慢性腎臓病におけるSGLT2阻害薬の長期効果

-文献名-
W.G.Herrington.et al. Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE. Oct 25, 2024

-要約-
●Abstract
【Background】
 EMPA-KIDNEY試験において、ナトリウムグルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるエンパグリフロジンは、病勢進行リスクのある慢性腎臓病患者において心腎系に良好な効果を示した。試験後の追跡調査は、試験薬中止後にエンパグリフロジンの効果がどのように進展するかを評価するために計画された。

【Methods】
 本試験では、慢性腎臓病患者をエンパグリフロジン(10mg、1日1回投与)またはプラセボのいずれかに無作為に割り付け、中央値で2年間追跡した。全患者は、推定糸球体濾過量(eGFR)が体表面積1.73m2あたり毎分20ml以上45ml未満、またはeGFRが1.73m2あたり毎分45ml以上90ml未満で、尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはミリグラム、クレアチニンはグラムで測定)が200以上であった。その後、同意を得た生存患者はさらに2年間観察された。試験後の期間にはエンパグリフロジンやプラセボは投与されなかったが、地域の開業医は非盲検のエンパグリフロジンを含む非盲検のSGLT2阻害薬を処方することができた。プライマリアウトカムは腎臓病進行または心血管死であり、有効試験開始時点から試験終了時点までに評価された。

【Results】
 EMPA-KIDNEY試験で無作為化を受けた6609例のうち、4891例(74%)が試験後の追跡調査に登録された。この期間中、オープンラベルのSGLT2阻害薬の使用は両群で同程度であった(エンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%)。試験期間中および試験後を合わせた期間において、プライマリアウトカムイベントはエンパグリフロジン群3304例中865例(26.2%)、プラセボ群3305例中1001例(30.3%)に発現した(ハザード比、0.79;95%信頼区間[CI]、0.72~0.87)。試験後期間のみ、プライマリアウトカムイベントのハザード比は0.87(95%CI、0.76~0.99)であった。期間中、腎疾患進行リスクはエンパグリフロジン群で23.5%、プラセボ群で27.1%、死亡または末期腎疾患の複合リスクはそれぞれ16.9%、19.6%、心血管死リスクはそれぞれ3.8%、4.9%であった。非心血管死(両群とも5.3%)に対するエンパグリフロジンの影響はみられなかった。

【Conclusion】
 進行リスクのある広範な慢性腎臓病患者において、エンパグリフロジンは投与中止後最大12ヵ月間、心腎系への追加的な有効性が継続した。
(Boehringer Ingelheim社他より資金提供)

【開催日】2024年11月13日

オーストラリアにおける腰痛再発予防のためのウォーキングの教育介入効果と費用対効果

-文献名-
Natasha C Pocovi, Chung-Wei Christine Lin, Simon D French,et al.Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial.Lancet.2024; 404:134–44

-要約-
Introduction
 腰痛の再発は一般的であり、腰痛の疾病的・経済的負担の大きな要因となっている。腰痛は2020年には世界で6億1,900万人が罹患していると推定され、2050年には8億4,300万人に増加すると予測されている。腰痛から回復した人のほぼ10人に7人は、その後1年以内に再発を経験するともいわれる。運動と教育を組み合わせることで、腰痛の再発、それに伴う障害、欠勤を予防できることが示されているが、これまで検討されてきた運動ベースの介入は、集団でのプログラムを含んでおり、臨床医による綿密な監督と器具の使用を必要とし、高額な費用がかかる可能性がある。ウォーキングのような身近で低コストの介入の有効性と費用対効果はまだ確立されていない。

Method
 この試験は2群間無作為化比較試験であり、オーストラリア全土の25の民間理学療法クリニックで実施。特定の診断に起因しない非特異的腰痛エピソードを少なくとも24時間自覚し、痛みがない日が7日以上続いている成人(18歳以上)を募集した。非特異的腰痛のエピソードとは、特定の診断(例えば、椎体骨折、感染症、がん)に起因しない第12肋骨と臀部のしわの間の領域の痛みが少なくとも24時間持続し、痛みの強さが0~10の数値疼痛評価スケールで2以上であり、「腰痛は日常生活にどの程度支障をきたしましたか?」という質問において、日常生活に少なくともやや支障をきたすか、それ以上の支障をきたすものと定義した。除外基準は、ウォーキングプログラムへの参加を妨げる併存疾患、週3回以上の運動(1日30分以上)のためのウォーキング、腰痛再発予防のための運動プログラム(ピラティスなど)への定期的な参加、週150分以上の中等度または強度の身体活動(週3日以上)、過去6ヵ月間の脊椎手術、妊娠中、質問票を記入するのに不十分な英語力。
 参加者は、6ヵ月間にわたる理学療法士による6回のセッションが行われた。個別化された漸進的な歩行・教育介入に割り付けられた群と、無治療の対照群(1:1)に無作為に割り付けられた。理学療法士と参加者は割り付けについてマスクされなかった。プログラムの目標は、6ヵ月後までに週5回、1日30分以上のウォーキングを行うことであった。初診時には、ウォーキングプログラムの初期用量を決定するために、病歴聴取と身体診察が行われた。参加者の現在の歩行レベル、年齢、BMIに基づいて、ウォーキングプログラムの適切な開始量と適切な進行度を提案するための処方ガイドが作成された。重要なことは、個人中心のアプローチを用いて、参加者個人の特徴(例えば、併存疾患や自己効力感)、環境的障壁(例えば、安全性、照明、路面)、時間的制約、嗜好、参加者の目標に基づいて、参加者との話し合いの中で最初の処方と進行が個別に設定されたことである。また、参加者には歩数計とウォーキングダイアリーが配布され、プログラムの最初の12週間を通してウォーキングを記録した。理学療法士とのフォローアップセッションは、アドヒアランスのチェック(ウォーキング日誌のチェックを含む)必要に応じてウォーキングプログラムの調整を行うために実施。これらのセッションは、当初は2回の対面セッション(無作為化4週後と3ヵ月後に30分間)と3回の電話セッション(2週と6週に15分の相談、6ヵ月に強化セッション)の組み合わせで行われる予定であった。COVID-19の流行により、対面での診察が一時的に制限され、多くの参加者が遠隔医療(ビデオ診察)を通じて介入を受けた。ウォーキングプログラムと並行して教育も行われた(appendixp5)。この教育は、現代疼痛科学の基本的な理解を提供し、腰痛に伴う恐怖を軽減することを目的とした。腰痛の再発リスクを減らすための簡単な戦略や、軽度の再発であれば自己管理する方法についての説明が行われた。両グループの参加者は、必要に応じて腰痛の他の治療を受けることを制限されなかった。
 参加者の追跡期間は、登録日により最低12ヵ月、最長36ヵ月であった。主要アウトカムは活動制限のある腰痛が再発するまでの日数であり、intention-to-treat集団において毎月自己申告により収集された。費用対効果は社会的観点から評価し、獲得した質調整生存年(QALY)あたりの増分費用で表した。試験はプロスペクティブに登録された。

