尿管結石に対する薬物的排石促進療法

-文献名-
Robert Pickard et al. Medical expulsive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial . Lancet. 2015;386:341-349.

-この文献を選んだ背景-
 尿管結石患者を久しぶりに自分で診る機会があった。
 自然排石を期待する際、本疾患は疼痛が強いため効果が期待される薬剤は極力提案したい。ガイドラインでタムスロシン(ハルナール)やニフェジピン(アダラート)の推奨の記載もあるが、3〜4年ほど前に同薬剤は効果がなかったという論文を読んだ記憶があり、再度確認し直そうと思い選んだ。

-要約-
Introduction
以前のランダム化比較試験のメタ分析ではタムスロシン・ニフェジピンは自然排石の効果を報告していた。小規模・単施設であり、さらに低〜中等度の試験の質であった。また試験デザインのバラつきがあり、評価指標も異なっていた。にも関わらずガイドラインでもこれらの薬剤が推奨されていた。このため、質の高い研究が必要とされており、筆者らが検証した。

Method
多施設(英国の24の病院)、ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール、RCT
尿管疝痛を来した18歳〜65歳の、CTで10mm以下の1個の尿管結石を認めた患者。
ランダムにタムスロシン(400μg/日)、ニフェジピン(30mg/日)、およびプラセボに割り当て4週間内服してもらった(排石や処置を要した際にはその時点で中止)。
処置を要さなかった患者の割合で評価。

Result
・2011年1月11日〜2013年12月20日までに1167人が割り付けられ、1136人が分析された(17人:不的確・14人:追跡不能)。Figure 1論文参照
・処置不要であった割合はプラセボ群(379人)の80%に対しタムスロシン群(387人)は81%であった。
 プラセボ群との調整リスク差は1.3%(95%信頼区間-5.7から8.3、P=0.73)だった。
 ニフェジピン群(379人)も80%で、プラセボ群との調整リスク差は0.5%(95%信頼区間-5.6から6.5,P=0.88)であった。
 タムスロシン群とニフェジピン群を合わせてプラセボ群と比較したが、差は有意では無かった(P=0.78)。タムスロシン群とニフェジピン群の
 比較においても、有意差は見られなかった(P=0.77)Table 2
・性差、結石のサイズ、結石の位置によるサブグループ解析も行われたが同様の結果であった。Figure 2
・副次評価項目(鎮痛薬使用日数、排石までの期間)にも有意差なし。Table 3
・重大な副作用ニフェジピン群で「一例は右腰部痛・下痢・嘔吐、一例は不快感・頭痛・胸痛、一例は重度の胸痛・呼吸困難・左腕痛」の
 3例が報告された。またプラセボ群で「頭痛・めまい・ふらつき・慢性腹痛」の一例が報告された。

貴島先生図①

貴島先生図②

貴島先生図③

discussion

今回の結果ではタムスロシンとニフェジピンは排石に対し有効性を示せなかった。
他の試験では石のサイズの下限(3〜5mm)を設定されており、これらの患者群では、薬物的排石促進療法の恩恵を受ける可能性が高い事が考えられる。

-考察とディスカッション-
・ニフェジピンは有効性と副作用の観点から処方しないでよいのでは。
・他の論文では5mm以上の結石に対しタムスロシンの効果を報告しているものもある。今回の副作用との兼ね合いから処方検討してもよいのでは。
 (処方するにしての、そもそも日本ではタムスロシン200μg/日の用量で男性に)
・保存的治療が対応となる尿管結石の患者に対してタムスロシンやニフェジピンを処方していましたか?タムスロシンを処方しているなら
 その対象患者や用量はどうしていますか?
・この結果を受けて、あなたの処方に変化がありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)

脳卒中2次予防の合剤に対する患者、介護者、総合診療医の考え

-文献名-
James Jamison, Jonathan Graffy, Ricky Mullis, Jonathan Mant, Stephen Sutton
Stroke survivors’, caregivers’, and GPs’ attitudes towards a polypill for the secondary prevention of stroke: a qualitative interview study. BMJ Open 2016 6 : doi: 10.1136/bmjopen-2015-010458

-要約-
Introduction
 脳卒中や一過性脳虚血発作を起こした患者では2次予防が必要となるが、それに必要な薬剤は抗血小板薬、抗凝固薬、高脂血症薬や降圧薬などの複数の薬剤を内服することになる。しかし、エビデンスに基づいたガイドラインが存在しているにも関わらず、その治療は推奨される基準を満たしていないことが多い。そのため、この研究では合剤についての患者、介護者、総合診療医の考えについて調べるために、インタビューを行い、質的に研究することを目的とした。

