心血管疾患リスクのある成人における地中海食の健康効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Karam G, et al.Comparison of seven popular structured dietary programmes and risk of mortality and major cardiovascular events in patients at increased cardiovascular risk: systematic review and network meta-analysis. BMJ. 2023;380:e072003.

-要約ー
【Introduction】
世界中で、成人死亡の22%、障害調整生存年の15%が食生活に起因すると推定されている。これが事実であれば、食事は死亡および重大な罹患の主要な原因である。医療者たちは、食事療法が主要な心血管イベントを減少させることを提唱している。これらの食事療法には、総脂肪または飽和脂肪の少ない食事療法(例えば、National Cholesterol Education Programの食事療法)、地中海式食事療法、およびDietary Approaches to Stop Hypertension(DASH)食事療法が含まれる。
食事療法のガイドラインは、多くの食事療法プログラムが主要な心血管イベントのリスクを低下させる可能性があることを示唆しているが、それらは一般的に、代替アウトカム、または非ランダム化試験デザインから得られた確信度の低い、または非常に低いエビデンスに依存している。
無作為化対照試験のペアワイズメタ解析では、いくつかの食事療法および食事療法プログラムが心血管イベントを減少させることが示唆されているが、死亡率への有益な影響は不明である。 現在までのところ、無作為化対照試験を系統的に要約し、構造化された食事療法プログラムが死亡率および主要な心血管イベント(例えば、脳卒中および心筋梗塞)に及ぼす影響を比較したネットワークメタ解析は不足している。ネットワークメタ解析の手法により、直接比較されていない介入を比較するための直接的エビデンス(積極的介入対直接比較)および間接的エビデンス(介入対非積極的対照)の使用が可能となり、より正確な要約推定値を得ることができる。したがって、死亡率および主要な心血管転帰の予防のための構造化された名前付き食事プログラムを比較するために、ランダム化対照試験の系統的レビューおよびネットワークメタ解析を実施した。

【Method】
DATA SOURCE:SAMED (Allied and Complementary Medicine Database), CENTRAL (Cochrane Central Register of Controlled Trials), Embase, Medline, CINAHL (Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature), and ClinicalTrials.gov were searched up to September 2021.

STUDY SELECTION:心血管疾患のリスクが高い患者を対象としたランダム化試験で、
食事プログラムと最小限の介入(例えば、健康的な食事のパンフレットをもとに指導)又は代替プログラムを、少なくとも9ヵ月追跡し死亡率または主要な心血管イベント(脳卒中または非致死的心筋梗塞など)について比較したもの。
食事介入に加えて、食事プログラムには運動、行動支援、薬物治療などの他の二次介入も含まれうる。

OUTCOMES AND MEASURES:全死因死亡率,心血管死亡率,個々の心血管イベント(脳卒中,非致死的心筋梗塞,計画外の心血管インターベンション)。

REVIEW METHODS:2人1組のレビュアーが独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。各結果のエビデンスの確実性を決定するために、頻出主義的アプローチとGRADE(grading of recommendations assessment, development and evaluation)法を用いてランダム効果ネットワークメタ解析を行った。
※ネットワークメタアナリシスhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/hct/9/3/9_20-002/_pdf

【Results】
7つの食事プログラム(低脂肪、18試験;地中海、12試験;超低脂肪、6試験;修正脂肪、4試験;低脂肪と低ナトリウムの併用、3試験;Ornish、3試験;Pritikin、1試験)において、35,548人の参加者を対象とした40の適格試験が同定された。
最後に報告された追跡調査において、中程度の確からしさで、地中海食プログラムは最小限の介入よりも 全死亡(5年間の追跡1000人当たりのリスク差は17人減少)、心血管系死亡(1000人当たり13人減少)、脳卒中(1000人当たり7人減少)、非致死的心筋梗塞(1000人当たり17人減少)の予防において優れていることが証明された。
中程度の確実性のエビデンスに基づくと、低脂肪プログラムは、全死因死亡(1,000人当たり9人減少)および非致死的心筋梗塞(1,000人当たり7人減少)の予防において、最小限の介入よりも優れていることが証明された。
両食事プログラムの絶対的効果は高リスク患者ほど顕著であった。死亡率または非致死的心筋梗塞については、地中海料理プログラムと低脂肪食プログラムとの間に説得力のある差はみられなかった。
残りの5つの食事療法プログラムは、通常、低~中程度の確実性のエビデンスに基づく最小限の介入と比較して、一般的にほとんど有益性がなかった。

<中リスク患者で>

<高リスク患者で>

【Discussion】
主な所見
食事プログラムに関するネットワークメタ解析の結果、死亡アウトカム、非致死的心筋梗塞、脳卒中については、中程度の確実性のエビデンスに基づき、地中海食プログラムが最小限の介入よりも優れていた。低脂肪食プログラムはまた、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、および計画外の心血管インターベンションの予防に関して、低~中程度の確実性で最小限の介入よりも優れていた。互いに比較した場合、死亡率または非致死的心筋梗塞の予防において、地中海食プログラムが低脂肪食プログラムより優れているという説得力のあるエビデンスは認められなかった。その他の食事プログラム(超低脂肪、低脂肪と低ナトリウムの併用、修正脂肪、Ornish、Pritikin)は、高リスク患者における脳卒中予防のための低脂肪と低ナトリウムの併用プログラムを除いては、最小限の介入よりも優れているという説得力のある証拠を示さなかった(図1および図2)。

本研究の長所
・主要な心血管イベントの予防のための食事プログラムに関する系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。
・中リスクおよび高リスクの心血管患者の各アウトカムに対する各食事プログラムの比較性能の透明で明確なプレゼンテーションを提供した(図1および図2)。特に、我々の結果は、地中海料理と低脂肪の食事プログラムに起因する絶対的なリスク減少(5年間の追跡で1000人当たり9-36件のイベント減少)について、中程度の確実性のエビデンスを確立した。
・データ提示を伴うこれらの所見は、食事療法が望ましいかどうか懐疑的な患者にとって非常に重要である。

本研究の限界
・プロトコルで規定された食事プログラムの分類を修正し、脂肪を30%以下のカロリー摂取量に減らすことを目標とした標準的な低脂肪プログラムと、20%以下のカロリー摂取量を目標としたプログラムを区別した。
・薬物治療や禁煙などの併用療法を伴う食事療法プログラムを組み込んだことで、少なくとも部分的には併用療法による効果があった可能性がある。(いずれの係数も統計的に有意ではないとしている。)
・食事療法プログラムの解析にアドヒアランスを系統的に組み入れることができなかった

ベースラインリスクが高い患者において、地中海食プログラムが低脂肪食プログラムと比較してこれらの心血管アウトカムのそれぞれを減少させることがわかった。しかしながら、我々のネットワークメタ解析に基づくと、これらのアウトカムに関するエビデンスの確実性はそれぞれ、非常に低い、低い、中等度であり、全体として、低脂肪プログラムに対する地中海食の有益性に関する説得力のあるエビデンスはないという結論に至った。中程度の確実性のエビデンスに基づくと、脳卒中の転帰に関しては、低脂肪プログラムよりも地中海食プログラムの方が有益である可能性があることに留意しなければならない。

【開催日】2023年7月5日(水)

HFpEFに対するSGLT2阻害薬の効果(EMPEROR-Preserved試験)

-文献名-
S.D. Anker, J. et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction.
N Engl J Med 2021;385:1451-61.

