目は、呼吸器疾患による入院、救急外来受診、集中治療室(ICU)への入室、COPDの増悪、日常生活動作、呼吸困難、睡眠の質、運動耐容能、有害事象とした。

Results
21件のRCTと12件の観察研究の合計51085名の患者(平均年齢65.7歳、女性43%)が対象となった。
死亡者は434名、挿管を行った患者は27名であった。

BPAPと装置なしの比較

死亡リスクを有意に低下させた。
2.31% vs 28.57%、RD-5.53%[95%CI; -10.29%~-0.76%]、OR0.66 [95% CI; 0.51〜0.87]、P=0.003
全原因による入院患者を優位に減らした。
39.74% vs 75.00%、RD-35.26%[95% CI; -49.39%〜-21.12%]、OR0.22[95% CI; 0.11〜0.43]、P<0.001
挿管の必要性を優位に減らした。
5.34% vs 14.71%、RD-8.02%[95%CI; -14.77%〜-1.28%] OR0.34[95% CI; 0.14〜0.83]、P=0.02
QOLには有意な差は見られなかった。

非侵襲的HMVと装置なしの比較

死亡リスクに有意差はなかった。
21.84% vs 34.09%、RD-11.99%[95% CI; -24.77%~0.79%]、OR0.56[95% CI; 0.29-1.08]、 P=0.49

有害事象

NIPPVを使用した場合と装置を使用しない場合と比較して、有意差はなかった。重篤な副作用はほとんどなく、0.24/人で非重篤な副作用が出現、多くは皮膚症状(顔面発疹や鼻潰瘍)、眼症状、鼻症状だった。

Discussion
COPD と高CO2血症の患者を対象としたこのメタアナリシスでは、家庭用 BPAP は装置を使用しない場合と比較して、死亡率、全原因による入院、挿管のリスクを低下させたが、QOL には有意な差はなかった。非侵襲的HMVは装置を使用しない場合と比較して、入院リスクの低下と有意に関連していたが、死亡リスクには有意差がなかった。
しかし、エビデンスの質は低~中程度で、QOLに関するエビデンスは不十分であり、いくつかのアウトカムの分析は少数の研究に基づいていた。
装置の種類、設定、PaCO2減少に伴う調整方法などについては依然として不明。一部の研究では、より高強度のNIPPVや、追加のモードや機能を備えた装置で転帰の改善が確認されているが、装置のモードを比較した他の研究では転帰の違いは確認されていない。また、どのPaCO2閾値でNIPPVを開始すべきか、閾値が低くても臨床的に有意な効果があるかどうかも不明なままである。現在のガイドライン、推奨事項、実施方法は様々である。

※日本のガイドラインについては下図参照

NIPPVを受けた患者の顔面発疹や粘膜乾燥などの非重篤な有害事象の発生率は25%近くに及んだが、重篤な有害事象はまれであり、発生率はNIPPVを使用した群と使用していない群とで有意差はなかった。

【開催日】2021年6月9日(水)

急性心筋梗塞後の長期ベータブロッカー療法の継続期間(2020年12月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献-
Long-term b-blocker therapy and clinical outcomes after acute myocardial infarction in patients without heart failure: nationwide cohort study
European Heart Journal (2020) 41, 3521–3529 doi:10.1093/eurheartj/ehaa376