Results
 2019年9月23日~2022年6月10日の間に、3206人の参加者の適格性をスクリーニングし、2505人(78%)を除外し、701人を無作為に割り付けた(介入群351人、無治療対照群350人)。ほとんどの参加者は女性で(701人中565人[81%])、参加者の平均年齢は54歳(SD 12)であった。参加者は、腰痛の既往回数が多く(中央値33回)、今後12ヵ月間の再発リスクを高く認識していた。ベースライン特性は介入群と対照群でバランスが取れていたため、どの分析においても調整は行われなかった。中央値7年(範囲1~35)の経験を有する24名の理学療法士がウォーキングプログラムのヘルスコーチを務めた。介入群では、345人の参加者が理学療法士による6回のセッションのうち少なくとも1回に参加した(参加した理学療法セッションの平均数は5回[SD 1.6])。介入は活動制限性腰痛のエピソードの予防に有効であった(ハザード比0.72[95%CI 0.60~0.85]、p=0.0002)。再発までの日数の中央値は、介入群で208日(95%CI 149-295)、対照群で112日(89-140)であった。また介入群は対照群と比較して、腰痛のあらゆる再発およびケアを必要とする腰痛の再発リスクを減少させた(HR 0.80 [95%CI 0.68~0.94]、p=0.0066およびHR 0.57 [95%CI 0-44-0-74]、p<0.0001;図2Bおよび2C)
支払い意思額閾値(本来かかる費用)28,000豪ドルにおいて1QALYあたりの増分費用は7802豪ドルであり、介入は94%の確率で費用対効果に優れていた。12ヵ月間に少なくとも1つの有害事象を経験した参加者の総数は、介入群と対照群で同程度であったが(それぞれ351例中183例[52%]、350例中190例[54%]、p=0.60)、下肢に関する有害事象は介入群の方が対照群よりも多かった(介入群100例、対照群54例)。

Discussion
・個人に合わせた漸進的なウォーキングと教育介入は、それまで定期的な身体活動を行っていなかった成人において、無治療の対照群と比較して腰痛の再発を大幅に減少させた。この所見は、主要アウトカムと2つの副次的再発アウトカムで一貫していた。また、介入群では腰痛に関連する障害が最長12ヵ月間減少し、介入は無治療の対照群と比較して社会的観点から費用対効果が高い可能性が高かった。
・今回の参加者は女性が多く、一般集団への適応は注意が必要。
・すでに定期的にウォーキングを行っている、または中程度から強度の身体活動を週150分以上行っている潜在的な参加者(n=429)を相当数除外したため、この結果は活動的な成人に一般化されるものではない。
・本研究の注目すべき所見は、介入群の歩行量(週当たり分数)が最初の3ヵ月で約2倍になったが、12ヵ月時点では同程度であった。さらに、介入群は3ヵ月時点では対照群より多く歩いていたが(51分[95%信頼区間22.32~79.87])、12ヵ月時点ではこの差はなくなっていた(0.67分[-30.90~32.23])。1つの要因として、対照群で報告された歩行が時間の経過とともに増加したことが挙げられるが、これはマスキングの欠如の結果であり、治療効果が希釈された可能性があり、あるいはCOVID-19の流行が歩行への取り組みに影響を与えた結果かもしれない。12ヵ月の時点で歩行に差がなかったのは、臨床医からの継続的なサポートがなかったこと、12週間後に歩行日誌を継続しなかったこと、介入群に下肢の障害があったことなどに起因する可能性もある。
・なぜウォーキングが腰痛予防に効果的なのか、正確な理由は不明。

【開催日】2024年8月7日

日本におけるガイドライン推奨睡眠薬の治療失敗と長期処方リスク

-文献名-
Takeshima M, Yoshizawa K, Ogasawara M, et al.
Treatment Failure and Long-Term Prescription Risk for Guideline-Recommended Hypnotics in Japan. JAMA Network Open. 2024;7(4):e246865.

-要約-
Introduction
ガイドラインが推奨する睡眠薬を直接比較するランダム化比較試験は、これまでのところわずかしか行われていない。また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の睡眠薬としての長期使用は有害になり得るため、ガイドラインは短期使用を推奨しているが、世界中で長期処方が行われている。著者らは、ガイドラインが推奨する睡眠薬のうち、単剤で用いた場合の治療失敗リスクが低いのはどれか、また長期にわたって処方されやすいのはどれかを明らかにするために本研究を実施した。

Method
この後ろ向き観察コホート研究は、Japan Medical Data Center Claims Database(発表者注釈:2005年より複数の健康保険組合より寄せられたレセプト(入院、外来、調剤)および健診データを蓄積している疫学レセプトデータベース JMDC Claims Database – 株式会社JMDC)を利用した。
2005年4月1日から2021年3月31日までに、不眠症の薬物療法として睡眠薬の単剤を初回投与された成人患者を同定して、治療開始から6カ月後まで追跡した。
薬は、スボレキサント(ベルソムラ®)、ラメルテオン(ロゼレム®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)、ゾルピデム(マイスリー®)、トリアゾラム(ハルシオン®))であった。
● 主要アウトカムは単剤療法の失敗(6ヶ月以内に睡眠薬の変更または追加)
● 二次アウトカムは単剤療法の中止(6ヶ月以内に2ヶ月連続で睡眠薬の処方がない)
と定義された。

Results
239,568人が含まれ、年齢の中央値は45歳(四分位範囲34〜55歳)、50.2%が女性だった。
56.6%がゾルピデム、15.7%がスボレキサント、14.2%がエスゾピクロン、7.5%がトリアゾラム、6.1%がラメルテオンを処方されていた。

6カ月の追跡期間中に、24,778人(10.3%)が単剤治療の失敗を経験した。
失敗の割合は、ゾルピデム(8.9%)で、トリアゾラム(9.4%)、エスゾピクロン(11.9%)、スボレキサント(12.7%)、ラメルテオン(15.1%)だった。
エスゾピクロンと比較した失敗リスクは、ラメルテオン(調整ハザード比 1.23)が高く、ゾルピデム(0.84)およびトリアゾラム(0.82)は低く、スボレキサントとは有意差がなかった。

単剤治療で失敗しなかった患者の84.6%は、6カ月以内に治療を中止した。
治療中止の割合は、ゾルピデム(85.2%)、ラメルテオン(84.9%)、スボレキサント(84.0%)、トリアゾラム(83.7%)、エスゾピクロン(82.9%)となっていた。
エスゾピクロンと比較した場合は、ラメルテオン(調整オッズ比 1.31)とスボレキサント(1.20)は有意差を持って中止されており、薬物依存による長期処方が起こりにくいと考えられた。ゾルピデム1.00(0.97-1.04)とトリアゾラム1.02(0.97-1.07)は有意差を示さなかった。

Discussion
本研究の強みは、大規模な日本の医療データベースを使用し、239,568人のデータを長期間(2005年~2021年)にわたって分析した点である一方で、いくつかの限界がある。 第一に、データが会社従業員およびその家族に限定されているため、一般の集団を代表しているとは限らない。 第二に、社会経済的要因、副作用、単剤療法の中止理由、不眠症や精神症状の重症度などの重要な因子が含まれていない。 第三に、追跡期間が6ヶ月と短く設定されており、長期使用による依存や耐性のリスクを完全には評価できていない。 本研究では交絡因子がコントロールされていないため、これらの結果に基づいて、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性に関する結論を導き出すことはできない。慢性不眠症と急性不眠症の診断、不眠症および精神症状の重症度、睡眠薬処方に対する医師の態度などの交絡因子を考慮したさらなる研究が必要である。

このコホート研究では、単剤療法の失敗はエスゾピクロンよりもラメルテオンで多く、ゾルピデムやトリアゾラムでは少なかった。さらに、本研究で長期使用リスクの代用指標として設定した単剤療法の中止は、エスゾピクロンよりもラメルテオンやスボレキサントなどの新規睡眠薬で少なかった。しかしながら、これらの結果は、いくつかの交絡因子を説明することができなかったため、ガイドラインで推奨されている睡眠薬の薬理学的特性によるものなのか、不眠症患者の臨床的特性によるものなのか、あるいは処方医の睡眠薬に対する考え方によるものなのかは不明であるため、慎重に解釈すべきである。どのガイドライン推奨睡眠薬が最も有用であるかを決定するためには、これらの睡眠薬を直接比較するRCTが必要である。

【開催日】2024年6月12日

駆出率の低下を伴う心不全の薬物治療の系統的レビューとネットワークメタアナリシス

―文献名―
Tromp J, Ouwerkerk W, van Veldhuisen DJ, Hillege HL, Richards AM, van der Meer P, Anand IS, Lam CSP, Voors AA. A Systematic Review and Network Meta-Analysis of Pharmacological Treatment of Heart Failure With Reduced Ejection Fraction. JACC Heart Fail. 2022 Feb;10(2):73-84