Method
 東イングランドの5つの診療所で質的インタビュー研究を行った。28名の患者、14名の介護者、5名の総合診療医にインタビューを行い、合剤に対する考えや将来の使用について分析した。

Results
 合剤の利点、合剤への心配、内服のための説明の3つのテーマが同定された。患者は合剤に対して肯定的に捉えており、飲み忘れが減って、治療を中断することが減るのと考えていた。介護者は薬を飲ませることが楽になると感じていた。総合診療医は心血管リスクの高い患者への処方には前向きであった。しかし、合剤に同等の治療効果があるのか、薬剤を組み合わせた時の副作用はどうか、ノンアドヒアランスの結果はどうなるのか、容量を調整する時に融通が利かないのではないか、現在の治療が中断してしまわないか、より広く脳卒中の患者に適応できるのかが懸念材料として出てきた。

Discussion
 サンプルサイズが限られているため、今回の結果が脳卒中患者に広く当てはまるかは不明であり、すべての総合診療医の考えを反映できていない可能性がある。 また、今回出てきたような懸念材料を解決するような研究が期待される。

【開催日】
 2016年6月22日(水)

PPIが高齢者の認知症リスクを上昇させる可能性

-文献名-
Willy Gomm et al. Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of dementia: A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis. JAMA Neurol. 2016;DOI: 10.1001/jamaneurol.2015.4791.

-要約-
【背景・目的】
 ドイツではPPIの使用量がここ10年で4倍となった。そのうち40-60%が不適切な使用とみなされている。一方で、PPIが認知機能の低下に関連していることを示唆する研究が報告されている。
 先行研究(AgeCoDe研究 約3000人対象)では高齢者においてPPI使用による認知症発症のハザード比はHR1.38[95%CI 1.04-1.83]であった。そこで先行研究の結果を確認するために大規模な前向きコホート研究を実施した。
【方法】
 対象はドイツ最大の健康保険であるAOKの 2004-2011年の診療記録を用い、入院患者と外来患者の診断名とPPI内服歴を調査した。(AOKは全ドイツ人の1/3、高齢者の1/2をカバー)
 PPI内服の定義:各四半期でPPIの処方歴をもって「PPI内服」と定義。最初の18か月の内、すべての四半期で「PPI内服」である患者を「PPI定期内服群」とした。すべての四半期でPPI処方歴がなかった患者を「PPI非内服群」とした。
 先行研究にならい認知症の評価は18か月毎。その時点で認知症と診断されなかった人は引き続き次の18か月も観察対象とした。追跡は2011年末まで行った。
 主要アウトカム:認知症の新規診断として、先行研究から推測される交絡因子(table1参照)はCox回帰モデルにて調整してPPIの使用と認知症の関係を解析した。
島田先生図

【結果】
 対象集団(Figure1)
  ・「PPI定期内服群」は2950人「PPI非内服群」は70729人 (Table1)
  ・PPIのハザード比 1.44(95%CI 1.36-1.52)
島田先生図2
 サブ解析
  オメプラゾール(オメプラール®)   1.51(1.40-4.64)
  パントプラゾール(国内未承認)    1.58(1.40-1.79)
  エソメプラゾール(ネキシウム®)  2.12(1.82-2.47)
【研究の限界】
 ・他の既知の認知症の危険因子(ApoE4や教育レベル)という因子を調整できていない。
 ・認知症の病型を区別していない
【結論】
 PPIの服用回避で認知症発症を抑制するかもしれない。PPIにより脳内アミロイドβが増加したというマウス実験や薬物疫学の一次データの裏付けになるだろう。さらなる検討のためランダム化前向き臨床試験が待たれる。
【参考】「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015(案)」
 ・STOPP::H2RA(高齢者において認知機能低下、せん妄のリスクあるため可能な限り使用を控える)
 ・START:PPI (GERD/NERDに対して。但し1年以上わたる常用量を越える投与は避ける)

【開催日】
2016年3月16日(水)

「心房細動+安定した冠動脈疾患=抗凝固薬+抗血小板薬」が適切とは限らない

―文献名―
Morten lamberts, et al. Antiplatelet Therapy for Stable Coronary Artery Disease in Atrial Fibrillation Patients Taking an Oral Anticoagulant; A Nationwide Cohort Study. Circulation. 2014;129:1577-1585.

