膝変形性関節症に対するヒアルロン酸関節注射の効果(SR、メタアナリシス)

-文献名-
Tiago V Pereira, Peter Jüni, Pakeezah Saadat, et al. Viscosupplementation for knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis BMJ 2022;378:e069722

-要約-
Introduction:
世界中で5億人を超える人が変形性膝関節症(OA)に罹患している。ヒアルロン酸の関節注射(Viscosupplementation)は50年以上前からよく行われているが、その有効性や安全性については不明である。イギリスでは一部の人に行われているが、アメリカではMedicareのOA患者の7人に1人は関節注射を施行されている。このSRでは膝OAの間接注射の臨床的効果と安全性について調べる。
Method:
 PRISMAに基づき、PROSPEROに登録された上で行われた。
対象論文の選択;RCT、quasiRCTのみ対象。
痛み、機能、有害事象のうち少なくとも一つをアウトカムにしているOAの人を対象。
2021年9月11日までの期間で、Medline、Embase、CENTRALを言語制限なしで検索。そのほか学位論文、個人通信、書籍、パンフレット、学会抄録、臨床試験登録、メーカーの報告書、規制関連文書から適格な臨床試験を特定した。検索語はappendices参照。
評価者:8人中2人ずつデータ抽出、主解析に関連する試験についてはROB2.0に基づいて2名で行った。意見が分かれた場合は協議、あるいは3人目が決定。
 アウトカム:primary outcome:痛み secondary outcome 機能と有害事象
評価基準はSMD(standardized mean difference)で行なった。最小の臨床的意義のある差を-0.37 (VAS 9mm)と設定。
統計解析はStataとRを用いた。random effect modelを解析に使用。出版バイアスはfannel plotsで考慮。
サンプルサイズは両群100以上の研究を対象(small study effectを考慮して)

上記のフローの通り、169の研究 (21163人) が対象となり、そのうち24の研究 (8997人) が主解析の対象となった。

25の対象論文の一覧

日本の論文は1983年に一つのみ。出版されていないものも5つ含まれる。

Primary Outcome

痛みは臨床的に重要な差は認めなかった(SMD-0.08 (95%CI -0.15 to -0.02))
VASでは (-2mm (95% CI -3.8 to -0.5))
サブグループ解析では、臨床的意義を超えたのは英語以外、アウトカム測定に大きなバイアスが懸念される研究のみだった。

また1983年に出版された論文のみ臨床的有意となるが、その後の差は小さくなり、2012年以降からは0.2の同等性マージンの中に入っている (VAS 5mm)。
Secondary outcome:機能 19の研究が対象となり、SMDは-0.11 (95%CI -0.18 to -0.05)だった。
Secondary outcome:有害事象 RR 1.49 ( 95%CI 1.12 to 1.98) 関節注射群が3.7%、プラセボ群では2.5%だった。

Discussion:
 本研究の結果としては、関節注射はプラセボと比較して、痛みの強さのわずかな減少に有意に関連していたが、その差は臨床的に重要な最小の群間差未満であり、VAS5mmの同等性マージンを持って同等という結果であった。またプラセボ群と比べて有意な有害事象の増加を認めた。またアウトカムについて選択的な報告がされていたこと、不利な結果の報告がされていなかったことがわかった。
Strength
OAに対するレビューとしては最大、以前のものと比較すると包括的で2倍の試験数となっている。
最小の臨床的意義のある差をVAS9mmとした点は先行研究と比べても保守的である(20mmとした文献もあり)。
Limitation
統合した結果なので対象を絞れば、恩恵を受ける集団がある可能性がある。
有害事象に対して有意差は出たが、正確にはIPDmetaやすべての有害事象を分類して検討しなければ本当に関係があるかは言えない。

【開催日】2022年9月14日(水)

アロプリノールはCKDの進行を抑制するか?

-文献名-
Sunil V. Badve, Elaine M. Pascoe, M.Biostat, et al. Effects of Allopurinol on the Progression of Chronic Kidney Disease. N Engl J Med.2020; 382(26):2504-2513.
-要約-
Introduction
 血清尿酸値の上昇は、慢性腎臓病(以下CKD)の進行と関連している。しかしアロプリノールによる尿酸値低下治療が、進行リスクのある慢性腎臓病患者における推定糸球体濾過量(eGFR)の低下を抑制できるかどうかは分かっていない。
Method
オーストラリアとニュージーランドの31施設において無作為化比較試験を実施。Stage3または4(eGFR15~59 mL/分/1.73 m2)のCKD患者で痛風の既往がなく、尿中アルブミン/クレアチニン比が265mg/g・Cre以上、または前年から3.0mL/分/1.73 m2以上のeGFR減少が認められた成人に、アロプリノール(100~300mg/日)またはプラセボをランダムに割り付けた。主要アウトカムは、無作為化から104週目までの、慢性腎臓病疫学共同研究(CKD-EPI)のクレアチニン式(★)を用いて算出したeGFR変化であった。
(★)

Results
 620例のうち369例がアロプリノール(185例)またはプラセボ(184例)に無作為に割り付けられた後、募集が遅れたため登録が停止された。各群3名の患者が無作為化後すぐに脱落した。
残りの363例(平均eGFR31.7 mL/分/1.73 m2、平均尿ALB/Cre比中央値716.9mg/g・Cre、平均血清尿酸値8.2mg/dL)を主要評価項目として組み入れた。eGFRの変化は、アロプリノール群とプラセボ群で有意差はなかった。
(それぞれ、-3.33 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-4.11~-2.55]、および-3.23 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-3.98~-2.47]であった:平均差、-0.10 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-1.18~0.97];P=0.85)。アロプリノール群の平均血清尿酸値は,12週目に5.1 mg/dL(95% CI, 4.8 to 5.3)に低下し,104週目まで5.3 mg/dL(95% CI, 5.1 to 5.6)で維持された。一方でプラセボ群の12週時点の平均血清尿酸値は8.2 mg mg/dL(95% CI, 7.9 to 8.5)で、追跡期間中は8.2 mg/dL(95% CI, 7.9 to 8.4)で維持された。ベースライン値を調整した血清尿酸値の平均差は-2.7 mg/dL(95% CI, -3.0 to -2.5)だった。重篤な有害事象はアロプリノール群では182例中84例(46%)、プラセボ群では181例中79例(44%)で報告された。