―要約―
Introduction: アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬(BB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRAスピロノラクトン,セララ,ミネブロ)が駆出率低下型心不全(HFrEF)の薬理学的治療の基礎として確立された。この10年間で、サクビトリル/バルサルタン(ARNi アーニー®️エンレスト)とイバブラジン(®️コララン)が追加され、HFrEFに対する治療の選択肢が増えた。過去1年間に発表された試験の結果では、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジン(®️ジャディアンス)およびダパグリフロジン(®️フォシーガ)、可溶性グアニラーゼシクラーゼ刺激薬であるベリシグアト(®️ベリキューボ)、心筋特異的ミオシン活性化薬であるオメカムチブメカルビルによる治療がHFrEFの予後をさらに改善できることが示された。
最近の臨床試験の結果は、治療の順序を決めたり、最も有益な薬物療法の組み合わせを決定したりすることはできない。ネットワーク・メタアナリシスでは、治療効果の総和の差を比較するために、異なる治療法の組み合わせ間の比較が可能である。治療の最適な累積効果に関する情報は、医師と患者が共有する治療方針の決定に役立つ。基礎となる仮定は、治療には相加効果があるということである。ARNi、SGLT2i、ベリシグアト、オメカムチブメカルビルについては、潜在的に異なる疾患経路を標的としているため、これはもっともらしい。そこでわれわれは、HFrEFに対する薬物療法の治療効果を推定し比較するために、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。

Method:EDLINE/EMBASEとCochrane Central Register of Controlled Trialsを用いて、1987年1月~2020年1月に発表されたランダム化比較試験を対象に系統的ネットワークメタ解析を行った。アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、β遮断薬(BB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、ジゴキシン、ヒドラジン-硝酸イソソルビド、イバブラジン、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)、ナトリウムグルコース共輸送体-2阻害薬(SGLT2i)、ベリシグアト、オメカムチブメカルビルを対象とした。
心不全を有する成人集団(18歳以上)に限定された。転帰に大きな影響を与える可能性が高い診断を併発している患者が集団全体に含まれている場合(例、心筋梗塞後の左心室機能障害のある患者、または糖尿病患者のみを含む試験)、研究は除外された。心不全の急性期の患者を治療する研究や、同じ薬剤グループ内の薬剤を比較する研究は除外された。(Figure 1)
主要アウトカムは全死亡であった。さらに、心血管(CV)死亡と心不全(HHF)による入院、CV死亡のみ、および何らかの理由による薬物中止の可能性の複合転帰を分析した。二次解析では、2つの心不全集団(BIOSTAT-CHF [BIOlogy Study to TAilored Treatment in Chronic Heart Failure]およびASIAN-HF [Asian Sudden Cardiac Death in Heart Failure Registry])で得られた生命年を推定した。

Results:95,444人の参加者を対象とした75の関連試験を同定した。ARNi、BB、MRA、SGLT2iの併用が全死亡の減少に最も有効であり(HR:0.39、95%CI:0.31-0.49)、次いでARNi、BB、MRA、ベリシグアト(HR:0.41、95%CI:0.32-0.53)、ARNi、BB、MRA(HR:0.44、95%CI:0.36-0.54)であった(Central Illustration A)。心血管死またはHFによる初回入院の複合アウトカムについても結果は同様であった(ARNi、BB、MRA、SGLT2iのHR:0.36、95%CI:0.29-0.46、ARNi、BB、MRA、オメカムチブメカルビルのHR:0.44、95%CI:0.35-0.56、ARNi、BB、MRA、ベリシグアトのHR:0.43、95%CI:0.34-0.55)(Central Illustration B)。
ARNi、BB、MRA、SGLT2iを投与された70歳の患者において、二次解析で無治療と比較して追加的に得られると推定された生命年数は5.0年(2.5~7.5年)であった(Figure 3)。

Discussion:異なるHF試験が実施された期間はかなり長く、バイアスが生じた可能性がある。しかし、主要アウトカムと多くの副次的アウトカムにおける異質性のP値は有意ではなく、このことが結果に有意な影響を及ぼさなかった可能性を示唆している。中止に関する結果は、ランダム効果モデルを用いたにもかかわらず、かなりの異質性を示した。これは中止の定義の違いによるものかもしれない。したがって、これらの結果は慎重に解釈すべきである。最後に、治療効果の推定に影響を及ぼす可能性のある非薬理学的装置の使用は考慮していない。

Figure 1. Overview of Study Selection Schematic overview of study selection.

Central Illustration. Relative Risk Reduction of Different Pharmacological Treatment Combinations for Heart Failure
Combination of treatment effect on all-cause mortality (A), cardiovascular (CV) death or heart failure (HF) hospitalization (B), or CV mortality (C). ACEI = angiotensin-converting enzyme inhibitor; ARB = angiotensin receptor blocker; BB = beta-blocker; Dig = digoxin; H-ISDN = hydralazine–isosorbide dinitrate; HF = heart failure; IVA = ivabradine; MRA = mineralocorticoid receptor antagonist; PLBO = placebo; SGLT2 = sodium glucose cotransporter-2 inhibitors.


Figure 3. Estimated Average Lifetime Graphs

【開催日】2024年3月13日(水)

肥満のある駆出率が維持された心不全患者におけるセマグルチド

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Semaglutide in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. Kosiborod MN, Abildstrøm SZ, Borlaug BA, et al. N Engl J Med. 2023;389(12):1069-1084. (STEP-HFpEF試験)

-要約-
【Introduction】
・肥満(脂肪組織)がHFpEFの発症や進行に関与している可能性が示唆されている。
・肥満の治療によりHFpEF患者の症状や機能を改善できるかは明らかにされていない。
・セマグルチド(GLP-1作動薬)は大幅な体重減少をもたらすことが示されている。セマグルチド2.4mgの週1回皮下注射により、体重減少のみならず心不全(HFpEF)の症状や身体機能制限が改善できるかを検討した。
・COI:Novo Nordisk社による研究助成(STEP-HFpEF ClinicalTrials.gov)

【Method】
・無作為化ランダム比較試験(二重盲検法)アジア・ヨーロッパ・南北米の13か国96施設(うち83施設)
・対象患者:BMIが30以上のHFpEF(EF 45%以上、NYHA Ⅱ以上)患者529人
(主な除外基準:90日以内の5kg以上の体重変化、糖尿病の既往)
・介入群:週1回セマグルチド皮下注(最初4週間は0.25mg、16週目までに2.4mgへ増量するよう漸増)
・対照群:プラセボ投与
・アウトカム:52週時点での下記エンドポイントの評価
・主要エンドポイント:KCCQ-CSS(0-100点、スコアが高いほど症状・機能制限が少ない)、体重変化
・副次エンドポイント:6分間歩行距離の変化、全死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSと6分間歩行距離の
変化の差を含む複合エンドポイント、CRP値の変化
・安全性評価:重篤な、または特に注目すべき有害事象(少なくとも1回投与を受けた患者で解析)

【Results】
・セマグルチド群263人、プラセボ群266人。
→白人が95.8%。中央値:年齢69歳、BMI 37.0、NT-proBNP 450.8pg/mlなど。
・セマグルチド群はプラセボ群と比較して、症状や身体機能制限の減少、運動機能の改善、体重減少が大きかった。
・セマグルチド群35人(13.3%)、プラセボ群71人(26.7%)で重篤な有害事象が報告された。セマグルチドの投与中止に至った有害事象は胃腸障害が多く、プラセボ群の有害事象としては心臓疾患が多かった。
・結果のまとめ(表:田尻作成)