-要約-
Aims
長期間のベータブロッカー療法とAMI後に心不全を起こしていない患者での臨床的アウトカムの関連を調査すること
Method
2010年〜2015年の間に退院時にベータブロッカー療法によるAMIの冠動脈血行再建術を受け、死亡、再発性MI、またはHFが1年間発生しなかった、合計28,970人の18歳以上の患者が韓国の全国医療機関の保険データから登録された。
Primary outcomeは全死因。
Secondary outcomeは再発性MI、新規HFによる入院、全死因による死亡・再発性MI・新規HFによる入院の各二次転機と複合アウトカム
Outcomes
アウトカムは指標MI後1年後のランドマーク分析を利用して1年以上のベータブロッカー療法(N=22707)と1年未満のベータブロッカー療法(N=6263)の結果を比較した。(Figure1)
フォローアップ期間の中央値は3.5年(2.2~5.0年)、1684人が死亡した。
1年未満のベータブロッカー療法を受けた患者と比較して、1年以上のベータブロッカー療法を受けている患者は、全死因による死亡リスク [調整済みハザード比(HR)0.81;95%CI0.72-0.91]および全死因による死亡、再発性MI、また新しいHFによる入院の複合アウトカム[調整済みハザード比(HR)0.82;95%CI 0.75-0.89]のリスクは優位に低かったが、再発性MIと新規HFによる入院のリスクは優位ではなかった。(table 2 Figure2)サブグループ解析でも1年以上のベータブロッカーの使用と全死因のリスクの関連は一貫していた。(Figure3)
Figure4ではそれぞれの地点でベータブロッカーを継続している患者と中断した患者を示している。継続的なベータブロッカー療法に関連する全死因のリスク低下 [調整済みハザード比(HR)0.86;95%CI 0.75-0.99]、再発性MIのリスク低下(調整済みHR 0.67; 95%CI 0.51–0.87; P = 0.003)は2年を超えて観察されたが、MI後3年を超えては観察されなかった。[調整済みハザード比(HR)0.87;95%CI 0.73-1.03]。全死因、再発性MI、新しいHFによる入院の複合リスクは3年以上持続するベータブロッカーによる加療を受けた患者で有意に低かった。(adjusted HR 0.85; 95% CI 0.74–0.98; P = 0.03) (table3,Figure4)
Discussion
 今回のコホート研究ではAMI後に心不全を起こさなかった1年以上のベータブロッカー療法をうけた患者が1年以下しか加療を受けなかった患者に対して、より低い全死因のリスクと関連があった。その有益な効果は様々のサブグループの中でも一貫していた。
 現在の結果にはいくつかのもっともらしい説明がある。
① HFなしに退院したAMIの多くの患者はフォローアップ中にMIの再発や再入院、HFによる死亡を経験している。それゆえに、二次予防としてベータブロッカーを続けることは退院の時にHFがない患者にとって有益であるかもしれない
② 血圧は長期でベータブロッカー治療を受けた患者の方が受けていない患者に比べてコントロールが良い可能性がある。血圧コントロールは冠動脈疾患がある患者のリスクを減らす重要な治療であり、厳格な血圧コントロールは冠動脈イベントリスクの高い患者にとって心血管イベントを改善する。
③ 血管内超音波試験からのプールされた分析では、ベータブロッカー療法は冠動脈疾患のある患者はアテローム量の減少に関連があることを示したので、冠動脈の動脈硬化の進展を遅らせる可能性がある。
Limitation
① この研究ではベータブロッカーを使う理由を特定できていない。長期間のベータブロッカー治療を受ける患者はフォローアップ中にベータブロッカーを中断した人たちに比べてベータブロッカー療法に耐えられているため、重度リスクのプロファイルが少ないかもしれない。潜在的なバイアスを乗り越えるために、我々はAMI後の早期ステージにベータブロッカー治療を始めた人々を除外した、そして、immortal time biasを回避するためにランドマーク解析を実施した。
② 記録されていない交絡因子によって引き起こされる潜在的な選択バイアスが存在する。例えば、我々はAMIのタイプの情報や欠陥造影による重症度、人体計測的・行動科学的要因などの情報は欠落していたし、請求に基づく疾病管理に関する情報は限られていた。
③ 左室機能障害に伴う情報はなかった。しかし、韓国におけるMIを経験した大部分の患者は左室駆出機能を保っていた。その上,駆出率の低い患者はベータブロッカー療法を受け、予後不良である可能性が高いためこのタイプのバイアスを我々の発見で説明する可能性は低い。
Conclusion
MI後の1年以上ベータブロッカー療法を受けたHFのないAMIの患者における全死因による死亡の減少と関連があった。しかし。AMI後のルーチンなベータブロッカー療法の適切な期間を決定するにはさらなる大規模なRCTが必要とされる。

【開催日】2021年3月3日(水)

皮膚感染と軟部組織膿瘍の診断のためのPOC超音波検査についてのまとめ

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Gottlieb M, Avila J, Chottiner M, Peksa GD. Point-of-Care Ultrasonography for the Diagnosis of Skin and Soft Tissue Abscesses: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Emerg Med. 2020;76(1):67. Epub 2020 Feb 17.