患者のベースライン特性は、腎臓病の主原因を除いて、割り付けられた治療群間でバランスがとれていた。平均(±SD)eGFRは31.7±12.0ml/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比中央値は716.9mg/g・Cre(四分位範囲、244.3〜1857)、血清尿酸値の平均は8.2±1.8 mg/deciliter(490±110μmol/L)であった。

図1. アロプリノールの推定糸球体濾過量(eGFR)に対する効果。
eGFRに対するアロプリノールとプラセボの効果を示す。Iバーは95%信頼区間を示す。
eGFRの変化は、アロプリノール群とプラセボ群で有意差はなかった。

図2. 血清尿酸値とアルブミン尿に対するアロプリノールの効果
血清尿酸値(パネルA)および尿中アルブミン:クレアチニン比(パネルB)に対するアロプリノールとプラセボの効果を示す。

Discussion
登録が不完全であったため検出力が不十分であったこと、試験レジメンを中止した患者の割合が高かったこと、eGFRの算出に血清クレアチニンベースの式を用いたこと、代替アウトカムを用いたことなど、いくつかの大きな限界があった。またイオヘキソールなどの外因性糸球体濾過マーカーの血漿クリアランスを用いた糸球体濾過量の測定を行わなかったことも制限となった。
Result
慢性腎臓病で進行のリスクが高い患者において、アロプリノールによる尿酸値低下治療はプラセボと比較してeGFR低下を遅らせなかった。

【開催日】2022年9月14日(水)

16カ国におけるヒトのサル痘ウイルス感染

-文献名-
John P. Thornhill. et al. Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022. NEJM. July 21, 2022

-要約-
Introduction/Background
2022年4月以前は、ヒトのサル痘ウイルス感染は、流行しているアフリカ地域以外では、ほとんど報告がなかった。現在は、世界中で症例が発生している。しかし、伝染、危険因子、臨床症状、および感染の転帰は十分に定義されていない。

Method
私たちは、臨床医の国際共同グループを結成し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で確認されたサル痘ウイルス感染症の症状、臨床経過、転帰を説明するための国際症例シリーズ作成に貢献した。

Result
 2022年4月27日から6月24日の間に16か国の43か所で診断された 528 件の感染を報告する。全体として、感染者の98%が、ゲイまたはバイセクシュアルの男性で、75%が白人で、41%がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していた。年齢の中央値は38歳だった。伝染は、感染者の95%で性行為を介して発生した疑いがあった。この症例シリーズでは、95%の人に発疹があり(64%は10個未満の病変)、73%は肛門性器病変、41%は粘膜病変 (54人は単一の性器病変)だった。発疹に先行する一般的な全身的特徴には、発熱 (62%)、無気力 (41%)、筋肉痛 (31%)、および頭痛 (27%) が含まれていた。リンパ節腫脹(56%)も一般的だった。検査を受けた377人中109人 (29%) で性感染症の併発が報告された。暴露歴が明らかな23人のうち、潜伏期間の中央値は7日 (範囲:3~20日) だった。サル痘ウイルスDNAは、精液を分析した32人中29 人で検出された。全体の5%の人に抗ウイルス治療が施され、70人 (13%) が入院した。入院の理由は疼痛管理で、主に肛門直腸の重度の痛み(21人)であった。軟部組織重複感染 (18人); 経口摂取を制限する咽頭炎 (5人); 眼病変 (2人); 急性腎障害 (2人); 心筋炎 (2人); および感染制御目的(13人)。死亡例は報告されていない。