52週までの平均変化(率) セマグルチド群 プラセボ群 群間の推定差(95%信頼区間)
(主)KCCQ-CSS +16.6点 +8.7点 +7.8点(+4.8~+10.9;P<0.001)
(主)体重 -13.3% -2.6% -10.7%(-11.9~-9.4;P<0.001)
6分間歩行距離 +21.5m +1.2m +20.3m(8.6~32.1;p<0.001)
複合エンドポイントの勝利 60.1% 34.9% 勝利比1.72(1.37~2.15;P<0.001)
CRP値 -43.5% -7.3% 治療比0.61(0.51~0.72;p<0.001)

【Discussion】
・セマグルチド群はプラセボ群よりもKCCQ-CSSの平均点を8ポイント近く上昇させたことは極めて大きな差である。
(SGLT-2阻害薬、ARNI、バルサルタン、スピロノラクトンなどの過去研究では0.5~2.3ポイントの差であった)
・セマグルチドは肥満のあるHFpEF患者に対する重要なアプローチとなりうる。またセマグルチドの効果は、単に体重減少のみによるものではなく、他の病態生理的な機序(抗炎症作用など)にもよる可能性が示唆される。
・セマグルチド以外による減量との比較や、HFrEF患者への適用については、追加の試験が必要である。
<限界>
・非白人参加者数が少なく、一般化可能性に制限がある。
・臨床的イベント(心不全による入院や緊急受診など)を評価するのに十分な検出力を有さなかった。
・1年間(52週間)以降の効果については確認できていない。
・HbA1c値がフォローされていない(ただし、本研究における効果が血糖値低下によるものとは考えにくい)。
・SGLT2阻害薬を投与されている患者の割合が低い(試験期間と、糖尿病患者を除外するデザインによる)。
考察とディスカッション
肥満症治療ガイドライン2022(http://www.jasso.or.jp/contents/magazine/journal.html
)ではGLP-1製剤の体重減少作用について記載があります。
またセマグルチドについてはオゼンピック®(糖尿病用/皮下注)、リベルサス®(糖尿病用/経口)に加えてウゴービ®(肥満症用/皮下注)が2023年11月に薬価収載されました(週1回製剤、2.4mgキットは10740円)。
本文献は肥満のあるHFpEF患者へのセマグルチドの有用性についての文献でした。循環器界隈でSGLT-2阻害薬の推奨が確立したように、今後はGLP-1製剤についての推奨が出されていくように感じています。

【開催日】2024年2月7日(水)

Restless X syndrome:新たな疾患群~体の様々な領域において、夜間、動かしたくなる衝動を伴う異常感覚~

ー文献名ー
Rurika Sato et al. Restless X syndrome: a new diagnostic family of nocturnal, restless, abnormal sensations of various body parts. Diagnosis (Berl). 2023 May 15;10(4):450-451.

ー要約ー
① RLSに関して
・RLSは1995年に診断基準が提唱された、比較的新しい疾患概念である。
・現在ではコモンな疾患であり、有病率は9.6%という報告がある。
・RLSのillness scriptは、主に夜間に生じ、睡眠の支障となり、安静で増悪し、下肢を動かす・触る・刺激すると軽減する不快な感覚である。
・病因としては中枢神経系でのドパミンの異常が想定されている。
・症状の言語化が難しいことが多く、訴えは多彩となり得る。
・確定診断につながる身体所見や検査所見は存在せず、病歴聴取が重要である。

②下肢以外のRLS?

・近年、RLS症状が下肢に限局しない例がサブタイプとして存在するのではないか、といわれてきた(Fig.1)。

・元来、RLSは診断エラーが多い疾患であったことも考慮し、我々は、”legs” 以外にも症状が生じ得る、ということを想起しやすいようにRestless “X” syndrome(RXS)という疾患概念を提唱する。
・RXSのillness scriptは、RLSのlegsをXに変更することになる。すなわち、主に夜間に生じ、睡眠の支障となり、安静で増悪し、X(=身体のあらゆる部位)を動かす・触る・刺激すると軽減する不快な感覚である。
・我々が経験した、実際の症例:
restless genital syndrome:夜間に増悪し、歩行で軽減するペニスの異常感覚
restless chest syndrome:夜間に増悪し、仰臥位での深呼吸で軽減する呼吸苦 (起坐呼吸とは異なる)
・RLSの治療としては、少量(0.125mg)のプラミペキソール(商品名:ビ・シフロ^ル)が有効で即効力もあることが知られる(1晩目から有効で、眠りを改善する)
・同様に、RXSにおいても(上記2症例では)、プラミペキソール0.125mg開始48hr以内に症状は改善傾向となった。

・動かす以外に、各部位で、下記のような寛解因子が報告されている(Table.1)

*語句:
scrunching the nose 鼻にしわを寄せる
Tongue thrusting or nibbling 舌を突き出す、かじる
cuddle pillow 抱き枕
rolling over 寝返り
urinating 排尿

・RLS患者は自殺の高リスク群といわれており、RXSにおいても早期診断が患者のアウトカム向上につながる可能性がある。

③ まとめ
・RXSという形で疾患概念をグルーピングすることで、診断にあたっての認知負荷を軽減し、疾患認知度・診断率の向上につながることを期待したい。

【開催日】2024年2月7日(水)

孤独とパーキンソン病リスク

―文献名―
Antonio T,Martina L,Selin K,et al. Loneliness and Risk of Parkinson Disease. JAMA Neurology. 2023;80(11):1138-1144.