―この文献を選んだ背景―
 プライマリケアのセッティングにおいて、冠動脈ステント後で抗血小板薬内服中の患者を紹介され長期間フォローするケースは比較的多い。さらに、AFを合併した場合には抗凝固薬の適応となり、以前から併用されている場合もあれば、我々が新規導入する場合も少なくない。しかし、高齢・胃潰瘍既往・NSAIDS内服・腎機能障害など他の出血リスクを合併している患者も多く、漫然と抗凝固薬と抗血小板薬を併用することの有用性について疑問を感じていたところ、ある医学雑誌の記事に本問題に関する特集があり元文献を読んでみた。

―要約―
【背景】
 安定した冠動脈疾患(stable CAD:MI発症またはPCI後12ヶ月以上経過)を合併したAF患者に対する適切な抗血栓治療については明らかにされておらず、一般的に抗凝固薬に抗血小板薬1剤が追加される。本研究ではstable CADを合併したAF患者に対して、ビタミンK拮抗薬(VKA:ワルファリン等)に抗血小板薬を追加することの有効性と安全性を調査した。

【方法】
 デンマークの国内データベースを用いた観察研究。2002-2011年の間にstable CADを合併したAF患者8,700人(平均74.2歳/女性38%)を追跡し、心血管イベントと重篤な出血イベントのリスクについて修正Cox回帰モデルを用いて解析した。

【結果】
 平均3.3年間の追跡で、MI/心血管死・血栓塞栓症・入院を要する重篤な出血の発生率はそれぞれ7.2・3.8・4.0(/100人年)だった。VKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.12[95%CI 0.94-1.34])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.53[95%CI 0.93-2.52])のMI/心血管死リスクは同等であった。血栓塞栓症リスクもVKAを含むすべてのレジメンで同等であった。一方で、出血リスクはVKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.50[95%CI 1.23-1.82])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.84[95%CI 1.11-3.06])で増加した。

【結論】
 stable CADを合併したAF患者に対して、VKAに抗血小板薬を追加することは、心血管イベントや血栓塞栓症の再発リスク減少とは関連せず、一方で出血リスクを有意に増加した。

【研究の限界】
 介入研究ではない。ステントの種類に関してはデータの登録がなく不明である。

【参考】
 本研究の結果を受けて、2014年のヨーロッパ心臓病学会ガイドライン(European Heart Journal. 2014;35:3155-3179)では、AF患者がCADを合併(ACS発症またはPCI施行)した場合、CHA2DS2-VASc score(血栓塞栓症リスク)やHAS-BLED score(出血リスク)の値に関わらず、1年間以降は抗凝固薬単剤を推奨している。

―考察とディスカッション―
 欧米での研究ではあるが、日本人は欧米人に比べ一般的に出血リスクが高いことを考えると、同様に1年後以降はVKA単剤でも良いのではと思った。もちろん抗血小板薬中止の際には、患者の個別性を踏まえた丁寧な医学的評価とコミュニケーションが必要である。なお、NOACは本研究で扱われていないため注意を要する。

<ディスカッション>
 ① これまで本問題に対してどのような対応を行ってきましたか?
 ② 本研究の結果を受けて、今後のプラクティスはどのように変わり得るでしょうか?

【開催日】
 2016年2月17日(水)

【EBMの学び】アレンドロンからデノスマブへ

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年2月6日
【臨床状況のサマリー】
 89歳女性。歩行は問題なし。閉経後で、骨粗鬆症に対してビスホスホネート製剤(BP薬)を内服中。しかし認知症が進行しており、内服忘れなどが目立つようになってきた。近所に住む息子さんが早朝と朝食後に薬を運ぶようにしていたが、負担に感じていた。そんな折に、半年に1回の注射製剤(デノスマブ:プラリア®)があると聞いたため調べることとした。カルテでは2014年1月から当院フォロー。当院フォロー後からBP薬内服の記載あり。T-score -6.22。

 P;閉経後のBP薬を使用している女性
 I(E);BP薬からデノスマブへ変更した場合
 C;BP薬のままのときと比べて
 O;骨粗鬆症に関連する骨折の頻度が増えない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Effects of Denosumab on Bone Mineral Density and Bone Turnover in Postmenopausal Women Transitioning From Alendronate Therapy
  1.up to dateで「骨粗鬆症」を検索
  2.「Overview of the management of osteoporosis in postmenopausal women」の「Overview of available therapies」の項目に
    「Denosumab」あり。効果に関しては”Denosumab for osteoporosis”を参照する様に書かれていたのでリンクを参照。
  3.「Efficacy」の「Effect on BMD」に「After Alendronate」の項目あり。参照論文が一つあったのでそれを選択した。