-要約-
【背景】
SGLT2阻害薬は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者の心不全による入院リスクを低下させるが、駆出率が維持された心不全(HFpEF)患者における効果は不明である。
【方法】
23カ国622施設の多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照試験で、18歳以上の駆出率40%以上、NIHAクラスII~IV度、NTproBNP300pg/mL以上(AFがある場合は900pg/mL以上)の心不全患者5988例を、通常の治療に加えてエンパグリフロジン(10mgを1日1回投与)とプラセボを投与する群に無作為に割り付けた。主要アウトカムは心血管死または心不全による入院の複合とした。

【結果】
中央値26.2ヵ月間で、主要評価項目はエンパグリフロジン群2997例中415例(13.8%)、プラセボ群2991例中511例(17.1%)に発現した(ハザード比、0.79;95%信頼区間[CI]、0.69~0.90;P<0.001)。この効果は主にエンパグリフロジン群における心不全による入院リスクの低下に関連していた。エンパグリフロジンの効果は糖尿病の有無にかかわらず一貫していた。心不全による入院の総数は、エンパグリフロジン群でプラセボ群より少なかった(エンパグリフロジン群407例、プラセボ群541例、ハザード比、0.73;95%CI、0.61~0.88;P<0.001)。合併症のない性器感染症および尿路感染症、低血圧はエンパグリフロジンで多く報告された。

【結論】
エンパグリフロジンは,糖尿病の有無にかかわらず,駆出率が維持された心不全患者において心血管死または心不全による入院の複合リスクを減少させた。(Boehringer Ingelheim社とEli Lilly社が資金提供)
【考察】
心血管死亡や全死亡では有意差が出なかった、死亡以外の治療中断例が全体の23%あった、などいくつか限界あり。

【開催日】2023年7月5日(水)

AIによる呼吸器症状を呈する患者のトリアージは患者のアウトカムを改善する

-文献名-
Steindor E, et al. Triaging Patients With Artificial Intelligence for Respiratory Symptoms in Primary Care to Improve Patient Outcomes: A Retrospective Diagnostic Accuracy Study. The Annals of Family Medicine. 2023; 21(3): 240-248.

-要約-
【Introductionと目的】
総合診療医/家庭医は、より多くの患者、併存疾患、要望を抱え、診断検査のオーダーも大幅に増加している。一般開業医を訪れる患者の約20%は自己解決型の症状で、患者の最大72%は急性呼吸器症状である。診断検査の過剰使用や誤用は、プライマリケアにおけるよく知られた問題であり、偶発的な所見を増加させる。同じことが抗生物質の処方、 特に呼吸器感染症に適用され、耐性菌の増加につながる。臨床資源の誤用の原因は多岐にわたるが、患者の要求、人間の持つバイアス、時間の圧力が主要なものである。機械学習モデル(MLM)は、複数の臨床上のタスクにおいて医師と同等かそれ以上の能力を持つと考えられている。MLMを用いた患者のトリアージは、医師によるトリアージと同等と報告されている。ガイドラインやスコアリングシステムは診断と治療を標準化し、コスト削減とケアの質向上に資するのだが、十分利用されていない。ガイドラインの適用性、利便性、時間不足が理由として挙げられる。
本研究の目的は、呼吸器症状を持つ患者の症状や徴候(臨床的特徴)について、来院前のトリアージを模倣するため患者に質問可能な要素のみを使用することにより患者トリアージMLMを訓練することである。
このMLMは、呼吸器症状トリアージモデル(RSTM)と呼ばれ、スコアに基づいて患者を10のリスクグループ(グループ1から10までリスクが高くなる)に分類する。医療現場におけるMLMのパフォーマンス評価は複雑であり、どのベンチマークを使用すべきかはしばしば不明確である。多くの報告では、人間の偏見やエラーの影響を受ける医師の診断をベンチマークとしてMLMを評価している。RSTMを複数の患者のアウトカムをベンチマークとして評価することはより良いパフォーマンス指標となる可能性が高いが、この方法でMLMトリアージのパフォーマンスを検証した報告はない。
【方法】
アイスランド・レイキャビク地域のすべてのプライマリケアクリニックを対象とした。7つのICD10コード(J00、J10、JII、J15、J20、J44、J45)のうち1つの診断を受けた患者のカルテから臨床テキストノート(CTN)※を抽出した。23819名の患者の44007のカルテ記録を条件に合致した2000のCTNに絞り込み1500CTNをMLMの訓練に、500のCTN(testing set1)とこれらの記録に含まれていなかった664のインフルエンザのCTN(testing set2
)をアウトカムの計測に用いた。続いて、下気道感染症の有無を予測しトリアージすることを目的に患者がみずから応えられる受診前の臨床情報のみを用いて、MLMを訓練した。このMLMは患者をスコアリングし10個のリスクグループ(値が高いほどリスクが高い)に分類し、各グループのアウトカムを分析した(スコア1〜5をlow risk、6〜10をhigh riskグループとした)。
臨床テキストノート(CTN)とは、患者の症状や徴候に対する医師の解釈、診察中に行われた臨床決定の理由、取られた行動(画像紹介、処方箋の作成など)を記録した文書である。)
各リスクグループについて、C反応性タンパク質(CRP)の平均値、ICD-10コードの分布、7日以内にプライマリケアと救急で再評価された患者の割合、胸部レントゲン撮影となった患者の割合、胸部レントゲンにおける肺炎の兆候と偶発腫瘍所見、抗生物質の処方を受けた患者の割合をアウトカムとして検討した。
95%CIは、各アウトカムの値をソートし2.5%および97.5%のパーセンタイルを計算することで算出した。二値変数のP値の算出には両側フィッシャーの正確検定を、連続変数のP値の算出には両側マン・ホイットニーのU検定を使用した。P<.05を有意とみなした。
【結果】
それぞれのtest setの特性はTable1。
リスクグループ1~5は6~10と比較して若年者が多く(本文中Figure2-4)、CRP値、プライマリ・ケアおよび救急医療の受診率、抗生物質の処方率、胸部X線(CXR)の実施、実施されたCXRで肺炎の所見を認めたものが少なかった。リスクグループ1〜5ではCXR上の肺炎の所見も医師による肺炎の診断も0件であった(Table2)。
【ディスカッション】
この大規模な後方視的研究により医療機関受診前のデータ(症状等)を用いたプライマリ・ケアにおけるMLMによる急性の呼吸器症状を訴える患者のトリアージの結果が示された。MLMによりlow riskとされた5グループではレントゲン上の肺炎の所見を示したものも、肺炎の診断となったものもいなかったことは特筆すべき点である。インフルエンザ患者のみを集めた(training setとは異なる患者層であった)test set2においても同様の結果が得られた。
RSTMが実臨床の現場で同様のパフォーマンスを示すことができれば、医療機関を受診する前の段階で患者をトリアージするためのWebベースのツールとなりうる。肺炎を見逃すことなく不要なレントゲン撮影を減らす可能性がある。今回のデータではlow risk患者にも抗菌薬が処方されていたが、こういったlow risk groupではトリアージにより抗菌薬の処方を控えることで処方の質が向上する可能性もある。
本研究は後方視的研究手法の限界やバイアスがあり、前方視的に妥当性が検証されるべきである。今回トレーニングと解析に用いたCTNは医師が患者の症状や所見を記録したものであり、ヒューマンエラーやバイアスが含まれる可能性がある。直接患者からデータを得ることでより質の高い訓練を行いうる。

【開催日】2023年6月7日(水)

薬物の使用過多による頭痛(MOH, Medication Overuse Headache)に対する 3 つの治療戦略 : 無作為化臨床試験

-文献名-
Carlsen LN, Munksgaard SB, Nielsen M, et al. Comparison of 3 Treatment Strategies for Medication
Overuse Headache: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2020;77(9):1069–1078.