Discussion
 性行為は、主にゲイまたはバイセクシュアルの男性の間で最も頻繁に疑われる感染経路だった。性的感染の可能性が高いことは、接種部位を表す可能性のある原発性生殖器、肛門、および口腔粘膜病変の所見によって裏付けられた。精液を検査した32例中29例で精液中のPCRによって検出されたサル痘ウイルスDNAは、この仮説をさらに支持する。しかし、これらの標本で検出されたウイルスDNAが複製可能であったかどうかは不明であるため、精液が感染を伝達できるかどうかはまだ調査されていない。セックスパーティーやサウナに関連する集団発生の報告は、性的接触が伝染の促進因子として潜在的な役割を果たしていることをさらに強調している。海外旅行や現場での性行為に関連する大規模な集会への参加は、性的ネットワークを通じて増幅されたサル痘感染の世界的な広がりを説明するかもしれない。
私たちが説明する臨床症状には、国際的に受け入れられている症例定義には含まれていないいくつかの明確な特徴がある。これらの定義は最近、ゲイまたはバイセクシュアルの男性、およびリスクグループとして男性とセックスをする他の男性を含むように拡大されたが、粘膜または直腸の症状を特に強調していない。また、最初の単一病変の症状の可能性について警告していない。既存の定義では、異常な発疹の文脈でサル痘を考慮することを推奨しているが、考えられる症状の全範囲をカバーしていない。孤立性生殖器の皮膚病変や手のひらや足の裏の病変は、梅毒やその他の性感染症と誤診されやすく、検出が遅れる可能性がある。付随する検査室で確認された性感染症も、検査を受けた人の29% で報告された。したがって、伝統的な性感染症の症状を呈するリスクのある人には、サル痘を考慮することを勧める。
私たちのシリーズでは、サル痘の診断は、皮膚または生殖器の病変から採取された綿棒標本から最も一般的に確認された。喉または鼻咽頭の綿棒標本と血液はあまり一般的に検査されていない。肛門の痛みや直腸炎を呈する人には、肛門または直腸のスワブを考慮する必要がある。
この症例シリーズの臨床転帰は心強いものだった。ほとんどの症例は軽症で自然治癒し、死亡例はなかった。患者の 13%が入院したが、入院した患者の大半で深刻な合併症は報告されていない。入院の一般的な理由は、痛みと細菌の重複感染だった。ただし、まれに深刻な合併症(心筋炎と喉頭蓋炎)が観察されたため、フォローアップ期間が短いことを考えると、特に長期にわたって、疾患と合併症の全範囲をさらに研究する必要がある。サル痘の臨床症状と重症度は、HIV感染の有無にかかわらず似ているように見えたが、HIVに感染した私たちのシリーズのほとんどすべての人で、HIVは十分に制御されており、CD4細胞数の中央値は1立方ミリメートルあたり680細胞だった。
ごく一部の人(5%)が抗ウイルス療法を受け、ほとんどの場合、シドフォビルまたはテコビリマットが使用された。ヒトにおけるこれらの化合物の有効性に関するデータは限られているが、動物での研究および症例報告は、それらが有効である可能性があることを示唆している。この症例シリーズでは、56人が50歳以上で、全体で9%が以前に天然痘の予防接種を受けたと報告しているため、その効果についてコメントすることはできない。
医療の専門家は、サル痘の症例を認識して管理するための教育を受ける必要がある。危険にさらされている集団の検査や教育を慎重にサポートする的を絞った健康増進が必要である。公衆衛生介入の実施を形成する際にコミュニティを最初から関与させることは、それらが適切で偏見のないものであることを保証し、アウトブレイクを地下に追いやるメッセージを回避するために不可欠である。病変が消失した後の潜在的な感染性ウイルス排出の期間は不明である。UKHSA のガイドラインでは、感染後8週間はコンドームを使用することを推奨しているが、精液中のウイルス排出の潜在的な期間と感染性については、さらなる研究が必要である。曝露前予防におけるワクチンの潜在的な役割についても研究が必要である。
現在のアウトブレイクは、ゲイまたはバイセクシュアルの男性、および男性とセックスをする他の男性に不均衡に影響を及ぼしているが、サル痘は「アフリカの病気」ではなく、もはや「ゲイの病気」でもない。誰にでも影響を与える可能性がある。9人の異性愛者のサル痘患者を特定した。異性愛者の診断を見逃さないように、特に発疹が全身症状と組み合わされている場合は、異常な急性発疹を検査する際に注意を払うことをお勧めする。

今回の限界としては、私たちの症例シリーズは、さまざまな (現地で承認された) PCRプラットフォームで感染が確認された観察的な簡易の症例シリーズである。この症例シリーズの人は、医療を必要とするようになった症状があった。これは、無症状の人、症状が軽度の人、または無症候性の人を見逃す可能性があることを意味する。暴露前のHIV予防を受けている人とセクシュアルヘルスに関する医療機関、およびHIV 感染者と医療機関の間の関係性や距離感は、特にこれらのグループで早期にケアを求める可能性があることを考えると、紹介バイアスにつながった可能性がある。他の集団への拡散が予想され、警戒が必要である。症状は発症時から記録されているため、初期の症状は過少報告されている可能性がある。
ウイルスには国境がないため、知識のギャップを埋め、流行を封じ込めるために、世界は団結して迅速に動く必要がある。広く利用可能な治療法や予防法がない場合、封じ込めには迅速な症例の特定が不可欠である。臨床医学ではよくあることだが、病気がどのように現れるかには多様性があり、サル痘も例外ではない。

Conclusion
この症例シリーズでは、サル痘はさまざまな皮膚科学的および全身的な臨床所見を示している。サル痘が伝統的に風土病であった地域以外で同時に症例が特定されたことは、さらなる地域での感染拡大を封じ込めるために症例の迅速な特定と診断の必要性を浮き彫りにしている。

【開催日】2022年8月10日(水)

在宅療養中のALS患者の主介護者における介護負担と関連要因:横断研究

-文献名-
Tang S, Li L, Xue H, et al. Caregiver burden and associated factors among primary caregivers of patients with ALS in home care: a cross-sectional survey study. BMJ Open. 2021;11(9):e050185.

-要約-
Introduction:1人のALS患者に対して平均2人の介護者が必要であり、1日の平均介護時間は9.5時間で、そのほとんどは家事や食事、身だしなみなどに費やされている。病気の進行に伴って介護者の負担は重くなり、昼夜それぞれ平均14.4時間の介護と2.4回の起床を要する。介護者の30%が「自分の生活の質は患者のそれと比べて劣っている」と考えている。ALS患者の主介護者の介護負担とその影響因子に関する研究は限られており、多くは単変量解析を用いて、詳細な分析は不足している。
Aim:中国で在宅介護を受けているALS患者の一次介護者の介護負担とその影響因子について調査した。
Method:
デザイン:横断的研究
期間:2019年1月から2020年5月
セッティング:中国山西省太原市(下図参照)の三次総合病院の神経科
対象者:ALS患者(入院患者および経過観察中の外来患者)とその介護者(N=124組)
収集方法:対面式インタビューで以下を収集
一般情報質問票、ALSFRS-R(ALS Functional Rating Scale-Revised)、Zarit Burden Interview(ZBI)、SF-36、自己評価式不安尺度(SAS)、自己評価式抑うつ尺度(SDS)
主要評価項目:Zarit Burden Interviewスコアと個人・役割負担スコア。
副次的評価項目:なし

Results:
120/124枚が回収(97%)。介護者の男女比は1:1.4、平均年齢は50.23 ± 8.45歳、ほとんどが既婚者(83.3%)、66.7%が患者の配偶者、95%以上が平均〜良好な健康状態。 7%が介護士や乳母を雇っていない。ほとんどが月収3000元未満(55,000円)、62.5%が都市部に住み、平均介護は1日4〜8時間、介護した年数が比較的分散している.ほとんどが患者の病気について少なくともある程度の知識を持っている。
患者の男女比は1:1、平均年齢は52.21±5.58歳、教育レベルはほとんどが小中学校、87.5%が既婚、62.5%が医療保険加入、平均疾患期間は2.5年(範囲:1〜3年)。