―要約―
Introduction
孤独感とは、本人が求める社会的な関係と実際に感じる関係に隔たりがあるために生じる、主観的な苦しみと定義されている。身体的な健康だけでなく脳の健康にも悪影響は及び、精神疾患や神経変性疾患を発症するリスクが増加する可能性もある。実際に、孤独感の強い人はアルツハイマー病などの認知症リスクが高いことが示されている。しかし、孤独感とパーキンソン病の関係について検討した研究はまだ報告されていない。そこで著者らは、パーキンソン病の発症リスクと孤独感の関係を明らかにするために、住民ベースの前向きコホート研究を実施することにした。
Method
対象は、2006年3月13日から2010年10月1日に、UK Biobankに登録された38~73歳の参加者のうち、ベースラインで「あなたはしばしば孤独を感じますか」という設問に回答していた人。ベースラインで既にパーキンソン病と診断されていた人や、設問に「分からない」「答えたくない」と回答した人は除外した。主要評価項目はパーキンソン病の発症とした。追跡は2021年10月9日まで継続し、英国National Health Serviceの電子健康記録を調べて発症を確認した。 共変数として、年齢、性別、学歴、Townsend貧困指数、喫煙状態、身体活動量、BMI、併存疾患(糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓発作、PHQのうつ病スコア、精神疾患など)、同居家族の人数、家族や友人との交流頻度、社会活動の参加頻度、ポリジェニック・リスク・スコア(ある個人が持つ、特定疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子バリアントをスコア化して、病気の発症や進展を予測する手法)なども調べた。
Results
50万2505人のUK Biobank参加者のうち、条件を満たした49万1603人を分析対象にした。平均年齢は56.54歳(標準偏差8.09歳)、54.4%が女性だった。設問に対して、孤独を感じると回答した人は9万1186人(18.5%)、孤独を感じていなかった人は40万417人(81.5%)だった。両群の特性を比べると、孤独を感じていた人は、やや年齢が若く、女性が多く、健康に好ましくない習慣(喫煙や不活発など)の人が多く、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など)の保有率が高く、精神的な健康状態も不良(抑うつあり/精神科医受診歴あり)だった。平均値で12.33年(1.80年)、延べ606万2197人・年の追跡期間中に、2822人がパーキンソン病を発症していた。発症率は10万人・年当たり47だった。内訳は、孤独感がなかった40万417人ではパーキンソン病発症者は2273人(10万人・年当たり46)で、孤独を感じていた9万1186人では、549人(10万人・年当たり49)だった。パーキンソン病発症者は、非発症者に比べ高齢で、男性が多く、過去の喫煙者が多く、BMIが高く、PDポリジェニック・リスク・スコアも高かった。さらに、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中も多く、精神科医受診歴を有する患者も多かった。 孤独を感じていた人のパーキンソン病発症リスクは有意に高く、ハザード比は1.37(95%信頼区間1.25-1.51)だった。人口統計学的要因、社会経済的地位、社会からの孤立(独居、家族や親族と会う頻度が月1回未満、余暇活動と/または社会活動の頻度が週1回未満)、PDポリジェニック・リスク・スコア、喫煙、身体活動、BMI、糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、抑うつ、精神科医受診歴で調整しても、ハザード比は1.25(1.12-1.39)と引き続き有意差を示した。孤独とパーキンソン病発症の関係は、性別(交互作用のハザード比0.98:0.81-1.18)、年齢(0.99:0.98-1.01)、PDポリジェニックリスクスコア(0.93:0.85-1.02)の影響を受けていなかった。 孤独とパーキンソン病発症の関係は、ベースラインから5年間は有意にならず(ハザード比1.15:0.91-1.45)、5~15年後に有意になった(1.32:1.19-1.46)。
Discussion
 説明のつかない交絡因子や、不正確に測定された共変量による残余交絡によるものかもしれない。遺伝的要因や精神的健康状態のような共有の危険因子による可能性もあるが、ポリジェニック・リスク・スコア(多遺伝子リスクスコア)が関連を減弱させなかったという所見は、観察された関連において共有遺伝因子が実質的な役割を果たしているとは考えにくいことを示唆している。またPDの神経病理学的病態が、PDの前臨床期または前駆期における孤独感の増加と関連している可能性がある(因果の逆転)。実際にPDの非運動症状(例えば、抑うつ、疲労、不安、無気力)はPD患者によくみられ、疾患の初期に出現することがある。しかし、孤独感の増大はPD患者にとって懸念事項であるが、1件の横断研究では、PDの有無による孤独感の差はみられなかった。さらに、われわれの結果は、この逆の因果関係の解釈では関連を完全に説明できない可能性が高いことを示唆している。例えば、この関連はうつ病を考慮した後も残っており、このことは、この前駆症状との重複によるものではないことを示唆している。さらに、逆の因果関係から予想されることとは逆に、孤独感は最初の5年間はPDの発症と関連していなかったが、その後の10年間はPDの発症と関連していた。孤独が様々な経路を通じてPDの危険因子となりうる。しかし本研究では、潜在的な媒介因子となりうる共変量を幅広く検証した。孤独感を経験した人は、運動不足などの有害な行動をとる傾向があるが、2つの顕著な健康行動を加えても孤独感とPDの関連が変わらなかったことから、この経路が主要な役割を果たす可能性は低いと思われる。糖尿病などの慢性疾患を考慮すると関連は13.1%減弱したことから、孤独感は代謝、炎症、神経内分泌経路を通じてPDリスクの上昇に関連する可能性が高いと思われる。孤独とPDとの関連は、メンタルヘルス変数をモデルに含めることで最も減弱した(24.1%)。縦断的な証拠から、孤独とうつ病の間には双方向の関連があることが示唆されており、これらはPDのリスク上昇と共起し、その経路を共有している可能性が高い。それでもなお、我々の所見では、メンタルヘルス変数を考慮した後も孤独感はPDと関連していた。孤独が神経病理学的マーカーと関連しているかどうかを調べることは有益であろう。孤独は神経病理学的リスクと直接関連する可能性があり、PDの発症に寄与する神経変性過程に対する回復力を侵すことによって、PDのリスク増加にも関連する可能性がある。
 この研究の主な長所は、サンプルサイズが大きく統計的検出力が高いこと、追跡期間が長いこと、関連する危険因子を説明するための共変量が幅広いこと、健康記録に基づく診断が独立して確認できることである。限界として、この観察研究では因果関係や因果の逆転が観察された関連を説明しうるかどうかを決定できなかった。孤独感は「はい」か「いいえ」の単一項目で評価した。この尺度は信頼性が高く妥当であるが、多項目尺度と比較すると、単一項目による評価は誤差の分散を増大させ、孤独感とPDの関連を過小評価する可能性が高い。もう一つの限界は、入退院記録や死亡記録を用いていることであり、これは初期段階のPDを見逃す可能性が高い。追跡期間中にPDと診断されたにもかかわらず入院しなかった参加者がいる可能性があり、このような参加者は我々の解析ではPDでないと誤って打ち切られるであろう。これは、孤独とPDリスクとの関連を過小評価する可能性がある。しかし健康記録による確認は研究参加から独立しており、縦断的研究に典型的な減少バイアスを避けることができる。サンプルは比較的若いが、孤独感との年齢的な交互作用はなく、若い参加者を除外しても推定された効果量に影響はなかった。また、UK Biobankは代表的なサンプルではなく、回答率は5.5%であった。しかし、UK Biobankにおける危険因子との関連は、代表的なサンプルで見られたものと同様である。

【開催日】2023年12月13日(水)

低用量アスピリンの連日投与による鉄欠乏と貧血

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Zoe K McQuilten, et al. Effect of Low-Dose Aspirin Versus Placebo on Incidence of Anemia in the Elderly : A Secondary Analysis of the Aspirin in Reducing Events in the Elderly Trial. Ann Intern Med. 2023; 176(7): 913-921.

-要約-
●Introduction
・高齢者の貧血(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))は重要な健康問題。
・75歳以上の人の貧血の割合:約30%(入院患者例)、約12%(コミュニティベース)。
・高齢者の貧血の原因としては、鉄欠乏・腎性・慢性炎症性が多いが、1/3は原因不明。
・貧血は、機能障害・病的状態・死亡率と関連。ただし因果関係は不明。因果関係があったとして、貧血が健康に及ぼす潜在的な影響が介入可能なものなのかどうかも不明確。

・米国では約50%の高齢者が予防的にアスピリン内服していたが、最近の非推奨に伴い減少中。
・アスピリンの害は大出血、とりわけ消化管出血で、出血イベントは高齢者に多い。
・顕性出血とアスピリンの関係は明らかだが、貧血との関係を研究した報告はほとんどない。
・不顕性出血により鉄欠乏を起こし貧血となる可能性、一方で炎症を抑える機序で貧血に抑制的に働くかも。

・The ASPREE (ASPirin in Reducing Events in the Elderly)試験は、二重盲検、無作為、プラセボ対照試験で、70歳以上(*米国の黒人・ヒスパニックにおいては65歳以上)の健常者において、アスピリン100 mg内服群がプラセボ群と比較して、無障害生存期間を延長するかどうかを主要評価項目に置いた研究。(*大田注:結論としては延長させなかった。N Engl J Med 2018; 379(16): 1519-1528.)
・全参加者は毎年Hb値測定し、一部は試験開始時と3年後に生化学採血も実施。
・ASPREE試験のpost hoc解析(事後解析)の
主な目的)健常高齢者において、低用量アスピリンの連日投与が貧血の発症率に及ぼす影響を評価する
副次的目的)Hb値、Fer、鉄欠乏の変化に対するアスピリンの影響を探索する

●Method
・ASPREE試験について
2010年3月~2014年12月 市中在住の19114人組み入れ。オーストラリアのプライマリ・ケア提供者or 米国の臨床試験センターを通じて。*除外:貧血あり、出血の高リスク群(例:消化性潰瘍既往、食道静脈瘤)、アスピリンを二次予防で使用、他の抗血小板薬や抗凝固薬使用、心血管イベント歴、Af、予後5年以内が想定される疾患併存、認知症。*NSAIDs使用は必要最小限に限り許可された。
アスピリン群・プラセボ群を1:1に振り分け。年1回受診とカルテレビュー、定期的な電話での確認で補足。年1回採血。