-要約-
Introduction:世界では、6,000 万人以上の人々が MOH に罹患している。(担当者注:一般人口 の約1−
2%と言 わ れている。 )個人にとって大きな負担となり、社会経済的な問題を引き起こす。
世界疾病負担調査で、障 害による生命喪失年数の上位 20 疾患に複数回取り上げられている。頭痛の頻度が増加し、短期間の薬物乱用が 進み、治療が困難な慢性頭痛を引き起こすことが特徴です。
(担当者注:病態生理は不明。遺伝素因 や 5-HT 1B/1D 受容体の感受性か。
片頭痛患者が MOH に進展することが多く、群発頭痛患者や 毎日のように消炎鎮痛剤を服用する RA 患者では MOH は多くない。)
薬の使いすぎは、既存の頭痛の治療が不十分であることの結果で あるかもしれません。複数の治療戦略が考えられていますが、議論の余地があります。

目的:MOH の 3 つの治療戦略を比較する
 1. 始めから休薬と予防を行う「休薬+予防戦略」
 2. 休薬はせず予防だけの 「予防戦略」
 3. 休薬の 2 ヶ月後に、予防治療を任意に行う 「休薬戦略」
 (デンマークの GL で、休薬は2ヶ 月間の 鎮痛剤の完全休止と定義つけられている。)

Method:
対象:
デンマーク頭痛センター(DHC)の 3 次医療に紹介された国際頭痛分類第 3 版(ベータ版)による MOH の診断を受 けた患者。頭痛の日数と薬の使用は、詳細な病歴と少なくとも 1 ヶ月分のデータがある頭痛カレンダーから確認した。
組入:
頭痛カレンダーを記入できること、18 歳以上であること、ICHD-3βの基準に従って、既存の緊張型頭痛および片頭痛(エピソード型および慢性型を含む)に起因する MOH であること、
薬の過剰使用のタイプ(オピオイドやバルビツール酸を毎日またはほぼ毎日使用しない)、個人の資源、モチベーションに基づいて外来治療に適格であるとみなされた。
除外:
重度の身体疾患(例:重度の疼痛の併存、コントロール不能な糖尿病、重篤な心臓病、癌)、精神疾患 (抗うつ薬の投与、精神科医による継続的治療、精神科クリニックでの治療)、
アルコール・薬物中毒がある場合、妊 娠・授乳中、12 ヶ月以内に妊娠予定の場合、病歴について情報を提供できない場合(言語の壁を含む)、他の頭痛 予防治療を行っている場合

研究デザイン
プロトコルは、Sup. 1 に記載。前向き縦断的オープンラベル無作為化臨床試験(RCT)で、患者は 1:1:1 で、休 薬+予防群、予防群、休薬群に無作為に割り付けられた。
3 つの戦略はすべて外来治療であった。患者は、ベース ラインと 2 カ月、6 カ月に面会し、治療開始後 1 カ月と 4 カ月に電話でフォローアップされた。
休薬アプローチ
休薬+予防群および休薬群は、訓練を受けた看護師から休薬と MOH に関する個別アドバイスを受け、その後、2 ヶ月間鎮痛剤を完全に中止した(Sup.2 の表 1)。
予防群は、プロジェクトの説明に関連して休薬について簡単な説明を受けただけで、短期間の薬物使用の制限は求められなかった(Sup.2 の表 1)。
休薬中はレスキュー薬(レボメプロ マジン(ヒルナミン®)または塩酸プロメタジン(ヒベルナ®)、最大用量 75 mg/日)と制吐薬(塩酸メトクロプラミドまたはドンペリドン錠、推奨用量 10 mg)が全例に提供された。
休薬後、休薬+予防投与群及び休薬群では、月 9 日(単純鎮痛剤のみでは月 14 日)の範囲で短期間の投薬が可能となり、休薬群には予防投与が行われた。
予防的アプローチ
休薬+予防群および予防群には、デンマークのガイドラインに従って選択された特定の予防治療に関する情報が提供された(Sup.2 の表 1)。
CGRP 関連抗体は、本試験の時点では入手できなかった。
エンドポイント
主要評価項目は、3 つの治療戦略におけるベースラインから 6 ヶ月後までの 1 ヶ 月あたりの頭痛日数の変化 。
副次的評価項目は、3 つの治療法について以下の項目を比較した。(1)ベースラインから 1、2、4 ヵ月後までの 1ヵ月あたりの頭痛日数の変化(2)ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの1ヵ月あたりの片頭痛日数の変化(3)ベースラ インから 1、2、4、6 ヵ月後までの 1 ヵ月あたりの短期薬剤使用日数の変化(4)0 から 90 までの 1 ヵ月あたりの総頭 痛強度得点の変化 (5)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に 1 ヶ月あたりの頭痛日数が 50%以上減少した患者数 (6)2 ヶ月後および 6 ヶ月後にエピソード性頭痛に戻った患者数 (7)2 ヶ月後および 6 ヶ月後に薬の使いすぎで、6 ヶ月後にMOH の治癒が確認された患者数

Results:
対象者
2016 年 10 月 25 日から 2018 年 11 月 19 日までの MOH 患者は 483 人であった。
これらの患者のうち、195 人 が包括基準を満たし、75 人が参加を拒否し、120 人が連続して試験に組み入れられた(図 1)。
40 名の患者が各 治療法に無作為に割り付けられ、102 名が 6 ヶ月間の追跡調査を完了した(平均[SD]年齢:43.9[11.8] 歳、
女性 81 名[79.4]、男性 21 名[20.6])、合計 15%の脱落率(休薬+予防群:40 名中 9 名[22.5]、予防群:40 名中 5 名[12.5]、休薬群:40 名中 4 名[10.0])に相当した。ベースラインの特徴 は 3 群間で同様であった(表 1)。


月別頭痛日数の変化(主要評価項目)
1 ヶ月の頭痛日数は、休薬+予防投与群で 12.3 日(95%CI、9.3-15.3)、予防投与群で 9.9 日(95%CI、7.2-
12.6)、休薬群で 8.5 日(95%CI、5.6-11.5)減少しました。6 ヵ月後(P = 0.20)、あるいはその他の時点でも、3 群 間に差はなかった(図 2A)。
月間片頭痛日数、短期間の薬物使用日数、頭痛の痛みの強さの変化(副次評価項目)
図 2B〜D は、ベースラインから 1、2、4、6 ヵ月後までの片頭痛のある日数、短期間薬を使用した日数、頭痛の痛 みの強さの平均減少量を示す。1 か月あたりの片頭痛日数は,休薬+予防群で 5.0 日(95%CI,1.4-8.6),予 防群で 4.1 日(95%CI,1.1-7.1),休薬群で 3.3 日(95%CI, 0.9-5.7 )短縮した(p = 0.74)。

1ヵ月後、1ヵ月あたりの短期薬物使用日数は、休薬+予防群で 21.9 日(95%CI、19.5-24.3)、予防群で 8.6日(95%CI、6.6-10.6)、休薬群で 22.0 日(95%CI、19.6-24.4)減少していた。
痛みの強さのスコアは,休薬+予防群で 28.1(95% CI,21.1-35.1), 予防群で 23.7(95% CI,17.1- 30.2), 休薬群で 20.8(95% CI,12.2-29.4) に減少した(P = 0.42).