介護負担度分類に影響を与える要因の分析(ロジスティック回帰分析)
AIスコアが高いほど介護者の負担は大きく(OR=1.351、95%CI: 1.038~1.759)
患者の疾患に関する知識がない人の介護者負担は、知識がある人の0.305倍(95%CI 0.107~0.593 )であった。(Table 4)


Discussion:
本結果は、介護者の負担の合計が 63.63±16.36 点であり、中程度から重度の負担に分類され、米国27、イタリア11、インド28 の報告より高かった。理由として、①本研究で患者の66.67%は中等度から重度で、介護者の負担が高かった。②罹病期間は1〜3年であった。これは疾患の急速な進行の期間に相当し、介護必要性が急増加する時期と考えられる。③中国の在宅治療やケアを提供する能力は限られており、まだ医療保険償還に含まれていない。

介護者の病気に関する知識は、介護者の負担と正の相関を持つ影響因子であった。
これは大切な人を失う苦痛についてより明確に理解することができ、介護者の負担を増加させることになると考えられる。
患者の不安や抑うつなどの心理的障害は、介護者の不安や抑うつの重症度と強い相関がある。社会および地域は、患者およびその家族のQOLを向上させるために、医療保険、民間保険、地域医療サービスなどのさまざまな手段により、患者とその家族に対して可能な限りの政策的支援を行い、経済的負担を軽減する必要がある。

限界:①サンプル数②自己評価尺度のため、想起バイアス (③発表者注:因果の逆転を証明できない)
結論:ALS患者の介護者は、中等度から重度の介護負担を感じていた。疾患に関する知識が豊富で心理的不安が大きい介護者ほど、介護負担が大きいことがわかった。

【開催日】2022年3月9日(水)

高齢者における目標血圧のランダム化試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Zhang W, Zhang S, Deng Y,et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385(14):1268-1279.

-要約-
【背景】高齢の高血圧患者において、心血管リスクを低減するための適切な収縮期血圧の目標値は、依然として不明である。世界的な高齢化に伴い、恒例の高血圧患者における収縮期血圧の治療目標値を決定することは研究の争点となっているが、高齢者における収縮期血圧の目標値に関しては各国のガイドラインでは依然として移管していない。75歳以上の患者でもSPRINT試験において集中的な血圧コントロールにより心血管疾患の予防効果が観察されたほか、メタアナリシスでは収縮期血圧の目標値を130mmHgとすることで高リスク患者では心血管イベント及び死亡リスクが減少することが示された以峰で、高齢者における収縮期血圧の130mmHg未満への引き下げは慎重に行うべきだと示唆されている。
【方法】多施設共同無作為化比較試験(STEP試験:Strategy of Blood Pressure Intervation in the Elderly Hyper-tensive Patients)において,60~80歳の中国人高血圧患者を、収縮期血圧の目標値を110~130mmHg(集中治療)または130~150mmHg(標準治療)に無作為に割り付け、フォローアップ期間を4年と計画した。1、2、3カ月後にフォローアップの診察をうけ、その後は予定の48カ月までは3カ月毎で診察を受けることとした。薬剤調整は診察室血圧の測定に基づき行われた。一方で家庭血圧測定も実施し、スマートフォンアプリによる血圧管理効果も検証した。主要アウトカムは、脳卒中、急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症による入院)、急性虚血性心不全、冠動脈再灌流、心房細動、心血管系疾患が原因による死亡の複合とした。心血管疾患の10年リスクはFramingham Risk scoreを用いて推定した。

【結果】 対象となった9624例のうち、1113人(11.6%)が除外、8511例が試験に登録され、4243例が集中治療群に、4268例が標準治療群に無作為に割り付けられた。試験終了までに234例(2.7%)が追跡不能となった。患者のうち19.1%が糖尿病の既往があり、6.3%が心血管疾患の既往あり、64.8%がフラミンガムリスクスコア15%以上だった。1年後の平均収縮期血圧は、集中治療群で127.5mmHg、標準治療群で135.3mmHgであった。中央値3.34年の追跡期間中に、一次アウトカムイベントは集中治療群147例(3.5%)に対して、標準治療群196例(4.6%)に発生した(ハザード比,0.74;95%信頼区間[CI],0.60~0.92;P=0.007)。主要転帰の個々の要素についても、集中治療群が有利であった。脳卒中のハザード比は 0.67(95% CI,0.47~0.97)、急性冠症候群は 0.67(95% CI,0.47~0.97) であった。急性心不全 0.27(95% CI, 0.08~0.98) 、冠動脈再灌流 0.69(95% CI, 0.40~1.18) 、心房細動 0.96(95% CI, 0.55~1.68) 、心血管死 0.72(95% CI, 0.39~1.32 )であった。安全性および腎機能に関する転帰は,低血圧の発生率が集中治療群で高かった(3.4%vs2.6%、P=0.03)ことを除き,両群間に有意差はなかった。

【ディスカッション】高血圧の集中治療は、心血管ベントの発生を有意に減少させ、ほとんどの副次的転帰についても良好な結果が得られた。一方であらゆる原因による死亡リスクは有意差は無かった。STEP試験もSPRINT試験はともに集中的な血圧コントロールが心血管系疾患の予防に有効であったが、両試験に大きな相違点がある。SPRINTでは診察室血圧は自動化されたシステムで行われすべてのプロセスで試験担当者は立ち会わなかったが、STEPではオシロメトリック電子血圧計を使用し訓練を受けたスタッフが診察室で血圧測定した。またSPRINTでは糖尿病患者は除外されている(髙石注:50歳以上の心血管リスク因子を有する非糖尿病患者を対象に、強化療法(目標SBP<120mmHg)と標準療法(目標SBP<140mmHg)とを比較)。両試験は脳卒中既往者を除外している。STEP試験とSPRINT試験のあらゆる原因による死亡や心血管死亡リスクの差は、試験の意義と適格基準、血圧の目標値、地理的位置、試験集団の人種的・民族的背景の違いによって部分的に説明されるかもしれない。STEP試験はサンプルサイズが大きく、慢性疾患を併せ持つ多様な患者層、高い追跡調査率、家庭血圧のモニタリングの使用などが長所である。試験の限界は中国の人口の90%以上を占める漢民族のみを対象としていること。今後は民族による無作為化の層別化が課題だろう。またFramingham Risk scoreは博仁を対象に作成されており、中国人成人の心血管系リスクを過大評価する可能性がある。
【結論】高齢の高血圧患者において,収縮期血圧の目標値を110~130mmHg未する集中治療は,130~150mmHg未満とする標準治療よりも心血管イベントの発生率が低いことが示された。


Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
介入を中止した患者は,収縮期血圧の目標値や降圧剤に関連する副作用のため試験介入を中止したが,追跡調査には参加した。追跡不能となった患者は、連絡が途絶え、ある追跡訪問から試験終了まで主要アウトカムに関するデータが確認されなかったものである。データの解析はITTアプローチに基づいて行われた。追跡不能となった患者も解析に含め、データは最後の追跡訪問の時点で打ち切った。

Figure 2. OfficeSystolic Blood Pressure Measurements.
平均投薬回数は、患者1人あたりの各診察時に投与された血圧降下剤の数に基づいている。

Figure 3. Cumulative Incidence for the Primary Outcome.
主要転帰は,脳卒中,急性冠症候群,急性心不全,冠動脈再灌流,心房細動,心血管系原因による死亡の複合とした。Fine-Gray 分布ハザードモデルを用いて計算し,臨床施設を調整。挿入図は、同じデータを拡大したY軸である。

【開催日】2022年3月2日(水)

年齢別の甲状腺刺激ホルモンの参照は、ヨウ素過剰地域の高齢患者の甲状腺機能低下症の過剰診断を減少させる

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Yingchai Zhang, Yu Sun, Zhiwei He, Shuhang Xu, Chao Liu1, Yongze Li, Zhongyan Shan, Weiping Teng. Age‐specific thyrotropin references decrease over‐diagnosis of hypothyroidism in elderly patients in iodine‐excessive areas. Clinical Endocrinology. 2021;1–8.

-要約-
過去にも、JCで潜在性甲状腺機能低下症の文献が取り上げられている。
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症(2017年) https://www.hcfm.jp/journal/?p=1318、レボチロキシンは80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症のQOLを改善しない(2020年)https://www.hcfm.jp/journal/?p=1919 

目的:
過剰なヨウ素への急性または慢性の曝露は、甲状腺の生理機能に有害な影響を及ぼす。したがって、この研究は、過剰なヨウ素摂取に慢性的にさらされている地理的地域に居住する高齢者集団における顕性甲状腺機能低下症(OH)および潜在性甲状腺機能低下症(SCH)の有病率を決定し、寄与する危険因子を分析することを目的とした。

設計:
この横断的研究は、高ヨウ素摂取への慢性的な曝露を記録した江蘇省の地域で2016年から2017年に実施された。
対象者:
多段階の層化抽出法を使用して、2559人の成人参加者を登録した。

測定:
尿中ヨウ素濃度(UIC)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベル、およびその他の関連パラメーターを測定した(Table 1.ヨウ素過剰地域の研究参加者の特徴)。人口統計情報は、標準化された質問票を使用して記録された。年齢別のTSH参照は、米国臨床生化学会ガイドラインによって決定された(Table2.無病者の年齢別TSH参照, Table3. TIDE研究からのヨウ素が適切な地域の無病者の年齢別TSH参照, Figure1. 2つの異なる年齢層におけるTSH分布。点線:70歳以上の無病者。実線:70歳未満の無病の個人)。
単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実行して、研究対象集団における甲状腺機能低下症の危険因子を特定した。

結果:
参加者のUICの中央値は307.3µg / L(四分位値:200.7、469.8 µg / L)だった。検査室の基準値を使用した70歳以上の被験者におけるOHの有病率は2.37%だった。ただし、年齢別の参照範囲を使用すると、1.78%に減少した。同様に、SCHの有病率も、年齢別の基準値を適用すると、29.59%から2.96%に大幅に低下した(Table 4.OHおよびSCHの有病率)。
単変量モデルと多変量モデルの両方で、甲状腺機能低下症の危険因子として、高齢、女性の性別、および高いUICが特定された(Table5. 甲状腺機能低下症の危険因子)。

限界:
まず、甲状腺疾患の病歴など、研究のいくつかのパラメーターは、長期の医療記録がない場合、参加者による想起バイアスの影響を受けている。第二に、食事中のヨウ素摂取量の推定では、食事中のヨウ素の重要な供給源でもある他の食品(卵など)を無視している。したがって、食事中のヨウ素摂取量を過小評価する可能性がある。第三に、この研究はヨウ素過剰地域で実施された。したがって、この研究集団から得られたTSH基準値は、生理学的に「正常」とは見なされない可能性がある。年齢別のTSH基準値は、ヨウ素が適切な領域の基準値よりも高く、甲状腺機能低下症の診断を過小評価している可能性がある。したがって、適切なヨウ素状態の領域での定期的なスクリーニングの基準範囲を決定することが最善である可能性がある。最後に、これは2016年から2017年までのデータが収集された横断研究だった。政府はその後2018年にこれらの地域の非ヨウ素化塩を承認したため、現在のシナリオは大幅に異なる可能性がある。私たちの知る限り、これらの地域での非ヨウ素添加塩の使用によってOHとSCHの有病率が変化したかどうかを調査した研究はまだない。したがって、これらのヨウ素過剰地域における非ヨウ素化塩法の影響を調査するために、5年間の追跡調査を開始する。

結論:
年齢別のTSH基準値を使用すると、研究対象集団におけるOHおよびSCHの有病率が大幅に低下し、不必要な過剰診断および過剰治療が防止された。

【開催日】
2022年2月2日(水)