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;アレンドロン酸70mg/wで6か月以上治療している55歳以上の閉経後女性
 I(E);デノスマブ60㎎皮下注+プラセボ内服
 C;プラセボ皮下注+アレンドロン酸継続
 O;12か月後のtotal hip BMDの変化率
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
  P:アレンドロン酸の量が異なる。日本では35mg/wが一般的。年齢について55歳以上は合致するが、Tableを参照すると、89歳という高齢女性は
    組み込まれていない。また全員がカルシウム1000mg/日、最低でもビタミンD400IU/日を内服しているが、これも合致しない。
  I,C:特に異なる点はなし。
  O: 立てていたアウトカムは骨折の頻度であったが、論文ではBMDの変化率であった。これは合致しない。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない)
   どう異なるか?:介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 T-score変化率はデノスマブで1.90%(95%CI 1.61-2.18%)
 アレンドロン酸で1.05%(95%CI 0.76-1.34%)
 変化率は0.85%(95%CI:0.44-1.25%)

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 上記は変化率の計算だったので、絶対値に換算(T-score -4.0とした場合)
  デノスマブ:0.076(0.064-0.087)
  アレンドロン酸:0.042(0.03-0.053)
  変化量は0.034(0.02-0.05)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 95%CI 0.44-1.25% であり、-0.35%をまたがない。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 適用すべき患者の年齢と骨密度検査値が論文のPatientとは違う。また、当院では橈骨遠位端でのBMD検査である。カルシウムやビタミンのサプリ内服もしていない。BP薬の内服量も違うということもあり異なる点は多いが、適応不能ではないと判断。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 アレンドロン酸よりは実行可能と思われる。保険適応の問題もない。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 アレンドロン酸35㎎は安くて314.7円。デノスマブ60㎎は28482円。
 1年が52週とすると、アレンドロン35㎎(16364円)、70㎎(32728円)。
 デノスマブ60㎎は56964円。金額的にはかなり差がある。更にデノスマブは長期予後・副作用が明らかでない。
 副作用は両群間に差はなかった。低カルシウム血症はデノスマブ群で1例見られたが、一時的なものであった。骨折については副作用として何例か報告されているが有意差はなし。
 FRAXを計算し、元々のT-score -6.22で、最大0.087上昇したとすると、Hip fracture 44%→46%になる。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 認知症のため、正確に評価は難しい。今後は施設入所も考えており、皮下注射があることで入所制限がかかる可能性も考慮する必要がある。通院が可能であれば早朝に起きて飲むよりは楽と思われる。患者は認知症のため、朝から薬を持って行っているのは近くに住む息子さんである。早朝と、朝食後の2回に分けて薬を持っていくのは負担になっており、導入は負担の軽減につながると考える。

付記
★FRAX(10年間の骨折発生リスクについて)WHO
転倒による顔面骨折既往歴あり
★アドヒアランスに関する論文
Influence of patient perceptions and preferences for osteoporosis medication on adherence behavior in the Denosumab Adherence Preference Satisfaction study
★8年間の追跡研究
The effect of 8 or 5 years of denosumab treatment in postmenopausal women with osteoporosis: results from the FREEDOM Extension study.
★非劣性試験と同等性試験について
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02971_04

【開催日】
2016年2月10日(水)

小児の滲出性中耳炎へ私たちがなにを行えるか?

―文献―
Effect of nasal balloon autoinflation in children with otitis media with effusion in primary care: an open randomized controlled trial. CMAJ. 2015 Jul 27

―要約―
【背景】
 滲出性中耳炎は4-5歳で46%の有病率を有するありふれた疾患であるが、抗生物質や抗ヒスタミン薬を始めとする非手術療法では根拠に基づく治療法はないと言われている。そんななか鼻でバルーンを膨らませる自己耳管通気はプライマリケアで幅広く使われる可能性を秘めているが、その有効性を示す根拠はいくつかの病院セッティングの小さな試験に限られてきた。そこで私たちは、プライマリケアの場面でみつかった小児の滲出性中耳炎に対する自己耳管通気の臨床的有効性についての実用的試験での知見を報告する。

【方法】
 2012年1月~2013年2月までの英国の17のプライマリケアトラストのなか43の総合診療部門で患者を募った。学校に通う4-11歳の子供を適応基準としたうえで、過去3か月の難聴や耳に関連した問題の病歴を聴取し、滲出性中耳炎の確定に耳鏡とティンパノメトリーが実施され、片側ないし両側typeBを滲出性中耳炎と定義した(Table 1)。直近の中耳炎や手術の既往や予定、ラテックスアレルギーや直近の鼻出血を認める場合除外した。
上野先生図3
 介入の性質上、プラセボを用いることは不可能であり自己耳管通気を1日3回に通常ケアを加えた群と通常ケア群に割り付け、1ヵ月後・3ヵ月後にティンパノグラムと耳関連のQOL尺度であるOMQ-14を用いて評価を行った。