-要約-
目的
皮膚および軟部組織の感染症は、救急部門ではコモンな主訴である。これまで研究では身体診察だけでは蜂窩織炎と膿瘍を区別するのに信頼性が低いことが示されている。皮膚と軟部組織感染症の診断精度が向上するツールとして、POC超音波が研究された。
今回の目的は、膿瘍に対するPOC超音波の診断精度を評価することである。サブグループ解析は、成人対小児の患者、および高率の疑い症例と臨床的にはっきりしない症例について実施され、副次的な目的として、POC超音波によるマネジメントの変更が正しかったか誤っていたのかの割合、および治療失敗の減少についてが含まれている

方法
皮膚および軟部組織膿瘍の評価のためのポイントオブケア超音波検査の診断精度を評価するすべての前向き研究について、PubMed、Scopus、Latin American and Caribbean Health Sciences Literature Database、Cumulative Index of Nursing and Allied Health、Google Scholar、Cochrane Database of Systematic Reviews、Cochrane Central Register of Controlled Trialsについて研究開始から2019年7月26日までの間の文献を調査した。
データは事前に定義されたワークシートに二回抽出しQUADAS-2 ツール(診断精度に関する研究の質を評価するためのツール、Table2参照)を用いて分析を行った。診断精度は、感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比でそれぞれ95%信頼区間を示した。

結果
・我々は14件の研究(患者数2,656人)を同定し、その結果POC超音波は感度94.6%(95%CI 89.4%~97.4%)、特異度85.4%(95%CI 78.9%~90.2%)で、陽性尤度比は6.5(95%CI 4.4~9.6)、陰性尤度比は0.06(95%CI 0.03~0.13)であった。
・POC超音波は感度94.6%(95%CI 89.4%~97.4%)、特異度85.4%(95%CI 78.9%~90.2%)で、陽性尤度比は6.5(95%CI 4.4~9.6)、陰性尤度比は0.06(95%CI 0.03~0.13)であった。
・検査前に膿瘍または蜂窩織炎の疑いが高かった症例では、POC超音波の感度は93.5%(95%CI 90.4%~95.7%)、特異度は89.1%(95%CI 78.3%~94.9%)で、陽性尤度比は8.6(95%CI 4.1~18.1)、陰性尤度比は0.07(95%CI 0.05~0.12)であった
・臨床的にはっきりしないCaseではPOC超音波は感度91.9%(95%CI 77.5%~97.4%)、特異度76.9%(95%CI 65.3%~85.5%)で、陽性尤度比は4.0(95%CI 2.5~6.3)、陰性尤度比は0.11(95%CI 0.03~0.32)であった
・成人ではPOC超音波は感度98.7%(95%CI 95.3%~99.8%)、特異度91.0%(95%CI 84.4%~95.4%)で、陽性尤度比は10.9(95%CI 6.2~19.2)、陰性尤度比は0.01(95%CI 0.001~0.06)であった
・小児患者では、POC超音波の感度は89.9%(95%CI 81.8%~94.6%)、特異度は79.9%(95%CI 71.5%~86.3%)で、陽性尤度比は4.5(95%CI 3.1~6.4)、陰性尤度比は0.13(95%CI 0.07~0.23)であった
・POC超音波は10.3%(95%CI 8.9%~11.8%)の症例で方針変更につながり、0.7%の症例で間違った方針変更につながった(95%CI 0.3%~1.1%)

結論
最近のデータによると、POC超音波は膿瘍と蜂窩織炎の鑑別診断のための良い診断精度を有し、10%の症例で正しい治療変更に導いた。さらなる研究では、理想的なトレーニングとそのための適した画像収集のプロトコルを特定する必要がある。

【開催日】2021年2月10日(水)

心房細動の早期リズムコントロール

-文献名-
P. Kirchhof, A.J. Camm, A. Goette.Early Rhythm-Control Therapy in Patients with Atrial Fibrillation.N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1305-1316.