・フェリチン:割付時と、3年後フォロー時の血液検体で可能な範囲で測定。

・アウトカムの定義
プライマリアウトカム:貧血の発症率(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))。
*毎年のHb値測定データを利用。
セカンダリエンドポイント:大出血(脳出血、有意な頭蓋外出血(輸血・入院・入院期間延長・手術を要した、死亡につながった))

・統計学的解析
-鉄欠乏の定義は、Fer <45 µg/Lを採用(米国消化器病学会)
-毎年Hb値測定し、貧血出現までの期間を分析するためにコックス比例ハザードモデルを使用。
-累積発症率の測定にはAalen-Johansen estimatorを使用(Kaplan–Meier estimatorのmulti-state (matrix) version)
-一次解析は調整なし、二次解析では貧血のリスクと関連し得る予後因子で調整(性別、年齢、人種、居住状況、喫煙、アルコール摂取量、eGFR、癌の既往(メラノーマ以外の皮膚腫瘍を除く))、糖尿病、CKD(尿Alb/Cr 30 mg/gCr以上 or eGFR 60未満で定義)、高血圧、NSAIDs使用、PPI使用)。
-ASPREE試験の一次結果では、プラセボ群と比較してアスピリン群では癌罹患およびステージIVの癌による死亡リスクが高かった→貧血リスクに対するアスピリンの効果が癌罹患とは独立しているかどうかを評価するために、試験期間中の癌イベントを競合リスクとして扱う感度分析を行った。
-アスピリンとHb値の経時的変化の関連を調べるために、予後因子で調整した多変量線形混合効果モデルを用いた。
-予後因子が欠損している参加者は、解析から除外した。
-アスピリンとFer値の関係を調べるために、線形回帰モデルを用いた。
-全解析はITTで。統計ソフトはR ver 4.0 or Stata/SE17を用いた。

●Results
・フォローアップ期間の中央値は各グループ、4.7年(四分位範囲(IQR):3.6-5.7年)。
・各群の特徴:大きな差はない(Table)

各群、平均74歳くらい、オーストラリア在住の白人種が8割強、癌の既往は2割、過去のアスピリン使用歴は1割、CKD 26%、ベースのHb値14.2 g/dl、高血圧74%、NSAIDs使用1割弱、PPI使用24%。

・貧血の発症率:アスピリン群では1000人年あたり51、プラセボ群では1000人年あたり43 と、アスピリン群で有意に高い
・5年以内に貧血を発症する可能性は、アスピリン群で23.5%(95%信頼区間:22.4%-24.6%)、プラセボ群で20.3%(19.3%-21.4%):HR 1.20 (1.12—1.29) ← 癌の発症に関する感度分析や、貧血リスクを上げる要素について調整後も有意なまま。(Fig. 2)

・Hb値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ5年当たり0.6 g/L低下(0.3-1.0 g/L)。(Fig. 3)
・Fer値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ3年目のFer値が45μg/L未満(31例)および100μg/L未満(32例)である可能性が高かった(それぞれ、465例[13%]対350例[9.8%]、1395例[39%]対1116例[31%])。(Fig. 4) (*大田注:Fer<45が、本研究での鉄欠乏の定義)
・試験期間中、465人(2.6%)が少なくとも1回の大出血を経験した: アスピリン群で273例(3.0%)、プラセボ群で192例(2.1%)であった。

●Discussion
・感度分析により、臨床的に重要な出血イベントの差は、貧血の発生やFer値の減少の全体的な差を説明するものではないことが示された。→アスピリン投与群における貧血リスク増加の原因としては、不顕性出血が考えられる。
・不顕性出血の機序としては、アスピリンによる血小板凝集低下作用のほか、COX-1阻害により消化管のプロスタグランジン産生を抑制し粘膜保護作用が低下することで、不顕性の消化管出血を起こすことが想定される。
・アスピリン内服は通常長期になることから、定期的な採血での貧血の評価が必要となるのではないか。

・本研究の限界
-貧血が年1回のレビューの間に試験外の医師によって発見され治療された可能性があり、貧血発生率の過小評価につながった可能性がある。
-臨床的に重大な出血の定義は、病院での治療例のみを含んでおり、外来で治療した重症の鼻出血のような他の出血事象は考慮していない。
-貧血の原因に関するデータはない。

【開催日】2023年9月6日(水)

デノスマブを使用することで成人骨粗鬆症患者の2型糖尿病発症率が下がるか

-文献名-
Houchen L,Sizheng SZ,Licheng Z,et al. Denosumab and incidence of type 2 diabetes among adults with osteoporosis: population based cohort study(デノスマブと成人骨粗鬆症患者の2型糖尿病発症率:集団コホート研究).2023;381.