治療効果、エピソード性頭痛の寛解、および MOH の治癒
表 3 に示す。6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 23 人(74.2%)がエピソード性頭痛に戻ったのに対し、予防群 では 35 人中 21 人(60.0%)、休薬群では 36 人中 15 人(41.7%)だった(P = 0.03)。エピソード性頭痛への回帰の RR は 1.8(95%CI, 1.1-2.8; P = .03)であり、休薬+予防群では休薬群と比較して、エピソード性頭痛に回帰する 確率が 80%高いことに相当した。
6 ヵ月後、休薬+予防群では 31 人中 30 人(96.8%)が MOH を治癒したのに対し、予防群では 35 人中 26 人 (74.3%)、休薬群では 36 人中 32 人(88.9%)でした(P = 0.03)。これは、休薬+予防群では予防群に比べて MOH が治癒する確率が 30%(RR、1.3;95%CI、1.1-1.6)高いことに相当する(P = 0.03)。

Discussion:
何十年もの間、MOH 患者に対する最適な治療方針が議論されてきた。いくつかの研究で休薬治療の効果が推定され、MOH に対する休薬と予防治療の組み合わせが多国籍多施設共同研究(COMOESTAS)で検証されました。
本研究は、議論されている 3 つの治療戦略を直接比較し、MOH 患者をどのように治療すべきかという臨床的な 問題に取り組んだ、我々の知る限り初の試みである。頻回頭痛による MOH の既往のある患者さんには、新たな慢 性頭痛の発症や MOH の再発を防ぐために有効な薬物療法が必要です。
長所と短所
休薬治療は盲検化が不可能であり、本研究のデザインは、この臨床的問題を解決するために最も実現可能で実用 的なものであった。本研究の大きな強みは、臨床的妥当性が高いことである。この結果は、ほとんどの MOH 患者に 容易に適用でき、3 つの治療戦略はすべて外来プログラムであり、プライマリーケアやセカンダリーケアでも実行可能であ ると考えられる。研究対象者の 75%以上が、単純な鎮痛剤という 1 種類の薬の過剰使用であった。
MOH にはどの治療が最も効果的か?
患者 120 人を対象としたこの無作為化臨床試験では、休薬と予防薬による治療が最も効果的で、1 ヶ月あたりの 頭痛日数が平均 12.3 日減少しました。薬物乱用頭痛の治療には、休薬開始時から休薬と予防薬を使用すること が推奨されます。

【開催日】2023年3月1日(水)

高齢者のRA患者における低容量プレドニゾロンの追加効果

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
・Boers M, Hartman L, Opris-Belinski D, et al.
“Low dose, add-on prednisolone in patients with rheumatoid arthritis aged 65+: the pragmatic randomised, double-blind placebo-controlled GLORIA trial.”
・Annals of the Rheumatic Diseases 2022;81:925-936.

-要約-
Background:
RAは炎症性疾患であり、RAそのもの、あるいは治療により合併症を生じる。グルココルチコイドによる治療は1950年より比較的commonに行われているが、そのメリットとデメリットはまだよくわかっていない。多くはステロイドによる副作用の懸念があるが、初期のRAについては合併症が目立たないという報告もある。
多くの研究ではより合併症を経験しやすい高齢者が除外されていたり、PSLの量がバラバラであったりと質の高い研究は行われていない。
そこで、今回は2年の盲検化比較試験(GLORIA)により、高齢者において、5mg/日のPSLを標準治療に加えた効果と安全性について検討する。

Method:
デザイン、セッティング:EUの7カ国、28施設で無作為、二重盲検のRCT。
PSL5mg群とプラセボ群を、過去のPSL使用歴、ベースラインのリウマチ治療、施設によって層別化して1:1に割り付け、経過中の抗リウマチ薬やフレア時の短期間の強化治療などは行った。(はじめの3ヶ月はなるべく抗リウマチ薬は変更しないようにお願いした)

対象患者:65歳以上のRA患者でDAS28 2.6以上(当初は3.2以上 低・中活動性以上)
除外基準;ステロイド治療の禁忌、治療により悪影響があると考えられるコントロール不良の状態。
アウトカム評価:身体検査と定期的な採血を必要とするアウトカムは、ベースライン、3、6、12、18、24ヶ月目に評価した。患者はこれらの時期に転帰を報告し、さらに9、15、21ヶ月目に電話インタビューを行った。画像診断は、ベースラインと24ヵ月目に実施した。
主要アウトカム:有益性の主要評価項目:DAS28(欠測は多重補完)
有害性の主要評価項目:特に注目すべき有害事象(AESI)を1つ以上経験した患者数の合計
AESIには、Good Clinical Practiceの定義に従った重篤なAE(SAE)、以下のものを加えたものを定義とした(Other AESI)。
AESI
1. 治療継続が困難な有害事象
2. 心筋梗塞、脳卒中、PAD
3. 新規発症 (高血圧、糖尿病、感染症、白内障、緑内障)
4. 症状のある骨折

副次アウトカム:手足のレントゲン上の骨破壊、DEXA (complete case)
サンプルサイズ:800人、ベースの有害事象を20%として、27.5%までの上昇を80%検出できる)
       COVIDにより予定より募集が集まらなかったが450人でも問題ないことを別の研究で確認した。
統計解析;R, SPSS 、Excel

Results:
フローチャート
合計451人リクルートし、コンプリートしたのは6割前後ずつ(20%はCOVID関連のアクセスの問題による脱落)



(基本属性)
平均年齢72歳、BMI27。DAS28は高疾患活動性、CCP陽性がPSL群にやや多い。

・有効性の指標(DAS28)

特にはじめの3ヶ月は疾患活動性の低下がPSL群は顕著だった。

SDAI、レスポンス、など全体的にPSL群が良い印象。

・安全性のアウトカム

主に感染症の有害事象は増えている。骨折が全体は増えているが、SAEは少ない。

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
治療の最適化が可能な標準治療を受けた 65 歳以上の RA 患者において、低用量プレドニゾロン の追加投与は、疾患活動性と損傷の進行に長期的に有益な効果を示した。しかし、その代償として、少なくとも1つのAESIを有する患者数が11%増加した。そのほとんどが、感染症であった。
バイオを使用している患者は比較的諸外国と比べて少ない地域でもあり(20%)、バイオと併用した場合の再燃予防、感染症のリスクについては不明である。
長所はサンプルサイズ、高齢者をターゲットとしたこと、詳細な有害事象の記録である。
短所はモデル的に過小評価するデザインだったこと、プラセボが判別不能になっていたかどうか、短期のフォローアップなのでより長期の有害事象については不明なことである。
ガイドラインでは、短期のPSLの使用を推奨している一方で、実際には長期的に低容量のPSLがプラクティスとしてされている。今回の結果であれば、適切なモニタリング、有害作用(特に感染症や骨量減少)の予防と治療を行えば、このレベルで漸増すれば、疾患活動性を最適に抑制することが可能である。
結論として、低用量プレドニゾロンの追加投与は、最適な治療を受けている高齢のRA患者において、有益性と有害性のバランスが良好であり、長期的に効果が期待できる。

【開催日】2023年3月1日(水)

医学的な疾患のある患者における、セルフコンパッションが心理社会的及び臨床的アウトカムに与える影響:システマティックレビュー

-文献名-
The Effect of Self-Compassion on Psychosocial and Clinical Outcomes in Patients With Medical Conditions: A Systematic Review.
Misurya I, Misurya P, Dutta A. Cureus. 2020 Oct 17;12(10):e10998. doi: 10.7759/cureus.10998. PMID: 33209554; PMCID: PMC7669250.