-要約-
背景 心房細動の患者は心血管系合併症のリスクが高い.過去にリズムコントロールとレートコントロールで予後に差がないという報告があるが,発症早期にリズムコントロールを行うことで心血管リスクを軽減できるかどうかは不明である.アブレーションも含めたリズムコントロール戦略が早期Af診療のアウトカムを改善させるか調べる.
デザイン RCT.非盲検化試験.多施設(欧州11カ国,135施設).2011年〜2016年.ITT解析.
ドイツの教育研究省による資金提供.
対象者 2789例.≧18歳の発症早期(初回診断から≦12カ月)の心房細動患者で,①TIA/脳卒中の既往があるか,②>75歳の者か,③以下の条件*のうち2つ以上に該当する者。年齢>65歳,女性,心不全,高血圧,糖尿病,重症冠動脈疾患,慢性腎臓病(GFR15〜59),左室肥大(拡張期中隔壁幅> 15mm),末梢動脈疾患.
介入 現行のガイドラインが推奨する治療(抗凝固薬,レートコントロール)および合併する心血管疾患に対する治療を受けたうえで,早期のリズムコントロール(洞調律維持療法)群(1395例)または標準治療のみの群(1394例)。
早期のリズムコントロール群:抗不整脈薬または心房細動アブレーションによる治療.週に2度また症状発生時は,患者自ら遠隔モニタリングデバイスECGを送信.医療機関がリズムコントロールを調整.
標準治療群:抗凝固薬による治療とレートコントロール(心拍数調節療法)を中心とした治療。これらの治療でも心房細動による症状が生じた場合は,リズムコントロールを実施。
結果
追跡期間中央値5.1年。
有効性が確認されたため,第3回目の中間解析の時点で試験は中止。
(以下,Fig1)
2年後の治療状況は,リズムコントロール群では65.1%が抗不整脈薬継続,標準治療群では14.6%が抗不整脈薬使用.リズムコントロール群でアブレーションを行ったのは19.4%.(フレカイニド(タンボコール®,1c),アミオダロン,ドロネダロン(日本採用なし),プロパフェノン(プロノン®,1c),その他の不整脈薬)

(以下,Table1)
患者背景:平均年齢70.3歳,女性46.4%。
心房細動の診断から登録までの日数:中央値で36日。
登録時の心房細動の状況:初発 37.6%,発作性 35.6%,持続性 26.6%。
登録時の洞調律の割合:54.0%
登録時のCHA2DS2-VASCスコアの平均値:3.4

(以下,Table.2)
プライマリーエンドポイント=「心疾患や脳卒中による死亡」「心不全や急性冠症候群の悪化による入院」の複合
早期リズムコントロール群249例(3.9/100人・年) vs. 標準治療群316例(5.0/100人・年)
[ハザード比(HR)0.79; 96%信頼区間(CI)0.66~0.94; P =0.005]
内訳のうち,心疾患や脳卒中による死亡をみても有意差あり.

セカンダリーエンドポイント=1年あたりの入院日数.
群間で有意差なし.
平均値:早期リズムコントール群 5.8日/年 vs. 標準治療群5.1日/年(P =0.23)

(以下,Table.3)
安全性の主要アウトカム=「死亡」「脳卒中」「リズム制御療法に関連した重篤な有害事象」の複合
群間で有意差なし.
早期リズムコントロール群231例(16.6%)vs. 標準治療群223例(16.0%)

<内訳>
脳卒中:早期リズムコントロール群2.9% vs. 標準治療群4.4%(P =0.03)。
死亡:9.9% vs. 11.8%。
リズムコントロールに関連する重篤な有害イベント:4.9% vs. 1.4%(P <0.001)。(5年間)
 →非致死性の心停止,中毒,徐脈,AVブロック,トルサードポワンツ,タンポナーデ,出血など

安全性の副次アウトカム=2年後の症状,左室機能
両治療群間に有意差は認められなかった。

ディスカッション 
・過去の報告と異なり,今回リズムコントロール群で有意差が出たのは,①カテーテルアブレーション治療群が入っていることや②発症早期の介入をみていることなどが考えうる.
・リズムコントロールによる有害事象は有意に発生したが,その頻度は低い.
・限界は,非盲検化試験であること,フォローアップ期間が短いこと,費用について検討していないこと,などが挙げられる.

結論 早期リズムコントロールは,早期心房細動と心血管疾患を有する患者において,通常のケアに比べて有害な心血管転帰のリスクが低いことと関連していた.

【開催日】2021年2月3日(水)

無症候性重症大動脈弁狭窄症における早期手術

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Kang, Duk-Hyun, et al. Early surgery or conservative care for asymptomatic aortic stenosis. New England Journal of Medicine. 2020;382(2):111-119.

-要約-
背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

結論
非常に重度の大動脈弁狭窄を有する無症候性の患者において,早期に大動脈弁置換術を受けた患者では,保存的治療を受けた患者に比べて,追跡期間中の手術死亡または心血管系原因による死亡の複合アウトカムの発生率が有意に低かった.