-要約-
Introduction
骨粗鬆症の治療には抗骨吸収薬が最も広く用いられており、デノスマブは核因子κB受容体活性化因子(RANK)リガンドに対するヒト化モノクローナル抗体であり、骨吸収を抑制する強力な抗骨吸収薬である。最近の研究では、RANKL/RANKシグナル伝達経路とエネルギー代謝との関連が示唆されており、大規模な集団ベースの研究ではRANKLレベルが高いほど5年間の追跡調査期間中に2型糖尿病のリスクが4倍上昇することと関連していた。デノスマブで RANKL シグナル伝達を阻害すると、GLP-1濃度が上昇した。糖尿病患者を対象としたランダム化比較試験は実施されていないが、観察研究の結果からビスホスホネートまたはカルシウム+ビタミンDによる治療者と比較して、デノスマブによる治療を受けた参加者にでは、2型糖尿病または糖尿病予備群の参加者においてグルコースホメオスタシスが改善し、12ヵ月間の糖化ヘモグロビンの統計学的に有意な減少が示唆された。しかし、デノスマブ使用者における2型糖尿病の発症率に関するデータは乏しい。デノスマブが一般集団における2型糖尿病のリスクを減少させるのか、あるいは2型糖尿病の特定の危険因子を有する狭い集団におけるリスクを減少させるのかは、依然として不明である。実際の臨床では、デノスマブ使用者のほとんど(約80%)は、デノスマブに切り替える前に他の抗骨粗鬆症薬(例えば、経口ビスフォスフォネート薬)を使用していた。このような状況では、薬剤を開始した人ではなく、治療を切り替えた人に焦点を絞ったランダム化比較試験が望ましい。無作為化臨床試験がないため、本研究では、実際の臨床現場から得られた観察データを用いて、デノスマブへの切り替えとビスホスホネート経口剤の継続が2型糖尿病発症リスクに及ぼす影響を推定した。
Method
データソースとしてIQVIA Medical Research Data(IMRD)のUKプライマリケアデータベースを用いた。IMRDは、1987年から2021年まで、800以上の開業医から約1800万人分の英国プライマリケア記録を取得している。以前の研究では、臨床研究および疫学研究でのIMRDの有効性が示されている。1995年1月1日から2021年12月31日の間に抗骨粗鬆症薬の投与を受けたすべての患者を含む、対象となりうるコホートを選択した。このコホートから、2010年7月1日から2021年12月31日の間に、デノスマブ(60mg)を開始した人、または経口ビスホスホネート(アレンドロネート10mgまたは70mg(※日本では5㎎or35mg)、イバンドロネート150mg(※日本では100mg)、リセドロネート35mg(※日本では17.5㎎))を投与された人で構成される研究コホートを選択した。次に、デノスマブ使用者を2つのタイプに層別化した:経口ビスホスホネートからデノスマブに切り替えた者と、新規使用者である。切り替え日または使用開始日を指標日とみなした。デノスマブに切り替えた各個人について、経口ビスホスホネートを継続し、指標日の時点で同じ期間経口ビスホスホネートを使用していた最大5人をマッチさせた。新規罹患者については、各デノスマブ使用者を、治療歴のない集団における経口ビスホスホネートの新規罹患者最大5人とマッチさせた。45歳未満、登録日数365日未満、骨ページェット病と診断された人、1型または2型糖尿病の既往のある人、指標日以前に抗糖尿病薬を使用したことのある人は除外した。デノスマブに切り替えた、あるいはデノスマブを開始した患者と最も類似している経口ビスホスホネート使用者を同定するために、傾向スコアを用いた。潜在的交絡因子を選択する根拠は、現在の文献や専門的知識に基づき、対象薬剤とも関連する可能性のある2型糖尿病に関連する変数に焦点を当てた(supplemental Figure3参照)。一般的な健康状態を測定不能な交絡因子とみなし、一般的な併存疾患と関連する併用薬をプロキシとして用いた。また、入院回数や受診回数をプロキシとして、健康増進行動の指標も含めた。欠測カテゴリーを一次解析に含めるという欠測指標アプローチを採用した。次に、複数インピュテーションによる感度分析を行い、欠損情報の影響を検討した。主要アウトカムは2型糖尿病の発症とし、診断コードで定義した。2型糖尿病発症の別の定義では,2型糖尿病の診断コード,抗糖尿病薬の少なくとも2回の処方、空腹時血糖値≧7.0mmol/L(126㎎/dl),ランダム血糖値≧11.1mmol/L(200㎎/dl),糖負荷試験結果≧11.1mmol/L(200㎎/dl)、HbA1c≧6.5%のいずれか1つをエンドポイントとした。参加者は、試験結果の発生、対象薬剤の中止、死亡、プライマリケアクリニックからの転院、5年間の追跡、または試験期間の終了(2021年12月31日)のいずれか先に発生するまで追跡された。マッチさせたコホートのベースラインの特徴を要約するために記述統計を用いた。マッチさせたコホートにおいて、2型糖尿病の罹患率を算出した。Cox比例ハザードモデルを用いて2型糖尿病発症のハザード比と95%信頼区間を推定した。比例ハザードの仮定はKolmogorov supremum検定を用いて検証した。ロバスト推定量を用いて置換マッチングを実施した解析の分散を推定した。さらに、異なる患者特性における2群間の2型糖尿病リスクを検討するために、糖尿病予備軍と肥満で層別化したpost hocサブグループ解析を行った。
Results
デノスマブを開始した人は、経口ビスホスホネートを開始した人よりも若く(平均69対72歳)、女性が多かった(94%対81%)。主要な骨粗鬆症性骨折の既往がある参加者の割合は、デノスマブを開始した参加者の方が経口ビスホスホネートを開始した参加者よりも高かった(51%対30%)。マッチングされた集団において、デノスマブへの変更時あるいは開始時に測定された両群のベースライン特性は同等であり、標準化された差は0.1未満であった。5年間の追跡期間中、2型糖尿病の発生率は、デノスマブ使用者では1000人年あたり5.7(95%信頼区間4.3~7.3)、経口ビスホスホネート使用者では1000人年あたり8.3(7.4~9.2)であった;デノスマブの開始は2型糖尿病のリスク低下と関連していた(ハザード比0.68、95%信頼区間0.52~0.89)(table2およびFigure2)。2型糖尿病の別の定義を用いると、発生率はデノスマブ使用者で1000人年あたり8.5(95%信頼区間6.8~10.4)、経口ビスホスホネート使用者で1000人年あたり11.6(10.6~12.7)(ハザード比0.73、95%信頼区間0.58~0.91)であった。2型糖尿病のリスクが高い人が経口ビスホスホネートよりもデノスマブの方が有益かどうかを検討するために、2型糖尿病の危険因子で層別化したサブグループ解析を行った(Table 3)。糖尿病予備群のサブグループでは、デノスマブは経口ビスフォスフォネートと比較して2型糖尿病のリスク低下と関連していた(ハザード比0.54、95%信頼区間0.35~0.82)。肥満のサブグループでも結果は同様であった(0.65、0.40~1.06)。新規にデノスマブを開始した参加者は、新規に経口ビスフォスフォネートを開始した参加者と比較しても、2型糖尿病リスクが減少した(0.35、0.15~0.79)。
Discussion
デノスマブへの変更または開始は、経口ビスフォスフォネートと比較して2型糖尿病リスクを32%減少させることと関連していた。2型糖尿病のリスクが高い人(例えば、糖尿病予備軍や肥満のある人)がデノスマブを使用した場合、経口ビスフォスフォネートを使用した場合と比較して、糖尿病リスクがさらに低下する可能性がある。デノスマブとは異なり、ビスホスホネート系薬剤は骨に蓄積し、何年も残存することができるため、もしビスホスホネート系薬剤の糖代謝に対するベネフィットが存在するのであれば、ビスホスホネート系薬剤からデノスマブに切り替えた患者には、ビスホスホネート系薬剤に起因するキャリーオーバー効果が持続している可能性がある。デノスマブに切り替えた参加者のうち、以前にビスホスホネート製剤を長期間(3年以上)使用していたサブグループは、以前にビスホスホネート製剤を使用していた期間が短い(3年未満)参加者よりも統計学的に有意に大きな効果を示さなかった(supplemental Table6参照)。さらに、観察されたデノスマブの2型糖尿病リスクに対する効果は、1年から5年まで比較的安定していた(supplemental Table 18参照)。これらの結果は、この研究集団におけるビスホスホネートの強いキャリーオーバー効果を示唆するものではない。
研究の限界
①この観察研究においては、交絡バイアス(例えば、糖尿病の家族歴、骨粗鬆症の原因、適応バイアス)が残存する可能性がある。このようなバイアスを最小化するために、さまざまなアプローチを採用した。さらに薬物の使用は処方箋発行により定義されたが、これは実際の薬物使用を反映していない可能性がある。その結果、薬物使用の誤分類により、研究結果に偏りが生じる可能性がある。ただこのような偏りが生じたとしても、非差別的である可能性が高い。
②我々は治療を受けた参加者の平均治療効果を推定したが、これは仮説試験における平均治療効果と一致しない可能性がある。新規罹患者において、マッチさせた集団と全体集団との間で治療効果に明らかな異質性は観察されなかったが(補足表4参照)、今回の知見をより広い骨粗鬆症患者集団やマッチさせられなかった集団(研究集団の1.1%)に外挿する際には注意が必要であり、今後の研究で確認する必要がある。
③サブグループ解析は事前に規定されていないため、その結果を過度に解釈しないように注意する。
④他の薬剤群(ビスフォスフォネート静注への切り替え、ロモソズマブ、テリパラチド、SERM)も特定の臨床シナリオで使用可能であるため、今後の研究で検討する必要がある。
⑤ターゲットトライアルエミュレーションアプローチは、因果効果を推定し、観察研究の解析を強化することを目的としている。しかし、本研究は実験デザインではないため、結果の因果性の解釈には注意が必要である。
⑥デノスマブコホートにおける実際のイベント数は少なく(表2および補足表19)、平均追跡期間はわずか2年であったため、長期的なベネフィットと離脱効果は、実際のデータがさらに入手可能になるにつれて評価される必要がある。糖尿病患者を対象としたデノスマブの介入試験はまだ行われていないため、本研究は仮説の創出であり、ランダム化比較試験を行う動機付けとなるものと考えられる。
※Supplemental
https://www.bmj.com/content/bmj/suppl/2023/04/18/bmj-2022-073435.DC1/lyuh073435.ww.pdf

【開催日】2023年8月9日(水)

保存期(非透析)慢性腎臓病におけるHIF-PH阻害剤とESA製剤の効果について

-文献名-
Junlan Yang, et al. Effects of hypoxia-inducible factor-prolyl hydroxylase inhibitors vs.
erythropoiesis-stimulating agents on iron metabolism in non-dialysis-dependent anemic patients with CKD: A network meta-analysis.
Front Endocrinol (Lausanne). 2023; 14: 1131516.