-要約-
Introduction:
以前の研究では、セルフ・コンパッションは、幸福、不安の軽減、うつ病、ストレス、生活の質の向上など、心理的健康の多くの要因に関連していることが示されています。メタアナリシスでは、セルフコンパッションが高い人ほど、より良い状態にあると報告されています。セルフコンパッションが高い人は、低い人に比べて、精神的健康と生活の質が高いです。さらに、Neff と McGehee は、セルフ・コンパッションがレジリエンスと相関していることを示しました [11]。別の研究では、不安に対するセルフコンパッションの保護的役割が実証されました。
セルフ・コンパッションが医療の世界でより大きく、より顕著な意味を持つ可能性があることを示唆する確固たる証拠があります。 したがって、このシステマティックレビューは、医学的に病気の患者の心理社会的および臨床的アウトカムに対するセルフコンパッションの影響を調査することを目的としました。

Method:
2020年8月10日までのいくつかのデータベースの包括的な検索を、PRISMA (Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis) ガイドラインに基づいて実施しました [13]。データベースは、Ovid MEDLINE(R) および Epub Ahead of Print、Ovid Embase、Ovid Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Litereature(CINAHL)。適格基準は、1)セルフコンパッションに関して調査していること 2)18歳以上で医学的な疾患を持つ患者が対象であること 3)患者のセルフコンパッションの、心理社会的または臨床的なアウトカムを扱っていること。

Results:
<Baseline Characteristics>Table 1参照(※)
19件の研究が含まれ、そのうち4件は英国、5件は米国、4件はオーストラリア、2件はニュージーランド、3件はイラン、1件は中国からの研究でした。2,713 人の患者が含まれ、そのうち 1,989 人が女性で、年齢は 26 ~ 64 歳でした。 含まれる疾患は、糖尿病 (n=5)、乳がん (n=3)、多発性硬化症 (n=1)、二分脊椎 (n=1)、セリアック病 (n=1)、HIV (n=1) 、脳損傷 (n=1)、片頭痛 (n=1)、筋骨格痛 (n=1)、外陰痛 (n=1)でした。 研究は主に横断的研究 (n=14) であり、ランダム化比較試験 (n=2)、混合法 (n=1)、縦断的研究 (n=1)、準実験的研究 (n=1) が続きました。

<心理社会的アウトカム>Table 2参照(※)
18個の研究は、セルフ・コンパッション・スケール(SCS)アンケートを使用して、セルフ・コンパッションの結果を示しました。 5 つの研究では、1 ~ 5 のすべてのサブスケールの平均に基づいてセルフコンパッションの値が提供されました。 セルフコンパッション値の範囲は 2.8 ~ 3.46 でした。 3 つの研究では、SCS を使用して特定のサブスケールを調べました [16,18,30]。 Ambridge、Fleming、Henshall による研究では、Self-Compassion Scale-Short-Form (SCS-SF) を調べており、スコアは5.69 ± 1.15 でした [16]。 ブラウンらによる研究では、自己への親切: 2.74 ± 0.94、共通の人間性: 3.11 ± 0.93、マインドフルネス: 3.18 ± 0.83、内省: 1.70 ± 0.61 [18]でした。 最後に、Skelton らによる研究。 思いやりのある関与と行動のスコアは 64.12 ± 19.48 でした [30]。 残りの研究では、SCS は 18 ~ 80 の範囲の合計スコアの平均として報告されました。

<重要な相関関係>Table 2参照(※)
含まれているすべての研究で、うつ病、不安、ストレス、回復力、恥ずかしさ、生活の質、およびその他の結果などの他の重要な心理社会的結果とのセルフコンパッションの相関関係が評価されました。 9件の研究で、セルフコンパッションとうつ病との相関関係が評価されました[16,18,20-23,26,29,33]。 すべての研究で、医学的疾患を持つ個人の自己への思いやりが高いほど、うつ病のレベルが低いという相関関係があることがわかりました。
5つの研究では、セルフコンパッションと不安の相関関係が調べられており、そのうちの 2 つは以前に HADS アンケートを使用して議論されていました。残りの 3 つの研究では、さまざまな種類のアンケートを使用しましたが、セルフコンパッションスコアが不安と負の相関関係にあることが明らかになりました [23,29,33]。
「セルフコンパッションと恥」[16,30]。 1つの研究では、自分への思いやりのレベルが上がるにつれて、恥が減ることが示されましたが、もう一つでは、相関関係は示されませんでした。
「セルフコンパッションと生活の質」 [19,21,28,30]。 2つの研究では、セルフ・コンパッションの増加が生活の質を改善することが示されましたが、2つでは相関関係は示されませんでした。
「自己への思いやりとストレスのレベル」[21-23,26]。4 つの研究のうち 3 つは、セルフコンパッションと糖尿病の苦痛スコア (DDS-17) を調査し、セルフコンパッションが増加すると、DDS が減少することを示しました [21,22,26]。 他の研究では、セルフコンパッションレベルが高いほどストレスレベルが低いことが示されました[23]。
「セルフコンパッションとレジリエンス」Hurwit、Yun、および Ebbeck による 1 つの研究では、自己への思いやりが高いほど回復力が高いことが示されました [28]。
「セルフコンパッションとアドヒアランス」:セルフコンパッションは、HIV患者のアドヒアランス行動の増加と関連していないことを実証しました[30]。 一方、ダウドとユングは、ベースラインでのセルフコンパッションが、セリアック病患者のグルテンフリー食へのアドヒアランスを予測できることを示しました[19]。

<臨床的アウトカム>Table 3参照(※)
HbA1cと血糖値を伴う糖尿病の臨床転帰に対するセルフコンパッションの効果を調査した研究は2つだけでした[22,24]。 カラミらの研究では、ベースライン時および介入完了後の対照群と比較して、介入群(セルフ・コンパッション・プログラム)にいた患者の血糖値の改善を示しました[24]。ベースラインの血糖値は介入群:272.75 ± 21.96、対照群:271 ± 35.88 でした [24]。 介入後 (8 週間後)は、介入群:205.25 ± 12.55、対照群:267 ± 28.98 でした [24]。 同様に、もう一つのFriis らによる研究も 対照群と介入群の間でのHbA1cレベルを比較することを目的とました[22]。 彼らは、HbA1c値が介入後と 3 か月のフォローアップ時に、介入群で有意に改善したことを示しました (介入群:ベースライン: 74.25 ± 15.11; 介入後: 71.44 ± 18.34; フォローアップ: 64.03 ± 16.25)(コントロール群:ベースライン: 64.04 ± 13.32; 介入後: 66.03 ± 14.20; フォローアップ: 62.32 ± 12.41) [22]。