ディスカッション
・本研究の意義:無症状の重症大動脈弁狭窄症患者における手術の決定は弁置換術のリスクと経過観察のリスクの間のバランスを慎重に見積もる必要がある。大動脈弁狭窄症は、慎重な経過観察+症状が出るまで手術を遅らせる戦略は比較的安全ではあるが、突然死のリスク、患者による症状の否定または報告の遅れ、不可逆的な心筋損傷、および手術リスクの上昇と関連する。以前の観察研究で見られたベースライン治療の群間の違い、治療選択バイアス、および測定されていない交絡因子を減らすことで本研究では、早期大動脈弁置換術を支持する証拠を示した。
・示されたベネフィットに対する説明:2群間の長期生存期間の有意差の理由として考えられるのは、第一に、本試験および最近の低リスク患者における外科的大動脈弁置換術とTAVRを比較した試験では、手術リスクはそれより以前の研究に比べて大幅に低かった点である。この試験では、手術による死亡率は1%未満であり、綿密な術後のモニタリング・術後のケアの改善により、早期手術に関連した長期的なリスクが大幅に減少した可能性がある。第二に、早期手術群では突然死が見られなかったことから、早期手術により突然死が避けられた可能性がある。対照的に、保存的治療群では、症状が出る前の大動脈弁狭窄の進行中の突然死の年間リスクが上昇する傾向があった。第三に、保存的治療群では、最終的な大動脈弁置換術は避けられず、大動脈弁置換術のリスクは、症状が進行するまで手術が延期されたことで増加した可能性である。手術後の心血管系イベントは保存的治療群でより頻繁に観察され、大動脈弁置換術を遅らせることによる長期的リスクが高いことが示唆された。
研究の限界と適用上の注意:第一に、大動脈弁狭窄の重症度が高い患者を対象とした本試験では、手術待機時間によりリスクが高まるため、早期手術が良い結果に出る傾向があった可能性がある。第二に、早期手術群では5%、保存的治療群では3%の患者でクロスオーバーが発生した。ただ、Per-protocol解析とintention-to-treat解析の結果はほぼ同じであった。第三に、この試験は盲検化されていないため、患者が受けた治療を臨床医が把握していることに、非致死的転帰が影響を受けた可能性がある。第四に、重度の大動脈弁狭窄症を有する無症候性の患者に症状がないことを確認するために運動検査を行うことは妥当であるが、本試験では選択的にしか実施されていない。第五に、患者数の少なさと主要エンドポイントイベントの少なさが本試験の重要な限界である。最後に、この試験では比較的若い患者(最近の低リスク患者を対象としたTAVR試験に登録された患者と比較して)が対象であり、その中でも二尖性大動脈弁疾患の発症率が高く、左室収縮機能が正常で、共存する疾患が少なく、手術リスクが低い患者が含まれていた。このように、我々の試験集団はTAVR試験に登録されている集団とはかなり異なっており、無症候性の重症大動脈弁狭窄症に対する早期TAVRに直接結果を適用できない。

【開催日】2021年2月3日(水)

コロナ禍の診断エラーを減らすには?

-文献名-
“Reducing the Risk of Diagnostic Error in the COVID-19 Era” J Hosp Med. 2020 Jun;15(6):363-366.

-要約-
背景【担当者注】
“診断エラー”は, 「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと,もしくは,その説明が患者になされないこと」と定義される.(Improving Diagnosis in Health Care. National Academies Press. 2015.)
下記の3つの分類が存在, 併存する.(Arch Intern Med. 2005;1493-9.)
【①診断の見逃し, ②診断の間違い, ③診断の遅れ】
原因は, 個人の資質の問題(知識不足, 技術不足)ではなく, 「ヒューリスティクス, 認知バイアス」, 「システムの問題」であることが多い. 参考資料https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/182
<論文要旨>
COVID-19のパンデミックは, 診断エラーを高める可能性がある.疾患自体が新しく, 臨床知識やエビデンスが未だ発展途上であることや, 逼迫する医療体制などの状況による, 医療者のストレス, 疲労, 燃え尽きが背景にある.本稿では, COVID-19時代に懸念される診断エラーの新しい類型を提案する.これらのエラーは, システムに基づくものと認知的なものの両方の起源を持つ.いくつかのエラーは, パンデミックに特有のものもある.本研究は, 8つの診断エラーの概要と対策を提示する.