【結果】
 1235人の子供が適格基準に当てはまり、320人が無作為割り付けされた。脱落は1ヵ月後で8.4%、3ヵ月後で12.2%と良好に追跡されていた。通常ケア群と比べて、自己耳管通気を受けた子供では鼓膜聴力検査上の改善が多くみられ、1ヵ月後には補正相対リスク比で1.36(95%CI:0.99-1.88)、3ヵ月後で1.37(95%CI:1.03-1.83)となり、NNT=9だった。一つ一つの耳ごとに改善を見た場合は1ヵ月後でも有意な結果となった。3ヵ月後のOMQ-14の研究開始時からの変化の平均も自己耳管通気群でより向上が見られた。通常ケアとの補正変化量は-0.42ポイント(95%CI:-0.63 – -0.22)となった。
 開始1か月で89%の親が「ほとんど使用できた」、もしくは「毎回使用できた」と回答した。副作用には鼻出血の頻度がわずかな違いしかみられなかったが、上気道感染は治療群でより多くみられた(15% v 10%)ただ多くは軽度の熱のでない鼻風邪程度だった。
上野先生図4上野先生図5

【結論】
 この研究で若い学童期の子供の滲出性中耳炎への自己耳管通気はプライマリケアで実用的で、中耳の浸出液を排除し、耳に関連した症状と子供と親のQOLを改善させる有効性が示された。NNT9という数値は滲出性中耳炎治療の現状に利益をもたらす非侵襲的治療の選択肢と考えられ、OMQ-14の中等度の改善は重要で勇気づけられる結果となった。ひろく自己耳管通気が行われることで、現状の決め手に欠ける滲出性中耳炎に立ち向かえる日が来るかもしれない。

―考察とディスカッション―
 室蘭のセッティングでは急性中耳炎の治療に関わる機会は多いものの、症状に乏しく遷延した状態の滲出性中耳炎の診療に関わる機会があまりなかった。論文を読み、耳鼻科通院でなかなかよくならないという話を振り返ると滲出性中耳炎診療の限界と困難さをうかがい知るとともに、プライマリケアから新たなエビデンスを創出しようという気概を感じ、総合診療といいながら滲出性中耳炎を耳鼻科の領域として関わろうとしてこなかった自分に気づくことができた。

ディスカッションポイント
 ①滲出性中耳炎の診療経験とそこで得られた気づきはありましたか?Otoventは使えそうですか?

 ②滲出性中耳炎のように根拠のある治療方針がなく、困った経験はありませんか?

【開催日】
 2016年2月3日(水)

【EBMの学び】BNPガイド下の心不全治療

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015年10月25日
【臨床状況のサマリー】
 #脳梗塞後遺症 #慢性心不全 #高血圧症 #脂質異常症 #慢性腎不全
 上記プロブレムで訪問診療中の74歳女性。ADLは屋内歩行器レベル
 2年前に心不全からの退院を契機に訪問診療導入。施設入所者。その後、入院を要することなく、安定した在宅療養を行えている。紹介時の心エコーではLVEF=30% 診察上 血圧130/80mmHg HR70 Sat95% 頸静脈怒張あり
  心雑音:心尖部にIII/VIの収縮期雑音 下腿浮腫あり 体重は概ね安定している。
 当院では、脂質異常症、慢性心不全のフォロー目的に3-6か月毎に血液検査(CBC、一般生化学、NTproBNP)を行ってきた。ここ2年のNTproBNPは1000程度pg/mLで推移している。内服調整なし。血清Creは1.5mg/dL程度
  内服薬)バイアスピリン(100)1T1x, アトルバスタチン(5)1T1x, レニベース(5)1T1x, アーチス(2.5)1T1x, アルダクトンA(25)0.5T,
      ラシックス(20)1T1xなど
  既往症)心不全の急性増悪(入院)心房細動なし
  喫煙歴:なし 飲酒なし 家族歴:なし
 今までなんとなく、慢性心不全の病名のある患者には定期採血にNTproBNPを含めていた。しかし、最近になりNTproBNP検査過剰である旨の警告が支払基金から送られてきた。NTproBNPを実施する患者を選択する必要を感じるようになった。慢性心不全の患者にBNPを実施することは有益なのか調べてみることにした。
 P;慢性心不全で治療中の高齢者
 I(E);NTproBNPを心不全の評価に利用した治療
 C;NTproBNPを利用しない治療
 O;QOLを改善するのか?