Discussion:
このシステマティック レビューには、さまざまな医学的疾患に苦しむ 2,713 人の患者を対象とした 19 の研究が含まれていました。 セルフコンパッションスコアの心理社会的結果は低く、うつ病、不安、ストレス、恥、回復力、生活の質などの他のパラメーターと相関していました。 さらに、2 つの研究では、病気の管理にセルフコンパッションに基づく介入を取り入れることのプラスの影響が示されました。
医学的疾病管理におけるセルフ・コンパッションのもう1つの重要な役割は、健康増進行動の増加に関連するものです。自己管理行動は、長い間、症状管理の中心的な要素であり、慢性疾患における疾患の経過と転帰を改善してきました [38]。最近の 2019 年の新型コロナウイルスのパンデミックは、あらゆる健康分野に影響を与えています。 メンタルヘルスも例外ではなく、その結果、認知的苦痛、不安、および人前に出ることへの恐怖が報告されています[39]。 セルフコンパッションは、これらを管理する上で非常に効果的なツールであることが証明されるかもしれません.
以前の研究でも、セルフコンパッションと自己管理行動との関連性が実証されています [3,4]。 Sirois によるメタ分析では、15 の研究で 3,252 人の個人をプールし、より高いセルフコンパッションが慢性疾患の健康増進行動へのより良い関与と正の相関があることを発見しました [40]。これらの行動には、より良いストレス管理、服薬遵守、ライフスタイルの変更、睡眠の質の改善が含まれていました. これは、私たちのレビューのデータと一致しており、2 つの研究のうちの 1 つで、自己管理行動がセルフコンパッションの増加に伴って増加したことが示されました。
セルフ・コンパッションに基づくトレーニングと介入は、医学的疾患を経験している個人のより良い臨床アウトカムに関連しています。 これらの介入には、思いやりに焦点を当てた療法(CFT:compassion-focused therapy)と思いやりのある心の訓練(CMT:
compassionate mind training)が含まれます[41]。 以前の研究では、健康を促進する行動を実践することで、自分自身を受け入れてケアをするという、これらの的を絞った介入の成功が実証されています [42]。 Leaviss と Uttley による 14 の研究を含むレビューでは、CFT は特に自己批判が激しい人にとって効果的な介入であることが示されました [43]。 臨床転帰の改善におけるセルフ・コンパッションの役割に関するデータは限られていますが、病状の治療の改善におけるセルフ・コンパッション療法の効果について有望な結果が得られています [44,45]。 このレビューの 2 つの研究で示されているように、プラセボと比較したセルフコンパッション介入は、HbA1c や血糖値などの糖尿病パラメーターの臨床転帰に真に影響を与える可能性があります [22,24]。
このレビューでは、これらの研究は、短期間の糖尿病の臨床転帰に対するセルフ・コンパッションの効果を 3 か月間調査しました。 心理社会的アウトカムと臨床的アウトカムの両方に違いをもたらすには、少なくとも12週間、複数のセッションを通じて自己思いやりの介入を提供する必要があるという証拠が増えています[46]。 Philips と Hine による研究では、自己管理行動に影響を与え、心理的成果を改善し、身体的健康を向上させるためには、複数回のセッションでのセルフコンパッション介入が重要であると強調されています [46]。 したがって、セルフ・コンパッションの介入と複数のセッションを 6 か月以上組み合わせることで、医学的疾患を持つ個人の疾患管理に対するセルフ・コンパッションの影響力を高めることができます。
セルフコンパッション的な介入を導入することは、この領域の始まりにすぎません。 ただし、そのような介入の影響を最大化するには、医療従事者によるセルフコンパッションの実践が必要です。 研究は、医療業界の労働者が患者の行動に影響を与える可能性があることを示しています[47]。 したがって、患者のより良いコミュニケーション、理解、および疾患管理を促進するために、思いやりのある環境を育むことが重要です[48,49]。 この継続的なトレーニングとサポートは、患者の自己効力感と自分自身への思いやりを高め、健康増進行動への取り組みに対する態度を改善する環境を育みます [50]。

<制限>
まず、この調査には英語の出版物のみが含まれていました。 第二に、研究間のデータ表示には大きなばらつきがありました。 たとえば、各研究で使用されるアンケートはさまざまでした。 さらに、同じセルフ・コンパッション・アンケートが使用されたにもかかわらず、各研究は、アンケートからさまざまな項目を削除することにより、異なる方法でスコアを計算していました. そのため、これは、メタ分析を実施し、心理社会的および臨床的結果に対するセルフコンパッションの影響の範囲を把握する能力を妨げました. 最後に、臨床転帰に対するセルフ・コンパッション介入の役割を報告した研究は 2 つだけであったため、セルフ・コンパッション・プログラムを使用することが医学的に病気の個人の臨床転帰と疾患の経過に影響を与えるかどうかを特定する能力は制限されていました。

結論
結論として、このシステマティックレビューは、相関関係と心理社会的結果への影響に関して、セルフコンパッションの役割を強調しています。 さらに、サンプルサイズが小さいにもかかわらず、この研究は、医学的疾患の管理におけるセルフコンパッションプログラムの統合の重要性を示しました. したがって、病気の治療に取り組むためのツールとして、セルフ・コンパッションを使用する差し迫った必要性があります。 疾患管理の役割におけるその重要性を強調するために、セルフコンパッションに基づく介入の長期的な結果を評価するには、さらなる研究が必要です。

※各Table資料はこちらよりご確認いただけます。

【開催日】2023年1月11日(水)

1日1回降圧薬の朝投与と就寝前投与の比較

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
―文献名―
Isla S Mackenzie, Amy Rogers, Neil R Poulter,et al.Cardiovascular outcomes in adults with hypertension with evening versus morning dosing of usual antihypertensives in the UK (TIME study): a prospective, randomised, open-label, blinded-endpoint clinical trial.Lancet.2022;400:1417-1425.

―要約-
【背景】降圧薬を夜に内服することは、朝に内服するよりも良好な転帰をもたらす可能性が研究で示唆されている。TIME(Treatment in Morning versus Evening)試験は、高血圧患者において、通常の降圧薬を夜に内服することが朝に内服することと比較して主要な心血管疾患の転帰を改善するかどうかの検討を目的とした。
【方法】TIME試験は英国で行われた前向き実用的分散型並行群間試験で、少なくとも1種類の降圧剤を服用している高血圧の成人(18歳以上)を対象に行われた。対象者は、制限、層別化、最小化なしに、通常のすべての降圧剤を朝(6:00~10:00)または夜(20:00~0:00)に服用するよう1:1で無作為に割り付けられた。複合主要評価項目は、血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中による入院とした。評価項目は参加者の報告またはNational Health Serviceのデータセットへの記録リンクによって同定され、治療割り付けを盲検化した委員会によって判定された。主要評価項目は、無作為に割り付けたすべての参加者からイベントが最初に発生するまでの時間として評価された。安全性は少なくとも1回の追跡調査票を提出したすべての参加者を対象に評価された。
【結果】2011年12月17日から2018年6月5日の間に、24,610人がスクリーニングされ、21,104人が夜間投与群(n=10 503)または朝方投与群(n=10601)にランダムに割り付けられた。試験参加時の平均年齢は65.1歳(SD 9.3)、参加者は男性12,136人(57.5%)、女性8,968人(42.5%)、白人19,101人(90.5%)、黒人/アフリカ系/カリブ系/ブラックブリティッシュ98人(0.5%)(1,637人(7.8%)からの民族の報告なし)、そして2,725人(13.0%)に心疾患の既往がありました。試験終了時(2021年3月31日)の追跡期間中央値は5.2年(IQR 4.9~5.7)であり、夜治療に割り付けられた10,503人中529人(5.0%)、朝治療に割り付けられた10,601人中318人(3,0%)がすべての追跡調査から除外された。主要評価項目であるイベントは、夜間投与群362名(3.4%)、朝方投与群390名(3.7%)で発生した(100患者年当たり0.72イベント[95%CI 0.65-0.79]、未調整ハザード比0.95[95%CI 0.83~1.10];p=0.53 )。安全性に関する懸念は確認されなかった。
【解釈】降圧薬を夜に投与することは、朝投与と比べて、主要な心血管アウトカムに関して差がなかった。患者に適切な降圧薬を選択し、好ましくない作用を最小限に抑えた都合のよい時間に服用できるようアドバイスできます。
【discussion】すべての参加者は、割り当てられた投与時間を認識しており、このことが行動や報告に影響を与えた可能性がある。さらに、参加者が報告した有害事象は不完全であり、想起バイアスや報告バイアスの影響を受ける可能性がある。また夜間投与群では朝投与群に比べてアンケート調査からの離脱率が高かったため、群間比較において実際の有害事象発生率が過小評価された可能性があります。したがって、これらの自己報告による有害事象のデータは慎重に解釈されるべきであると考えます。そして高齢者、高血圧の家族歴がある人、高血圧治療薬の服用数が多い人、社会的剥奪度が低い人ほど家庭血圧測定に参加しやすく、一方、BMIが高い人および喫煙者は家庭血圧測定に参加しにくい傾向があることが示された。したがって家庭血圧のデータは、TIME試験の無作為化集団を必ずしも完全に代表しているわけではありません。TIME試験は、夜間高血圧やその他の日内血圧変動障害に関する試験ではなく、これらの集団における投与時間について助言するためには、さらなる研究が必要である。