安定した慢性心不全患者における利尿剤の休薬

-文献名-
Short term diuretic withdrawal in stable outpatients with mild heart failure and no fluid retention receiving optimal therapy Eur Heart J.2019;40(44):3605-3612

-要約-
【目的】
ループ利尿薬は心不全の治療に広く使用されているが,外来での利尿薬調整の指針となる最新のデータは少ない.
【方法】
ブラジルの11の心不全クリニックにおいて,安定した心不全外来患者に対する低用量フロセミドの休薬の安全性と忍容性を,前向き無作為化二重盲検プロトコールで検証した.
本試験では、2つの主要評価項目が盲検により評価された。(i) 4つの時期(ベースライン、15日目、45日目、90日目)で評価した視覚的アナログスケールによる呼吸困難スコアの曲線下面積(AUC)として定量化した症状評価、および (ii) 追跡期間中に利尿剤の再使用がなく維持される患者の割合.
188名の患者(女性25%、59±13歳、左室駆出率32±8%)を登録し、フロセミド休薬群(n=95)または維持群(n=93)に無作為に割り付けられた。
【結果】
第一の主要評価項目については、フロセミド休薬と継続投与の比較において、患者の呼吸困難の評価に有意差は認められなかった[AUC中央値1875(IQR383-3360)および1541(IQR474-3124)、それぞれ、P = 0.94]
第二の主要評価項目については、休薬群70人(75.3%)、維持群77人(83.7%)が、追跡期間中にフロセミドの再使用がなかった(休薬によるフロセミド追加使用のオッズ比1.69、95%信頼区間0.82-3.49、P = 0.16 )。心不全関連のイベント(入院、救急外来受診、死亡)は頻度が少なく、群間で差がなかった(P = 1.0)。
【結論】
利尿剤の休薬により、呼吸困難の自己認識やフロセミドの再使用の必要性が増加することはなかった。最適な薬物療法を受けている体液貯留の徴候のない安定した外来患者において、利尿剤の中止は検討に値すると思われる。

【limitation】
フロセミド中止による長期的な影響については不確実である。
呼吸困難VASを評価するために事前に定義されたサンプルサイズを達成できなかった。
比較的若いHF患者集団が登録されており、私たちの結果は非常に高齢者には当てはまらない可能性がある。

【開催日】
2022年1月12日(水)

血圧を下げると糖尿病の新規発症が予防できる!?

―文献名―
Milad Nazarzadeh, et al. Blood pressure lowering and risk of new-onset type 2 diabetes: an individual participant data meta-analysis. Lancet 2021; 398: 1803–10

―要約―
背景
血圧の低下は、糖尿病の微小血管および大血管合併症を予防するための確立された戦略であるが、糖尿病そのものの発症予防における役割ははっきりしていない。我々は、主要な無作為化対照試験の個人参加者データを用いて、血圧低下そのものの糖尿病発症への効果を報告した無作為化試験のメタアナリシスを検討することを目的とした。

方法
無作為化対照試験の大規模な個人参加者データを用い,データをプールして血圧低下自体が新規2型糖尿病のリスクに及ぼす影響を調べた。また,5つの主要な降圧薬の新規発症2型糖尿病リスクに対する効果の違いを調べるために,個人参加者データによるネットワークメタ分析を行った。全体として、1973年から2008年の間に実施された22件の試験のデータを、Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration(オックスフォード大学、英国・オックスフォード)が入手した。
・特定のクラスの降圧剤とプラセボまたは他のクラスの血圧降下剤を比較した一次予防および二次予防試験で、無作為に割り振られた各群で少なくとも1000人年の追跡調査が行われたすべての試験を対象とした。
・ベースライン時に糖尿病と診断された参加者、および糖尿病が蔓延している患者を対象とした試験は除外した。
・参加者は介入治療群と比較治療群に分けられた。プラセボ対照試験では、プラセボ群を比較対照とし、有効群を介入群とした。また、2種類以上の薬剤を比較したhead to head試験では、収縮期血圧の低下が大きい方を介入群とし、もう一方を比較群とした。
・メタ解析では、Kaplan Meier生存曲線を用いて、追跡期間中の生存確率を比較した。
・BMIによる効果の不均一性を評価するために、サブグループ分析を行った。尤度比検定を用いて、ベースライン時のBMIのサブグループ間における治療効果の不均一性を検証した。
・すべての試験からデータを取得できないことが取得バイアスにつながるかどうかを確認するために、funnel plotとEgger’s regression testを用いた。各試験のバイアスのリスクは,改訂版コクラン・リスクオブバイアス・ツールで評価し,以前の研究でも報告。
・調査結果の頑健性を確認するために,いくつかの感度分析と補足分析を行いました。各試験で報告された異なる糖尿病確認方法による層別解析を行い,確認方法の違いによる所見の一貫性を評価した。
・さらに、ランダム効果項を含み、複数レベルの潜在的交絡因子を調整した1ステージのCox比例ハザードモデルを報告した。絶対的なリスク減少は、治療効果を絶対的な尺度で示すために、IDリンクを用いたポアソン回帰モデルを用いて算出した。最後に、補完的な分析として、自然に無作為化された遺伝的変異を用いて血圧降下治療効果を模倣する独立した枠組みとして、メンデリアンランダム化による血圧降下効果を再評価しました
・1段階の個人参加者データのメタ解析では、層別Cox比例ハザードモデルを用い、個人参加者データのネットワークメタ解析では、ロジスティック回帰モデルを用いて、薬剤クラス比較の相対リスク(RR)を算出した。
結果
19の無作為化対照試験から得られた145,939人(男性88,500人[60-6%]、女性57,429人[39-4%])が、1段階の個人参加者データのメタ分析に含まれた。22試験が個人参加者データネットワークメタ分析に含まれた。中央値4~5年(IQR 2~0)の追跡調査の結果,9883人が新たに2型糖尿病と診断された。
・収縮期血圧を5mmHg下げることで、すべての試験で2型糖尿病のリスクが11%減少した(ハザード比0-89[95%CI 0-84-0-95])。
・主要な5種類の降圧薬の効果を検討した結果、プラセボと比較して、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(RR 0-84 [95% 0-76-0-93])とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(RR 0-84 [0-76-0-92])は、新規発症の2型糖尿病のリスクを低減した。
・しかし、βブロッカー(RR 1-48 [1-27-1-72])とサイアザイド系利尿薬(RR 1-20 [1-07-1-35])の使用はこのリスクを増加させ、カルシウム拮抗薬(RR 1-02 [0-92-1-13])には重要な効果は認められなかった。