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
BNP-guided vs symptom-guided heart failure therapy: the Trial of Intensified vs Standard Medical Therapy in Elderly Patients With Congestive Heart Failure (TIME-CHF) randomized trial. JAMA. 2009 Jan 28;301(4):383-92.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;60歳以上の慢性心不全患者(EF≦45%) and NYHA>II以上 and 1年以内の心不全の入院歴 and NTproBNPが正常値の2倍以上
 I(E);症状に加えてBNP正常上限2倍以下を目標に治療
 C;NYHA≦II度を目標に治療する
 O;18ヶ月後の入院回避率とQOL
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない)
どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
一次エンドポイント
 ●入院回避率(figure 5)
  41% vs 40%( BNP群vs 症状群) p=0.39で有意差なし
 ●QOL(table 2)
  両群とも12ヶ月後にベースラインに比べて優位に改善(p<0.001)。
  両群間に有意差はなし。
その他の評価項目
 ●全生存率(Figure 5)
  84% vs 78%( BNP群vs 症状群) p=0.06
 ●心不全による入院回避率(figure 5)
  72% vs 62% ( BNP群vs 症状群) p=0.01
 ●年齢によるサブ解析(Figure 6)
  75歳未満では:入院回避率(p=0.05)、全生存率(p=0.02)、心不全による入院の回避率(p=0.002)と有意差を認めた。
  75歳以上では:入院回避率(p=0.54)、全生存率(p=0.51)、心不全による入院の回避率(p=0.45)と有意差は認めない。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70
    全生存率:HR 0.41
    心不全による入院の回避率:HR0.42
●ARRとNNTを計算する
 Figure5より
  18ヶ月時点での入院回避率 RR=0.9709 ARR=0.020 NNT=49.3
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.45-1.02)
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.50-0.92)
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70(95% CI, 0.49-1.01)
    全生存率:HR 0.41(95% CI, 0.19-0.87)
    心不全による入院の回避率:HR0.42(95% CI, 0.24-0.75)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 Table 1によれば、NYHA>IIIの心不全が74%を占めていて、NT-proBNP値の平均が4000程と高い点が目の前の患者と異なる点である。全体的に、論文の患者の方が目の前の患者に比べて重症感がある印象。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 治療のプロトコール詳細は不明であるが、ACC/AHAガイドライン通りの治療を行うことは忠実に実行可能であろう。しかし、BNP値が高いからといってACEIやB遮断薬の増量を行うということは実臨床では行うことはないかもしれない。
 NTproBNP測定(1.3.6.12.18か月)については心不全患者であれば保険適用内で実行可能であろう。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 75歳以上の患者群ではBNPガイド群は症状ガイド群に比べて入院回避率やQOLを改善させることなく、重大な副作用(腎機能障害や低血圧による入院)が多く出現している。74歳≒75歳であり、NTproBNPのコントロールを目標とした薬剤調整には危険を伴うだろう。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者の希望は入院せずに施設で生活すること。
 今回の論文の示す通り、BNPガイド治療で全入院回避率(特に75歳以上)について有意差がないのであればBNP検査施行の意義は限定的である。
 しかし、BNPの血液検査は患者の侵襲性をあげるとは考えない。他の検査機器(胸部レントゲンや心エコー)が使えない、在宅医療のセッティングを考慮すればNTproBNPを継続的にフォローする事自体は患者の心不全病態把握の一助となると思う。しかし、NTproBNPの値を目安に内服薬を調整することは患者に有害事象を加える可能性が高く慎重であるべきと思われる。

【開催日】
2015年11月11日(水)

【EBMの学び】脂質異常症に対するスタチン

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年9月28日
【臨床状況のサマリー】
5年ぶりの市民健診でLDL203,T.Chol270を指摘された65歳女性。特に大きな既往もなく、1日40分程度散歩するなど健康には気をつけている方という自負のある方。5年前の健診では特記事項なし。兄弟でコレステロールの薬を飲んでいる人がいたため、自分もついに薬を飲まなければならないのかと不安に思いながら小生外来受診となった。診察上黄色腫や黄疸、甲状腺腫大など認めず、血糖、腎・肝機能、甲状腺機能にも大きな異常を認めなかった。喫煙なし 飲酒なし 家族歴 父;食道癌 母;心不全、ペースメーカー留置後。「投薬せずに経過をみる症例」と考えたが、今回一次文献に遡り文献上の吟味を経た意思決定を行うことにした。
P;心血管系イベントの既往のない高齢女性
I(E);スタチン投与群
C;プラゼボ投与群と比較して
O;心血管イベント発生率に差が出るか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