予測される診断エラーの種類(Table, 表)
“古典的”: COVID-19の検査が実施できなかったり, 偽陰性の結果によって診断が困難になる.
“変則的”: 非典型的な, 呼吸器症状を呈さない患者がいる. COVID-19の診断を困難になる可能性がある.
“アンカリング”: 細菌性肺炎などで呼吸器症状のある患者を、COVID-19と誤診する.十分な検査が行われていない場合に起こりえる.
“二次的”: COVID-19患者の続発症を見逃す可能性がある.例えば, COVID-19患者の増悪する呼吸不全の背景に, 凝固障害による肺塞栓症が新規発症している可能性があるが, 原因検索を行わず, COVID-19による肺機能障害として対処される可能性がある.知見が不十分な状況で, この診断エラーは増加する.
“急性に生じる巻き添え”: 新たな急性症状を呈した患者は, 感染リスクを理由に急性期医療の受診を控えることがある.急性心筋梗塞や脳卒中の患者が受診せず診断が遅延することが懸念される.
“慢性に生じる巻き添え”: 定期受診や待機的処置が延期, 自己中断された場合に, 重要な疾患の診断に遅れが生じる可能性がある.
“ひずみ”: 切迫した医療体制によりCOVID-19以外の診断が, 影響を受ける可能性がある.外科医, 小児科医, 放射線科医らが, 急性期医療に「再配置」される.新しい役割を担う臨床医が, 慣れない状況や疾患の症状に直面したときにこの診断エラーは増加する.これまでの経験が豊富であっても, 新しい役割でのスキルや経験が不十分であったり, 指導を求めることに抵抗感を抱くことがある.
“予想外の診断エラー”: 個人用防護具PPEや遠隔医療技術などを使用して患者の診療に当たることが増えている.これは医師と患者の双方にとって未経験なことであり, “予想外”の診断エラーを引き起こす可能性がある.遠隔医療や接触機会の制限の状況では、熟練の臨床医でも病歴聴取, 身体診察能力が低下する可能性がある.

診断エラーに対する戦略
<テクノロジーによる支援>
テクノロジーは, 新たなリスクに対処するためのプログラムやプロトコル作成, 実装に役立つ.例えば, 感染流行状況の把握、重症化リスクの予測アルゴリズムや, 医療機関同士の患者搬送プロトコル, 電子カルテデータから潜在的なリスクを割り出し待機的処置の日程調整を自動で行うプログラムなどが考案されている.
<業務フローとコミュニケーションの最適化>
対面での接触が限られている場合でも, 診療の工夫(例:患者へのiPadの提供, ジェスチャーなどの非言語コミュニケーション)を行うことで, 患者や家族と包括的な話し合いを持つことができる.慣れていない分野に再配置された医師は“バディシステム”を利用し, 経験豊富な臨床医とペアを組むことができ, 助けを求めやすくなる.
<“人”に焦点を当てた介入>
一人での診療に慣れている医師もいるが, 今は「診断ハドル(訳者注 huddle: アメリカンフットボールで, 次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議.)」を導入する時期であり, 異常や困難な症例について議論したり, 何か見逃していないかどうかを判断したりするべきである.
患者にデジタルツールを使った自己診断を奨励することに加えて, 急性心筋梗塞や脳卒中などの特定の重要な疾患については, 公衆衛生当局やメディアの助けを借りて医療支援を求めるよう一般市民に助言することも望ましい.
<組織, 所属機関での戦略>
スタッフの心理的安全性に配慮した組織環境、安全戦略を確保しなければならない.
リーダーは, チームの行動指針や規範について明確に伝える.
認知バイアスにつながる疲労, ストレス, 不安を最小限に抑えるために, ピアサポート, カウンセリング, 勤務時間調整,他の支援を実施する.院内外で, 診断上の課題, 最新の情報を継続的に共有し, 改善すべきである.
<国家レベルでの対応>
アクセス性, 正確性, 検査の性能に関する課題は, 国レベルで対処されるべきである.診断パフォーマンスとアウトカムをモニターし, COVID-19の診断エラーが異なる人口統計にどのように影響するかを評価するために, 標準化された測定基準が開発されるべきである.

結論
臨床医は患者の診断と治療に最善を尽くすように, 認知とシステムに基づいた診療を提供しなければならない.診断エラーと対策を共有し診療システムの再設計と強化を行うことで, 予防可能な診断エラーを防ぐべきである.

表. COVID-19 パンデミックで予想される診断エラー(原表を基に担当者作成)

【開催日】2021年1月13日(水)

超高齢心房細動患者に対する低用量エドキサバン

-文献名-
K.Okumura. Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation. NEJM. 2020; Oct 29; 383(18): 1735-1745.