解釈
血圧の低下は,新規発症の2型糖尿病の予防に有効な戦略である。しかし、確立された薬理学的介入は、オフターゲット効果の違いにより、糖尿病に対する効果が質的にも量的にも異なっており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬が最も良好な結果を示した。このエビデンスは、糖尿病予防のために選択されたクラスの降圧剤の適応を支持するものであり、個人の臨床的な糖尿病リスクに応じた薬剤選択がさらに洗練される可能性がある。

ディスカッションより抜粋
・血圧の上昇が2型糖尿病の発症を引き起こす正確な生物学的経路は不明ですが、いくつかの潜在的なメカニズムが報告されています。例えば、インスリン抵抗性は、代謝経路と心血管経路のクロストークにおいて中心的な役割を果たしている可能性があります。また、交感神経系の活性化や内皮機能障害につながる慢性炎症など、その他の経路も高血圧と糖尿病リスクとの関連性が示唆されている。例えば、レニン・アンジオテンシン阻害薬は、血圧降下作用とは別に、炎症マーカーの濃度を低下させることが示されており、これが糖尿病予防効果を高める可能性がある。)
(www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し、一部加筆)

【開催日】
2021年12月8日(水)

変形性膝・股関節症へのNSAIDs、オピオイド治療の有効性と安全性

―文献名―
Bruno R da Costa. Effectiveness and safety of non-steroidal anti-inflammatory drugs and opioid treatment for knee and hip osteoarthritis: network meta-analysis. BMJ 2021;375:n2321: published 12 October 2021.

―要約―
Introduction:
 変形性関節症は痛みにより、身体機能とQOLが低下し、全ての原因による死亡リスクが高まる。局所または経口NSAID、パラセタモール(アセトアミノフェン)、オピオイドが一次薬物療法となる。これまでのエビデンスでは、痛みと身体機能の改善がオピオイドとNSAIDで似通っている可能性を示唆しているが、オピオイドは多くの有害事象を引き起こす。オピオイドによる悪心・嘔吐、眠気などの副作用に加えて、慢性的な使用により骨折、心血管イベント、オピオイド依存、死亡リスクの増加と関連している。カナダでは2000年から2017年の間に、オピオイド関連の死亡率が593%増加した。にも関わらず、オピオイドは英国、米国、カナダ、オーストラリアで変形性関節症の痛みに対して最も処方されている薬の一つとなっている。
 以前のシステマティックレビューでは、変形性関節症の痛みに対するNSAIDとオピオイドの有効性が報告されている。一方、これまでのレビューでは、薬剤の有効量の中で最低用量を処方する、という推奨事項を実施するのに十分なエビデンスは得られていない。詳細なエビデンスを提示し、より安全な処方を可能にするために、膝と股関節の変形性関節症の痛みと身体機能に対するNSAIDs、オピオイド、パラセタモールの様々な製剤と用量の有効性と安全性を評価した。
Method:
システマティックレビューとメタアナリシスガイドラインの優先レポート項目に従い、膝または股関節の変形性関節症の患者の大規模ランダム化試験を検討した。NSAID、オピオイド、パラセタモール、またはプラセボ。膝または股関節以外の関節炎を含む試験は、患者の75%以上が膝または股関節の変形性関節症を確認した場合にのみ含まれた。

Results:
102 829人の参加者からなる192件の試験で、90種類の有効な製剤または用量が検討された(NSAIDでは68、オピオイドでは19、パラセタモールでは3)。5つの経口製剤(ジクロフェナク150 mg /日、エトリコキシブ60および90 mg /日、ロフェコキシブ25および50 mg /日)は、臨床的に関連する最小限の痛みの軽減よりも治療効果が大きくなる確率が99%以上だった。局所ジクロフェナク(70-81および140-160mg /日)の確率は92.3%以上であり、すべてのオピオイドは、臨床的に関連する最小限の痛みの軽減よりも治療効果が大きくなる確率が53%以下だった。経口NSAID、局所NSAID、およびオピオイドのそれぞれ18.5%、0%、83.3%は、有害事象による脱落のリスクが増加していた。経口NSAID、局所NSAID、およびオピオイドのそれぞれ29.8%、0%、および89.5%で、有害事象のリスクが増加した。

Discussion:
エトリコキシブ60mg /日とジクロフェナク150mg /日は、変形性関節症患者の痛みと機能に最も効果的な経口NSAIDであるよう。ただし、これらの治療法は、有害事象のリスクがわずかに増加するため、併存症のある患者や長期使用にはおそらく適切ではない。さらに、有害事象による脱落のリスクの増加は、ジクロフェナク150mg /日で多くみられた。局所ジクロフェナク70-81mg /日は、全身曝露の減少と低用量のため、効果的で、一般的に安全であり、変形性膝関節症の第一選択の薬理学的治療として考慮されるべきである。オピオイド治療の臨床的利点は、準備や投与量に関係なく、変形性関節症の患者に引き起こす可能性のある害を上回っていない。


Fig2:変形性関節症の痛みに対する治療効果の大きさに従って順序付けられた、経口プラセボと比較した有害事象による変形性関節症の痛みおよび脱落に対する治療効果。青:経口非ステロイド性抗炎症薬; 緑:局所非ステロイド性抗炎症薬; オレンジ:オピオイド。


Fig3:図2の続き。変形性関節症の痛みに対する治療効果の大きさに従って順序付けられた、経口プラセボと比較した有害事象による変形性関節症の痛みおよび脱落に対する治療効果。青:経口非ステロイド性抗炎症薬; 緑:局所非ステロイド性抗炎症薬; オレンジ:オピオイド; ピンク:パラセタモール; 黒:プラセボ。


Fig4:経口プラセボと比較して臨床的に重要な差異が最小である薬剤の確率と、有害事象のために参加者が治療を中断する確率を示す2次元グラフ。有害事象により経口プラセボが脱落する確率は5%。MID =グループ間の臨床的に重要な最小の差。

【開催日】
2021年12月1日(水)

パーキンソン病における緩和ケアとホスピスへの紹介ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.