P;冠動脈疾患既往のない軽~中等度(総コレステロール値220~270mg/dL)の高脂血症患者
I;食事療法+プラバスタチン(10~20mg/日)群
C;食事療法単独群
O;冠動脈疾患の発症に差が出るか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
→隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
→盲検化が      ( されている ・  されていない )←不完全
実際のT ableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない )
②解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 ※Figure1を参照 (5.3年後の結果)
  ●Primary endpointsでは冠動脈疾患、心筋梗塞、冠動脈再潅流術
  ●Secondary endpointsでは冠動脈疾患+脳梗塞、全心血管イベント
 でP<0.05となり有意差あり。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
  ・ RR(あるいはHR・OR)を確認する
  ・ARRとNNTを計算する
 ※Figure2を参照
  ARR=101/3966-66/3866=0.0084
  NNT=1/ARR=119(“Results”内にも記載あり)
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 P値と同様の項目で有意差あり。
 (ただし、冠動脈再潅流術の項目以外はおおよそ0.5-0.9程度に入り、幅は広い印象。)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 論文の対象者(Table 1)は女性の占有率が70%と高く、女性の喫煙率が低い点、コレステロールの平均値などは一致している。一方、年齢が少し若い点や高血圧や投薬例が40%弱を占めている点などは若干異なる。
 登録患者は全て病院の外来受診患者であるため、診療所の患者とは背景が異なる点もあるが、今回の症例には適用可能な点も多いと考える。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 投薬していても、癌の発生率や総死亡に差がないこと、(発症すると致命率の高い)横紋筋融解症の発生がゼロなのはメリット。
 メバロチンの薬価も100点を下回っておりコスト面でも問題なし。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者は健康意識の高い方であり、基本的には「薬による治療は最後の手段」という認識がある方だった。母親に心疾患があったことも考慮し、スタチン投与による心血管イベントのNNTを説明したところ再度投薬希望はされなかった。今後も定期的に健診は受けられる予定であり、follow可能なことは確認しつつ、次回半年後に再度フォローとした。

【開催日】
2015年10月14日(水)

脳梗塞再発予防における抗血小板薬

―文献名―
Wuxiang Xie, Fanfan Zheng, Baoliang Zhong, Xiaoyu Song, Long-Term Antiplatelet Mono- and Dual Therapies After Ischemic Stroke or Transient Ischemic Attack: Network Meta-Analysis, J Am Heart Assoc. 2015 Aug 24;4(8)

―要約―
BACKGROUND
The latest guidelines do not make clear recommendations on the selection of antiplatelet therapies for long-term secondary prevention of stroke. We aimed to integrate the available evidence to create hierarchies of the comparative efficacy and safety of long-term antiplatelet therapies after ischemic stroke or transient ischemic attack.

METHODS and RESULTS
We performed a network meta-analysis of randomized controlled trials to compare 11 antiplatelet therapies in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack. In December 2014, we searched Medline, Embase, and the Cochrane Library database for trials. The search identified 24 randomized controlled trials including a total of 85,667 patients with antiplatelet treatments for at least 1 year. Cilostazol significantly reduced stroke recurrence in comparison with aspirin (odds ratio 0.66, 95% credible interval 0.44 to 0.92) and dipyridamole (odds ratio 0.57, 95% credible interval 0.34 to 0.95), respectively. Cilostazol also significantly reduced intracranial hemorrhage compared with aspirin, clopidogrel, terutroban, ticlopidine, aspirin plus clopidogrel, and aspirin plus dipyridamole. Aspirin plus clopidogrel could not significantly reduce stroke recurrence compared with monotherapies but caused significantly more major bleeding than all monotherapies except terutroban. The pooled estimates did not change materially in the sensitivity analyses of the primary efficacy outcome.

CONCLUSIONS
Long-term monotherapy was a better choice than long-term dual therapy, and cilostazol had the best risk–benefit profile for long-term secondary prevention after stroke or transient ischemic attack. More randomized controlled trials in non–East Asian patients are needed to determine whether long-term use of cilostazol is the best option for the prevention of recurrent stroke.