-要約-
Introduction:
年齢とともに心房細動は増加し、年齢と心房細動はいずれも脳梗塞のリスクである。心房細動患者の脳梗塞予防ガイドラインでは、高齢者であっても抗凝固療法が推奨されるが、超高齢者には腎機能障害・過去の出血歴・過去の転倒歴・ポリファーマシー・フレイルなどの出血リスクを鑑みて、処方をためらう医師が多い。高齢化に伴い、ハイリスク・超高齢者の抗凝固療法のエビデンスが必要である。
 低用量エドキサバン(15-30mg)は脳梗塞予防には用量不足として認可外ではあるが、出血のハイリスク群である超高齢者にとっては有益であるかもしれない。
Method:
 今回のELDERCARE-AF試験は、非弁膜症性心房細動を有し、脳卒中予防に承認されている用量での経口抗凝固療法が適当ではないと判断された超高齢(80 歳以上)の日本人患者を対象に、エドキサバン15mgの1日1回投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験(主要評価項目の発現が定められた定数に達するまで継続する試験)である。COIとして第一三共からの資金提供あり。
Patient:80歳以上の非弁膜症性心房細動を有し、CHADs2スコアは2点以上。CCr15-30、出血の既往、BW45kg以下、NSAIDs内服中、抗血小板薬内服といった理由から抗凝固療法を見送られている。
Intervention:エドキサバン15mg内服
Comparison:プラセボ
Outcome:4-48週目までは4週毎、以降は8週毎にフォローアップを行い、有効性として脳卒中または全身性塞栓症の発症、安全性として国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血の発症を評価した。
Results:
2016年8月〜2019年11月に164の施設、1086名がエントリーし、984名がエドキサバン15 mg/日の投与を受ける群(492例)とプラセボ投与を受ける群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。除外された102名は20名が同意撤回、3名が死亡、79例が基準を満たさなかった。平均年齢は86.6(±4.2)歳、平均体重は50.6(±11.0)kg、平均CCr36.3(±14.4)であった。423名が過去に抗凝固療を受けていた。追跡期間は平均466日で、681例が試験を完了、303 例が中止となった。(同意の撤回158例・死亡135例・その他の理由10例)試験を中止した主な理由は出血と関係のない有害事象と試験継続の意志喪失・能力欠如であり、人数は2群で同程度であった。
66例の脳卒中または全身性塞栓症から59例が主要有効性評価項目として認定され、エドキサバン群で15例(2.3%/人年、プラセボ群で44例(6.7%/人年)であった。(ハザード比0.34, 95%CI 0.19~0.61, P<0.001)サブグループ解析でも概ね同様の結果であったが、NSAIDs内服群のみ結果のばらつきがあった。
安全性の評価としては、22例の大出血イベントがあり、エドキサバン群で20例(3.3%/人年)、プラセボ群で11例(1.8%/人年)であった。(ハザード比1.87, 95%CI 0.90~3.89,P=0.09)消化管出血に限ると、イベント発生数はエドキサバン群のほうがプラセボ群よりも多い結果となった。全死因死亡に大きな群間差はなかった。(エドキサバン群9.9%, プラセボ群10.2%,ハザード比0.97,95%CI 0.69~1.36)
Discussion:
 本試験はENGAGE AF-TIMI48試験のデータをもとにエドキサバンを15mgに減量して使用した。
脳卒中と出血の両方のリスクが高い超高齢者に対する確立された標準治療はなく、対照としてプラセボを使用した。先行研究ではアスピリンは心房細動の患者の脳卒中の予防に効果がなく、脳卒中のリスクが高い患者には推奨されなかったため、比較対照薬として抗血小板薬を使用しなかった。
先行研究で腎機能障害があり(CCr15-30)エドキサバン15mgを投与された人と、腎機能障害がなくエドキサバン30-60mgを投与された人の血中濃度は類似しており、今回の試験と先行研究での有効性・安全性の結果が同様であった一因かもしれない。
Limitation:
 脱落患者が多かったが、出血に関連した同意取り下げは6名のみであり、多くは出血とは関係のない有害事象が理由となった。
 日本人(東アジア人)は他の人種と比較して脳卒中や全身性血栓症の発生率が高く、出血の発生率も高いため、他の集団で適応できない可能性がある。

JC2020佐野1

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【開催日】2020年12月9日(水)