―要約―

【Introduction】
パーキンソン病およびその関連疾患(PDRD)は、2番目に多い神経変性疾患であり、死亡原因の上位を占めている。しかし、PDRD患者が終末期の緩和ケア(ホスピス)を受ける機会は、他の神経疾患を含む疾患に比べて少ない。

米国では、ホスピスケアは余命6ヶ月の人に対する緩和ケアと定義されており、米国のメディケアのホスピス給付は、2人の医師によって予後6カ月以下と認定され、延命治療ではなく安楽に重点を置いた医療を選択した患者が対象となる。PDRDは主要な死因の一つであるにもかかわらず、PDRDに対する終末期緩和ケア/ホスピスのガイドラインは存在しない。関連する可能性のあるガイドラインとしては、認知症、ALS、成人の食欲不振などがある。(Table 1)

PDRD患者の死亡率に関連する要因はいくつか知られているが、全体的な「予後不良」の一般的な予測因子と、人生の最後の数週間または数ヶ月を示唆する特定の予測因子との区別はほとんどされていない。PDRDの死亡率の予測因子を特定することで、適切でタイムリーな紹介を増やすことができるかもしれない。
そこでホスピス/終末期緩和ケアの紹介に関する指針を得るために、PDRDの死因と死亡予測因子に関する文献を系統的にレビューする。

【Method】
MEDLINE、PubMed、EMBASE、CINAHLデータベース(1970-2020年)から、PDRDの死亡率、予後、死因に関連する診療記録、行政データ、調査回答から得られた患者レベル、医療者レベル、介護者レベルのデータを用いたオリジナルの定量的研究を検索した。PRISMAガイドラインに従って調査し、組み入れ基準を満たしているかどうかは2名の研究者によって独立して確認された。
主要評価項目は、PDRD患者の死亡率の全体的な定量的予測因子と死亡6ヵ月前の死亡率の予測因子とし、調査結果はパーキンソン財団の支援を受けたPDと緩和ケアに関する国際ワーキンググループによってレビューされた。

【Result】
1183の研究論文のうち、42の研究が組み入れ基準を満たした。(Figure 1)
PDRDの死亡率に関連する要因として、(1)人口統計学的および臨床的マーカー(年齢、性別、肥満度、併存疾患)、(2)運動機能障害および全身性障害、(3)転倒および感染症、(4)非運動症状の4つの主要な領域があることがわかった。(Table 2)

【Discussion】
今回のレビューに基づいて、終末期の緩和ケア/ホスピスを紹介するために終末期に差し掛かっている可能性のあるPDRD患者を特定することについて、医療従事者への提言を行う。(Table 3、和訳したものが下記)

PDRDに対するホスピスガイダンス:以下の3つの基準のうち1つを満たす
1. A、B、Cのいずれかの基準で示される進行した疾患の証拠を示す。
A. 前年の重篤な栄養障害:
十分な水分・カロリー摂取ができず脱水症状を起こしている、
またはBMIが18未満である、
または6ヶ月以上の体重減少が10%以上あり、人工栄養法を拒否している
B. 前年の生命を脅かす合併症:誤嚥性肺炎の再発、骨折を伴う転倒、敗血症の再発、ステージ3または4の褥瘡
C. ドーパミン作動薬への反応が悪い、または許容できない副作用のためにドーパミン作動薬では治療できず、セルフケア能力に著しい障害をもたらす運動症状がある。
2. 急激または加速する運動機能障害(歩行や平衡感覚を含む)、
または非運動性疾患の進行(重度の認知症、嚥下障害、膀胱機能障害、喘鳴(MSAの場合)を含む)があり、以下の障害を有する:ベッドや椅子に縛られた状態、意味不明の会話、ピューレ状の食事が必要、ADLに大きな支援が必要
3. 進行した認知症であり、以下に基づくホスピス紹介基準を満たしている。
メディケアの認知症基準、
Advanced Dementia Prognostic Toolの基準、
Minimum Data Set-Changes in Health, End-stage disease and Symptoms and Signs Scoreの基準

本レビューの強みは、緩和ケアと運動障害の専門家で構成された国際ワーキンググループの参加を含む、体系的なアプローチをとったことである。

研究の制限:
すべてのデータベースを検索対象とせず、英語以外の論文は除外した。
この分野で利用可能な知識をすべて提示するために、以下の理由から品質評価を実施しなかった。(1)この分野では限られたデータしか得られていないこと、(2)掲載基準を制限すると論文の数がさらに減ること、(3)厳密に除外すると著しい偏りのある特定の論文だけを掲載することになる可能性があること。

PDRD患者がタイムリーに緩和ケアやホスピスサービスを受けられるようにすることで残された生活の質を最大限に高めるという観点からは、今回の提言の有効性を判断するためにはさらなる研究が必要である。緩和ケアと疾病管理を統合的に行うことで、予後が短い患者に限らず、患者ができるだけ長く元気に暮らせるように両方のケアを行うことができるようになると考える。
PDRD患者が人生の最後の数ヶ月を迎える時期を特定することに焦点を当てた予後研究は限られている。この分野の研究と、PDRD患者への必要に応じた緩和ケアを支援する政策がさらに必要とされる。

【開催日】
2021年12月1日(水)