【背景】
 最新のガイドラインでは、脳梗塞の二次予防のための長期抗血小板薬の選択について、明確な推奨はしていない。我々は、利用可能なエビデンスを統合して、脳梗塞後、または一過性脳虚血発作後の長期抗血小板薬治療の効果と安全性の階層を創出することを目的とした。

【方法と結果】
 我々は、11の脳梗塞または一過性脳虚血発作の患者に対する抗血小板薬療法のランダム化比較試験についてネットワークメタ分析を行った。2014年12月、我々はMedline、Embase、Cochrane Libraryを検索した。その検索で、85,667人の少なくとも1年の抗血小板薬の治療を受けた患者を含む24のランダム化比較試験が見つかった。シロスタゾールは、アスピリン(オッズ比 0.66, 95%信頼区間 0.44 – 0.92)とジピリダモール(オッズ比 0.57, 95%信頼区間 0.34 – 0.95)と比較して著明に脳梗塞の再発を減少させた。シロスタゾールは、アスピリン、クロピドグレル、テルトロバン、チクロピジン、アスピリンとシロスタゾールの併用、アスピリンとジピリダモールの併用のそれぞれと比較して著明に頭蓋内出血を減少させた。アスピリンとクロピドグレルの併用は、単独療法と比較して著明な脳梗塞の再発を減少させることはできなかったが、テルトロバンを除くすべての単独療法と比較して主要な出血イベントを著明に増加させた。プールされた推定値は、有効性の主要な一次アウトカムの感度分析に著しく変化を与えなかった。

【結論】
 長期の単独療法は、長期の併用療法よりも良い選択であり、シロスタゾールは、脳梗塞後または一過性脳虚血発作後の再発予防にリスク対効果で最も優れていた。非東アジア系患者において脳梗塞の再発予防におけるシロスタゾールの長期使用が最も良いかどうかを決定するには、より多くのランダム化比較試験が必要である。

※ネットワークメタ分析(Network meta-analysis)とはメタ分析の一種である。通常のメタ分析は治療法Aと治療法Bを比較した臨床試験を収集し、個々の比較結果を統計的に併合する。従って、治療法Aと治療法Cや、プラセボを比較した臨床試験は分析対象とはならない。今まで分析対象外となっていた臨床試験を含めたメタ分析がネットワークメタ分析である。

※シロスタゾール:プレタール®、クロピドグレル:プラビックス®、チクロピジン:パナルジン®

【開催日】
 2015年11月4日(水)

肥満治療に対するGLP-1受容体作動薬の効果

―文献名―
Xavier Pi-Sunyer, M.D. et al. A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management. N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22.

―要約―
【背景】
肥満は重大な健康問題を引き起こしかねない慢性疾患である。しかし、生活習慣への介入のみでは減量を維持する事は難しい。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(ビクトーザ○R)3.0mgの1日1回皮下注射が体重コントロールに有効であったと示された。

【方法】
2型糖尿病のない患者3,731人を対象とした二重盲検試験を56週間行った。参加者のBMIは少なくとも30以上、あるいは、脂質異常症、高血圧症(治療の有無は問わない)がある場合は少なくとも27以上。リラグルチド3.0mgを1日1回皮下注射する群(2,487人)とプラセボを1日1回皮下注射する群(1,244人)にランダムに割り付けて、両群ともに生活習慣の改善指導も行った。プライマリエンドポイントとして、体重の変化と少なくとも5%、10%以上減少した患者の比率を設定した。

【結果】
ベースラインとしては、患者の平均年齢は45.1±12.0歳、平均体重は106.2±21.4kg、平均BMIは38.3±6.4、78.5%が女性で61.2%が糖尿病になる前の状態であった。56週後の平均体重減少幅はリラグルチド群8.4±7.3kg、プラセボ群2.8±6.5kgだった(95%信頼区間 −6.0 to —5.1;P<0.001)。体重が5%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が63.2%、プラセボ群で27.1%だった(P<0.001)。体重が10%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が33.1%、プラセボ群で10.6%だった(P<0.001)。リラグルチド群で最も頻度の高い有害事象は軽度から中等度の嘔気、下痢が報告された。重症の有害事象の発生率はリラグルチド群が6.2%、プラセボ群で5.0%だった。

【結論】
今回の試験から、リラグルチド3.0mg投与は食事療法、運動療法に補助的な役割を果たし、体重を減少させ、肥満コントロールを改善する効果がある。(ノルディスク社による支援あり)

―考察とディスカッション―
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した臨床試験。肥満患者の減量治療の補助薬として、リラグルチドは一定の効果はありそうである。しかし、製薬会社からの支援を受けている試験でもあり、信頼性に一部疑問はある。また、日本人でここまでの肥満患者はあまりいない事を考えると、日本で同様の条件で採用される事はないかも知れない。皆さんはどのように考えますか?

【開催日】
2015年10月21日(水)