【開催日】2022年12月7日(水)

EFの保たれた心不全患者(HFpEF)に対するSGLT2阻害薬の効果

―文献名―
Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction Stefan D. Anker N Engl J Med 2021; 385:1451-1461

―要約―
【背景】
SGLT2阻害剤は、駆出率低下を伴う患者の心不全による入院のリスクを低下させるが、心不全と駆出率の保持を伴う患者への影響は不明である。
【方法】
この二重盲検試験では、NYHAクラス II ~ IV のEF40% を超える心不全患者 5,988 人を、通常の治療に加えてエンパグリフロジン (商品名ジャディアンス1 日1 回 10 mg) またはプラセボに無作為に割り付けた。主要アウトカムは、心血管死または心不全による入院の複合アウトカムである。
【結果】figure1,figure3,table2
中央値 26.2 ヶ月で、エンパグリフロジン群の患者 2997 人中 415 人 (13.8%)、プラセボ群の患者 2991 人中 511 人 (17.1%) で主要転帰イベントが発生した (ハザード比 0.79:95% 信頼区間 0.69 ~ 0.90:P < 0.001)。この効果は主に、エンパグリフロジン群の心不全による入院リスク低下に関連していた。エンパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無にかかわらず患者で一貫しているように見えた。心不全による入院総数は、プラセボ群よりもエンパグリフロジン群の方が少なかった (エンパグリフロジンで 407 人、プラセボで 541 人; ハザード比 0.73:95% 信頼区間 0.61 ~ 0.88: P<0.001)。合併症のない生殖器および尿路感染症と低血圧が、エンパグリフロジンでより頻繁に報告された。 【結論】 エンパグリフロジンは、糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が保持されている心不全患者の心血管死または心不全による入院リスクを低下させた。 【limitation】 ・心血管死亡や全死亡には有意差がない ・以前のARNIのHFpEF患者に対する試験(患者集団・観察期間が同等)でも心血管死と心不全入院の結果に差がある ・死亡以外の中断例が全体の23%あり、有意差をなくしている可能性がある

【開催日】2022年11月9日(水)

人工甘味料と心血管疾患のリスク

-文献名-
Charlotte Debras, 2 Eloi Chazelas, Laury Sellem. Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Santé cohort. BMJ 2022; 378: e071204

-要約-
Introduction:
 WHOは、1日のエネルギー摂取量のうち遊離糖(単糖類および二糖類)の割合を5%未満にすることを推奨している。添加糖の代替として登場した人工甘味料は、砂糖を使わなくても甘みを再現できるため、遊離糖のカロリーを抑え、消費者に高く評価された。各人工甘味料の許容可能な1日接種量は、欧州食品安全機関(EFSA)、米国食品医薬品局(FDA)、または食品添加物に関する合同専門家委員会によって設定されている。それにも関わらず、それらは依然として論争の的となっており、現在EFSAやWHOを含むいくつかの保健当局による再評価を受けている。
 これまでの研究では、人工甘味料を含む飲料の摂取と心血管リスク増加の影響が示唆されたが、これらの関連性に関するエビデンスのレベルはWHOによって低いと見なされている。さらに、人工甘味料入り飲料は人工甘味料の総摂取量の一部に過ぎないため、因果関係研究ではすべての食事源を考察することが重要である。
 本研究の目的は、定量データを使用して大規模な前向き研究を実施し、すべての食事源からの人工甘味料の全体的な関連性を調査することとした。

Method:
 参加者は、ウェブベースのNutriNet-Santéコホートの103,388人の参加者(平均年齢 42.2±14.4、女性 79.8%、904,206 人年)。人工甘味料の食事摂取量と消費量は、工業製品のブランド名を含む 24 時間の繰り返しの食事記録によって評価された。
 主な結果は、甘味料 (連続変数としてコード化され、log10 変換) と心血管疾患リスクとの関連性を測定し、多変数調整 Cox ハザード モデルによって評価された。

Results:
 人工甘味料の総摂取量は心血管疾患のリスク増加と関連していた (1502 件、ハザード比 1.09、95% 信頼区間 1.01 ~ 1.18、P = 0.03)。高消費者(性別の中央値を超える)と非消費者の絶対発生率は、それぞれ10万人年あたり346と314だった。人工甘味料は、脳血管疾患のリスクと特に関連していた (777 イベント、1.18、1.06 ~ 1.31、P = 0.002; 発生率は、高所得者および非消費者でそれぞれ 10 万人年あたり 195 および 150)。アスパルテームの摂取は、脳血管イベントのリスク増加と関連していた (1.17、1.03 から 1.33、P=0.02; 高値者および非消費者における発生率は、それぞれ 100,000 人年当たり 186 および 151)。

Discussion:
 NutriNet-Santé コホートでは、人工甘味料の総摂取量は、全体的な CVD および脳血管疾患のリスク増加と関連していた。アスパルテームの摂取は脳血管イベントのリスク増加と関連し、アセスルファムカリウムとスクラロースは冠状動脈性心疾患のリスク増加と関連していた。この結果は、追加の砂糖を人工甘味料に置き換えても CVD の結果に利益がないことを示唆している。
 この研究は、大規模なサンプルサイズ (n=103,388) に基づいており、すべての食事源からの人工甘味料の摂取と CVD リスクとの関連性を前向きに調査した。食事摂取量を完全に測定する方法はないため、分類バイアスを排除することはできない。ただし、この研究で行われた人工甘味料消費量の評価は、大規模な集団ベースのコホートにおける個人レベルでの包括的な評価だった。NutriNet-Santé 研究は、正確で質の高い食事データを備えた疫学コホートである。食事の記録は、訓練を受けた栄養士とのインタビューによって以前に検証されており33、エネルギーと栄養素の摂取量に関する血液と尿のバイオマーカーに対して検証されている。世界中の疫学研究では、一般的に食事頻度アンケート(24 時間繰り返した食事記録よりも精度が低いことが知られている)、またはベースラインでの限られた数の記録またはリコールを使用している。

【開催日】2022年10月12日(水)

有痛性の糖尿病性神経障害に対する併用薬物療法

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です
-文献名-
・Tesfaye S, Sloan G, Petrie J, et al.
“Comparison of amitriptyline supplemented with pregabalin, pregabalin supplemented with amitriptyline, and duloxetine supplemented with pregabalin for the treatment of diabetic peripheral neuropathic pain (OPTION-DM): a multicentre, double-blind, randomised crossover trial”
・Lancet. 2022;400(10353):680. Epub 2022 Aug 22.