-要約-
【背景】
貧血は慢性腎臓病 (CKD) 患者によく見られる合併症であり、CKD の進行および死亡リスクの増加と密接に関連しています。過去 20 年間、赤血球生成刺激薬 (ESA) と鉄分療法は常に腎性貧血治療の基礎でした。ESA はほとんどの患者の貧血を効果的に改善できますが、腫瘍、心血管イベント、脳血管イベントのリスク増加などの潜在的な副作用が懸念されています。したがって、鉄欠乏を補正し、同時に ESA の投与量を最小限に抑えるために鉄補給が使用されます。機能的鉄欠乏症の患者、つまり貯蔵鉄のレベルが比較的高い患者であっても、フェリチンレベルが 500 ng/ml、さらには 800 ng/ml 未満である限り、血液透析を受けている患者には静脈内鉄療法が行われています。しかし、この種の行為は患者を感染症、アレルギー、さらには鉄過剰症のリスクにさらす可能性があります。低酸素誘導因子プロリルヒドロキシラーゼドメイン阻害剤 (HIF-PHI) は、低酸素誘導因子 (HIF) の分解を阻害し、低酸素に対する体の自然な生理学的反応を活性化することで赤血球生成を促進できる新しいクラスの薬剤です。プロリルヒドロキシラーゼ (PH) 酵素の活性を阻害することにより、HIF-1 および HIF-2 の遺伝子発現を安定化および促進します。これらの遺伝子の作用には、内因性エリスロポエチン (EPO) ホルモンの産生の増加や鉄の恒常性の調節が含まれ、後者の能力は ESA にはない明確な利点であると思われます。いくつかの HIF-PHI が世界的な臨床開発の後期段階で開発されており、そのうちのいくつかは臨床応用が承認されています。複数の臨床研究では、HIF- PHIが ESA と同等のヘモグロビン (Hb) レベルを増加させる可能性があることが示されていますが、鉄代謝に対するその効果は明確には解明されていません。

【目的】
非透析依存性慢性腎臓病(NDD)を有する腎性貧血患者の鉄代謝に対する5種類の低酸素誘導因子プロリルヒドロキシラーゼドメイン阻害剤(HIF-PHI)、2種類の赤血球生成刺激薬(ESA)、およびプラセボの鉄代謝に対する効果を比較すること。

【方法】
研究のために 5 つの電子データベースが検索されました。NDD-CKD患者を対象にHIF-PHI、ESA、プラセボを比較したランダム化対照臨床試験が選択されました。ネットワーク メタ分析に使用された統計プログラムは Stata/SE 15.1 でした。主な結果は、ヘプシジンとヘモグロビン (Hb) レベルの変化でした。介入措置のメリットは累積順位曲線法により表面的に予測されました。

【結果】
選択された 1,589 のオリジナル タイトルのうち、データは 15 件の試験 (参加者 3,228 人) から抽出されました。すべての HIF-PHI および ESA は、プラセボよりも優れた Hb値の上昇能力を示しました。それらの中で、デジデュスタット(desidusat) は Hb を増加させる最も高い確率 (95.6%) を示しました。HIF-PHI と ESAで比較して、ヘプシジン (平均偏差:MD = -43.42, 95%CI: -47.08 ~ -39.76)、フェリチン (MD= -48.56, 95%CI: -55.21 ~ -41.96)、およびトランスフェリン飽和度 (MD = -4.73, 95%CI: -5.52 ~ -3.94)は減少を示し 、トランスフェリン (MD = 0.09、95%CI: 0.01 ~ 0.18) および総鉄結合能 (MD = 6.34、95%CI: 5.71 ~ 6.96) は増加しました。 さらに、この研究では、HIF-PHI のヘプシジンを減少させる能力の不均一性が観察されました。ダルベポエチンと比較して、ヘプシジンレベルを大幅に低下させることができたのはダプロデュスタット(daprodustat) (MD = –49.09、95% CI: –98.13 ~ –0.05) だけでした。

【考察】
この研究は、貧血と鉄調節異常の矯正に対する 5 つの HIF-PHI、2 つの ESA、およびプラセボの効果を比較する最大規模のネットワークメタ分析です。この研究に含まれる5つの HIF-PHI の貧血を補正する能力はすべてESA に劣りません。さらに、デシダスタットは最も強力な Hb 増加能力を示しました。この研究では、鉄代謝に対するさまざまな種類の薬物の調節効果を分析する際に、5つの HIF-PHI を1つのグループとして、2つの ESA をもう 1つのグループとして取り上げたため、結論がより推定的になりました。この研究の結果は、プラセボやESAと比較して、HIF-PHIはヘプシジン、TSAT、フェリチンを有意に減少させ、トランスフェリンとTIBCを増加させるが、血清鉄は変化させないことを示した。このネットワークメタ分析では、異なる HIF-PHI のヘプシジンを減少させる能力の不均一性も観察されました。
ESAは現在、腎性貧血の治療に最も広く使用されている薬です。潜在的な心血管イベントや脳血管イベントのリスクを考慮しなくても、ESA反応低下として知られる長期間炎症状態にある一部の患者は、ESAに反応せず、貧血を改善する能力が理想的ではありません。酸素の感知と適応のメカニズムは、生命の最も重要なメカニズムの1つです。30年前、HIFは EPO 産生を増加させ、低酸素状態の貧血を是正するための重要な要素であることが発見されました。酸素レベルが低下すると、HIF-α サブユニットが蓄積し、HIF-β と二量体化して機能的な転写因子 HIF-1 および HIF-2 を形成します。これらは、EPO 遺伝子および鉄吸収関連のコード化に関与するその他の遺伝子の発現を直接制御することができます。たんぱく質を摂取することで貧血を改善します。十分な酸素の存在下では、HIF は HIF-PH 酵素によって水酸化され、ユビキチン化によって分解されます。HIF-PHI は、低酸素に対する体の自然な生理学的反応をシミュレートすることによって HIF の分解を阻害する、新しい種類の貧血治療薬です。以前のネットワークメタ分析 (2,768 人の患者) において、HIF-PHIはESAと同様の貧血治療効果があり、ある程度安全であると報告しました。しかし、サンプルサイズが小さいことと、異なる HIF-PHI 間の直接の直接比較が欠如していることにより、その研究結果の精度と臨床的価値は限られていました。このネットワークメタ分析には、新しく発表された 4つの大規模研究 (これら 4つの研究には 1,783 人の NDD-CKD 腎性貧血患者が含まれていた) が登録され、結果の精度が向上し、結論のさらなる外挿が可能になりました。この研究では、含まれている 5つの HIF-PHI が貧血を改善する能力において ESA よりも劣っていないことが結果により示され、デシダスタットは ESA よりも強力な Hb レベル上昇能力さえ示しました。
このネットワークメタ分析にはいくつかの制限がありました。第一に、含まれた試験の一部は二重盲検法を使用していませんでしたが、この研究の含まれた結果には統一された基準があり、主観的な要因によって簡単に変更されにくいことを考慮して、非二重盲検試験は除外していません。第二に、対象となった試験間の追跡期間はまったく異なっていました。したがって、この研究では、さまざまな投与段階での患者の鉄代謝を正確に観察できませんでした。ただし、ほとんどの HIF-PHI がまだ臨床使用として承認されていないことを考慮すると、この研究には投与期間が短いいくつかの第 II 相試験が含まれています。最後に、対象となった試験の被験者のCKD状態には差があり、それが被験者の鉄代謝状態を異なるものにしている可能性があります。しかし、計算してみると、この差は不均一性に関する統計的基準を満たしていないことが判明しました。したがって、この研究では包含基準と除外基準を調整しませんでした。
結論として、この研究の結果は、機能的鉄欠乏症のNDD-CKD患者の治療においてHIF-PHIが第一選択となるべきであることを示唆していました。さらに、治療計画を立てる際には、鉄代謝を補正するための HIF-PHI の潜在的な不均一性を十分に考慮する必要があります。

【開催日】2023年8月2日(水)