-要約-
Background:
糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、よく見られる症状で、しばしば強い苦痛を伴う。ほとんどのガイドラインで、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが、DPNPの鎮痛治療の第一選択薬として推奨されているが、どれが最良かとか、併用すべきかに関する比較試験のエビデンスはほとんどない。そこで、DPNP の治療のための第一選択薬のさまざまな組み合わせの有効性と忍容性を評価することを目的とした。

Method:
OPTION-DM は、英国の 13 のセンターの多施設無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、1日平均疼痛数値評価尺度 (NRS) が 4 以上 (尺度は 0 ~ 10) の DPNP 患者を対象としたものである。参加者はランダムに割り当てられ (1:1:1:1:1:1)、 6 または 12人 の順列ブロックを使用して、サイトごとに階層化された所定のランダム化スケジュールで、3 つの治療経路の6つの順序付けられたシーケンスのうちの1つを受けるように割り当てられた: つまり、アミトリプチリンにプレガバリンを追加(A-P)、プレガバリンにアミトリプチリンを追加(P-A)、デュロキセチンにプレガバリンを追加(D-P)にいずれかで、各経路は 16 週間継続した。単剤療法は 6 週間行われ、現在の臨床実践を反映して、鎮痛が十分でない場合 (NRS > 3)には、併用療法が追加されました。いずれの治療も、最大耐用量 (アミトリプチリンは75 mg/day、デュロキセチンは120 mg/day、プレガバリンは600 mg/day)まで漸増して調整された。primary outcomeは、各経路の最終週における 7 日間での1日あたりの平均の痛みの差とした。この試験は、ISRCTN、ISRCTN17545443 に登録されている。

Results:
2017 年 11 月 14 日から 2019 年 7 月 29 日までの間に、252 人の患者がスクリーニングされ、140 人の患者が無作為に割り当てられ、130 人が治療経路を開始し (84 人が少なくとも 2 つの経路を完了)、primary outcomeについて分析された。 16 週目の 7 日間平均 NRS スコアは、3 つの経路すべてにおいて、ベースラインの平均 6.6 (SD 1.5) から 16 週目の 3.3 (SD 1.8) に減少した。 平均の差は、D-P 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、P-A 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、0. P-A 対 D-P では 0 (98.3%信頼区間 –0.4 ~ 0.4) であるため、有意な差はなかった。 併用療法を受けた患者の平均 NRS 減少は、単剤療法を続けた患者よりも大きかった (1.0 [SD 1.3] vs 0.2 [1.5])。 有害事象は単剤療法では予測可能だった。P-A 経路ではめまい、D-P 経路では吐き気、A-P 経路では口渇の有意な増加が観察された。
Background:
糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)は、よく見られる症状で、しばしば強い苦痛を伴う。ほとんどのガイドラインで、アミトリプチリン、デュロキセチン、プレガバリン、ガバペンチンが、DPNPの鎮痛治療の第一選択薬として推奨されているが、どれが最良かとか、併用すべきかに関する比較試験のエビデンスはほとんどない。そこで、DPNP の治療のための第一選択薬のさまざまな組み合わせの有効性と忍容性を評価することを目的とした。

Method:
OPTION-DM は、英国の 13 のセンターの多施設無作為化二重盲検クロスオーバー試験で、1日平均疼痛数値評価尺度 (NRS) が 4 以上 (尺度は 0 ~ 10) の DPNP 患者を対象としたものである。参加者はランダムに割り当てられ (1:1:1:1:1:1)、 6 または 12人 の順列ブロックを使用して、サイトごとに階層化された所定のランダム化スケジュールで、3 つの治療経路の6つの順序付けられたシーケンスのうちの1つを受けるように割り当てられた: つまり、アミトリプチリンにプレガバリンを追加(A-P)、プレガバリンにアミトリプチリンを追加(P-A)、デュロキセチンにプレガバリンを追加(D-P)にいずれかで、各経路は 16 週間継続した。単剤療法は 6 週間行われ、現在の臨床実践を反映して、鎮痛が十分でない場合 (NRS > 3)には、併用療法が追加されました。いずれの治療も、最大耐用量 (アミトリプチリンは75 mg/day、デュロキセチンは120 mg/day、プレガバリンは600 mg/day)まで漸増して調整された。primary outcomeは、各経路の最終週における 7 日間での1日あたりの平均の痛みの差とした。この試験は、ISRCTN、ISRCTN17545443 に登録されている。

Results:
2017 年 11 月 14 日から 2019 年 7 月 29 日までの間に、252 人の患者がスクリーニングされ、140 人の患者が無作為に割り当てられ、130 人が治療経路を開始し (84 人が少なくとも 2 つの経路を完了)、primary outcomeについて分析された。 16 週目の 7 日間平均 NRS スコアは、3 つの経路すべてにおいて、ベースラインの平均 6.6 (SD 1.5) から 16 週目の 3.3 (SD 1.8) に減少した。 平均の差は、D-P 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、P-A 対 A-P で -0.1 (98.3%信頼区間 -0.5 から 0.3)、0. P-A 対 D-P では 0 (98.3%信頼区間 –0.4 ~ 0.4) であるため、有意な差はなかった。 併用療法を受けた患者の平均 NRS 減少は、単剤療法を続けた患者よりも大きかった (1.0 [SD 1.3] vs 0.2 [1.5])。 有害事象は単剤療法では予測可能だった。P-A 経路ではめまい、D-P 経路では吐き気、A-P 経路では口渇の有意な増加が観察された。

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
私たちの知る限り、これはこれまでで最大かつ最長の直接対決のクロスオーバー試験である。3つの治療経路と単剤療法のすべてが同様の鎮痛効果を持つことを示した。併用療法は忍容性が高く、単剤療法では疼痛管理が不十分な患者の疼痛が改善された。
 OPTION-DM は単剤療法と併用療法の比較として設計されたわけではないが、このデータは、DPNP 患者に対する第一選択薬の併用療法を推奨する説得力のある事例を示している。P-A 経路は TEAE による中断が最も少なく、これらの結果は決定的なものではないが、DPNP の第一選択治療として P-A 経路が最良の選択である可能性があることを示唆している。
 この試験では、プラセボ群が存在しないことが制限と見なされる場合がある。しかし、これらの薬は世界中で一般的に使用されており、現在、無作為化プラセボ対照試験から得られた有効性に関する多数の証拠に基づいて、National Institute for Health and Care Excellence などの規制および諮問機関によって承認されている。さらに、プラセボ群を追加すると、このすでに長く厳しい試験の期間が長くなり、患者および市民参加パネルとの協議の後、倫理的に正当ではないと感じた。実際、プラセボ群を含まない別のクロスオーバー併用試験では、単剤療法と併用療法の両方でNRSの痛みが同程度に減少することが示された。
 もう1つの制限は、3つの経路すべての主要な結果データを提供する患者は59%に過ぎず、少なくとも2つの経路を完了する患者は64%と、比較的drop-outが多いことである。この主な理由は、長い研究期間 (51 週間) であり、患者の時間に対するかなりの要求 (例えば、年次休暇の延期など) であった。それにもかかわらず、欠損データ (理由による欠損を含む) の影響に関する感度分析は、これがバイアスを引き起こすのではなく、主に差の精度に影響を与えたことを示唆している。さらに、治療経路間のウォッシュアウト期間を長くすること (例えば 2 週間) が望ましいと思われたが、この長くて要求の多い試験ではこれは非倫理的であり、害やさらに大きな研究の中止につながる可能性があると感じた。最後に、この研究は、キャリーオーバー効果を検出する統計的な検出力を備えていませんでしたが、16 週間という長い治療期間の終了時に、これが主要な結果に影響を与えた可能性は低い。

選んだ論文が研究論文ではない場合、introduction、discussionに準じた内容を含めるようにしてください。

【開催日】2022年10月5日(水)